バルバリシアは血を失い、意識が朦朧としていた。
そんな時、何者かが体を持ち上げた。
「カイン?」
カインはローザには捕まらず、ゾットの塔に残っていた。
バルバリシアを背負うと部屋の出口に向かって走りはじめる。
「どう……して?」
「喋るな、お前を置いていけるわけがないだろう?」
「まもなく爆発するのに?」
カインは会話をしていいものか迷ったが、黙っているよりは言葉をかけた方が良いと判断した。
「爆発にはまだ猶予がある。
お前がローザの使える魔法を全て把握していたとは思えないし、俺が走って脱出できるくらいの時間は残してある筈だ」
「お見通しってわけね」
「ああ、お前が俺達を追い払おうとしているのがわかったよ。
だが、わからん。何故だ?
追い払わなければ、お前は今頃、ローザの回復魔法で一命をとりとめていた」
「お心遣いしてもらってところ悪いけど、捕まるわけにはいかないの。
ゴルベーザ様の不利になる様な情報を提供する気はないわ」
―またゴルベーザか!
苛立つカイン。
「死なせてくれないの?」
「ああ、死なせない」
「致命傷を……与えておいてよく言うわね」
「まだ望みはある」
「のぞみ?」
「ここだ!」
カインはある扉の前まで駆けていく。
そこは、医療品を保管している部屋であった。
時間が惜しいカインは走っている状態からそのまま跳び扉を蹴破った。
「ゴルベーザは用意周到だ。
クリスタルを手に入れたらセシル達を皆殺しにするつもりでいた。
当然、セシル達も決死の抵抗をするだろうから、負傷してしまう恐れは十分にある。
なら、負傷に備え、それを治療するための道具を用意していてもなんら不思議はない」
バルバリシアをそっと床に下ろし、部屋に置かれた備品を確認していく。
「この傷が……ポーションやハイポーションでどうにかなる……とも思えないけ……ど?」
「いや、必ずある。
ゴルベーザ程の大物なら必ず用意している筈だ」
カインはハイポーションを遥かに超える医療品エリクサーを探していた。
エリクサーは例え重傷であったとしても、傷ついた組織を瞬時に修復する最高クラスの治療薬である。
カインはエリクサーを見つけると、バルバリシアにかけよった。
腹部の傷口にかけた後、残った分を飲ませた。
エリクサーは傷ついた組織を修復させるだけでなく、飲み干せば魔力を回復させる事もできる。
「立てるか?」
「頭がフラフラする」
「血を失っているからか」
傷口が修復され、魔力が回復しても失った血が戻る事はない。
「助けて貰ったところ悪いけど、塔の爆発は止められないわ。
私を助けるのに時間を浪費したせいで、爆発前に脱出するのは不可能よ?」
「フッ……」
カインは一緒するとバルバリシアの膝に手を伸ばし、俗に言うお姫様だっこをして走り出した。
「何処へ行くの?」
「屋上だ」
「屋上?」
「確かに、地上まで階層を降りて、出口を目指していては間に合わない。
だが、屋上ならすぐそこだ」
「だから、屋上に出てどうするつもり?」
「跳ぶ」
「正気?」
「勿論正気だ。塔が爆発した場合、爆炎よりもまず先に爆風がくる」
「それで?」
「その爆風を利用すれば爆炎に包まれる前に遠くへ行ける筈だ」
「爆風の圧力をまともに受ければそれだけで体が潰れるわよ? 風圧を甘くみないことね」
「そこはお前の力でなんとかしてくれ、エリクサーで魔力が回復しているし、お前なら爆風を利用してさらに加速させるくらいの事はできるだろう?」
「難しい事をさらっと要求するわね
爆炎はともかく、塔の残骸やら破片だって飛んでくるだろうし」
「それも全てお前の風で防いでくれ」
「そんな事ができると思っているの?」
「思ってはいない。だがやるんだ。
それしか助かる方法はない」
「別に私は助か……」
カインはバルバリシアの返事を聞く前に屋上の端から上空へ向けて力の限り跳んだ。
ゾットの塔が爆発し、爆風が巻き起こる。
カインはその衝撃波を利用して、さらに飛翔した。
瓦礫や破片が追ってくるが、バルバリシアは風を操りなんとか軌道を逸らしてそれらを回避、ゾットの塔は遥か遠くとなり安全圏に入る。
今は爆風の勢いに乗って高速で飛行しているが、やがて勢いがなくなり下へと落ちていくだろう。
「一体、何処に向って飛んでいるのかしらね」
「さあな、一旦地上に降りるか?」
そのまま落ちれば即死だが、バルバリシアの力があれば安全に着地できるだろう。
しかし、一度着地すれば、再び高速で飛行する事は不可能である。
着地した場所が人里離れていた場合など、帰還するのに多大な日数を消費する事になりかねない。
バルバリシアは着地も視野にいれると、地上を見下ろした。
「……一難去ってまた一難が、いつまで続くのかしらね」
バルバリシアはカインにも地上を見る様に促す。
吹き飛ばされて、飛行を維持するのに集中していたせいもあるし、雲によって視界が悪かったため、気付かなかったが二人は海の上空を飛行していたのだ。
当然に海に落ちれば、安全に着水できたところで救助が来ない限りいずれ死ぬだろう。
「……くそっ!」
カインは再びやってきた絶望的状況に歯ぎしりした。