※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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CCC編、無事に隠しキャラまでとっちめて心臓ゲット。
さぁて、あとはサクラメント回収が待ってるお。でも、素材もそんなになぁ。寧ろ、輝石系のが並んでくれないものか。最近のイベントはピース、モニュメントばっかなんだよなぁ。

そして、竹箒日記で裏設定が開示。
あかん。これあかんやつや、と思いつつも何とか設定を組み直しました。さて、どうなることやら。

では、次のお話です。どぞー。


『救出対象とか排除対象がアレだと、元々ないやる気をもっと失くすのが苦労人』

 

 

 

 

 

 

「――――――――」

 

 

 その戦いは、初期化されたメルトリリスにとって、異次元の戦いだった。

 

 戦闘の音色を頼りに向かってみれば、二騎のサーヴァントが相争っていた。

 

 クラスはセイバーとアーチャー。

 共に鎧を纏った騎士達。手にした獲物は互いのクラスに相応しいものではあったが、アーチャーの獲物はメルトリリスの理解を超えていた。

 何せ、アーチャーは確かに弓を手にしているが、矢筒も持っていなければ、戦闘中に一度も矢を番えていない。そもそもアーチャーの手にした弓は、矢を番えられる造りになっていない。

 

 彼の弓には弦が何本も張られている。あれではとても矢など番えられなければ、射れもしまい。

 だが、弓の弦を竪琴のように爪弾く度、見えざる刃がセイバーに襲い掛かっている。

 

 アーチャーはとびきりの変わり種であったが、セイバーは逆に正統派。

 

 握る剣は紛れもない聖剣。見えないはずの刃を僅かな風切り音で捉え、躱し、剣閃にて破断する。

 実直で堅実な剣技。奇を衒うことのない剛剣は、そのままセイバーの実力を現している。

 

 どちらも、それぞれのクラスにおいて最上級に部類される英霊であろう。

 とてもではないが、今のメルトリリスでは太刀打ちできない。

 

 無論、虎太郎でも同じこと。

 不意討ちでの囮役は十分に可能だろうが、メルトリリスが彼等を倒し切るよりも、虎太郎が死ぬ方が早いだろう。

 横合いから思い切り殴りつけるにせよ、この戦いで残った一騎を息をつかせる間もなく強襲するにせよ。勝てる可能性は低い。

 

 

「はぁあぁぁあ――――ッ! 天まで届け、ラグネルへの愛!」

 

「下がってください。アレは、きけ――――」

 

「おーい、ガッウェー! ガッウェー! オレだー! ド外道だー!」

 

 

 物陰から戦いの様子を窺っていた二人。

 これは手に負えないと判断したメルトリリスは、戦いを仕掛けること自体が危険すぎる、と一旦退こうとした。

 だが、虎太郎はセイバーの一言を聞いた途端、静止の途中で物陰から躍り出た。

 

 アーチャーは突然現れた人間の存在に、珍しく閉じられた瞼を開いたが、意識を向けたのは一瞬ですらない時間であった。

 彼がどのような存在であれ、セイバーの実力は一瞬の油断すら許されない。更なる一撃を見舞おうと弦に指をかける。

 

 

「おお、虎太郎! 貴方の救援に来ました。まあ、海の中なので大して役には立たないのですが! そこは帰りを待つラグネルへの愛でカバーします!」

 

「良かった。いつも通りのガッウェだった」

 

 

 だが、もう自分など眼中にないとばかりに背中を向けたセイバー――ガウェインに思い切り肩透かしを喰らってしまう。

 

 つい今し方まで殺し合っていたと言うのに、この切り替えの早さである。

 下手な相手では、気にすることもなく背中から一撃を見舞うようではあったが、ガウェイン自身、戦っている相手がそのような真似はしないと知っていたからこそ無防備な背中を晒したのだ。

 

 アーチャーの真名は円卓の騎士・トリスタン。

 エルサレムで耐えられない悲しみからギフトを手にし、本来の性格から全てが反転してしまった。

 もっとも、今、この場に召喚された彼は、その時の記憶など持っていないようではあるが。

 ともあれ、ガウェインにとっては元同僚。性格は把握していた当然だ。

 

 しかし、何故、そんな二人が戦っていたのか。それは偏にガウェインが悪い。

 

 二人が死後、再会を果たしたのはつい三十分ほど前だ。

 カルデアからのレイシフトにて送り込まれたガウェイン。SE.RA.PHの聖杯戦争にて召喚されたトリスタン。

 互いの事情も分からぬまま、まずは再会に喜んでしまい、立ち話を始めてしまったのが間違いだった。

 

 ガウェインと来たら、人を探している、救援に来たと軽く説明したものの、口を開けばラグネルのことばかり。

 これにはトリスタンも唖然とした。少なくとも彼の知っているガウェインは、常に騎士足らんと粉骨砕身し、愛妻家としての一面を円卓の前で晒したことなどなかったのだ。

 間の悪いことにトリスタンは、SE.RA.PHに召喚されてから、既に正気を失ったサーヴァントと戦い、勝利していた。

 

 トリスタンが、この狂った聖杯戦争にガウェインが取り込まれてしまったと勘違いするのも無理はない。

 

 

『……私は、悲しい……ガウェイン卿ほどの騎士が錯乱するなど……せめて私の手で処断しましょう』

 

『ほう、懐かしの円卓ジョークですね! まあ、この程度の小競り合いは円卓においては日常茶飯事! 結構、お相手しましょう!』

 

 

 ガウェインと来たら、勘違いを正すことなくガラティーンを抜いて、嬉々として応戦する始末だったそうな。

 

 

(で、そっちの現状は……?)

 

(はい、手短かつ簡潔にお伝えします)

 

 

 視線を合わせただけで、他者には察せぬように念話を開始する。この辺りの意思疎通は、流石に付き合いの長さが物を言う。

 

 まず、マシュとロビンについて。

 BBの罠を察知したコフィンを緊急停止させたものの、虎太郎は既にレイシフト後。

 マシュは問題なくカルデアに残ったものの、ロビンは意識不明――それも霊基(からだ)だけが残された状態で、精神面では空っぽの状態なのだとか。

 最悪のタイミングでコフィンを停止させてしまったのか。それとも、この特異点――SE.RA.PHが特殊な環境下故かは不明だ。

 

 ただ、アルフレッドもやられてばかりではない。

 虎太郎のレイシフトから得られた情報から、BBの語った『運命保護』とやらを解析。こうしてガウェインを送り込むことに成功したようだ。

 

 

(ただ一点。BBの妨害以前に、この特異点――SE.RA.PHへのレイシフトは非常に難しいようです。まるで、このSE.RA.PH自体がレイシフトを拒んでいるかのようだ、と)

 

(…………成程。それで、この後の救援は?)

 

(後、一騎か二騎が限度だと。SE.RA.PHの状況はシバの精度を限界まで上げ、アルフレッドが解像度を上げて監視を行っています。ですが、今のところ通信は不可能です)

 

(それだけ来れば、御の字だ。アイツのことだ、終わりまでには通信も出来るように間に合わせるさ)

 

 

 虎太郎はポンと救援に来たガウェインの肩を叩く。ガウェインはそれに応えるように恭しく一礼してみせた。

 

 

(…………契約したの、私だけじゃなかったんだ。むー)

 

「……これはどういった状況なのでしょう……私は、悲しい(ポロロン」

 

 

 二人の様子にメルトリリスは頬を膨らませ、トリスタンは弓を爪弾いて自分の感情を表現する。

 

 メルトリリスは兎も角として、トリスタンの方はガウェインの無防備っぷりに完全に毒気を抜かれてしまったようだ。

 何より聖杯戦争に呼ばれながらマスターの存在しない異常事態は、トリスタンとしても解明しておきたい謎である。此処は素直に事情を聴いておいた方が得策と判断した。

 

 

「オレはカルデアからこの異常事態を解決するために来た弐曲輪 虎太郎だ。事情を聞かせろ」

 

「…………分かりました。此方としても、この事態解決の一助となるのは吝かではありません」

 

 

 意外なほどあっさりと矛ならぬ弓を収めたトリスタンは、自分自身の状況を語り、またカルデアの事情に耳を傾ける。

 

 しかし、この情報交換は、互いにとって新たな情報を得るには至らなかった。

 トリスタンもあくまでも巻き込まれた側。狂乱するサーヴァント達を見るに耐えかね、首謀者であるBBを捕らえようとしていただけで、有用な情報は持ち合わせていない。

 彼もまた、虎太郎と同じくSE.RA.PHの事実を探る側なのだ。

 

 

「オレ達の目的は同じはずだ。共闘を申し出たい――――が、その前に、殺気を収めちゃ貰えないのは、どういう理由だ?」

 

「共闘の申し出は有難く。……ですが、だからこそ私は悲しい。アルターエゴがいる以上、私はその毒婦を処断せねばなりません」

 

「……むー」

 

「断る。アルターエゴがなんであれ、契約した以上はマスターとして肩を持つ義務がある。お前も、メルトリリスの有用性を理解できるはずだが?」

 

「それは彼女が裏切りを起こさないという前提があってこそ。アルターエゴなど信ずるに値しません」

 

「……ムスー」

 

「信じる信じないの問題じゃない。事情は説明した。メルトリリスはBBから切り捨てられた以上、裏切りの可能性は低い。お前が折れろトリスタン、オレは方針を曲げん」

 

「その信念にも似た頑なさ、感服に値します。私も見習いたいものです。しかし、貴方がたが何を言おうと私はアルターエゴを許しません」

 

「……うー」

 

「あの……メルトリリスさん……オレ達、お前のお陰で言い争っているわけですが……」

 

「…………つーん」

 

「……私は、悲しい……この蚊帳の外っぷりは一体……」

 

 

 アルターエゴの処遇を巡り、虎太郎とトリスタンが意見を交わす中、メルトリリスはそっぽを向いて私は不機嫌です、と全力で主張していた。

 どうやら、カルデアのマスターとして多くのサーヴァントと契約を交わしている事実は、メルトリリスの臍を曲げるには十分過ぎる威力があるようだった。

 

 仕方なしに虎太郎が、メルトリリスの両頬をそっと掴み、自分の方に顔を向けても視線だけを逸らして抵抗を見せる。

 ただ、手を振り払わない辺りが可愛らしい。自分の力は人間よりも遥かに強いと理解しているので、怪我をしかねない抵抗だけはしない。

 

 

「おい、そんなに拗ねるなよ。物量作戦が出来ないから、お前の戦力は貴重なんだよ」

 

「別に? 拗ねてませんけど? まあ? マスターが多くの? サーヴァントを従えているなんて? 想像もしていませんでしたけど?」

 

「いや、それはだな。オレが言葉足らずだったのは悪かったが、そこまで……」

 

「それに? そこのアーチャーが言うように? アルターエゴとの契約なんて? 切ればいかがですか? セイバーもいますし? マスターの目的も果たせるでしょうし?(プルプル」

 

「ちょっとー! 男子(トリスタン)ー! メルトリリスが涙目になっちゃったじゃないのよー! 謝んなさいよー!!(必死」

 

「……私は、悲しい……どう考えても、私は関係ありません(ポロロン」

 

 

 清々しいまでの責任転換であった。

 メルトリリスはトリスタンの言葉など気にしていない。純正の英霊にしてみれば、自分など悍ましい怪物にしか映らないと自覚しているからだ。

 問題があったのは虎太郎の方だ。緊急事態だからと説明を怠った彼が悪い。

 もっとも虎太郎にしてみても、メルトリリスが此処まで慕ってくるなど考えていなかった――――いや、敢えて考えようとしなかった。やっぱり彼が悪い。

 

 

「……兎も角、私はアルターエゴを処断せねば――――」

 

「うるせぇ、このトリ野郎! こっちが必死になってんの分からんのか、テメーはよぉ! そんなんだから王は人の心が分からないとか暴言吐くんだよ! オメーが一番人の心を分かってねぇ!!」

 

「全くです! 元カノばかりに現を抜かして、今嫁を疎かにするなど言語道断! 今嫁の気持ちを考えてたことがあるのですか、貴方は!」

 

「――――ごっぽぉッ?!」

 

 

 もういい加減、トリスタンに黙って貰わねば収集が付かない虎太郎、トリスタンの生前の所業に嫁LOVE勢筆頭として一言物申さねばと思っていたガウェインは、ここぞとばかりにトリスタンの心を抉り抜く。

 

 

 トリスタンのこころに 1000のダメージ。

 

 おお、トリスタン! しんでしまうとは なにごとだ!

 

 

 何事もクソもない。トリスタンが心底後悔している自己の不徳だからである。

 ごぷ、と口から血を吐いたトリスタンはその場に倒れ込む。とてもではないが精神的なダメージが大き過ぎて立っていられなかった。

 哀しみの子、嘆きのトリスタン、という異名からも分かるように、トリスタンのメンタルは円卓内では下から数えた方が早いのだ。

 

 ガウェインはメルトリリスを宥める虎太郎に視線を向けながらも、倒れたトリスタンに片膝をついて語りかける。

 

 

「トリスタン、今のは間違いなく私の本心ですが――」

 

「ガ、ガウェイン卿、追い打ちは、止めて頂きたく……」

 

「聞きなさい。我が友、虎太郎は、どうしようもない男ですが、ギャラハッドのように人を見る目は確かです。その上、人でも怪物でも分け隔てない。良い意味でも、悪い意味でもです」

 

「…………アルターエゴであろうと関係がないと?」

 

「そのようですね。邪悪であろうとも神聖であろうとも、彼には関係がありません。話が通じ、求めた性能を発揮するのならそれで良しとします」

 

「それで裏切られでもしたら……?」

 

「裏切られても問題のないように対策を立てます。彼は1%でも障害(てき)になる可能性があるのなら、それは障害(てき)だと言い切る偏執狂ですので。もっとも、大抵は観察眼のお陰で無駄に終わりますが」

 

「………………」

 

 

 ガウェインが手を差し出すと、トリスタンは暫らく悩む素振りは見せたものの、最終的には手を取った。虎太郎の方針に従い、一時的に協力関係を構築するということだ。

 太陽の騎士は微笑むと持ち前の高密度の筋肉で哀しみの子を立ち上がらせる。何のかんの言ったところで、曲者揃いの円卓であっても仲がよろしい。

 

 

「ですが、勘違いなきように。私は事情はどうあれ、アルターエゴを許しません」

 

「結構。油断のならない協力関係も気が引き締まるというものです。虎太郎も、今は良しとするでしょう」

 

「――――しかし、ガウェイン卿、一体何があったのです。その、生前とは、随分と性格が……」

 

「ええ、ラグネルと死後も再会しまして! 嫁とイチャコラぶっこいていたら、脳みそが蕩けてしまいました!」

 

「………………私は、羨ましい。いや、本当に、羨ましい」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

「――――いやぁ、サーヴァント40騎とBBスロットと月の方のロビンは強敵だったな!」

 

「ええ、全く。ですが、虎太郎は相変わらず遊びがない。BBは涙目になっていましたが」

 

「知らんわ。いけ好けないゲームマスターの思惑通りに進んでやる理由はオレにはない」

 

 

 トリスタンの協力を取り付け、どうにかこうにかメルトリリスの機嫌を良くしてから様々な出来事があった。が、毎度、お馴染み虎太郎の外道戦法で事なきを得た。

 

 サーヴァント40騎は虎太郎がSE.RA.PH内を走り回り、敵マスターを見つけて釣られたサーヴァントを三騎で袋叩き。

 

 BBが設けた新ルール。誰であれ“敗北する危険”を振りまく『テリブルBBスロットル』。

 サーヴァント同士による戦闘が開始されると、その場にスロットルが出現し、出た目によってサーヴァントに有利、不利な条件が付与させるというもの。

 

 だが、虎太郎がそんなものに付き合う筈もなく――――

 

 

『成程。だが、これが最適解だ! やれぃ、メルトリリス!』

 

『――――はい、マスター!』

 

『え? あの? ちょぉ!? 少しはまともにやる気はないんですかぁーーーー!?』

 

『(お前を喜ばせるだけなんで)ないです』

 

『おい、BB、コイツ頭おかしいんじゃないですかねぇ?! やだぁ、こんなんと戦いたくねぇぇえぇぇぇ!!!』

 

 

 メルトリリスのウイルスによって、出目が悪い時はスロットルを熔かし無効化。出目が良い時はそのままという暴挙に出た。

 ルールの設定自体が悪かったのだろう。メルトリリスのウイルスを以てしても基本ルールまでは熔かせない。そしてBB自身が言ったように、BBに基本ルールを改定するだけの権限(ちから)はない。

 よって、虎太郎はこれを単なる特殊なギミック、プログラムの一部と推測。スロットルそれ自体を熔かして無効化は不可能ではなかったようだ。

 

 その後、BBがムーンセルから無理やりに引っ張ってきたロビンフッドを三人でボコにする。

 最後に貌のない王を用いたマスター狙いの特攻で逆転を狙ったが、虎太郎がギリギリのところで回避したことにより敗北。最後の最後で弓ではなくナイフによる攻撃を選択したのがマズかった。

 

 探索の最中、手がかりも発見していた。SE.RA.PHに残ったセラフィックス職員のメモリーだ。

 SE.RA.PHは全てが疑似霊子で再構築された『光』で出来た領域。空間に記憶が焼き付くように、特定個人の記憶が残される場合も少なからず存在する。

 

 そのメモリーによれば、セラフィックスの異常は4ヵ月前から発生していたようだ。

 ゲーティアを打ち倒し、人理再編を成し遂げたのは1ヵ月前にも拘わらず、だ。

 この辺りの時間の齟齬と知性活動の一足早い再開は、人理が不安定な状態で、更に別の要因が絡んできた為と思われる。

 

 ともあれ、セラフィックスは外界から遮断され、職員達は徐々に道徳と倫理を喪失していった。

 内部では生き残りと日々の不安を解消するために、職員全員の意思で治安維持を目的とした組織を立ち上げた。が、これがそもそもの間違いだった。

 民主主義が正しく機能するには、関わる者全てが賢くなければならない。恐怖と不安に取り憑かれた職員の前に、組織はあっと言う間に不安を鎮めるための暴力機構と化すのは当然の帰結。

 事態を解決できない者は殺され、失敗を犯した者は殺され、人種が違う者が殺され――――次第に、粛清の理由は、日常においては誰であれ犯す可能性のある些細な理由になっていった。

 

 

(アウトー。可能性は分かっちゃいたが、もうここにオレが助けてやらにゃならん人間は一人もいないね。死ぬがよい)

 

 

 ただでさえ下らないと思っている仕事が、更に下らないものとなった事実に、虎太郎のやる気も更に消失していた。

 

 最早、ナマケモノかという有り様である。

 今現在、虎太郎はトリスタンの申し出により、女体の胸部(ブラストバレー)――――セラフィックスの中央管制室に向かっていたのだが、自分の脚で歩いてすらいない。

 片脚をガウェインに掴まれ、ずるずると引き摺られている。ナマケモノですらなかった。これではただの生ける屍だ。

 

 

「あの、そろそろ、例のアルターエゴが徘徊する区域(エリア)に着くので、自分の脚で歩いては……」

 

「無理。もう先生やる気なくなった」

 

「ははは。トリスタイン、一々気にしては負けです。危険だと分かれば自分一人だけでも逃げる男ですのでお気になさらず。ははは」

 

「「……………………」」

 

 

 虎太郎の有り様とガウェインの微笑みと共に放たれた一言に、トリスタンとメルトリリスは微妙な面持ちをせざるを得ない。

 

 その時、全員が通路の先から向かってくる足音を捉らえていた。

 ガウェインとトリスタンが武器を構え、メルトリリスはどう言葉を発していいか分からないという表情で虎太郎を眺める中、通路の角から女性が現れた。

 肩で息をし、セラフィックス職員の制服を着た女性。明らかに生存者だ。

 

 

「え、ええ?! こっちには悪徳サーヴァント!? た、たたた、助けて、助けて! 私は何も持ってませーん!!」

 

「生存者ですね。我々はカルデアから派遣されたサーヴァント、貴女がたの救援に参りました」

 

「やった! やったわ! 救援が来てくれるなんて! 私はマーブル・マッキントッシュ、28歳! マニピュレーターの扱いならセラフィックス一の職員です!」

 

「これはご丁寧に。お会いできてよかった、マダム。私はガウェイン、此方は虎太郎です。詳しいお話をお聞かせ願えますか?」

 

「マ、マダムじゃないです、レディですぅー! 私の何処が既婚者に見えるんですかぁー! あ、でも笑顔が素敵! ガウェインさん、と仰るんですか? あのご職業は? 年齢は? 年収は? 妻帯していらっしゃいませんよね?」

 

「いえ、嫁一筋の馬鹿夫ですとも!!!」

 

「……あ、はい。そうですか」

 

(………………コイツ、こんな性格だったかしら?)

 

(流石、ガウェイン卿。マダ――レディの扱いにおいても一流。失言はありましたが)

 

 

 マーブルは歳不相応の落ち着きのなさで捲し立てるが、ガウェインの輝く笑顔と共に放たれた一言に、冷静にならざるを得なかった。

 しかし、メルトリリスの姿を目にすると、再び落ち着きをなくし、取り乱し始めた。

 

 

「あわわわわ! こっちにもアアア、アルターエゴォ――――!?」

 

「…………こっちにも、か(シュコー」

 

「うそぉ、こっちにもアルターエゴがいるぅ! やだ、殺される、私やっぱり殺されるのねー!?」

 

「……なんか、ドッスンドッスン言ってるな?(シュコー」

 

「どうして!? どうしてカルデアの人間がエゴといるの!? 敵同士じゃない、人間とエゴって!」

 

「推定重量1トンくらいか? 乗用車と同じぐらいだな、これ(シュコー」

 

「ガウェイン様、早くやっつけて! カルデアのサーヴァントって事は正義の味方ってことよね!?」

 

「そんな重量で身体支えられんのか? ていうか人型なの?(シュコー」

 

「早くそ――――貴方、いい加減に人の話聞きなさいよぅ!? ていうか、そのガスマスクは何ィ!?」

 

「いや、気にしないでくれるかな。単なる()()()アレルギーなんで。人間様(あんた)と同じ空気吸ってるだけでゲロ吐きそうになるだけだから。人間様(あんた)に話しかけられると蕁麻疹が出来るから。なるべくオレのことを視界に収めるのも止めて貰えると助かる(シュコー」

 

「どうして、そんな人が救援に来てるのよぉぉぉぉぉおぉ――――!!!」

 

 

 床に横になったまま、右肘を曲げて頭を支える休日にテレビを眺めるパパスタイルで、マーブルに話しかける虎太郎。もう、誰が見ても一目でやる気がないと分かるスタイルである。

 

 おまけに顔にはガスマスクまでつけている。優れた観察眼を持つ彼がマーブルの何を見抜いたのか定かではないが、やる気もなければ興味もない様子。

 ただ、関わり合いになるのも馬鹿らしいとばかりの態度。近寄られるのも嫌だ、と思っていることだけは確かだ。

 

 しかし、虎太郎が白け切った態度であろうとも、マーブルを追ってきた怪物(かのじょ)は待ってはくれない。

 マーブルの話では、新たに召喚された128騎のサーヴァントを纏めて潰したばかりだと言う。

 既にメルトリリスやトリスタンから怪物の持つ能力は聞いていたが、恐るべき事実である。

 

 流石に床に寝ているのでは対処の仕様がなかったので、立ち上がると怪物がマーブルが現れた通路の角から姿を躍り出させる。

 

 

「デカァァァァイ! 説明! 不要!」

 

 

 余りにも体格に不釣り合いな巨大な鉤爪そのものの両手。

 余りにも体格に不釣り合いに突出した巨大な山脈(むね)

 

 人間離れしているのはその程度のもの。あとは人間の少女のそれと大差はない。

 彼女こそ、BBから分かたれたもう一人のアルターエゴ――――パッションリップ。

 

 見た目が人間だからなのか、両目に施された拘束具が余りにも痛々しい。

 メルトリリスのように会話が成立せず、唸り声を上げて近づく者全てを捻り潰す。恐らくは、拘束具によって自我を奪われているのだろう。

 

 

「はい、大変素晴らしい。これは垂涎ものですね! メルトリリスには心強く生きて頂きたい!」

 

「このッ、蹴るわ、蹴るのよ、蹴ってやる! あぁ、腹立たしい!」

 

「おっ、何か性格違う。これは罠かな? オレは罠に掛けられたのかな?」

 

「違います! これが私本来の性格よ! 残念だったわね!」

 

「特に残念でもない。あとガッウェの発言はラグネルに伝える。お前が心強く生きろ」

 

「」

 

 

 そんな怪物を前にしても、虎太郎とガウェインは平常運転。

 メルトリリスは今までの素直で弱々しかった性格は何処へ行ったのか、刺々しい強気な口調で己の大平原な胸を馬鹿にしたガウェインを睨みつけていた。

 

 既にメルトリリスは40騎ものサーヴァントをメルトウイルスによって取り込んでいる。

 元の性能、元の性格を取り戻すには十分過ぎる経験とリソースだった。

 

 怒りで顔を赤くしたメルトリリスを諫めるために虎太郎が放った一言に、ガウェインは言葉を失って白目を剥いたが自業自得。

 虎太郎の、女を胸だけで判断するのは良くないことですヨー、という思いが詰まった一言であった。おっぱいも、ちっぱいも、それぞれに良い点と悪い点があるのだ、と言うように。

 

 

「よし、パッションリップとやらがどういう状況かは分かった! 総員、後ろに向かって全速全身(てったい)DA!!」

 

「こ、ここまで来て!?」

 

「オメーが勝てないって言ったんじゃねーか。逃げるぞ逃げるぞぉ。ついて来れない奴は捨てて構わないYO!」

 

「ちょ、あの娘相手に背中を向けるなんて――――煙幕っ!? そういうことは先に言いなさいよ、もぉぉぉぉおおぉッッ!!」

 

「ま、待ってぇぇぇぇ!! 置いていかないでぇぇぇぇぇ!!」

 

「……私は、悲しい……これがカルデアのマスターとは……」

 

「ははは。虎太郎は人類最悪のマスターの称号を戴いたマスターですからね。ははは」

 

 

 スタコラサッサだぜ、とばかりにスモークグレネードを既に投げていた虎太郎は、自分一人だけさっさと逃げてしまう。

 

 パッションリップの能力は、彼女の視点上において“手で包めてしまうもの”を圧縮する。

 遠近法を無視した物理干渉。二度と元には戻らない不可逆の圧縮技術(コーデック)。その問答無用さは、虎太郎の邪眼に似る。

 だが、視覚が関係する能力である以上、何であれ塞がれてしまえば、射程は激減してしまう。

 

 メルトリリスとトリスタンから能力を聞いていた虎太郎が、対処法も考えずに姿を現す筈もない。

 味方を辟易させるか戦慄させ、敵を目も覆いたくなるほど酷い目に合わせるのが、弐曲輪 虎太郎である。

 

 

 

 

 





はい、というわけで、トリ心をへし折られながらも仲間になる&メルトリリス拗ねる&御館様セラフィックスの惨状とマーブルを見て極端にやる気を失くす。

うーん、救出対象にあの態度はないんじゃないかなー(すっとぼけ

まあ、ここの御館様は油断慢心一切なく、その上他人を信じていないので、アンデルセン並の人間観察能力を発揮していますので、不思議じゃないね。
そして、BBに付き合う気が一切ない御館様。このやりたい放題加減ですよ。

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