※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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エロ尼キタアァァァァ――――!!

しかし、これ、カルデア大丈夫なんですかね?
サーヴァントはエロ尼にある程度は耐性があるようですが、職員がアカンやろ、これ。

とは言え、自分には関係ないのでガチャるぞー!(彼は狂っていた


では、待望のCCC編スタッートゥ!


深海電脳楽土 SE.RA.PH編
『苦労が終わるかと思ったぁ? 残念、苦労が終わらないから苦労人なのだ!』


 

 

 

 

 

「「「イエーイ! お疲れー!!」」」

 

 

 人理修復を成し遂げてから一月。

 カルデアの食堂で、細やかながら祝勝の宴が開かれていた。もっとも、参加者はごく数名だが。

 

 何に対しての祝勝かと言えば、カルデアの利権及び責任追及を何とか躱し、これまで通りの運営が約束されたこと。

 対外的には虎太郎――表向きには、山本長官から強い推薦と国連の承認によってカルデア監査官に任命された高橋 孝三郎としてではあるが――と技術顧問のダ・ヴィンチがこれに当たった。

 裏方仕事はロマニが担当し、アルトリアとモードレッドが地下で会議の流れを俯瞰し、アドバイザーとしての役割を担った。

 

 

「しっかし、時計塔の連中の、あの顔ったらなかったなぁ!」

 

「嘘ではないですが、上手く我々にとって都合の良い事実だけで構成された報告。相手の突かれたくない部分を突いて冷静さを欠かせる話術。惚れ惚れするような論点のすり替え。本筋とは全く関係のない人格否定と人格攻撃による時計塔側の悪印象の植え付け。全く、口の悪さと達者さはケイ卿を彷彿とさせます」

 

「でも、父上も途中から楽しんでたよな?」

 

「まさか。とは言え、我が契約者を侮辱した者達です。胸が空くような思いではありましたが」

 

 

 ふっ、と笑みを浮かべるアルトリアとモードレッド。

 二人の手にはビールの入ったグラスが握られている。モードレッドは兎も角、アルトリアが酒を飲むのは珍しい。どうやら、相当に気分が良いようだ。

 

 

「それに彼等、自分から墓穴を掘ってもくれた。力尽くでコッチを何とかしようなんて下も下だよ。まあ、彼等はこっちの機器が機械で管理されているとしか知らないからねぇ」

 

「アルフレッドについて教えてやる義理なんて、こっちにゃないしな」

 

「しかも実働部隊を生け捕りにして、時計塔の誰の差し金か、誰が拘わっているかを聞き出した挙句に、全員丁重にお帰り願うなんてね。それもサーヴァントの皆は動かさずに」

 

「今頃、奴等、揃いも揃って戦々恐々としているだろうよ。オレがギロチンの紐握ってるようなもんだからな。国連に流せば、今度は時計塔の内部に調査の手が伸びかねない」

 

「しかし、感慨深いなぁ。久し振りにオルガマリーにあったけど、あんなに小っちゃかったマリスビリーの娘が、あんなに立派になっちゃって……ぼかぁ、ちょっと涙ぐんじゃったよ」

 

「そりゃそうさ。考えてもみたまえ、こんなド外道に鍛えられたんだ! そうでもなければやっていけないさ!」

 

 

 虎太郎が肩を竦めると、わっと全員が笑い声を上げる。

 

 オルガマリー・アニムスフィア。

 マリスビリーの娘であり、アニムスフィア家の若き当主にしてカルデアの所長である。

 だが、虎太郎の説得によって、カルデアの全権を極秘裏に委任し、今は時計塔での政争と一族の取り纏め、カルデアの資金繰りに勤しんでいる。

 

 出会った当初、虎太郎が抱いた彼女の印象は、才能はあるが経験不足で色々と無理をしている小娘、というものだった。

 表向きは当主として姿勢を保つが、不安になるとすぐにボロが出る上に、レフ・ライノールに依存している節があった。

 虎太郎と取引、契約、駆け引きをして経験を重ね、今では一人前と呼べるだけの実力を手にしている。

 

 ロマニとマシュの生存、レフの裏切りと死、人理を巡る一連の事件を聞いて――

 

 

『そう…………で? アニムスフィア――――いえ、私個人にも利益が得られる手段、用意してあるんでしょうね?』

 

『――――無論だとも。実益、名声ともに君のもの。オレが欲しいのは戦力と世界を救った(仕事の完了)という事実だけだからな』

 

『結構。……それから、隠し事はなしとは言わないけどね。いきなり死んだはずの人間が生きてたなんて言われても心臓に悪いのよ! 貴方、お父様まで生きてたなんて言ったら、私卒倒するわよ?!』

 

『それはないから安心してくれ』

 

 

 ――一瞬だけ、レフの死を悼んだものの、切り替えは非常に速かった。

 ロマニは、オルガマリーがヒステリーを起こしかねないと危ぶんでいたのだが、その気丈な姿に本気で涙ぐんだほどだ。完全に親戚のお兄さんの心持ちである。

 オルガマリーとしても、コイツなら何を仕出かしても不思議ではないという前提があったのだろうが。

 

  

「――どうぞ、皆さん」

 

「ほら、食べて食べて。今日はマシュが頑張ってくれたからね」

 

「ローストビーフだけですが。どうでしょうか……?」

 

「どれどれ――――うーん、素晴らしい! この手作り感溢れる味! 少々味は濃いけれど、ショウユソースとピリッとした辛味! 疲れた身体と酒には最高の相性だね!」

 

「――――――お、美味しい(ホロリ」

 

「あ、アルトリアさん、泣くほどのものでしょうか……?」

 

「ブリテンの味とは比較にならぬほど、生前の料理は………………雑でした(死んだ魚の目」

 

「うん、まあ…………オレもあんまり気にしなかったけど、こっちで食事するようになってからは、ガウェインの料理は食う気はしない」

 

「テメェ、それはオレの女(マシュ)がオレの為に作った料理だぞ……!」

 

「いいや、違うね! ボクの娘(マシュ)がボクの為に作った料理さ……!」

 

「もう! 先輩もドクターも、仲良くお行儀よく食べて下さい!」

 

 

 虎太郎とロマニ、娘の彼氏と娘の父親のみみっちい決戦が卓上で展開され始めたが、娘本人の仲裁によって事なきを得る。

 だが、二人は視線を交わすと、互いに相手へ聞こえるように舌打ちをした。仲が良いのか悪いのか。

 

 と、その時、食堂の扉が開き、緑衣のアーチャー――――ロビンが入ってきた。

 彼は一月前、日本へと旅立ち、対魔忍の九郎の手助けを命じられた。今日は、ちょうど帰ってくる日である。

 

 

「でも、ロビンさん一人のようですね……?」

 

「ああ、九郎に泣きつかれてな。残りの四人はあと二月、あっちの方で頑張ってもらう」

 

「大将ぉぉぉおおぉぉぉぉぉ――――!!!」

 

 

 どうやら、虎太郎のいなかった期間で、九郎は相当に追い詰められていたようだ。

 アサギ、紫、さくらの三名に加え、手練れの対魔忍で何とか組織を運営してきたようだが、人手の足りなさに過労死寸前だったのだ。

 

 

『すまん、虎太郎。あと一月でいい、いや、贅沢は言わん、二週間だ。もう二週間だけ、あの五人を貸してくれ。実働の方だけでも、あの五人がいるだけで天と地の差がある……!』

 

「いや、いいよ。無理すんなよ。あと二月貸すよ。但し、ロビンはこっちに戻してくれよ。残りの四人を使って上手くやれよ」

 

『うぉぉぉおおぉぉぉぉ――――ッ!!』

 

 

 虎太郎の同類に対する哀れみ。カルデアの戦力事情と差し当たって四騎を使う任務はないという理由で、延長が決まった。

 その台詞に、普段冷静な九郎からは考えられない雄叫びを上げ、天に向かってガッツポーズを見せたそうな。

 

 ロビンは、対魔忍側の現状と報告の為にカルデアに戻させた。

 しかし、虎太郎の姿を見るなり、怒り心頭といった様子で向かってくる辺り、相当にキテいるらしい。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

「まあまあ、ビールでも飲んで落ち着けよ」

 

「んぐ、んぐんぐ、んぐぐっ……ぶはぁっ!! どうなってんだよ大将、あの対魔忍って連中はよぉ!!」

 

「うん、まあ、気持ちは分かるよ。痛いほどよく分かる。何せ、オレが十年以上も付き合ってきた連中だからね」

 

 

 帰ってきて早々、ロビンは対魔忍に対する不満をぶちまける。

 この一月、ロビン達は九郎の指示に従い、対魔忍を影ながらサポートに回っていた。

 直接、任務には拘わらない。サーヴァントの存在は、裏社会においてすら認知されるべきものではない、という判断からだ。

 

 霊体化と実体化を巧く扱い、対魔忍にすら気付かれぬまま、彼等の任務をサポートしてきたのである。

 だが、呪腕は一日にクソデカ溜め息を何回も吐くようになり、静謐は無言で首を振り、百貌は愚者(バカ)愚ー者(バーカ)と繰り返し、風魔に至っては宝具ぶっぱ五秒前状態であった。

 

 

「何なんですかねぇ、あの人ら! ろくすっぽ作戦も立てずに突っ込むわ! 敵の罠に簡単に引っかかるわ! 脳筋も大概にしとけよって話ですわ!」

 

「うん、そうだね。その通りだね」

 

「こっちがやべぇと思ってサポートしても、何の不思議にも思わねぇし! それどころか更に調子に乗るんですけどぉぉぉぉッッ!!」

 

「本当にね。何なんだろうね。意味が分からないね」

 

「あんなんが日本を影ながら守るとか、冗談にしか思えないんですけどぉ?!」

 

「ほん、ほん―――――うわっ、うわわぁあぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

「なんで大将が泣くんだよぉ!? 泣きてぇのはこっちの方だよぉ!!」

 

「うるせー! お前の言葉の一つ一つがド正論過ぎてオレの心に突き刺さるんだよぉ! これ以上、オレに現実を再認識させるのは止めろぉ!!」

 

 

 ロビンの怒りは何一つ間違っていない。

 そして、それは虎太郎が十年前から通ってきた道でもあるのだ。

 どうにかしようと努力しようとも、立場上不可能である上に、対魔忍全体に蔓延する慢心気質はどうにもならない。

 この如何ともし難い現実を直視するなど、虎太郎でも泣きたくなろうというもの。ロビンの姿はかつての虎太郎の姿そのものなのだから。

 

 

『虎太郎、お話し中のところ失礼します。外部からの通信です』

 

「外部……何処からだ?」

 

『海洋油田基地セラフィックスです』

 

「はぁ……?」

 

 

 アルフレッドの語る通信先に、虎太郎は首を傾げた。

 どう考えたところで、現状のカルデア、ひいては自分が関わりを持つ施設ではなかったからだ。

 

 セラフィックスはカルデアの資金源の一つ。

 北海に建設されたアニムスフィア家所有の海洋油田基地。

 半潜水式のプラットフォームを持ち、200名ほどのスタッフが二交代制で運営している。

 元々、アニムスフィア家というよりも、マリスビリー個人の持ち物としての側面が強かったようではあるが、その後は娘であるオルガマリーに相続された。

 

 セラフィックスで何らかの問題が発生したとしても、カルデアではなく、アニムスフィア家の重鎮か、オルガマリーへの直通コースを取る筈だ。

 であれば、考えられる可能性は一つ。セラフィックスで抜き差しならない自体が発生し、何処でも構わないから通信を行っているということだろう。

 

 

「――――すぐそっちに向かう」

 

「ん? セラフィックスからの通信なら、アルフレッドに任せて所長に回して貰えばいい。我々にカルデアの資金源について口出しする権利はないんだぜ?」

 

「何だか、嫌な予感がする。以前、マリスビリーの資金源を洗った時には、どの程度の金を生み出すかと内情をちょっと探った程度だったからな」

 

「――いや、確かに、資金源を隠れ蓑にした魔術工房の可能性もあるけど」

 

「まあ、念の為さ」

 

 

 どっこらせ、とうんざりしながら立ち上がった虎太郎は、そのままカルデアの全ての通信、監視を行うカルデアスのあるレイシフトルームへと向かっていった。

 虎太郎の嫌な予感とやらに全員が首を傾げたが、直ぐに気にしなくなった。また何時もの猜疑心だとでも思ったのだろう。

 

 何も言わず虎太郎の後に付いていったのは、マシュとロビン。何をするにしても、まず虎太郎が声を掛けるメンバーだったからだ。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

「おい、アルフレッド。どうだった?」

 

『マズいですね。セラフィックスからの通信は救難信号でした』

 

「ふん、そっちか。で、事故か? テロか?」

 

『いえ、そのどちらでもありません。カルデアスを使用してセラフィックスを確認しましたが、完全に消失していました』

 

「消失ってよぉ。基地ってんなら、それなりにデカいんだろ? そんなもんが消える筈がないでしょうよ」

 

「観測ミス――――は、アルフレッドさんに限って在り得ませんね」

 

 

 どうやら、虎太郎の嫌な予感は的中していたようだった。

 

 セラフィックスの存在は完全に消失していた。

 基地が元々存在していた場所、その近海、海底にまで捜索範囲を広げても、影すら踏めないのだ。

 アルフレッドに人間のようなミスは在り得ない。彼の持ち得る演算能力は、考え得る事態の想定の広さ、確認作業の回数と速度は人を遥かに上回る。

 

 ならば、事実としてセラフィックスは消えたのだろう。

 誰が、どのような手段を用いたのかも分からないままに。

 

 

『む――――これは、外部からのハッキングです』

 

「ハッキング……? 出所は?」

 

『分かりませんね。我々の感知できない領域から攻撃を受けています。おお、何と言う。凄まじい速度で此方の攻勢防壁(ファイヤーウォール)を突破しています』

 

「いや、アルフレッド、感心してる場合じゃねぇよ! お前の用意したもんが突破されるって相当じゃねぇか!」

 

『すみません。これほどの手合いは出会ったことがなかったので。超A級のウィザードでも不可能な事象です。相手は人間ではないようですね』

 

「人間じゃ、ない………………いや、いやいや、ないな、それはない。いくらなんでも、そんなん……」

 

「ロビンさん、どうかされたのですか? ものすごい勢いで顔色が……!」

 

 

 こんな事態を引き起こせる存在に心当たりがあったのか、ロビンの顔が凄まじい勢いで蒼褪めていく。

 そうこうしている間にも、カルデア内のほぼ全てを監視しているシバのモニターが、桜色に染まり、回転する桜の花の紋章と「now hacking」の文字で次々と埋め尽くされていく。

 

 その光景にロビンの顔色は蒼を越えて、土色に。頭まで抱えている。

 どうやら、相当に嫌な思い出のある相手のようだ。

 

 

『BB――――、チャンネル――――!』

 

「ですよねぇーーー!! こんなんやる馬鹿、アンタだけですわ!」

 

 

 モニターと連動したスピーカーから、愛らしい少女の声が響き渡った。

 但し、可愛らしいのは声だけ。その響きは愛らしさに反した、そこはかとない邪悪さが籠っている。

 

 少女の声を聴いたロビンは、堪りかねたように悲鳴を上げる。

 その声量にマシュはギョッと目を剥き、虎太郎は呆れたように横目でロビンに視線を向けていた。

 

 

「アルフレッド、遊ぶな。相手に興味を持ったからと言って様子見を選択するのはお前の悪い癖だ。自分の仕事をしろ、仕事を」

 

『これは失礼を。どちら様か存じませんが、そういうことですので。次からは先に名前を告げて、アポイントメントを取って下さい』

 

『え? ちょっ、うそ、何この処理速度……! ちょちょちょ、ちょっと、ちょっと待って下さい! タイム、タイ――――』

 

 

 虎太郎の指示に、アルフレッドは乗っ取られた回線を呆気なく遮断する。

 電子・霊子情報において、彼はほぼ無敵と言ってもよい存在だ。地球上全てのスーパーコンピューターから同時にハッキングを受けても難なく上を行く。この結果も、当然と言えば当然だ。

 

 

『今のは、どうやら特異点からの攻撃のようですね。僅かではありましたが、特異点反応を感知しました』

 

「さて、どういう理屈なのやら。兎も角、今の奴、今も飽きずに攻撃してきてるだろ?」

 

『はい、その通りです。現在、57回目の挑戦中。遮断に成功。これは止まりませんね』

 

「相手が諦めるまで続けろ。そうでもなきゃ、何処までも調子に乗る手合いだ」

 

 

 愉快犯的な手法、相手の声色から、おおよその性格を把握したのか、虎太郎は無慈悲に告げる。

 僅かな時間で57回もハッキングに挑戦、阻止されているというのに、大したハングリー精神である。

 だが、明らかに人間によるものではない。この回数は時間感覚を引き延ばせない限り、不可能だ。

 

 

「で、心当たりは誰だ……?」

 

「あー、その、前にオレが、ちょいと特殊な聖杯戦争に参加した記憶があるって、言ったことあったよな……?」

 

「確か、詳細はよく覚えていないそうですが、月で行われた聖杯戦争、でしたか?」

 

「そう、それ。其処で、オレは確かに負けたんだが、その後で、あの嬢ちゃん――――BBに捕まってさ」

 

 

 月での聖杯戦争。それがロビンの参加したことのある聖杯戦争。

 彼自身、断片的な記憶しか持ち得ておらず、詳細を語れないが、確かにあるのだ。記憶に残る、年老いた騎士の姿が。

 

 似たような話は、カルナの口から飛び出たことがある。

 彼はどうやらロビン以上に詳しく記憶しているようだが、この世界には必要のない情報という判断、生来の口下手も相まって、多くは語らない。

 反面、その時のマスターの名前は度々口にする。彼の話を聞けば、マシュですらが、どうなのだろうと首を傾げる問題のある人物像が見えてくるが、カルナにとっては無二の出会いであったようだ。

 

 

「ありゃ、人間じゃない。名前はBB。月の聖杯戦争を円滑に進めるために生み出された上級AIって奴らしい」

 

「上級AI……それは、どのようなものなのでしょう……?」

 

「どうやら、過去の人間を元にデザインされてるらしいんだが……あー、駄目だ。オレはそこらへんに興味がなかったからな。まるっきり記憶が抜け落ちてやがる」

 

「そこらへんはいいさ。お前から見たBBの印象は?」

 

「邪悪、愉快犯、調子こき。やることなすこと空回り。あと、ラスボス。だが、根は真面目で一途って印象だ。やってることにゃ付き合いきれんが、オレは嫌いになりきれなかったね」

 

「お前、面倒見良すぎだろ」

 

「大将がドライ過ぎるだけだから」

 

 

 呆れた様子で頭を掻くロビンを眺めながら、虎太郎は彼の言動を咀嚼していく。

 

 己の受けた印象、更には彼の性格というフィルターを通したロビンの印象。

 異なる視点を通した印象から、BBの性格に更に肉付けを行う。この手の思考作業を怠らない点が、彼の他者への理解が人並み外れている理由の一つであった。

 

 

『ハッキングが止みましたね。それからBBから正式な回線で通信が入っています』

 

「案外早かったな。よし、話を聞いてやるか。繋げ」

 

『はーっ、はーっ、よ、ようやく話を聞く気になったようですね、愚かな人類の――』

 

「よし、話を聞いてやってるのにこの態度。話を聞く価値もないな! アル、回線遮断で!」

 

『わ、わーっ、分かりました分かりました! 私も色々と考えて造った台本とかゴミ箱にブン投げて、お話しますからぁ!』

 

「初めからそうすりゃいいんだよ、そうすりゃあ」

 

 

 どうでもいい前置きは、どれこそどうでもいいから、さっさと本題に入れ、と言わんばかりの強硬姿勢。

 例え、表向きであろうとも、少しでも此方を翻弄しようとするような態度は、虎太郎のお気に召さなかったらしい。

 

 加えて言えば、会話の主導権を握るためでもあるのだろう。

 この手の愉快犯、この手のお調子者は、どのようなものであれ、反応を見せれば見せるほど付け上る。この塩対応が正しい対応なのだ。

 

 

『んん! では気を取り直して。皆さんが慌てふためいている噂の海洋油田ですが――――』

 

『あ、発見しました。西暦2030年、マリアナ海溝にて発見。特異点化もしているようで、現在深度200メートル地点。現在進行形で沈んでいます』

 

『ンン゛ッ!? もう嫌ぁ! このAI優秀過ぎぃ! 私の存在意義が無くなってしまうのでは?!』

 

「ない、ないよ、そんなもの。此処(カルデア)で貴様に人権は存在しない。此処での人権の有無は、どれだけ有能か、どれだけオレの言う事を聞くかで決まる」

 

「改めて聞いてみるとヒデェ! 完全に独裁国家ですよねぇ!?」

 

「そうだよ? 何を今更。但し、人権を認められた者は、優遇されるからトントンやろ」

 

 

 先程から出鼻を挫かれっぱなしのBBは、既に涙目。

 どうして上手くいかないの、と言わんばかり。アルフレッドの有能さと虎太郎の非道っぷりを甘くみた結果である。

 

 

『と、兎に角! この異常事態にはカルデアも動かざるを得ないはず――――そうですよねぇ、弐曲輪 虎太郎センパイ?』

 

「誰だそれ、人違いじゃないですか?」

 

『えぇ?! う、嘘ぉ?! ちゃ、ちゃんと調べた。BBちゃん、ちゃんと調べましたよぉ!?』

 

「はん。そんな程度の調査能力しかないのか、お前は。ますます無能っぷりを露呈させちゃってますねぇ(ニッコリ」

 

((嘘は言っていない。でも、嘘ではないだけなんだよなぁ……))

 

 

 カルデアについて、虎太郎についての情報を手にしている。

 そう示唆する態度で邪悪な笑みを浮かべたが、虎太郎のしれっとした嘘ではない嘘で、ころっと慌てふためいてしまう。

 

 弐曲輪 虎太郎は、元々、ふうま何某という名前であった。

 虎太郎自身、そんなことは既に己自身とは断絶した過去、ふうま 弾正の息子であったという忘れ去りたい過去であると同時に、非常にどうでもいい過去と断じていて元の名は捨て去ったが、BBを言葉だけでボコにして調子に乗らせない為だけに引っ張り出してきたのである。

 

 実際のところ、虎太郎はBBの能力を脅威と判断していた。上手く使えば、大きな助けになるとも。

 だが、相手にするのがしんどい、面倒臭いというだけで、この扱いである。

 彼の中では、有能さ<人格、の図式が成り立っている。能力はいくらでも補えるが、自分が楽をできる人格だけはどうにもできないからだ。理由から何から酷すぎる。

 

 

「いえ、それよりも――――BBさんは何故、先輩のことをセンパイと呼ぶのでしょうか!?」

 

『えぇー? 喰いつくのはそこなんですかぁ? ……でも、この際だから答えちゃいましょう!』

 

「嬢ちゃんェ……気持ちは分からねぇーでもないですけどぉ……」

 

(マシュよ、それは悪手だ。BBを調子付かせる圧倒的悪手……! でも許す。マシュには死活問題だからね! 存在意義に直結した問題だからね! オレの可愛い可愛い後輩だからね!)

 

 

 異議あり! とばかりにBBを指差しながら質問するマシュ。

 実際の所は、質問などではない。一後輩キャラとして、不埒な第二の後輩は認めませんという牽制である。

 

 が、BBは新しい玩具を見つけた表情でニンマリと笑っていた。

 

 

『私が虎太郎さんをセンパイと呼ぶのは――――ずばり、サービスです!!』

 

「さ、サービス……!」

 

「何がサービスだよ。サービスってのは相手が嬉しがらなきゃ何の意味もない迷惑なんだよなぁ。服買ってる時に話しかけてくるショップ定員並みに迷惑(ボソッ」

 

『はい。私のモチベーション維持のため、苦肉の策と思って下さい』

 

「苦肉の策とか、失笑ものだな。結局、自分のことしか考えてねぇのな(ボソッ」

 

『わたしの先輩はこの宇宙でただ一人。キラキラ光る星の王子さま、みたいな』

 

「それって、手が届かないってことだよな? 話したこともないってことだよな?(ボソッ」

 

『……でも、私はそんな人とは出会えなかった』

 

「出会ってすらいなかった、たまげたなぁ(ボソッ」

 

『ボスとして君臨した後、色々と後悔したり自重した私は、私の運命をそのように修正したのです』

 

「自分で自分が、先輩とやらにクソ以下の傍迷惑な存在と分かってるなら、オレのことセンパイとか呼ぶの止めてくれねぇかな。オレにはそれ以下に迷惑な存在なんですけど(ボソッ」

 

『ですので、虎太郎さんはあくまで先輩の代理』

 

「そんな大切な筈の先輩に代理を立てやがった。一途? 何処が一途なの?(ボソッ」

 

『私の先輩の代わりに、今回の事変で翻弄される、グレートデビル、ラスボス系後輩として私のオモチャⅡ号としてセンパイ呼びしちゃいます♡』

 

「はい、本音が出ました。星の王子様とか言った先輩をオモチャ扱い。本音でないにせよ、クソクソ&クソみたいな後輩ですわ(ボソッ」

 

「大将! その相手に聞こえるギリギリの音量でボソボソと相手の心へし折れるようなこと言うのやめたげてよぉ! 聞こえてるこっちが居たたまれねぇ!!」

 

『緑茶さん、ナイスフォロー! BBちゃん、もうそろそろ限界でした!』

 

「そんなんじゃ、実のところ、先輩とやらにまともに相手にもされなかったんではないですかぁ!?(名推理」

 

『――――ごぱぁっ!!』

 

「大将ぉぉぉおおぉおぉぉおぉぉ――――!!!」

 

「おらよ、ボソボソ言うの止めたぞ。悪口はなぁ、相手に聞こえるように言わねぇと意味ねぇんだよぉ!」

 

 

 もう既に顔面蒼白涙目膝ガクガクと三拍子揃っていたBBの心に、渾身の名推理を叩き込んでKOを奪う虎太郎。

 モニターの向こうでは、BBが血反吐を吐いて画面外へと沈んでいった。

 残念ながら、当然の末路である。相手に弱り所があると見れば、情け容赦なく突くのがこの男なのだから。

 

 BBも問題だったが、マシュも問題だった。

 虎太郎の口撃など聞いていなかったのか、マシュは自分こそは先輩の後輩という存在意義を奪われ、項垂れていた。

 ひたすら従順エロ可愛い後輩と、ひたすらグレートデビルで空回り可愛い後輩とでは、そもそも存在意義が違ってくるのに気付いていないらしい。

 そして、虎太郎の性格を考えれば、天地がひっくり返っても後者を優先することなど在り得ない。哀れ、BB。君はキャラ付け(最初の一歩)を間違えた。

 

 

「オレ、コイツのこと嫌いだわ。鬱陶しいし」

 

『セ、センパイったらひどーい! でもでもぉ、BBちゃんは、その程度でヘコたれないのであった!』

 

 

 あからさまな強がりを口にするBB。

 立ち上がった彼女の膝は笑い、表情に刻まれた笑顔は邪悪さが何処かに消え去り、引き攣りっぱなしであった。

 どうやら、虎太郎にはやられっぱなしだが、マシュが項垂れ、その場に頽れたのを見た愉悦で、何とか気力を取り戻したらしい。

 

 

「せ、先輩が、私の先輩が……うぅ」

 

「いやー、後輩はこういうもんだわー。可愛げが大切だわー。おう、ただのラスボス、もう通信切っていいか?」

 

『ら、ラスボス系後輩って言ってるでしょう!?』

 

 

 泣き出しそうなマシュの頭を撫で、相変わらずBBの扱いが悪い。

 怒りの余り、手にしていた差し棒を圧し折りそうな勢いであったが、ふぅと大きく息を吐いて自分自身を落ち着かせる。

 

 

『――――まあ、どちらにせよ。貴方がたは望む望まざるに拘わらず、特異点を修復せざるを得ません』

 

「まあな、その通りだ」

 

 

 彼女が見せた無表情は、AIとしてのものだったのか、血も涙もなければ感情すら窺い知れないほどに無機質なものだった。

 

 その無機質さは余りにも悍ましい。不気味の谷と呼ばれる現象そのものだ。

 人間は、人間ではない対象が人に近づくほどに、強い生理的な嫌悪感を抱く。

 ある一定のラインを超えれば人と同じものとして扱われる為に、嫌悪感をグラフ化すると谷状となるため、そう呼ばれる。

 

 だが、虎太郎は気にした様子はない。

 そんなありきたりの嫌悪感を抱く人間性など、この男には残っていない。

 

 

「それで、アル、未来へのレイシフトは可能か?」

 

『不可能です。レイシフトの未来への使用は、元々想定されておりません』

 

『おーっとぉ、やはりそうでしたか。所詮は2017年の技術ですねー。でもそこは天の助け、悪魔の罠! チート行為ならBBちゃんにお任せです!』

 

 

 そう、カルデアにおけるレイシフトは、過去への介入は出来ても、未来への介入は不可能だ。

 どういうわけか、マリスビリーは理論上は可能なそれを、意図的に止めている節があったのだ。

 

 その上、人理再編の最中でもある。

 ゲーティアによる人理を根底から揺るがす大偉業から数ヶ月と立っていない現状、人理はまだまだ不安定なのだ。

 2017年から先の未来を、カルデアは保証できていない。

 

 もっとも、虎太郎はそれだけで納得していなかった。

 それは疑問があったから。ゲーティアが2016年から遡って人理焼却を行った理由がまだ解明されていない。

 ならば、下手をすれば――――ゲーティアが人理焼却を実行するまでもなく、2017年より先の未来が無くなっている可能性すらあるのだ。

 逃げた四体の魔神柱によるものばかりではなく、人理はまだまだ危険に晒されているかもしれない。

 

 ともあれ、BBの手助けがありがたいのは事実。

 未来への介入は存在証明が途絶える。存在証明が途絶えれば、レイシフトした人間は途端に意味消失を引き起こし、存在ごと消え失せる。

 それをBBは、運命保護と呼ばれる手法で何とかするというのだ。特異点を修復するには彼女の助けが必要不可欠である。

 

 

「よし、先行してオレとマシュ、ロビンでレイシフトを行う。アルフレッド、最適なメンバーを後追いで送ってくれ」

 

『了解しました』

 

(おいおい、いいのか、大将。あの女、誰がどう見ても何か企んでるぜ?)

 

(完全に同意します。先輩のデミ・サーヴァントとして断固反対したいですが、セラフィックスの危機も事実ですし)

 

(そこらへんは分かってる、オレもアルフレッドもな。アルフレッドも油断しない。不意を討たれたとしても、最悪だけは避けるだろうさ)

 

(なら、尚の事、大将とマシュの嬢ちゃんだけでも残るべきだろ。オレなら替えが利く)

 

(馬鹿言え。お前の替えが利くなら、オレの替えだって利く。こうやって、危ない橋は一緒に渡らないとな。ほら、点数稼ぎとして)

 

 

 虎太郎の気軽な、だが決して曲げられることのない意見に、マシュも、ロビンも困りながらも笑みを浮かべる。

 点数稼ぎとバラしはしたが、事実としてそのつもりなのだろうが、だが彼の点数稼ぎは必ず自身の行動が伴う。

 その不器用と言えばいいのか。信頼を得られぬ人格と理解していた上での、危険が伴う行動を選択する姿を、彼等は心配でありながらも嫌いになりきれない。いや、無論、治せるものなら治して欲しいことに変わりはないが。

 

 マシュは全身の魔力回路を起動させ、デミ・サーヴァントとしての武装と鎧を編む。

 ロビンは腕に取り付けられた獲物のズレを調整し、得意の罠と毒物を確認する。

 

 そして、虎太郎は手元のPADを使って武器庫の中に入っている装備を確認をする振りをして、アルフレッドに指令(オーダー)を出した。

 送ったのは単純明快。レイシフトの順序だ。自分、ロビン、マシュの順でレイシフトを行うように、と。

 

 万が一、BBが何がしかの妨害手段を用いた場合への備えだ。

 単純な戦闘力は兎も角として、不測の事態への対応力は数多くの能力を即座に使用できる自分が最も高い。その後に、性格上の問題としてロビン、マシュの順となる。

 危ない橋は一緒に渡ると言っておいて、合理的な判断から結局の所、自分が一番最初に危ない橋を渡る羽目になる男。これが彼のズルいところだろう。

 

 

『ではではでは、ずずずぃぃ~~~~っと、レイ――――』

 

『レイシフト、実行します』

 

『ちょっとぉ?! アルフレッドさんまで敵ですか?!』

 

『あ、いえ、そのようなつもりではないので、ご安心ください』

 

 

 BBの発言を遮って、アルフレッドはさっさとレイシフトを開始してしまう。

 アルフレッドの発言に偽りなどない。これ以上虎太郎と会話をして、わざわざ心に瑕を作ることはないという配慮であるが、心が弱ったBBには気遣いとは映らなかったようだ。

 

 アルフレッドの操作の元、レイシフトが開始される。

 まずは虎太郎から順を追って、身体そのものが疑似霊子へと変換されていくが――――

 

 

『―――ぷっ。あは、あはは、あははははははははは! ちょっろ~~~い! ちょろすぎです、センパイ!』

 

 

 ――――案の定、BBからの妨害工作(ジャミング)が始まった。

 

 

「おいおい、こいつぁ……!」

 

「これは……先輩っ!」

 

『そう簡単にレイシフト出来ると思いましたかぁ?』

 

「いや、特に思ってませんけど?」

 

 

 ロビンとマシュは兎も角、虎太郎は頭の中に直接送られてくるBBの映像を前にしても、全くと言って良いほど動揺など見られない。

 

 BBは人間特有の強がりと判断しかけたが、彼女に与えられた観測能力が、虎太郎の言葉全てを事実と語っていた。

 この時点で、BBは精神的に敗北したも同然だ。何せ、彼女は人間が動揺して右往左往する姿を見たいがために、回りくどい手段を取っていたのだから。

 

 

『そうですか。ですが、帰り道はありません。勝ち目のない、ただ殺されるだけの戦場にようこそ』

 

『ここにあるのは不協と断絶。堕ちゆく先は至高の快楽、甘く蕩ける生存競争――――さあ。最古にして最新の、愉しい聖杯戦争を始めましょうか、人類最後のマスターさん?』

 

 

 身体が完全に消失する直前、BBの無機質な声を、虎太郎は鼻で笑った。

 その無機質さは、BBの悲鳴にも似た必死さの現れだ、と。

 

 どれだけキャラ付けを怠らずとも、根は真面目で一途。ロビンの印象は実に的を射たものだと見抜いていた。

 これだけ必死にレイシフトさせようとしたのは、間違いなく、BBからの助けを求める声だったのだろう。

 

 

(まあ、だからと言って優しくしてやる理由はない。オレ、ああいう面倒な女は嫌いだからな)

 

 

 一抹の不安は、最後の最後までレイシフトルームにフォウが姿すら現さなかったことか。

 

 フォウは好奇心旺盛だ。国連と時計塔からの使節団が来た時は完全に姿を消していたが、それは人が多く集う場所に近寄りたくないからであり、人間それ自体に興味がないわけではない。

 極めて難儀な体質と生来の好奇心の強さに折り合いを付ける為に、何かがあれば必ずレイシフトルームに顔を出す。だが、今回はそれすらない。

 

 その事実が、セラフィックスで起きている事態の深刻さと――悍ましさを物語っていると言っても過言ではないのだから。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

『ようこそ、外来の皆さん。ここは霊子虚構世界・SERIAL PHANTASM。略称、SE.RA.PH(セラフ)と呼ばれる電脳空間を模した、新生快楽浄土です。では、ルールを説明します』

 

 

 それは外来案内であると同時に、ルール説明にして死刑宣告でもあった。

 

 世界崩壊を食い止めるため、SE.RA.PHに集められた128人の魔術師(マスター)勇者(サーヴァント)

 にも拘らず、それでは面白みに欠けるから、となどという理由で、最後の一人になるまで殺し合えと宣う。

 目的と過程が全く一致していない狂ったルール。その上、SE.RA.PHには出口がない。何にせよ、何もしないという選択肢だけは存在しない。

 

 

『戦うにしろ、殺し合うにしろ――――貴方達は、自らの生を優先するしかないのです』

 

 

 レイシフトにBBが介入した影響によって、白に染まった視界が正常に戻っていく。

 

 完全に回復した虎太郎を待ち構えていたのは、海だった。単純に海中という話ではない。

 

 海の中に建造された何かの中だ。まるでガラス細工の壁と通路。

 何よりも奇異だったのは、足場だ。ガラス細工の更に下には、白く輝く女体があった。

 

 可憐にして妖艶。清楚にして淫靡。

 相反する女の要素を詰め込んだ、余りにも巨大な女の身体が、深海に向けて沈下していっている。

 これには虎太郎も眉根を寄せた。もっとも驚きはなかったが。

 

 セラフィックスは単なる海洋油田基地に過ぎない。そのような形をしているわけもない。

 この事件の元凶によって、セラフィックスによって変貌を遂げた結果なのだろうが、それにして何故、この形である必要性があるのか。

 

 さて、どうしたものか。

 一時、疑問を棚上げし、今後の行動方針を決めようとした矢先、虎太郎の視界が突然ノイズに乗っ取られる。 

 そして、其処(視覚)には、カルデアで見たBBのハッキングを示す紋章と文字で埋め尽くされる。

 

 

『BB――――、チャンネル――――!!』

 

 

 軽快なリズムの音楽と共に、何らかの番組が始まった。

 そして、映し出されるスタジオと満面の笑みで迎えるBB。

 どうやら、カルデアでアルフレッドに邪魔されたのが相当に悔しかったらしい。もう既にやりきった表情である。

 

 

『ふっふっふっふ! 落ちてきましたね、ウェルカムですセンパイ! ようこそ、二度と戻れない18禁(エロス)の罠に!』

 

 

 ――――ぐちゅぅ。

 

 

『さて、あの時間神殿すら踏破し――――え? ぐちゅ? 何の音です?』

 

「おお、スゲェ! これ眼球とか視神経を乗っ取ってるんじゃなくて視覚野を乗っ取ってるのか。こりゃ流石にどうにもできんわ」

 

『ん? んん? アレ、おかしいですね、はは。センパイのお顔がホラー映画も真っ青な状況に。お手々にはグロテスクな物体が掴まれているような? ……夢かな?』

 

「AIが夢とか見んのか? いや、いま眼球引きずり出したし。ほら、いる?」

 

 

 どうやら、BB側からも虎太郎の状況は知れるらしく、引き攣った笑みを浮かべている。

 

 虎太郎の顔はBBの表現通りの惨状である。

 ホラー映画も真っ青な、黒い眼窩と溢れる血涙。何よりも恐ろしいのは、当の本人が気軽に笑っている辺りか。

 両手には、今し方抉り出したばかりの眼球が握られ、そのままBBに渡したいのか両手を前に出して差し出された。

 

 

『18禁は18禁でも、ホラーでもグロでもなく、エロスだっつってるでしょぉぉぉぉ――――!!』

 

「いや、お前の茶番に付き合うのが嫌で、つい」

 

『そんなコンタクトレンズ感覚で取り外しするものじゃないんですけどぉ!! え、これどうするの? どうすればいいの? ゲーム開始前にもう終了状態なんですけど!?』

 

「問題ないない。オレは元々コンタクトレンズ感覚で眼球抉り出したり、移植したりするタイプだから。それにほら、視覚がなくても生きていけるって、生まれついての全盲の方々が証明してるから」

 

『それにしたって、これはないでしょう?! そんなに嫌でしたかぁ!?』

 

「とても嫌です。出来れば、状況を簡潔かつ明瞭に済ませてくんね? 時間の無駄やで?」

 

 

 完全にキチ●イな虎太郎の行動に飲まれたBBは、已むなく状況を掻い摘んで説明する。

 

 この領域は間違いなくセラフィックス。

 但し、全てが電脳化――――疑似霊子で再構成された、光で出来た領域になっている。

 この中での知性活動は、情報生命体であろうが、有機生命体であろうが、同じ尺度とタイムスケールで相互理解できる。つまり、経験だろうが何だろうが無駄にはならない。

 だが、肝心要のセラフィックスの電脳化については、何一つ触れなかった。

 

 

「で、何で形が女の身体になってるんだ? ただの電脳化ならこうはならんだろ?」

 

『その件はスルーしてください。わたしだって恥ずかしいんですから。システムを乗っ取ってしまった以上、油田基地と意識が同化するのは必然だった訳で。電脳化する際に、どんな形に再フォーマットするかは言わなくても分かるでしょう?』

 

(ほぅ、思った以上に人間大好きだなコイツ。BBがセラフィックスを電脳化したわけではないわけね)

 

 

 BBの口調や言動からも分かるように、彼女はこのセラフィックスの形状をよく思っていないらしい。

 その上、意識が同化するのは必然であるのならば、真実、BBが洗脳化に踏み切ったのであれば、辻褄が合わない。

 

 ――何せ、この女体はBBのものとはまるで違うのだから。

 

 この辺りの判断は、女体に触れてきた経験がものを言っている。

 

 ともあれ、随分とお優しい。僅かな会話の中で、これほどのヒントをくれている。猜疑心の強い虎太郎には十分過ぎるヒントだ。

 それほどにBB自身が切羽詰まっているのか、それとも今の立ち位置を愉しみこそすれ、納得してはいないのか。

 

 

『ですので、センパイは地を這う無様な蟻さんのように働いて、原因究明と勝ち残りに勤しんでください。ああ、でも――――貴方たち人間に与えられる猶予なんて、そう多くはありませんけどね』

 

「ほう? それはどういう意味だ」

 

『此処が海溝に沈み切った時、皆さんは消滅します。それは私にも変えられないルールです。それまでに勝利条件を満たして生還しなさい。愚かな人類にできるものなら、ね』

 

「……………………あ、話、終わりました? じゃあ、行っていい?」

 

『ぐ、ぐぬぬっ! この後輩を後輩と思わないその態度! ………………ま、まあ、愚かな蟻さんみたいですし? 仕方がありません、お目々の方は温情で治してあげますので、しっかりと噛み締めて下さいね』

 

「え? 別に無理しなくていいよ。それよりロビンとマシュは……?」

 

『ひ、人の温情すら踏み躙って……! 残念ながら、お二人ともこちらには来ていませーん!』

 

(アルフレッドが巧くやったかな? あの様子じゃ、死んでないだろ二人とも)

 

 

 そこでプツンとチャンネルが切れ、視覚が元に戻る。

 虎太郎が手を見れば、指で掴んでいた眼球は消えていた。

 局部的な時間遡行か、単純な治癒か、あるいは眼球を霊子化して元の形に戻したのか。何にせよ、凄まじい力であるには違いない。

 

 そんな中、いくつかの疑問を思い浮かべた。

 まず、これだけ強大な力を持つBBを以てすら、変えられないルールがあること。

 この理由が、SE.RA.PHの基本ルール故に書き換えられないのか、あるいはBBすら上回る上位存在が居るのか。

 

 

(それにしても、貴方ではなく貴方たち、愚かな人類とまで称していた。それに何より、この鼻につく匂い――――)

 

 

 虎太郎は顔を顰める。

 明らかにビーストの匂いだ。ゲーティア、ティアマトの匂いとも違う。欲望を煮詰めたかのような饐えた臭い。

 

 BBが虎太郎個人ではなく人類全体の終了を指し示した事実は、間違いなくこの一件にビーストが関わっている何よりの証明だろう。

 

 

(――――しかしまあ、)

 

 

 それでも虎太郎に恐れや困惑は見られない。寧ろ、気軽ですらある。

 様々な覚悟はあるが、人類の命運を背負うつもりのない、この男らしい軽やかさである。

 

 

「え? マジ? オレ一人? 嘘やろ?(鼻ホジー」

 

 

 全く困っていない反応を見せながら、困ったような台詞を吐く。

 取り敢えず、差し当たっての行動方針は決定したも同然だからだろうか。

 

 まずは、戦力の確保。

 これまでの特異点と同様に、現地に召喚されたサーヴァントの中でまともな連中の手を借りる事。

 どれほど狂った状況下であったとしても、必ず理性を保つ英雄は確実に存在する。もっとも理性を手放してしまうのもまた英雄であるが。

 能力はどうでもいい。話が通じ、協力的な相手が望ましい。なおかつ、この特異点の秘密に肉薄するような知識や記憶のある相手であれば満点だ。

 

 サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけ。

 虎太郎はこの法則から逸脱した人間ではあるのだが、それも数々の準備を整え、相手の能力を把握した上での話でしかない。

 

 と、その時――

 

 

「へぇっ! マスターが一人きりなんて、私の時代来てる? 来ちゃってる系?」

 

 

 ――何とも奇妙な格好のサーヴァントが現れた。

 薄紅色の長髪。頭頂には狐耳。何故か、セーラー服のように改造された巫女服。脇には鞄を抱え、手にはさぞや名のあるであろう銘刀を握っている辺り、セイバーのサーヴァントだろう。

 

 傍目から見ればJKに見えないこともないような気がして、見えていない。

 お前は何時の時代の英雄だ、と叫び出したくなるが無問題。そんなサーヴァントはゴールデンもいる。

 

 栄えあるSE.RA.PHの第一村人、もとい第一サーヴァントであったのだが――

 

 

(面倒臭そうな奴。無視無視、存在そのものを認知しないに限る)

 

 

 ――虎太郎、意外でも何でもなくコレをスルー。

 

 見るからに話が通じなさそうで、性格も面倒であることは間違いない。

 例え、どれだけ強かろうが、どれだけ重要な情報を握っていようが、こんなサーヴァントを虎太郎が相手にするわけもなく。

 

 それはもう、お手本にしたくなるようなガン無視全開で、刀を構えたセイバーの横を通り過ぎる。

 

 これには、流石のセイバーもポカンとした。

 恐らく、自分の存在が無視される経験など初めてだったのだろう。全く反応できていなかった。

 

 

「ちょ、無視すんなし! ってぇ、煙玉ぁ!? 目ぇ痛ぁ!?」

 

 

 一瞬の空白を付いた虎太郎は、特性唐辛子混じりのスモークグレネードをその場に残し、全力で逃走した。

 この塩対応、この余りの仕打ちに、セイバーの悲鳴と怒りの怒号がSE.RA.PH全体に轟いたが、虎太郎は気にした様子すらない、鼻歌混じりだったそうな。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「さて、辿り着いたはいいが、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 

 SE.RA.PHを一通り渡り歩いた虎太郎であったが、有用な味方は得られなかった。

 

 無論、サーヴァントに出会いはした。

 だが、サーヴァント達は皆一様に狂乱し、自己の快楽(よくぼう)のみを追い求めるかのような有り様。

 生前の後悔、悔恨、未練、憎悪、嚇怒、在り方――様々な欲望の形を追い求めていたのである。

 

 共通点は一つ。ただの一人も、マスターを連れていなかった点だ。

 

 マスター不在が狂乱の原因であるのかは分からないが、話し合える状態のものはいない、と判断した虎太郎は、早々に探索を切り上げた。

 

 とてもではないがサーヴァントなどと逐一戦っていられない上に、SE.RA.PHには見たことのない化け物がうろついていたからだ。

 恐らくは攻性プログラムか、防衛プログラムの類なのだろうが、尽きるかも分からないものと戦っても無意味。

 

 よって、虎太郎が行ったのはセーフハウスの確保。

 安全に休息を取れ、なおかつ考えを纏められる場所は必須と言えよう。

 

 その上、このSE.RA.PHでは活動できる時間があるらしい。

 どうにも疲労の進み具合が早く、肌がザラザラと砂になっていくような感覚があったのだ。

 自己の性能や限界の把握に努めてきた虎太郎は、自分なりの結論を付けた。

 

 これはSE.RA.PHに来た影響。恐らくは、オレ自身が電脳(データ)化してしまう兆候だ、と。

 

 其処で、辿り着いたのが教会だった。

 虎太郎が持ってきたセラフィックスの地図にも確かにある建物。情報ではセラピストが滞在し、此処で海洋という特殊な環境下で働く職員のメンタルケアを行っていたようである。

 

 此処を選んだのは、遠目から見て電脳化されていなかったからだ。

 如何なる理由かまでは虎太郎には分からず、罠の可能性も十分にあったが、行く価値はあると踏んでの行動だった。

 

 教会までの道は、ランサーと思しきサーヴァントが居たが、辛抱強く待った虎太郎に運が向いてきた。

 たまたま別のサーヴァントが近くを通りがかり、ランサーは戦闘を開始。そのまま何処かへと去っていった。暫らくの間、時間の猶予はあるだろう。

 

 余り時間を無駄にする訳にはいかなかったが、急いては事を仕損じる。

 どの道、滅びる時は人類だろうが、世界だろうが滅び去ると気軽な面持ちで教会の扉を開けた。

 

 軋む扉を開けた先には、薄暗い神の家。

 構造的に何の変哲もない。二階に生活用の部屋がいくつかあるようだが、誰かが居る気配はない。

 

 しかし、一体、此処で何があったのか。

 神の家は、悪魔にでも襲われたかのように荒れ果てていた。

 

 天井や壁の装飾は剥がされ、規定に整列していなければならない筈の長椅子は砕かれ、規則性など見受けられない。

 サーヴァントに荒らされたにしては、些か以上に破壊が少ない。明らかに人の手によるものだ。

 

 

(暴動かな? まあ、この閉鎖空間なら起こり得ることだが、はてさて――――)

 

 

 その可能性は、セラフィックスが閉鎖空間になった時点で考えていた。

 救援の可能性はあろうとも、自らの命が危険に晒されれば、個人の本質が現れ、周囲に流され始める。

 SE.RA.PH化が何時始まったにせよ、聖杯戦争なんてものが何時開始されたにせよ、それ以前から人々が狂乱に耽る土壌はセラフィックスには初めから整っていた。

 

 その最たるものが、一般職員と特権職員。

 一般職員は文字通り、一般社会の中から一般的に募集がかけられ、面接を経て採用された職員。

 特権職員はアニムスフィア家が選定した魔術師であり、何らかの研究を行っていたようだ。

 

 この二つには、やはり差別意識があったのだろう。

 差別は不満を生むものだ。巧く解消してやらねば爆発する。まして、異常事態に曝されれば導火線に火が付いたようなもの。

 

 

(さて、此処で行われてた研究も相当にキナ臭い。マシュの兄弟でも作り出していたんじゃあるまいな――――おぉっと、先客が居たか)

 

 

 ふん、と鼻を鳴らして、魔術師の危機感の薄さと倫理観の欠如を嘲笑う。虎太郎にとっては対魔忍の方がまだマシなようだ。

 

 ――そして、教会の中心には、糸の切れた人形(眠る少女)が打ち捨てられていた。

 

 まだ虎太郎の与り知らぬ所ではあるが、これもまた運命(Fate)であったのか。或いは虎太郎のタイミングの良さによるものか。

 

 

 彼女の名はメルトリリス。

 虎太郎の望む条件全てを整えた、サーヴァント(アルターエゴ)である。

 





という訳で、アルフレッド大勝利&BBちゃん度々涙目になる&御館様平常運転の回でした。

筆の乗りがいいぞぉ、これ~。
御館様は、今回もド外道戦法と無茶振りと無理を押し通して、スピード攻略します!
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