「ほほほ。
ゴルベーザ様を負傷させるなんて、お前達をみくびっていたようね」
―ローザを殺さなかったのは俺への配慮か。
そして、コイツはここで責務を全うし、死ぬつもりだ。
ローザは優れた白魔法の使い手で、治療魔法ができる以上、戦いにおいては真っ先に仕留めなくてはならない相手である。
ここで、セシル一行を倒すのであれば合流を阻止して戦うのが定石。
つまり、バルバリシアのとった行動は全くの自殺行為なのである。
戦況を分析すればするほど、カインの表情は険しくなっていった。
―俺達5人と一度に戦うつもりか!?
カインとバルバリシアがさしで戦った場合であれば勝敗はわからない、接近戦に持ち込めば勝てるだろうし距離を取られれば負けるであろう。
しかし、自分と同等の力を持つセシルや優れた回復魔法を使えるローザ、さらに技師のシドや、素性は知らないが同行している壮年のモンクも中々の手練。
この5人と一度に戦って勝機があるとは思えなかった。
カインは大将であるゴルベーザが撤退しているのに、それに同行せず戦いを挑んでくるバルバリシアに対して歯がみする。
カインとしては、ゴルベーザと一緒に退却して欲しかった。
―だが、逆に言えばこれだけの戦力差なら、生かして勝つ事も可能な筈だ。
カインは一触即発の状況のなか必死に思考を張りめぐらしていた。
「カイン、お前も寝返ったというわけね、それだけの力を持ちながら」
「表返ったと言って貰おうかバルバリシア」
カインの言葉を聞いて思わず噴き出すようにして笑い、一同がその不自然なやりとりを訝しむ、カインはボロが出る前に一歩前へ出て、バルバリシアと対峙する。
カインとしてはある程度、バルバリシアを追い詰めたら、降伏を促すつもりでいる。
相手は女性だし、俗に言う騎士道を考えれば助命はそこまで不自然ではない。
セシルの性格からして異を唱えたりもしないだろう。
バルバリシアはカインの動きを受け、風を身に纏う様にして宙に浮き戦闘態勢に入ると、弧を描くように宙を舞った。
バルバリシアが本気で戦うところを見るのはカインも初めてである。
その舞いはまるで空を滑走しているように見え、長く美しい髪が尾を引いていた。
しなやかな肢体から、高速スピンと共に放たれる風の魔法。
その美しい一連の動作は、まるで氷上を滑走する芸術舞踏を見ているようであった。
―綺麗だ。
カインはその動き、戦い方に心を奪われる。できることならずっと見ていたい。
おそらく、この場で戦っている全員がバルバリシアの動きを見て美しいと感じただろう。
だが、これは舞踏ではなくれっきとした戦いであり、負ける事は許されない。
戦い自体は、セシル達が優勢で進む、男ばかりの一行で相手が女性というのもあって戦いにくい部分もあったが、十分な戦力差があるといえた。
しかし、カインの予想に反して、バルバリシアは傷を負いながらも、攻め手を休める様子は全く無かった。
特に、竜巻の魔法は直撃すれば瀕死の重傷を負う、有利な状況であっても決して油断はできず、四天王の名に恥じない戦いぶり。
だが、善戦はできても、勝利は不可能だろう、バルバリシアの体には次第に傷が増えていった。
美しい白い肌に傷が増えれば増えるほど、カインは目を背けたくなる。
露出度が高い格好しているため傷が目立ち、赤く染まっていくその姿は痛々しかった。
―何故そこまで?
あのゴルベーザにどうしてそこまで尽くすのかカインは理解できなかった。
序盤で見せた弧を描く美しい動きも既に疲労と負傷によりできなくなっているようだ。
疲労かそれとも魔力が尽きかけているのか、バルバリシアが地面に足をついた。
シドがそこに突っ込み木槌を振るう。
バルバリシアはとっさに右手でガードするが、細腕でシドの剛腕によって振るわれる木槌を防げるわけもなく鈍い音が鳴り響いた。
彼女の腕は折れ、これでは得意の竜巻を放つ事もままならないだろう。
―降伏してくれ。
カインは心の中で叫ぶ。
バルバリシアはそれでも戦いを止めなかった。死ぬまで戦うつもりだろう。
その時、バルバリシアと目が合った。
カインはバルバリシアの動きが鈍くなり、傷が増えていってからは自分でも気付かない内に消極的になっていた。
序盤こそ、先頭にたって派手にやりあったものの、現在は、ヤンとシドが果敢に攻めている状況である。
バルバリシアの視線はまるでカインを呼んでいるようでもあった。
このままでは、いずれ誰かにとどめを刺されるだろう。
それならばと、カインは意を決して前に出る。
槍を振るい、バルバリシアの脇腹を刺す、臓器を貫き致命傷を与えた。
カインの左腕に、何とも言えない嫌な感触が走る。
「ぐっ!」
カインはバルバリシアを生かす事を諦めていなかった。
確かに致命傷を与え、適切な治療を行わなければ10分以内に死ぬだろう。
だが、ローザがいる。
ローザの優れた白魔法なら十分に治療可能と判断したのだ。
カインは降伏を促し、相手の返答を無視してでもローザに治療を要求するつもりであった。
後で関係を疑われても、四天王を生け捕りにできれば、ゴルベーザ側の有力情報を知る事ができるとゴリ押す気である。
しかし、カインが言葉を発する前にバルバリシアが口を開く。
「私を倒しても……最後の四天王がいる!
このゾットの塔、諸共……消え去るがいい!!」
バルバリシアの言葉に応える様にして塔に異変が起きた。
後数分後に爆発するといった雰囲気である。
「私につかまって」
ローザが叫んだ。
既に瞬間移動魔法び詠唱を始めている。
セシル、ヤン、シドは駆け寄り、カインもローザの方へ向かった。
「テレポ!」
ローザは唱えた瞬間移動魔法により、セシル一行はゾットの塔を脱出する。
残されたバルバリシアはうつ伏せに倒れ、刺された脇腹を抑えたまま最後の時を迎えようとしていた。