※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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アガルタの発表も来ましたねぇ。
あの褐色美女は出るまで引くんだ(ガチャ中毒並感

そして、受け取ってくれ! これがGW最後に見せる、投降をー!
出来ればGW中に第一部は終わらせたかったが、仕方がない。ごめんねごめんねー!



『終焉の時来たれり、其は全てを終わらすもの』その三

 

 

 

『オォ、オォォォオオオォォォオ―――――!!!!』

 

 

 ゲーティアの慟哭が響く。

 自身の身体が崩壊していく恐怖。魔神柱同士の結合を保てない憤り。無駄になった三千年への嘆き。潰えた己の夢。

 ありとあらゆる無念を声に変え、ゲーティアは崩壊していく。

 

 オレは特に感慨もなく、ゲーティアの最期を眺めていた。

 カルナ、スカサハ、ロビン、呪腕、ジャンヌは既にこの場にはいない。他の仲間の救援へと向かわせた。戦力を無駄にするつもりは毛頭ない。

 どの道、あと数分で彼等は今の霊基を放棄せざるを得なくなる。

 この旅で重ねた出会いもある。言葉の一つも交わしておきたい相手もいるだろう。戦いのついでに、それもやってくればいい。

 

 もっとも、カルナとスカサハ、エルキドゥなどは英霊としての格が英雄王と同格。そう影響はないだろうが。

 カルナの神話礼装は、ただ生前に受けた呪いが解けた姿であり、アルフレッドによって解呪されている以上、常時神話礼装の状態でもある。

 ただ、カルナにせよ、元々制約のないスカサハにせよ、ともに己の力の強大さというものを自覚しているが故に、本気など出さない。

 本気など出されても困る。トップサーヴァントと呼ばれる連中が本気を出したら、周囲のモノが仲間諸共に消し飛びかねないのだ。

 

 マシュだけは残った。コイツだけはデミ・サーヴァント故に神話礼装を使用できない。

 元になった霊基(ギャラハッド)は優秀でも、肉の器がある以上は最後には壊れて破滅するからだ。

 

 

『何故、何故だ、何故だ何故だ何故だ――――!』

 

 

 あらゆるものを失って崩れていくゲーティアに最後に残ったのは、恐怖でも、憤りでも、嘆きでもなかった。

 

 残ったのは純粋な疑問。

 

 何故、我等が負けたのか。

 何故、我等が卑小な英霊や人間ひとりを排除できないのか。

 何故、我等に膝を屈しないのか。

 何故、死で終わるしかない貴様等が、此処まで戦えたのか。

 

 コイツは事此処に至って尚、人間という生き物を全く理解できていないらしい。 

 

 

「ならば、問うてみるがいい。貴様が『価値なき者』と切り捨てた男に。貴様が憐れんだ小娘に。貴様が憎んだ愚かな男に。それが、貴様の最期の救いとなる」

 

 

 ゲーティアに対して何を思ったのか、ギルガメッシュはそんなことを言った。最後の最後で面倒事を押し付けてくれやがる。

 

 ギン、とゲーティアは睨みつけるようにオレ達を見た。

 だが、かつての威圧感はない。瞳に込められた力は寧ろ、此方に縋るための力であるかのよう。

 

 

「まあ、オレの場合は単に仕事と答えるしかないのだが」

 

『――――そのような話があって堪るものか!』

 

「いいえ、ゲーティア。貴方は先輩の言葉の真意を勘違いしています」

 

「仕事、仕事かぁ。まあ、そういう考え方もあるか。でも、仕事をする本質は――――」

 

「「――――生きるため」」

 

 

 その通り。仕事は自分が生きる為にするものです。

 

 英雄王はその答えに、大きく頷くと満足げな笑みを浮かべ、崩れるようにこの宙域から離脱した。

 

 ゲーティアは、二人の言葉が理解できていないのか、ただただ硬直している。

 だが、真摯ではあった。その言葉を少しでも自分なりに咀嚼し、理解しようと努めている。

 

 やがて――――

 

 

「ふ、ふふ――――そうか。初めから、人理すら守っていなかったとは」

 

 

 ――――憑き物が落ちたかのように笑い出す。

 

 ゲーティアは間違えていた。オレ達にせよ、人間にせよ、過大評価し過ぎていた。

 人間にとって人理など二の次だ。まずは自分が生き残らなければ話にならない。そうでなければ、誰かと手を取り合うことすら出来ないのだ。

 

 救いようのない愚かさ。

 救う必要のない頑なさ。

 

 そうだ、ゲーティア。オレとお前はようやく同じ結論へと至った。

 人なんて生き物は救ってやらなければならないほど弱くもなく、絶滅させなければならないほど強くもない。精々が、眺めているだけで十分な生き物なのだ。

 

 ゲーティアは、ようやく至った回答に、ようやく思い至った我が身の愚かしさに、笑いながら崩壊していく。

 その姿は、人類を愛しながら人類を憎んだ、『憐憫』の理を持つ獣にしては、余りにも人間的な姿だった。

 

 

「フォウ、フォーーウ!」

 

「ええ、そうですね、フォウさん。先輩、ドクター、この宙域を離脱しましょう。神殿の崩壊が始まっています!」

 

『急いで聖門の前にまで戻って下さい。其処は魔力濃度が強すぎて、正確に観測できません』

 

「それじゃあレイシフトもできない! 皆、急ごう!」

 

「……………………」

 

 

 フォウが先頭を駆け、後にマシュとロマンが続く。

 オレは最後尾に続こうとしたが、脚を止めて、玉座を振り返る。

 

 ゲーティアは跡形もなく消滅した。

 しかし、奴は最後に個性を獲得していた。その事実は即ち、ゲーティアの元になった者達も同じように――――いや、止めておこう。無意味な憶測だ。

 

 この戦いの後に残る可能性のある禍根、僅かな疑念を押し殺し、オレは地面を蹴った。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

「はーっ、はーっ、ひゅーっ!」

 

「ド、ドクター、大丈夫ですか!?」

 

「だ、だいじょば、なひっ、こ、この、一年、ろくに、運動、して、なかった、から……ひぃ、ひぃぃっ!」

 

「嘘つけ。ダ・ヴィンチに乗っかってハッスルしてただろ。おら、キビキビ走れ」

 

「そういうことマシュの前で言うのは止めてくれないかなぁ! あとお尻を蹴るのも止めてぇ!」

 

「おぉ。ドクター、おめでとうございます!」

 

「あぁ! マシュの曇りのない祝福の眼が逆に辛い!」

 

 

 ひぃひぃ言い始めたロマンのケツを消し上げながら、門に向かって直走る。

 

 距離は、もうそれほどでもないが、確かにロマニには辛かろう。

 神殿が崩れ始めたことで、絶えず地面が振動している。オレやマシュと違って、ロマニは研究畑の人間だ。

 それも当然。直接的な戦闘能力よりも、人類が発展させてきた知識、技術、科学の方が有用な場面が多い。人理焼却に備えるならば、其方の方がいい。

 

 

「――――――っ」

 

「う、うそ、はぁ、だろう……?」

 

「……まあ、そうなるか」

 

「――――――その通りだ。お前を生かしては帰さない。ここで、私と共に消えるがいい」

 

 

 ゲーティアが、変わり果てた姿で道を塞いでいた。

 神々しさなど欠片もない。禍々しさなど微塵もない。壊れかけた人の似姿。

 ソロモンの面影を僅かに残す姿は、ソロモンの守護精霊であった証か。

 だが、その姿でさえ崩れかけ。右半身が崩れ、内臓の代わりに黒い魔力が漏れ出している。

 

 その背後にはソロモンの名を騙っていた時に嵌めた、九つの指輪――

 

 

「うっ、あ、ああ、そうか、そういうことか、この……!」

 

「無理をするな、ロマニ。そのまま渡せ。指ごと持っていかれることはない」

 

 

 ――いや、今、十となった指輪が光帯で繋がり、浮かんでいる。

 

 ロマニを止める為に指輪から奪った力を返還したのが間違いだったか。

 いや、使い方の分からない力など奪っていても仕方がない。

 この邪眼は相手の力を奪ったところで、直ぐに使いこなせるわけでもなければ、理解できるわけでもない致命的な弱点が存在する。それでも相手の力を問答無用で奪えるのは、大変な利点ではあるが。

 

 奴がソロモンの守護精霊であるのなら、今この場に於いて、あの宝具の担い手は奴以外には存在しない。

 

 ロマニ・アーキマンは既にソロモンではなく、ソロモンであることも放棄した。ただの人間に過ぎない。

 だからこそ、手を貸した。英霊なんて選ばれた連中に力を貸す余裕は、オレにはないのだ。必死になって日々を生きる連中に手を貸すのが精々だ。

 

 

「――――私の夢は、潰えた。この神殿に座し、行った莫大な時間は無為となった。そうだ。私は、敗北した」

 

 

 光帯も消える。人理焼却は無効となる。オレの悪意によって、奴の夢は、奴の偉業は、崩壊する。

 

 此処で待ち構えていた奴は、七十二柱の魔神ではない。その残滓、最後に残った“結果”のようなもの。

 何をしようとも結果である以上は覆らない。オレを殺したところで結果は何も変わらない。

 

 これは何の意味もない戦いだ。だが――

 

 

「そうとも、私にも意地がある。いや、意地が出来た。私は今、君たち人間の精神性を理解した。限りある命を得て、ようやく」

 

 

 ――そうだ。理由はある。無意味ではあるが、無価値ではない。

 

 奴は奴の譲れないものの為に、オレを止める。

 オレはオレの生還のために、一秒でも早く奴を止める。

 

 奴の三千年に及ぶ研鑽は、この瞬間のために在った。

 人間というものを理解し、人間と同じく儚い命を得るための旅路だった。

 

 それが人理焼却を巡る聖杯探索の終わり。七つの特異点、七つの世界を越えてきた戦いの果て。

 

 奴こそは、人王ゲーティア。

 いま生まれ、いま滅びる、何の成果も、何の報酬も望まずに、その全霊(いのち)すべてを使って、オレを打ち砕きに来る。

 

 この僅かな時間こそが、奴の物語。この僅かな愛しい時間こそが、ゲーティアと名乗ったものの、本当の人生だ。

 

 

「――――言葉にするべき敬意は以上だ」

 

「まだだ、ゲーティア。オレが敬意を言葉にしていない」

 

「…………時間稼ぎかね?」

 

「勿論、それもあるにはあるが。紛れもないオレの本心だ」

 

 

 ああ、全く、余計なことはするもんじゃないな。

 英雄王に唆されて、余計なことをした。下手をこいた。あの時、ゲーティアには何の言葉もないまま、何の救いもないままに消えて貰えばよかった。

 

 でなければ、奴がこんなにも恐ろしい変遷(せいちょう)を遂げることはなかったのだ。

 

 恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。心底からオレは恐怖する。

 あの目、あの顔、あの表情。その全てが物語っている。

 

 例え、何を犠牲にしても。

 例え、何一つ得られずに死んだとしても。

 例え、力及ばなかったとしても。

 

 最後の勝ちだけは譲れない。必ず、お前の勝ちを、己の手で焼却する気で、満ち満ちている。

 

 ああ、全く。魔神王だった頃よりも、よほど恐ろしいではないか。

 

 オレは相手の持つ力が、どれほど強大であっても恐れない。

 力など、どれだけあっても対応のしようは腐るほどある。最悪、邪眼を以て奪ってしまえばそれまでだ。

 

 故にこそ、オレは相手の精神性や在り方そのものこそを恐れる。

 例え、死んだとしても目的を成し遂げる。何にも流されず、一点の曇りもない専心こそが恐ろしい。

 

 かつて、オレはアミダハラで地獄を見た。

 

 その地獄で敵に出会った。オレの生涯で唯一の『敵』だ。

 何か特別な力があったわけではない。何か特別な才能があったわけではない。

 奴にあったのは知恵と経験と忍耐力、そして何よりも痛烈なまでの意志。

 たったそれだけ。たったそれだけ理由で、奴は全ての魔族と米連を手玉に取り、多くの対魔忍を殺し、オレと九郎に辛酸を舐めさせた。

 

 ――今のゲーティアは、奴と同じ顔をしている。

 

 

「ゲーティア。最早お前は、仕事上の障害ではなくなった。オレが全霊をかけて、自らの手で殺さなければならない存在だ」

 

「――――――――」

 

「認めよう。お前はオレの『敵』だ」

 

 

 オレにとって、真の意味での『敵』など、これで二人目。

 それ以外は有象無象の排除対象。魔神柱だろうが、ティアマトだろうが、他のビーストだろうが変わりはない。

 

 オレは懐から無貌の仮面を取り出し、被る。オレの戦いには仮面(これ)が必要不可欠だ。

 

 ゲーティアは、震えている。

 歓喜と恐怖、殺意の狭間で揺れている。余りにも愛おしい、この一瞬、一秒を噛み締めているかのようだ。

 目を見開きながら、吊り上がろうとする口の端を押さえ、緩み始めた精神を必死で締め直している。

 

 ゲーティアはオレから目を逸らさず、残った左手を握るような動作を見せた。

 すると、背後に浮かぶ指輪の一つが光を失い、その代わりに、オレとゲーティアを円形に囲うように黄金の光の壁が出現した。

 

 

「――行くが良い。マシュ・キリエライト、ロマニ・アーキマン。私の『敵』は、彼だけだ」

 

 

 最早、マシュとロマニに興味を抱いておらずとも、折角の命を無駄にすることはないと退去を勧める。

 

 ロマニは大人だった。

 暫らくの間、悩む素振りを見せたが、高圧縮された魔力の壁をどうすることもできないと、踏み出そうとした。

 正しい選択だ。何も出来ないのなら、此処で待つ意味もない。命を無駄にする選択なぞするべきではない。

 

 だが、マシュは違った。

 

 

「いいえ、私は残ります」

 

「――――マシュ、ボク達が残ったところで、何も出来ないんだ」

 

「それは理解しています。ですが、私は先輩を残していきません。先輩のデミ・サーヴァントですから。何よりも、彼の最期も見届けないと。ドクターはお先に」

 

「はぁぁぁ、どうしてこう、頑固に育っちゃったのかな! ああ、もう! ボクも残るぞ! そりゃ、彼に任せきりだったけど、ボクにだって親心はあるんだぞぅ!」

 

 

 マシュの梃でも動かないであろう態度に、ロマニは両腕を組んで、その場に胡坐をかいて座り込んだ。

 アレではどんな言葉を重ねても動くまい。もっとも、オレはそんなことを気にしている余裕はない。

 

 戦いが始まれば、喋る余裕すらなくなるだろう。

 タイムリミットは一分となった。この領域が崩壊するまでの時間ではない。ゲーティアがその儚い命が砕けるまでの時間だ。

 

 オレの『敵』を、時間切れになどさせない。必ず、オレの手を以て絶殺する。

 

 

「「――――征くぞッ!」」

 

 

 オレとゲーティアの声が重なり、戦いの始まりを告げる号砲と化す。

 

 ()()の瞬神を渾身の力で投擲する。

 だが、ゲーティアもそれを読んでいた。能力的に対処がし辛い故、オレが最もよく使う主兵装だからだ。

 

 またしても、ゲーティアの背後にあった指輪が光を失うと、瞬神を拘束するように八つの光帯が絡め取る。

 光帯は空中で瞬神を拘束し、その輪を縮めると、瞬神ごとこの空間から消え去った。

 あの武装はそう易々とは壊れない。壊れたとしても勝手に再生する魔界の金属で造られているが、少なくともこの戦いの最中に戻ってくることはないだろう。

 

 落胆はない。この程度のことで落胆していては、自己の存在全てをかけた戦いに勝てよう筈もない。

 

 ゲーティアは更に五つの指輪が光を失い、五つの光帯を生み出される。

 何となしではあるが、指輪と光帯の関係性が分かってきた。

 それぞれの指輪に篭められ、溜め込んだ魔力を存分に使って、詠唱もなく魔術を行使する。

 

 ゲーティアは万能の指輪を、オレを殺す為だけに使い潰すつもりなのだ。

 魔神王であった頃のゲーティアでは考えられない無駄の多い使い方。だが、発動までの速度が異様に速い。これまでに見てきた魔術とは比較にもならない……!

 

 一つの指輪の魔力を分散させて、複数の光帯を発生させることが可能であることを考えれば、五つの指輪を使って生み出された五つの光帯は、ただ一つでオレを殺し切れるだけの威力を秘めていると見て間違いない。

 

 ゲーティアの意思の元、五つの光帯がチャクラムの如く射出される。

 オレは“武器庫”から忍者刀を取り出し、距離を詰めた。

 

 想像していた通り、光帯の速度は速い。

 奴の思考通りに動くのであれば、サーヴァントであっても捉えることは可能だろう。

 回避に専念すれば、囚われるは必然。元より時間などないのだ。此方からも距離を詰め、決着をつける。

 

 地面に顎が触れそうなほどの、獣の如き疾駆。

 オレの生み出せる最高速度を一歩目から発揮する特異な歩法。

 

 だが、ゲーティアはそれすらも読んでいたのか、オレの進行方向に光帯を送り込む。

 ヤバい、とは感じたが止まらない。此処で退いては、オレの勝ちはなくなる。この戦いは永劫に決着がつかなくなる。

 オレも奴も困る。『敵』は必ず殺すもの。この戦いの結末が、この旅の結末が、この全霊の応酬の結末が、そのようなもので在って良い筈がない。

 

 後退の螺子を外す。軋みを上げる全身の悲鳴すら無視する。

 身体のリミッターは既に外している。限界すらも超える性能を引き出している。

 

 ――オレの一刀とゲーティアの光帯が交差する。

 

 耐えられなかったのは、忍者刀。

 生憎と大量生産品の上に、オレの技量は剣士のサーヴァントには遠く及ばない。

 膂力、速度、技量の観点から見ても、とてもではないが断ち切るなど不可能だ。

 

 だが、逸らすことくらいは出来る。

 

 疾走を邪魔する光帯を、武器を犠牲に捌いて逸らす。

 これで無手。新たな武器を取り出している余裕はない。

 

 全ての動きが酷く緩やかだ。

 極限まで加速した思考速度に、肉体が付いてきていない。ゲーティアも同じだろう。

 

 襲い掛かる五つの光帯(チャクラム)を、紙一重で躱していく。

 致命傷には至らない限界寸前の回避。だが、ゲーティアはこの短い時間の中で精度を上げていく。

 恐ろしいまでの成長。人間が命がけの戦いの中だからこそ獲得を許される成長速度。

 

 もう、躱しきれない。

 生憎と、オレには才能がない。こんな成長速度にはついていけない。もし、オレに対抗する術があるとするのなら、それは――――

 

 オレの両脚を刈り取るように、光帯が地面と平行して飛来する。

 地面との間に身体を滑り込ませる隙間すらない。最低の悪手と分かっていても、地面を蹴る道しかオレには残されていなかった。

 

 

「――――がぁっ!」

 

「捕らえたぞ……!」

 

 

 宙を飛んだオレの首を光帯が捕らえ、締め上げる。

 一撃で首を断たなかったのは、断てなかったから。光帯に付与した力が切断や破壊に向かっていたのではなく、元より拘束に向けられていたからだ。

 

 まだ見ぬ能力を警戒してもいたのだろう。 

 脳への酸素供給を断って思考を鈍らせ、あらゆる自由を奪った上で、殺す為に……!

 

 残る光帯がオレの四肢を捕らえて、虚空へと磔にする。

 ゲーティアは更に残る三つの指輪全てを使い、磔にしたオレを囲むように三つの光帯を展開した。

 

 光帯は一瞬、大きく拡大し、一瞬で縮小する。

 圧縮された魔力を一気に拡散して内に向けて爆発させ、空間を歪め、空間ごと何処(いずこ)かへと消し飛ばす。瞬神を消した同じ原理か。

 

 待っているのは確実な死。

 だが、舐めて貰っては困る。例え、酸素がなくなろうとも、オレの思考に淀みはなく、能力を再現するには不足はない――!

 

 内に向けられ爆炎。歪められる空間。一瞬だけ見えた暗黒の宙。

 オレは、その全てをすり抜けて地面へと降り立った。

 

 “霞狭霧(かすみのさぎり)

 

 この能力を行使すれば、あらゆる攻撃、放射線、神秘ですら干渉できなくなる。

 アルフレッドの解析では、この能力は因果律に直接作用し、自らの存在を極限まで――それこそ無に等しくなるまで稀釈しているようだ。

 余りにも危険な能力だ。少しでも能力の持続時間を誤れば、連続で使おうものなら、この世に自身の存在してきた事実、残してきた爪痕が丸ごと消えるのだから。

 

 だが、オレには関係ない。

 仕事を速やかに、確実に終わらせるのならば、いくらでも死線を越える。

 今この瞬間ならば、ゲーティアを止めをくれてやるためならば、いくらでも自己の生きた道筋もベットする。

 

 右手に対魔粒子を収束し、超高速で回転させる球体を形成する。

 

 対魔殺法・自在天。

 盗人のように他人の能力を奪い、我が物顔で行使するオレの、数少ない自己の証明(オリジナル)

 

 全ての指輪を使い切ったゲーティアであるが、諦めなど何処にもない。まだ奴には奴自身が残っている。

 

 拳を握り、オレに向けている。

 その先端には、白く輝く魔力が込められている。余りにも眩しい、命そのものの輝きだ。

 

 それが奴の最期の、そして渾身の一撃だ。

 良いだろう。放ってくるがいいゲーティア。オレはそれを躱し、渾身の一撃を――――

 

 

「――――――」

 

「楽しいな……! 真正面から正々堂々不意を討つと言うのは――!」

 

 

 ゲーティアの第三宝具の熱量ですら焼き尽くせなかったオレの思考は、掛け値なしに完全に停止した。

 

 ――何せ、二つの光帯が、オレの右手首と左足首を拘束していたのだから。

 

 やられた。そして、やりやがった。

 コイツ、この野郎、オレに対して、真正面から正々堂々不意を討ちやがった……!

 

 オレを確殺する方法を、絶えず考えていたのだろう。

 恐らくは、人間性を獲得したその瞬間から、ずっと考え続けていたのだろう。

 

 ゲーティアは残った三つの指輪を攻撃に使用したように見せかけたのだ。

 実際に使ったのは、一つの指輪だけ。残る二つの指輪から力が失われたように光だけを消し、幻惑した。

 あの爆発は、五つの指輪によるもの。全ては、この状況を手繰り寄せるための布石……!

 

 最初から、このつもりだった! 最初から、これしかないと奮い立った! 最初から、こうしてやろうと決めていた!

 

 悔しさは微塵もない。

 あるのは、奴を抱き締めてやりたくなるほどの感嘆と敬意のみ。

 

 ゲーティアの放つ輝きが頂点に達した。

 拘束されていては、避けたくても避けられない。照準はオレの左胸――心臓だ。

 

 ――――だが、ゲーティアよ。お前は一つだけ読み違えている。

 

 

「――“主よ、生命の歓びを”――」

 

 

 確かに、他者の能力を奪い取り、自在に操る能力は驚嘆に値するだろう。

 確かに、不意を討つ――相手の心理を読み取り、思考の穴を見つけて刃を滑り込ませる技術は、警戒に値するだろう。

 

 しかし、どちらもオレにとっては数ある武器の一つに過ぎない。

 もし仮に、他人にお前の最大の武器はなんだ、と問われれば、猜疑心だと答える。

 即ち、あらゆる事態を想定し、あらゆる敵を恐れ、それら全てに対応できるだけの手段を用意する心だ。

 

 白銀の閃光が放たれる。

 まるであらゆる防御を貫く最強の矛。迫る光を前にして、オレは身体に仕込まれた仕掛け(ばくだん)を作動させる。

 

 それは、米連で考案された計画において必要不可欠と開発されたものだ。

 その計画とは、優秀な能力を持つ死刑囚の再利用。米連は、死んでも構わない使い捨ての兵士を求めていた。

 

 しかし、それは余りにも危険すぎる賭けだ。

 何せ、死刑囚になるほどの倫理観、社会性の欠如した連中を使うのだ。解き放たれて社会に混乱を齎しても何の意味もない。

 

 よって、米連は特性の首輪を開発した。

 全長1cm、直径5mm。超高性能爆薬に指向性を持たせ、爆発させた際には、埋め込んだ首を千切り飛ばす威力の首輪(ばくだん)だ。

 結局、計画は余りにも倫理に背き、危険性が高過ぎるという理由で頓挫。首輪の設計図も破棄されたのだが、オレが手に入れた。

 

 簡単な手錠くらいだったら、オレも外せる。だが、手錠も日夜進化している。

 もし、外せない手錠が現れたら。もし、能力を行使できない状態で手錠を使われたら。

 この爆弾は、そんな状況を覆すにはとびきりのアイテムだった。

 

 起爆装置は脳内に埋め込まれ、オレの思考とリンクしており、何時でも種類を選んで爆破が可能。

 万が一、オレが死亡した際には、敵にオレの能力を利用されないように、一斉に起爆して跡形もなく消し飛ばす。

 

 そんな爆弾を、右肩に埋め込まれたものだけ起爆した。

 

 爆発音はほぼ無い。右肩が内側から破裂したように弾け、肩を繋ぐ肉と骨を千切り飛ばした。

 その血飛沫を浴びながら、オレは身体を傾ける。

 位置的に全てを躱すことは無理だったが、ゲーティアの一撃は心臓ではなく、右の脇下を僅かに抉り飛ばす程度で済んだ。

 

 体勢を崩し、痛みから膝が折れそうになる。

 見れば、ゲーティアもまた魔力の限界か、存在の限界か、膝を折ろうとしていた。

 

 だが――

 

 

「ここまで、か…………いや!」

 

「…………まだ、これからだ!」

 

 

 ――オレも、奴も、まだ互いに死んでもいなければ、まだ勝ちを諦めてもいない……!

 

 ゲーティアが一瞬だけ意識を失った事で、左足首の拘束が外れた。

 

 オレは再び残った左手に対魔粒子を収束させる。

 ゲーティアは残った魔力全てを左手に篭める

 

 オレは左手を振りかぶる。

 ゲーティアは左手を振り上げる。

 

 永遠のように長い刹那。

 互いの視線は絡み合い、全ての尊敬と殺意と全霊を込めて睨みつける。

 

 互いの腕が交差する。片や頭目掛けて、片や霊核に狙いを定め――――全く同時に、互いの急所に届いていた。

 

 

「――――見事だ、ゲーティア。お前の一撃、確かに届いたぞ」

 

「ハ――――いや、まったく……不自然なほど短く、不思議なほど面白いな。人の、人生というやつは――――」

 

 

 ゲーティアの決死の一撃は、オレの仮面を砕き、額を裂き、頭蓋に罅を走らせるに留まり。

 オレの全霊の一撃は、ゲーティアの霊核を確かに撃ち抜いた。

 

 ゲーティアの身体が崩れる。

 砕けた仮面から露わになった素顔で、血に染まっていく視界で確かに見た。

 

 彼が悔しがりながらも満足げに。次こそはと奮い立つように。微笑む顔を。

 

 さらばだ、ゲーティア。

 進むべき道を初めの一歩から間違えた、哀れな獣。

 けれど、間違いを認め、見出した道を全力で駆け抜けた、蜉蝣のように短い彼の人生。

 

 生涯において、二人目になるオレの、オレだけの『敵』。

 

 認めよう。

 オレのような()()に認められたところで、お前は笑うだろうが、お前はオレ以上に()()だった、と。

 

 




はい、というわけで、こんな感じでした。

神話礼装丸々カットはもったいなかったけど、仕方がない。自分の妄想力が足りなかった。

そして、ゲーティアまさかの真正面から正々堂々不意を討つ&決着。
まあ、何と言うか、この御館様らしい決着ではないでしょうか。

よーし、では次回で第一部が終わる予定。そして、ふふふ! 次回をお楽しみにー!
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