「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」 作:HK416
ガチャは必死で右手を抑えている状態。この後に、頼光ママンや水着イベ、不夜城のキャスターとかが待ってるんや! 許してくれ、酒呑! でも全体アサシン欲しい!
始めは600万とか無理やろ、思ったけどイベント礼装を揃えるとそんなでもないですなー。
ジャックちゃんとかも使ってあげたいけど、Qを強化できる鯖が少なすぎて、出番なし。
そして、相変わらず出ずっぱりのステラさんとマーリン。この二人、使い勝手が良すぎんよぉ!
では、SE.RA.PH編第五話ドゾー
SE.RA.PH内の時間において翌日。
6時間の休息後、一行は再びSE.RA.PHの探索を開始した。
同行者はメルトリリスとガウェイン。
虎太郎は全くやる気はないが、救出対象であるマーブルは危険故に教会で待機。
マーブルと
助け合うつもりも馴れ合うつもりもなく、ただひたすらに異常事態を最短で収拾したいエミヤは別行動を取り、独自の探索に出ている。
その最終的な思惑はどうあれ、SE.RA.PHに召喚されたサーヴァントと戦い、己に目を引き付けることで、虎太郎の手助けをするつもりのようだ。
「しかし、面倒だ。ひたすらに面倒だ」
「ははは。それはそうでしょう。新たなセンチネル――――彼女は、虎太郎が苦手とする相手です」
「バーサーカーの中では、会話はできるからいいものの、言動がアレじゃあ、ねぇ」
「…………はぁぁぁああぁぁぁぁぁっっ(クソデカ溜め息」
(本当に嫌そうな顔しているわね)
今より30分前、一行はBBの差し向けた新たな刺客と刃を交えていた。
センチネルの名はタマモキャット。
カルデアの霊基リストに登録されており、いくつかの特異点においても戦闘を行ったバーサーカー。
その性格、そのキャラはブレ過ぎ、の一言に尽きる。
妙に肌を見せる和装だったかと思えばミニスカメイド服、挙句の果てに裸エプロンまでも。和風美人なのか、メイドなのか、新妻なのか。
頭には狐耳、名前には猫が入り、語尾はワン。もう何が何だか。
元々、彼女のオリジナルはキャスターである玉藻の前。大妖として恐れられた九尾の狐。
そのオリジナルが、何らかの理由で力を切り落とした尾の一つが彼女なのだとか。
本当に、本当に恐ろしい話なのだが、タマモキャットレベルのサーヴァントがあと8騎も、虎視眈々と世界の何処かで出番を待ち侘びているのである。
「キャットは、まあ使える部類か。アイツ、頭はあっぱらぱーだが、馬鹿じゃないんだよなぁ。妙に義理堅いところもあるし、助けてやって味方に引き入れるか」
(うん、無理だったら殺そう。そしてカルデアにも連れて行くのは止めよう。何処かで死んで貰おう)
(また、外道なことを考えていますね、アレは……)
(また無茶をする、んでしょうね…………すっごいお願いしたら、やめてくれるかしら……?)
基本的に、キャットは自らを召喚した者を裏切らない。メイドや小間使いとして雇われた場合も最大限の力を発揮する。
BBの側についたのも、此度はSE.RA.PHに召喚され、マスターもなく彷徨っていたところを拾われた一宿一飯の恩義故。
BBはBBでキャットを信用しきれていないらしく、絶対服従首輪なるものを取り付けて、行動を縛っていた。
キャット当人も好きで従っているわけではないようで、自身を召喚した本来のマスターを探しているようではあった。
ならば、彼女を縛っている首輪さえ何とかしてしまえば、交渉の余地はある。
(128騎のサーヴァントがいるのなら、このSE.RA.PHにも128人のマスターがいるのは道理だが……こうも表に誰も出てこないとなると、死んでいるのか、それとも
セラフィックスにあったであろうアニムスフィアの魔術工房、あるいはマリスビリーの遺産。
何であったにせよ、碌なモノではあるまい。少なくとも、世間一般の倫理に沿うものではない。魔術師の研究とは得てしてそういうものなのだ。
(それに、センチネルはアルターエゴでなくともなれるのか、そういえば一番最初にあったあの、あの……名前聞いてなかった。ともかく、あのセイバーもセンチネルの一人かねぇ……)
センチネルとなるには、KP――カルマファージと呼ばれる要素を受け入れられるだけの
センチネルであったメルトリリスが語ったこと。事実と見て間違いない。
(さて、問題なのはKPとやらを何処から引っ張ってきているのか。その根源、大本は何になる? SE.RA.PHか? ムーンセルとか? それとも別の何かかねぇ?)
謎は尽きない。一つの謎が明らかになれば、即座に二も三も謎が明らかになる。
ただ、分かっているのは、全ての謎が繋がっているという点のみ。
蜘蛛の巣のように広がる糸の繋がり、その中心には何かが手ぐすねを引いて待ち構えていることだけは間違いない。
ただ、KPとやらはBBが作成したものではないのは確かなようだ。情報元はBBの傍らで扱き使われているロビンから。
今日も数度に渡って遠距離からの狙撃によって、情報の受け渡しに成功していた。
お陰様で、何も知らないメルトリリスは機嫌が悪くなり、ガウェインも警戒度を増しているが。
『BBの奴、やばいのを引き入れやがった。あの駄狐の分身みたいな猫だ』
『どうやら、BBもKPとやらの扱いに困ってるみたいだな』
『時々ムーンセルを罵ってる辺り、相当に切羽詰まってるんじゃないか?』
要領を得ないBB陣営の内情であったが、相当に追い詰められているのは間違いない。
少なくともKPや聖杯戦争の運用、運営など、やりたくてやっているわけではないのはよく分かる。
(BBは此方に喚ばれたようなことを言ったが、ロビンからの情報を見る限り、ムーンセルから事態を収拾するために送り込まれた、と考えるのが妥当か……?)
こっそりと伝え聞いたBBの反応を見る限り、BBの上司はムーンセルと見て間違いない。
ムーンセル・オートマトン。
月の内部に収められた無限の聖杯――――とは言え、聖杯とは名ばかりのものに過ぎない神の瞳にして、神の頭脳。
この世界ではない何処かの平行世界に存在し、月から地球のみならず太陽系全域を見守り続ける観測機械。救世主の血を受けた杯とは全く無関係の、異文明が残した遺失物だ。
本来、願望機として残されたものではないが、その優れた演算機能は平行世界すら観測し、蓄積し続けた情報量から過去改変すら可能とする。
そのムーンセルが、この特異点の発生――――もっと言えば、このSE.RA.PHにて発生した
(しかし、ムーンセル自体は意思らしきものを持っていないって話だ。そりゃそうか、神の頭脳が人間性なんぞ獲得しても碌なことにならん。アルみたいな事例は稀だろうしなぁ)
分かるのはその程度。ムーンセルが動いた理由は判然としない。
神の頭脳は見守ることを良しとした観測機械。人類への温情で動いているわけではない。
そもそも人間など愛していないだろうし、地球という知性活動を貴んでいるわけでもあるまい。
あくまでも機械的に、あくまでも機能の一つとして、BBを送り込んだのだ。
(BBは自身を月の支配者と呼んだ。ということは、一度はムーンセルを掌握したわけだ。うーん、ムーンセルも万能の癖にガバガバというか何というか。まあ、機械的な反応しか示さんのなら付け入る隙はいくらでもあるか)
(そしてBBはその過去を“先輩”とやらへの愛情によって“なかったこと”にした。信じられん荒業だが、霊子虚構世界なら可能なのか……?)
(ふむ、答えに至るための情報が少なすぎる。これ以上は分らんな。そもそも余所の世界の事情なんて興味もないし)
しかし、その余所の世界の事情こそが、此度の案件に深く関わっていることも事実だろうが、BBにせよ、メルトリリスにせよ、事情を語ることはあるまい。
それほどまでに此度の黒幕を恐れているのか、警戒しているのか。少なくとも現段階では語らないのではなく、語れないと言うべきだろう。
「取り敢えず、エミヤと合流してキャットを此方側に引き入れよう」
「本気なの? いっそのこと倒してしまった方が後腐れがないのではなくて……?」
「心情的にはお前と同意見だが、戦術的な観点から同意しかねる」
「人手が増えるのは良い事です。アーチャーを筆頭とした遠方からの攻撃手段を持つ者を集団で配置されては、我々では分が悪い」
「トリとエミヤを使えば? あの二人は本職でしょう?」
「トリスタンは教会を動けませんし、Mr.エミヤは腕前や信念は信用できても、人柄は信用できません」
キャットを仲間に引き入れることに難色を示すメルトリリスの意見を、ガウェインはニッコリと笑いながらもバッサリと斬って捨てる。
虎太郎もエミヤを擁護する気はないらしく、メルトリリスは不承不承と納得せざるを得なかった。
エミヤの事態を迅速に収拾すべきという信念は、疑う余地のなく本心である、というのは三人の共通認識だ。
だが、余りにもその信念に寄り過ぎている。ガウェイン、メルトリリスと違い、虎太郎個人に対して友愛や感謝を抱いている訳ではない。
であれば、より手早い手段を見つけ、その為に誰かを切り捨てる必要があると判断すれば、迷いなく見捨てるだろう。いや、それどころか背後から引き金を引きかねない。あの男に無防備な背中を任せるのは、危険すぎる。
対し、キャットは実に単純明快だ。
野生の獣故に、一度でも手懐けてしまえば、無比無類の守護者となるだろう。
問題は、あのブレすぎのキャラに周囲が巻き込まれてしまう点だが、現状ではエミヤに比べれば安心して背中を任せられる存在と言えよう。
仮に遠距離から集団攻撃を受けたとしても、防衛に一人、敵の目を引き付ける囮が一人いれば、ガウェインが聖剣の力を放つ時間は十分に稼ぐことは出来る。
「ふむ。しかし、レディ・キャットと貴方は衛士となった経緯が異なるのですね。私はてっきり、アルターエゴとセンチネルはイコールかと思い込んでいましたが……」
「確かに、今の私は衛士として
(………………んん? ほほぅ、再摘出とな)
虎太郎はメルトリリスの言葉に引っかかりを覚え、内心でガウェインの無意識のファインプレーに笑みを零した。
アルターエゴは、BBが完全なAIには不要として切り離した感情から作られた違法霊基。本来ならば『再摘出』ではなく『摘出』という言葉が正しいだろう。
そして、BBが一度摘出した不要な感情を再び取り込む理由などない。
つまり、メルトリリスはムーンセルが送り込んだBBから摘出されたのではなく、“なかったこと”になった事象からやってきた可能性が高いということだ。でなければ、メルトリリスの言葉に齟齬が生じてしまう。
その事象において何があったのか。BBの語る先輩とやらが、どのような奮闘をし、どのように戦ったのかは定かではなく、知り得もしない。
だが、余程の戦いであったことは間違いがない。快楽と愛憎という感情に縛られた
(再摘出、か。再摘出かー。これさぁ、下手すっと、ムーンセルから送られてきたBB以外にも『再摘出されたBB』とかもいるんじゃねぇだろうなぁ、おい。そう考えるとBBが矛盾した行動を取っていることに説明がついてしまうんだが……)
メルトリリスの言葉から、一つの可能性に思い至る。
確信もない、確証もない。可能性以前の思い付きに過ぎないが、穴だらけであっても筋の通る部分はある。
少なくとも虎太郎が接触したBBは、言葉はどうあれ人類の側に立っているのは間違いない。
虎太郎を玩具と呼ぶのは、人類を追い詰め、虐め、生き足掻くさまを楽しみと共に眺めていることを望んでいる故。人類そのものがBBにとっては愉しみそのものなのだ。
だから、無意味に死に絶えることを望んではいない。死んでしまっては折角の楽しみがなくなってしまう。
だが、セラフィックスの惨状はどうだ。
内部は分裂し、醜い言い争いが展開され、自分勝手な欲望が渦巻き、己の不安を暴力として解き放ち、挙句の果ては特に理由のない迫害と粛清で衰退しきった。
もし、BBがセラフィックスの人間で遊ぶのならば、そのような使い潰すような真似はしない。
寧ろ、条件とルールを設定し、人間が互いに不安を抱きながらも結託し、個人の能力と人類という種の強み、その全てを使って自分に立ち向かってくる展開を作り出すだろう。
その方が、BBにとってはどちらに転んでもよい展開になる。
ゲームに勝ったとしても、無様で弱い人間達を嘲笑える。
ゲームに負けたとしても、愚かながらも誇り高い人間達を称賛できる。
彼女にとってはどちらでも同じこと。その足掻き、その諦めの悪さ、その人間力そのものを、彼女は好んでいる。
虎太郎が思うBBの趣味嗜好と、セラフィックスの惨状は余りにも噛み合わない。
であれば、BBが二人いると考えた方が自然だ。この惨状を止めようとしているBBと、何らかの理由で人類の敵に回ったBBが居る、と。
(さて、黒幕がもう一人のBBなら話は早いんだが、それも違うな。狡猾さの中に、自分の悦びを追求しすぎている節がある。魔神柱でも遊びが過ぎる。この間抜けさは人間にしか醸し出せない。それが可能かつやりそうな人物像と合致する人間もいるんだが――――ふむ、何にせよ、予断に過ぎんか)
―――――
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―――
――
―
「――――成程、その始末屋とやらが天体室を起動させた、ということか。此処の責任者辺りが起動させたのかと思っていたが」
「教会にあった日記じゃ、副所長だかが天体室を開けて起動スイッチに手をかけたようだが、実行したのはソイツらしいな。最後の最後で自己保身に走ったか。少なくとも副所長は天体室で行われていた実験の危険性を十分に理解していたようだが……」
「まだ何かあるのかね……?」
「いや、なに。この手の他人の視点や記憶、思考を追体験するタイプの情報は信用ならん。人間は自分の世界で生きてるからな。全てを鵜呑みにすると事実との齟齬が生まれかねん。何より、何処の誰のモノか分らん情報なんぞ、話半分くらいに考えておいた方がいいだろうよ」
「呆れた疑り深さだ。それでは時間がかかりすぎる」
「お前は事を急ぎ過ぎだ」
虎太郎がエミヤを呼び、彼が訪れるまでの探索で新たな情報を得ていた。
得たのはアニムスフィア家が、セラフフィックスで行っていた研究を秘匿するために用意していた
倫理と道徳を理解しながらも身に着けてはいない故の危険性、想像を欠いた暴力性、相手の痛みに共感できない凶暴性。
そんなものを持ち合わせる以上、社会の中で馴染めるはずもなく。けれど、悪知恵だけは働く小悪党。
学がない以上、此処で行われている実験がどのようなものであったかなど理解も及ばず、なおかつ知ろうとすら思わない。
どれだけ人道倫理に悖っていようが、より巨大な力の前に媚び諂い、上手く立ち回ることだけが取り柄。魔術師共にとっては、これ以上ないほどに神秘の隠匿を実行させるには打ってつけの人物だ。
もっとも、小悪党はどこまで行っても小悪党。
自身を雇った魔術師共の介入がないと分かり、セラフィックスで起きた地獄をより加速させた。
言わば男は、汚れ仕事の代行者にして執行人。此処で起きた身勝手な粛清を実行した人物であったらしい。
始末屋は殺した。雇われた理由によってではなく、倫理の崩壊した集団の中でこそ、自身のちっぽけな支配欲を満たせたからだ。
世の中に期待せず、尊重するものは自身だけ。そんな子供染みた理屈で、始末屋は暴走し続けた。
だが、始末屋は救われた。
曰く、愛を知ったのだと。曰く、支配する以外にも他人と関わる術はあったと知ったと。
その結果、始末屋はセラフィックスの禁忌に手を出したのだ。
「思いっきり弄ばれてるな。間抜けで不様にもほどがある。他人と関わる術を知らんから、
「…………少し、耳が痛いわね」
「むぅ。心外ですね、虎太郎。もしや、私のラグネルへの愛もそのように思っているので……?」
「別に、そうは思っちゃいない。お前へ向けられる愛とお前が向ける愛は、始末屋へと向けられたものとは質が違うさ」
「ふん、貴様のような男の口から愛が語られるとはな」
嘲笑うようなエミヤの台詞に、虎太郎は肩を竦めながらも中指を立ててニッコリと笑う。
愛なぞ信じてはいないが、理解できないわけではない。もっとも、理解できても共感しないのだが。
始末屋へと向けられた愛は、とにかく歪だ。
世界を変えるほどの慈愛と称しながらも、最終的に見捨てられるのでは、と始末屋は恐れた。
もうそれだけで歪だろう。始末屋の言葉が正しいのであれば、救世主が人へ向けるような愛でありながら、男女の愛のように風化するものということになる。
どちらか一方だけであれば可笑しくもなければ不思議でもない。だが、二つが合一したことで可笑しなことになっている。
(まあ、分かっちゃいたが黒幕はアレで、性格の系統も見えてきた。慈愛深くありながらも利己的、狡猾でありながらも快楽に流されやすいと言ったところか)
(だが、どうしてこんな事態になったのか、全体像がまだまだ見えんし、確証も得られていない。締めに動くには時期尚早か。早く終わらせたいんだが)
ふん、と虎太郎は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
彼にしてみれば、この事態は随分と馬鹿馬鹿しいもののようだ。
対応策、解決策は既に見え始めているらしく、時期が訪れるを待っていた。
「しかし、正気か? 戦力は多いほど良いという点には同意するが、扱いきれんようでは意味がない。協調性のない者、空気を読めない者は敵よりも厄介だ」
「なんだ、どうした? お前、そんなブーメラン発言するなんぞ、よっぽどだな。お前が言うな」
「オレが、あんな野生の獣よりも空気が読めないとでも? 何より、お前の方が自身に返ってくる発言は多いと思うが?」
「しかも自覚がないと来た。安心しろ、オレは自覚した上で言ってる。お前の方が自分が見えてないよ。ハードボイルドもいいが、お前の場合は
「――――――」
売り言葉に買い言葉。憎まれ口と皮肉の応酬を制したのは、虎太郎の方だった。
またしてもエミヤは外見を揶揄われ、ビキビキと青筋を立てて静かに怒りを滾らせていた。
その様に、メルトリリスは見えないところで、ぐっと拳を握りしめる。
赤い方にせよ、黒い方にせよ、エミヤに対して何か思うところがあるらしい彼女にとって、今の彼の姿は溜飲が下がる思いだったようだ。
それきりエミヤは口を閉ざし、虎太郎はガウェインとエロ談義、メルトリリスは二人に軽蔑の眼差しを向けながら、目的地へと向かっていく。
目的の場所は、エリアの終点。センチネルに与えられた特区だ。
センチネルはこのSE.RA.PHの守り手であり、それぞれに守るべき区域がある。これを打ち倒すことで、エリアの封鎖が解除され、より自由な移動が可能となるのだ。
「むぅ。男同士で楽しく会話! キャットは蚊帳の外と来た!」
「ああ、来たなぁ。来てしまったなぁ……」
「そんなに嫌なら、今からでも方針を変えたらどうだ?」
「いやぁ、お前も味方にしてるし。あとは一人も二人も同じかなぁって……」
「ふはは、分かりやすく無視されて悲しいが、そこはそれ。よし、そういうコトで戦うぞ! 先程のようにはいかん、KPの使い方も分かったし。でも、宝具だけは勘弁な!」
特区の最奥で、タマモキャットは待ち構えていた。
KPの影響か、漲る魔力は
恐らくは、真っ当なサーヴァントでは太刀打ちできまい。パッションリップほどでないにせよ、元の霊基から逸脱した強さを誇ることは間違いない。
その姿は、正に激神タマモキャット。
怒りの満漢全席を喰らえとばかりの勢いである。
「それだけではない! それだけではないのだな! 出ませい! 機動戦士ロビンZと機動戦士ロビンZZ!」
『…………………………』
「おぉっと、揃いも揃ってやる気がないと来た! これだけ数がいるなら、一人くらいやる気を出していいのでは……?」
『無理言うのも大概にしてくれませんかねぇ! 意識分割されて大量生産品染みた扱いを受けるこっちの身にもなれっつーの!』
「ロビン。お前って奴は、本当に不憫……!」
「…………哀れなのは分かるけど、何も泣く事ないじゃない」
「泣くだろ。こんなん泣くだろ。お前、ウチのロビンとは別人だと分かっていても、これは泣くだろ」
『アンタもオレを哀れんでるわけでもねーのに泣くの止めろぉ! 見てて余計に腹立ちますわ!』
キャットの号令によって現れたのは六騎のロビンフッド。
如何なる技法なのか。人数が増えている。しかも、意識を分割されているのか、六騎が全く同じタイミングで同口同音を語っている。
扱いの悪さに、虎太郎は思わず涙を流した。
別段、ロビンの境遇に哀れんだ訳ではない。単に、酷使され続けるロビンの姿に、かつての自分を重ねただけである。
冗談はさておき、厄介なことには違いない。
ロビンは身体と意識を分割されたことによって、霊基は滅茶苦茶。普段の彼と比べれば、見る影もないほどに弱体化している。
だが、元よりロビンフッドという英霊は単純な強さで座へと至ったわけではない。
顔を隠し、名を隠し、清濁を併せのみ、自らの非道に嘆きながら之を飲み込み、弱者の側に立った英雄。弱体化を果たそうとも、シャーウッドの殺戮技巧に翳りなぞある筈なく。
罠に狙撃、騙し打ち、
ましてや、彼等の勝利条件は緩い。マスターさえ殺してしまえば全ては終わるのだ。
メルトリリスにせよ、ガウェインにせよ、エミヤにせよ、単騎で現状のタマモキャットを抑えることはできまい。
最低でも二騎。万全を期すならば三騎で当たらねばならない。漲る野生を読み切るなど不可能だ。どんな手段を取るのか、ロビンよりも予測がつかない。
其処で虎太郎が取った選択は――
「作戦ターーイム!」
「うむ、許可する!」
『『『えぇーーーーっっ!!??!』』』
「キャットはオリジナルを打ち倒すために日夜作戦を考える智将故、思わず許可をしてしまうのであった」
『嘘つけぇ!? 絶対にノリと勢いだろうが!』
「ノリと勢いがある方が勝つと特撮ヒーローも申して居る。何か問題でも?」
『あぁ゛っ!! もうツッコミどころが多すぎてツッコみきれねぇ!!』
虎太郎は手でTの字を作り、作戦を練る時間をくれと申し出ると、キャットは刹那の判断で許可を出した。
この速さにロビンは勿論のこと、メルトリリスは言うに及ばず、虎太郎ですら驚きの声を上げる。
ただでさえキャラがブレブレのキャットと付き合うのに辟易としていたロビンは、六騎揃ってその場に頭を抱えて蹲った。
そんな無貌の王に哀れみの視線を向けながら、虎太郎は予期せぬ順調な滑り出しに動揺を押し隠しながらも、タマモキャットに近寄っていく。
「――――? 作戦タイムではなかったか? そうでなくても騙し討ちがお主の常套手段では……?」
「何だ、オレのこと、分かってるじゃないか」
「なはは! キャットはオリジナルの腹黒さを知っている故な! 魂がドドメ色の者が何をするのかも知っている!」
「成程――――ふ。だが、これは予測できたか? オレはこれから、お前の陣営替えを誘発しよう!」
「な、何とぉ! これは流石に予想外! しかし、このキャット、BBチャンに一宿一飯の恩義あり! そう簡単に――――」
「お前を召喚した本来のマスターを救ってやると言ったら?」
「――――っ」
耳元で、人を堕落へと誘う悪魔の如く囁いた虎太郎に、キャットは目を見開いていた。
見れば、虎太郎は嗤っていた。それこそ、営業悪魔でも裸足で逃げ出すような、悪意に満ちた笑みである。
キャットがBBの側についたのは、一宿一飯の恩義というのもあっただろうが、何よりも自分を召喚したマスターを助けてやるためという目的の方が大きかった。
気が付けば海の底。周囲は正気を失ったサーヴァントで溢れ返り、本来の主は影も形も見えない。
だが、確かに彼女は聞いていた。召喚される直前に、助けを求めるか細い声を。死にたくない、もう嫌だと必死な叫びを。
その声の主を求めて、SE.RA.PHを彷徨い、BBに見いだされたのだ。
「ぐ、くっ……しかし……」
「何だ、信用できないか? まあ、当然だな。だが、オレよりもBBの方が信用できんぞぅ。恐らく、BBはお前のマスターがどうなっているのか把握しているはずだ。何せ、この聖杯戦争の管理者だからなぁ」
「そんなことは分かっている。管理する側だからこそ、マスターを救う方法を、だな」
「無理だ、BBには救えん。アレには優先すべき目的がある。いや、そもそもお前のマスターは死んではいないが、生きてもいない。救いがあるとするなら、もう眠らせてやることだけだ」
「それは、どういう……?」
「単純な話だ。セラフィックスの人間は既に殆どが死んでいる。なら、他のマスターはアニムスフィアが用意した、ここで行われていた実験の
「…………!」
その言葉に、キャットの瞳に悲しみと同時に怒りが浮かんだ。
虎太郎は全身から吹き出そうとする汗を必死に抑える。今のキャットは怒り狂った野生の獣同然。視界に入っただけで八つ裂きにされかねない。
始末屋の記録は実に有用だった。
セラフィックスがおかしくなる以前、始末屋に与えられた業務の一つに奇妙な点があったのだ。
それは“外から搬入される資材の健康状態をチェックする”というもの。
もう、その一言だけで想像がつくだろう。
セラフィックスに運び込まれていた資材とは“人間”だ。
どんな経緯か、どんな実験だったのかは不明。
だが、元々セラフィックスはアニムスフィア家の持ち物ではなく、マリスビリー個人の所有物。
そして、マリスビリーも所詮は魔術師。デミ・サーヴァントを創造するために、マシュの名前もない兄弟達が犠牲になった。
恐らくは、彼の思想に賛同したアニムスフィア家の誰かが、彼の死後も実験を続けていたのだろう。
オルガマリーは関わってはいまい。彼女にとって虎太郎は、非常に心強い取引相手であると同時に、決して敵に回すべきではない存在。
何よりオルガマリーの感性は、父を早くに亡くし、アニムスフィア家内でも軽んじられていた故に、魔術師よりも一般人のそれに近い。
そんな相手に、そんなことを隠すくらいだったら、包み隠さずに全てを明かし、自らの潔白を証明することに使い、何よりも虎太郎に情報を流してアニムスフィア家の汚濁を切り捨てる方に動くだろう。
「分かるか? BBは確かに嘘を吐いてはいない。どんな契約をしているかは知らんがね。ただ、一つだけ言える確実なことは、オレに付いた方が、お前の目的は早く済ませられる。それがどのような形であれな。どういう意味なのか、分かるだろう?」
「――――それは、私のご主人を……」
「それしかない。魔術師どもが資材として使うなんぞ、碌な想像ができまい? 出来るのは資材として使い潰されるのを阻止し、人間として弔ってやることだけだろうさ。BBはこれを看過している。もう救えないからという理由で、生きている人間を優先している。AIらしい冷徹さだ」
「……………………」
「その点、オレは良いぞぅ。何せ、お前に共感はせずとも理解はしているからなぁ。気持ちが分かるというのは、交渉においても重要だ。お前がBBと手を切って、こっちに付くというのなら優先順位を入れ替えてやるが、さて、どうする?」
「――――うぅ、ぐぅぅ、うぅううぅ、にゃぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!!!」
『な、何だぁ?! どうしたぁ、キャットぉ!!』
真の主人に対する思い。BBへの一宿一飯の恩義。虎太郎の小賢しい理屈と悪意。
三つの壁に挟まれ、キャットは目をぐるぐると回し、知恵熱で顔を真っ赤にして頭からは蒸気を吹き出し、最後には絶叫と共にボンと頭から爆発するような音が響く。
しん、と全てが静まり返り、皆が固唾を飲んで見守る中、キャットはゆらりと振り返った――――ロビンの方を。
虎太郎は無言でロビンに向かって手を合わせる。ゴメンという謝罪ではなく、安らかに眠れという合掌だ。ガウェインとエミヤもそれに倣い、メルトリリスも思わず後に続いていた。
『ひ、人のこと馬鹿にしやがって! おたくら全員、人間じゃねぇ!!』
「オレは半分くらい人間じゃない血が混じってる。ガウェインとエミヤはサーヴァント、メルトに至っては英霊と神霊の複合体。うーん、まともな人間なんて始めから居ませんねぇ」
『そうだった! おい、キャット、ちょっとま――――』
「う、うぅぅ、五月蠅い! モーションがリニューアルされて調子に乗りすぎたなぁ! タマモ地獄を喰らえぇい!!」
『おい、それはメタってもん――――』
「――――“
『――――ぎぃぃやぁああぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!』
目にも止まらぬ肉球と爪による連続攻撃。
背景に巨大なデフォルメされた猫か虎が見えたのは気のせいではないだろう。
時折、爪ではなく肉球で触れている辺り、ロビンへの謝罪か、哀れみか、それともサービスなのか。
ともあれ、最後に残ったのは、酒池肉林の拷問遊戯同様、虎に引き裂かれたが如きロビンの亡骸だけだった。
まあ、この後でBBに罵られながら、強制的に蘇生されるのは目に見えている。なんもかんもロビンが優秀かつ不憫なのが悪い。
キャットは涙目になりながら肩で息をしていたが、呼吸を整えると振り返る。その表情は暗く沈んでいる。
彼女には彼女なりの矜持がある。裏切りなど、
「ナイス手切り。気にするな! 全部全部BBが黙ってるのが悪い!」
「そのように笑顔でサムズアップされても、あたしの気は晴れない、ワン……」
(あのキャットが見る影もないほどに落ち込んでる……!)
キャットはしょんぼりと、表情どころか耳と尻尾を垂れさせて自身の沈痛加減を表現する。
高慢で高飛車なメルトリリスですらが、一瞬ではあったが痛ましげな表情を見せたほどだ。
普段から陽気な態度を見せる者の表情が沈めば、誰とて同じ反応を見せるだろう。
虎太郎は見るに見かねて声をかけようとしたが、三度の銃声が鳴り響き、その肩と脇腹を掠めるように銃弾が直進した。
狙いはキャットの心臓と肝臓、喉元。
彼女の身体は弾かれるように投げ出され、背中からSE.RA.PHの床へと叩きつけられる。
「止めろぉ!(本音) ナイスぅ!!(本音)」
「どちらも本音である辺り、お前らしいと言えばいいのか……」
「……これでは虎太郎の苦労は水の泡、ですね。如何に敵に回ったとは言え、これは些か……」
「殺すつもりではあったが、
「くあぁあっ、いったぁーーーーい! 何をするか、デトロイトのエミヤ! 略してデミヤよ!」
「――――――」
(ナイス。ナイスよ、キャット。一度くらい、そう言ってやりたかったのよね!)
(うーん、虎太郎から出会ってからずっとこの調子。Mr.エミヤの心労と怒りは推して知るべし。何のかんのと言ったところで、感情的な御仁ですね。衝動的ではないですが)
「クッソォォォォ!!(本音) よくやった、デミヤ! キャットぉ!!(本音)」
人間であれば即死だが、サーヴァントの身であれば致命傷には至らないレベルであったらしく、キャットはふらふらと覚束ない足を叱咤して立ち上がった。
キャットの悪意のない悪口に、ビキビキし始めたエミヤを見たからなのか、即座に乗っかる虎太郎。
もし、これが彼でなければ、「○○、怒りの
因みに、デトロイトは米連において犯罪発生率が高く、犯罪都市などと呼ばれている。ダーティ&ハードボイルドなエミヤにはピッタリの都市と言えよう。
もう青筋を立て過ぎて血を吹き出しそうな勢いのエミヤを放っておいて、キャットは虎太郎を見た。
本気でエミヤのやりようを称え、同時にキャットが生き残ってしまったことに本気で嘆いている。
これで戦力は増えたが、頭痛の種も増えてしまった現実に、虎太郎としても、そう反応せざるを得ない。
そんな反応にキャットも何を言っていいのか分からず、思わず真顔になっていた。あのキャットが。
「まあ、何はともあれ、コンゴトモヨロシク、えーっとぉ……」
「ドーモ。キャット=サン。弐曲輪 虎太郎です」
「ドーモ。コタロー=サン。我、タマモキャットです。行くぞ、汚い忍者。敵にハイクを詠ませ、ネギトロめいた死体にする準備は十分か――――?」
「もっちろんさー!(ニッコリ」
「汚いなさすが忍者きたない」
万国共通である御辞儀と挨拶という礼儀作法を済ませた虎太郎とキャットは、がっしりと握手を交わす。
制御不能のブレブレ猫、タマモキャット。
惨劇不可避の腐れ外道、弐曲輪 虎太郎。
決して手を組んではいけないケダモノ達が手を組んだ瞬間である。
嘆くがいい、まだ見ぬ黒幕。
この二人が手を組んだ以上、シリアスな空気なぞ何のその。最早、ギャグシナリオは必定。
どれだけの邪悪であろうとも、どれほどの凄惨な現実があろうとも、ブレーキのない暴走し続ける二人の前には、何の意味もなさないのだ……!
エミヤオルタ、晴れてデミヤの称号を得る&キャットが なかまに なった!&今後はギャグシナリオ不可避、でした。
しかし、キャットを書くのは難しい。キャラがブレすぎて、どう表現していいのかよう分らん。まあ、逆に何をやらしてもキャットだからで通ってしまいそうな辺りが凄いところでもあるんだけど。
因みに、自分が一番書きづらいのはアンデルセン。あの絶妙な毒舌とツンデレとフォローは自分には出来んですよ!
あとシェイクスピアとかも苦手。作家系キャスターとは相性悪いなぁ、自分。好きなキャラなのに、書けない歯痒いよ。