「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」 作:HK416
うーん、CCCイベが長い。
素材を全回収したからなぁ。でもQPを稼ぐのにはいいイベントですなー。
イベ終了までに一億QPくらい稼げないかしら。QPが全然足らんのじゃ! 素材もだけどな!
そして、イベ終了後が怖い。
水着イベか、それともアガルタか、復刻か。
うーん、運営の悪魔っぷりに、拙者、武者震いがしてきたのう!(震え声
「ああいうことは、先に言っておいてくれないかしら! こっちは気が気じゃないのよ!」
「あんな程度の
「その内そっちのサーヴァント、心労で倒れるんじゃないかしら!?」
「生憎ですが、レディ。未だに倒れたものは居りませんよ。ええ、何のかんのとケアが行き届いているので」
パッションリップから無事逃走した虎太郎一行は、SE.RA.PH内の人間の活動限界を超えていたため、拠点である教会に戻っていた。
メルトリリスは虎太郎に振り回されて怒り心頭、トリスタンとマーブルは疲労困憊といった様子であったが、虎太郎は何処吹く風、ガウェインは慣れているので涼しい表情であった。
「――――…………」
教会の入り口まであと数十メートルの地点で虎太郎が足を止め、片手を上げる。
メルトリリスは突然の“止まれ”のハンドサインに困惑し、トリスタンもマーブルの肩を押さえて静止させる。
唯一、武器を手にしたのは付き合いの長かったガウェインだ。虎太郎の猜疑心、気配を察知する能力の高さには絶対の信頼を置いている。
「居るな。教会の中に一人居る。…………敵か味方か分からんが、サーヴァントか。面倒だな、宝具いっとくか?」
「1ガラティーンですか? それとも2ガラティーン?」
「いや、念には念を入れて3ガラティーンぐらい、いっといた方が良くないか?」
「何よ、その単位!? 大体、この教会は拠点なのよ! そこを吹き飛ばすなんて何を考えているわけぇ?!」
「「えー」」
「えー、じゃない!」
(…………メルトリリス、その二人をまともに相手にすると疲れますよ)
教会の中にいるのもどうせ碌でもない奴だ、と決めつけて、相手が気付くよりも早くガウェインの聖剣で焼き払おうとする虎太郎。
メルトリリスは目を剥きながら、必死の制止を試みる。教会はSE.RA.PH内でも数少ない電脳化されていない場所。
ただの人間である虎太郎がSE.RA.PH内を移動できる時間に制限がある以上、この教会は唯一と言ってもいい安全地帯。壊させるわけにはいかない。メルトリリスもマスターである虎太郎を守るために必死だ。
もっとも、虎太郎もその辺りは承知の上。
宝具を稼働させ始めて、相手がどのような動きを取るのか知りたかっただけ。
動かなければ索敵と察知に劣ったサーヴァント、動けばその逆。何らかの不自然な気配を感じれば敵、逆であれば味方でないにせよ話し合いの通じる相手、と言った具合だ。
「まあ、いいか。ガウェイン、お前が一番最初に入れ。メルトリリスとトリスタンはサポートを。まあ、攻撃はないとは思うけどな」
「――――失礼ですが、その根拠は?」
「リップのところに居た時、視線を感じた。ちょうど教会の方角からな。ここの屋根に上れば俯瞰できる位置だ。相当に目が良い。千里眼持ちか、アーチャーのクラスかな? そのまま此処で待ち構えているとは思わなかったが」
虎太郎の言葉にトリスタンは呆然として、ガウェインに視線を向けるが、彼は微笑むばかり。
あのパッションリップを前にして、周囲からの視線を感じ取るなぞ、どんな神経をしているのか。
数多の戦場、死線を潜り抜けたトリスタンだからこそ分かる。そこまでの警戒心を常に抱いては、とてもではないが
トリスタンの驚愕を知ってか知らずか、ガウェインに教会の扉を開けさせ、虎太郎は中に入った。
見れば、全員の視線には、背を向けて長椅子に座るサーヴァントの姿が映し出されている。
彼も待っていたのだろう。虎太郎達が教会の中に入ってくると立ち上がり、振り返った。
「ようやく来たか。随分と待たせるものだ、鈍間にも程がある」
「――――パ、パチモンじゃないのよぉ!!」
「……何の話だ?」
燃え尽きたかのような白い短髪、消し炭のような黒い肌。反応を見せたのはガウェインとメルトリリスだ。
メルトリリスは月で彼に出会っていた。もっとも、それは彼とは別の可能性ではあるが。
彼女の知る“彼”は赤い外套を纏い、双剣を握るアーチャー。
対し、目の前の男は顔立ちこそ同じであるが、黒い外套を纏い、その瞳も光を失って腐り落ちている。
「――――お前」
「その様子、オレを知っているのか? 此方に記憶はないが」
「何? 黒い、黒すぎない? 日サロでも通い詰めたのかな? 黒人の皮膚でも移植したのかな?」
「――――――」
「焦げた、焦げたの? コゲパンの亜種? 松●しげるよりも黒いじゃねーか。本当に日本人かお前?」
虎太郎も自分の記憶の中にあるエミヤとはかけ離れた姿に思わず漏らした率直な感想は、彼にビキビキと青筋を立たせるばかり。
そう、虎太郎は、英霊“エミヤ”を知っている。
聖剣の騎士王と暴君だった頃の英雄王がカルデアでやらかした後のこと。
宝具の関係上、アーラシュだけでは後方支援が成り立たないとして、召喚されたのが英霊“エミヤ”。
だが、これまた虎太郎の運が悪い事に、彼と因縁のあったランサーのクー・フーリンを同時に召喚。
騎士王と英雄王のように因縁のあった二人は売り言葉に買い言葉を重ね、武器を構えた時点で虎太郎の自害命令が炸裂したのであった。
その後は彼の代わりに呼ばれたロビンが活躍していたため、無理に喚ぶ理由はないとのことでスルーされ続けていた。
先にも言った通り、目の前の彼はエミヤとは別の可能性、エミヤ・オルタナティブと言ったところか。
「――――で、そっちの目的は?」
「ふん、分かっているだろうに。無論、共闘の申し出だ」
エミヤオルタは、どうやらトリスタンと同じ時期にSE.RA.PHに召喚されていたらしい。
だが、この異常な聖杯戦争になど参加するつもりは更々なく、この事態を一刻も早く終わらせる為に、SE.RA.PH内の探索を続けていたとの事。
そして先程、教会に立ち寄ってみれば、誰かが居た形跡を発見し、ブラストバレーの戦いを目撃。此処で待ち構えていたのだ。
「この事態を解決するにはお前達に肩入れするのが最短距離だと判断した。理由としてはそんなところだが、納得したか?」
「納得だ、分かり易くていい。それで、他に情報はないか?」
「――――二つほど」
「結構、教えてくれ」
虎太郎がエミヤを簡単に受け入れたことに、三騎のサーヴァントは眉根を顰める。
何せ、出会ってから一時も殺意と警戒を解いていない。少しでも隙を見せようものなら、皆殺しにでもされてしまいそうだ。
だが、虎太郎は気にした様子はない。情報を期待しているのか、それともそれ以外の理由があるのか。
ともあれ、エミヤが開示した情報は有益だった。
まず、BBから開示された情報。パッションリップは
これを打ち倒すには『心の鍵』と呼ばれるBB特製のアイテムが必要なのだとか。これには虎太郎の顔も曇りに曇る。
もう一つが、教会に隠されていた端末に、セラフィックス職員のレポートが保管されていること。
厳重にロックされており、サーヴァントやアルターエゴでは開封できない術式となっているが、開封できれば何らかの手がかりになると思われる。これには曇った虎太郎もニッコリであった。
「あー、はいはい。成程、この形式ね。なら、オレが開封できる。クラッキングだけど」
「意外ですね。そういったことはアルフレッドに任せきりだと思っていましたが」
「ま、念の為さ」
普段、電子情報戦や機械の制御をアルフレッドに任せきりだったのは、出来ないからではなく、アルフレッドの方が早く正確だからだ。
虎太郎はアルフレッドが居なくなった時のことを想定している。無論、アルフレッドが敵に回った場合も含めて。
無二の相棒でさえ死ぬことはある。無二の相棒であっても裏切ることはある。何も信じていない彼にしてみれば、当然の結論。その手の技術も学んでいる。
幸い、セラフィックスはカルデアの下部組織のようなもの。レポートの
それから五分。プロとは言い難いが、素人とも言えない微妙な時間を掛けて、虎太郎は何とかレポートを開封した。
レポートは最新技術が用いられており、見る人間の脳に直接データを送るのだという。
マーブル曰く、セラフィックスの主任クラスの権限でしか、使用することは出来ないらしい。
つまり、見れるのは虎太郎かマーブルのみ。言うまでもなく、レポートの内容を観覧したのは虎太郎である。
レポートの内容は、この教会の主、セラフィックスのセラピストの記録であった。
そこから読み取れたのは、SE.RA.PH内で発見した職員の物と同じように、異常が発生したのはやはり4ヵ月前。
その間、セラピストは不安に打ちひしがれる職員達を癒し、心を解きほぐしてきたようだが、今から2ヵ月前にセラフィックスの道徳は完全に崩壊したようだ。
これだけでは単なる日誌に近いものではあったが、手がかりになりそうな情報もあった。
まず異常が発生した当初、このセラピストは何らかの怪物に出会い、取り憑かれていると綴られていた。
断定こそできないが、『暗闇の中に光る無数の目』というワードは、魔神柱を連想させる。
そして、教会の外で行われた職員の暴動があった事実から、少なくとも異常発生から2ヶ月間は、セラフィックスのSE.RA.PH化は進行していなかったようだ。
何よりも重要なワードは『天体室』。
時系列的に、この封印されていたと思しき部屋の扉を開いたことにより、事態はより致命的な方向へと流れていった可能性がある。
「天体室はSE.RA.PHの中心にあるわ。セラフィックスを電脳化させている動力源よ」
「何だ、お前。知ってたのか?」
「メルトリリス、黙っていた訳を。事と次第によっては……」
「落ち着け、トリスタン。で、訳は……?」
「それは――――――言えないのよ。察してちょうだい」
「ふむ。成程、それだけ分かれば十分だ」
「――――私は納得しかねますが……」
まあまあ、と間に割って入った虎太郎に、トリスタンは不承不承と頷いた。
メルトリリスがこの事態を治める方法、この事態の切欠となった施設について口を閉ざしていた事実は、裏切りに当たるだろう。
だが、虎太郎はメルトリリスの表情と選んだ言葉から、おおよその事情を察することが出来た。
彼女の表情は苦しむように歪み、“言わなかった”ではなく“言えない”と口にした。
本心を言えば、彼女も明かしたかったのだろうが、それを口にする権利がない。アルターエゴ故か、メルトリリスも廃棄処分されるまではセンチネルであったからなのか。情報開示に何らかの制限が設けられているのだろう。
少なくとも、今のように虎太郎達が一定の情報を入手しなければ、メルトリリスも手助けが出来ないのだ。
これはメルトリリス自身の意思によるものではない以上、裏切りには当たらない。仕方のない事実というだけ。
「何にせよ、SE.RA.PHの探索は続けるしかないわ。今日はもう休んで」
「それもそうだな。分かったよ」
「じゃあ、6時間後に起こしに来るわ。私は外で休むから」
「はぁ? 別に此処で休めばいいだろ?」
「嫌よ。アルターエゴと人間を同じ空間に置いておくなんて、頭がおかしいんじゃなくて……?」
メルトリリスの言葉を、マーブルはぶんぶんと首を縦に振って肯定した。
自らの潔白を証明するために、あえて距離を取る、と言う事だろう。
虎太郎はまだ何がしかの言葉を発しようとしたが、メルトリリスはさっさと扉から外に出てしまった。
その足取りは、プリマと呼ぶには余りにも落ち着きがなく、不安に満ちたもののようで――――
―――――
――――
―――
――
―
「――――全く、何なのよ、あの人は……」
教会の外で床に腰を下ろし、メルトリリスは一人ごちた。
初期化され、能力どころか性格まで変化していたというのに、ただの1日で以前と同じレベルにまで戻っている。
全ては契約を交わした弐曲輪 虎太郎によるものだ。
自分自身に疑いなどなかったが、この教会で出会った時にはどれほどの絶望を抱いていたか。
例え、本人にそのつもりがなくとも、彼の行動が、自身にとってどれだけの救いであったか。
あの無茶苦茶な行動は、メルトリリスに余計な考えを起こさせないには十分過ぎた。
振り回される度に、どれだけ辟易とさせられたか。自分すら顧みない行動に、どれだけ心配させられたか。
今、こうして一息ついてみれば、疲れはするが楽しくて、楽しくて、楽しくて――――涙が流れてしまいそう。
サーヴァントも既に三騎。戦力は整い始めていると言えよう。
だが、それでも足りない。戦力が足りない。能力が足りない。時間が足りない。
――あの女には、全然、全く、これっぽちも、手が届かない。
その事実に、膝に顔を埋めて、零れそうになる涙を必死で堪える。
もう心は折れてしまいそうだ。
自分自身はSE.RA.PHで起きている事象を、正確ではないにせよ一番肉薄しているというのに、それを言葉にすることが出来ない。
こんな事を続けていても、いずれは決定的な別れが訪れる。希望などないに等しい。
自分が消えてなくなるのならいい。
どの道、月の裏側で消えていた命、消滅することは恐ろしくなどない。
(でも、あの人をうしな――――――っ?!?!)
彼女にとって最悪の未来をイメージした瞬間――――教会の一部が吹き飛んだ。
余りの出来事に、メルトリリスはポカンと大口を開けるしかない。
敵の宝具、事故、仲間割れ、様々な憶測が思考を占め、次の行動すら忘れていた。
しかしそれも一瞬の事、何が起こったのか、誰か巻き込まれていないかを確認するために地を蹴る。
爆発地点は教会の出入り口のすぐ右の壁。
しかも内から外へ向けて破片が飛び散っている。明らかに中から爆破されたものだ。
メルトリリスは、早々に仲間割れでも起こしたのかと蒼褪めた。トリスタン、エミヤ、どちらも何をしたところで可笑しくはない。
ガウェインとて、信じられたものではない。このSE.RA.PHは大なり小なりサーヴァントは精神に影響を受けるのだ。
だが、全ては杞憂であったとメルトリリスは思い知る。
濛々と立ち上る粉塵の向こう側にあった人型は、彼女が誰よりも信じている人間だからだ。
「……しまった。火薬の量、間違えたかな?」
「何を、やってるんですかぁぁぁぁぁ――――――っっ!!!」
「お、敬語に戻った」
頭を掻きながら、爆発地点を眺めていた虎太郎が居た。
科白からも、これは彼の仕業であるのは明白。メルトリリスの絶叫も無理はない。
「虎太郎、どうしたのですか!」
「あ、いや、すまん。ちょっと風通しを良くしようとな。他の連中には火薬を弄っててやっちまったと伝えてくれ」
「何故、そのような…………ふむ? …………ふむふむ……………………ふむ。成程、分かりました。では、そのように」
メルトリリスに続いて現場に駆けつけたガウェインの顔にも、流石に動揺の色が浮かんでいた。
しかし、虎太郎の表情から彼の仕業であると悟り、更には一足先に駆けつけていたメルトリリスを見つけると二人を交互に指を差す。
暫らく指差しを繰り返したが、やがて納得したのかニッコリと微笑むと、虎太郎の言葉通りに礼拝堂へと戻っていく。
礼拝堂にはエミヤとトリスタンの気配が、二階の個室からはマーブルの悲鳴が響き渡っているが、ガウェインならば巧く収めるだろう。
「あーぁ、どっこいしょ、っとぉ。これでようやくマスクを外せる。風通しが良くなって、多少は臭いがマシになった」
虎太郎はガスマスクを外し、礼拝堂から持ってきたであろう長椅子に腰掛けると、一日の疲れを示すように身体中からバキバキと空気の破裂音を響かせながら大きく伸びをした。
その後、大きく深呼吸。彼にとって、この教会の匂いは相当に不快なものであるのか、SE.RA.PHから流れ込んでくる空気はまだマシなようで、晴れやかな表情になる。
「もしかしなくても、その為だけにぃ!?」
「そうだけど? この教会臭くて敵わんわ。誰がナニしてたんだか知らんが、ナニと獣の匂いで気分悪くなる。あと、オレの持ち物じゃないから痛くも痒くもない」
「ああ、分かったわ! 貴方、馬鹿ね! 馬鹿でしょう!?」
「何を今更。オレと出会って一日も経ってるのに、そんなことに気付かないとは逆に驚きだ。ほらよ」
虎太郎は此処に来ている時点で馬鹿だろ、と言わんばかりの表情で肩を竦めると、メルトリリスに一人掛けの椅子を投げ渡した。
慌てて膝を突き上げると背もたれの隙間に棘が入り込み、すんでのところでキャッチする形となる。
キっと虎太郎を睨みつけるメルトリリスであったが、虎太郎は長椅子に寝転び、片手で頭を支えて気にした素振りすら見せていない。
「ちょっと、私は休息を取りなさいと言ったのだけど……?」
「そうは言ってもな。オレは他人が近くに居ると寝られないし、寝なくても何とかなる」
「そんなわけないでしょ? そんなイルカみたいな……」
「オレは何時の間にか起きたまま眠る矛盾を御していた。つまり、イルカと同じ半球睡眠ができると言うことだ……!」
「何それ怖い! 貴方、何処まで無茶苦茶なわけ?!」
「いや、オレにも何が何だか。まあ、そういうわけだ。眠らずに越える夜の長さは知ってる。お互い暇だ、折角だから付き合えよ」
メルトリリスの悲鳴染みた声を軽やかにスルーし、座れと手を差し出し促す。
彼女も虎太郎の台詞全てを信じたわけではなかったが、動く気配というものが全くない。
壁を風通しを良くし、更には見通しの良くなってしまった場所に居座っていては、外から何をされるか分かったものではない。
メルトリリスは渋々と膝の棘から椅子を引き抜いて地面に置くと、虎太郎に背を向ける形で腰を下ろした。
「――――ねぇ、カルデアって、どんな所なわけ?」
「あー、概要くらいは知ってるか?」
「まあ、単なる知識でしかないけれど、ね。私が、聞きたいのは――――」
メルトリリスは一切納得していないという表情をしながらも、会話には花が咲いていく。
まるで不安を打ち消すように、彼女の意志とは無関係に、滑る唇は止まらない。
会話に花が咲けば、笑顔の花も咲いていく。
逃げられない悪夢の中にあった、一時の穏やかな夢のように。
虎太郎の話術によるものか、それともメルトリリスの強がりだったのか。
彼女の表情には一切の翳りはなくなっていた。内心の不安も既に消え去っている。
苦悩など、そんなものだ。
苦しい境遇、悩ましい状況にあってすら、笑うことができれば消え失せる。
苦しい境遇は、より楽しい会話によって。悩ましい状況は、より穏やかな時間によって。
アルターエゴもまた、人と同じく心を持つ。
今は、その不必要な筈の機能に感謝していた。楽しすぎて泣いてしまう。辛すぎて笑ってしまう。
その矛盾はメルトリリスが人というものを理解し始めた証であり、また彼女の持つ心が本物であると示している。
虎太郎も普段の無表情を崩し、カルデアで待つ仲間との馬鹿馬鹿しい思い出を、自身の呆れ返る過去を語る。
例え、どれだけ絶望的な状況に叩き落されようとも、どれだけ確実な破滅を突き付けられようと、心の余裕は忘れない。
人生とは楽しむもの。自身の身の丈に合った欲と悦を満たしていく方が健全だ、と断じている。そうでもなければ、生きている意味がない。
メルトリリスの泣き出してしまいそうなほどの不安が掻き消え、彼女本来の少女らしさが顔を出した時、虎太郎は表情を引き締めて、長椅子に横にしていた身体を起こした。
「どうしたの?」
「いや、何か――――」
「――――――っ?!」
視線を感じる、と虎太郎が言葉を紡ごうとした瞬間、メルトリリスの爪先が跳ね上がった。
ギン、と金属音が一瞬だけ響き、続いて虎太郎が座っていた長椅子の背に矢が突き刺さる。
(危、なかった……――いえ、それよりも!)
メルトリリスであっても、冷や汗を掻く、刹那の攻防。
矢が飛んできた方向に目を向ければ、確かに遠ざかっていく気配を感じた。恐らく、矢の射手は舌打ちをしていることだろう。
しかし、気配は確かにあるのだが、姿がまるで見えない。
自身の姿を姿を消す能力、威力は低いが正確な射撃能力、小賢しい戦い方。メルトリリスにはそんなサーヴァントなど、一人しか心当たりはない。
「あの、アーチャー……!」
「待て、メルトリリス。ふんふん、確かにこれはイチイの毒だな。ロビンが一番よく使う毒だ」
「だったら……! こんな風に四六時中狙われたら、堪ったものじゃないわ!」
「だから落ち着け。後を追ったら思う壺。エゲつないトラップ三昧で疲れるだけだぞ」
探索中、BBが差し向けた緑衣のアーチャー――――ロビン・フットによるものと見て、間違いない。
虎太郎は然るべき制裁を加えようとしたメルトリリスを、長椅子から矢を引き抜いて匂いを嗅ぎ、鏃を舐めて毒を確認しつつも諫めた。
ロビンは付き合いが長く、自身の右腕同然に扱ってきた。彼が最も得意とする戦い方もよくよく理解している。
姿を現さず、狙撃に徹し、追ってきた敵を攪乱して罠に嵌める。ロビン自身は嫌っているが、その殺戮技巧は英雄と程遠くはあっても、虎太郎も迷わずに一流と頷くゲリラ戦法だ。
「同じ場所からの狙撃はしない。狙撃手は一発でも打てば、即座に場所を変えるからな。味方の内は便利で頼もしいが、敵に回ると死ぬほど厄介なんだよな、アイツ」
「半端な英霊の分際で……!」
「怒るな怒るな、それもアイツの思惑の内だ。こういう時は、落ち着いてドンと構えるのが正解だ」
「だ、だからって、ここに居続けるつもり?!」
「そりゃあね。アイツは自分の居場所がバレる馬鹿はしない。ここを狙えるポイントは限られてくる。やたらめったら打ちまくれば場所が割れる。だから、ここにいた方が安全だ。お前もいるしな」
「………………」
そうまで言われれば、メルトリリスも黙らざるを得ない。
そもそも彼女はアルターエゴの中でも最高の性能を誇り、プライドも同じように高い。
此処で建物の中へ入って、と懇願でもしようものなら、貴方を守りきる自信がないと吐露するようなもの。意地でも口にはすまい。
不機嫌そうな表情を隠しもせずに、メルトリリスが背を向けると、虎太郎は表情を崩す。
それはメルトリリスの行動が微笑ましかったのではなく、BB――のみならず、その裏に潜む何者かまでをも出し抜く弓を得た故の笑み。
ロビンが放った矢の鏃を外す。
日本においては
そこには丸められた一枚の紙――恐らく、ロビンの持つ紙巻きタバコをバラしたものだろう――が入っており、短く走り書きが記されていた。
『やっぱりBBの背後に誰かが居る臭い。こっちはこっちで調べるから、そっちも死ぬんじゃねーぞ』
(うーん、この有能さだよ。やっぱり仕事しやすくていいね、アイツは)
――――どうやら、BBが月から連れてきたロビンは、カルデアでの記憶を持っているようだ。
カルデアのサーヴァントはレイシフトによって特異点に赴く際、まれに虎太郎の元を離れ、“はぐれ”となる場合がある。
聖杯によって生じた時代の乱れがレイシフトに干渉し、契約関係をメチャクチャな状態にしてしまうのでは、というのがアルフレッドの推測である。
これはその亜種だろう。
元々、霊基は同位体なのだ。これ以上に親和性の高いものはない。問題は、何故そのような事態に陥ったかであるが、このSE.RA.PH自体が、数々の特異点の中でも更に特異かつ、カルデアの機能では本来不可能な未来へのレイシフトを行った故だろう。
その事実に虎太郎が気づいたのは、数時間前の戦闘時。
ガウェイン、トリスタン、メルトリリスに追い詰められ、一発逆転のマスター殺しを狙ったあの瞬間だ。
ロビンにしてはあまりにも浅慮な、自身に合った戦い方とは懸け離れた行為に違和感を覚え、メルトリリスに背後から一撃を喰らった際、ロビンは確かに笑って虎太郎を見た。
そして、違和感から衣服のポケットを探ってみれば――
『オレは敵じゃねぇからな、大将。ついでに、BBも厳密には敵じゃないみたいだぜ』
――そんな文字の書かれた紙切れが入っていた。
ご丁寧に、もしもの離れ離れになった時、互いを味方だと証明するための暗号まで添えて。
今回の黒幕どころか、BBにさえ悟られることなく、独自に信頼できる情報を得られるようになった瞬間だ。
(しかも、情報を流す方法も巧い。ファインプレーだ。でかした、ロビン)
ロビンの得意とするゲリラ戦。姿を隠しての狙撃。
一日数度も狙撃による奇襲を仕掛ければ、単なる嫌がらせ、得意とした戦法を取っているだけ、と誰も彼を疑わないだろう。
もっともロビンとしては気が重い方法だろうが。
何せ、本気で虎太郎を殺しに掛からねばならないのだ。ガウェインの強さは百も承知だが、一歩間違えば虎太郎を殺す羽目になりかねない。
それでも両者は迷わずに、打ち合わせもなくその方法を選択した。計算高さと相手に知られることなく情報を得られる事実は、
(問題はこっちの状況をロビンに、可能であればアルフレッドにも伝える方法だが――――いや、何、相手がこんなに隙だらけならやりようなんぞいくらでもある)
「ちょっと、何を笑ってるのよ、気持ち悪い」
「いや、別に。そんなにオレのことを心配して不安になって、アルターエゴも可愛いもんだとな。やっぱり人間と大差ねぇわ、と思っただけだ」
「――――…………っ、ふんっ! 馬鹿じゃないの! 私を人間風情と一緒にしないで!」
「へいへい」
喜びか、悲しみか。その言葉にメルトリリスはそっぽを向く。まるっきり拗ねた少女の反応だ。
虎太郎はその反応に嘆息した。彼女の美しい菫色の髪の隙間から覗く耳が、真紅に染まっているのが見えたから。
(どうしてこう、オレが助けた女ってのは、こうチョロいんだか。まあ、オレを信じている以上、オレも裏切るつもりはないが……やめだ。面倒だから考えるのは止めよう)
懐から取り出した煙草にロビンの手紙を巻き付けて火をつける。紫煙を楽しみながら証拠を隠滅する。
これで、よほどの下手を打たなければ、ロビンとの関係性はBBどころかメルトリリスも、ガウェインですら気づくまい。
暫くして、メルトリリスはチラチラと視線を向けてきたので、会話が再開される。何をどう言おうと、臍を曲げようと、不安を掻き消すためのものであろうと、会話が楽しい事実に変わりはないようだ。
こうして、二人は休息全てを使い、眠れぬ時間を過した。SE.RA.PHに昼夜の概念はなかったが、少なくともメルトリリスにとっては春の陽光の中で安らぐように、心穏やかな時間であった。
はい、というわけで、デミヤが味方?になる&メルトリリス可愛いよメルトリリス&ロビン実は味方でした。
メルトリリスですが、メルトウイルスによってガンガンサーヴァントを取り込んでいるので超強化、だけではなく、黒幕がサーヴァントという栄養価を摂取するのを妨げて成長まで抑えている有能っぷり。
この辺は御館様が分かってやっているのではなく、事態の全貌を把握しているメルトリリスの機転が大半。御館様は冬木の聖杯戦争しか知らないので、サーヴァント殺しすぎるのは聖杯にリソース突っ込むうようなもんだからヤバくね? 程度にしか考えていない模様。相変わらず、タイミングの良さと運だけで正解を踏む男である。もしくは敵への嫌がらせに特化した男。
ロビンは実は仲間でした。
前回の一か八かの特攻は、今回のための伏線。さあ、どんどん黒幕包囲網が狭まっていきますよー(ニッコリ