※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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取り敢えず、イベント鬼ヶ島クリアー!
今日も今日とてWマーリンの英雄作成と夢幻のカリスマが瞬き、金ピカのエアが唸る始末。コマンドカードの引きさえ良ければ、丑御前様もワンターンキル可能とかひでぇ。
あとはノッブも騎乗&神性特攻がヤバイし、師匠も死霊&神性特攻特攻が乗るのでヤバい。

さて、後はノンビリ素材を回収していこう。

そして、待ちに待った次章アガルタの配信が決定。どのようなシナリオになるのか、ムチムチぷりん褐色美女がぶっ壊れになるのか、気になるところですなぁ……!


では、裏側へ突入した苦労人の暴挙をご覧あれ。



『そもそも苦労人がどうでもいい相手とまともに戦ってやるわけがない』

 

 

 

 

 

「ここが、裏側ね。表側と代わり映えはしないか……いや、何で日本建築やら観覧車があるんだか」

 

「さてな、此方側のセンチネルの趣味ではないか? 間取りも違う。間違いないだろう。無事、到着ということだ」

 

 

 世界が裏返り、唐突に五感が機能を取り戻す。

 一同は一度全身が溶けてから、再び自身の形に戻るような感覚を味わいながらも、何の問題もなく地面へと立つ。

 

 周囲を見回してみれば、遠目に日本の城や観覧車が配置されており、それらを映えさせるように紅葉の木々が植えられている。

 

 

「なぁにが無事なものかぁ! ガウェイーン置いてけぼり案件!」

 

「オレが奴なら出来ると判断し、ガウェインはそれに納得して残った。何か問題があるか?」

 

「ぐ、ぐぬぬ……ならば早く表側に……!」

 

「いや、その前に此方側の探索も最低限済ませる。ガウェインならリップの性能を考慮しても、SE.RA.PH時間でも最低五時間は持つ」

 

 

 視点上において掌で覆えるものならば、何であれ問答無用で圧縮するトラッシュ&クラッシュ。

 極めて危険な能力であり、破格の防御性能を誇るカルナの黄金の鎧ですら、鎧ごと圧縮されてしまう可能性がある。

 

 だが、付け入る隙がないわけではない。

 メルトリリスが攻撃・殲滅を目的に作られたアルターエゴならば、パッションリップはその対極。防御・防衛を目的に作られている。

 

 故に、鈍重だ。

 腕の振りは速いが、身のこなしは戦士として余りに鈍い。

 彼女が捉えられるのは“遠くにある、動きの遅いもの”であり、“近くにある、動きの速いもの”には対応しきれない。

 元々の運用想定として、何処かに居を構えて動かずに防衛に当たることを前提に設計されていたのだろう。

 

 問題は、リップの怪物性。

 あの極めて凶悪な爪から繰り出される攻撃、爪を潜り抜けても待ち構える頑強かつ強靭な肉体。どちらもサーヴァント、英霊の域からすら外れている。

 虎太郎の下に集ったサーヴァントにおいて単純な力で対抗できそうなのは、剛力の代名詞たるヘラクレスか、怪物たるアステリオスくらいのものだろう。

 

 一撃でもまともに喰らえば、後は為す術なく押し切られた末の死。

 その極限下に立ち続けられるだけの精神性と衰えの見えない技量を持つのは、現状でガウェインしかいない。

 そしてガウェインならば、勝てないまでも易々と負けはしない。時間稼ぎの指示も出した。彼も虎太郎の意図は分かっている。十分過ぎるほどに役割を果たして見せるだろう。

 

 

「お喋りはそこまでよ。裏側に来て早々、センチネルのお出迎えよ」

 

「あ゛ぁぁあぁぁ!!! 見つけたぁあぁぁぁぁああっ!!!」

 

「誰だっけ? どちら様でしたっけ? オレ、名前も知らない人と話すなって教育されてるもんで」

 

「そりゃ名前も知るわけないじゃん! 名乗る前に訳わからない煙幕張って逃げたっしょ!! あの後、アタシがどれだけボロボロ涙を流したか、分かってる?!」

 

「うーん、人違いじゃないですかねぇ、記憶にございません。ほら、オレの親父もヤリチンだったもんで、腹違いの良く似た兄弟が居ても不思議じゃないから、唐辛子入りの煙幕焚いて逃げたのはきっとオレの弟だよ」

 

「ダウトォっ! つーか、今、自分で種明かししたわよねぇ?!」

 

「おぉっとぉ、墓穴掘っちゃったぜ(テヘペロ」

 

「大したド外道っぷりなのだな。余りの煽り性能に、キャットは思わず苦笑い」

 

「明らかに自分で意図して明かしてたわよね」

 

「見ろ、あのセイバーのサーヴァント。碌に会話もする気もなく刀を抜いたぞ」

 

 

 メルトリリスが察知したのは、通路を全力疾走で向かってきたJKセイバーこと、鈴鹿御前である。

 その表情たるや鬼女のそれ。SE.RA.PHに来た当初、虎太郎特性唐辛子入り煙幕によって、文字通りに痛い目を見たのを根に持っているらしい。

 

 エミヤは嫌そうな表情で首を振り、剣を抜いた鈴鹿御前に対抗するため、根本から改造を施した二丁拳銃干将・莫邪を構える。

 

 一触即発。怒髪天衝。

 一秒先には血の雨が降りそうな状況下においても、虎太郎はへらへらと笑っているだけである。

 

 

「アンタぁ?! 名前は?!」

 

「花京院テンメイでーす!」

 

「かっしこまりぃ!! テンメイね! アンタの墓石にきちんと刻んであげるっしょぉ!!」

 

「うーん、このカモっぷりよ」

 

「あれ? あれあれ? 私、なんか笑われてない? おかしくな――――……ちょっと待って。貴方達、なんかヘンなの連れてない?」

 

 

 怒りの余りに判断能力の低下していた鈴鹿は、虎太郎の偽名をあっさりと信じ込む。

 そのカモが葱と他食材と出汁と鍋と携帯コンロまで持ってきたと言わんばかりの姿に、エミヤは失笑を、キャットとメルトは哀れみが行き過ぎて引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 サーヴァント達の妙な反応に違和感を覚えつつも、表情を見回していた鈴鹿であったが、ビタリと固まる。

 虎太郎への怒りは何処へやら。それすらも忘れてたった一人へと視線を注いでいた。

 

 

「ん? なんだそこのパチモン狐? アタシに何か気になるところでも?」

 

「パチモン狐じゃないっつーの。つーかそっちのがパチモンだし! なんかむかつく、何故かすっごいむかつくわアンタ。巫女で? 狐耳で? かつネコで? 良妻系?」

 

「……最後の良妻系、は何処から来たのかしら……一目でそうわかるものがあるというの、あのネコに?」

 

「いや、あのステンノやらドラ娘が雇うレベルらしいからな、家事スキルは相当のものと見たね、オレは」

 

「あのネコの手で? ああ、いや、包丁を使う時はそう教えるが、あくまで比喩表現なのだが……しかし、やはりそうか、あの身のこなしはそういう……」

 

「そ、そうなんだ……家事スキル、アナタ達も重要だと言うのね……」

 

(微妙に落ち込んでるメルトは兎も角、デミヤェ、お前そんなんなっても家事のことを忘れられないのか。ブラウニーの英霊すぎぃ!)

 

 

 とある並行世界において、本体の方と因縁のある鈴鹿は、尾の一つであるキャットを目聡く発見すると敵意を剥き出しにした。

 彼女は並行世界の記憶など持っていないはずだが、魂に刻まれた腐れ縁という奴は記憶がなくとも本能的に相手を嫌うのだろう。

 

 そんな二人のやり取りを眺めていた虎太郎の漏らした一言に、メルトとエミヤが反応を示す。

 

 メルトは自分の両手に視線を落として思わずしょんぼり。彼女は生まれついての神経障害持ち。

 特に、両手の先の感覚はほぼなく、細かい作業は苦手中の苦手。家事スキルを身に着けようにも、相当な努力が必要となるだろう。

 

 エミヤは顎を擦りながら、キャットの一挙一投足から推察していた家事スキルの高さに一人で納得していた。

 理想を捨て去り、失墜しようとも。魂が腐り落ちていようとも。SGである『奉仕体質』は今持って健在ということか。

 

 

「あーもう、マジムリ! 因果的にムリ! ぶっ殺すわ、ドラ猫狐! BBに案内してやってって頼まれたけど、売られたケンカは買ってやるし!」

 

「えー、ケンカを売った覚えはないんですけどぉー。寧ろ、ケンカを売られた方だと思うんですけどぉー。なー、キャットぉ?」

 

「なー、コタロー? なはは! この際、コタローが何をしたかは棚上げなのだな! どーせ、ギャン泣きさせたのであろう? 何せ、奴はJK擬態の根は真面目な純情パチモン狐と見た!」

 

「ムッカー! やってやろーじゃん!!」

 

 

 虎太郎とキャットは二人揃って鈴鹿を煽りに煽る。

 相手を怒らせて冷静さを失わせてやろう、と考えているのは虎太郎だけで、キャットは完全にノリと勢いである。

 普段は此処まで相手を怒らせれば、ジャンヌやアルフレッド、呪腕やロビンが止めに入るのだが、生憎と虎太郎の周囲に彼等はいない。

 おまけにキャットがアクセルを踏み込むので、最早二人の勢いと来たら、もう暴走トラックの領域である。

 

 

「こんの駄狐ェ――!」

 

「おぉっと、それは自分のコトか? それはそれとしてコタローは危険だから下がっておれぃ!」

 

「ぎゃひん――!」

 

 

 握った刀を振り上げ、大上段から振り下ろす鈴鹿。

 対し、キャットはコタローのケツを蹴り飛ばす余裕を見せながら、文字通りの猫の手を振り上げた。

 

 刃と爪が激突し、火花を散らす。

 巫山戯た態度を取ってはいるが、キャットもまたサーヴァント。自重なく、自粛なく、自制もない。あるのはただ自爆だけ――と称されようとも、その野性に根ざした強さは本物だ。

 

 鈴鹿御前は稀有な戦い方をしていた。

 三振りの宝剣を有し、内一本を手で振るい、残りの二本は鈴鹿の周囲に浮遊し、担い手の意志に応じて自在に襲いかかる。

 時折、浮遊している一刀を手にすることもある変幻自在の三刀流。

 

 キャットの持ち前の反射神経と勘で縦横無尽に迫る宝剣を捌きながら、果敢に攻めに出る様は腐ってもバーサーカーといった所か。

 

 

「いってぇ……ケツが二つに割れた」

 

「元々割れてるわよ。ちょっと、キャットは其処まで強く蹴っていないでしょう? 早く立って指示を頂戴!」

 

「いや、キャットの足の爪がケツに突き刺さった。これ血ぃ出てるぞ。菊門(あな)に刺さらなくてよかった。そんなんなったら切れ痔ってレベルじゃねーぞ」

 

「………………」

 

 

 尻肉に突き刺さったキャットの爪の鋭さに顔を顰めながら、虎太郎はケツを擦りながら立ち上がる。

 

 思った以上に傷を負っていた虎太郎に、メルトはキャットが内心では全くと言っていいほど味方となったことに納得していないのでは、と不安になるが、首を振った。

 何せ、味方をするのがコレなのだ。自分でも、味方をしているのに疑問を抱いてしまうほどの人物なのだ。キャットには許容範囲を超えていよう。無意識の内に危害を加えてしまっても無理はない。

 

 

「………………見たところ、あのサーヴァントに与えられたKPは、攻撃には影響が出ていないようだが」

 

「やべぇ。スボンのケツのところに穴が空いてる。なーなー、エミヤ。ズボンを投影してくれないか?」

 

「ええ、スズカに与えられたKPは攻撃への耐性。ほぼ全ての攻撃は衝撃から効果まで十分の一にまで削減されてしまう」

 

「おい、無視か、いい度胸だな。へっ、いいよいいよ。自分で予備のを持ってきてるもんねー」

 

「成程。唐辛子入りの煙幕とやらが効いたのはその為か。効果を削減されても眼球自体は刺激に弱い。十分の一でも、それこそ十分だろう」

 

「ところでメルト、こいつを見てくれ。どう思う?」

 

「…………すごく、品がないです…………レディに対して自分の下着を見せるなんて、どういう神経をしてるんですかぁぁぁ――――!」

 

「ふ、またしても敬語に戻してしまったな」

 

「少しは真面目にやれ。あんなモノに付き合うのも馬鹿馬鹿しいのは分かるが、難敵であることに変わりはあるまいに」

 

「いや、なに。お前らの話を聞いて攻略法を思いついた」

 

((…………絶対にまた碌でもない手だ))

 

 

 新しいズボンに履き替えながらにんまりと笑う虎太郎に、メルトは白目を剥き、エミヤは目頭を押さえて首を振る。

 出会ってから日の浅い二人であるが、虎太郎の手段は目に余る。吐き気を催すような手段もあれば、敵を徹底しておちょくるために馬鹿馬鹿しい手段までも用いる。

 その範囲の広さと来たら、二人の予測の範囲外だ。正攻法も使えば、邪法も使う。其処に方向性というものが存在しない故に、誰にも先が読めない。

 

 

「というわけで、ほい、これをパス」

 

「ガスマスク……毒でも使うつもりかしら? 確かに蓄積するタイプの毒物なら効果は期待できるけど、私達が押し切られる方が速い。浅はかね」

 

「浅はか? バカを言っちゃいけない。囮はこっち、本命はこれ」

 

「何よ、それ……?」

 

「ああ、そうか。それは効果的だな。現状で倒しきれない以上、撤退させた方が理想的だ。だが一言だけ言わせろ。貴様は鬼か」

 

「はい? ただの人外の血を引いただけのか弱い人間ですけど?」

 

 

 蔵の中から取り出したであろうガスマスクをメルトとエミヤに投げ、両手に握った物体を見せてニッコリと笑う。

 メルトは愚策であろうことを予見して眉を潜めたが、エミヤはそれこそ信じられない表情で虎太郎を見ていた。

 

 それもその筈。彼であっても絶対に選択しない方法だ。

 仮に思いついたとしても馬鹿馬鹿しすぎて絶対にやらないと断言できた。

 

 

「うぉぉぉおぉぉ、死ねぇぇぇえぇぇ、キャットォ! ……じゃなかった、避けろぉぉぉぉ、キャットォ!!」 

 

「うーん、この本音。とは言え、援護感謝する、ゾっ!」

 

 

 思わず飛び出た虎太郎の本音に反応し、鍔迫り合っていたキャットは、鈴鹿の腹を蹴って大きく飛び退いた。

 

 

「――ぐぅっ! ……ハッ、何それ。マスターだったら、ウィザードスキルの一つでも身につけたらどうなの?」

 

「うるせー! ウィザードスキルが何なのか知らねーけど、こちとら魔力を一ミリも持たん身じゃーい!!」

 

 

 飛び退いたキャットの下を潜るように虎太郎が投擲していたのは、一つの手裏剣であった。

 中央の輪から四方に伸びる刃の羽。俗に平型、或いは風車型手裏剣と呼ばれるもの。

 だが、大きさが通常のものとは異なる。羽の端から端まで1m。何処に直撃しても大量出血は免れない。

 

 けれど、それは一般人に対して、或いは歯牙に掛ける必要もない弱小魔族までの話。人知を超えた英霊に対しては、余りにも心許ない。

 

 

「個性的なのは認めるけど、無能の上に無価値とか、ダッサすぎぃ!」

 

 

 浮遊する宝剣を虎太郎の攻撃を嘲笑うように射出させるや否や、地を這うように回転して迫る手裏剣の中央部分を穿ち、地面へと突き刺さる。

 自然、手裏剣は勢いを殺され、それ以上鈴鹿に迫ることは不可能となった。

 この程度の不意打ち、サーヴァントに対してダメージを期待することなど出来ない。サーヴァントを知るマスターであれば当然の帰結。

 

 ――即ち、この手裏剣は鈴鹿の視線を釘付けにするためだけの囮だ。

 

 

「キャット、これを被れぇっ!」

 

「これはガスマスクなのだな? ……ん? んん? あ、アレは! アレはヤバいワーーーン! 素直に装着!」

 

「だーかーらー、ダサすぎだっての。メルトがそっちに居るのは聞いてるんだから、毒に対する対策だって十分過ぎるくらいに練ってるし!」

 

「毒だと思った? 残念! スウェーデン産の缶詰でしたー!」

 

「――――はい?」

 

 

 本命は、弧を描くように放り投げた缶詰だ。

 黄色と赤のパッケージ。北欧産であるが故に日本の気候に合わなかったらしく、発酵が進んで発生したガスでパンパンに張りつめている。

 

 キャットの視線に釣られ、鈴鹿の視線も自然と缶詰に伸びたが、彼女には理解不能の物体であったが故に、警戒すら浮かんでいない。

 

 未来出身のエミヤはその存在を十二分に知っていた。まだ腐り落ちる以前、興味本位で手を出して心底後悔した経験があった。

 メイド喫茶にて修行をしていたキャットは聖杯(ムーンセル)から与えられる以外の知識も保有していた。実際に体験をしたことはないが、鼻の効く自分は地獄を見るだろうと考えていた。

 だが、鈴鹿は“それ”について何も知らない。聖杯がそんなものの知識を与えるはずもなく、彼女の生きた時代の日本には缶詰なぞ存在しなかった。

 

 

「ちょ、ちょっと待って、待ちなさい! わ、私、私まだガスマスク付けてない! 付けてないわよ! くっ、この――私だって、こんな、程度ぉ――!」

 

「バっ、どんだけ不器用ちゃんだ、お前は! 屈め! はよ屈め! オレが付けてやるから!」

 

「メルトちゃん! 意地を張るのは良くないワン! いや、ホントマジで! 今回ばかりは虎太郎に助けられろ!」

 

「――――恨むなら、自分の性格を恨むんだな。お前のような女、この男がまともに相手をする筈もない」

 

 

 わちゃわちゃと慌てている三人を尻目に、ガスマスクを付けたエミヤは、どこまでも冷徹(クール)に、ハードボイルドに引き金を引いた。

 

 

「わひゃっ?! ――――か、あ――――はっ――――くっ」

 

 

 銃弾は寸分違わずに缶をぶち抜き、破裂させる。

 破裂した缶からは白く濁った液体が飛散し、困惑していた鈴鹿は頭から被ってしまった。

 

 瞬間、鈴鹿は硬直したかと思えば、ぶるぶると震え出す。

 

 悲惨な目に合っている鈴鹿を前にして、ライバル認定されたキャットはうわぁと口元に手を当てて、哀れみの視線を向ける。ガスマスク越しに。

 エミヤは無言で首を振り、過去の記憶から這い出してくる、あの匂いに吐き気を催す。ガスマスク越しに。

 メルトは肩で息をしながら、何とか装着が間に合いながらも自身の不様さとギリギリさ加減に涙目になっている。ガスマスク越しに。

 

 

「くっさぁぁぁあぁぁああぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁあぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

「へっ、どんなもんだ。シュールストレミングの臭いはよぉ! いくらKPでもよぉ、臭いまでは十分の一に出来ないよなぁ!」

 

 

 そして、鈴鹿の絶叫が響き渡り、虎太郎のゲス笑いが続いた。

 

 シュールストレミング。

 世界で一番臭い食べ物。最早、その臭いは兵器の領域。開缶で噴出したガスにより失神する人間もいるレベルである。

 しかも虎太郎が投げた缶は、原材料であるニシンがほぼほぼ原型を留めていないレベルにまで二次発酵が進んでいる。悪臭の原因であるプロピオン酸、硫化水素、酪酸、酢酸も大量に生成されていることだろう。

 因みにであるが、25年放置されたシュールストレミングが発見された際には、爆発物処理班と缶詰の専門家が出動して処理に当たった事例も存在している。

 

 

「はぁあぁぁっ! 臭い! くさいくさいくさい! 目が痛い、口になんか酸っぱいのが入ってくるぅぅぅ!! かはっ、待って、マジムリ。呼吸もできない、気分も悪くなってきた……」

 

「おら、さっさと退け。そのままだったらゲロ吐きヒロインの名を頂戴することになるぞ。そんなんサーヴァントとしてもJKとしてもないだろ? ざばっと顔と首を洗って出直してこい、オレは忙しい。肌が裂けるまで洗おうが、頭がハゲ上がるまで髪を洗おうが、そう簡単に臭いは落ちんがなぁ!!」

 

「……う、うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁん!! カズくぅぅぅぅぅうぅぅん!!」

 

「カズくんって誰だよ」

 

「さぁて。SE.RA.PHのサーヴァントにマスターはいない故。何処ぞの聖杯戦争で運命的な出会いを果たしたのではないか?」

 

「よくJK擬態(モーフ)に付き合うマスターがいたもんだ。オレならあんなサーヴァント即自害させるわ」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「…………裏側では、有益な情報を得られなかったな。とんだ無駄足だ」

 

「むぅ。それはそれで仕方なし。では、ガウェイン卿を助けに行くとしよう」

 

「いや、待て。このまま管制室に向かうべきだろう。裏側から表側に戻ればパッションリップを回避も可能なはずだ」

 

「相も変わらずサーヴァント不信なのだな、デミヤは。では、メルトの意見はどうなのだ?」

 

「私からは特に。二人ともそれぞれに理があるもの。それに、最終的な判断は(マスター)の仕事でしょう? 私はそれに従うまでよ」

 

「…………」

 

 

 鈴鹿御前を退けた一行は、今現在足を踏み入れられる区域(エリア)は回りきっていた。

 だが、表側と代わり映えはせず、違いと言えばSE.RA.PH化する前のセラフィックスにあったであろう魔術的な防衛システムが生きていたことくらいだ。

 アニムスフィア家にとって重要な施設は、殆どが此方側にあったのだろうが、SE.RA.PH化に伴って何らかの記録や情報を手に入れられなかった。

 

 だが、決して無駄足ではなかった。

 

 

(裏側に人間が立ち入った形跡がない。つまり、一連の流れとして、セラフィックスで異常事態が発生して職員は全て管制室に集まった。その後、倫理が崩壊し、カルト化。天体室が開けられて、SE.RA.PH化したわけか)

 

(この流れは確定だ。此方側に人の痕跡がなかったことがその証左。だが、異常事態からSE.RA.PH化まで、2ヶ月近い時間が掛かっているのは、魔神柱が間抜けだったのか。それとも天体室自体はSE.RA.PH化のエネルギー源や進行を加速させているだけで根本原因ではないのか)

 

(……とすれば、ロマニから聞いている魔神柱の能力的に、関係がありそうなのはゼパルだが、当たりでも引いたか? しかし、当たりを引いたからと言って、当人にとって幸運であるとは限らないがな)

 

 

 魔神ゼパル。

 伝承においては、人の情欲をコントロールするとされ、更には女性の愛情を操りもすれば、女性を不妊にするとも、人間の形を変えるとも。

 

 ロマニ曰く、ゼパルの持つ真の権能は人に取り憑いた上で精神を操り、更には宿主の記録――並行世界の記録ですら――を閲覧し、引き出すというもの。

 精神操作は形を変えて、情欲や愛欲の操作として伝承に語られ、宿主の記録の閲覧と引き出しは、不妊と形を変えるものとして伝えられたようだ。

 

 

(しかし、黒幕とゼパルの関係性が見えてこないな。協力という訳ではないだろうが、ゼパル側の思惑と作為がまるで感じ取れないのは何故か)

 

(ふむ、ビースト案件だと分かっちゃいたが、魔神柱案件ではないのかもな)

 

 

 ボンヤリとしていた事件の全容が、徐々にではあるがハッキリとした輪郭を帯びてきた。

 新たな情報は得られなかったが、情報を得られないなら得られないなりの理由が必ず存在する。そして、その理由もまた別の理由に繋がり、別の情報となり、或いは情報を補強する。

 

 既にソロモン王であったロマニ・アーキマンから伝え聞いたゼパルの能力から、今回の事件の発端はゼパルにこそあると当たりを付けていた。

 四柱の魔神柱を最後の決戦で取り逃しているのは周知の事実。いずれ復讐か、各々の目的を達成するために激突するのは必定。ならば、各々の能力や性能の情報を手に入れておくのは当然のことだ。

 

 

「……お前らな、そもそも表側に戻る手段がないんだがね。どうやらあのマジックハンド、一回こっきりの使い捨てみたいだな」

 

「はぁ?! ど、どうするつもりなのだ! 表側に戻れねば、騎士ガウェインは助けられない上に、お主も消えてしまうのだぞ!?」

 

「落ち着きなさい、キャット。BBは間抜けだけどね、考えなしではないわ。表側に戻る手段は用意してあるわよ。もっとも、サクラメントを要求されるか、無茶な依頼(クエスト)を達成しなければならないでしょうけど……」

 

「……そこんとこ、どうなんだ? ロビンさんよぉ?」

 

「………………人が宝具使ってんのに、こっちの存在を察知するの止めてくれませんかねぇ」

 

「…………っ!」

 

 

 裏側に来てから常に感じていた視線が、此処に来て強さが増した。

 それだけの理由で、何もない空間に向けて虎太郎が声をかけると、大きな溜め息と共にロビンが姿を現した。

 

 外套型の宝具“顔の無い王”を解除しつつ、両手を上げていたのは交戦の意志がないことを示している。

 キャットとメルトが警戒を露わにし、エミヤは殺意を隠そうとすらしていなかったが、そのやる気のない態度に肩透かしを食らったらしく、攻撃にまでは至らない。

 

 

「姿も気配も消せる“顔の無い王(お前の宝具)”でも、視線は消せない。他にも色々と消せないものはあるだろ?」

 

「成程ね。カルデアとやらにゃぁ、別個体のオレも居るわけですかい? そりゃ、型無ですわ。こちとら英霊と呼ばれるのも憚られる弱小サーヴァントなもんで」

 

「弱小ねぇ、どの口でほざくんだか。それより、ほらよ」

 

「おっ、とぉ。コイツぁ……サクラメント? 何のつもりで?」

 

「どーせお前とBBのことだ。色々と算段と保険がついたから俺達の前に現れたんだろ? 情報か運賃か、それとも通販か。それで足りるか?」

 

「……話が早くて助かりますよ。こっちとしても、こんな仕事、さっさと片付けたいもんでね」

 

 

 虎太郎が先に投げ渡したサクラメントの正当な見返りとして、ロビンもまた一つの物品を投げ渡した。

 こうなることを予見して、ロビンがBBの下から無断で拝借してきたものである。少なくともサクラメントを回収できるのならBBも文句は言えないだろう。

 

 それは何の変哲もない鍵だった。少なくとも見た目としては。

 しかし、鍵を手にした虎太郎は違和感を覚え、エミヤは鍵の構造を解析した瞬間に眉を顰めた。

 

 

「何でも『心の枷』を壊せる『心の鍵』だそうですわ。これを使えば、表側で自分の意志に関係なく暴れている嬢ちゃんを救えるとか」

 

「パッションリップをか? 話にならん。あの怪物を救うだけの利益(メリット)がない。BBなんぞの口車に乗るつもりではあるまいな、虎太郎」

 

「乗らざるを得んよ、この場合。SE.RA.PHを自由に回るにはセンチネルの打倒は必須。何より、“()”がパッションリップを本気で運用し始めたら手がつけられん」

 

「そっちの黒いの、あの嬢ちゃんを味方に引き入れるのを警戒するのは当然だ、何せ怪物だからな。だが、このまま“()”の手の内にある方がヤバい。なら、制御が利かんでも、近くに置いといた方がマシってもんでしょうよ」

 

 

 パッションリップの能力を最大限生かした運用方法としては、敵全てを視界に収められる遠方に配置し、問答無用でトラッシュ&クラッシュによって圧縮することだ。

 彼女の視力が通常の人間程度でも十二分。何せ、彼女の能力は標的を視界に収めてあるだけでいいのだ。標的を人やサーヴァントから特定の空間に変更してしまえばいい。

 空間ごと圧縮されては、どれだけの能力を有するサーヴァントであれ、離脱は不可能。虎太郎としても瞬神による空間転移を用いるしかない。

 一度でも転移先を誤ってしまえば、じりじりと追い詰められる。ならば、現状、リップを遊ばせている状態で、此方から打って出た方が、まだ勝算は高い。

 

 

「――――……チっ」

 

「……ん? 緑茶は随分とコタローの肩を持つのだな?」

 

「いや、別に。オレはBBの味方だが、それはあくまでも肉体的な話であって、心情的には敵対関係も同然だからなぁ。倒してくれるなら、それはそれでいいさ」

 

(危ねぇ! このケダモノ、ふざけた態度の癖に勘は妙に鋭いときてやがる……!)

 

「で? 納得したか?」

 

「納得などしかねるがね。だが、確かに理と利があるのはお前の選択だ」

 

 

 虎太郎の問いかけに、エミヤは不満を飲み込み、理と利に従う。

 己の能力として狙撃も可能ではあるが、放った弾丸ごと圧縮されてしまう可能性もある。エミヤとしても遠距離戦を挑む気にならない相手であるのは認めざるを得ない。

 

 ならば、より確実な方法を取るまでのこと。

 近距離で動き続ける限りは、トラッシュ&クラッシュも宝の持ち腐れ。それでも残った腕力と頑丈さは脅威ではあるが、それだけならば凡百の怪物と大差はない。

 打倒ないし無力化できる可能性は、此方の方が上。何より、どさくさに紛れてリップを処理できる可能性もあるのだから。

 

 

「じゃあ行くか。アレだけ払ったんだ、他にもサービスはあるんだろ?」

 

「そりゃ勿論。BBからマジックハンドは貰ってるから、このまま表に向かえますよ」

 

「そいつは重畳。で、ガウェインは死んでないよな?」

 

「そっちも勿論。あの騎士様と来たら、ゴリラ属性と白馬の王子様属性を全開にして立ち回ってやがる。月の頃から知ってはいたけど、開いた口が塞がらないとはこのことだ」

 

「決まりだな。ガウェインと合流、リップを救出した後に、そのまま管制室に向かう。お前らの意見を取り入れた上での順序だが、こんなものだ。問題と異論はあるか?」

 

 

 メルトは仕方ないわねとばかりに肩を竦め、キャットは笑顔と共に頷き、エミヤは両腕を組んで不満げに鼻を鳴らす。

 それぞれ思うところはあれども、異論を挟む余地のない判断と認めたらしく、口を開くことはしない。

 

 彼等の様子に納得した虎太郎は頷くと、ロビンを見た。すると、ロビンは外套の下からマジックハンドを取り出して、床をくすぐり始めた。

 

 

「おい、どうしたお前。もっと気合入れてやれよ、それでも男か!」

 

「冗談じゃねぇですよ! アンタみたいにあんなノリノリでやる気になんてならねぇっすわ!」

 

「この……! オレにやらせろ! オレがマジ泣きさせて絶頂させてやっから!」

 

「BBにアンタに持たせるなって言われてるんだよ、こっちは! アンタがやりすぎたせいで、通路のテクスチャが剥がれたりとかメチャクチャに繋がったり被害出てるの分かってますぅ?!」

 

「うるせー! そんなもん、オレが知るか! 困るのはBBだろうが! よーこーせー!」

 

「やーめーろーっっ!!」

 

 

 ロビンからマジックハンドを奪い取ろうと腰に抱きつく虎太郎。

 虎太郎のからマジックハンドを奪われるのを、相手の顔面を片手で掴みつつ制し、もう一方の手で器用にこちょぐるロビン。

 そのコント地味た光景を笑えばいいのか呆れればいいのか分からないといった、何とも言えない曖昧な表情で眺める三人。

 

 しかし、そうしている間にも、SE.RA.PHは鳴動し始める。

 此方側に来た際にもあった前兆だ。これで問題なく、表側に戻れるだろう。

 

 待ち受けるセンチネルにしてアルターエゴ・パッションリップ。

 いずれ倒さねばならない敵には違いない。それを放置しておく虎太郎であるはずもなく。

 手段があるのならば迅速かつ早急に。問題を解決し、己にとって最大の利を得るのが、彼のやりようなのだから。

 

 





というわけで、全編に渡ってシリアス皆無&鈴鹿御前クソまみれよりも酷い目に&御館様ロマンが生きてるのを利用して魔神柱対策を練りつつあった、でした。

書けば書くほどBBちゃんと鈴鹿御前が酷い目に合っていくなぁ、これ。
いや、性格的に相容れない上に、主人公の性格も容赦がないので歯止めが全く効かない状態。ここで主人公が理由もなく手を抜いてしまうとキャラがブレるんだよなぁ……。

最後までこんな感じでいくのか。それとも、BBちゃんと鈴鹿の逆襲が成功するのか! 乞うご期待!(ネタバレ:逆襲が成功する!)
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