※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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アガルタの女、クリアーーー!
ネタバレになるから言わなけど、色々と情報なしで出てきたのもあるので、色々と驚いた。
ストーリーに関しては、山場や盛り上がりはあったが、意外性はなかった印象。やっぱ6章、7章、CCCイベ超えは難しいか。

不夜城のキャスターは、うん、まあ、なんだ。絵にリソース全振りって感じですね!
あとは不夜城のアサシンとエルドラドのバーサーカーか。アサシンの方は欲しい。Qサポートできる奴が、アタランテと師匠しかいないんだよなぁ。
バーサーカーは、仮面ライダーの方のアマゾンを思い出す。寄生を発して、敵を真っ二つにしないかしら?

では、



『苦労人と緑衣の狩人が罠を張り巡らせるともう手がつけられない。おう、ハイクを詠むだよ。あくしろよ』

 

 

 

 

「――どう、なったの……?」

 

 

 最後に残った影法師の怪物――シェイプシフターが、崩れるようにSE.RA.PHへと消える。

 周囲のエネミーを掃討し終わったメルトリリスは、虎太郎へと目を向けた。

 

 

「どぉうぅわぁああぁぁ――!!」

 

 

 リップの胸に両手で触れたまま硬直状態にあったが、彼女の視線に晒されるや否や、絶叫と共に再起動を果たした。

 虎太郎と同じ領域へ魂だけで落下したエルキドゥも同じくして意識を取り戻しているらしく、俯き加減で身体を震わせている。

 そして、リップの拘束具が外れ、悲鳴すらなく地面へと背中から倒れ伏した。これまで暴れ続けていたのだから、当然だ。

 

 『心の戦い』に挑んだ二人以外には知り得ないが、余程の激戦だったのだろう。

 

 

「虎太郎、無事なの?!」

 

「ふっ……くっ……ふふっ、ぐわーって、どぅふぅって……(プークスクス」

 

「いや、変な声も出るだろ。生きたままキューブ状になるとか。囮になってトラッシュ&クラッシュ何回喰らったか覚えてないんですけど。つーかリップもオレを積極的に狙いすぎぃ!」

 

「さもありなん。乙女を弄ぶからそうなる。リップちゃんは中々の乙女力の持ち主と見た。乙女的に言語道断の行いだったのであろう……」

 

「何を、やってるんですか、貴方はぁぁぁあぁぁ――――!」

 

「いや、要は精神の戦いだから、こっちの心が折れなければ負けじゃなし。肉体には影響ないからオレが囮になった方が早いかなって」

 

「実際、最短の手順だったと思うよ? 虎太郎の精神的なダメージを除けば」

 

「問題ねー問題ねー。身体の傷より精神の傷の方が早く治るから、オレの場合。もう完治した」

 

 

 ケロっとした表情でとんでもない事実を漏らす虎太郎。エルキドゥも同様だ。

 メルトリリスは戦慄、キャットは思わず苦笑いの事実であったが『心の戦い』に干渉できない以上、何も口出しすることは出来なかった。

 

 

「どうやらかなりの激戦であったご様子。お見事です。その少女は戒めから解き放たれた。これほど喜ばしく、また誇らしいこともない」

 

「いや、お前の時間稼ぎがあってこそだ。誇るべきはお前だろうよ。立てるか?」

 

「無論ですとも。時間にして僅か数秒ですが、アルフレッドからの魔力供給は生きています。この程度、ブリテンの戦では日常茶飯事でしたからね」

 

「流石はガウェイン強! 無駄に硬いスティール騎士(ナイト)は健在なのだな!」

 

 

 とんだ魔境もあったものである。

 この太陽の騎士が、日常的にこれだけの傷を負うなど、どんな戦場なのか。やはり、当時のブリテンは何処かおかしい。

 

 虎太郎が差し出した手を掴み、ガウェインは立ち上がる。

 彼の言葉に嘘はなかった。僅か数十秒間、腰を下ろしていただけだというのに、もう体力が回復しているのか、足取りに不安な点は見受けられない。

 これには付き合いの長い虎太郎も呆れ顔だ。メルトリリスなど、驚きの余りに言葉もない様子。

 

 

「では、差し当たって、彼女を教会へと運びましょう。可哀想に、今まで戦い続けていたのでしょう。看護なら、私に任せて頂きたい」

 

「「――――却下」」

 

「……レディ・メルト、レディ・キャット。如何にアルターエゴと言えども、貴方にとって彼女は姉妹のようなもの。些か以上に冷酷が過ぎます」

 

「そうじゃない。姉妹のようなものだからでしょう!? 今までの自分の発言を思い出しなさい!」

 

「私の発言に、何か問題でも?」

 

「コ・イ・ツ・はぁ……!」

 

 

 ガウェインのすっとぼけっぷりに、メルトリリスは袖で隠れた拳を思い切り握り締める。

 彼に看護と称してリップに悪戯をするつもりは毛頭なく、真実、優しさによってリップの看護を申し出ただけなのだが、これまでの発言が不味かった。

 

 彼の女性の好みは見た目が年下で、豊満な胸の持ち主。所謂、ロリ巨乳がドストライクである。リップはドンピシャだ。

 行動から女性への応対まで白馬の王子様的な気質を持っているものの、今の彼は普段から虎太郎と白昼堂々エロ談義を始めるほどのスケベぶりを発揮している。

 数多くの良い所を持とうとも、たった一つの悪い部分で、女性からの評価は地に落ちるものである。

 

 

「ではネコはリップを担ぎ、一路教会へ。無事に戻ってくるのだぞ、コタロー。後でキャットがシバく故な」

 

「え? オレなんかしたっけ?(すっとぼけ」

 

「なはは! その態度が気に入らぬ、これは爪でバリっとやらねばなー!」

 

「えー」

 

 結局、リップはキャットが教会へ連れていき、介抱するということとなった。

 当然である。看護をするのなら、異性よりも同性の方がいいだろう。乙女的に。

 気を失っている1トンもの身体を両手で軽々と持ち上げ、キャットは教会へと戻っていく。バーサーカーの膂力は桁が違う。

 

 メルトは何とか綱渡りを渡りきった安堵から吐息と笑みを漏らす。

 彼女自身の言葉通り、リップに対しては姉妹に近い情を持っている。言葉では、鈍間などと馬鹿にしているが、本心では気にかけていた。

 

 廃棄処分となった後、虎太郎に拾われる幸運が自身にはあったが、リップにはそれすらなく、ただただ酷使され、弄ばれていた。

 彼女の胸中は、リップを都合の良い怪物(どうぐ)として扱った者への怒りが滲んでいるのは確かだ。

 

 

「あのいけ好かない緑衣の狩人も何時の間にかいなくなっていることですし、中央管制室に向かいましょう。この先よ」

 

「Ms.マーブルの話では、生き残ったスタッフがいるとのことですが」

 

「まあ、生きているのなら最低限の手助けくらいはしてやる」

 

「おや? 随分と含みのある物言いだね。何か思う所でもあるのかい?」

 

「ああ、お前にも道すがら、セラフィックスで何が起きたのか教えてやる。オレはもう完全にやる気がなくなった」

 

 

 救援に来たものの、セラフィックスの内部事情と起きた事実を何も知らないエルキドゥは、虎太郎のやる気の無さに驚いていた。

 

 怒りを露わにしようが、愚痴を零そうが、口ではやる気がないと言いながら、虎太郎の仕事に対する姿勢は苛烈の一言に尽きた。

 思いはどうあれ、仕事を完遂する、という一点に関して、この男は誰よりも強い意識で臨んでいる。

 そんな男が、本格的にやる気を失っているのは、付き合いの長い彼女にしても初めて見る姿だったのだろう。

 

 セラフィックスの実情とSE.RA.PH化。

 この事態のキッカケは兎も角として、悪い方向へと加速していったのは間違いなくセラフィックスのスタッフが原因、と虎太郎は言い切った。

 そして、セラフィックスで極秘裏に推し進められていた、アニムスフィア家の非人道的な実験があった事実もまた隠すことなく伝える。

 

 

「ふぅん。そうだったんだ…………人間は、よく分からないね」

 

「そりゃ、お前が知ってる人間は、ウルクの連中がデフォだしな。今は生活が豊かになって無駄が増えた分だけ、人間も多様性が出てきて、無駄な人間も生まれてきたとでも思っておけ。人間的に正しいのは、間違いなくウルクの連中だ」

 

「君にしては随分と素直に褒めるんだね。彼等の一助に生きた者として、僕も素直に誇らしい」

 

「オレは素直に羨ましい。肉体面の話じゃなく、精神面の話でアレだけ強けりゃ、オレの仕事ももっと減ってるからな」

 

 

 虎太郎の説明に、エルキドゥは好意も嫌悪も示さずに、ただ不思議だと首を傾げる。

 

 当然だろう。

 彼女の生きた時代に、無駄な人間など一人もいなかった。

 一人ひとりに役割と目標があり、皆が諦めなく生きることに邁進していた。

 時に間違いを犯す者は居た。時に弱さから矜持を忘れた行動を取ってしまう者は居た。

 

 それでもなお、誰一人として自らの矜持を捨てる者はなく、また人間の最大の武器である“人間力”を見失ってしまう者は居なかった。

 

 だからこそ、ギルガメッシュはウルクという都市を治めた。

 自らの悦び――即ち、自らの目で見定める価値のある人間達が住まう都市だ、と。

 でなければあの英雄王が、特異点化した歴史の上であったと言えど、『ウルクは幸福な都市であった。我自身を含めてな』などと最上級の誉れを口にすまい。

 

 あの英雄王が、己自身の手で治めるに足ると認めた人間達。

 それこそが、エルキドゥにとっての人間の基準である。であれば、セラフィックスの人間が、何故そのような行動を取ったのかなど、心底からの理解はできまい。

 

 

「まあ、そういうわけでな。セラフィックスで生き残っている人間は、どう考えても碌でもない連中だろうって話。オレの仕事で助けてやる範疇にいる人間じゃ――――」

 

「――――虎太郎?」

 

 

 先を進むメルトとガウェインの後を追っていた虎太郎の脚は言葉と同時に止まり、エルキドゥは疑問から眉を顰める。

 

 

「――――ナイスだ、エルキドゥ。いや、この場合はオレが馬鹿だったな」

 

「……どういう意味だい?」

 

「お前のお陰で、重大な見落としがあったことに気がついた」

 

 

 虎太郎は片手で顔を覆いながら、こんなにも簡単なことを見落としていた己の馬鹿さ加減に呆れ返りながらも、口元には笑みを浮かべている。

 

 彼女との会話で一つの疑問が浮かび、一つの確信へと至ったのだ。

 

 セラフィックスの生き残りは碌でもない人間であろう。

 少なくとも、ウルクの民のように、最後まで矜持や人間性を捨てずに奮い立つような人間ではない。

 居たには居たかもしれない。だが、それはセラフィックスの暴動において、最初期に殺されているはずだ。暴走した集団では、得てしてそういった人間から殺されるものである。何せ、暴走するには必要のない人間故に。

 生き残りは暴走を加速させた側か。目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んで何もしなかった被害者面をした者だけだろう。

 

 

(考えてみりゃ、簡単なことだった。自分が生き残ることだけ考えてるような連中ばかりの中で、カルデアに救難信号を出したのは、一体何処のどいつだ?)

 

(召喚されたサーヴァント? 面白半分を気取ったBB? それとも黒幕? あり得ねぇあり得ねぇ。どいつもそれをするメリットがなく、無駄にリスクが高過ぎる)

 

 

 召喚されたサーヴァントでは、カルデアの存在を知っている可能性は低く、知っていたとしても英雄である以上は素直に救援を要請する筈もない。

 彼等は良くも悪くも超越者だ。大抵の物事を自分一人で成そうとする傾向にある。よって、これでは無いだろう。

 

 面白半分気取りのBBではあるが、実際の所は自らの正体を隠し、事を慎重に進めている。

 カルデアにコンタクトを取ってきたが、救難信号の方が先。恐らく黒幕に対しては、カルデアに救難信号が入ってしまった以上は、SE.RA.PHでの目論見が露見寸前故に、此方側から嫌がらせをして時間を稼ぐ、と言ったに違いない。

 

 愉快犯的でありながら刹那的、非常に狡猾であるが我欲を優先する傾向が見受けられる黒幕ではあるが、必ず最終的な目的がある。

 その為に、カルデアを自ら招くのは下策も下策。そも、この手の手合いが自ら敵を招くのであれば、自身の絶対的な安全と最大限の愉悦と快楽を得られる前提を得てから。

 

 

(なら、考えられる可能性は一つ――――最後の最後で、意地を見せた馬鹿(にんげん)が居たってことだ)

 

(オレの間抜けめ。そうすりゃ、もっと早くにケリをつけられたってのに。間抜けにもほどがある)

 

(後は、タイミングに合わせてロビンを動かし、人間気取りのケダモノをどう殺すかだけ、か。さて、最後まで油断なく、全席指定で座って貰おうかねぇ)

 

 

 成程、彼の推測も尤もだ。

 確かに、カルデアへの救難信号を送ったのが誰か、という点において、最も可能性が高いのは、彼の推測だろう。

 

 だがしかし、それがどうして早急な解決に繋がると言うのか。それはただの事実に過ぎず、彼の置かれた現状を助けるものにはならないだろう。

 

 人類最悪のマスターは、腹の底で静かに嘲笑(わら)う。

 

 

(名前も知らない誰かさん、よくやったもんだぜ。オレはお前の死を最大限に利用させて貰うとするよ。お前の死は無駄にはしないとも)

 

「どうかしたの? 中央管制室は目の前よ」

 

「いや、別に何も。行くとするかぁ」

 

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 中央管制室はブレスト・バレーの中心地にあった。

 しかし、SE.RA.PH化から逃れたとは言っても、施設がまるまる残っている訳ではない。

 他の施設も同様であるが、半透明の壁に出入り口の扉だけがポツンと残されており、その向こう側は深海の風景が広がっている状態だ。

 

 言うなれば、特定の場所にしか繋がらない『どこでもドア』と伝えれば分かりやすいか。

 

 扉にはロックが掛かっていたが、虎太郎がさしたる苦もなく解錠してしまう。

 ガウェインを先頭に、エアーの作動音と共に金属製のドアが左右に開かれる。

 

 

「――――馬鹿な」

 

 

 様々な観測機器と繋がるモニターが設置された中央管制室に脚を踏み入れたガウェインは呆然と呟いた。

 少なくとも、彼が予想だにしなかった存在が、数百人は収容できるであろう部屋の中央に根を張っている。

 

 

「――――魔神柱!?」

 

 

 その姿を、見間違えよう筈もない。

 ガウェインがカルデアに召喚されて、虎太郎と仲間と共に越えてきた特異点で、どのような形であれ、彼等を討ち果たしてきたのだから。

 

 いや、魔神柱ではない。

 魔神柱とはゲーティアによって統合された七十二の魔神の総称。既に個我を獲得し、独自の目的を持った以上、彼等は一個の魔神として独立している。

 

 尤も、一行の前に現れたモノは、既に魔神柱でもなければ、魔神と呼べるものでもないのだが。

 

 

「いや、此処だけの話、これビースト案件やで。臭ぇーし」

 

「はぁ……ッ?!」

 

 

 何時の間にかガスマスクを被っていた虎太郎の呟きに、何も聞かされていなかったガウェインは驚きの声を上げる。

 その能天気と言えばよいのか、実直と言えばよいのか分からない反応に、虎太郎は漏れる溜め息を止められない。

 

 ガウェインの悪癖だ。

 生前、王への忠義を貫く余り、彼は“考える”という作業を自らの意志で封じていた。

 王の命令を王の求めるままに実行し、完遂する。其処に口を挟むのは余地はない。

 盲信があった訳ではない。騎士王(アルトリア)が王として余りにも完璧過ぎた故。

 

 自身では到底及ばない完璧な王に、忠言など不要。事実として、王に間違いなどなかった。間違っていたのは私を含めた周囲の方。

 それが、ガウェインが抱いている当時の己自身とブリテンへの結論である。

 そのお陰で、ガウェインは相手を信じれば信じるほど、積極的に己の意見を口にしなくなり、自身で物事を考えることをしなくなってしまう。

 

 虎太郎はこの悪癖も治さにゃな、と考えながら、チラリとエルキドゥを見る。すると、彼女は眉根を顰めて頷いた。

 

 

(やはりコイツは――――)

 

(――――中身が、ないね)

 

 

 エルキドゥは最高クラスの気配感知能力を有する。

 周囲の状況・環境を正しく認識し、相手の技量にもよるが気配遮断が意味をなさない場合もある。

 大地を通じて遠く離れた水源や森、サーヴァントの気配すらも感じ取る事が可能。

 

 その感知能力が、目の前の魔神柱は、かつて時間神殿で相対したものとは掛け離れた存在であると伝えている。

 

 虎太郎もその観察眼から同様の所感を受けていた。

 威圧感や魔力量の少なさは、時間神殿にて受けた傷が原因と考えれば納得が行く。

 

 だが、その中身の無さは異常だ。

 あの戦いの終わり、魔神柱はそれぞれの個我を得た。同時に、それぞれが誰も望まぬ宙への飛翔以外の独自の目的を得た。

 そうでもなければ、我が身を省みぬ徹底抗戦も、自己矛盾に依る崩壊も、尽きぬ疑問故の議論も、英霊の盾になる行動も起こしはしない。

 

 ましてや、宙域からの離脱――逃亡を選択した四柱の魔神であれば、より強い個我があり、新たな目的があったはず。

 

 それが目の前の存在からは、反応反射からも、所作からも、視線からも、気配からも、何一つ感じ取れない。

 

 無。全くの虚無である。

 意識も何もない。これでは力と形だけを残した残骸だ。 

 

 

(これで、アルフレッドとオレの推測が、ほぼほぼ確定したわけだ。いやぁ、全く。ゼパル君、運が良かったな。大凶に当たるなんざ、選ばれた魔神柱の証だよ)

 

(尤も、大凶に当たったことに全く気づかずに、後戻り出来ない所まで行き着いちまっただろう辺りは、不様と不用心の極みだがな)

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 

「これで、終わりだね」

 

 

 変幻自在の粘土細工。

 手足を刃に変えるも、自らの身体から切り離して射出するも、自由自在。

 変容できないものがあるとするのなら、それはエルキドゥの知恵と知識を超えたものであり、想像の及ばないものだけ。

 

 中身のなくなった魔神柱など、自らを“女”と再定義しながらも神造兵器としての能力(ちから)を振るうに躊躇のないエルキドゥに勝てる筈もない。

 ましてや、其処にメルトも加われば、負ける要素が生じる筈もなく。

 

 

「成程、そういうことですか。しかし、宜しかったのですか? 此処にもBBの目が届く恐れが……」

 

「いや、それはない。BBの力が及ぶ範囲はSE.RA.PHの中だけだ、黒幕も同様だろうよ。()()()()、だろうがな」

 

 

 虎太郎は二人の奮闘を眺めながら、魔力消耗を理由に戦わせなかったガウェインへ、得た情報を再構築した状況の中で、最も真相に近いであろう可能性を伝えていた。

 今の今まで伝えてこなかったのは、BBと黒幕に監視されている可能性を危惧していたためだが、この中央管制室にさえ来てしまえば、その可能性も激減する。

 

 SE.RA.PHを支配しているであろう黒幕。SE.RA.PHを管理し、聖杯戦争を運営しているBB。

 

 そのどちらも、今現在はその手をSE.RA.PHの外へは伸ばせていない。

 両者ともに、現状でさえSE.RA.PH内においては全能に近い力を持ってはいるが、真に全能だと言うのなら特異点は必要なくなっているだろう。

 故に、SE.RA.PHに取り込まれなかった施設は、軒並み何が起きているかを知ることは出来まい。

 

 もし、今も監視を続けている可能性があるとするならば、BBの方か。

 彼女ほどのAIであれば、中央管制室の機器をハッキングで既に乗っ取っている可能性はあるが、この会話を聞かれようが、虎太郎には何の問題もなかった。

 

 

「す――――素晴らしい! あの化け物を倒してしまうなんて!」

 

 

 魔神柱が魔力の砂塵となって消えていく最中、管制室の隅にあった机の影から、一行の活躍を称えるような拍手をしながら一人の男が姿を曝した。

 極限下に居続けた影響か、顔は疲労が色濃く頬は痩けていたが、表情には明らかな安堵の笑みが刻まれている。

 

 虎太郎は人間には顔を晒すつもりはないらしく、既にガスマスクを被っており、興味のない様子。

 仕方なしに、ガウェインが男と応対する。もし、虎太郎の推測が正しければ、ガウェインにとっても嫌悪に値する人種であるが、そこはそれ。

 

 推測はあくまで推測。そして、己は虎太郎とセラフィックスへの救援部隊。

 相手を邪険に扱わず、あくまでも救助者として態度を崩さない。そして、手短にセラフィックスの現状を伝えた。

 

 

「そ、そうか……救援に来てくれたのは、彼ひとりだけか……なんて事だ……救出開始から何時間も掛けたのに、ようやく此処に辿り着いただけなんて……」

 

 

 その言葉に、ガウェインは口を開こうとしたが、虎太郎に肩へと手を掛けられ止められる。

 友がどのような人間であれ、どのような手段を講じたのであれ、此処までの道程は過酷なものであり、論を跨がずに最短と呼べるものだった。

 その、まるで役立たずとでも言いたげな科白は、ガウェインの琴線に触れるには十分であったが、向けられた虎太郎が黙っていろと言うのであれば、それ以上は言葉にしない。

 

 

「し、しかし、これか――――アルターエゴォッ?! おおおおおおおい君、これはどういうことだ?! そいつは、BBの手先だぞ?! 一体何を考えているんだい!?」

 

「特に何も。裏表のない協力関係だが。何か問題でもあるか?」

 

「も、問題も何も、そんなことも分からないのか、君は!」

 

「分からんね。お前にとって恐ろしい怪物(モンスター)でも、オレにとっては貴重かつ重要な戦力だ。それとも何か? 事態を解決しに来たオレのやり方に不満があるのか? それとも、アルターエゴが手伝いをするのが困るのか?」

 

「――――――」

 

 

 ガスマスク越しでさえ分かる冷たい視線と声色に、男は黙り込んだ。

 嫌っている者、蔑む者へと向けるものとは、また違った冷たさ。それは、そのまま彼に対する興味関心の無さを示している。

 

 それだけで男は全てを悟る。

 虎太郎が救援なぞするつもりがない、と。

 彼はあくまでも事態を解決すると言っただけで、誰かを救うなどとは一言も口にしていない。

 

 ――助かりたいのであれば、相乗りでも利用でも勝手にどうぞ。オレは助けてやるつもりはない。いや、ほら、事態を解決したのなら、結果的に助かるから問題ないだろう?

 

 言外に、そう示している。

 男も黙らざるを得ない。この男は確かに救援ではあるが、救助対象に何一つ価値を見出していないのだ、と。

 

 

「別に、私は手伝っているつもりはないのだけれど……」

 

「ダウトだねぇ! 分かるとも!(プークスクス」

 

「アナタねぇ、その笑みは止めてくれないかしら! 腹が立ってしょうがないのだけれど?!」

 

 

 メルトは虎太郎の言葉に反論していたが、仲間であることは否定しない。

 それどころか、貴重・重要などの自身を認めている言葉に、頬を緩ませまいと必死だった。

 

 そんな姿に、エルキドゥは頬を膨らませ、口を片手で隠して愉悦していた。

 確かに微笑ましい姿であったのだろうが、見た目では馬鹿にしているようにしか見えない。

 

 

「さて、セラフィックスの記録を調べるとしますか」

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 待ちたまえ! 部外者が勝手に記録を見るんじゃない! 私が管理責任を問われたらどう責任を取ってくれるんだい?!」

 

「何か勘違いしてやいないか? お前に対して責任を取るのはオレの仕事じゃない。余り口出しするな、邪魔だ」

 

 

 虎太郎が中央管制室の端末に触れようとすると、今まで以上の狼狽を見せる。

 それも当然か。セラフィックスの記録はアニムスフィア家当主――オルガマリーの許可がないと閲覧できない。

 

 彼がセラフィックスの職員として規則・規範を守ろうとしてるのであれば、虎太郎もいくらかの譲歩――個人的にオルガマリーと繋がりのある事実を提示しただろうが、自己保身からの台詞であったためにそれすらもない。

 

 男は自尊心を傷つけられたのか、顔を真っ赤に染め上げて虎太郎を睨みつけたが、視線を向けられた本人は視線を合わせようとすらしない。

 どれだけの怒りを抱こうが、この男が直接的に手を出さないことを()()()()()からだ。

 例え、嫌悪を抱いているメルトリリス、凄まじい力を見せたエルキドゥ、物腰柔らかなガウェインがいなかったとしても、手を出さない。

 

 手を出せる人間であるのなら、この状況下で自己保身になど走らないだろう。

 

 虎太郎は端末を操作し、データを開示する。

 この事態の原因の一つである天体室についても調べるべきなのだろうが、まず調べたのは監視カメラの記録映像。

 

 と言うのも、虎太郎は天体室の場所を凡そではあるが掴んでいたからだ。

 このSE.RA.PHはセラフィックスが再構築されたもの。セラフィックスの面影が殆ど残っておらずとも、その事実は変わらない。

 そして、今まで回ってきたSE.RA.PHから、法則性を既に見出していた。

 

 それはセラフィックスに存在していた施設の機能と女体の部位(SE.RA.PH)が、ある程度、対応していること。

 

 血液を送り出し、流れ込む心臓には、情報が集い、命令が発信される中央管制室が。

 物を掴み、或いは砕く腕には、海底資源掘削用のマミュピレーター制御エリアが。

 血液を濾過する肝臓の収まった脇腹には、採掘資源から塩を抜く脱塩処理場が。

 

 全てが全てではないものの、これだけの法則性が見出だせるのであれば、天体室の機能から場所の予測も不可能ではない。

 天体室で行われていた実験がなんであれ、SE.RA.PH化を推し進める力を生み出しているのは事実。ならば――――

 

 

「おや。おやおやおやおや。意外でも何でもないが、コイツは一体どういうことだ。データが根刮ぎ消えてるぞぅ。自分に都合が悪いから、お前が消したのか?」

 

「し、知らない! 私は、何も……!」

 

「ほん、とぉうに……?」

 

「………………」

 

(駄目だ、コイツ。何も知らねー)

 

 

 虎太郎の尋問染みた問い掛けに、男は青い顔でコクコクと頷く。それでも、僅かばかりに安堵の表情を浮かべていたのは何故だったか。

 

 男の反応に、とんだ無駄足だったと虎太郎は嘆息した。

 真実、彼は何も知らないのだろう。データを消したのはBBと見るべきだ。

 

 でなければ、安堵を抱く理由がない。

 安堵したのは、自身の失策――いや、他人からすれば失策とすら呼べない悪行なのだろうが――を、図らずも知られずに済んだから。

 

 

(コイツが暴動の中心に居たのは態度からほぼ間違いない。安堵したのは、自分の失敗を隠せたからだな)

 

(うーん、そんなことは死ぬほどどうでもいいが。重要なのは、映像記録を見れなかった方だ。これはちと痛いが、まあ補填(リカバリー)は幾らでも利く)

 

 

 目の前の男は既に人と言う名の獣ですらなく、人形に過ぎない。

 役に立たない。面白味もない。無聊を慰めるくらいにはなるが、それすら飽いてしまった。だから、捨てられた。それだけの存在だ。

 虎太郎にとってもそれは同様。役に立つのなら拾いはするが、何の有用性も見いだせないのであれば、会話すら億劫だった。

 

 もう一度溜め息を吐き、虎太郎は端末からアドレスを入力する。

 繋がったのは『BBダイナー』だ。利用者が虎太郎だけなので、本来であれば彼の持つ携帯端末から繋がればいいのだが――

 

 

『この時代、何時でも何処でも何からでも通販サイトに繋がらないと言うのは、些か以上に不便ではないでしょうか。いえ、BB様のやる気の無さと自意識の低さを責めているのではなく、単純に利便性の観点から物を申しているだけで(以下略』

 

 

 ――と言うサイト批判長文メールに、BBは激憤した。

 

 どうやら、丁寧な文章での批判(あくば)だったのが、彼女の怒りを余計に煽ったらしい。

 お陰で、メールを送ってから僅か五秒の早業で、あらゆる端末から虎太郎がアドレスを入力した時のみアクセス出来るように緊急改造を施した。

 この仕事の速さには虎太郎も思わずニッコリ。だが、サイトに繋ぐとリピートされる小馬鹿にしたコメントの量が三割増しとなり、これには虎太郎も思わず青筋の量が三割増しであった。

 

 

「おい、BB、聞こえてんだろ。ちょっと聞きたいことがあるんですけどぉ? おーい、BBちゃーん」

 

『――――――』

 

「チッ、無視か。あーぁ、そうやって自分の予想外のことが起こるといつも動揺(フリーズ)なんてしてるから、先輩とやらに逃げられるんじゃないですかぁ?!」

 

『――……ごぱぁっ?!』

 

 

 サイトに繋げば、管理者もそれを知るのも当然のこと。リアルタイムでそれが知れる辺り、最上級のAIだけのことはある。

 無視を決め込んでいたようだが、虎太郎の心を抉る言葉のナイフに思わず反応してしまっている辺りが可愛らしい。

 

 

『ひゅ、ひゅー……はぁ……はぁ……な、何でしょうか、センパイ♡ この可愛い可愛いBBちゃんに何か御用ですか? それとも全面降伏の申し入れですかー? あーん、でもぉ、諦めが悪いだけの地を這う蟻さんのお願いなんてぇ、聞くと思っているんですか♡』

 

「うーん、BBちゃん可愛いよBBちゃん。涙目になりながら必死で取り繕う君の姿は美しい」

 

『――――ぐっ、ぐ、ぐぬぬぅー!』

 

 

 弱点をピンポイントで抉られたにも拘らず憎まれ口を叩ける辺り、彼女もメンタルが強いんだか弱いんだか。

 思わずエルキドゥは愉悦顔で吹き出しそうになり、その風貌からはとても想像できない愉悦部員振りに、隣のメルトリリスはBBへの同情すら忘れて唖然と眺めていた。

 

 BBから勢いと冷静さを奪いながら、会話の主導権を握った虎太郎は口を開く。

 

 

「カルデアに救援要請を出した奴を知っているか?」

 

『…………――センパイ? それが事態の解決に繋がる情報な筈はないでしょう? 私は貴方が苦しんで――――』

 

「だったら教えな。もうモチベーションが限界でね。これ以上前に進むには、それを知るのが一番効果的だ」

 

 

 BBにとって、よほど想定外であったのだろう。

 人間らしい表情など微塵も感じられない作り物の無表情。

 しかし、抑えきれない何かがあるのか、すぐに口元は歪み、眉根は寄り、頬は紅潮していく。

 

 やがて、負けを認めるように、大きく溜め息を吐く。

 虎太郎に対して負けを認めたのではない。BBが負けを認めたのは、自身の想いと“彼女”が最後に見せた人間力に対してだ。

 

 

『――――ええ、知っています。彼女の名はトラパイン。このSE.RA.PHにおける()()()()()です』

 

「成程、忘れずに刻んでおく。今後どう転ぶにせよ事態を動かした功労者だ。だが、もう死んでるだろう?」

 

『何を言うかと思えば。救援は遅すぎます。か弱い人間が単身でSE.RA.PHに挑んで無事に済む筈もありません。当然のように死んでいます』

 

「残念。罷り間違って生きているかもと期待したが……念のため聞いておくが、死体を確認したのか?」

 

 

 残念、と口にしながらも、ガスマスクの下では口の端は持ち上がり、笑みを象っている。

 しかし、それは無残に一人寂しく死んだであろう女への嘲りではなく、最低限の目的を達成し、最大限の成果を上げた者への称賛の笑みだ。

 

 

『ええ、勿論。生きているかも、なんて無駄な期待は止めて下さい。全て徒労に終わります』

 

「別に期待している訳じゃない。再度確認するが、死体を直接確認したのはBB、お前か?」

 

『その通りです。亡くなった方への追悼は分かりますが、この話はもう終わっています』

 

「もう一度確認するが、間違いなく――――()()なんだな?」

 

『だから、何度確認すれば気が――――――』

 

 

 しつこく問い質してくる虎太郎に、BBは苛立ちを見せていた。

 

 カルデアへの救援の一件に関して、BBはひたすらに真摯であった。

 普段の彼女であれば、人間の行動など全ては嘲笑の対象であり、楽しみの一つである。

 まるで土の詰められた水槽の中で蟻が巣を造るのを見て楽しむように、人の意志と行動を無駄な努力と嘲笑うが、トライパンの起こした行動に対しては、本物の敬意を払い、認めている。

 

 其処に易々と、何度となく触れられてはBBも怒りを露わにしよう。

 彼女はこれまで動揺を見せることはあったが、本気の怒りを見せてはいない。

 AIな分だけ、己を客観視できるからだろう。虎太郎の言葉は巫山戯てはいるが、一理はあると受け入れ、傷ついただけだ。

 

 だがこれは、下手に突けば殺されかねないレベル。

 それでもなおBBの危険性と自己との戦力差を認めつつも、虎太郎はなおも“お前”と強調して問う。

 

 苛立ちから視線がどんどん冷ややかになっていくのを止められなかったBBであったが、はっと息を呑む。

 虎太郎の狙い。この問答で、何を伝えたかったのかに気付いた瞬間、愕然と目を見開いた。

 

 

『――――――――――センパイ、貴方……!』

 

「――――ク」

 

 

 そんな、嘘、ありえない、とBBが声を上げようとした瞬間、サイトとの接続を切る。

 

 

(あの反応はBBがもう一人いる証。これで確定だな。まあ、BBにその事実を知っていることがバレたが、それはそれで利用できる)

 

 

 今度は、何の変哲もない携帯端末を取り出し、ロビンへと文章で指令を出す。

 ロビンへと誰にもバレずに予備の端末を渡す機会はいくらでもあった。

 『BBダイナー』の配達員として教会を訪れた際でも、裏側から帰還する折にロビンと取っ組み合った時でも。いくらでも、だ。

 

 

(タイミングは今がいい。BBも自分の隠し事がどういう訳だかバレて、動揺している)

 

(このタイミングが、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 一通り、ロビンへと指示を出した虎太郎は、端末をポケットに仕舞いながら、男に向き直る。

 何一つ興味のない対象。数少ない生存者であろうと己にとって何一つ利益を得られない、寧ろ、死んでくれた方が利益になる存在だが、まだ聞きたいことがあった。

 

 

「それで、他の生存者は……?」

 

「い、いや、もういない。少し前までは二人いたんだが、ひとりは恐怖に耐えられず外に出ていった。もう一人はそこのロッカーにいる。もう死体だがね。薬のやり過ぎで昏睡状態になり、目覚めなくなった」

 

「そうか。それはそれは……」

 

「Ms.マーブルは無事に保護しましたので、ご安心を」

 

「……マーブル? あぁ、此処から出ていった女性スタッフ? 呆れたな、私の言う事を聞かず、勝手に飛び出したのにまだ生きているなんて。よっぽど悪運が強かったのか」

 

(……こう、どうしてコイツは、この状況下で自分から自分の株を落としていくのか。助かりたくないのかな?)

 

 

 虎太郎のみならず皆までもが呆れ顔であった。

 この様子では、二人の名前すら覚えていない。この異常事態に対して、手と手を取り合い、小さな力を集結し、共に脅威へと立ち向かわなければならないというのに。

 これではSE.RA.PHで発生した地獄も、原因は別にあったとは言え、止めるどころから加速したのも不思議ではなく、当然の帰結だったと言えよう。

 

 とは言え、それはそれ。虎太郎には何の関係もない話である。

 憤りはせず、己も含めた上で元より人とはそういった生き物、と納得している。惨憺たる結末にも、輝かしい結末にも、正当な評価を下すまでだ。

 

 男の言葉通り、ロッカーを開けてみれば、小太りの男の死体が転がり出てくる。

 薬の打ちすぎという言葉は事実らしく、左腕の皮膚が一部分だけ青黒く変色し、無数の注射痕が残っている。

 当然ながら、目は虚ろなまま開かれ、死体特有の悲しいまでの無表情が張り付いていた。

 

 

「ちょっと、そんな死体をどうするつもり……?」

 

「持って帰るんだよ、教会までな」

 

「驚いたね。君に、死体を手厚く葬ろうとするなんて。そんな余裕があるのかい?」

 

「まさか。オレにとっては死体も人形も動かないただの塊だ。まあ、それに値すると判断したものならそうするがな。今回は、確認と打算だ。さて、戻るとするか」

 

「確認と打算って、一体……?」

 

「確認はSE.RA.PHにおける死体の消失時間がどの程度のもんか計りたい。打算は教会へ戻るまでに消失しなければ死体を丁重に扱ったとキャットの目的上、信頼を得られる。以上、何か問題あるか?」

 

 

 そう言いながら、虎太郎は死体を肩に担ぎ上げ、教会に戻ろうと指示を出す。

 その行動に、メルトはガウェインとエルキドゥに視線を向けるが、首を振るか、肩を竦めるだけ。

 

 これまでの特異点でも、虎太郎が意図の察せない行動に出ることは多々あった。

 だが、全てに意味があったのも事実。最低限の説明だけで済ませているが、味方ですら唖然とする意図があった。

 

 今回もそうであったとしても、後者は兎も角、前者に何の意味があるのか。

 

 

「ああ、そう言えば、名前を聞いてなかったな」

 

「……あ、あぁ、私はアーノルド。アーノルド・ベックマンだ」

 

「ふーん、そうかい」

 

 

 その名前に、ガウェインは眉根を寄せた。

 当然だろう。色々と不安要素を抱え、とても真っ当な人間とは呼べない人物であったが、これで確定したのだから。

 

 ベックマン。

 それは得た情報――SE.RA.PHに残った掃除屋の記憶で語られた、生き残りの中心人物。そして、粛清を掃除屋に命じた人物の名前であった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 虎太郎達が中央管制室から教会へと帰還し始めた頃――

 

 

(――ったく、大将もお膳立てしてるからって、こんなんオレにやらせないで貰えませんからねぇ)

 

 

 SE.RA.PHの何処かにあるBBスタジオ。

 BBが渾身の思いつきによって、様々なテクスチャを違法改造した部屋へと戻ってきたロビンは、姿を消したまま内心で愚痴を溢していた。

 

 虎太郎が考えた推論を聞かされていたときは半信半疑であったものの、自分の調査とも合致する部分は少なくともあった。

 なればこそ、虎太郎の指示も最適であると認めざるを得ない。タイミングも、これ以上ないほどだろう。

 

 

(ま、破壊工作はお手のもんですからね。やるこたきっちりやりますよ、と)

 

(しっかし、この霊基(からだ)に移ったからか、ダンの旦那のこともきっちり思い出せちまうのは困りもんだ。合わせる顔がねぇとは、この事だな)

 

(――――だが、許してくれよ、旦那。今回の敵、こうでもしなきゃ、オレの()は届かねぇみたいだからよ)

 

(その後は、騎士見習いとして、アンタが背筋が寒くなると言ったほどの狙撃で、撃ち果たしてやるさ)

 

 

 音もなく、気配もなく、熱もなく。

 “顔のない王(ノーフェイス・メイキング)”によって、スタジオの中央に立つBBへと静かに近づいていく。

 

 

「――あの人、一体どうやって、()()について……!」

 

(残念。単なる推測を、お前の表情やら発言から確信レベルに押し上げただけなんだよなぁ。ぶっちゃけ、証拠なんてない綱渡りですわ)

 

(動揺してると思う壺だぜ。オレと大将は容赦なく、其処を突くんですけどね!)

 

 

 今現在の主が見せる悪辣さと我が身の顧みなさに漏れそうになった溜め息を必死で抑える。

 

 虎太郎から伝えられた黒幕の正体が、“獣”の名を関するクラスに相応しい存在であるとするのなら、下手をすればBBの行動すら縛り、監視している可能性がある。

 策謀の糸は、誰に知られることもなく張り巡らせてこそ最大の効果を発揮する。故に、まだ姿は現さない。

 

 緑衣の狩人は息を潜める。

 逃げられることなく罠へと追い込み、聖なる樹木(イチイ)の一射によって、世界を喰らう獣を撃ち果たすために。

 




はい、というわけで、戦闘シーンは軒並みカット&皆(色んな意味で)大好きアーノルド君登場&無貌の王、動く、の回でした。

どんどん黒幕包囲網が張り巡らされていく感じ。
大体の特異点はこんな感じと、ゴリゴリの力押しで最適解を踏んでいったイメージです。
御館様と呪腕の旦那が情報収集して、答えに近い推論を導き出して、御館様の悪巧みをロビンが一緒に張り巡らせて、実行した後に持てる戦力でボコにする。うーん、酷いなぁ!
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