研究員の男性は
意外にもさほど遠くでもない
所に住んでいた。
その日の執務は
簡単なものの処理は不知火に任せ
僕の承認の印を押すだけの
書類だけは手をつけないよう指示を出しておいた。
そして鎮守府近くの街から出ているバスに乗り
郊外の田舎町へ。
そこは、
まさに絵にかいたような田舎。
丁度今日が晴れているせいか
ポカポカと暖かく長閑(のどか)な
雰囲気が漂う。
山肌に囲まれた集落。
すこし郊外に出るだけでこうも
違うものか。
メールに添付してもらった
住所通りに良く舗装はされてない道を辿る。
てくてく歩いていく先には
小高い丘があった。
そのピークに静かに存在する。
小さな家。
白い壁が特徴的な家だった。
無造作な柵に囲まれた申し訳程度な規模の
畑もあった。
割と自給自足もしてるのか?
高給取りだった
元研究員なのに?
入り口のドアの前に立ち
チャイムを鳴らす。
「はいよー」
少ししゃがれた年齢を感じさせる男性の声。
「早かったなぁ提督さん。」
現れたのは
白髪混じりの短くカットされた頭。
黒いタートルネックに
ブラウンのパンツ
非常にカジュアル。
初老の男性は
僕の顔を見るや否や
中へと迎え入れた。
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「突然の申し出を受けて頂いて
感謝致します。」
案内された
客間は洋間だった。
シンプルな造り。
四隅にはそれぞれ異なる
木製の動物のオブジェ。
中央に小さなパーティでも
開けるサイズのガラステーブル
それを挟むように置かれてる
座り心地のよさそうな
黒皮のソファ。
「楽にしてくれ。」
手でソファに座るように誘導される。
「はい…恐縮です。」
その向かい側に座る彼。
腰が悪いのか、その動きは緩慢だった。
コンコンコン
「コーヒーをお持ちしました。」
丁度僕たちが座るタイミングで
、若く長い銀髪が特徴的な女性が
プレートにコーヒーカップを
乗せて入ってきた。
「ありがとよ。」
「どうも有難うございます。」
コーヒーカップを置く際に
こちらと目が合った。
まつ毛も長く美しい。
見惚れてしまう。
「…珍しいですね。あなたにお客様なんて。」
「ほっとけ。」
元研究員の男性はヒラヒラと手を振って
ひっこめひっこめと合図を出したようだった。
ごゆっくりとと一言告げると
彼女は洋間から退室していった。
「…娘さんですか?」
「まぁ、そんなとこだ。」
物言いに引っかかる所を感じたが
今は無視する事にした。
彼の話しを纏めるための
手記の準備をしていると
呆れたように溜息を吐いた。
「酷い顔だな。」
初対面の相手に失礼な人だ。
ちゃんと身だしなみは整えてきた
つもりだったけど。
「…そうでしょうか。」
「睡眠はとれているのか?」
「あまり…」
「食事は?」
「あまり…」
「自分の管理も出来ない人間が
艦娘のケアについて興味を持つなんてな。」
「変ですか。」
「ああ、酷く滑稽だよ。」
さっきからイチイチ
失礼な人だ。
「…艦娘の解体について教えて下さい。」
無駄話をしに来たわけじゃないんだ。
早く意見を聞かせてくれ。
「単刀直入だな。
何をそんなに焦ってる?」
素直に答えてくれよ…
「解体された彼女達は
どうなるんですか?」
「はぁ…艤装のレポートは読んだのか?」
「はい。戦意を喪失した
艦娘は艤装の顕現はおろか
扱う事も出来なくなると。」
「そうだ。俺に協力してくれた
彼女も艤装が装備出来なくなっていたよ。」
「その後、どうなったんですか?」
「…死んだよ。」
少し間を空けて
ぶっきらぼうに言葉を吐いた。
「…」
「…そんな怖い目をすんな。」
するなという方が無理だ。
「正確には、艦娘たる『精神が死んだ』
って言うべきかねぇ。」
何言ってんだ?
「わかるように仰ってください。」
「少しは考えなよ。」
「『薬』使ったんだよ。」
「何の…?」
「解体用の、さ。」
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「解体はなぁ。
一連の流れの事を言うんだよ。
あんたら、解体申請の書類にハンコ押した後、
対象になった艦娘のその後って知らねぇだろ。」
確かに解体申請をしたあとの
その後の事は知らなかった。
知る者が少なかったのだ。
解体という行為自体
あくまで執行するのは
本営である。
僕たち提督は
艦娘を観察し
目に余る子は本営に
報告し、お上が最終判断を下す。
「まずは戦意の喪失の確認。
自身の艤装展開状況と、提督の判断に委ねられる。
次に、艦娘自身の退役の意思の確認。
これは言葉の通り、本人に委ねられる。」
「ここまでは、あんたら提督がよく知ってる手続きさ。
最終ステップ、『薬』の服用さ。
意思の確認は鎮守府側、
薬の服用は中央に艦娘が移送されてから
お上が決定すんだよ。」
一気に喋って疲れたのか
一息ついてから
また、語り始めた。
「その薬ってのはよ。艦娘の体内で
彼女達の脳に働き掛けるのさ。
ある一部分の記憶を集中的に破壊すんだよ。」
「まさか。」
「ここまで言えば、わかんだろうが。
艦娘としての記憶を破壊すんだよ。
残るのは『個』としての自分の人格と知識。
艦娘の頃の記憶なんざ、綺麗さっぱりさ。」
俄(にわか)には信じがたい。
「それで、艦娘たる精神の死亡?」
「ああ。」
「その後は、優しい優しいお上様が
戸籍を与えてくれんだとよ。
そこの手続きやらは、良く知らんが。
特殊人権取得者だとよ。学校にも通えるように
なるらしいな。最低限文化的な生活ってか?」
皮肉めいた表情を浮かべて
天井を見上げた。
「つまりは、『人間』になっちまうんだな~。」
「解体は…」
「あ?」
「一番手っ取り早い、解体に至る方法を
教えて下さい…。」
「あんた…。」
「随分と自分勝手だな。」
ここは察して欲しかったな…。
「…」
答えに詰まっていると
「知らんからな。」