薬を服用した事までは
把握した。
ここは…
また、戻ってきたのか。
白
やっぱり白いままなんだな
ここは。あんな血生臭い物を見せられた後は
嫌になるくらい目にしてきたこの白も
少しは愛おしく思えてきた。
―不知火はどこに?
いつの間にか、彼女も
扉も無くなっていた。
―最初みたいだ
最初にここで意識を
覚醒したばかりの時を
思い返す。
「やぁ。」
後ろから声を掛けられる。
聴きなじみある声。
「…。」
なぜなら私自身の声だからだ。
その声の主は、私、いや『僕』だった。
向い合う。
「お前は。」
「お前なんて酷いなぁ。僕は君じゃないか。」
私と全く同じ容姿の、あの青年。
「そうだな。君は私だ。いや、私が君なのか。」
「一杯どうだい?」
どこから取り出したのか
その右手には散々、目にしたウィスキーボトル
「…。」
「なんてね。僕だって正直お酒は苦手さ。」
スッ…パリン
右手を持ちあげ、握力を弱めたようだ
ボトルは音を立てて
割れ、水溜りを作る。
「なんで薬を?」
「…もう疲れちゃったんだ。」
「?」
「ぶっちゃけさ、もう解放されたかったんだ…。
目的は果たせたみたいだからネ。」
「…。」
「僕の目的はそう。
鎮守府に所属する艦娘の『解体』だよ。
解体して、後は戦争とは縁の無い人生、
自分の人生を送ってほしかったんだ。
船として利用されるだけの一生じゃなくてさ。」
「戦う事を望んでる艦娘だっていたんじゃないのか?」
きっといたはずだ。
「うん、いたよ。好戦的な娘がね。
でもさ、君が良くわかってるだろ?
僕達はさ自分勝手なんだよ。」
「…。」
「あそこで薬を使ったのは…
死ぬつもりだったのか?」
「YESとも言えるしNOとも言えるね。」
どっちだよ…。
「あの元研究者のおじさんの言葉を借りるなら
自分たる『精神の死亡』かな?
懸けだったんだ、もう楽にもなりたかったけど
あわよくば
君を作り出す目的もあったんだ。
ほら多重人格障害ってやつ?
懸けだったけど、上手くいって良かったよ。」
「なんで…?私を?」
「さっきも言ったけど『僕』は疲れちゃったんだ。
でも現実に留まって『生きなきゃ』いけないんだ。」
「待ってくれ、私は生きているのか…?」
「安心しなよ。生きてるよ。」
「じゃあ、なんで…」
「仕事の引き継ぎって重要だよね。」
「…?」
「さっきの質問に答えるよ。ほら
なんで自分の精神を破壊してまで
君を作り出し現実に留まろうとするのかってやつ。
生きる事が、僕の罪滅ぼしだからだよ。」
「解体された彼女達は艦娘の頃の
記憶はなくなってるさ。勿論、
僕がした虐待のこともね。
…でも…僕は…僕たちはさ、
覚えてるわけなんだよねぇ。」
「君だって、僕の記憶を覗いて。
感じたんでしょ?
あの子達を殴る感触や蹴る感触、
彼女達の中に発散した快感も。」
気分が悪い。
「やめてくれ…思い出しくない。」
僕の顔が非常に、無垢な
笑顔を私に向ける。
「そう!それだよ!『思い出したくない』よね!!
胸糞悪いよねぇ!!
でも思いだして…『悔みながら生きる』!!!
それこそが!僕の、僕達に出来る最大の贖罪だよ!!!」
興奮気味に語りだす。
「私を作りだした理由は…まさか」
「自分が『逃げる』ため…か?」
「私に、『生きる』事を押しつけて…。」
「…。」
「自分は…死んで逃げるのかよ…。」
「そんな事言ってもさ、もう遅いんだよ。」
「もうさ…僕っていう精神は、ボロボロなんだ。
薬がとどめを刺した感じ?」
両の手のひらを上に向けて
「ヤレヤレ」といった仕草をする。
「そろそろ僕は、『逝』くよ。」
「ごめんね。」
困ったように、苦笑いを浮かべて
私に背を向ける。
「僕のために、彼女達のために。」
「君は『生きて』」
「僕は、先に扶桑に会いに行くよ。」
「バイバイ。」
手を振りながら、彼は歩き出した。
一歩、進むごとに彼は光の粒子となり
ついに消えた。
彼を見送った後
私も、心が 酷く
疲れて 眠くなっていた。
―寝よう
―ここでも、
どこでも良いじゃないか、私も疲れたんだ。
―おやすみ
その場に尻を着き
体を横に倒す
ゆっくり目を閉じる
-------------------------------------------------
「や、お待たせ」
「もう。
ずっと、待ってたんですよ?」
「提督?」
「ん~?」
「随分、自分に
いじわるなんですね」クスクス
「もう知ってるでしょ?
そんな僕とケッコンしちゃった
君は不幸かな?」
「いいえ―」
「幸せ、ですよ」
「…ありがとう、ありがとう」
「今度はずっと、ずっと……一緒です。」