※この作品はR-18です。

優しい嘘   作:卵白

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時雨

 

 

次第に鎮守府には

戦える艦娘は少なくなっていった。

 

本営にばれるのも

時間の問題だった。

 

当然戦果も出せないのだから

当たり前か。

 

近いうちに鎮守府に

様子を確かめにくるというのだ。

 

今更来てももう遅いさ。

 

あと、もうちょっと…。

 

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日常は様々な人の習慣の重なり。

 

 

しかし、この時勢、

それが崩れるのは珍しい事ではない。

 

だって相手は人外なのだから。

 

 

「なんで…なんで深海棲艦が!?」

 

 

それはあまりにも唐突な出来事だった。

 

 

つい先ほど観測された敵影。

 

確認できた艦種は

軽巡ト級2隻、駆逐イ級2隻

 

 

 

確実にこちらに向かっている…

 

 

なんで?

 

 

もう、この鎮守府には戦えるだけの

戦力は残されていない。

 

 

だから狙われた?

ならば、この情報はどこから漏れた?

 

 

いや…

今は戦うことを考えるな。

逃げるんだ。

逃がすんだ。

彼女を。

ここに、ただ一人残された『あの子』を。

 

 

考えろ…考えるんだ…

 

 

まだ時間はある…

 

 

ここで食い止める。

食い止めなきゃいけないんだ。

大丈夫、一人でも…

 

 

 

 

 

一人は…やだなぁ

 

 

 

 

……

 

 

いつも通りだ

いつも通りに振舞えば良いんだ。

 

いつも通り、酒びんを片手に持って

 

あの子に横柄な態度で接して…

 

 

「良いか…命令だ。

時雨、この薬を飲め。」

 

 

「何なんだい…これは?」

 

 

少し虚ろな目で、

僕を見る時雨。

 

あとはこの子だけ…

 

最後まで、僕の元に残ってくれた少女。

どんな仕打ちをしても、次は

必ず、優しい表情で迎えてくれた少女。

僕に絶望せず、信じ続けてくれた少女。

 

…工程を飛ばすしかない、もう

 

 

「黙って言う事を聞け。」

 

 

時間が無いんだ。

 

 

「嫌だよ。」

 

 

断るよね、そりゃ。

 

 

「時雨…。」

 

 

「提督、君はいつも

僕達に理不尽な要求をしてきたよね。」

 

 

それでも君はここに居続けてくれた。

 

 

「僕なりに考えたよ…。」

 

 

考えるなよ。

 

 

「黙れよ」

 

 

「扶桑が沈んでからだもんね。」

 

 

「黙れって…」

 

 

「疲れただろう提督?」

 

 

「だま、れ…って…」

 

 

駄目だ声が震える

 

 

「もう良いじゃないか。

そんなフリをするのはさ。」

 

 

君はいちいち勘が鋭すぎるんだよ。

 

 

「つらかっただろう…。」

 

 

「しぐ…れ…ぇ」

 

 

「提督…話して。本当の事を…

君が、どんな思いでここまで来たのかを」

 

 

しばらく時雨の体に

上半身を預け静かに泣いた。

 

………

……

…

 

 

伸長が幾つも低い

体の小さな少女に聞かせるには

あまりにふさわしくない

言葉を浴びせ続けた。

 

 

それでも、表情を変えることなく、

時折、頷いて聞いてくれた。

 

聞いてくれたんだ。

 

 

 

「そうだったんだ。」

 

「ごめん。全部、僕の自己満足なんだ。」

 

「ううん。やっぱり君は何も変わって

無かったんだね。」

 

 

僕の手元から

薬を受け取ると

 

「これを飲めば良いんだよね?」

 

それを片手で弄る

 

「時雨…。」

 

 

「僕は、君の事を忘れてしまうんだね。

ここの事も。」

 

 

切ない表情で

見回す。

 

 

「…。」

 

 

「でも、君は…

覚えていてくれるんだよね。」

 

 

こちらに向き直す彼女。

 

 

「…。」

 

 

何て言えば…

僕は、再び彼女達に

君に会う権利なんて、あるのかな

 

 

「そこは素直に頷いてよ」

 

 

困ったような笑顔を浮かべる。

 

 

「君が覚えてくれている限り、

僕らはきっとまた会えるよ。」

 

 

目を細めて、僕の頬に

手をやる少女。

 

温かい。

 

その体温を確かめるように

いつまでも覚えていられるように

 

手をゆっくり握る。

 

 

「ああ。」

 

 

「ありがとう。一足先に休ませてもらうね。

…『次の僕』によろしくね。」

 

 

君は、忘れちゃうんだよ。

ここのことなんて。

楽になってくれて良いんだよ。

 

 

「てい…とく、この薬は…すごく…眠くなるね…。」

 

 

青い瞳が、重たそうに閉じつつある。

その姿は、夕立と重なった。

 

 

「…眠って良いんだ…」

 

「うん…おや…すみ」

 

「うん。お休み時雨。」

 

 

ゆっくり…

とても穏やかな表情で

白露型駆逐艦『時雨』は二度目の

命を引き取った。

 

 

 

 

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