「はあ……はあ……」
「少し無理をしすぎたかしらね」
肩で息をする二人は疲れ果てそのまま一つのベッドで眠りについた。
夜中、カインは目を覚ます。
バルバリシアはカインが目を覚ましたのに反応して目を覚ました。
「……どうしたの?」
「すまん、起してしまったか、何でもない」
「そう?」
実際、特に理由もなく目を覚ましただけであったが、バルバリシアを説得して自軍に引き入れたいカインは、良い機会と思い、どうしてもわからない疑問を投げかけた。
「どうして、そこまでゴルベーザに尽くすんだ?」
ゴルベーザは確かに強いが、卑劣な手段を平気で使う男であり、全く信用できない男であった。
人格的にいえば、バルバリシアと同じ四天王である火のルビカンテの方が、良い意味で武人肌でありまともといえた。
だが、カインはこの時気付いていなかった。
触れてはいけない部分に触れている事を。
「……一言で言えばヒーローだからかしら」
「ヒーロー?」
「私は人間に近い外見をしているけれど、人間ではない。
人間達は私達の種を魔物に分類しているわ
逆に質問するけど、人間とほぼ同等の知能と姿を有している魔物と人間の違いはどこかしら?」
カインはバルバリシアの言葉に何処か黒いものを感じる。
彼女の心の闇に関わる事柄であることは直感で理解できた。
それだけにどう答えていいかわからない。
「答えは権利。
人間同士であれば、悪いことをすれば咎められるけど、相手が魔物ならば何をしても許される」
カインはバルバリシアの濁り始めた目を見て質問した事を後悔した。
「私達の種族と人間の違う部分について説明するわね。
私達は比較的人間よりも整った顔立ちや体格で生まれるらしいわ。
肌の色も、瞳の色も、髪の色も、綺麗と感じる人間が多いらしいわね。
さて、ここで問題!
そんな魔物がいたら人間は何をするでしょう?」
「もういい」
カインはバルバリシアから発せられる負の感情を感じて、話を終わらせようとするがバルバリシアは止まらない。
「わからない?
では大ヒントをあげるわね。
私達は人間とは別種だから、妊娠しないし、人間が感染する病気にもかからないらしいわよ」
カインはバルバリシアのいう病気が性病であることは容易に想像がついた。
話の流れからおそらく捕えられ、娼館にでも売られ、来る日も来る日も男の相手をさせられたという事だろう。
そこから救い出したのがゴルベーザといったところか。
「わかったから、もうこの話は……」
「最後まで聞きなさいよ! お前が聞いてきたんでしょう?」
激昂するバルバリシア、カインは心の闇に触れてしまった事を改め実感した。
「過去を話すのは好きじゃないんだけど。
生まれた時から、娼館にいた私は毎日毎日イカれた男達の相手をする繰り返しでね。
死のうと思う事さえあったわ……」
「そこにゴルベーザが現われたわけか……」
「だから、話を最後まで聞け!」
バルバリシアに怒鳴られ口を噤む。
「ある時、まだ少女だった私が客から指名を受けて部屋に入ると、筋肉質で体格の良い銀髪の大丈夫がいてね。
その男は、私を見るなり笑顔で接してくれた初めての男で優しかったわ。
部屋にいる間は私に触れもせず、外の話をしてくれて、簡易的だったけど魔法を教えてくれたの。
時間になれば私を連れて部屋を出て、男達に言ったわ、私を買い取って引き取りたいってね。
当然男達は突っぱねた。大人しく金を受け取れば死なずに済んだのに。
察しがついていると思うけれど、その銀髪の大丈夫がゴルベーザ様……」
―バルバリシアよ、ちょうどよい機会だからよく見ておくのだぞ?
「ゴルベーザ様は私の目の前で風の魔法を放ち、男達を八つ裂きにしてくれたの。
ゴルベーザ様の作り出した竜巻を見て、私は力が覚醒していくのを感じたわ。
運がよかったのか、わるかったのか、そこの支配人は瀕死になりながらもまだ生きていてね。
支配人が私に助けを求める様な視線を送ってきたわ。
ここまで育ててあげたじゃないかって感じの。
それで思わずゴルベーザ様に言ったの『次は私がやってもいい?』って」
―勿論だ。さあやってみなさい。
―トルネド!
―素晴らしい! 見事だバルバリシアよ。
―えへへ!
―私についてくるか?
―何処に行くの?
―この様な者達のいない、ここよりもずっと素晴らしい場所だ。
―いいよ!
―バルバリシアよ、お前の力を私に貸してくれるか?
―うん!
「私は服従を誓った。
それからはゴルベーザ様より、力の使い方と戦い方を学び、戦線に赴いたわ。
今の私があるのはゴルベーザ様のおかげ……」
カインは負の感情が一気に高まったバルバリシアを見てどう声をかけていいか迷ったが、優しい言葉をかけるよりも純粋な疑問を聞いた。
「ゴルベーザの目的は?」
「世界を焼き尽くすことよ
邪魔な生き物を全て殺して、理想郷を作るの」
カインは絶句する、精々ゴルベーザの目的は世界各国を力で支配し、独裁政治を行うあたりだろうと思っていたからだ。
「カイン、悪い事は言わないから、こちらに来なさい。
お前は人間だけど、きっと迎え入れて貰えるわ」
カインは憎しみに支配され狂気に満ちたバルバリシアを見て胸を痛めながらも抱き締めた。
「何よいきなり」
「すまない、俺はお前とはいけない」
「……そう。仕方ないわね」
「だが、必ず本当のお前を取り戻す」
バルバリシアは答えなかった。
おそらくであるが、バルバリシアはゴルベーザへの恩義や憧れだけでなく、親、もしくは兄の様に慕ってもいるのだろう。
バルバリシアは洗脳こそされていないものの、幼い頃の境遇により負の感情に囚われていると感じ、カインは彼女をそこから解放したいと思った。
しかし、どうすればいいかわからない。
カインが思案していると、バルバリシアはその顔を見て勘違いした。
「お前、ひょっとしてゴルベーザ様に妬いているの?」
「なっ?」
「心配しなくても大丈夫よ。
ゴルベーザ様と体の関係はない」
カインは否定しようと思ったが、さっきまでの憎悪が身を潜め、何処か気を良くしたバルバリシアを見て、それでよしとした。
再び眠り、夜が明け目を覚ますとバルバリシアの姿は既にない。
ゴルベーザの元へと戻ったのだろう。
カインはバルバリシアがローザを処刑しなかったことを咎められなければよいとその身を案じた。
ここまで書きました
続きは未定