「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」 作:HK416
エロ尼、スキル特盛とはたまげたなぁ。
しかも、スキル構成的に完全にクリアタッカーでアンデルセンと相性が良いとか。
流石、ムーンセルさん。結婚相談所の異名は伊達ではないな……!
でも、カルデアの職員はどんな顔して、あの攻撃を見てんだろうなぁ。ゲーティアもビックリするで、あんなん。
ほい、というわけで、CCC編第二話。
中々思った通りに進まんなぁ。こりゃ結構な長さになってしまうかも?
荒れ果てた教会を進む。
虎太郎は視線を壁にもたれて眠る少女に、それ以外の感覚は視野の外に向ける。
少女が誰であれ、何であれ。敵であろうが、味方であろうが関係はない。
死体か負傷者を使った罠。機能停止、負傷を装った罠など、誰でも考えつくもの。猜疑心の塊である虎太郎が警戒もなく近づく訳もない。
だが、全ては杞憂だった。
元よりこの教会に棄てられたのか。それとも棄てられた後に、自力で此処まで這ってきたのか。
ともあれ、この少女は本当に、もういらないものとして、棄てられてしまったようだ。
奇怪だったのは、その両脚。
魔剣と呼ぶに相応しい
具足の類ではない。膝と脛の中間で金属と皮膚が、完全に融合している。後から取り付けられたのではない、初めからそういう形でこの世に生まれ落ちたのだ。
(真っ当なサーヴァント……じゃないな。BBに似すぎている。疑似サーヴァントやデミ・サーヴァントでもなさそうだ)
眠る少女の顔を覗き込んでみれば、その顔は幼さこそ残るものの、BBのそれだ。
そして、これまで出会ってきた、どのサーヴァントととも違う。
虎太郎自身、自分の感覚が霊基を感じ取っているのか、単なる洞察からなる直感なのかは分からないが、確信にも近い感覚がある。
疑似サーヴァントは皮を被ったような印象、デミ・サーヴァントは内側が変化したような印象を受けるのに対して、彼女の印象は
本来、合わさる筈のないものを無理矢理繋げた結果、上手く形を為したかのよう。霊基をイジったとしても、ここまでの違和感は醸し出せまい。
その時、少女が再起動を果たす。
まるで糸の切れた人形のようなぎこちなさ。錆びついた関節を動かす機械のようだ。
表情を歪めながら、必死にもがく少女は、そこでようやく虎太郎の存在に気付いたのか、ぎょっと目を見開いた。
「貴方―――は、誰、ですか―――」
「あー、まあ、カルデアのマスターだが」
ノイズ混じりの声。
霊基がかなり損傷しているのか、長時間機能を停止していたのか。
どちらにせよ、今、彼女が起動していること自体が奇跡的であることは疑いようがない。
「カル、デア――と、にかく――――、ここは、危険、ですから――――」
「成程、ちょうどいい。こっちはサーヴァントが居なくて困ってる。そっちはマスターが居なくて困ってる。なら、やることは一つだな」
必死になって退去を進める彼女の言葉を取り敢えず無視し、右手の甲に刻まれた令呪を見せつける。
少女は一瞬、何か信じられないものを見るような目で、虎太郎の顔を見たが、すぐに頭を振った。
「お、お、断り、します。私には、契約する、理由が、ありません」
「そうか。なら――――――令呪起動。対象に魔力リソースとして譲渡、霊基を修復せよ」
徐々にノイズがなくなり、滑舌も良くなっていく少女の色のない返事に、虎太郎は仕方ないとばかりに令呪を起動させ、霊基を修復する。
本来、魔術師どころか魔術回路すら持たない虎太郎には、契約をしていないサーヴァントにこのような真似は出来ない。
そもそも、カルデアで模倣された令呪は魔力リソースとしてしか機能しない。
冬木の聖杯戦争で使用された令呪のように、絶対命令権はない。多くの魔術師が挑んでも
アルフレッドは、それを持ち前の演算能力を元に解析し、改造した。
冬木における令呪と同等にまで引き上げ、更に魔術師ではない虎太郎が扱えるようにいくつかの機能を付与した。
その一つが
虎太郎の意思によって起動し、それが可能な範囲であれば最適な
これがなければ、魔術回路を持たない虎太郎は令呪の使用すら出来ないのである。
見る見る内に修復されていく霊基に、信じられないという表情で少女は虎太郎を見る。
どうやら、少女は令呪というものを理解しているらしく、ならばSE.RA.PHで起きている聖杯戦争について何か知ってもいるだろう。
「ど、どうして――――な、何を」
「どうしての方なら、情報が欲しいから。何をの方は、何も床に座っていることもないだろ。椅子があるんだから」
虎太郎は少女を抱え上げ、長椅子にまで移動する。
まるで絵本の中の姫と王子のようなワンシーン。
だが、少女は姫と呼ぶには余りにも怪物で、虎太郎は王子などとは呼べないもっと悍ましい何かだ。
虎太郎は、初めから契約については諦めていた、と言っても過言ではない。
少女が目を覚ました瞬間から、表情に現れていた感情を読み取っていたからだ。
――それは、紛れもない人に対する恐怖。
彼女の境遇や過去は不明ではあるが、人に恐怖している。なんら不思議ではない。人が怪物を恐れるのなら、怪物とて人を恐れるだろう。
恐怖が前提にある以上、余程のことがない限り、契約など結べよう筈もない。
無理強いをしたところで、それは初めから歪んでおり、いつ崩壊してもおかしくない。
そんな契約関係であれば、初めから結ばずに、情報提供だけを望んでおいた方がいい。
「オレは弐曲輪 虎太郎。この事態を終息させるためにカルデアから来た似非マスターだ。そっちは?」
「……………………私は、私は『快楽』のアルターエゴ。メルトリリス、です」
「よろしく…………ん? …………よろしくなっ!」
「…………――――は、はいっ」
椅子に座らせられて、ポカンとした表情で虎太郎を見上げていた少女―――メルトリリスであったが、やがて、自らの名前を口にする。
虎太郎は友好の証である握手のために手を差し出したが、メルトリリスは戸惑うばかりで反応が鈍い。
そんなメルトリリスに業を煮やした虎太郎は、無理やり手を取って強引に握手をする。
ぶんぶんと腕を上下に動かす虎太郎に、メルトリリスはまたも茫然としたが、やがて笑みを浮かべて応えた。
恐怖を中和させる手段の一つが、強引であることだ。
相手が予想だにしなかった行為に困惑している内に、矢継ぎ早かつ強引に自分が
相手は考える暇もなく、行為に多少なりとも友好や感謝を感じてしまえば、恐怖を取り払える。尤もそれはあくまでも対症療法であり、根本療法ではないのだが。
「それで、可能であれば色々と教えてくれると助かるんだが」
「…………分かり、ました。私の分かる範囲で、よろしければ」
望んではいなかったとは言え、恩は恩。
メルトリリスはそのように考えたのか、意を決した表情で頷いて見せる。
まずはメルトリリス自身――――アルターエゴについて。
そも、アルターエゴとはBBの感情から造り出された存在であり、ありがちな模造品ではなく、BBとは異なる生命体である。
彼女達はそれぞれが魂を持っている。月の聖杯――ムーンセルにおいては、魂の作成はそう困難なことではないとのこと。
それだけではなく、彼女達の肉体は複数の英雄を融合させた英雄複合体であり、更には神話の女神までをも取り込んでいる。
どうやら、メルトリリスは創造主であるBBに逆らい、初期化され、SE.RA.PHを彷徨い、この教会に辿り着いた。
異なる生命体であれば、方針も、命題も、好みも異なる。意見に相違が生まれれば、離反の末に戦い、どちらか一方が敗北するものだ。
更に、このSE.RA.PHの時間は現実時間の100倍。
セラフィックスがマリアナ海溝の底に到達するのは二時間半ほどではあるが、此処では10日間に相当する。
虎太郎は、メルトリリスの生まれた経緯と辿った経歴、その他諸々のSE.RA.PHに関する情報は手にしたが、肝心要のセラフィックスのSE.RA.PH化についての情報は得られなかった。
これは地道な情報収集が必要か、と嘆息しながらも落胆はない。
その、地道な情報収集が己の仕事には最も重要と理解していたし、それが虎太郎の得意分野でもある。
「そうか、助かった。じゃあ、オレはそろそろ行くとするよ。情報提供感謝する。お前は好きにしてくれ」
「ま、待って下さい! 行くって、何処に……?!」
「何処も何もSE.RA.PHの探索だ。まだ情報が足りない。ほら、そういうのは脚で稼げっていうだろ?」
「危険すぎます! 外の惨状をご覧にならなかったのですか!」
「軽く見てはきたがね。虎の咢に飛び込んだのは承知の上だ。今更、危険だなんて理由で時間を無駄にしたくはない。さっさと終わらせたいんだ、こんな馬鹿馬鹿しいこと」
じゃあ達者で、と手を振って、虎太郎は教会の扉へと向かっていく。
メルトリリスの言葉の意味は十全に理解している。
BBの用意したであろう攻性・防衛プログラム。狂乱し、会話もままならない戦い続けるサーヴァント達。
如何に対魔忍、如何に虎太郎と言えども、分も悪ければ、相手も悪い。
幸いにも逃走に関しては一流を超えるが、それも何時まで成功することか。
だが、それが何だと言うのか。
絶望も無茶も無謀も超えてきた。今更、危険程度の理由で仕事を投げ出す理由になりはしない。
「――ま、待って! それなら、私も行きます! 私と契約してください!」
「はぁ……? なんでぇ……?」
「だ、だって……だって、貴方は、私を、助けてくれた、から……」
「いや、お前は情報提供という見返りをくれただろう。それでその話は終わってるよ」
虎太郎は、メルトリリスの提案を当然とばかりに拒絶した。
彼にしてみれば、令呪は次の日には補填される程度の代物に過ぎない。
その程度の代物で得られた情報は、今この状況においては莫大な価値があった。
これ以上、メルトリリスに負担をかけることはない。ただでさえ天秤が自分の側に傾いているというのに、これ以上を受け取れば対等ではなくなってしまう。
頭を下げるのも頭を下げられるのも御免被る。色々と面倒臭いから。
そんな理由で虎太郎は、メルトリリスの提案を蹴ったのだ。どう考えても面倒臭いのは彼の性格である。
加えて言えば、メルトリリスが敵ではない保証は、何処にもない。敢えて初期化させて、油断を誘う方法とてあるだろう。
しかし、メルトリリスも引き下がらない。彼女にとって虎太郎は間違いなく恩人だった。
初期化され、これまで培ってきたもの全てを失くし、この打ち棄てられた教会で、ただ壊れるだけだった自分を拾い上げてくれた。
人間は怖い。人間は恐ろしい。
彼女は自身が怪物であると十全に理解しており、自身を怪物だと嘲笑う人間が恐ろしくて堪らない。
だと言うのに、どうだ。この男は、そんな考えを浮かばせる間もなく、酷くあっさりと、さも当然と言わんばかりに――――自分の手を取ってくれた。
生まれながらに神経障害を持ち、触覚というものが殆ど存在しない指先を握られた瞬間に、暖かな何かが心に生じた。
生じた何かの名を彼女は知らない。ただ、それに命じられるままに動く。
「うぅ…………~~~~~~~~ッッ、私が、そうしたいからですッ!!」
「……ああ、そう。まあ、それなら仕方ないな」
理由などない。理屈もない。ただ、そうしたいからそうする。
メルトリリスは、余りにも必要とされていない事実に半泣きになりながら、感情のままに絶叫していた。
教会全体に響き渡る声に、虎太郎は目を丸くし、そこでようやくメルトリリスの提案を受け入れる。
戦力が欲しかったのは事実。理由や理屈がないのであれば、説得は意味を為さない。
このまま拒否し続けても、メルトリリスは初期化され、著しく性能が低下した状態でついてくるだろう。
ならば、仮であっても契約し、令呪による援護、念話による意思疎通、自身の指示の元に行動させた方が、まだ互いに生き延びられる可能性がある。
敵である可能性はまだまだあったが、少なくとも虎太郎の目には、自身を騙そうとする作為は感じ取れない。
万が一、敵であったとしても、令呪の縛りがあれば、どうとでもなるだろう。
メルトリリスは心を満たせ、虎太郎も戦力と安全弁を手に入れられる。両者、得しかない。
「えー、っとぉ、確かぁ、……告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。令呪の寄る辺に従い、この意、この理に従うのなら、我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう」
「はい。メルトリリスの名に懸け、誓います。弐曲輪 虎太郎を我が主と認めます。このジゼルの魔剣は貴方の為に。私を見つけてくれた貴方の為に、最後まで踊りましょう」
こうして、メルトリリスは虎太郎のサーヴァントとなった。
如何なる運命、如何なる作為によるものであれ、彼女の笑顔だけは間違いなく、彼女の心から生じたものだった。
―――――
――――
―――
――
―
「驚きました。マスターも、戦えるのですね」
「ああ、戦えるだけだがなぁ。勝てる相手も居るだろうが、基本的に準備を整えないと消し飛ぶ」
「危険な行為は、止めて貰いたいです……」
「そうは言っても、アレが一番速くて確実なんだもんよ」
教会のある女体の太腿部から、上へ上へと昇っていく最中、虎太郎とメルトリリスは三騎のサーヴァントと交戦、これに勝利した。
取った戦法は至ってシンプル。虎太郎がサーヴァントを引き付け、メルトリリスが背後から一撃の元にサーヴァントを屠るというもの。
これを可能としたのが、アルターエゴにのみ許されたイデスと呼ばれる特殊能力。メルトリリスの場合は『メルトウイルス』というスキルである。
エナジードレインの最上級であり、彼女の体内で生成されるウイルスを
虎太郎は虎太郎で、サーヴァントの気を引き付ける綱渡りであった。
単純な近接戦を挑めば、溶鉱炉の前のハーゲンダッツの如き有り様になるのは目に見えている。
よって、忍びらしい幻惑――爆弾、閃光弾、煙幕弾を用いて敵の視界や聴覚を奪い、正面にのみ敵の意識を集中させた。尤も、使ったのは最新鋭の武器武装であるが。
メルトリリスは心配しているが、虎太郎は全く聞く耳を持たない。
現状、これが最も勝率が高く、なおかつ戦闘を速やかに終わらせる方法なので、虎太郎が変える筈もない。
さて、二人が教会から探索の為にSE.RA.PHを歩き回っているのだが、当てがない訳ではない。
このSE.RA.PHは教会と同様に、セラフィックスの重要施設は電脳化をしておらずに残っている。
中でもセラフィックスの生存者が生き残っている可能性が極めて高く、そうでなくとも何らかの情報を得られる可能性の高い管制室へと向かっていた。
「――――この音は……」
「……戦闘音のようですね」
だが、管制室に向かう途中で、虎太郎とメルトリリスの脚が止まった。
このSE.RA.PHにおいて、彼等以外の戦闘はサーヴァントによるものと見て間違いない。
メルトリリスは瞳を不安げに揺らし、虎太郎は好機と見て瞳を輝かせた。
現状、サーヴァントとの戦闘は必須。
それはメルトリリスが初期化されたことにより、性能が著しく低下してしまったことに関係している。
これを元のレベルとまでは行かずとも、近い形に戻さなければ、探索もままならない。
『メルトウイルス』を用いて、サーヴァントを経験値として吸収し、成長させる必要性があったのだ。
「まあ、そう不安そうな顔をするなよ。冷や汗一つでも掻いたら負けだぞ」
「……でも、不安なんです。初期化された私は、かつての私には遠く及ばない……マスターを、守り切れるかどうかも……」
「サーヴァントはマスターに出来んことをやる。マスターはサーヴァントに出来んことをやる。どちらも不可能であれば、協力して是に当たる。つまり、今まで通りということだ。やることは何も変わらんさ」
「……ふふ、マスターとしてなんて。自分で似非なんて言っていたくせに」
「いやぁ、事実だからなぁ。魔力供給もできん出来損ないのマスターに当たった不運を嘆いてくれ」
「いえ! そんなことはありません! 私にとって貴方は――――」
己の至らなさに悲観していたメルトリリスであったが、虎太郎の客観的な事実を耳にした途端、驚くほどの声量で否定する。
はしたなさに恥じらったのか、それとも後に続く台詞が余りにも恥ずかしいものだったのか、メルトリリスは熱せられた鉄のように顔を真っ赤に染めていく。
もじもじと煮え切らない態度で、視線を地面に向けては、虎太郎に向け、また地面に向ける。それを何度となく繰り返す。
「ほら、照れるなよ。行くぞ、プリマドンナ」
「て、照れてません! ま、待って、一人は危ないからぁ……!」
そんなメルトリリスの背中を叩き、虎太郎は先に進む。
先に進んでしまう背中をメルトリリスは慌てて追いかける。彼と契約してから、ずっとこんな調子だ。
虎太郎の考えや行動に振り回されて、必死になって背中を追う。不愉快でありながらも、酷く心地良い感覚に、彼女は泣きそうになりながらも微笑んだ。
こんなことは何時までも続かない。己の性能を鑑みれば、何時かは誰かに敗れ去る。その事実が酷い重しとなって襲い掛かってくる。
それでも、追いかける脚を止めはしない。もう、決めていたからだ。
――例え、どんな最期を迎えるとしても、何の見返りもなかったとしても、私はこの身が砕けるまで、踊り続けましょう、と。
はい、というわけで、メルトリリス再起動&御館様相変わらずの捨て身の効率主義&メルトリリス素直可愛い、でした。
御館様、タイミングの良さと漢気で順調に好感度を稼ぐ。
こう、心の弱ってる相手の隙間に入り込むのを得意としてる感よ。そうでもしなけりゃ、誰もこんなんに惚れないしね! 仕方ないね!