※この作品はR-18です。

優しい嘘   作:卵白

1 / 19
ちょっと暗い
提督のお話です。

SS投稿速報に投稿したものを
再編集したものです。


空間

「?」

 

 

 

 

静かに意識が覚醒する。

真っ白な空間。

 

 

両足でしっかりと立っているのは感じてはいる。

ここはどこだろう。

 

 

寒いとか暑いとか、気温があるような感覚が

あるわけではない。敢えて言葉に起こすなら

 

 

「適度な温度」

 

 

寒くもなく、暑くもない。

快適と言えば言葉は良い。

 

 

 

視線を足元に落としてみる。

 

 

 

 

お気に入りの黒い革靴を履いている。

光沢があり、長年私の足を守り続けてくれて

思い出深い革靴。

 

 

 

ああ、これは

 

 

 

―に勤めていた時

―が誕生日に買ってくれた大切な…

 

 

 

 

…

 

 

 

 

―って、誰だ?

 

 

 

 

脳にフィルターが掛けられたように

酷く記憶が曖昧だ。

 

 

 

確かに、大切な人とここでは

無い場所で何か、大事な…

とても大事な事を成し遂げようとしていた。

 

 

 

あまりに要領を得ない思考に

嫌気が差し辺りを見回す。

 

 

 

どこまでも白い空間が広がっている。

 

 

 

本当にどこなんだ?

 

 

 

その場で

軽くジャンプしてみる。

 

 

 

トントンッ

 

 

 

硬い感触を足の裏に感じる。

音は響かない。

 

 

 

しっかりとした感触に安堵すると同時に

疑問が生まれる。

 

 

 

規模は不明だが

広い空間だ。

 

 

音が響かない事に違和感を覚える。

 

 

とにかく『床』のようなものは存在している。

この空間の広さが気になる所ではある。

 

 

今度は両手を眼下に

持ってくる。

 

 

 

両手を覆うのはこの空間同様

真っ白な手袋。

 

 

 

それが私の両手を覆っている。

 

 

 

手を何度か閉じては開いてみる。

 

 

 

ふむ、

これは紛れもなく私の手である。

当たり前だが。

 

 

 

その手で顔を触ってみる。

 

 

 

ペタペタ…

 

 

 

頬をつねって横に引っ張って

手を離すと、元に戻る。

 

 

 

ちょっと痛い

 

 

 

グニグニと化粧水を揉みこむように

頬に力を加えたり弱めたりする。

 

 

 

感覚を確めようと

手袋を外し同じように

顔に触れる。

 

 

 

顔から伝わる体温、

触ってみてわかったが

手先はヒンヤリと冷えている。

冷え性なのか。

 

 

 

弾力さと骨張った感覚を

同時に手に覚える。

 

 

 

…どうやら私は若いらしい。

 

改めて

自分の体を確かめる。

 

 

体の至るところは

筋肉の盛り上がった所がある

 

 

 

筋張った

両肩、胸板、太腿―

 

 

 

帽子を取り、髪を触る

 

 

生い茂っている。

 

 

股を摩る

 

 

私は所謂(いわゆる)

『男性』らしい

 

 

 

一通り、己の体を調べた。

 

 

 

ざっくり纏めると

おそらく20代後半、細身の男性。

 

 

 

腹や、臀部には無駄な肉は

付いてなかった。

 

 

 

服装は

どこかの式典にでも出るのかと

疑われそうな程、真っ白な服。

 

 

 

 

確かこれは海軍の士官服。

二種軍衣。

 

 

しっくりくる感覚に

奇妙さを覚える。

 

 

 

 

おかしい―

 

 

 

 

なぜ何も覚えてない―

 

 

 

 

記憶の手掛かりが無いか

ズボンのポケットを弄る

 

 

 

―?

 

 

 

手のひらサイズの

カサカサとした物が右手に触れる。

 

 

 

それをズボンの右ポケットから

 

 

 

ゆっくり引き抜くと

それは色褪せ、

まるで長く握り潰されていたように

クシャクシャな皺だらけの…

所々に黒い染みのついた写真だった。

 

 

 

そうこれは写真

 

 

 

欠如しているのは

自分の存在に関する記憶のみで

知識という物はある程度保持しているようだ。

 

 

 

現に、先程から様々なものを認識出来ている。

 

 

 

靴、服、手袋、帽子

そして写真…

 

写真に目を落とすと

 

見慣れない場所がそこには写っている。

 

中心にいる男性は一体…?

 

 

--------------------------------

 

 

 

男性を中心に

その周囲は女性に囲まれていた。

 

 

 

金髪の青いドレスのような服装の

健康な体つきの女性。

 

 

 

栗色の髪の快活そうな

巫女服のような装いの女の人。

 

 

 

自信の無さそうな弱々しさを

感じさせる少女。しかし

その表情はとても穏やかなように感じる。

 

 

 

桜色の長い髪をサイドに纏めた、

優しい笑みを浮かべている少女。

 

 

 

線の細い体をしていながら

鋭い眼光を備えた整った顔立ちの

少女。

 

 

 

………

……

…

 

 

 

懐かしさを覚える、

私は彼女達を知っている。

 

 

 

ただ、『知っている』という事実を

知っている。

 

 

 

彼女達が何者で私とどういう関係にあったのかは

思い出せない。

 

 

 

友人なのか、家族なのか。

 

 

しかし

どの娘も

私にとってかけがえの無い存在。

 

 

 

確かに強くそう感じる。

 

 

 

 

この男性は?

 

 

 

気の弱そうな眼。

細い顔。

 

 

帽子から覗く黒い髪。

 

 

 

その頬は少し緩み、わずかに

赤みを帯びている。

 

 

 

依然として、頭から情報が取り出せない…

 

 

 

この黒い染みはなんだろう。

 

 

 

しばらくその写真を見つめて

ある事に気付いた。

 

 

 

写真の中の男の左隣にいる

女性も自分同様に少し頬を朱に染めている

 

 

 

 

―…です、よ…します

 

 

 

―賑やかな…ね

 

 

 

―私で…ですか?

 

 

 

 

頭が痛い。

 

 

 

ギリギリと

締め付けるような

脈打つような頭痛を感じ

顔を顰める

 

 

 

思い出すな思い出すな

 

 

 

この痛みは

頭がそう訴えているようにさえ

感じる

 

 

 

記憶を刺激する声

鈴を鳴らしたような、良く響く声

ずっと聞いていたいと思った声

 

 

その声で私を呼んでほしい

 

 

 

 

 

 

しばらくして頭痛は引いていった。

 

再び写真に視線を戻す。

 

 

他の女性よりも僅かに

私に寄り添うような姿勢に見えなくも無い。

 

 

 

他に手掛かりは…?

 

 

 

写真をクルクルと回転させたり、

裏返してみるが特に目星(めぼし)い

ものは見当たらない

 

が、これから様々な

情報が読み取れた。

 

 

 

これは、どこか港のような

場所で撮影されたもののようだった

 

 

 

 

海が写っていたし、

見切れてはいたが貨物船のような

船の一部が紛れていた。

 

 

 

 

いつ撮られたものか

撮影日が記入されておらず

把握出来ない。

 

 

 

気掛かりなのは

この黒い染み

 

 

所々に不揃いに模様をつけている。

 

 

 

 

しばらくして

考えることは放棄し、

これ以上はこの場に留まっていても

仕方がないと判断した。

 

 

 

 

 

動こう。

 

 

 

 

 

右足を一歩前に踏み出す。

 

 

 

 

歩き方は忘れてないらしい。

 

 

 

 

 

少しだけ頬が緩む。

 

 

 

 

その調子で左足、

 

 

 

右足…左足…右足…

 

 

 

 

……

…

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
人によっては、かなり好き嫌いが分かれる展開と発展していきます。
何卒、ご容赦下さいませ。

ではでは。
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