「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」 作:HK416
そして、水着イベントは何時になるのか。前の水着イベは殆ど参加できなかったし、新しい水着イベも期待のキャラが出てきそうだし、ふふふ、(ガチャを回し過ぎそうで)怖い!
一行はBBによる妨害もなく、何の問題もなく教会へと辿り着いた。
到着した瞬間、マーブルは怪我一つないアーノルドの姿に喜びを見せたが、当の本人はマーブルの名前すら覚えていないのか、ピンと来ていないようだった。
「よくご無事で。顛末はタマモキャットから聞いています。ガウェイン卿もたいそう奮ったようで。胸の豊かな、年下の少女のためにハッスルした、と」
「はははは。トリスタン卿、出番がなかった事を妬んでいるようですね」
「いや、何も間違っていないな。豊かな胸のために戦うって言ってた。これもラグネルに報告だな」
「ははは。そんな馬鹿な。ははは――――このガウェイン、言ってませんよね? いえ、本当に。冗談ではなく、本気で」
「自信なくしてんじゃねーか」
「……おぉ、私は悲しい……これは妻に失言を放ち続けた私のようです……(ポロロン」
「こっちの騎士は、またダメ夫としての顔を見せやがる」
円卓同士のじゃれ合いに、虎太郎も参加したのだが、出て来るのは二人の残念な部分のみ。
ガウェインも自身の好みに自覚がある故に、自分が無意識の内に良からぬ発言をしていたのでは、と心配になり。
トリスタンはその姿に、生前、妻を愛しきれなかった自分が繰り返した発言を思い出してか、
「うむうむ! それでは、早速だがニューフェイスを紹介しよう! さあ出て来るがいいファニー・デビル! なに照れるな照れるな、貴様は間違いなくkawaii!!」
「は、はい……気を遣ってくれて、ありがとうございます、キャットさん」
相変わらずテンション高めに現れたキャットの後に続き、パッション・リップが現れた。
『心の戦い』を制したことでKPが排除され、拘束具も効力を失ったらしく、可愛らしい顔の全貌が明らかになっている。
やはり、顔はBBとメルトに似通っていた。
ただ、表情は不安に揺れているものの、生来の柔らかさ故にか、BBよりも幼い印象を受ける。
「……はじめまして、皆さん。アルターエゴ、パッションリップです。今まで一方的に襲いかかっていたから、挨拶をされても迷惑だとは思いますけど……」
「別に気にしちゃいないが。オレ達は、特に実害を被った訳でもないからな」
「それはそうよね。初見の時は煙幕を張って即撤退。二回目は、その、あんな……」
「え、えっと、メルト……どうしたの、言い淀んで? 私、何かされたの……?」
「いや、特に何も? オレがお前の胸を揉んで揉んで揉んで揉み倒しただけだけど……?」
「そ、そんなことをされたんですか、私ぃ?! で、でも、よく分かりませんけど、その必要性があった、ん、ですよね? ……ね??」
「何処にもなかった。でも、BBが胸を触れって言うから、つい……」
「おっと、忘れておった。虎太郎よ、これは乙女を弄んだ制裁と知れぃ!」
「ぎにゃーーーーーーーーー!!!」
自分の助けられた経緯を聞いて、リップはさっと虎太郎から距離を取って、キャットの背後に隠れてしまう。巨大な爪が隠しきれないのは愛嬌であったのか。
その姿に、キャットはニッコリと笑いながら、両手の爪が煌めいた。
手加減はしていたが、バーサーカーの速度で制裁を加えられては、身体能力で劣る虎太郎が避けられるはずもなく。
被っていたガスマスクの上から顔を斬り裂かれた虎太郎は、両手で顔を隠して床をゴロゴロと転がる。
虎太郎の不様な姿に誰も手を差し伸べない。当然の報いである。
「………………」
その時、ギシと音を立てて礼拝堂の扉が開く。
裏側から表側へと戻る際、逸れてしまったエミヤが戻ってきたのだった。
虎太郎はそのままゴロゴロと転がって、彼の両足にドスンと当たって止まる。
ここまでくれば誰にでも分かるだろうが、マーブルとアーノルドに顔を見られるのが心底嫌で距離を取っただけで、特にキャットの制裁が堪えたわけではないようである。
「あら、裏側で逸れたアーチャーがお戻りみたい。さしたる戦果も成果もなく、よく戻ってこれたものね」
「恥を忍んで、というヤツだ。気は進まないが、今はこの教会がもっとも生存に適しているからな」
メルトの棘のある言葉と嘲笑に、エミヤは顰めっ面で応じる。
月での因縁故か、虎太郎に対する献身さ故にか。メルトはエミヤに対する当たりが非常にきつい。
エミヤはエミヤで大人――というよりも、この程度の悪罵に反応するような可愛らしさは残っていない。…………キャットと虎太郎のからかいには反応するが。
「おい、何時までやっているつもりだ、お前――――」
床に蹲っていた虎太郎を無理矢理立たせ、常に顰めっ面のエミヤの顔が驚きから目が丸くなっていた。
「――――何だ、その顔は。隠し包丁をいれたナスのようになっているが」
「そこでそういう感想が出てくる辺り、腐っても鯛。いや、腐ってもエミヤだな、お前は」
(普通、神経の集中した顔にそれだけの傷を負えば、痛いなどというレベルではないのだがね)
余りにもキャットの爪が鋭すぎたのだろう。パックリと綺麗に皮膚が切り裂かれており、碌に血も出ていない。
切れた、というよりも、細胞が独りでに結合を解いたかのようだ。
爪に合わせた傷が顔面を右こめかみから左頬を三本、左こめかみから右頬に三本が横断している。
これで平気な顔をしているのだ。エミヤでも驚きの一つもしよう。
そんな彼に肩を竦め、虎太郎は背後の二人――アーノルドとマーブルに顔を見られないように、新しく取り出したガスマスクを被ってしまう。
この程度の傷、回復系の能力を再現すれば、簡単に治るのでそれほど堪えていない。
もっとも、回復系の能力は虎太郎にとっては非常に相性が悪いものだ。
能力を奪う右目は相手が能力を行使するためのエネルギーごと奪うからまだいいが、能力を再現する左目は彼自身の対魔粒子の消耗が非常に激しい。
瞬時に回復したとしても、戦闘不能どころか意識不明になるほど対魔粒子を根刮ぎ消耗しかねず、逆に持続的に回復するとしても、回復し切る前に対魔粒子が切れてしまう恐れがある。
「それで、今度はBBと悪巧みか……?」
「…………勿論。オレの目的の関係上、奴との取引は必要でね」
「成程。まあ、キャットにも言ったが――――オレについた方が、より確実だとは思うがなぁ」
虎太郎はエミヤにだけ届く声で、薄っすらと笑いながら釘を刺すように語り掛ける。
エミヤも、虎太郎の猜疑心の強さと類稀な観察眼は認めているのだろう。
騙し通せるなどとは考えていなかったらしく、あっさりと自らの企み、BBと取引があった事実を明かす。
取引内容として有力なのは、SE.RA.PHの真実を聞かせる見返りに、乗り込んできた虎太郎とサーヴァントを殺すことだろう。
その程度のことは、虎太郎も分かっている。少なくとも、エミヤが差し出せるものはそれくらいのものしかない。
明確な裏切り行為であったが、虎太郎は笑うのみ。
分かっていたとしてもどうすることも出来ない。エミヤは、より確実に、より迅速に事態を終息できるのであれば、そちらを選ぶのは理解の範疇。
この場合、非があるのは己であると断じていた。少なくとも、エミヤが最短距離と認めるだけの要素を用意できなかった自分が悪い、と。
「――――だが、気をつけろよ。タイミングだけは間違えるな」
「それは脅しか? お前を殺したいのならば最悪のタイミングでやれと?」
「いや、オレと手を切るタイミングの方じゃない。自分一人で動くタイミングを間違えるな、と言っている」
「――――――お前、何を言っている」
「分からないか。まあ、それはそれで仕方がない。精々、
虎太郎にしてみれば随分とお優しいヒントを与えながら、エミヤの肩をポンポンと叩いていった。
だが、残念ながらエミヤは虎太郎の言葉尻のおかしさに気づくことはなく、訝しんだ表情をするばかり。
(戦場における冷徹さなら黒い方が上だが、冷静さと視野の広さなら赤い方が上だな、こりゃ…………『嗤う鉄心』だったか、精神汚染だか洗脳染みたスキルを抱えてちゃ、視野も狭くなる)
彼は固定された概念を押し付けられており、人理守護を最優先し、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方を強制される。
もっとも、それがサーヴァントのスキルとして形を為しているのは間違いなく、エミヤがその在り方を良しとしているからに他ならない。
人理を守護するためならば、どれだけ血で汚れようとも構わない。
それの邪魔をするのならば、誰であろうとも鏖殺する。
最大の効率と最小の浪費で、最短のうちに処理をする。
守護者の在り方として、何一つ間違っていない――――が、其処には陥穽が存在する。
低い可能性、己の目的とは無関係な事柄には決して目を向けない。
より短い時間で己の行動を決定する、という点に関して、これほど有効な方法はない。
だが。だが、もし、其処に重大な見落としがあれば――――最早、取り返しのつかない事態になるだろう。
(まあ、いいさ。気づかないなら気づかないで、潜在的な障害が一つ消えるだけ。気づいたなら気づいたで、黒幕を殺すのが楽になるだけの話だけ。どっちに転んでも、オレは楽を出来る)
極めて自己中心的な結論に達した虎太郎の内心を知ってか知らずか、エミヤはリップに視線を向け、うんざりしたような溜め息を吐く。
彼にしてみれば、アルターエゴを味方に引き入れるなぞ、論外なのだろう。
どれだけ善良であれ――いや、その製造、作成過程を考えれば、単純に善良な存在であるはずもないのだが――敵を味方にするなど、正気の沙汰ではない、と言いたげだ。
だが、虎太郎はその全てを無視する。それほどまでに彼女の“能力”は魅力的なのだろう。
「それで、彼女の処遇についてだけど、どうするつもりだい?」
「その前に、当人の意思確認だろ。で、どうする?」
エルキドゥの問いに、虎太郎は当然の答えを口にする。
自身に彼女を味方にするつもりがあっても、リップになければ何の意味もない。
そもそも、アルターエゴだろうが感情があるのだ。嫌々やっていても、成果はついてこない。その点は、人間と何の変わりも有りはしない。
「…………わ、私なんかがこんな事を言っても、信用してもらえないだろうけど、私も、メルトと一緒に戦わせて下さい! 皆さんのお役に立ちたいんですっ!」
「決まりだな」
「それと……ガウェインさんにお礼が言いたくて。私、拘束されていましたけど……声は、ちゃんと聞こえました。ありがとうございます。わたしとメルトを、ちゃんと女の子として見てくれて」
リップはそれが当然と、自身の気持ちを口にした。
彼女もメルトと同様。しなければならない、ではなく、したいからそうする。であるのならば、虎太郎が拒否する筈もなく。
アーノルドとマーブルは不安そうな顔をし、エミヤは顰めっ面が更に渋くなったもののオール無視。
二人は既に救出対象ではなく、エミヤは潜在的な敵認定をしている以上、彼等の意見なぞ聞き入れるような男ではない。
そして、礼を言われたガウェインは、その理由が全く分からないらしく不思議そうな顔をしていた。
彼にしてみれば、当然のことをしたまでであったのだろうが、リップにしてみれば、それこそ望外の幸運に思える事実だったのだ。
首を傾げるばかりのガウェインに、虎太郎は、早く返事をしてやれ、と脇腹を肘で小突いた。
「そう言われましても、私は当然のことをしたまで。もし、貴女が救われたというのなら、それは貴女自身の努力に他なりません」
「そして、感謝するのは私の方でもあります。無垢な少女を解放するために戦う。正に騎士の本懐でしょう」
「私の騎士道において、そのような機会は余りなかった。騎士ではなく友として戦うと決めてからの幸運、というのは皮肉以外の何ものでもありませんが」
「ともあれ、貴女の笑顔は報酬としてこの上なく。お名前の通り、野に咲く純粋な花のようです」
リップからの感謝を受け取り、その笑顔と言葉こそが自身にとって最高の報酬だと笑う。
流石は最高ランクの王子様属性持ちである。
恥ずかしげもなく気障ったらしい台詞を口にしているというのに、照れなど皆無。態度から何から完璧過ぎて虎太郎ですら口笛を吹くほどであった。
「ふ。どうでしたか、虎太郎、レディ・エルキドゥ。今のは完璧に決まっていたでしょう。ラグネルにも私の勇姿を喧伝して頂きたく」
「ボク、君の自分で自分の評価を落としていくところ、嫌いじゃないよ」
「分かった。ラグネルには、豊かな胸のために命をかけて戦ったことを伝えてやろう」
「待って。待ちなさい、虎太郎。不穏、その表現は不穏過ぎます。どの程度に不穏かと言えば、ラグネルとの結婚生活に罅が入りかねないほどです……!」
「オレがリップを喘がせた時に賢者モードになってたからね。スケベな奴だからね。残当だね」
「男は皆スケベですよ!」
「うーん。そういう正直な所も嫌いじゃないね(プークスクス」
ガウェインが焦りながらも真理を口にし、必死で虎太郎を止めようとするが、何処吹く風である。
ラグネルの内助の功を考えれば、その程度で罅が入るわけがないのだが、嫁LOVE勢筆頭のガウェインにしてみれば最愛の妻に余所余所しくされるだけで大ダメージであろう。
「ふむ、収まるところにまるっと収まったな! しかし、良いのか? トリ殿は反アルターエゴ派筆頭。言いたいことがあるのでは……?」
「私は流されやすい性格である上に、空気も多少は読みます。アルターエゴを信用はしてはいませんが、戦力として優秀なのはメルトリリスが証明してみせていますので。特には」
加えて言えば、メルトリリスはBBからの支配を受けていない。
ならば、拘束具から開放されたパッションリップもまた同様。
虎太郎達も彼女達を受け入れている以上、わざわざ自分が口を出して輪を乱すのも望ましいものではない、と。
トリスタンはあくまでも諫言の一つとしてアルターエゴの危険性を口にしているが、二人を決して否定はしていない。
その辺りは、生前、散々言葉の刃で他者を傷つけてしまった経験故か。或いは、仲間が意見の対立によって割れてしまう状況を目にしたくなかったが故なのか。
「仲間割れを気にするのであれば、私よりもそちらのアーチャーを気にするべきでしょう。…………先程から殺気が漏れていますので」
だが、トリスタンも騎士。仲間の背中を守り、必要な言葉であるのならば口にするのを躊躇はしない。
仲間であれば言葉を選ぶが、それ以外であれば辛辣にもなろう。特に、現状でアルターエゴよりも危険性のある男であれば尚の事。
彼の言葉と視線が向けられたのはエミヤだ。
トリスタンは既に弓の弦に指を掛けており、エミヤはホルスターに収められた干将・莫邪に手を伸ばしていた。
「まあ、落ち着け、トリスタン。そいつはあくまでも協力者だ、仲間じゃない。こっちのノリに付き合わせる必要もないだろうよ」
「話が早くて助かるよ。オレはそちらの理解不能な仲間事情など興味はないからな」
「――――ふむ。であるのならば、仕方ありませんね。しかし、SE.RA.PHに来てからというもの、貴方に諌められてばかりです」
「これでもマスターだもんで。サーヴァントの対人関係の調整も出来ねぇとな。言葉と話が通じるのなら、巧い落とし所を見つけるのは得意だ。それ以外は自害ですけどね?」
(マスターとしては私も高評価ですが、人間としてはアレですね……)
虎太郎の取り成しもあって、二騎のアーチャーは互いの得物から手を離す。
SE.RA.PH内において、この教会は数少ない安全域。互いの主張のぶつかり合いで失うよりも、不満を飲み込んでなあなあの内に終わらせた方が得策だ。
「うむ。私も反対はしないなあ。この部隊の統括者は弐曲輪君だ。何かあった場合、責任は彼が取るんだろう? なら、歴戦のマスターの判断に従うとも」
(コイツはなーにを言っておるのだ?)
(放っておけ、キャット。オレやガウェインは自分の株が上がった瞬間に自分から評価を落とすタイプだが、コイツの場合は無意識に自分の株をだだ下がりさせるタイプだから)
(無能な働き者という奴か。害悪にしかならんが、虎太郎の脚を引っ張ってくれるのなら――――オレの仕事がしやすくなるか)
「ところで、私は先に休ませてもらっていいかな? 正直、体力の限界でね」
「あ、それなら私が案内しましょうか? 二階にたくさん部屋がありますから」
この場において責任も何もない。今は生き残ることが最優先。
その先を気にしている、と言えば聞こえは良いが、今すら越えられなければ先はない。
余りにも見当違いな発言にサーヴァント達の視線は冷たくなったが、それに気づきもせず、アーノルドはマーブルに案内され、教会の二階へと登っていった。
「ガウェイン卿もお休みになられては? 我らサーヴァントに眠りは必須ではありませんが、卿の疲労は目に余ります。暫くは、休息を取るべきかと。戦いは、まだ続きます」
「心遣い、感謝します。幸いなことに、レディ・エルキドゥも救援に来てくれている。恥を忍んでではありますが、一時の間、虎太郎の護衛を全てお任せしたい」
「ああ、任されたよ、ガウェイン。太陽の騎士に代わってはボクでも荷が重いけれどね」
「――――御冗談を」
エルキドゥの掛け値のない本心に、ガウェインは心から微笑んだ。
もし仮に、両者が相対すれば、ガウェインの勝算は限りなく低い。
ガウェインに有利な条件を全て整えたとしても、勝率は一割を超えるかどうか、といったところだろう。
それほどまでにエルキドゥは強い。でもなければ、かの英雄王に並び立つなど不可能だろう。
そんな彼女が、ガウェインに敬意を払っている。
単純な戦い、単純な性能争いならば劣らない自負はあるだろうが、こと護衛役としてはガウェインが上と認めているのだ。
神が造りし最強の兵器、やがて芽生えた自我によって人の側へと立った美しい緑の人。
そんな人物に認められ、ガウェインもまた素直に誇らしく、同時に味方であることを頼もしく思えていた故の笑み。其処には確かに、互いへの信頼と敬意があった。
では、とガウェインもまた二階へと上がっていく。
事実として、彼の
睡眠によって無駄な魔力の消耗を極力抑え、回復に専念せねば、今後の戦いに響く。
足取りは確かであったが、去っていく背中には力がない。
ガウェインを此処まで消耗させたリップ、生前の彼を知るトリスタンは、言葉にこそしなかったが、心底からの心配を向けていた。
この時、虎太郎以外の誰もが予想してはいなかった。
彼の弱々しい背中を見ることになるのが――――最後になるなどと。
―――――
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―――
――
―
「――――と、言う訳です。私とラグネルの新婚も真っ青なラブラブぶりをご理解して頂けましたか?」
「はい、それは凄くすごいですね! あぁ、ラグネルさん、羨ましいなぁ……」
「はははは。レディ・リップにも私のような相手が見つかることは確定かと。何せ、容姿が大変素晴らしい上に、心も無垢ですからね! しかし、その無垢ぶりは余りにも……お兄ちゃん、心配です」
「なぁにあれぇ……」
「ガッウェが、あの程度でどうにかなるわけねぇよ。平常運転平常運転」
「あの状態で、ガンガン回復してるのは明らかにおかしいのだけれど…………ガウェインだからね! 仕方がないね!」
(リップの胸を見て魔力回復してんじゃねぇだろうな、おい)
部屋に戻って休んだかに思われたガウェインであったが、キャットやトリスタン、エミヤがそれぞれの部屋へと戻っていった辺りで、虎太郎とエルキドゥ、メルトとリップの集まっていた玄関横の風穴へとやってきた。
その姿にリップは慌て、メルトは呆然。虎太郎とエルキドゥは苦笑いであった。
それほどまでの消耗であったのだが、この程度はブリテンでは日常茶飯事、明日までには問題なく回復しますので、と夜を眠らずに明かすと四人の集まりに参加した。
その理由は曰く――
『いえ、ラグネルのいない一人寝の夜は寂しくて…………彼女がいないと眠れない身体になってしまいました。くっ!』
『くっ! じゃないわよ、くっ! じゃあ! 潔く休んでなさいよ、この残念騎士!』
『知ってた』
消費した魔力、崩れかけの霊基、疲労に喘ぐ精神。
だが、それが何だと言うのか。太陽の騎士はその程度ではへこたれない止まらない。何故なら彼はカルデアの三馬鹿筆頭。自分が疲れていることにすら気づかない……!
(まあ、冗談ですが……虎太郎、このようなものが)
(う~ん、報連相がしっかりしてるぅ~、しっかりしてるねぇ~。いい、とてもいいよぉ~。オレはガウェインのそういうとこ好きだよぉ~)
(私はラグネルが好きですがね!)
(いやぁ、そういうことじゃないと思うのだけど。それはそれとして、ボクは虎太郎が苦労してるところが好きだけどね!)
(己らは…………、でも許す! 報連相できる奴に悪いヤツはいない!)
実際のところ、ガウェインが虎太郎の元に訪れたのは報告のためだ。その内容とは――
――ガウェインは何者かに呼び出されたらしい。
ガウェインに割り当てられた部屋に一枚のメモが残してあったそうだ。
内容は『SE.RA.PHの秘密を教える。誰が味方か分からない状況だが、貴方が一番信頼できる。だから、皆が寝静まったあとに礼拝堂で』というもの。
ご丁寧に、筆跡から個人を特定できないように、印刷したものであったようだ。
その目的が何にせよ、容疑者は特定できない。恐らく、教会の関係者が使用していたであろうパソコンを使えば、誰でも作れるものだからだ。
(ガウェインを呼び出したのは、一番弱っていたからなんだろうが――――摘み食いでもしたくなった、みたいな行き当たりばったり加減だな)
事の経緯を聞いた虎太郎は呆れることしか出来ない。
ガウェインが容疑者の提案に乗るにせよ、乗らないにせよ、隠している自分の正体がバレかねない行為は、慎重さには程遠い愚行である。
そして、その愚行、その快楽を優先した行動方針は、黒幕のそれと合致する。
ガウェインのことを馬鹿にしているのか。それともこの教会に集まった全ての人物を馬鹿にしているのか。
恐らくは、両方だろう。何がどうなろうとも問題ない、と自分の成功を信じて疑っていない。
虎太郎に言わせれば、その考え方こそ馬鹿の極み、であるのだが、それだけの自信を有している以上、その力も本物と判断できる。
(どうしてこう、そういう力を持つ奴に限ってガキなんだか。全く以て意味が分からねぇ。神様は不公平だね!)
ともあれ、黒幕の思惑は、虎太郎の方針と生真面目なガウェインによって粉微塵になったのは事実。
これで黒幕が慎重さを取り戻すのは厄介であるが、この油断慢心ぶり。虎太郎が思い出すのは魔界の王達であったか、それとも英雄王か。
(まあ、いいさ。こっちはこっちで確認したいことは確認できた。キャットの信頼も得られて一石二鳥だったな)
ガウェインが熱くラグネルへの愛を語り、リップは目を輝かせながらガウェインとラグネルのイチャコラぶりに思いを馳せ、メルトがゲンナリとした表情でツッコみを入れ、エルキドゥはその様を見てクスクスと笑っていた。
虎太郎は其処に参加しつつも、切り離した冷静な思考で、玄関の隅に安置された机へと視線を向ける。
机の上には、死体袋が置かれていた。
中身は、中央管制室から回収してきた遺体――ホリィという男の死体が入っている。
彼の死体を丁重に扱い、キャットが目的――彼女を召喚したマスターを人として葬るというもの――を果たさせると示した。
相変わらず、キャットからの視線は胡散臭げではあったが、それなりの信頼は得られただろう。
そして、SE.RA.PH内で死体がどうなるのかも、測ることが出来た。
死体は生者と同様に、データ化の影響を受け、魂の有無によるものか、データ化の進行が早い。
恐らくは二時間程度で完全にデータ化されてしまうだろう。そして、データとなった死体はSE.RA.PHに取り込まれ、一部分は始末屋の記憶のように残るのだろう。
このデータ化の進行は、教会内に足を踏み入れたと同時に停止した。これも生者と変わらない。
更に死体の死後硬直、腐敗の進み具合も非常に遅い。これは恐らく、SE.RA.PH時間というものが、体感時間が伸びただけで、実時間が伸びている訳ではないことが影響していると思われる。
(黒幕の趣味嗜好は見えてきた。これで、今後の方針も決まったも同然。あとは、ロビンが巧くやれば、それで完成だな)
はぁ、と虎太郎は溜め息を吐く。
それはこの案件の解決が見えてきた安堵によるものではなく、酷く馬鹿馬鹿しいものに巻き込まれてしまったという、実に彼らしい溜め息だった。
はい、というわけで、御館様、キャットにシバかれる&ガウェイン、余裕で即死イベを回避&メルトとリップは早くもカルデアメンバーに馴染み始める、の回でした。
御館様、黒幕のことを知れば知るほどに、朧とかブラックとかを思い出してガンガンやる気がなくなっていく有り様。
最早、メーターはマイナス方向に振り切れているもよう。でもトラパイン女史が意地をみせたので頑張っているので、かろうじて仕事を完遂するつもりはある模様。
まあ、何だ。黒幕は普段のノリの被害を受けます。つまり、散々虚仮にされるってことだよぉ!(ニッコリ