※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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あああああぁぁぁ、マーリンの絆レベルがMAXになってしもうた。
絆礼装は強いけど、これで使いにくくなったなぁ。でも使う。おら、早く王の話と英雄作成、NPチャージするんだよ、あくしろよ。

そして、次のイベントは何が来るのか、復刻か、新イベか。はたまたアガルタが来ちゃうのか。

行くぞ、運営。確率操作の準備は十分か――――?


はいはい、そういうわけでCCC編第六話スタートぉ!


『真っ当な信頼に比べると異質で歪だが、なんのかんので信頼しているのが苦労人』

 

 

 

 

 

 タマモキャットを味方に引き入れた虎太郎であったが、彼女が負った怪我を鑑み、教会に戻り休息に入っていた。

 エミヤの手荒なKP排除もあって、怪我自体も重傷であったが、それ以上に精神的な傷の方が重傷であった。

 既に己を召喚したマスターの生還は絶望的、更には一宿一飯の恩義のあったBBを裏切った事実は、キャットの精神に深い傷を残している。

 玉藻の前(オリジナル)にしても、余程のことがなければマスターを裏切るような性格をしていない。

 そこから更に純真な部分を抽出したキャットでは、その性格、性質もより強く受け継いでいるのだ。

 

 もっとも、次の探索までには元の明るさと元気を取り戻すのであろうが。

 

 そして、この日もまた眠れぬ夜を過ごす虎太郎と眠る必要のないメルトリリスは、教会に空いた風穴を隔てて会話をしていた。

 

 虎太郎は教会側に、メルトリリスは教会の外で。

 休息中は教会の中に入らないという彼女の科白を、反故ギリギリのラインを守った状態で。

 

 

「これでSE.RA.PHの殆どを周り切ったわけだが、セラフィックスにあった施設の数が足りんな」

 

「あら、気付いていたの?」

 

「そらそうだろ。潜入先へ上手く潜り込むには、見取り図は必須だろうよ。後な、そうやって無理なキャラ付けしなくていいから」

 

「何がキャラ付けよ! 元々こういうキャラなの、私は!」

 

「えぇー? 本当にござるかぁ?」

 

 

 隠していた事実へ辿り着いた虎太郎に、メルトリリスは意地悪気な笑みを浮かべた。

 だが、虎太郎による呆れ顔の指摘とからかいに、激しい狼狽と必死の否定をして表情が崩れ去る。

 

 無理なキャラ付けというのも、あながち間違いではない。

 かつては冷酷で無慈悲な毒と蜜の女王であった彼女も、とある無名のマスターの奮戦により砕け散った。

 今此処にいるのは、かつてのメルトリリスとは決定的に異なる。BBによって誰かの奮戦はなかったことになった今も、その思い出は彼女の胸の内と腕に抱かれたままなのだ。

 

 

「で? 回っていない施設は何処にある? 背中側か?」

 

「ええ、お察しの通りよ。正確には裏側、というべきね。でも、これを行き来できるのはセンチネルだけ…………ごめんなさい」

 

「はん? 何で謝る?」

 

「だって、私は、何の役にも立てていない。貴方なら、私がいなくてもガウェインと合流し、トリやタマモ、あの黒い弓兵を味方につけていたはずだもの…………ふふ、こんな弱音を臆面もなく吐き出すなんて、私もいよいよ末期だわ」

 

 

 不甲斐なさと悔しさ、自身を縛り付ける制約に歯噛みして、彼女は泣き出しそうな顔でなおも笑う。

 SE.RA.PHにおいて一番最初に契約したのは私なのに。最高性能を持つアルターエゴなのに。

 一介のサーヴァントしてすら、悍ましい「快楽」の怪物(アルターエゴ)としてすらも、さしたる役には立っていない。

 

 単純な強さならば、ガウェインが上。

 巫山戯た言動は兎も角として、最高位のセイバーの性能、円卓の騎士の名は伊達ではない。

 

 持てる手数と技能の多さ、利便性では、エミヤが上。

 虎太郎とはあらゆる面で似通っており、性格的な相性は兎も角、能力的な相性は理想に近い。

 

 扱いやすさという点では、トリスタンとキャットが上。

 流されやすいトリスタン、言動はアレだが素直で単純なキャット。どちらも敵対を宣言する可能性はあっても、土壇場での裏切りだけはない。

 

 勘違いも甚だしい。

 余りにも自己評価の低い――――いや、逆だ。自己評価が高過ぎる故に、己の現状にまるで納得していない。

 それを周囲の所為にせず、己の責としている辺りも実に彼女らしい。

 知りうる情報を開示も出来ず、返せるのは戦闘技能だけにも拘らず、それですら十全に返せていない。

 メルトリリス以外にもサーヴァントがいる以上、彼女の存在価値は限りなく低くなっている。

 

 

「別に、そんなことはないんだが。得られた情報が正しいものであるかを判断できるのは何より重要だし、お前が言えない事実からある程度の推測も立てられるわけだしなぁ」

 

「…………でも、」

 

「弱気になりすぎだ。お前の力は強力過ぎるからな。問題があるのはオレの方だ。サーヴァントを巧く扱えん事実はマスターにこそ責がある」

 

「――――そ、そんなことはありません! ……あっ、いえ、ち、違う! 今の、今のなし! そんなことないのは事実だけど、喋り方は別に、その……ああ、もう!」

 

「…………………………そもそも、お前が手を貸すのが、納得できんのだがね、オレは」

 

 

 サーヴァントが全力を発揮できない事実は、マスターの能力不足に帰結する。

 それが魔力不足によるものにせよ、両者の関係性の構築不足にせよ、互いに修めた技能の相性にせよ。

 

 客観的な視点から、虎太郎はメルトリリスに問題があるのではなく、己にこそ問題がある、と嘲笑う。

 メルトリリスは間違いなく最強の一人。戦い方次第では、カルデアで虎太郎の帰還を待つ多くのトップサーヴァントでも打倒しうる。

 単に彼女の能力を十全に発揮させてやるだけの指示を出せず、必要な場面というものが訪れていないだけだ。

 

 だが、メルトリリスはそれを認めず、思わず敬語で虎太郎の言葉を否定した。

 敬語で接すること自体が恥ずかしいのか、かつての己とは乖離した今の己が恥ずかしかったのか。涙目でわたわたと慌てている。

 

 そんな彼女に何の感慨も抱かず、虎太郎は探りを入れる目を向ける。

 

 オレはお前を全く信用も信頼もしていない。

 これまで彼女が見せた奮闘も献身も、何も意味がないと言わんばかりに、疑いを隠しもしない。

 

 メルトリリスは僅かばかりに胸の痛みを覚えつつも、花の綻びを思わせる笑みを浮かべる。

 これが彼という人間。この世のすべてが疑いの対象である。何も自分だけに向けられているわけではない。

 付き合いの長いガウェインであれ、相性の良いエミヤであれ、扱いやすいトリスタンやキャットであれ、面に出さないだけで、誰に対しても常にこう。

 

 人であれ、英雄であれ、怪物であれ、変わりはない。ある種の平等さが、嬉しくもあり、悲しくもあった。

 

 

「別に、納得して貰いたいわけではないわ。私は、そうしたいからそうすると決めたんですもの。私以外が納得できる理屈も理由もない」

 

「…………それはそうなんだろうがな」

 

「でも、そうね。敢えて言葉にするなら――――貴方が新しい存在意義を入力したからよ」

 

「いや、それは…………」

 

「分かっているわ。此処まで付き合って、私なりに貴方という人間を理解できてきたつもりよ? アレは単なる偶然と完全な打算によるものだった。でも、私にはそれで十分だった」

 

 

 アルターエゴは作り物(BB)から生まれた作り物。

 材料(モト)となった感情に縋ることでしか、存在意義を保てない。

 初めから自壊することが定められ、それを理解してもなお走り続けるしかない哀れな怪物。

 

 そんな怪物に、虎太郎は新しい意義を入力してしまった。

 偶然、打算などという可愛らしいものによって、ではない。利用できるものは、人間だろうが怪物だろうが骨に至るまで利用し尽くすという悪意の下に。

 

 メルトリリスも全てではないにせよ、それは理解している。だが、それが何だと言うのか。

 

 

 ――――だって、ときめいたんだもの。

 

 

 醜悪な怪物に過ぎない自身に、どのような形であれ手を差し伸べた馬鹿な人間。

 信用も信頼も向けられないが、自身の向ける信頼には応えようとする捻くれた精神性。

 

 その全てが心地よく、胸がときめく。人は、それを――――

 

 メルトリリスの照れを隠すような拗ねた表情に、虎太郎は大きく溜め息をつく。まるで手を出すべきものでないものに、手を出してしまったと嘆くように。

 

 

「あら? いまさら後悔? でも、もう遅いわよ」

 

「だろうなぁ、オレはそういうのに関わるべきじゃないんだ……それを振り払うことも押しのけることも出来ないからな」

 

「………………嫌、なのかしら?」

 

「勿論、嫌だ。そんな(しがらみ)、オレの性質には合わないからな」

 

「――――そう、よね」

 

 

 虎太郎は珍しく呆れではなく、疲れを示す溜め息を吐き出した。

 

 今の人生は酷く疲れる。

 自身の魂の色や性質とは、まるで噛み合わない道程。

 選んだ選択自体が魂とは合わないのだ。言わば、魔術世界に於ける“起源”に逆らい続けるようなもの。それが、どれだけの苦痛であるかは余人には預かりしれない。

 

 それを続けてきたのは、ただの意地だ。

 恥知らずではあるが、恩知らずではない。ただ、その一念を貫くためだけに選んだ誓いと人生。

 所詮、自己満足と欺瞞に満ちた、独りよがりの報われない人生。疲れも溜まれば、弱音の一つも吐きたくなるだろう。

 

 虎太郎の疲れきった表情に、メルトリリスの表情も暗く沈む。

 彼女が見つけた救い、新しい光は――――自身の向ける感情を重荷と捉えている。こんなに哀しいことはない。

 

 

「だが、まあ、責任はあるからなぁ」

 

「別に、私が勝手に決めて、口にしただけだもの、貴方が付き合う必要なんて…………」

 

「いや、とことん付き合うよ」

 

「…………――――そ、そう。貴方が、そうしたいなら、そうすればいいわ」

 

 

 それこそ、彼にとっては理由も理屈も必要ないのだろう。

 お前がそう望むのであれば、オレはそれに応えるだけだ、と。憂いはあろうとも、迷いはない。

 

 彼の言葉にメルトリリスは一瞬だけ呆気に取られ、頬を染めて視線を逸した。

 言葉の響きは常と変わりなく。ただ言葉に込められた重みは、どれだけ本気であるかを伝えてくる。

 

 悲しみの向こうから現れた喜びを噛み締めながら、緩もうとする口元を必死で抑えた。

 

 

(…………アルブレヒト、アルブレヒト。素敵な貴方。どうか、私の手を離さないで――――)

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「しっかし、こんなんで本当に上手くいくのかねぇ……」

 

「何を言うか、コタロー。脇腹こそ人体の急所。エステサロン希望の星! 此処をくすぐられて平気な生物は存在しないワン! もんどり打って世界は裏返るって寸法なのだな!」

 

「そんな方法で位相が反転するとは思いたくないが……BBのすることだからな」

 

(エミヤんエミヤん、SE.RA.PHはBBの管理下にはあっても、支配下にはないんですよ。よって、なんでもかんでもBBの所為にするのは正しくない。教えてやらんけどな)

 

 

 メルトリリスの語ったSE.RA.PHの裏側は、単純に女体を模したSE.RA.PHの背中側にある、というわけではない。

 見た目はそうなのだろうが、行き来の権限はセンチネルにのみ与えられた特権であり、表側とは僅かに位相がズレているために通常の移動手段では行き来はできない。

 

 其処で虎太郎が嫌々選んだのが、BBの開設した霊子通販サイト『BBダイナー』で手に入れた、こちょこちょアームなるアイテムであった。

 形は玩具のマジックハンドにしか見えない。その陳腐さが、余計に虎太郎達の不安を煽っている。

 

 その『BBダイナー』であるが、嫌々ながらも虎太郎は度々利用していた。

 SE.RA.PH内には封印の施されたエリアが多数存在し、其処を開放するにはBBが作成したのか、はたまた横領したらしきゲートキーを使用して開放するしかなかったのである。

 サイトを利用する度に、BBの人を小馬鹿にしたコメントを頂いた虎太郎であったが、お返しとばかりに客観的な視点からサイトのダメ出しを長文メールで送るという暗闘を繰り広げていた。

 その度に、BBの態度に虎太郎は青筋を立て、虎太郎のド正論な批判にBBは涙目になりながらサイトの改装を繰り返すという無駄な争いを続けている。最早、二人とも意地であった。

 

 因みに、買うのに必要なのはサクラメントと呼ばれるSE.RA.PH内でのクォンタムピース――つまり、SE.RA.PHに飲み込まれなかった過剰リソースである。

 更に言えば、買ったものの配達員はロビン。こんなところでもコキ使われているとは、流石は不憫枠である。

 

 

『あー、どーもー!! BBダイナーの特別配達員ロビンでぇぇぇっす!! 開けてくれませんかぁぁぁ!!!(ヤケクソ』

 

『…………お前って奴は本当に。ホイホイ、判子は血判でOK?』

 

『どーでもいいからサインくれませんかねぇ!! こんな仕事やってやれませんわ!!』

 

『ああ、そう。差し入れやろうか? ほら、タマモキャットが作ったローストビーフサンドと缶コーヒーだけど、喰う?』

 

『…………喰う。あと、その哀れみの視線はやめてくれませんかねぇ。いや、ホント、本当に』

 

『ああ、うん、ゴメンな。オレ、そういう空気を読まなくてゴメンな』

 

『読めないじゃなくて読まないの辺りがヒデェ!!』

 

 

 窶れ切った表情で、ヤケクソ此処に極まれりといった感じに教会を訪れるロビンに、またも涙を流した虎太郎。

 有能な奴は酷使されるってハッキリわかんだね。割りとどの分野でも一定の活躍が出来る奴は好き放題に使われるのだ。その辺りもかつての己を連想させて、余計に虎太郎の涙を誘っていた。

 

 そして、やってきたのはフランク・セパレータという区域。直訳すれば、脇腹の分離という意味だ。

 セラフィックスにおける脱塩処理場が変化した地区であり、女体の脇腹に位置する。

 ここをアームでくすぐることで、位相をズラそうというのがキャットの考えであるのだが、いくらなんでもそれで反転しては遊びが過ぎるのではなかろうか。

 

 

「では――――そぉら! ほれほれほれ、ここか? ここがええのんかぁ? このスケベ女め、もっとやってやる! ほらほらほらほらぁ!」

 

「手付きも顔付きもイヤらしすぎる!!」

 

「おぉ、マジックハンドですらあの指の動きとは……これはドン引きなのだな!」

 

「流石、流石は虎太郎! 流石は性技の味方! それでこそです! 来ました、空間そのものが鳴動し始めて来ましたよ!」

 

(何故だ。奴が、セイギノミカタと呼ばれるだけで無性に腹立たしく、無性に泣きたくなるのは何故だ……)

 

 

 虎太郎がゲス顔でマジックハンドを操り、ビクンビクンと痙攣する女体。

 手付きから言動まで、どう考えても薄い本案件か、エロギャグ案件なのだが、当の本人はそんなことを気にしてすらいない。

 メルトリリスとキャットは虎太郎の姿に女としての警戒心からかドン引きし、円卓の三ドスケベの一人であるガウェインは目を輝かせ、エミヤは青筋を立てながら泣きそうな顔になっている。まさにカオス。

 

 位相が反転する前兆であろうか、地震の前触れのように彼らの立つ足元が空間ごと揺れている。

 虎太郎はノリノリでマジックハンドを操りながらも、マジでこれで上手くいくのかよ、と内心で呆れ返っている。

 

 

『ちょ、もっと優しく! 優しくイタズラしてくださーーーい!!』

 

「はぁ?! 優しくしてんだろうが、目一杯優しくしてやってるだろうが、オレの力加減は完璧だ。おらぁ! さっさと絶頂しちまえ! イけ! イキ死ね! ぶっひゃっひゃっひゃっ!!」

 

『だーーー!! それじゃあ全体に影響が出てしまいます! 目をつけられても知りませんよぉ!』

 

「うるせぇ! オレはな、好き放題にできる女の身体を見ると、無条件で絶頂させたくなるんだよぉ!」

 

「「……うわぁ」」

 

『もう、何なんですか、この人はぁ! センチネルさん、やっちゃってくださーーーーい!!』

 

「オッケー、やっと私の出番――――何よ、あの変態、怖い!!」

 

 

 やり過ぎだったのだろうか、突如としてBBチャンネルを介して顔を見せたBBは必死で止めようとしたのだが、虎太郎は自分の性癖に従うばかりで聞く耳を持たない。

 メルトリリスとキャットのドン引きぶりが最高にまで達しようとした時、BBから物理的なインターセプトが入る。

 

 現れたのは新たなセンチネル。

 シルエットだけを見れば、あの何度も出てきて恥ずかしくないんですか? アイドルことエリザベート・バートリーであったのだが、何だか黒い。兎に角、黒い。

 輪郭ばかりで愛くるしい表情も、ヤバめの衣装も見えてこない。リソースがないのか、BBの味方に対する嫌がらせであったのか、これではシャドウサーヴァントと変わらないではないか。

 

 だが、虎太郎はアイドルの登場を気にもとめずに手をいやらしく動かし続ける。

 そんな姿に思わず恐怖を覚える未通娘。これが、あのカーミラになるのだから驚きだ。彼女は結婚した後に多くの子供をポコポコ産むのだが、この初心っぷりを変えた夫の努力は凄まじいものである。

 

 

「虎太郎のスケベ案件の邪魔はさせません。私がお相手しましょう」

 

「ガッウェ院」

 

「まあ、聖剣をぶっぱするだけなのですが――――――“転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”っ!!」

 

「ちょ、ま! リ、リハとちが――――いやぁぁあぁぁぁあぁぁぁああぁ!! ドラゴンステーキになっちゃうぅぅぅぅうぅぅぅぅっっっ!!!」

 

「ハっ! 誰もテメェのステーキなんぞ食わないけどなぁ!!(邪笑」

 

 

 BBからの妨害を見越していたガウェインは、既にチャージの終了した聖剣を解き放つ。

 あらゆる不浄を焼き払う(ほむら)は、多くの若く美しい娘を犠牲に美貌を求めた竜の少女を、大した会話すらなく焼き払う。

  

 焔に飲み込まれる悲鳴に、虎太郎はざまぁねぇなとばかりに邪悪な笑みを浮かべたが、手は一切止まっていない。

 その手付きと来たら、彼女の未来であるカーミラが泣きだしても続ける愛撫のようである。

 

 文字通りのドラゴンステーキ――――いや、消し炭となったアイドルはSE.RA.PHから消え失せた。

 エリちゃん、君が悪いのだよ。アイドルというものを勘違いした君が。マリーの心意気と姿勢を学んでから偶像(アイドル)を名乗るがいい。

 アイドルとは本質的に、有象無象の豚どもに奉仕させる側ではなく、奉仕する側なのだ。

 

 

『ぐ、ぐぬぬ! 相変わらず遊びの欠片もない!』

 

「まあ、お前が悪いだろうな、BB。この男が、マトモに相手をしてくれるなどと思わんことだ」

 

『ま、まあ、いいでしょう。今回の妨害は以上です。何が待っているか分からない、ドキドキの裏面に――――』

 

「どーせ、待ってんのは、あの勘違いJKセイバーだろ? カモだぜカモ」

 

『ダメー! ネタバレは厳禁です! こうなったら更なるお仕――――待ちなさい。何のつもりですか、リップ。そんな命令は出していないでしょう?!』

 

「はぁ!? BB、貴方そんな手綱すら握っておけないの?!」

 

「――――ア――アア――アアアアアアアアア――――――!!!!」

 

 

 一体、何時の間に近づいていたのか。

 他のサーヴァントは言うに及ばず虎太郎も、いや、BBですらが予想していなかった。

 まるで()()()()のように、全ての自由が剥奪されたパッションリップが、忽然と現れた。

 

 彼女の咆哮に、SE.RA.PHが鳴動する。

 咆哮というよりも、寧ろ悲鳴だろう。自分が何をしているのか薄っすらとではあるが自覚しているが故の悲鳴。

 余りにも痛ましい姿。姉妹であるメルトリリスは元より、キャットとガウェインは警戒態勢を取りながらも、沈痛から表情を歪める。

 

 その姿に、同情すらしなかったのはエミヤと虎太郎のみ。

 エミヤはチッと舌打ちをし、そら見たことかと共同戦線を張ったマスターを睨みつけたが、虎太郎は全く別のことを考えていた。

 

 

(この最悪の状況下で最悪の怪物を放り込んでくる効率的なやり口は黒幕のそれじゃない――――やはり、BBは二人いる)

 

 

 彼は自らの推察が、正しいものであると確信していた。

 今のパッションリップに自由というものは何一つ存在していない。完全にBBの制御下に置かれているが故に。

 彼女に与えられた命令は、その瞳に映るモノ全てを破壊し尽くすことである。

 だが、それはBBという頭が命令して初めて実行される。

 

 リップの制御権が黒幕にこそある、という可能性はあったはあったが、恐らく、黒幕は最後まで表に出てくることはない。

 虎太郎が捉え始めている黒幕の性格は、冷酷で無情、愛情深くありながらも無慈悲というものであり――――何よりも、自分に酔っている。見える行動の端々から、それが垣間見える。

 そんな輩は盤面の外から登場人物という駒を操っている気になっている。それこそ、孫悟空に罰を食らわせた釈迦の如く。

 本人は直接的な手を下すことはなく、まずはBBを介して事態を掻き回す方向に動くのは間違いない。

 

 ならばこれは、慌てふためくBBの差し金でも、隠れたままの黒幕の思惑でもなく――――もう一人のBBが、独自の行動を取り始めたことを意味している。

 

 

(少なくともBBと、もう一人のBBは手を組んでいるが味方ではないようだな。そして、二人で黒幕を出し抜こうって腹か)

 

 

 見えつつある敵側の協力関係と相関図。

 BBの思惑は、少なくともこの事態の収拾と見て間違いない。その過程で自分も遊ぼうという邪さも垣間見えるが。

 もう一人のBBの思惑は不明。だが、BBと黒幕の間を渡り、自分の思惑を遂げようとしていることは伺える。

 そして、二人のBBが共同して当たらねばならないほど強大な力を持っている黒幕の思惑も、まだ完全には見えてこない。

 

 とは言え、今はやるべきことはパッションリップから逃げるのが最優先だ。死んでしまえば元も子もない。

 

 

「ガウェイン、任せる」

 

「承知――――っ!!」

 

 

 虎太郎の指示に、ガウェインが地を蹴り、音速すら突破する勢いでリップとの間合いを詰め、懐に潜り込んだ。

 

 だが、相手は怪物。

 懐に潜り込んだはずのガウェインに向けて、凶悪な爪を振り下ろす――!

 

 サーヴァントであろうとも一撃で引き裂く凶爪を、ガウェインは臆することなく真っ向から受けた。

 凄まじい衝撃と重量がガウェインの全身を襲う。骨は軋み、筋肉は悲鳴を上げる。

 それでもなお受け流せたのは長年戦場に立ち続けた経験と、鍛え上げた剣の冴えによるものだ。

 

 かつてのキャメロットは多くの外敵に襲われ続けた。

 如何に円卓においても随一の実力を誇るガウェインであっても、後塵を拝することは少なくなかった。

 しかし、その度に実直なガウェインは己を鍛え直し、王の騎士足らんと戦い続けたのである。

 

 今更、格上の怪物に恐れる筈などなく。また、遅れを取るつもりもない。

 

 

「無理はするな。視界と手が連動している能力はオレと同じ。腕の振りは速いが身のこなしは鈍い。リップの弱点は近接戦闘だ。付かず離れずの距離を維持して、後はランスロット戦法でいけ」

 

「成程、粘り続けろということですね! あの慇懃無礼な戦法は気に入りませんが、友の頼みとあらばこの死線、潜り抜けてみせましょう! あと、ラグネルへ私の勇姿を伝えて頂きたい!」

 

「言っている場合か、騎士ガウェイン! 早くこっちへ来るのだ! 太陽とて沈むことはあるのだぞ!」

 

「何の! 太陽は沈もうとも、私のラグネルへの愛はスパルタの熱い魂の如く不滅なれば! 何するものぞ、アルターエゴぉ――!!」

 

「ガウェイーーーン!! 騎士ガウェイーーーーーーン!!」

 

 

 リップの凶爪とガウェインの聖剣が激突する。

 

 その光景にキャットの悲痛な叫びが響き渡り、エミヤとメルトですらが固唾を飲んで見守っていた。

 見ている側が不安を覚える時間稼ぎに、ガウェインの表情に陰りはなく、虎太郎の顔にも憂いはない。

 

 虎太郎は出来ないことをやれとは言わない。対象の性能を見極めた上で、実現可能な仕事を投げる。

 故に、この任もガウェインならば生き延びて実行可能だと判断したに過ぎない。当人は決して認めないが、これもまた見ようによって信頼と言えるだろう。

 

 ガウェインもまたその信頼に応えるべく、前に出る。

 根が真面目な彼のこと、どれだけ友として接しようとも必ず騎士としての側面が顔を出す。

 彼にあるのはラグネルの下へと帰り、再会を祝うことではあるが、この眼の前の少女を救う為に戦うこともまた望み始めていた。

 

 彼の騎士道では、ついぞ巡り合わなかった“倒すための戦いではなく”ではなく“救うための戦い”。

 一人の騎士として、夢叶った男として。敗北するつもりもなければ、一歩も引くつもりもない。

 

 ガウェインの裂帛の気合が迸る。

 一人の騎士として仕えるのではなく、一人の友人として付き合うと決めてから、騎士としての本懐を満たせる機会に恵まれた皮肉に笑いながらも、両腕には生前以上に力が籠もる。

 筋肉は隆起し、心は猛りながらも冷静さを失わない。

 

 かつて、自己の不徳から王の破滅を招いた悔恨は既にない。

 今、彼にあるのは齢を重ね、円卓として戦い続ける中で見失った原初の騎士道そのもの。

 無垢で何も知らなかった頃に思い描いた、現実を知って捨てざるを得なかった騎士の姿だ。

 

 その笑みは、夢を叶えた喜びを噛み締める少年のそれだ。

 

 

「――――ク」

 

「何だ、その顔は」

 

「いや、別に。お前にも、あんな頃があったんじゃないかと思ってな」

 

「…………………………」

 

 

 虎太郎の周囲が反転する。位相がズレ、裏側への道が開いた。

 

 その直前、ガウェインの姿に自分でも分からないまま唇を噛み締め、泣き出しそうな表情で眺めていたエミヤの姿に、虎太郎は笑う。

 それは決して彼を嘲笑っているのではなく、何一つ面影がないほどに何もかも変質し腐り落ちた果てにすら、変わらないものがあるのだと安堵するかのようなものだった。

 

 





ほい、というわけで、メルトツン1割デレ9割&エリちゃん登場即退場&ガウェイン騎士の本懐を叶えられてニッコリでした。

因みにですが、CCC編のコンセプトは『少女の恋』と『少年の夢』。
少女の恋の方はイベントとそんなに変わらないかなぁ、と思いますが、少年の夢の方は色々と変わっていく感じで行きます。

どんな着地点につくかはもう決めてある。後は、その道筋がどうなるか。キャラが勝手に動くんだよなぁ、勝手に。
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