「全く、悪い男ね」
「何がだ?」
「ゴルベーザ様から聞いたわよ? トロイアのクリスタルとローザの人質交換を献策したらしいじゃない。
セシル達にクリスタルを取ってこさせるなんて」
「ゴルベーザ様も俺の策に、大層お喜びであった。何の問題が?」
「トロイアのクリスタルくらい、自分で取りに行けばいいじゃない?
ダークエルフに遅れをとるお前ではないでしょう?」
「磁力の洞窟は何かと厄介でな。
万が一という事もある」
「喜んで手を貸すわよ? お前と私なら、磁力を計算に入れても十分なお釣りがくると思うけど」
「それは名案だ。
だが、もう献策しそれは採用された」
「お前の本当の狙いは、ローザをゴルベーザ様に用意させる事……
居場所がわからないなら、用意させればいい。
考えたわね」
「何の事だ? 俺はクリスタルをより少ない労力で手に入れられる方法を考えただけだ」
カインの狙いはバルバリシアに見透かされている通り、クリスタルとローザの交換を促し、ローザを用意させる事であった。
当然、セシルは応じるだろうし、交渉の場は合流するのに格好の場所となるであろう。
クリスタルとローザの交換が行われる際に、セシルと協力し、ゴルベーザを討つつもりである。
「でも、お前の策には欠陥がある。
私がゴルベーザ様に洗脳が解けている事を伝えれば瓦解するわ」
「そうなれば、俺はその程度の男だったというだけだな」
――
カインはトロイアへと赤い翼を率いて、クリスタルを手に入れたセシルの元へ出向き、ゾットの塔へと誘導する。
飛空艇を停泊させ、入口まで案内すると、自身は転送装置を使って、最上階まで移動した。
「ゴルベーサ様、手筈通りセシル達をゾットの塔へ案内しました。
ここまで来るには、2時間といったところでしょう」
「ご苦労」
「はっ! それでは一度下がらせていただきます。
また後ほど」
カインは一礼してその場を離れ、ローザの監禁されている部屋へと向かう。
部屋に入ると、見張りでも頼まれたのかバルバリシアが椅子に腰をかけていた。
ローザは部屋の内部にある個室に監禁され扉は厳重にロックされている。
「カイン、残念だけど。
ゴルベーザ様からお前とローザを会わせるなって厳重に命令を受けているの
その扉を開ける事は許されないわよ?」
バルバリシアは、お見通しと言った感じで妖しく笑う。
「フッ、俺が会いに来たのはローザではなくお前にだ」
「あら私に? 一体何の用かしら?」
「セシル達がゴルベーザの元に辿り着くには少なく見積もっても後2時間はかかる」
「それで?」
「単刀直入にいうぞ?」
カインは真剣な面持ちになってバルバリシアを見据えた。
「ヤらせろ!」
「単刀直入すぎるわね……真剣な顔して何を言うかと思えば」
バルバリシアは少し呆れながらも、気持ちは同じであった。
「どうなんだ?」
「今ここで?」
「今ここしかないだろう?」
「互いに任務中よ?」
「それがどうした?」
「ゴルベーザ様に見つかりでもしたら、二人とも厳罰を受けるわ?」
「構うものか」
「ふうっ……そこまでの覚悟があるなら致し方ないわね」
わざとらしく溜め息をした後、不敵に笑う。
「そういう事だ」
カインはバルバリシアの顎に手をかけ口づけをした。
バルバリシアはカインの股に手を入れいきり立った槍を取り出して、巧みな手つきでそれをしごいていく。
「くっ」
「ほほほ」
バルバリシアは屈むと、カインの槍を口で愛撫していった。
槍から口を離して立ち上がりカインに背を向けると、今度は槍を股に挟んでしごき始める。
上半身を少しだけカインの方へ向け、手はカインの後頭部へ回し、背中を密着させた。
「お前の本当の目的はわかっているわよ」
腰の動きを止めずに語りかけるバルバリシア。
「ほう」
「私を懐柔したいんでしょう?」
「ああ」
「残念だけど、答えは変わらないわ」
「答えが変わらないなら、何故、こうして俺に抱かれている?」
「フフッ、簡単よ。
お前こそ、私を永遠のものにしたくないのかしら?
ゴルベーザ様に忠誠を誓い、セシルをここで手筈どおり倒しなさい」
バルバリシアはバルバリシアでカインを懐柔しようとしていた。
「それは無理だ、お前が俺と」
「いや、お前が私と」
結局最後の最後まで平行線であった。それだけに今生の別れになるのでは? という想いが二人を燃え上がらせる。
高まった二人は激しく交わり、終わった後も、無言のまま肩を寄せ合っていた。
「……そろそろ時間だ」
「そうね……」
カインは立ちあがり、服と鎧を着込むと、ゴルベーザのいる部屋へと向かう。
バルバリシアは、カインの背中を見つめていた。
バルバリシアの読みでは、セシルとカインが共闘したところでゴルベーザの勝利は揺るがないだろう。
まだ、それだけの実力差がある。
バルバリシアは、ゴルベーザがセシル達を返り討ちにすれば、カインとゴルベーザの間に割って入り、助命を請うつもりであった。
――
ゾットの塔、ローザとクリスタルの交換が行われる場。
カインは苛立っていた。
セシル達にクリスタルを取ってくる様に伝え、言われた通りに取りに行き、言われた通りに交換の場に現われる。
そのバカ正直な行動に思わず、駆け引きというものを知らないのか? と問い正しくなる。
自分の思惑どおりに事が進んでいるが、セシルのお人好しな行動に一筋の不安を覚えていた。
ゴルベーザとセシルが対峙する。
カインはローザの安全を確保すれば、直ぐさまゴルベーザを討つつもりである。
しかし、交換の場にローザはいない。
セシルはローザを要求したが、ゴルベーザはそれを突っぱね、クリスタルを先に渡す様に要求。
セシルはそれに応じた。
―バカがっ!
心の中で叫ぶカイン。
当たり前と言えば当たり前だが、ゴルベーザはこの機会にセシル一派を皆殺しにする算段である。
クリスタルを確保すれば、人質交換など反故にするに決まっていた。
案の定、ゴルベーザはセシル達にはわからないようにジェスチャーを行う、それはローザを殺せの合図であった。
カインに言わせれば、クリスタルを渡す前にローザの安否を要求するべきだろう。
この場にローザがいれば、クリスタルを渡す際にローザを奪還し、決戦に挑める。
だが、ローザの安否が確認できない場でクリスタルを渡してしまえば、その目論見も水の泡であった。
しかし、物事というのは何が起きるかわからない。
ゴルベーザもカインも誤算だったのが、セシル一行には一人の賢者が同行していた事である。
ゴルベーザに深い恨みを持つ賢者は己の命も顧みず、最強の黒魔法と呼ばれるメテオを唱えた。
賢者が呼び寄せた隕石はゾットの塔の壁を容易に貫き、ゴルベーザに衝突する。
高い魔力を持つゴルベーザは並の魔法ではビクともしないが、メテオの直撃を受け流石に重傷を負った。
メテオの余波は室内全体に及び、カインを含めその場にいる全員を吹き飛ばす。
ゴルベーザはよろめきながらも立ち上がり、退却命令を下した。
「ゴルベーザ! 覚悟!」
カインは、退却しようとするゴルベーザに飛び掛かる。
ゴルベーザは、まさかの不意打ちに戸惑いながらも魔法でカインを弾き飛ばした。
「今ので、術が解けたのか? だがクリスタルは手に入れた」
ゴルベーザはゾットの塔から脱出し、メテオの余波でダメージを負ったセシル達では追撃は不可能だろう。
「え、あ、カイン?」
セシルは敵に寝返ったと思われるカインがゴルベーザを攻撃した事で頭の中がこんがらがっている。
カインは一発セシルを殴りつけた。
「何故、クリスタルを渡す前にローザの安否を要求しなかった?」
カインの言葉に戸惑いつつ、ハッとなり、自己を反省するセシル。
「全く、ゴルベーザを討つためにお前を裏切ったふりをして潜入し、色々動いていたのがお前のせいで水の泡だ
ローザがこの場に入れば、俺は騎士道に反してでも背後からゴルベーザを斬るつもりでいたのに」
「そうだったのか、すまないカイン。
僕は君を疑ってしまっていた。
ローザは?」
「こっちだ」
カインの足取りは重かった。
ローザの処刑を命じられていたのはバルバリシア。
既に合図を送った後であり、それを受けて命を執行していれば当然ローザは死んでいる。
扉を開け部屋に入ると、バルバリシアの姿はなく、ローザは拘束されてはいるが全くの無傷であり、一同は安堵した。
セシルはローザの拘束を解くと、カインが操られていたわけではなく、あえてゴルベーザ側の内情を探るため潜入していたと説明する。
一同が塔からの脱出を決意した時、見計らった様にバルバリシアが姿を現した。