ザパァァッ!
ザパァァァァン!!
春雨「えっ!?」
満潮「な!?」
イーゴ「…!」
-距離訂正 至近距離-
-交戦に備えて下さい-
-健闘をお祈りします-
…
ハ級?[フシュゥゥゥ!!!]
突然の出来事
一つ目の歪な青白い輝きを放つそれが
春雨お嬢様に襲いかかる。
小型トラック程の大きさのある、黒い装甲を身にまとった暴力は
大きな顎を開き、白濁したそれを剥いた。
厚みのある凹凸がそれぞれ異なるノコギリ状の牙
その奥から覗く絡みつく
ねっとりとした粘膜を引いている舌。
まるで一つ目のティラノサウルスの頭部だけが
泳いでいるかのような。
深海棲艦 駆逐艦『ハ級』のように見えるそれは
ハ級とは…違う…
私達、『対深海棲艦兵器』が脅威と対峙する際に
使用する深海棲艦覚醒薬、それは私達の『捕食』能力を引き上げる代償として
短時間で服用する薬品の濃度、服用回数によって意識を『喰われる』。
研究所で一度、その完全に浸食され壊れた者の末路を見せてもらい
そのシグナルを確認させてもらった。
…感知したロ級モデルとハ級モデルのそれは『浸食』されていた。
…
ドボォォン!
春雨「キャァァァァ!!」
突然、現れ、奇襲まがいの
突撃をしてきた、ハ級を寸前のところで身を翻し
回避した春雨お嬢さまの隣で
喰いそびれたそれが海面に衝突し巨大な水柱を上げて
春雨お嬢様の姿が一瞬、消えた。
満潮「は、春雨ぇぇ!!」
イーゴ「…!!」
イーゴ「満潮お嬢様!!」
その水柱を突き破って
現れたのは―
ハ級ではなく
ザパァァァン!!
ロ級[キシャァァァ]ニタァ
巨大な牙にまみれた口腔が、満潮お嬢様に襲いかかる。
満潮「…え?」
イーゴ「!」
-出力設定-
→[80%]
背中に背負った燃料タンク
を背後に投げ捨て、
身を屈める。
本来は義肢と人間の生身の部分に負担をかけぬよう
徐々に出力を上げていくが
そこを80%まで、乱暴に引き上げる
両足の関節部の眠って久しい、
駆動部を瞬時に覚醒させていく
ギシギシとその命令主に
逆らうように唸りを上げるが、
お構いなしに前に駆けだす
一歩
二歩
三歩
足の裏が海面に着水するたびに小さな水しぶきの王冠を作る。
そして―
駆!
バシュ
駆駆!
バシュ
駆駆駆!
バシュ
ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離2.0m
右腕を前方に伸ばす
ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離1.5m
もっと…
ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離1.0m
もっと…伸びろ!
ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離0.5m
ドン!!
満潮「キャッ!」
満潮お嬢様を右腕で突き飛ばす。
彼女の小さな体は、2m程、横に飛び海面にその身を投げ出された。
イーゴ(満潮お嬢様申し訳ありません。
あとで怪我が無いかどうかちゃんと確かめまs…)
瞬間
黒い物体が目の前を過ぎる。
そして再び、視界がクリアになった。
それの代償だと言わんばかりに私の『右腕』が失われた。
満潮お嬢様を突き飛ばした際に伸ばした右腕を
ロ級(仮)に『持って行かれた』
腕をその狂暴な牙にむしり取られる瞬間は
一コマ、一コマ…カメラで切り取ったようにやけにスロウに見えた
部品が周りに散乱する。
神経を代理する、束になった色とりどりの高密度の人工筋肉。
深海棲艦の体液をベースとした青黒い循環液。
それを支持する骨を代理するフレーム。
肘から先を奪われた。
衝撃で体も、持って行かれそうになったが
義足の関節をロックして踏ん張る。
義手と肉体の接合部がそれに
堪えかねて有機ボルトが捻じれて吹き飛んだ
血がパッと散る。
青い海に赤い斑点を付けたそれは
インクを数滴垂らしたように、落ちて波紋を作り
すぐに消えていってしまった。
左目に次々にエラーメッセージが表示されていく
-接合部より出血-
-循環液及び血液が流出中-
-脈拍 正常値 維持-
-体温低下中-
-止血してください-
-危険です-
イーゴ(…邪魔)
その場に片膝を着いてしまった。
そして、左目に表示されたウィンドゥを次々に処理し
次に自分がすべき行動に移る。
-兵装設定-
→[連装機関銃 M134改]
-!ERROR!-
イーゴ( !? )
-unknown-
-デバイスが見当たりません-
-兵装を確認した後、もう一度…-
イーゴ(…そうだ、装備はほとんど鎮守府に置いてきたんだ…)
体を持ちあげ
海面を移動しながら思い出す。
左目のディスプレイ上で兵装選択を行うが、
通常装備のほとんどが『unknown』状態だ。
今回の任務はほとんど危険の無い海域だからということで
最低限の装備、つまり重火器の類は所持せずに出撃してしまった。
おそらく春雨お嬢様や満潮お嬢様も同じような状態だろう。
当然、普段の通常装備であるガトリング砲も未所持だ。
イーゴ(今は…)
-現出力可能兵装-
-右腕射突機 破損-
-左腕射突機 稼働可能です-
イーゴ(…)
イーゴ(…あとは)
腰のホルスタに備え付けられた
2本とある細い筒状の注射器のような物体に―
『深海棲艦覚醒薬』に触れる
…
―良い?廃人になりたくなかったら乱用は避けな
―これは?
―徐々に人を捨てる薬だよ
―注射器のように見えますが?
―中に液体入ってるだろ?
―はい
―それ体に打ち込むことで、あんたは
『捕食者』に近付くんだよ
―代償はデカいがね
―今度の演習で打ってみるかい?
―…はい
…
-こちらはイ級モデル『イ-505』です-
-ロ級モデル及びハ級モデルに警告します-
-これ以上、我々に危害を加えるようであれば-
-こちらもそれ相応の対応をせざるを得なくなります-
-繰り返します。こちらは…-
イーゴ(筋収縮で止血…)
イーゴ(警告シグナルを相手に送っているものの…依然、反応は無しか…)
ロ級[Woooooooo!!!]
ハ級[Shiiiiiii!!!]
-警告はしました-
-応戦します-
黒い質量が魚雷のように
こちらに突撃してくる。
左手で、腰のホルスタから
針の短い注射器を取り出し、
生身の青白い首筋にその先端を
突き立てる。
針が食い込むわずかな感触を確認し
親指でシリンダを打ち込む
首筋からそれが注入される
…