※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

6 / 50

さあ、ご褒美の時間だ! 但し、今回は導入部な!(ゲス顔


思ったよりも難産だったんだ。やっぱりエロは苦手なんだ自分。

でもまあ、焦らしは必要だからね! だから、女だけじゃなく、読者の皆も焦らしちゃおうねぇ!

では、どぞー!



『苦労人と聖女様は存外に相性が良い。どっちも苦労しっぱなしの人生だしね。是非もないネ!』

 

 

 『聖女様と一緒! 前編』

 

 

 

 

「買い出しぃ?」

 

「はい。物資が不足しているわけではないのですが、その、皆さんの求めている嗜好品が……」

 

「お前ひとりで行けばいいだろ。オレが行く必要あるのか?」

 

「私一人ではとても持ちきれないです。こんなにですよ?」

 

「………………うわぁ」

 

 

 カルデアに住まう者に喫煙者は多くない。

 子供達に良くない影響を与えるとアタランテとヘラクレスの抗議の結果、カルデアの片隅に小さな喫煙所が設置される運びとなった。

 よく利用するのは虎太郎、ロビン、ドレイク、黒髭。あとは付き合いで金時やモーツァルトも軽くではあるものの紫煙を楽しんでいる程度。嫌煙の風潮は英霊達の間にも流れ始めているのだ。

 

 虎太郎とジャンヌはそこで向かい合っていた。

 ジャンヌが差し出して来たのは一冊の小さなメモ帳。

 受け取った虎太郎は、ビッシリと書き込まれたフランス語の量の多さに辟易とした声を上げた。そして、ポツリと一言。

 

 

「お前、字ぃへたくそな」

 

「し、仕方ないじゃないですか! 私の生きた時代は一農民の娘が読み書きを学ぶなんて出来なかったんですから!」

 

「そりゃそうだ。読む力は周囲の助けで何とかなるが、書く方は当人の知識と努力だからな。お前にゃ、そんな余裕も時間もなかったろうよ」

 

 

 生前はそれで苦労し、それで恥も掻いたらしく、ジャンヌは頬を赤くして拗ねた声色で反論する。

 彼女曰く、最後まで読み書きは上達はしなかったそうだ。共に戦ったジル・ド・レェのお陰で署名できる程度にはなったようではあるのだが。

 オルレアンの乙女の逸話として、一流の神学者にも劣らない答弁を行ったとされる。

 それは啓示と呼ばれるスキルのお陰ではなく、寧ろ、彼女自身の生まれ持った聡明な頭脳と努力と直向きさ、仲間の手助けによるものと、性格からも窺える。

 

 思わず拗ねてしまったジャンヌに、虎太郎は煙草を揉み消した。

 

 

「何なら、付き合ってやろうか。“これまで”はどうにもならないが、“これから”なら、オレでも手を貸せる」

 

「――――――え? 何を企んでいるんですか?」

 

「素敵な疑いをありがとう。だが、企みもクソもない。努力すると分かってる奴なら、オレは協力くらいはしてやる。無駄にはならんしな」

 

 

 真顔で、何か裏があるのでは、と疑いを向けてくるジャンヌの視線を、虎太郎はさらりと流す。

 元々、嫌々ながらも教師をしており、生徒に対するスタンスは“やる気のある奴なら、真面目に付き合ってやる”だった男である。心からの言葉だ。

 無論、こうしておけば良好な関係を築ける、という打算もある辺りが、実に彼らしい。

 

 

「では、その、お願いします」

 

「はいはい。じゃあ、ついでにお前のペンも買いに行こう。人によって、書き易いペンも違うからな」

 

「はい、先生――――なんて、ふふ…………因みに、ですけど、マスターはどうやって上手な字を書けるようになったのですか?」

 

 

 先生という言葉と共に茶目っ気たっぷりに微笑むジャンヌ。その微笑みは聖女のそれではなく、何処にでも有り触れた少女のそれだ。

 

 そして、彼女の質問ももっともであった。

 虎太郎は2016年における主要国家の言語をほぼ全てマスターしている。その為、少なくとも文字に関しては、サーヴァントの出身に合わせていた。

 ある時、偶然目にした虎太郎の書く文字は、誰にでも読みやすく、性格からは想像できない程に綺麗であった。ジャンヌも思わず感心してしまったほどだ。

 

 しかし、問い掛けを聴き、微笑みを見て、虎太郎の顔はこれ以上ないほどに顔を歪めていた。ジャンヌが肩をビクリと震わすほどである。

 

 

「オレはな、ここに来る前、というか、10年以上前から山のような書類と戦ってたんだよ」

 

「あの、マスター……何だか、物凄い勢いで目が、死んで……」

 

「それをな。如何に早く処理してな。その上で他人が読める字でな。書けるように追求したんだよな」

 

「マスター? …………こ、虎太郎? あの、あの……」

 

「そうでもしないと書類が溜るんだよ。そうでもしないと組織が回らないんだよ。その上、前線での任務もあったんだよ。明らかにおかしいんだよ。一時間くらい仮眠を取ると書類の山が一山くらい増えてるんだよ。ほんの三、四時間で前線任務をぱぱっと終わらせても、帰ってくると書類の山が三倍以上に膨れ上がってるんだよ。もうな、途中から自分でも何を書いてるのか分からなくなるんだよ。気分転換に死んでも許しを与えない鍛錬してきても、やっぱり書類が増えてるんだよ。仕方がないから潜入任務の時には書類を持っていって通風孔の中で対象を監視しながら書類を書いてよ。でも減らないんだよ。書いても書いても書いても書いても書いても書いても書いても書いても書いても書いても減らないんだよ。こんなの絶対おかしいよ! って思いながらも血反吐を吐きながら書いたよ。手足がへし折れても、内臓ぶっ潰れても書いたよ。永遠に終わりのない地獄のマラソンしてる気分だったよ」

 

「………………………………(唖然」

 

「でな、書類がようやく減り始めた頃にだよ。オレは誰よりも速く、そして誰にでも読みやすい色んな国の文字が書けるようになっていたよ」

 

「もう! もう、いいです! 私が、私が悪かったですから! 虎太郎、日本に帰りましょう! ね!」

 

「ビルマの竪琴じゃないんだよ。日本に帰ったら書類の山だよ。帰りたくねぇよ」

 

「休んでもいいですから! 買い出しにも私一人で行きますから! だから休みましょう!」

 

「休まねぇよ。ここで休むとオレの場合、碌な事にならねぇんだよ。例え死んだとしても許しは与えません。鍛錬でも人生でもな(白目」

 

 

 どう考えても常人なら、いや英雄であっても発狂しそうな環境であった。

 しかも、合間合間に死んだとしても許しを与えない鍛錬をしている。気分転換と称して、だ。ジャンヌは確かに、虎太郎の肉体的、精神的な強さの理由を垣間見た。

 その環境で生き残れるのだから、才能すら凌駕する努力と精神力も納得できた。

 

 そして、虎太郎の手を引いて止めようとするジャンヌ。

 だが、暗黒の仕事量を熟し、暗黒精神(ダークマターメンタル)を手にした彼を止められる筈もないのであった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 アルフレッドによって二人がレイシフトした先は、人理焼却が実行されなかった並行世界の日本。西暦は2015年。

 虎太郎が強奪した人類の叡智によって生み出された技術の結晶、人類史最高の人工知能による演算能力を以てすれば、時間旅行であろうが並行世界間の移動であろうが何の事はない。

 根源に到達したとされる魔法使いのお株を奪う行為である。これを普通の魔術師が見れば、卒倒は間違いない。だが、当の魔法使い達は笑って済ますだろう。どうにも、魔法使いは自身の魔法に、それほど執着はしていない様子が見受けられる。

 

 “魔道元帥”“宝石翁”“万華鏡(カレイドスコープ)”“宝石のゼルレッチ”。

 数多の名で呼ばれる第二魔法の使い手、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグなど、まず芽がでないであろう門下生の一人に『まあ、無理やろなぁ』と思いながらも第二魔法を限定的に行使できる礼装の設計図を宿題と称して渡しているほどだ。

 

 ともあれ、そんな魔法使いとは一切関わりのない虎太郎とジャンヌは、世界を救う幼稚園児とその父と母、妹と一匹の犬が住むと言われる某S県K市にある日本最大のショッピングモールに、私服で訪れていた。

 

 ジャンヌはノースリーブのシャツにネクタイを締め、ショートパンツに爪先と踵が露出したトレンカタイプのニーハイソックス、ヒールの高いサンダルを履いていた。

 虎太郎は、米連の人気ロックバンドのロゴ入りTシャツに、ジーンズとスポーツサンダル、白いハットを被っている。

 

 二人はカルデアのサーヴァント達から要求のあったものを買い終えた後だ。

 子供組のお菓子と玩具。女性陣はシャンプーやボディソープ、化粧品、調理器具を中心とした日用品。男性陣は酒につまみ、煙草に漫画などの嗜好品。

 買ったものは虎太郎の“彦狭蔵”の中へと放り込んでいた。これならば馬鹿げた量の買い物であっても、何の問題もない。“彦狭蔵”の中に入れられない生ものは、即座にカルデアへと送ってある。

 

 レイシフト使用の原則として、レイシフト先の物品の転送は、必ず虎太郎が目を通し、アルフレッドによって精密検査が行わなければならない。

 何しろ、本来はカルデアに存在しないものである。カルデア内に持ち込んで、どんな影響を及ぼすのか分かったものではない。それは並行世界の日用品であっても変わらない。

 

 呆れた疑り深さが形になったかのような原則だ。

 だが、当然である。持ち帰ったモノが敵の罠でした、などと笑い話にもならない。“トロイの木馬”を許すほど、虎太郎は間抜けでも無能でもなかった。

 

 

「しかし、食べ放題のバイキングで出禁になる奴とか初めて見たわ」

 

「…………………………………………言わないで」

 

 

 虎太郎の呆れを含んだ言葉に、隣を歩くジャンヌは真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、蚊が泣くような声を出す。

 つい数十分前、二人が入ったレストランの店長から『にどとくんな!!』と涙目で塩を撒かれたのだから当然だ。

 

 ほどほどの金で、そこそこの種類を選べ、かなりの量を食べられるバイキングが、虎太郎としてはあれやこれやと考えなくて楽だったのだが、この現状は予想していなかった。

 いくらジャンヌが大喰らいだとは言え、どう考えても華奢な身体にバイキングの為に用意される素材の体積が収まりきるなどとは考えてはいなかったのである。

 しかし、彼女は食べて食べて食べ続けた。私の胃袋は宇宙ですと言わんばかりに食べ続けた。虎太郎など、最初の30分でもう満足したと言うのに。

 消えていく料理。消えていく飲料。食べ放題の時間が終了する頃には、店の食料は食べつくされ、ドリンクサーバーの中身もなくなったほどだ。

 

 

「……き、消えてしまいたい」

 

「へぇ、お前の胃袋に消えた料理みたいに?」

 

「…………はうぅ」

 

「健啖家で結構結構。悪目立ちはしたが、満足したか?」

 

「うっ………………量も、味も、大変よろしかったですぅ」

 

 

 普段の彼ならば、殴ってでも止める悪目立ちという暴挙なのだが、幸いにして此処は並行世界。

 人々の記憶に残ったとしても、自分には何の不利益もないので、させるがままに任せた。

 その結果が、ジャンヌの醜態なのだが――――胃袋的に満足したのなら、差し引きゼロといったところか。

 

 

「さて、次はいよいよお前のペンなわけだが……」

 

「でも、ペンと言っても色々ありますね」

 

「今回は鉛筆とノートだなー。こっちは安物を買う。シャープペンもボールペンもあるが、アレはアレで中々癖があるからな。後は高めの万年筆でも買おう。アレは中々書き易い」

 

「高い…………別に、そこまでのものを」

 

「遠慮をするのも分かるがな。そういうものは安かろう悪かろうだ。後、気に入ったものを買うとやる気も変わってくるしな。ほら、着いたぞ」

 

「うっ! 何ですか、これは?! これが、文具店……!?」

 

「結構、洒落れてんなぁ。まあ、金持った役職が良く来るところみたいだから当然か」

 

「や、止めておきましょう! これはカトリック的にNGのお店です! 清貧には程遠い気がします!」

 

「まあ、そういうな。お前は我がカルデアに於ける最高顧問なんだからな。役職も同然よ。良い物を使わなくちゃねぇ~」

 

「自覚はありますが、今まさに特大の厄介事を押し付けられた気が! そして、何を狙っているのか分かった気が!」

 

「おう、オレと一緒に書類地獄を潜り抜けようか(にっこり」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「ふぅ~…………疲れました」

 

「何時もは戦線で旗持って戦ってんのに、何を言ってんだか」

 

「それとこれとは話が別です。…………どうにも、私は勉強というモノが不得手のようですね」

 

「頭は悪くねぇのになぁ。得手不得手、好き嫌いは如何にもならんか」

 

 

 カルデア帰還後、二人は英雄達に嗜好品を配り終えると、ジャンヌの部屋に引き籠った。

 読み書きが不得手、というのはジャンヌにとっては生前からのコンプレックスだ。

 彼女が生きた時代の背景、彼女の出生を考えれば何一つおかしくはなく、不思議でもないのだが、真面目な彼女にとっては言い訳にしかならないのだろう。

 

 其処を他の英雄達に面白半分で揶揄われるのは、彼女のやる気を削がずとも、彼女の気分が良くなる筈もない。

 虎太郎は自分が教師役を買って出た以上は、ジャンヌには気持ち良く、確実な成長を促すつもりだ。精神面におけるフォローも忘れるつもりはない。

 どうしてそこまで気が回るのに、普段から気を使わないのか。誰もがそう思うであろうが、虎太郎の答えは常に一つ。自分が楽したいからに決まってるだろう、だ。

 

 

「ふふ。ほら、手もこんなに」

 

「鉛筆使ってりゃな。良い事だ。書けば書いた分だけ、字も綺麗になる」

 

 

 生前はここまで読み書きの練習は出来なかったのだろう。

 当時、紙は貴重品だ。印刷物の需要が高まった反面、常に紙の原材料不足にヨーロッパ世界は悩まされていたのである。

 専ら、羊皮紙が使われていたのであるが、紙よりは安いとは言え、十二分に高価であった。おいそれと練習に使う訳にもいかないのも頷ける。

 

 ジャンヌは笑顔と共に、芯から出たカスで黒く染まった右手を見せつける。どうやら、勉強は不得手、苦手であるようだが、嫌いではないらしい。

 

 虎太郎の表情は相変わらず無表情であったが、穏やかさが見て取れる。

 何のかんの言ったところで、教師としては二流三流でも、人に何かを教えることに関しては一流だ。

 死んだとしても許しを与えぬ、が基本の男ではあるが、才能は乏しく、自身を構成する能力の大半は苛烈過剰な研鑽によって身に付け、常に思考することよって磨いてきた。天才に在りがちな感覚で覚えろという理不尽はなく、論理的に伝えることが出来る。もっとも、そこからはかなりスパルタなのだが。

 

 

「少し力を込め過ぎだな。長く書き続けたのも理由だが、無駄な力が入っているから、そこまで汚れる」

 

「成程。ですけど、こう、握りを弱くすると、字がヨレヨレで。どうしても力が入ってしまって……」

 

「持ち方が悪い。後は指先だけで書こうとし過ぎだ。もっと手首を使うんだ」

 

 

 困った顔をするジャンヌを見かね、虎太郎は彼女の後ろに回り込んで、鉛筆を握った右手を重ねた。

 

 

「――――ひぅっ」

 

「変な声を出すな変な声を。言っとくが、オレは真面目に教えてるからな」

 

「そ、そそそ、そんなことは分かっています。貴方は真面目な時は真面目ですとも、ええ」

 

(何一つ信用されてねー。どうでもいいがな)

 

 

 たったそれだけの行為で、ジャンヌの顔は真紅に染まる。

 数多の男と轡を並べ、権力者の陰謀によって牡の下衆な欲望に晒された彼女であったが、何の邪念も欲望もなく男に触れられた経験は無きに等しい。

 

 虎太郎は呆れ顔だ。

 もう一線など疾うに越えているというのに、目の前の聖女は異性と触れ合う行為に何時まで経っても慣れない。 

 其処に愛しさすら感じるが、今は心の底の底にまで封印する。教導教育にそのような感情は不要で無価値と断じているからだ。

 

 ジャンヌの手を握り、指先の何処に無駄な力が籠っているのか、手首の何処にぎこちなさが潜んでいるのか、腕の何処の筋肉が使われていないのか。

 備に入念に観察し、手から伝わる感覚を頭の中で再構築して、論理的に言葉として伝える。

 

 事、教育と言う点に関して、虎太郎は実に気長だ。

 自身の教え方が、相手に合っているかは教えてみるまで分からず、自身の言葉が100%伝わるなどとは思っていない。

 常に教え方を変え、言葉を変える。手を変え品を変え、自身と相手の歯車が噛み合うまでトライアンドエラーを繰り返す。

 

 やがてジャンヌは、あ、と呟いた。

 ジャンヌの腕から余計な力が抜け、必要な分だけが残る。文字通り、彼女がコツを掴み、尚且つそれを自覚した瞬間だ。

 指先と手首は緩やかにさらさらと。芯先は滑らかにすらすらと。

 虎太郎も僅かな文句を残すが、口にはしない。これ以降は、後は身体に覚え込ませるだけだからだ。

 

 

「いい感じだ。後は数を熟して、読みやすい文字がどういったものなのかを知ればいい」

 

「ふぁぁ、まさか、私が、こんな短時間で……」

 

「技術技能ってもんは時代を重ねるほど敷居が低く、誰でも努力次第で習熟可能になるものだ。まあ、その分、神秘や稀少性は薄れていくがな。それもまた成長の証だな」

 

 

 虎太郎の言葉が耳に届いているのかいないのか。ジャンヌは感動の余りに頬を染めている。

 今日の朝まではペンを握ることすら億劫だったが、今この瞬間はペンを滑らせることが楽しくて堪らないと言った風である。

 

 誰とて自身の成長を実感することは喜ばしく、楽しいものだ。ジャンヌの感動も頷ける。

 

 その横顔に、虎太郎は見えない位置で笑みを浮かべる。

 彼女は某復讐者のサーヴァントには人間城塞などと揶揄されたこともある。

 だが、戦いから解放され、城門を開いたその先に待ち受けているのは、驚くほどに穏やかで何の変哲もない風景(こころ)が広がっている。

 

 目標としていた地点を大きく超える位置まで着地した納得、僅かばかりの悪戯心が鎌首をもたげ、虎太郎は行動に出た。

 

 

「――――え?」

 

「そんなに驚くことはねぇだろうに」

 

「え? あれ? あの、あのあのあの――――」

 

「いや、頬にキスしたくらいで、よ」

 

「――――――――――ひあああああぁぁああああぁぁあぁぁぁあああっっっ!!!」

 

「………………うるせぇ」

 

 

 突然、頬に訪れた感触にジャンヌは硬直したが、何が起きたのか理解すると顔を耳まで真っ赤にして悲鳴を上げる。

 もう、この程度では済まない行為を致しているというのに、この反応である。この初心さは男をこれ以上ないほどに楽しませるものだとジャンヌは気付いていなかった。

 

 反射的に逃げようとしたジャンヌの腰に腕を回し、がっちりとホールドする。

 どうやら、逃げずに続けろという意味らしいが、そんなことをジャンヌに許容できるはずもない。

 

 

「どうした? 手が止まってるぞ」

 

「ひっ……ぁ……、む、無理です。耳、舐めないでぇ……っ」

 

「なら、首ならいいか」

 

「くぅ……だ、め、です……そんなに、強く吸ったら……跡が、残っちゃう……」

 

「オレ、好きなんだよ。キスマーク残すの。ほら、自分の女だって、他の男への宣言にも牽制にもなるだろう?」

 

 

 ぴちゃぴちゃと耳朶を犯す水音。鋭敏な皮膚を蟲が這い回るような感覚。

 どちらも不快感しか覚えないであろう感覚にも拘わらず、ジャンヌの身体はぶるぶると快楽に震えていた。

 

 虎太郎が耳を唇で食み、耳朶に舌を潜り込ませる度に、脳髄が蕩けていく。

 虎太郎が首筋に鼻を押し付け自身と汗の匂いを嗅ぎ、舌が這う度に胎の奥が疼いていく。

 

 かつて自身に降りかかった凌辱。その起点となった男の欲望。

 虎太郎が抱き、自身に向けているものも同一だというのに、その手練手管は“それ”を全く感じさせない。

 

 ジャンヌは口が裂けても言えないが、彼女の好みを理解し、望んだ悦楽のみを与える愛撫。

 鉄の意志も信仰心も、今や意味を為さない。今、虎太郎が愛撫しているのは、聖女でも信仰者でもなく、単なる少女に過ぎないのだ。

 

 次第に、ジャンヌの表情は蕩けていく。

 目尻は垂れ下がり、口の端は緩んで涎を垂らしそうなほどだ。

 

 それを確認すると虎太郎は首筋に吸い付いていた唇を離す。勿論、ほんのり紅色に鬱血した傷跡(キスマーク)を残して。

 

 恐る恐ると、そして僅かな期待を向けてジャンヌは虎太郎に顔を向ける。

 待っていたのは普段は決して見せない深い深い笑みを浮かべた男の表情。

 

 お前が愛おしくて堪らない。お前が可愛くて仕方がない。お前が欲しくて我慢できない。

 

 今この瞬間だけは、一直線に最短距離を。世界の滅亡にも人理の焼却にすら目もくれず。されど、冷徹な炎だけは瞳の奥底から消し去らず、自分を求める男に絆される。

 ドクリと心臓が跳ね、キュンと腹奥が切ない疼きを示す。それだけでジャンヌは自分がどうしようもないほどに女だと自覚する。

 

 どちらともなく。互いが望むままに。唇と唇が触れ合った。

 一瞬だけの重なりであった。互いの愛と欲望を伝えるには十分な、それでいて箍が外れるには十二分の威力。

 

 それを皮切りに、ジャンヌと虎太郎は互いを求め合った。

 

 

「んうっ……んん、んっ、ちゅ、……んれっ……じゅる……ふぁっ……んくんく……ふ、むぅ……じゅりゅりゅ……れろ……」

 

 

 控えめでありながらも貪欲に、深く深く舌を絡め合い、粘膜を交換する。

 唾液を飲み下す度に咽喉も食道も胃も子宮も熱く煮え滾り、全身が燃え盛っていく。熱い汗が噴き出し、背中と胸元を伝う。

 かつて炙られた偽りの浄化の炎とは全く別。女の情欲そのものが形となった発情の炎に炙られ、ジャンヌはたちまち焼け焦がされる。

 

 ――これなら、幾分か“あの時”の方がマシです……!

 

 観念と諦念を抱き、常人からすればとんでもない思考を展開する。

 もっとも、ジャンヌという少女は戦うと決めた瞬間から、あらゆる出来事に対し、覚悟を決めていた。あの最後、悲劇と悲嘆しか残らなかった最後すら、当然の結果と受け入れた。

 故に、彼女には後悔もなければ憎悪もない。魔女として火炙りにされようが、ありとあらゆる凌辱に晒されようが、人としての尊厳を全て奪い去られようが――――死後も徹底した辱めを受けようとも、オルレアンの乙女は揺るがない。

 

 けれど、覚悟も想像もしていなかった事態にはやはり弱い。

 こんな自分を全て肯定し、求める男が居るなどとは思ってもみなかった。

 

 そんな心の隙間に入り込むように、逸れた意識を自分に向かせるように。

 虎太郎は舌を使ってジャンヌの舌を自身の口内へと誘うと、甘く噛み付いた。

 

 

「んむっ?! ん、ひっ――――――んんんんんっ♡」

 

 

 燃え上がるような、蕩けるような、軽い絶頂。

 口腔愛撫(ディープキス)だけで達せるようになってしまった自分の身体に恥じらいを覚え。

 舌と歯の動きだけで自分を絶頂に誘えるほど自分以上に自分の女を理解した虎太郎に戦慄と恐怖、どうしようもない歓喜を覚えてしまう。

 

 甘く噛まれた舌を解放され、舌と舌を繋ぐ銀色の糸がプツリと切れる。

 意のままにならない身体をくたりと椅子の背に預け、ジャンヌは舌を出したまま荒い呼吸を繰り返す。

 

 

「はぁ……ふぅ……ふぅー……はっ……ひぅ……っ」

 

「続き、してもいいよな?」

 

「ふぅ……なんて答えても、同じことをする癖に……」

 

「それでも肯定の言葉を聞きたい。その方が滾るからな」

 

「もうっ…………でも、約束して下さい」

 

「何なり、と」

 

「乱暴にするのは、止めて下さい。まだ、ほんの少しだけ怖いので……」

 

「当たり前だ。そんなもんはSEXじゃありません」

 

「ちゃんと、愛して下さいね? 私だって、女ですから……」

 

「勿論。そっちの方が楽しくて、気持ちがいい」

 

「それから、電気を……」

 

「あー、それは駄目だ。それじゃあ、お前が悦ぶ姿がよく見えない。全部だ、お前の全部が見たいからな」

 

「も、もうっ…………コタローの、意地悪♡」

 

 

 最後の約束だけは受け入れて貰えず、拗ねた口調で虎太郎を責めるジャンヌであったが、その声色はとても責めているものとは思えない、甘えた響きで満たされていた。

 





というわけで、御館様と聖女様のデート&御館様教師としては三流だが、教えることは一流&聖女様キスだけでトロトロに。流されてる、流されちゃってますわー、でした。

こんな感じで、ジャンヌは色気があるので、御館様がムラっと来て悪戯→そのままベッドインのパターンが大半の模様。ジャンヌの方から誘っちゃうこともあるけどな!(大興奮

なお、このジャンヌもモーさん同様にアポクリファを経由しています。
ですが、その経験の記憶はあるものの、実感に乏しく、当人としては夢のような感じ。
安心してくれ。あくまでも座の方のジャンヌはジーク一筋だ。虎太郎&アルフレッドのジャンヌはあくまでもコピーだからね。NTRダメ絶対!
いやー、fateの設定は便利だわー。時々、おかしな設定が生えたり、後付けでとんでもないことになるけどな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。