※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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アガルタの女キターーー!!
あのムチムチプリンな褐色美女が来るのか。回すぜぇ、超回すぜぇ……!
しかし、あの予告画像のキャスターはちょっとないな。うん、ない。
い、いや、実装までには何とか修正されるさ。そうでもなくても実物を見れば、全てが吹っ飛ぶさ。最終絵はきっと極エロさ。




『苦労人の敵は碌なことをしない。自分で自爆した上で周囲を巻き込むとか最低にもほどがある。その分、相棒が有能なので釣り合いは取れているけど』

 

 

 

 

 空間が反転し、全てが裏返る。

 裏返りが二度あれば、全て正しい形に戻るのは道理。

 

 虎太郎一行が視界を取り戻せば、確かに見覚えのある表側――ブレスト・バレーに戻ってきていた。

 

 

「これで、表側に戻ってきたわけだが――――何だ、罠か?」

 

 

 管制室に近い開けた広場のような場所には、多くの攻性プログラムが犇めき合っていた。

 

 ある程度は予想していたのか。それとも覚悟はしていたのか。

 メルトとキャットの表情は険しかったが、虎太郎だけは両腕を組んで溜め息混じりの言葉をロビンに投げかける。

 

 効果的ではあるが、芸がない。

 そも、表側に戻ってきた瞬間に無数のエネミーを使って襲いかからせれば、サーヴァントは倒せずとも、虎太郎に一太刀浴びせる程度のことは出来たはずだ。

 

 

「んなわけねーですよ! どういうことだよ、BB! オレも聞いてねぇぞ!」

 

「――――だろうな」

 

 

 その慌てようから、この嫌がらせについてロビンは何も聞いていなかったのを察した虎太郎は、即座に他の仲間の存在を確認した。

 現状、虎太郎が最も危険視していたのは味方の分断であったからだ。空間転移を手段の一つとする虎太郎も、戦力を分散させての各個撃破はよく使う。使い古されているが、実に効果的な手段なのだ。

 

 だが、それはある意味で杞憂であった。

 メルト、キャット――そして、表向きには敵対関係を演じさせているロビンの三名は確かに側に居た。ただ、あの男だけがいない。

 

 

(ロビンも本当に知らなかったのは間違いない。BBの手口にしては遊びがない――――そして、エミヤがいない。となれば、露骨な引き抜き工作ですねぇ、BBちゃん。但し、もう一人の方だな、コレは)

 

 

 そう、エミヤの姿だけが影も形もなかったのである。

 

 この場において、エミヤだけを一行から引き離す意図は一つしかないだろう。

 彼の行動理念、在り方、信念に少しでも触れているのならば、誰でも分かる。

 

 ――排除せねばならない(もの)を、機械のような反応で、無慈悲かつ迅速に排除する。

 

 あの男は悪の敵。

 それが如何なる悪であれ、悪が存在する以上は排除せずにはいられない。其処に許容も寛容もありはしない。昆虫じみた機能の権化だ。

 

 ある意味、虎太郎の側に付いた者の中で、最も操りやすいと言えよう。

 何せ、行動パターンが決まっているようなものであり、エミヤ自身も理解しながらも変えることが出来ないのだから。

 

 

「アアアァァアアァァアァァ――――っ!!!」

 

「ぬぅううぅううううぅうぅ――――っ!!!」

 

 

 そして、エネミーの生け垣の向こうでは、リップとガウェインの姿があった。

 

 振り抜かれる烈風。爆ぜる熱風。

 愛する者を殺さずにはいられない爪と星を守る太陽の聖剣は、絶え間なく火花を散らし、戦場音楽を奏でる。

 

 ガウェインは満身創痍であった。

 

 攻撃を受け損なったのか、額から流れる血は顔の半分を真っ赤に染め上げている。

 爪が掠めたのか、理想の戦装束であった鎧は所々が砕け、ひび割れ、外套は無残に斬り刻まれていた。

 呼吸は荒く、一撃を放つ毎に、一撃を受ける毎に、魔力(たいりょく)を根こそぎ消耗していくに違いない。

 

 対し、リップは無傷。

 凶爪にも、衣類にも、身体にも毛ほどの傷もない。

 呼吸に乱れなく、まだまだ暴れられるとばかりに一撃ごとに攻撃は激しさを増し、今や荒れ狂う嵐のよう。

 

 見るも無残な結果。泣きたくなるほどの戦力差。

 

 

 ――されど、その程度で膝を折る太陽の騎士であるはずもなく。

 

 

 虎太郎達の到着にすら気付いていないにも拘らず、口元には笑みすら浮かべている。

 戦いを楽しんでいるのではない。そのような余裕はない、彼は文字通りの決死なのだから。

 

 …………それが何だというのか。

 

 右手で聖剣を握るは、己を信頼する友のため。

 左手で聖剣を握るは、泣き叫ぶ少女を救うため。

 

 彼の胸にあるのは、叫び出したくなるほどの喜びと太陽の如く燃え上がる思いのみ。

 なれば、器が千々に砕け散ろうとも何の不足もある筈もない。

 

 

『はい、そこ静かに! 狼狽えるな、小僧ども――――!』

 

「その通り。例え、相手が予想を超えてきても、想定の範囲内だと無理して笑うのも肝要だ――――よって、キャットぉ!」

 

「んん? ――――おぉっとぉ、そういうことなのだなぁ!」

 

 

 BBチャンネルのスタジオが映し出された空間ウインドウが現れる。映っているのはお馴染みのBB。

 恐らくは、手助けのために必要な行動を指示しようとしたのだろう。その為に、視界をジャックせず、空間ウインドウで済ませたのだ。

 

 しかし、虎太郎はBBに反応こそ見せたものの、視線を向けないどころか、キャットに向かって飛びかかった。

 一瞬だけ不思議そうな顔をしたキャットであったが、虎太郎の意図を察したのか、片手を伸ばす。虎太郎は見事にその上に乗った。

 

 片手に成人男性を乗せて涼しい表情をしている辺り、バーサーカーだけのことはある。

 数あるクラスの中でも単純な身体能力ならば、トップに立つクラスと言えよう。

 

 

『あれ? あれあれ? これ、私が的確に指示を出して、好感度を稼ぐお助けシーンですよね?』

 

「お前の都合なんぞ、オレが知るかぁ――!!」

 

「これが野性ときたない忍者のコラボレーション――――ゆくぞ、猫斗(にゃんと)神拳奥義! 猫斗人間砲弾!!」

 

「雑魚掃除はそっちに任せ――――――あぶるばばばばばばばば!!!」

 

『拳法全く関係なぁああぁぁぁぁい――――!?!?』

 

「ツッコミどころは其処じゃねぇ! 何やってんですかねぇ、オタクらはぁぁ――――!!??」

 

「ま、ま、ま、マスターーーーーーーっっ??!!」

 

 

 

 キャットの豪快な投球フォームによって、宙を翔ける外道。

 

 驚きの余りに見当違いなツッコミを入れるBB。

 律儀にツッコミどころのを指摘してから悲鳴を上げるロビン。

 エキセントリックな光景に涙目を白黒させながら絶叫するメルト。

 

 余りの勢いと風圧に、防具にすれば最強クラスになるであろう虎太郎の厚い面の皮ですらが波打っている。

 冗談のような高度を、冗談のような速度で飛んでいく人型に、エネミー達は呆然と見上げるばかり。

 馬鹿馬鹿しい無茶苦茶な手段ではあったが、虎太郎はまんまとエネミーの生け垣を飛び越えてのけた。

 

 着弾予測地点はリップの真後ろ――!

 

 

「アァ――アアアアアアアアア――――っ!!!」

 

 

 異様な気配にか、単純に環境の変化を察したか。

 何の比喩もなく砲弾と化して迫る虎太郎の存在をいち早く察知したリップは、床を爪で抉りながら身体を翻す。

 

 ガウェインですらがまともに喰らえば死にかねない一撃であれば、虎太郎では掠めただけで身体の部位ごと消し飛ばされる。

 今のリップは近づくものが何であれ、知性も理性もなく破壊する怪物、この程度は予測済み。

 

 虎太郎は身体を大の字に大きく広げ、空気抵抗を増やした。

 SE.RA.PHは現実世界に即した物理法則を有する。無論、全てが全てではないが、少なくともこの点に関しては、これまでの戦闘で確認済みだ。

 

 空気の抵抗を受け、飛距離の伸びは目減りして着弾地点は変化する。

 リップの手前で着地した虎太郎は見事に身体への衝撃を殺したものの、勢いまでは止まらない。

 迫る巨大な鉤爪を前にして、虎太郎は床を滑りながらも、身体を捻って()()()()()()に身体を滑り込ませた。

 

 正気の沙汰ではないが、虎太郎にしてみれば当然のこと。

 どの道リップの攻撃は掠めただけで致命傷。なればこそ、性能も計り続けていた。あの爪の巨大さも、振り抜く速度の限界も。

 どれだけ馬鹿馬鹿しくとも、どれだけ狂気に満ちていようとも、実行する以上は己が実現可能かどうかを天秤で計り終えた後なのだ。

 

 数百の針の穴を一度に通す難易度を超えた虎太郎は、そのまま床を滑り、ガウェインの隣に立ってのける。

 

 

「後退の螺子を外せ、ガウェイン。これから攻勢に出る」

 

「――勝算はありますか?」

 

「勿論。そろそろ来る頃合いだ」

 

「成程、第二陣ですね――!」

 

 

 さしたる会話もなく、互いの安否すら気にしない。

 虎太郎はガウェインの性能と性格を把握していたからであり、ガウェインは虎太郎が無理と無茶と無謀は超えてきた実績から。

 

 虎太郎は武器庫から取り出した銃を構え、ガウェインは地を蹴った。

 

 リップは迫るガウェインの気迫が更に増したことに気がついたか、爪を大きく振り上げる。

 

 

「おっと、ソイツはやらせられねぇなぁ」

 

「――――――っ!?」

 

 

 通常の銃とは異なる、空気を放つような発砲音が連続する。発射されるものは40x46mmグレネード弾。

 

 MGL140。

 回転式弾倉を持つグレネードランチャー。米連において制式採用されている。

 平均400mの射程を誇り、使用できる弾の種類も、対人榴弾、対戦車榴弾、ゴム弾、催涙弾、発煙弾と豊富。

 だが、対人、対戦車に有効であろうとも、相手は防衛に特化したアルターエゴ。

 

 直撃したところで何のダメージは期待できないが――

 

 リップの手前、リップの爪に着弾した瞬間にグレネード弾は爆炎を上げる。

 

 ――視界を塞ぐという点に関しては有効だ。

 

 爆炎と黒い煙はリップの視界を塞ぎ、トラッシュ&クラッシュの発動を封じる。

 

 

「今暫くのご辛抱を――!」

 

 

 ガウェインが黒煙の帳を突き破り、聖剣を一閃する。

 聖剣に内蔵された疑似太陽は、未だに運動を開始していない。それはそのまま彼の心情を表している。

 

 如何にセンチネルにしてアルターエゴであるパッションリップと言えど、ガウェインの奮戦を無傷で乗り切ることは不可能だ。

 聖剣が正しく稼働すれば、彼女の凶爪も身体ごと焼き尽くされたことだろう。

 

 それでもなお無傷であったのは、ガウェインがこの戦いを救うための戦いと定義したから。

 どれだけ己が傷つこうとも、その果てに死ぬことになろうとも、ちっぽけな矜持を示し続けるのが英雄であるが故に。

 

 

「さて、先行して助けに来たが――――おい、この鍵、どう使うんだ?」

 

『ああ、もう! めちゃくちゃです! 緑茶さん達はそのままエネミーのお掃除を! ガウェインさんはリップを抑えてください!』

 

「無理を言う。流石のガウェイン無双も此処らで打ち止めだ。適度に引いてヒットアンドアウェイを繰り返せばいいものを、五時間ぶっ続けだったみたいだからな」

 

 

 ガウェインの動きに陰りはなく、精彩さも欠いていない。

 だが、最早、彼は限界に近い。この世に留まるために必要な魔力すらを、いま動くためだけに消費している始末。

 魔力を持たぬ虎太郎ではあるが、感じ取ることは出来る。故に、ガウェイン元来の魔力量と現在の魔力量を比較することも可能。

 

 ガウェインに残された時間は二分程度。それ以上の戦闘は可能だが、可能なだけ。

 二分を超えればガウェインの消滅は確定する。座には還らず、霊気基盤の保存されたカルデアに戻るだけだが、SE.RA.PHとカルデアの時間差を考えれば、霊気の完全な修復は決戦までに間に合わない。

 

 ガウェインも全てを理解している。

 理解はしているが、自身でも止められず、止まるつもりもない。

 目の前の苦しみ続ける無垢な少女を救ってみせる。いま、彼の頭にあるのはそれだけだ。

 

 

「――ぬぐぅっ! 不覚っ!」

 

「こいつはマズ――――――いや、一瞬だな。一瞬だけ、時間を稼げればいいか」

 

『この霊基反応――?!』

 

 

 いよいよ以て、終わりの時が訪れた。

 

 ガウェインが絶えず握っていた聖剣が、リップの一撃によって天高くに舞い上がる。

 握力が限界を迎え、同時にガウェインの膝からも力が抜けてしまう。

 

 待ち受ける死の爪撃は、ガウェインの鎧ごと頭頂部から股下まで寸断する。

 ガウェインはギリと歯を食い縛り、渾身の力を膝に込めるが、前進するにも一瞬だけリップの方が速い。

 

 

「――させるか、間抜け!」

 

「何の、これしきっ――!」

 

 

 声はガウェインの背後上方から。

 渾身の力で地を蹴って飛び上がった虎太郎から発せられたものである。

 

 虎太郎が追い縋ったのは、リップによって弾かれ、ガウェインの手から離れた太陽の聖剣。

 空中でぐるりと身体を一回転させた踵が聖剣の柄頭に叩きつけられ、一直線にリップへと向かっていく。

 

 そして、ガウェインは何一つ確認することもなく前に一歩を踏み出す。

 虎太郎は後退の螺子を外せ、と言った以上、示し合わせる必要はない。ガウェインは友を信じ、言葉通りに前進するまで。

 

 迫る聖剣と太陽の騎士。

 理性のないリップは、本能が“より脅威”と判断した方へと襲いかかる。

 この場においてはガウェインを。如何な聖剣と言えども、所詮は担い手以外の人間が蹴り飛ばしたものに過ぎない。彼女を脅かすほどのものでもない。

 

 しかし、聖剣はガウェインを主と認めたが故に、彼の手へと収まった。

 ならば担い手の危機に、担い手の思いに応えず、何が聖剣か。

 

 ――突如として聖剣内部の疑似太陽が起動するや、あらゆる不浄を焼き払う焔を刀身に纏わせる。

 

 

「――――っ?!」

 

 

 拘束具で隠れたリップの表情が愕然に歪む。或いは、彼女を操る何者かの驚愕であったのか。

 

 これで、脅威は二つとなった。

 理性がない以上、最適な判断は封じられたも同然。

 操られているとしても、黒幕にせよ、もう一人のBBにせよ、他者を見下すものにこの展開を予測など出来るはずもなく。

 

 本能によって振るわれた爪は聖剣を再び弾き飛ばし、ガウェインは真正面からリップの腰に組み付いた。

 其処が、彼女の攻撃の範囲外。巨大過ぎる爪は敵を寄せ付けないためのもの。自身に密着されれば、最大の脅威である爪もスキルも意味をなさない。

 

 

「ぬぅ――――あぁあああぁぁぁああぁぁっっ!!!」

 

「冗談、でしょ……」

 

「流石は騎士ガウェイン! やる時はやる男と思っていたぞ……!」

 

「…………ゴリラゴリラだと思っちゃいたが、まさかあそこまでとは。ホント、円卓の騎士は頭おかしいですわ!」

 

 

 無数のエネミーを掃討していた三名ですらが、驚嘆と共にガウェインを見た。

 

 ガウェインはそのままリップの両脚を大地から引き剥がしてのけた。

 自重の10倍を軽く超える重量を持ち上げる、渾身の力業である。

 

 巨大な爪を存分に振るえたのは、大地に突き立てられた足腰があってこそ。

 両腕を振るい、暴れ回るリップはバランスを保てずにガウェインに攻撃を掠らせることすら出来ていない。

 

 

「さあ、早くなさい! BB、指示を出した以上は何か策があるはず――!」

 

『ちょ、ちょっと、ちょっとタイム! 私の作戦ではセンパイがリップの胸に触れる必要があるんですけどぉ?!』

 

「な、なんとぉ――?!」

 

「いくら何でもあの爪を掻い潜って胸に手を触れるのは無理。BB、ちゃんと作戦を前もって伝えとかないからこうなるんだよ、間抜け。つーか、ガウェイン、驚いたのはどっちの理由だ? 自分が下手こいた方か? それとも胸に触れる方?」

 

「い、言っている場合ですか! 黙秘権を行使します!」

 

「オタクら、こんな時ですら冗談言える余裕がよくありますねぇ?!」

 

 

 リップが生み出す力によろよろと酔っぱらいのような足取りで必死にバランスを取るガウェイン。

 BBは画面越しに両手で頭を抱えて涙目となり、ロビンは堪らずにツッコみを入れる。

 

 胸の位置が高過ぎて、触れるには跳躍する必要がある。

 とてもではないが、虎太郎の性能では空中で爪を掻い潜って胸に触れるなど不可能だ。

 

 だと言うのに、虎太郎はいつもの調子、ガウェインもそれに付き合っている以上、余裕があると見做されても無理はない。

 

 これにて、BBの思惑は御破算となった。

 ガウェインがリップを抑えられている時間は少なく、抑えている最中に虎太郎は近寄れない。

 仮にリップを下ろしたとしても、次の瞬間にガウェインは引き裂かれ、この場で彼女を拘束しておける存在はいなくなるのだ。

 

 間違いなく手詰まりである――――

 

 

「やあ、待たせてしまったね。これでも急いだのだけれど」

 

「全くな。だが、最高の人選と最高のタイミングだ。やっぱり、アルもお前も優秀だよ」

 

 

 ――――颯爽と現れた緑の騎影さえ存在しなければ。

 

 金属が擦れて弾かれる鎖の音。

 彼女の掌から放たれた鎖は、リップの両腕を拘束し、縛り上げる。

 

 これなるは“天の鎖”。

 神々によって生み出された“天の楔”が、神々の意に沿わぬ行動を起こした際、天上へと連れ戻すための安全装置。

 しかして、この鎖は神のためには使われず、鎖自身の意志によって人のために神を繋ぎ止めるに相成った対神性捕縛兵器。

 

 様々な女神の要素を組み合わせて生み出されたパッションリップには最大の力を発揮する。

 

 

「ガウェイン、遅れて済まなかったね」

 

「いえ、委細問題なく。私ももう一仕事と行きたい所ではありますが……」

 

「後はオレ達に任せて、少し休め。ここで消滅されても困るからな」

 

「ええ。後は貴方に任せます、友よ。どうか彼女を救って下さい」

 

 

 鎖で拘束されたリップを下ろし、よろよろと後退したガウェインは片膝を立てて床に座り込む。

 魔力の消耗と精神の疲労だけではなく、それ以上に安堵によって全身から力が抜けていた。

 

 現れたのは救援の第二陣――エルキドゥ。

 英雄王と肩を並べるトップサーヴァント。数多く存在する英霊の中でも、疑う余地のない最強の一人。まして、神性を有する相手であればなおのこと。

 

 

『色々と予定をぶち壊された上に、アルフレッドさんがガチで機械仕掛けの神様だと言葉ではなく心で理解できましたが、今がチャンスです! ここからは肉体ではなく精神を攻略する心の戦い。即ち、CCC伝統の乙女コースターです!』

 

「やっぱり、虎太郎に買わせたあの鍵は、アレだったわけね!」

 

「うぉぉ! 何が何だかよく分からんが、いくぞー、パッションリップ、覚悟しろー! うぉぉーー!!」

 

 

 鎖に縛り上げられ、最早、身動きの取れなくなったリップに虎太郎が突撃する。

 BBが作成し、ロビンが売り払った『心の鍵』はリップに近づくに連れ、熱を持ち、光を放つ。

 

 虎太郎の両腕が伸ばされ、リップの豊満などと言う言葉では到底収まりきらない巨大な山脈に触れる。

 

 

「その乳をもぐ――!」

 

『いえ、誰も其処までやれとは言ってませんけどぉ――?!』

 

「もみもみもみもみもみもみもみもみもみ、もみ倒してやんよぉ――!」

 

「ア――ァァ――いやぁあぁぁあぁんっ……♡」

 

「「や、やった!」」

 

「な、なななな、何、何よ、何なの! 貴方も女は胸だと言うんですか! マスター!」

 

「いやいや、メルトちゃん。ツッコむところは其処ではないのだな。後、敬語になっている。それから、後でコタローはシバくゾ」

 

 

 虎太郎は揉むは揉むわ。

 それが本能だとばかりに両胸を揉みしだく。

 ぐにぐにと形を変えるほどに。五指をめり込ませて弾力を楽しむかの如く。根本から絞りあげて出る筈もない母乳を絞り上げるように。

 

 この暴挙にエルキドゥは愉悦顔、ガウェインはガッツポーズ、BBはドン引き、理性を封じられたはずのリップは甘い嬌声を上げる。

 一瞬の接触、胸へ触れただけでリップの性感帯を暴き、好みの愛撫を見抜いて絶頂へと押し上げる様は、流石の性技の味方。この局面で、そんなことをする必要はあったのだろうか?

 

 

『サクラファイブ随一の乙女力の持ち主になんてことを……!』

 

「うっ――――ふぅ。虎太郎、いけません。いけませんよ、いくら肉感的であろうとも、相手は無垢なる少女。貴方の悪辣な性技に晒すのはよくありません」

 

「オメーも賢者モード入ってんじゃねぇよ! おらおら、BB早くしろー! コイツがオレ以外の手ではイケない身体になっても知らんぞー!」

 

「BBだったかな? 虎太郎の性技は凄いよ。うん、ボクも体験しているからね。よく分かる」

 

「ほらほら、もう乳首もこんなに勃起して! 一秒単位でその身体を開発してやろうかぁ――!」

 

「ひぅぅっ♡ は、や、やぁぁっ♡ ふんんっ……♡」

 

『くぅ! させない、させません! 最近は素直で健気で頑張り屋になってきたリップにそんな真似はさせませんよー!!』

 

 

 BBの悲鳴染みた叫びと共に、鍵が最大限の光を放つ。

 

 その瞬間、虎太郎の肉体から魂が分離した。

 鍵――コードキャストの力により、魂は完全に情報体として分解されてしまう。

 情報体(数値)と化した魂は、そのままパッションリップの心象空間に代入され、最深部にて擬似霊子として再構築される。

 

 これより踏み入るは秘密の花園。

 かつて月の裏側で、無名のマスターが踏み込んだリップの深層。

 

 深層落下(スパイラル)開始(スタート)――!

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 落ちる。落ちる。落ちる。

 一寸の先も見通せない暗闇を、終わりも見えないままに落下していく。

 理性が封じられた状態でなければ、リップの心象が何らかの映像や形として見えたかもしれないが、生憎と落下の浮遊感しか感じ取れなかった。

 

 

「しかし、心象空間(ここ)へ来たのは、オレだけじゃなかったか」

 

「そのようだね。いくつかの制限があるみたいだ。恐らく、正式に契約を交わしたサーヴァントであること。立ち入れるのはマスター一人とサーヴァント一騎まで、といったところかな?」

 

 

 虎太郎の隣で共に自由落下を続けるのはエルキドゥだった。

 エルキドゥの言葉が正しいのであれば、あの場で虎太郎と共に心の戦いに挑めるのは、ガウェインとエルキドゥのみ。

 そして、ガウェインは魂を擦り減らしてまで戦い続けていたことを鑑みれば、適任はエルキドゥしかいない。

 

 

「それで、カルデアの方はどうだ?」

 

「おや、いいのかい? 言葉にしてしまっても。君、随分と監視の目を気にしていたようだけど?」

 

「アホか。分かってて言ってるだろ。此処はパッションリップの心象空間、誰の目も届かない。送り込んだBBでも数値としてしか観測できないだろうさ」

 

「そうだね。でも、おおよその見当はついているんじゃないのかい? ボクが送り込まれた理由も、ね」

 

 

 心象空間の最下層に辿り着くまでの間に、必要な情報交換をしてしまう。

 この場では、あらゆる監視の目は届かない。BBであれ、黒幕であれ、心の戦いを見通すことは出来ないのだ。

 

 そして、SE.RA.PHへの救援第二陣として、エルキドゥが送り込まれた理由も察しがついていた。

 

 

「アルやダ・ヴィンチも、この案件がビーストによるものだと既に観測済みか」

 

「ええ。ビーストの霊基を観測した。だからこその、ボクさ」

 

 

 ガウェインが語った通り、この特異点はその特殊性故にか、カルデアからのレイシフト――直接的な介入は難しい。

 しかし、観測だけは可能であったのか。この事件の裏側で、人の世を食らう獣が蠢いていることには気付いていたようだ。

 

 其処で、エルキドゥが選ばれた。

 彼女の宝具は“人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)”。英雄王の乖離剣と同じ名を持つ対粛清宝具。

 アラヤ・ガイアの抑止力を自身に流し込み、自らを一つの神造兵器と化す。

 抑止力の現れそのものであり、()()()への破壊行為に反応し、威力が跳ね上がる特性を有する。

 

 特異点は本来、あり得ざる歴史。

 正常な時間軸から切り離されている特異点では抑止力が働き難い。0でこそないものの、守護者の召喚など目に見えて働くことはない。

 だが、抑止力単体では不可能な干渉も、エルキドゥという基点を用いれば話は別。この特性は無二のもの、用いない手はない。

 

 そして、アルフレッドからのメッセージでもある。

 

 

『相変わらず悪辣に立ち回っているようですね。此方は此方で対策を立て、最後の戦いには間に合わせますので、どうか手心を加えて上げて下さい』

 

 

 ――という意味だろう。

 

 仮に『心の戦い』がなく、黒幕やBBからの監視があったとしても、虎太郎ならばさしたる会話もなくエルキドゥの宝具特性から其処までは読み取れる。

 流石に、長年共にいる訳ではない。性能の高さからそんな風には見えないが、彼もまた苦労人だろう。

 

 

「それから、もう一つ」

 

「はぁん? 他には何かあるのか」

 

「今回のビーストだけど、真性悪魔の可能性があるようだね」

 

「………………いや、待て。確かにビーストは後付けのクラスみたいなもん。真性悪魔でもビーストになれるんだろうが、それは――――いや、材料は揃ってる。揃ってるなぁ」

 

「ボクも詳しくは知らないけれど、今回の敵はそういうものらしいね。尤も、それよりも遥かに悍ましいモノが、今回の黒幕のようだけど――――ああ、この、女の欲望を煮詰めた感じ、イシュタルを思い出すなぁ。直接触れるのは嫌だから、何か投げ付けられるものがあるといいけど……」

 

 

 真性悪魔というワード。何よりもニッコリと笑うエルキドゥに、虎太郎は現実とアクティブモンスターぶりにSE.RA.PHに来てようやく絶句した。

 

 この世界において、悪魔というものは偽物しか存在しない。

 少なくとも世界中の記録――悪魔祓いを鋼鉄の信仰心によって成し遂げる聖堂教会にすら保管されていない。

 

 故に、真性悪魔とは、発生する可能性があるだけの最悪の事例として考えられているのみか――――記録に残せないほど凄惨な事態を引き起こした語られるべきではない過去なのだろう。

 

 そも、単なる悪魔憑きと真性悪魔の違いは一点。

 人の想念を被る前から、既にそうであった本物の悪魔が引き起こすか否かでしかない。

 

 人に取り憑いた悪魔は、取り憑いた人間の肉体を利用して受肉しようと動き、その過程で苗床となった人間の精神は耐えきれず、周囲に魔を撒き散らして自壊するのが常。

 高位の悪魔ほど、症状が表層に出づらく検知が困難。故に、全てが露見するのは大惨事が約束された後になりやすい。

 殊更、真性の悪魔は狡猾であり、受肉する過程で発生する霊障を極力抑え、育ちきるまで巧妙にその事実を隠し切る。

 

 生物である以前に“魔”として創造されているが故に、人間よりも高度な魔術を行使する。

 生体機能の全てが“魔”を呼び込むモノであるが故に、魔術師のように後付の疑似回路を必要としないままに、魔力そのものが魔術的な特性を有する。

 

 魔術の一つの到達点とされる固有結界も、元々は悪魔が持つ異界常識であったとされる。

 それを考えれば、悪魔や真性悪魔のデタラメさ加減は、英霊でも遠く及ばないだろう。

 

 

「ホント、碌なことしねぇなぁ、魔神柱(ゼパル)

 

「基本的に、人のことを見下しているからね。どれだけ精神面で成長しようとも、何をするにしても、人の世に仇になることしかできないだろうさ」

 

「まあ、今回はそれだけじゃないんだろうが……」

 

「ああ、成程。何となくイシュタルを思い出したのは、そういうことか。確か、悪魔憑きにはそういう事例もあるそうだね」

 

 

 そう、魔神柱は、人が名付ける前から(ソロモン)に創造された魔術式。

 またゼパルの持つ能力も相まって、在り方として真性悪魔のそれに極めて近い。

 

 そして、もう一点。

 悪魔憑きは、悪魔が受肉する過程で、大半の苗床は死亡する。

 元より人間とはかけ離れたカタチを持つ悪魔が、人の身体を使って受肉しようとするのだ。言うなれば、関節を逆方向に曲げ、手足を増やし、あり得ざる器官を増築するようなもの。人間には決して耐えられない。

 

 …………だが。だが、何事にも例外は存在する。

 

 極稀に、極々稀にではあるが、自身の魂を食らう悪魔を利用して、この変質に耐えきる異端も存在する。

 

 それが人の恐ろしさであるのだろう。

 曰く、神が完全無欠にして全知全能、悪魔は荒唐無稽にして人知無能の現象である――――ならば、人はこの二つを利用し、生き延びるために喰らってしまう獣である。

 

 

「まあ、いいさ。真性悪魔の能力を持とうが、悪魔に打ち勝てる救世主的な資質を持っていようが、やってることは一山いくらの悪党と大差はないから同じモノだろ? 何、いつも通りに排除するまでだな」

 

「其処でそう言い切れる不動心は見事だね。その揺るぎなさ(強がり)もまた人らしい――――差し当たっては……」

 

「『心の戦い』、ねぇ。リップを解放するまでに、オレ、何回死ぬかなぁ……」

 

「さぁ。彼女、エレシュキガルと同じで頑張り屋の恥ずかしがり屋だ。心を暴かれるとあっては必死で抵抗するだろうね………………ふ、ふふ、愉悦……!」

 

「それはリップに対してなんですかねぇ? オレに対してなんですかねぇ?」

 

「勿論。どちらに対しても、さ」

 

「うーん、このドSっぷり」

 

「おや? ベッドの上で、ましてや君に対してはドMだと思うけどね?」

 

「流石は最強のサーヴァント。女としても、ある意味最強だった」

 

 

 普段通りの軽口を叩き合いながら、最下層まで時間を潰す。

 まるで近所のコンビニへと買い物に行くような気軽さで、死地へと赴く。

 

 これよりは肉体ではなく精神に依る戦い。

 悪魔祓いの過程を思わせる、相手の心を摘む戦いだ。

 

 ならば、何の不安もありはすまい。

 何しろ、信仰心なぞなくとも、ただ必要に迫られて、ただの意地だけで鋼鉄の意志を獲得し、自らの精神性を自らの意志で創り変えるような男なのだから。

 

 




と、いうわけで、ガウェイン、カルデアに来てから最大の奮戦&救援第二陣エルキドゥ到着&アルフレッド、御館様の指示なしでも有能有能&有能。

SE.RA.PHと通信できないカルデアは、アルフレッドを中心にダ・ヴィンチちゃんとロマンが必死こいて解析と対策を立てている最中。
有能な集団というものは、頭がいなくなっても手足が独自の判断で動きつつ、それまで学んだ頭の理念を引き継ぐものですので。
ぶっちゃけ、カルデアに関しては、御館様はいつ死んでも問題ない組織づくりをしています。自分がいつ死んでもおかしくないので。

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