どれくらい時間が過ぎただろうか、勢いよく扉が開きその奥にはカインが立っている。
「お前ら、何をしている?」
カインが激しい怒りを感じているのは誰の目から見ても理解できた。
しかし、何故、そんなに怒るのか? バルバリシアのカインとは恋仲といった言葉を思い出す。
「え? あ、い、いやまさか本当に」
男達は戸惑う。何かはやく何でもいいから答えないとと思った矢先、カインの槍が男を貫いた。
「いや、別に答えなくてもいい」
カインは淡々と言うと、その場にいる男を残らず刺し殺した。
ズタボロになったバルバリシアを見る。
顔は髪で隠れて見えないが、呼吸をしているのはわかった。
バルバリシアへ駆け寄ろうとした時、カインは激しい頭痛に襲われる。
―憎いか? 悔しいか?
脳裏に直接声がする。
―憎め、憎むのだ。
「誰だ?」
当然、返事はかえってこない。
カインは頭を二度程ふって、バルバリシアを抱き起す。
「しっかりしろ」
「全く……遅いわよカイン」
バルバリシアは弱々しく悪態をつくと気を失う。
カインはバルバリシアを背負うと、この場を離れた。
まず、浴室へ行き、バルバリシアに付着した血や汗、精液などを全て洗い流す。
その後、ローザの部屋へと向かった。
「こんな時間にどうしたの? うまく渡せなかったとか?」
扉を少しだけ開け、顔だけ出すローザ。
奥にはセシルがいる事が窺える。
「すまない、その……」
カインは床に目をやった
ローザがその方向に視線を送ると、バルバリシアが寝かせてある。
部屋をそおっと、出ると静かに扉を閉め、バルバリシアにかけよった。
「一体、何があったの?」
カインは看守たちにバルバリシアが輪姦された事を説明し、受けた傷を治療して欲しいと懇願する。
「酷い……わかったわ。任せて!」
ローザは高位の白魔法を惜しみなく使い、体の内外に受けた傷を残らず消した。
「ありがとう」
カインはバルバリシアを再び抱きかかえると、城の出口へ向かって歩きはじめる。
「何処へ行くの?」
「彼女を解放する。俺がバカだった」
カインは自分とバルバリシアの関係を公に認めさせたいと考え、駆け落ちみたいな真似はしたくないと思っていた。
ゴルベーザは被害者だったという事実が公になればそれも可能と考えた。
しかし、現実は、ゴルベーザが行った大規模な軍事遠征は深い悲しみと憎しみ生み、そう簡単に消えるものではないことを実感する。
カインはバルバリシアを抱え、バロンを遠く離れた。
「うっ……」
バルバリシアが目を覚ます。
辺りは暗く、カインは焚火をたいていた。
「起きたか?」
「ここは?」
「バロン郊外の更に外縁部だ。ここまで来ると民家の一つもない。
お前は自由だ。今まですまなかったというより、俺が浅はかだった」
「お前が謝る事じゃないわ」
バルバリシアはカインの頬に手を伸ばす。
その時、自分の受けた傷が残らず全て消えている事に気がついた。
「受けた傷はローザに頼んで治療してもらった」
「そう……借りができたわね」
「バルバリシア……」
カインは本日買った、指輪を見せる。
「それは……」
「戦いが終わったら俺と……」
「必ず戻ってくるのよ?」
「ああ」
カインはバルバリシアと別れを済ませバロンへ帰還する途中、再び頭痛に襲われる。
―お前が、殺した5人の男は、善良な兵士だった。
―それをお前が憎しみに身を任せ殺したのだ。
「誰だ?」
カインは周囲を見渡すが人の気配はない。
「あいつらは下衆だ。動けない女性をよってたかって」
―お前はバルバリシアが今まで何をしてきたのか知っておるのか?
それに比べれば、あの男達のとった行動など些細な事に過ぎん。
「それがなんだというのだ? 己の行為を正当化する理由にはならんぞ」
―ならば、もっと後悔する事実を教えてやろう。
あの男達を影で操っていたのは私だ。
お前は、操られただけの人間を自分の怒りを鎮めるために、殺していたのだ。
「な!? 嘘だ」
―嘘ではない。
私が彼らの持つゴルベーザへの深い憎しみを引きずりだしたのだ。
その憎しみが側近だったバルバリシアに向うのは当然の事。
そして、お前は彼らを深く憎み、己の感情の赴くまま殺した。
「くっ……」
―私の元へ来い、お前が、お前の深い憎しみが必要だ。
「ふざけるな! 俺は正気に戻ったんだ。
二度と悪魔に魂は売らん」
―正気? お前が?
欲望に身を委ねるだ、お前にまともな人の心などない。
あるのは醜い嫉妬心と虚栄心だけだ。
「だ…ま…れ……」
カインは頭に直接語りかける声に抗えなくなっていた。
頭痛はさらに激しくなり、遂に気を失う。
カインが気を失っていたのは10分という短い時間だったが、起きてみると頭痛も声もしなくなっていた。
「大丈夫だ。おれは正気にもどった……」
カインは虚ろな目をしていた。