長い長い性行為が終わると、カインは脱ぎ捨てた鎧を着込み、戦闘準備を済ませていた。
「カイン」
バルバリシアの方へカインが目をやると、彼女の掌には2粒の丸薬が乗っていた。
丸薬は死に至らしめる毒で、2という数字はともに死のうという意味なのは一目でわかる。
バルバリシアは思い残す事は何もないと言った顔をしていたが、カインは丸薬をひったくるとそれを投げ捨てた。
「バカな事を考えるんじゃない」
「一緒に死んでくれないのね? じゃあ、せめてお前の手で私を……」
「いいかバルバリシア。
よく聞け、ゴルベーザはゼムスとかいうやつに洗脳されているらしい」
カインの思いがけない言葉に、目を見開くバルバリシア。
自身の主が洗脳されているなど認めたくはないが、思い当たる節もあるので、言い返す様な真似はしなかった。
「今、ゴルベーザの伯父に当たるフースーヤという男が、ゴルベーザの洗脳を解こうとしている」
「あの老人の男性ね」
「ああ。
もしこの話が本当なら、俺とお前は敵同士ではなくなる。
そうなれば、殺し合う必要もないという事だ。
それでもお前は死のうというのか?」
「……その話を信じているの?」
バルバリシアからしてみれば、半信半疑である。
しかし、それが事実ならというより、事実であってほしいことだった。
「わかったわ、ゴルベーザ様が洗脳されているというなら、それを解くのに私も尽力する。
それで、まずはどうするつもり?」
カインは一笑すると、バルバリシアの背後に回り手を捻り上げ、両手を縛る。
「いきなり、何するの!?」
「とりあえず、戦況がどういう状況だからわからないし、俺とお前の戦いは俺が勝った事にして、お前は俺に生け捕りされたという話にする。
異論はないな?」
「逆はダメなの? お前が私に縛られればいいんじゃない?」
バルバリシアはいきなりカインに腕を捩じられた事を不満に思っているようだ。
「俺は男で誇り高き竜騎士だから、女性は斬れなかったという言い訳も立つが、お前が俺を捕えた場合は直ぐに殺せとなり、お前はそれに逆らえないだろう?」
「それはまあ……」
「というわけで行くぞ、ほら歩け!」
バルバリシアの両腕を縛った状態で尻を叩いて歩かせる。
カインは後ろからバルバリシアの胸当てに手を突っ込んだ。
「貴様!」
「どうした? 歩け!」
「くっ! 後で覚えていなさいよ」
再び戦場に戻ると、雌雄は決していた。
フースーヤとゴルベーザの姿はなく、両の足で立っているのはセシル達だった。
「カイン無事だったか!」
カインに気付いたセシルが駆けてくる。
「ああ……」
当然ながら、縛られたバルバリシアの方へ目がいった。
セシルが何か言う前にカインが口を開く。
「すまないセシル。
例え、敵であっても俺に女性を斬る様な真似はできなかった」
「仕方ないさカイン。
そうやって、捕えているんだ。それでいいと思う」
「全く、あめー奴だな!」
エッジがカインの前に立った。
「おめーが斬れねえってんなら、俺が斬るぜ」
「お前、無事だったのか」
「その言い草はなんだ?」
「いや、お前とルビカンテじゃまだまだ実力に差があると思っていたのでな」
「ぐっ」
エッジはその言葉を聞き悔しそうにする。
実際、ルビカンテとの一対一の決闘は、エッジは善戦したものの終始ルビカンテに押されっぱなしで実力の差はあきらかだった。
一方、セシルはリディアの援護とローザの支援を適切に受け、スカルミリョーネとカイナッツォの二人を危なげなく撃破する。
その後、セシル達はエッジに加勢しルビカンテを倒したのである。
ルビカンテは、セシル達の偶然とった行動や戦力配置を、『相手の主力を必要最低限の戦力で抑え、その間に最大戦力で相手の弱いところを迅速に潰す戦略』とみなした。
そうか! その手があったかと、偶然の成り行きを相手の優れた戦略として善意で受け取り、相手の強さと勝利を讃え、戦いは奥が深いと満足そうに死んでいった。
「話がそれた、今はそれどころじゃねえ」
エッジはつかつかとバルバリシアに歩を進め前に立つ、少し困った顔をした後、髪の毛を掴んだ。
本当は、胸倉を掴みあげようと思ったが、服を着ていないので代わりに髪を掴んだというわけである。
「汚い手で触れるな!」
カインは槍の石突でエッジをこずく。
「てめえ! 何しやがる!?」
「例え敵であっても、女性は丁重に扱え!
それを理解できないからお前は……」
そこまで言ってカインはリディアの方に一瞬だけ目をやり、視線をエッジに戻すと鼻で笑った。
「てめえ!」
エッジの頬が赤く染まっていく。
リディアに恋をしているが、関係がちっとも進展しないことを焦っていたし、それを見透かされて受けるダメージはでかい。
「まあまあ、いいじゃない。
エッジも抑えて、カインが取り押さえているなら安心よ」
「わかったよ」
エッジは渋々承諾した。
ローザはエッジを宥めると、カインの方へ目をやりニヤニヤする。
セシル達はこの後、巨人の制御システムを破壊し、当面の目的を達成し、ひとまず世界は巨人の脅威から救われた。
――
バブイルの巨人を内部から破壊したセシル達はバロンに戻り、今後を話し合っていた。
「それでゴルベーザは?」
カインが一番知りたい部分を質問する。
「僕達の戦いが終わった後にはもういなかった。
おそらくだけど、フースーヤさんは洗脳を解き、二人でゼムスを倒しに月へ向かったんだと思う」
「そう考えるのが妥当か……」
「だから僕は、間に合わないかもしれないけど、月へ行って加勢するつもりだ」
セシルは魔導船を使って月に行き、ゼムスと戦う事を決意していた。
「……だな。」
カインもそれに同意する。
ゴルベーザの生死や洗脳が解けているかどうかは何としても確認せねばならない。
魔導船の調整や回復アイテムの常備、それらを考慮して月に飛び立つのは一週間後に決まった。
「……それで、あの捕えた四天王は?」
ローザ、バルバリシアの処置についての議題をあげる。
正直な話、カインとの仲を疑っている、だが決して、それに異を唱えるつもりはなくむしろ応援したいという気持ちが強かった。
自分に相談して欲しいと思っているが、その様な気配が全くない事に不満さえ感じている。
「バロンの牢へ幽閉するしかあるまい」
カインは一先ず事が片付くまで幽閉する事を提案した。
セシル側の視点では、現時点では敵と言い切る事はできないが、決して味方ではないし幽閉が妥当と判断した。
「カイン、貴方は本当にそれでいいの?」
「良いに決まっているだろう? 何故そんな事を聞く」
「え? だって……」
カインはこの事は誰にも触れられたくなかった。
バルバリシアの幽閉が決まり、投獄された。