彼女は頷きもせず、横に首を
降るわけでもなく
ただ、ただ私を見下ろしている。
どう捉えて良いのか分からず
しばらく沈黙が流れる。
彼女が
扉があった空間とは逆方向に顔を
向けた。
今度は、彼女の目に
少しの、ほんの少しの光が
戻ったように見えた。
それにつられ
力なくそちらに目を向ける。
「あれは?」
私の歩幅で考えて20歩あるかないかという
距離にまた「扉」があった。
その扉は
最初のそれとは質感が異なり。
無機質な
金属のドア
囚人達の収容所の
ドアのように
檻状の窓が人の目線の高さの位置に
備えられている。
檻の間の隙間からは中は暗く
窺うことは出来ない。
「あれもまた…そうなのかい?」
なにも言わず、見据える彼女
これ以上、私に何を見ろと言うのか
あの先には何があるのか。
わからない。
わからないから怖い。
これ以上、あんなものを
突きつけられたら
今度こそ私の精神は
ばらばらになってしまうかも
しれない…。
しかし、このままここにいても
何も始まりはしない。
わかっている。
でも怖いんだ!
…
両肩に感じた温もり、
背から伝わる確かな温かみ
まるで母に包まれているような
安堵感
「しら…ぬい?」
服の下は私が付けたであろう
傷だらけの
線の細い彼女が後ろから
そっと寄り添うように
私の方に手を添えて
背中に身を預けていた。
「ごめん」
「信じるよ…。」
それに応えるように
右手で、彼女の手に触れた
「ずっと、傍にいて
くれたんだもんね。」
「行ってくるよ」
取っ手に手をかけ
金属の擦れ合う軋んだ音とともに
押しながら呟く
「ぬいぬい」
振り向かず
黒い空間にその身を委ねる。
『ぬいぬい言うな』
「!?」
全身が暗い闇に覆われた瞬間
懐かしいそれが
聞こえたような
そんな気がした。
意識が再び暗転する
扶桑が沈んだ。
沈んだ
シズンダ
…
世界が色が褪せて見えた。
今日のような
彼女と見た青々とした空も
彼女が好きだと言った
花の色も
彼女が美味しいと言って
年頃の女の子のように頬張っていた
スイーツを食べても
全ての感覚が鈍い
それに触れている
感覚が無いというか。
扶桑がいない毎日は
虚しくて堪らなかった。
何かしなければ
駄目になってしまう。
僕と言う人間が壊れてしまう。
頭で理解しても
気力が一向に沸く気配は無い。
ただただ気持ちが焦るばかりだ。
今日も
ただ、簡単な事務処理をして
夜を迎えて
眠りに就く。
朝、目が覚めて
ベッドの空白の悲しさに
打ちひしがれて
嗚咽と共に身を起こす生活の
繰り返し。
もう、心が持たない
「―れい」
「司令。」
そういえば今は執務中だった。
駄目だね集中力も、もう持たないや。
「ああ…。」
生返事だよなぁこれ。
「今日の遠征は…。」
あぁ、そっか。
遠征組…なんか面倒だなぁ
「…いつも通り。」
ごめんね不知火
「…かしこまりました。」
「司令。」
「…なんだい?」
「月並みな言葉で
申し訳ありません。」
「どうかお気を確かに。
不知火が…不知火達が
いつでもお傍にいます。」
なんで君はそんなに…
「あぁ…。」
優しいんだ。
僕は…もう
誰も沈めたくないよ…。
-------------------------------------------------
あれから僕は
どうするのが、何が一番
彼女達のためになるのか考えた。
考え
狂ったように艦娘に関する
論文、報告書等を漁った。
未だ彼女達の存在について
ブラックボックスな部分が多い。
まずは艦娘について
もっと知る必要がある。
彼女達のためにも。
寝る前も惜しんで調べた。
調べた。
-------------------------------------------------