※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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CCCイベ、本編クリアー!

メルトリリスのヒロイン力が天元突破してましたなぁ。
あと、今回のイベでトリスタンの株も上がったはず。但し、芸人として。

そして、ついに立ったエロ尼実装フラグ。
いやー、やってることはあれだけど、嫌いになれないんだよなぁ。今回もエッグい活躍に笑った。
でも、あの世界だと、初めの内は聖女然としてた臭いんだよなぁ。ゼパなんとかさんに取り憑かれて、自分の本性に気付いちゃった感じがある。ゼパなんとかさんが悪いよ、ゼパなんとかさんがー。




『終焉の時来たれり、其は全てを終わらすもの』その二

 

 

 

 

 

 ――――告白してしまえば、オレに奴の全力(宝具)を防ぐ術は存在していなかった。

 

 

「ゲーティアの第三宝具、展開を確認、…………あれは、止められませんね、マスター」

 

「クソ、が……!」

 

「……おのれッ」

 

 

 既に分かり切ったことだが、奴は強い。

 魔神柱一体で、並みのサーヴァント数騎分。その集合体、奴等の王がそれ以下の筈もない。

 

 初めに、ロビンと呪腕がやられた。

 霊基を完全に破壊されることはなかったが、二人の戦闘を支える脚をやられたのは致命的だった。

 この手の真正面からの戦闘において、二人の役割は援護だ。直接、攻撃の要になることはない。

 敵の死角から、致死の毒を放ち、研ぎ澄まされた暗殺術によって命を絶つ。

 

 だが、ゲーティアは警戒した訳でもなかっただろうに、まるで蠅を払うような気軽さで、二人の膝を撃ち抜いていた。

 

 奴の攻撃法は大別して三種。

 一つは身に蓄えた魔力を解放し、ある種のエネルギー砲のように放つ攻撃。『魔力放出』に近い原理の筈だ。

 一つは全身に備えられた眼球からの『魔力照射』。こちらは先の攻撃を眼球をレンズにして収束、分散させる全方位攻撃。

 最後は言わずもがな肉弾。あの霊基では、膂力はヘラクレスを超え、速度はアキレウスに勝りかねない。

 

 マシュとジャンヌがカバーに入るよりも早く、走れなくなった二人を魔力照射が貫いた。

 嫌になるほど合理的だ。此方の味方を見捨てないという特性を、よくよく理解した選択だ。もっとも、奴の立場ならオレも同じことをするだろうが。

 

 ロビンと呪腕が動けなくなれば、防御を担当するマシュとジャンヌは二人の盾となるべく動く。

 二人がどれだけ放っておけと喚こうが、マシュとジャンヌの性格上、二人を見捨てるなど在り得ない。

 

 マシュとジャンヌまでもが、半ば戦いに参加できない状態で、此方を支えたのはカルナとスカサハの二人。

 

 身体能力に劣っていようが、二人には技量という武器がある。

 ゲーティアがどれだけ身体能力に優れていようが、超絶の膂力は受け流され、視認不可能の速度は一挙手一投足から先読みされる。

 

 もし、此方にアドバンテージがあるとするのなら、ゲーティア自身に戦闘経験が絶無な点。

 ソロモンの身体を乗っ取ってから、奴は実に三千年もの間、この玉座で時を待ち続けただけだ。実働は、魔神柱と召喚したサーヴァントに全てを任せていた。

 即ち、魔神王ゲーティアの霊基による戦闘は、絶対にしていない。

 

 まあ、それも何の慰めにもならないが。

 

 断言しよう。奴は全能者だ。

 人間のように訓練という過程を経ずとも、自らの最大限の力を発揮する術を生まれながらに知っている。

 

 なお二人が僅かばかりに押しているのは、実戦勘が勝っていたからか。

 “完全な状態であれば三界を制覇する”と最高神の化身(アヴァターラ)からお墨付きを貰ったカルナ。

 世界の外側に弾き出されてもなお、様々な異形や怪異と戦い続けたスカサハ。

 

 殺し合いにおける妙。刹那に交わされる駆け引き。こればかりは経験こそがものを言う。

 全能者であろうとも、二人の経験に追い縋るには、時間を要するだろう。

 

 それでも、ゲーティアには焦りはない。

 既に第三宝具は展開済み。あとは充填、集束までの時間を待てばいいだけなのだ。

 いくら二人でも、ゲーティアを殺し切れる術はないのだから。

 

 ゲーティアを殺すには、三つの関門を突破しなければならない。

 

 一つ、ゲーティア自身の霊基を破壊する。

 二つ、七十二柱の魔神柱を全て殲滅する。

 三つ、この固有結界、時間神殿ソロモンを消し去る。

 

 これらを三つ同時に完遂する。これが奴を攻略する()()()だ。

 ゲーティア、七十二の魔神柱、固有結界は相互に作用し合い、自らの不死性、不滅性を保っている。

 どれか一つを破壊しても、残る二つが破壊された一つを再生してしまう。この辺りは、ティアマトの逆説的な不死とよく似ている。

 

 何にせよ、酷い話もあったものだ。

 これを可能にする魔術も、これを可能にする宝具も、これを可能にする権能も、これを可能にする手段も、これを可能にする策も、オレの手の内にはない。

 詳細は知らないが、噂に聞く五つの魔法とやらを使ったとして、出来るかどうか。

 

 

「――…………っ」

 

「…………駄目か」

 

 

 スカサハはガラスの砕けるような音と共に死棘の槍が砕かれた。

 カルナは攻撃を防いだ代償に身体を大きく吹き飛ばされ、距離を取らされた。

 奴の宝具を止めようと無理を承知で猛攻に出たツケだ。

 

 ――――さて、これで奴を阻む障害はなくなった。 

 

 

『さあ、消え失せるがいい。人類最後のマスター、弐曲輪 虎太郎。それに付き従った英霊共よ。私は死を克服し、今だ誰も至らぬ座へとつく。人類を燃料に(ソラ)へ跳び、この星を造り直そう』

 

 

 成程、そういうことだったか。

 人理焼却と光帯。それ自体が奴の目的でないことは分かっていた。あくまでも目的に必要な過程だ。

 

 奴の目的は、人理焼却で得た人類史の情熱というエネルギーを用いた跳躍。

 地球創生以前。四十六億年もの時を遡り、残ったエネルギーで星そのものとなった挙句、自ら設計した死の概念のない生き物(にんげん)を誕生させること。

 

 何となくであるが、人類悪(ビースト)というものが見えてきた。

 人類悪とは人類愛そのもの。人理を守ろうとする願い、より善い未来を望む心が、今現在の文明と安寧を突き崩す。

 人類悪とはよく言ったもの。正に、人類「を」滅ぼす悪ではなく、人類「が」滅ぼす悪じゃないか。

 

 だが、一言だけ言わせてほしい。

 その心根、その思いはオレなぞよりも大分立派だ。でもねぇ、その過程で人類を滅ぼしちゃうのはどうなのよ。

 

 

『では、お見せしよう。これが貴様らの旅の終わり。この星をやり直す、人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を――――――第三宝具、集束完了』

 

 

 光帯が瞬く。

 見上げれば、光帯の前には枯草のように四方八方に伸びる魔神柱の姿があった。その中央には巨大な眼球が蠢いている。

 アレはレンズだ。安定して加速させた光帯のエネルギーを、一点に収束し、放射するためのもの。

 何となく、虫眼鏡を思い出す。太陽の光を集めて紙を燃やすのと同じ原理だろう。それが星を貫く規模になっただけだ。

 

 

「……………………」

 

 

 光帯をぼんやりと見上げるばかりのオレに、皆が視線を向けている。

 気持ちは分かるが、勘弁してくれ。どう考えても不可能だ。

 

 もし、この状況を引っ繰り返せるとしたら、それは一つだけ。オレの右目――――邪眼“魔門”によって、奴から宝具の使用権を奪い、停止させるしかない。

 

 だが、使用の前提条件を忘れてはいないだろうか。

 

 まず、奪えるものはあくまでも一つだけ。

 次に、奪う対象を視界に収め、直接触れる必要があること。

 

 前者はどうとでもなる。

 既にレフから奪ったフラウロスの力は破棄してやった。

 今頃、レフも魔神柱の姿になって、仲良く殺し合いをしていることだろう。

 

 問題は、後者だ。

 カルナとスカサハ。掛け値なしのトップサーヴァントですらが押し切れない怪物に、どうやってオレが近づけと、どうやって触れろと。

 性能(スペック)が違い過ぎて、策云々でどうにかなるレベルを遥かに超えている。

 

 何よりもオレの邪眼は、ゲーティアに知られてしまっているだろう。

 特異点でも度々使ってきたからな。より使用を加速させたのは倫敦からだったが。

 

 既に警戒しているのだ、奴は。

 戦いが始まってから常に、奴はオレから視線を外さなかった。

 不意討ち・奇襲はオレの得意分野。オレが姿を消したと同時に、近寄ってくるであろうオレを周囲諸共に消し飛ばす手段を用意している筈だ。

 点や線の攻撃ならば掻い潜り様はある。面の攻撃も躱し様はある。だが、球状の攻撃手段を用意していた場合は如何ともしがたい。

 

 

「……そっか。私は、この時の為に生まれたのですね、ドクター」

 

 

 …………ああ、そうとも。分かっていたさ。必ずこうなると。お前なら、そうしてしまうと。

 

 

「――――皆さん、先輩をお願いします!」

 

「いや、おい、待てよ、嬢ちゃん……!」

 

「……駄目! そんなの駄目です!」

 

「やめよ、マシュ! 如何にお主の守りであっても……!」

 

 

 花が綻ぶような笑み。自らの人生に意味を見出した者の笑顔。

 余りにも儚く、誰に看取られることもなく、そのまま時代に埋もれるような命。

 

 ゲーティアは、ひとり前に進むマシュに躊躇いを見せた。

 まるで目の前の花を踏み潰すことを思い留まるように。この地球(ほし)における最後の思い出を悲劇で終わらせたくないと嘆くように。

 

 だが、それも一瞬の事。

 奴には成し遂げるべき目的がある。果たさねばならない悲願がある。

 その為にならば、同じ“造られた存在”としてシンパシーを覚えている相手(マシュ)ですら、容易く蒸発させる。

 

 最後に、マシュはオレを見た。戦いの前によく見せた笑みを浮かべて。

 今にも泣き出しそうな顔で、オレに恩を返したいから、と自分を奮い立たせて。お任せください、と言うように。

 

 あぁ、お前にはそれが全てだった。

 お前は、勝手気侭な他人に身勝手な理由で選ばれただけの、ただの、普通の女の子だった。

 

 君の命を救い、引きずり込んだ者として最大の祝福を。

 君の成長に手を貸し、見守った者として最大の敬意を。

 君に助けられ、此処まで来れた者として最大の感謝を。

 

 

「其れは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷―――顕現せよ!」

 

『『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』――――!』

 

「――――『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!」

 

 

 ――だからまあ、許して欲しい。オレは命を投げ打ってでも、お前の覚悟と想いを踏み躙ってでも、お前を生かす責任(ぎむ)がある。

 

 

「カルナァァアアァァァァ―――!!」

 

「――――承知した。()()()()()()()()。父よ、彼らを守り給え」

 

 

 星を貫く極光と顕現した白亜の城が、激突する――!

 

 ゲーティアの光帯を防ぐ術はない。だが、それはあくまでも物理法則の範疇。

 マシュの護りは精神の護り。その心に一切の穢れなく、揺らぐことさえなければ、白亜の城壁に揺るぎはない。

 

 事実として、マシュの後ろにいるオレ達には、星を貫く熱量は微塵も届かない。

 けれど、マシュは例外だ。熱量を受け止める彼女は、僅か数秒で蒸発するしかない。

 

 だから、オレは左目で、かつて奪った能力を“再現”する。

 再現する能力の名は『代替(ザ・チェンジ)』。

 

 最後にこれを使ったのは、第三特異点オケアノス。

 狂化したヘラクレスから自分の名を呼ぶ者を守る為に、死を覚悟して前に出たアステリオスに使った。

 

 能力は実に単純。

 指定した対象が受けた傷、患う病全てを肩代わりするだけの能力だ。

 

 

「――――――ッ」

 

「何を、しておられるのですか!!」

 

 

 地獄の時間が始まった。

 

 指先が焼けていく。足の先端から崩れていく。頭の先端が炭化していく。内臓が沸騰していく。骨が崩れ落ちていく。脳が煮崩れていく。

 これが人類史の熱量。ちっぽけな人間に向けるには、余りにも過ぎた一撃。

 

 ――だが、それでも意識だけは手放さない。

 

 意識が途切れた瞬間に、能力が停止する。それでは何の意味もない。

 

 いや、元より、こんな行為は無意味。

 地獄に飲み込まれる寸前に聞こえた呪腕の怒りも尤もだ。

 

 考え得る限り、最低最悪の一手だろう。

 

 マシュの苦痛と傷を、一時的に肩代わりしたところで何になる。

 あの熱量を停止させない限り、まずはオレが蒸発し、その後にマシュが死ぬだけだ。

 

 肩代わりする時間を少しでも伸ばす為に、カルナから黄金の鎧を借り受けたが、文字通りの焼け石に水。

 鎧は外部からの攻撃は十分の一にまで軽減する。だが、内側からの攻撃には意味を為さない。そも、これは攻撃ではなく、身体が勝手に崩れていく。

 唯一有効なのは、再生(リジェネ)だ。鎧は装着者の傷を癒す。それこそ、即死級の傷でさえも一瞬で。護りと癒し、何よりもカルナの精神力こそが、彼を不死身の英雄足らしめた。

 

 ならば、オレも倣うまでのこと。

 なに、精神力は生まれ持った才能は関係ない。覚悟だけでいくらでも補填が効く。

 

 

「――――――せんぱっ」

 

 

 ああ、ヤバい。気付かれた。

 

 マシュの護りは彼女が動揺すれば、脆くも崩れ去る。だから、悲鳴だけは上げなかったのに。

 苦痛に耐えるのは問題なかった。別に、痛みなんぞどれだけ量が多かろうが、それを上回る覚悟さえあれば、いくらでも耐えられる。

 

 だが、護りが崩れるのはマズい。全ての前提が崩れ去る。

 

 

「マシュ、前を向いて! 虎太郎を信じましょう!」

 

 

 何時の間にやら、ジャンヌがマシュの傍に近寄っていた。正直、信じられても困るだけなんだが。

 ご丁寧に、“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”まで展開して、全身にはスカサハによる護りのルーンが刻まれている。

 

 これがチーム。個にして群ではなく、個でありながらも群。

 魔神柱には持ち得ない、人間ならではの個性を生かしたチームプレー。

 

 不測の事態が生じたからと言って、動揺などしない。

 自身に出来る何かを常に探し、出来ずとも諦めない。

 

 

「大将ぉぉぉぉッッ! もしもの時の水だー! 喰らえぇぇぇッッ!!!」

 

「うぉおぉおぉッッ! 主殿ッ、気をしっかり持って下されぇぇぇ!!!」

 

 

 ロビンはバシャーと頭から水筒の水をオレにぶっ掛け、呪腕はオレの耳元で必死に呼びかける。

 うん、まあ、気持ちは分かるよ。お前等、他に出来ることとかないもんね。でもね、普段の恨み辛みを晴らされている気分になるのは何故だろう。

 

 ともあれ、気合は入った。

 この地獄、意識を保ったまま潜り抜ける。

 

 正直な所、気は楽だ。この地獄もあと数秒で終わる。なあ、そうだろう? 

 

 

 「エアよ。このような役回り業腹であろうが、堪えるがいい。我が雑種に対する褒美である」

 

 

 ――――人類最古の英雄王(ギルガメッシュ)

 

 

「“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”――――!!」

 

 

 オレには、この一撃が必要だった。その為に、ウルクでは暖めていた決戦術式まで使用した。

 切り札は一度だけ。最大限の効果を発揮する、最高のタイミングで放つもの。まして、此方の陣営に被害を被らないように放っているところも完璧だ。

 

 

 星を貫く極光の横合いから、三つの力場によって生じた時空流が襲い掛かる――!

 

 

 これなるは原初の時代、混沌とした世界を天と地に分け、文字通り“世界を斬り裂いた一撃”。

 

 だが、それでもなお相殺には至らない。

 単純な出力の問題。宝具の稼働時間の問題でもある。

 

 “天地乖離す開闢の星”は世界を斬り裂けば其処で終わる。

 だが、“誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの”は光帯が尽きぬ限り、極光を保ち続ける。

 

 そも、ゲーティアは神々ですら成し得ない大偉業の達成者。

 如何に乖離剣とギルガメッシュが地の理、天の理を手にしようとも、ゲーティアは理を粉砕した者。些か以上に分が悪い。

 

 

『この程度のことで――――――何ィッ?!』

 

 

 だが、それでいい。十分過ぎる、最高の一撃だった。

 

 ゲーティアは光帯を更に加速させ、ギルガメッシュの一撃すらも飲み込もうとした。

 そうだろう。そうするだろう。お前は全能者、目の前に障害が現れれば、その全能を行使して排除しようとする。自慢の光帯で粉砕しようとする。

 

 それが、それこそがオレの狙い。

 オレに与えられた数少ない勝機の一つ。オレがマシュの命を守るために越えなければならなかった試練。

 

 

 ――――全てはこの為。光帯を一定まで加速させ続けることが、オレの狙いだった。

 

 

「――――ガっ―――――アァ―――――ハッ」

 

『何を、した。貴様は、我々(わたし)に何をした! 答えろ! 答えるがいい! 人類()()のマスター、弐曲輪 虎太郎!!』

 

 

 そうしてようやく、地獄の時から解放される。

 

 緊張の糸が途切れる。ゲーティアの声が余りに遠い。

 じゅうじゅうと全身から肉の焼ける音が響き、筋肉が緩んでその場に膝をついた。

 ごひゅ、と音を立てて肺が空気を取り込んだ。どうやら思考は冴えていたが、呼吸を忘れていたようだ。

 今になって、ようやく全身から汗が噴き出る。良い傾向だ、黄金の鎧が肉体を再生させた証明なのだから。

 

 

「ふん。どうした、コタロー。よもや、最も楽しい時を他人任せにするつもりではあるまいな? よいぞ、何ならこの我が代行してやろう!」

 

「まさか。アンタの力を借りるのは一度きり、だろ?」

 

「貴様の今生限りと言った筈だ。だが、その減らず口を叩けるのならば問題あるまい」

 

「――――…………それはいいんだけど、アンタ、両脚なくなってね?」

 

「ふははははははッ! キャスターの霊基で無理矢理エアを引っ張りだしたからな! 霊基(からだ)が崩れかけておる! 張り切り過ぎたわ!」

 

 

 どうやら、相当に無茶をしてくれたようで。

 

 だが、王様はそんなことを一切気にせずに、自分の宝物庫からドカンと玉座を取り出して腰を下ろす。

 随分と派手な造りだ。真っ金々じゃねぇか。趣味が悪すぎる……!

 

 しかし、どうしたものか。登場人物が、まだ足りないんだが。

 

 

「いや、その必要はあるまい。自らの立場を捨て、只人に成り下がった上に、貴様と共謀して死を装った愚か者は、もう来ておるわ」

 

「――――言ってくれるじゃないか。ああ、しかし驚いた。こんな暴君にも他人を気遣う心があったんだ!」

 

「ふははは、存分に褒めるがいい」

 

 

 膝から先のない両脚を優雅に組み、肩肘をついて王様はそれきり口を噤んだ。もう喋ることはないのだろう。あとは、思う存分に愉悦するだけなのだ。

 

 見れば、玉座には門の方角から歩いてくる男が居た。

 毎度のことだが、コイツはヘタレの癖に妙な所で気が強い。まあ、立場的にギルガメッシュは同じ職場の同僚に近い関係らしいので、仕方がないと言えば仕方がない。

 

 癖のある長い髪を一括りにした、白衣の男。

 彼は英雄ではない。この場に似つかわしくないが、ある意味では、最もこの場に相応しい人材である。

 

 

「……えぇっと、この軽薄でヘタレそうな奴は、どちらさん?」

 

「ふむ。何故でしょうか、見ているだけで苛立つ笑顔ですな」

 

「君達、初対面の人間に失礼過ぎやしないかい?!」

 

「――――嘘」

 

『ロマニ・アーキマン――――いや、生きていたとして、一体、何の関係が』

 

 

 コイツはロマニ・アーキマン。

 この人理焼却案件に関わった直後に目を付けた容疑者の一人だった。結局の所、犯人ではなく、重要参考人の方だったわけだが。

 

 オレの猜疑心の強さは、利点であると同時に欠点でもある。

 疑う対象が余りにも多過ぎて調査それ自体が無駄になる場合が多いものの、こうやって思わぬ成果を引き当てることもある。

 

 此方側の始まりはアミダハラの魔術師組合の構成員が見た夢の結果を、ノイ・イーズレーンの婆さんから横流しという形で情報を得た時だ。

 無論、魔術世界における夢と魔界における夢では意味合いが変わってくるが、恐ろしい話、魔術師組合全員が一様に同じ夢を見たそうだ。

 

 ――人界は、ある日を境に焼き尽くされる。

 

 全員が同じ夢を見たのだから、さあ大変。構成員は、泡を喰って魔界に帰る者が続出した。

 困ったのはノイの婆さんだ。あの婆さん、あくまでも組合に顔を貸し、時折相談に乗っているだけで組織運営はするつもりもなければ、出来るだけの手腕もない。

 何とか構成員の説得に回り、時にアンネローゼの力を借りて脅迫までさせて、ギリギリのところで組織の体を保ちつつも、オレに助けを求めてくれる。

 

 正直、オレは絶望すると共に仰天した。

 性格は兎も角として、腕は一流の連中が見た夢なので、現実になる可能性が極めて高い。

 泡を喰って九郎を学園に呼び戻し、泡を喰って仕事の引継ぎとアサギの補佐を頼み、泡を喰って学園を飛び出した。

 

 其処からは人界魔界を問わず、日本にいる裏の事情通にツテを使って通い詰めた。

 

 一番参考になったのは、とある件で知り合ったフリーの魔術師二人。

 

 片や、時計塔で冠位指定を受けながら、色々とやらかして今や封印指定の人形師。

 片や、ご先祖様が性質の悪い悪魔と契約してエラい目にあっていた所に出会い、アルの力で一緒に悪魔をボコにした死霊魔術使い。

 

 この二人は魔術師として非常に優秀かつ貴重な情報源だった。

 オレは彼等のお陰でカルデアとさえ呼ばれていなかったアニムスフィア家の研究施設に辿り着き、マリスビリー・アニムスフィアの名を知った。

 

 マリスビリーを調査する過程で、いくつか不審な点を見つけた。

 

 まず彼は2004年、冬木の地でただ一度きり開催された聖杯戦争の参加者にして生き残りだった点。

 聖杯戦争の顛末を調べ上げる過程で、マリスビリーが何らかの情報操作を行った形跡を発見したのだ。

 聖杯戦争の生き残りはマリスビリー以外にも他数名いた。だが、どういう訳か、優勝者とされる者の聖杯戦争以後の足取りは杳として知れなかった。

 

 既に十年以上も前の話、行方不明者の追跡は不可能に近い。

 ならば、生き残りの周囲を当たろう、と切り替えると、出るわ出るわ不審な点が。

 

 マリスビリーは、どういうわけだが2004年を境に資産額が爆発的に伸びていた。

 大抵の研究に言えることだが、何かの研究には兎に角金がかかる。魔術世界も例外ではない。

 時計塔の連中、長い歴史を持つ一族は、その為に何らかの資金源を用意し、運用している。

 

 マリスビリーの資金源を探ってみたのだが、どう考えた所で資金総額には至らないものばかり。

 しかも2004年以降、その資金を元にしたマリスビリーは、自らの研究を飛躍的に進ませ、時計塔での地位を確立していた。

 

 此処まで背景を調べれば、自然と見えてくる。

 マリスビリーこそが聖杯戦争の真の優勝者であり、勝ち取った聖杯を金を増やす為に使いやがったのである。

 時計塔の連中がその事実を知らないのは、他人の研究成果には興味があっても資産運用には全く興味がない連中であること。それから、マリスビリーが巧く立ち回って後ろ暗い裏取引をしたに違いない。

 

 そして、マリスビリーの周辺を調べていく内に、奴が個人的に信頼している人物に行き当たった。それこそがロマニ・アーキマンだ。

 だが、二人には接点らしき接点は見受けられず、何処で出会ったのか、何を通じて知り合ったのか、何故にこうまで魔術師でもない男を信頼しているのかも分からない。

 その上、ロマニ・アーキマンの経歴は、その全てが嘘っぱちだった。2004年以前のものは全て。

 

 この2004年と言う奇妙な符号。

 この余りにも唐突に発生した男こそが、マリスビリーが死亡している現状において、全てを知るキーマンであるとオレは考え、米連へと飛んだ。

 ロマニ・アーキマンの誘拐は酷く簡単だった。マシュが生み出された研究所から護衛もなく自宅へ戻ろうとしたところをハイエースしたのだ。

 

 厄介だったのは、其処から。

 肉体的な苦痛は一切与えなかったが、この男はオレの尋問でも何一つ有用な情報を引き出せなかった。

 誘導尋問にも恐ろしく回転の速い頭を使って無難に躱す。どんな恫喝にも脅迫にも屈しない。自分の不利になると察すれば頑として口を割らない。気の抜けた笑顔の仮面の下には、他人を全く信用しないという執念染みた信念を感じ取れた。

 

 だが、ロマニの見せる反応は、嘘こそ言っていないが事実を語っているようでもない。

 この男を陥落させるには酷く時間が掛かる。そう判断したオレはやり方を切り替えた。自らの有用性を証明し、この男を味方に引きずり込む方針に。

 

 

『ところで、その指輪、良いものだな』

 

『………………ああ、そうだろう? 友人が僕の為に用意してくれてね』

 

『ああ、そうか。ところで、それの出所なんだがな。イスラエル辺りの遺跡でだったみたいなんだが、それって元々、お前のものだったんじゃないのか?』

 

『――――――――』

 

『これがオレの性能だ。オレを信用しろとは言わん。裏切っても構わん。利用もしていい。だから、オレの仕事に協力しろ。お前の出来んことを、オレがやってやる』

 

『……………………分かった。ボクの負けだ。但し、条件がある』

 

 

 奴の提示した条件は二つ。

 マシュ・キリエライトの研究所からの救出。カルデアの技術顧問にして英霊召喚成功例第三号、レオナルド・ダ・ヴィンチを此方側に引き入れること。

 どちらも人理焼却阻止に必要な人材だから、という理由だったが、単なる情だ。マシュは親心と救ってやることのできない負い目から、レオナルドは唯一の同士として。

 

 後は既に語られた通り。

 マシュを救出して生き永らえさせ、国連の人間から戸籍と名を奪い取ってカルデアに監査官、監督官として潜り込み、オルガマリーに接触して言葉巧みに実権を握った。

 

 

「ド、ドクター、生きて、おられたのです、ね。で、でも、どうやって……」

 

「僕の死は、このド外道が偽装したんだ。その後は、実はカルデアにずっと潜んでいた。ダ・ヴィンチちゃんも、まだ生きている」

 

「ダ、ダ・ヴィンチちゃんまで!? い、いえ、でも、カルデアに潜伏するところなんて。まして、他の皆さんにも気取られずに」

 

「ああ、それはな。オレが許さなきゃ外に出れないから」

 

「そうだよ。このド外道やりやがったのさ。カルデアスの磁場がギリギリ届く範囲に勝手に地下室を作った。カルデアと繋がっているのは通気口だけ。出入りには彼の瞬神を使うしかない出口のない地下室に一年以上もカンヅメさ」

 

「快適だったろう?」

 

「ああ、とてもね! 引き籠りには最適だったよ! 精神的なもの以外はね!」

 

「ダ・ヴィンチとしっぽり毎日楽しんでただろうに」

 

「やめろぉ! 今この場でボクとレオナルドの関係を暴露するなぁ!!」

 

 

 次々に明らかになる事実に、マシュはパンク寸前だ。泣き出しそうな顔で、何度も何度もオレとロマニの顔を交互に視線を飛ばす。

 他のサーヴァントは白けていたり、またかとか、引き攣った笑みを浮かべている。この反応も当然、オレは彼らにロマニについて一言も喋っていない。

 英雄王は爆笑している。どうやら、楽しくてしょうがないらしい。まあ、第三者が傍目から見ればドッキリみたいなものだろう。気持ちは分からないでもない。

 

 ゲーティアは苛立ちを募らせている。奴の問いに、まだ何も答えていないからと言って、そう怒ることもあるまいに。

 

 

『だから、何だ! お前が残された、ただ一人の人類でなかった事実が何になる! 何一つ答えになっていない! 何一つ道理に合わない!』

 

「実はな、ゲーティア。オレは倫敦でお前と対面する以前から、お前についてある程度は当たりを付けていたんだよ」

 

『世迷言を! そのような事など不可能だ! 千里眼も持ち得ない、ただ目の前の現実を都合よく解釈するしかない人間如きに!』

 

「オレ一人じゃ、どう頑張っても無理だった。だが、ダ・ヴィンチという天才がいれば仮説は無数に立てられる。そして、ロマニも居たからな。コイツ、お前をよく知っているから」

 

『――――――馬鹿、な』

 

 

 三千年もの間、絶えず人類を愛し、絶えず人類を憎み、目的のために回転し続けていたゲーティアの思考は完全に停止していた。 

 

 ――ロマニが左手の手袋を外し、薬指に嵌められた指輪を目にした瞬間に。

 

 勿論、結婚指輪などではない。それは、生前のソロモンが残した十の指輪の一つ。

 

 

「ボクは2004年の冬木の聖杯戦争においてキャスターのクラスでマリスビリー・アニムスフィアに召喚された」

 

「その後、マリスビリーと協力し、何の問題もなく最後のマスターとサーヴァントになった」

 

「マリスビリーは手にした聖杯で、当時は理論が構築されただけだったカルデアスを完成させるための資金を願い――」

 

「――ボクは、人になることを望んだ。全ての力を捨て去って、王としてではなく、人としての生を歩もうとした」

 

『馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!! レフ・ライノール、貴様の目は節穴か! その指輪、この霊基! 我等を生み出した無能の王――――ソロモンのものではないか!』

 

「酷いなぁ。お前、ボクのこと嫌い過ぎだろ」

 

「ほら、パパだぞ、泣けよ。ほら、パパ、お前の子供はあんなグレて筋骨隆々の化け物になったぞ、泣けよ」

 

「そんな息子嫌すぎる……!」

 

 

 そう、ロマニ・アーキマンは、ソロモン王本人にして、願いそのもの。

 生前、人としての生を歩めなかったソロモンは、聖杯に人としての生を願った。その時の心情は、特に興味もないので聞いてはいない。

 過去と未来を見通す最高位の千里眼も。神からの啓示も。他を寄せ付けない魔術の素養も捨て去って、人になったのだ。

 

 だが、困ったのはその直前。

 彼は千里眼を失う瞬間に、世界が焼け落ちる光景を見た。

 何時、何処で、誰の目的で発生するかは分からないが、確実に実行されることだけは分かった。どうやら、その一件に自身が絡んでいることも。

 

 それからソロモンは人間性を獲得し、ロマニ・アーキマンとして一から人として学び直す工程を始めた。

 彼に出来るのはただ耐えること。そして、その時に備えることだけ。

 

 幸か不幸か、その旅路の途中で偶々オレと出会う。

 旅の供にしては微塵も信用出来ない関係だったが、オレ達は見ている目的と道程は同じだったから。 

 

 

「――――だが、それも終わりだ。ゲーティア、僕はお前に引導を渡す為に、その願いも捨て去ろう」

 

『ロマニ、やるんだね……どうか、旅の終わりは心穏やかに。私も、少しばかり寂しくなるよ』

 

「ありがとう、レオナルド。君の優しさには何度も助けられた」

 

 

 ロマニの隣で、空間ウインドウが展開する。

 其処に映し出されていたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 凡才、凡夫と言いながらも、この一年ロマニに寄り添い、支え続けた万能の天才だ。

 

 最後の別れは軽やかに。

 元より互いに死した身。別れを惜しみはしない。

 

 けれど、悲しみだけは消えないだろう。

 ダ・ヴィンチの瞳は乾いている。涙はない。全ては、ロマニの覚悟を鈍らせないため。

 そんな芯の強い優しさに、ロマニは惹かれたのだろう。ホモかよ。いや、ダ・ヴィンチは元々同性愛者だった。なら、問題ないね! 肉体的には女性だしね!

 

 

「では、最後の魔術をおしえ――――――あれ?」

 

『……どうしたんだい、ロマニ? まさかと思うが、此処に来て怖気づいたんじゃないだろうね? いくら君がヘタレだからって、それじゃあ、百年の恋も冷めるってものだよ』

 

「あ、あれ? あれ? お、おかしいな? 指輪が、指輪が変、だぞぅ? な、んで、なんで何の力も感じられないんだ?! これじゃあ、本当に只の指輪じゃないか!」

 

『………………嘘だろう?』

 

「……………………」

 

「ぶはっ! ぶははははははははははははははははははははははははっ!! げっほっ、ごぷぉっ!?」

 

「『お前の仕業かよぉ、腐れド外道!!』」

 

 

 オレ、無言のVサインを天高く掲げる。

 A・U・O、大爆笑し過ぎて咳き込む。

 大人のカップル二人は、白目を剥いてオレを見る。

 他の皆さま、最早、訳も分からなければ意味も分からない置いてぼり状態でポカーン。

 

 そうです。指輪の力を奪ったのは私です。ロマニが出てきた瞬間に奪っておきました。だが、私は謝らない。

 

 最後まで、ロマニもダ・ヴィンチも、その指輪をどのように使うのかは語らなかった。ソロモンの王の切り札を。

 一年の時間で心の距離は縮まったが、信頼を勝ち取った訳でもなく、オレも元々そんなものを向けられるに値しない人間なので努力もしてこなかった。

 

 ただ、大体の察しはつく。

 ソロモン王の最も有名な逸話。それは、神から賜った万能の指輪を、全ての恩恵と共に天へと還したというもの。

 これに関するものと見て間違いない。魔神の叛乱を停止させるものか、自身の魔術に仕込んだバックドアかは知らないが。

 代償も大きいだろう。ロマニは何時もの仮面で本心を覆い隠していたが、悲壮なまでの覚悟があった。あれは死どころか、その先まで失うことを覚悟したレベル。

 

 そんな必要は何処にもない。そんなことをするまでもなく、戦いは終わるのだ。 

 

 ――――では、ビーストⅠ。憐憫の理を持つ獣よ。種明かしの時間だ、絶望に身を捩れ。

 

 

「さて、待たせたなゲーティア。お前の疑問に答えよう――――何故、この我々(わたし)が光帯の操作を誤ったのか、というな」

 

『在り、得ない。我々にはそのような不具合(ミス)は在り得ない。そのような不手際は許されない!』

 

「その通りだ。お前はこれから四十六億年を遡る。この程度の簡単な演算を間違うようでは、とてもではないが実現できないからな」

 

 

 何故英雄王の一撃に対し、ゲーティアが光帯を停止させたのか。

 実に単純な話だ。奴はあの一瞬、何らかの計算を間違え、光帯を暴走させかけた。

 

 光帯は宝具の銘を打っているが、実態は単なるエネルギー。

 それを加速させやすい帯状に押し留めているのは、他ならぬゲーティアの演算と魔力と魔術によるもの。

 

 何か一つでも綻びが生じれば、何か一つでも瓦解すれば、後は決壊するダムと同じ結末を辿る。

 

 

『お前は、奪ったのか……我々(わたし)から我々(わたし)の一部を!』

 

「うん、そうだよ。お前が倫敦に顔を出した時、不様にもオレに顔面をぶん殴られた瞬間にな」

 

 

 ゲーティアは意思を持った魔術式。

 詰まる所、一つのプログラム、一つの数式に酷似している。

 

 0と1からなるプログラムから、ランダムに一つの1を抜いてしまえば、プログラムは正しく作動しない。

 無数の数字と演算記号からなる数式から、ランダムに一つの数字を抜いてしまえば、答えは全く別のものとなる。

 

 それはプログラムや数式が高度になればなるほどに、顕著に現れ、本来求めていたものとはかけ離れていく。

 まして、ゲーティアは全能と呼べるほどの魔術式――いや、今は人理焼却式か――なればこそ、オレの不意討ちは致命傷だ。

 

 ゲーティアがその事実に気付かなかったのは、人理焼却式として正しく起動したのが、オレ達が玉座に辿り着いてからであり。

 加速・収束・照射の過程を経る第三宝具の展開に比べて、光帯を維持するだけならば、それほど演算を必要はなかったからだろう。

 

 全く以て馬鹿馬鹿しい。全く以て下らない。笑い話も甚だしい。

 ゲーティアは、既に敗れていたわけだ。人類悪が一過性の悪意に、既に敗れていた。

 全ては奴自身が起こした、ただ一度きりの気紛れによって、奴自身の執念も、願いも、三千年に及ぶ計画と研鑽も、全て水泡となってしまった。

 

 ゲーティアはソロモンを憎み、馬鹿にしていたが、ソロモンの方がまだマシだ。

 ソロモンは初めからあらゆる自由を剥奪されていた。人々の苦しみに泣き、人々の喜びに笑う自由さえもなかった。ただ神の声を聴き、民を治めるだけの王だった。

 

 それでも、彼は知っていた。共感は出来ずとも、認めてはいたのだ。

 例え、最後には死によって失われるとしても。世界が何時かは滅びるものだとしても。命は終わるものだとしても。生とは苦しみを積み上げる巡礼だったとしても。

 

 ――――だが決して、死と断絶の物語ではない。愛と希望の物語だ、と。

 

 死によって愛が崩れたとしても、その価値が失われるわけではないと認めていた。

 希望が断たれ、絶望に塗り潰されたとしても、その意味が失われるわけではないと認めていた。 

 

 

『だが、それでは道理に合わない! 前提が崩れている! お前の能力は驚嘆に値する! 我が力を以てしても再現することは叶わない! だが、奪える力は一つ! 奪える対象は一つ! 貴様はあの男の指輪の力を奪った! ならば、我々の一部は何処へ行ったのだ!』

 

「その疑問も尤もだ。無論、それにも答えよう。これを見な」

 

 

 オレはポケットの中から、あるモノを取り出した。

 円柱形状の上下に金属の蓋が取り付けられた強化ガラスの瓶。

 中に薬液で満たされており、その中にプカプカと浮かんでいるものがある。

 金色に輝く虹彩と水晶体。硝子体を包む白い強膜。ちょろんと伸びた視神経。実に悪趣味な眼球の標本だ。

 

 ゲーティアには遠く及ばないが、オレもそれなりに研鑽を重ねている。

 特に、この邪眼は生まれ持った能力故に死ぬまで付き合っていかなければならず、敵に知られたとしても捨てられるとは限らない。

 

 だから、色々と試しているのだ。

 例えば、眼球がない状態で敵の力を奪えるのか。

 例えば、両腕以外で触れた場合でも奪えるのか。

 例えば、義手などを使用した場合は奪えるのか。

 例えば、敵に身体を乗っ取られた場合、敵は能力を行使できるのか。

 例えば、能力を奪った状態で眼球を失った場合、どうなるのか。

 例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば。

 

 知れば知るほどに疑問は深まる。

 そもそも対魔忍の能力は過程をすっ飛ばして結果だけを得るような場合が多い。原理すら不明のものも多い。

 

 まだまだ多くの謎を残しているが、オレの邪眼について解明された部分がある。

 

 邪眼などと呼ばれてはいるが、魔術世界の魔眼とは異なり、これは眼球だけでは成立しない能力だ。

 奪う敵を定めるオレの精神と認識、敵の能力を奪う為の肉体、能力を収めておく眼球、そして全ての原動力となる対魔粒子。この四つがなければ、邪眼は成立しない。

 

 それを理解した時、オレは笑った。この事実は非常に使える、と。

 オレは勘違いしていたのだ。邪眼はオレの眼球だけを必要とするものだ、と。

 

 眼球はあくまでも能力を収めて置くためだけの箱。

 ならば――――ならば、眼球を引きずり出して、新しい眼球を移植すれば、能力を奪ったまま、他の能力を奪えるということだ。

 

 これはオレとアルフレッドしか知らない事実。

 敵に能力を知られてもなお、有効に活用する為の研鑽の証明。

 奪える能力は一つきりという絶対の前提を崩す、裏技だ。

 

 まあ、これで一番よく使う方法は、一般人が力に目覚め、尚且つ持て余している場合だが。

 いや、ほら、危険な能力を持ったまま日常に返すわけにもいかないし。かと言ってオレの誓いの関係上、殺すわけにもいかないし。

 

 

「お前が全知全能だろうがオレの前では全席指定さ。真正面から正々堂々、不意を討たれた気分はどんなもんだ?」

 

『――――――――』

 

 

 ゲーティアはただただ茫然と立ち尽くしている。

 最早、戦意はない。オレが能力を奪った状態のままで、力を行使した影響(ツケ)が回ってきた。

 奴の身体は指先から崩れ、全身には罅が入り始めている。表皮は剥がれ落ち、まるで今にも倒れる巨木のよう。

 結合は解け、光帯を押さえていた力も解けていく。光帯のエネルギーは拡散し、超新星爆発にも近い爆発を引き起こし、人理へと戻る。 

 その過程で、ゲーティアも、魔神柱も、固有結界さえも宙の藻屑と消える。

 

 最早、ゲーティアに興味はなくなった。

 オレ達に残された役目は奴の崩壊を確認し、この宙域を離脱するのみ。

 

 

「さあ、この戦いに最後の一押しを加えよう! 折角来たんだ! ロマン、お前にやらせてやるさ!」

 

「ああ、もう! 本当に何から何までやりたい放題だな、君は! レオナルド、“例のアレ”を起動してくれ!」

 

『オッケー! 決戦術式、起動! さあ、私達の一年の成果を存分に見せようじゃないか! アルフレッド、演算と魔力供給は任せるよ!』

 

『お任せを。各サーヴァントの霊基解析情報を抽出。魔力装填終了』

 

「聞いてくれ、カルデアのサーヴァント達! これから五分が勝負で、限界だ! それ以上は君達の霊基基盤が持たなくなる!」

 

「総員に通達! これより、拠点制圧戦から魔神柱掃討戦に移行する! 五分後には霊基を強制的に放棄させてもらう! それまでに皆殺しにしろ!」

 

 

 ロマニとダ・ヴィンチが一年もの時間を費やして、行ってきたのはサーヴァントの霊基の解析だった。

 

 アレは一年前。

 始めてサーヴァントの霊基再臨を行った後のこと。

 アルフレッドが不調や異常が見られないか、霊基の解析を行っていたところ、奇妙なブラックボックスを発見した。

 そのブラックボックスに手を伸ばした瞬間、アルフレッドは攻撃を受けたのである。

 計器だけを見れば、サーヴァントの側から計測機器に向けて魔力の逆流現象にしか見えなかったが、実態は違う。

 魔力や霊子を電子として捉えることの出来るアルフレッドは確かに見た。彼等の身の内に潜む、彼等と似た形をした黒い影を。

 

 その後も解析を進めていくと、どのようなサーヴァントの霊基であれ、そのブラックボックスは存在していた。

 

 アルフレッドとダ・ヴィンチの解析の結果。それはある種のリミッターだった。

 これを破壊した時に何が起きるのか。簡単だ。この辺りは人体と変わらず、一時的に凄まじい力を得る反動で霊基基盤までもが崩壊する。

 

 その姿は、サーヴァント自身も知り得ない生前の能力すら遥かに上回る潜在能力を全開放した原初の姿と取る。

 

 

「決戦術式“神話礼装(ゼロ・モデル)”起動――――!」

 

 

 宙域そのものが鳴動する。

 当然だ。生前、数々の偉業を成し遂げた姿をも超える形態。

 

 冠位ではなくとも、彼等も最早、世界に対する英霊(へいき)と化した。

 

 ゲーティアの崩壊は確定した。魔神柱の死滅も確定した。固有結界の爆散も確定した。

 アレに無駄を行う機能はない。既に勝敗も決し、彼等の三千年の妄執は潰えた以上、それでもなお戦うなどという無駄は出来ないのだ。

 

 では、残りの五分間、オレはゆるりと待つとしよう。

 

 





というわけで、御館様意地と根性でマシュを生存させる&賢王様登場、満を持して&ゲーティアさん既に積んでた&神話礼装実装でした。

あとCCC世界でもないのに神話礼装使えるかは知らない。まあ、全部アルのお陰ですよ、アルのお陰。

今回は、色々と詰め込みすぎたなぁ、ちょっと反省。
最終章ということで駆け足気味過ぎますかね?

何はともあれ、第一部完結まであと少し。頑張るぞい!
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