-システムを起動します-
-脈拍 正常値維持-
-視界 良好-
-兵装 問題ありません-
無機質に脳内のOSが状態を読み上げる。
左目の視界を妨げない程度のウィンドウが
表示される。
稼働に問題点は見られない。
男オペレーター「イ-505、準備は出来たか?」
水面に浮かぶ、己の体。
パシャパシャと
軽くジャンプして関節を馴らしていく。
耳に備えられたインカムより伝わる
少しお歳を召された男性の声。
目の前に広がるは、コロシアム。
ただし、普通のコロシアムではない。
周りの壁が異様に高く囲まれているプールのようだ。
その内側には、まるでサッカーコートのスポンサー枠のように
数々の企業ロゴが掲載されている。
どこかにカメラでも仕込まれているのだろうか。
この映像がどこに流れるかなんてとくに興味は無いが。
でなければ、企業ロゴなんて貼る意味なんて無いのだから。
だが、掲載されているのは出資者の企業だろう。
そして、観客席。
そこには嫌な笑みを浮かべてここを
見下ろす富裕層の『ご来賓』の方々。
???「はい。戦闘可能です。」
数メートル先の同じ境遇の『歪(いびつ)な存在』へと生まれ変わった
オトモダチ2人…いや、2体に目を向ける。
それらも同様に、水面に浮いて亡霊のようにゆらゆら揺れている。
視線には光が無く、ただ冷たいガラス玉がこちらを覗いてる。
きっと私も同じ様な表情だろう。
でも…興味無い。
男オペレーター「沈めるなよ?」
嘲笑まじりの注意がインカムに届く。
きっと沈むのは私の方だ。
男オペレーター「交戦開始」
掛け声がコロシアムに響く。
…
ザ…ザザ…
ザー…
ブゥゥゥン…
-シ…しすテむ さいきドう しま…su-
闘技場の水面に全身を預けていた私は目を覚ました。
上手く体が駆動してくれない。
左目にノイズが走っている
参った、これではウィンドゥが
上手く確認出来ないし何より
戦闘に支障が出る。
ノイズの走った左目に身体情報を表示させる
-右腕欠損-
-体液流出-
-人工筋肉 断裂-
-フレーム 断裂-
-義肢接合部より出血-
-内臓破裂-
中々なダメージだと確認する。
右腕を見やると、ひじから先が爆ぜていた。
焦げ臭い
ねじ切れたように欠損していたからきっと
爆発に巻き込まれたんだろう。
右腕の付け根から、青黒い液体が流れていた。
血液と、深海棲艦の臓器を動かすための体液が
混じり合って出来た液体だ。
CPUに指示を出し、
任意に筋収縮を行い、
応急処置的に止血を施す。
-止血を確認-
-専門医師及び専門技師による診断を推奨します-
-専門医療ホームページへアクセスしますか?-
[ YES]
→[ NO ]
CPUの提案を却下する。
どうせこの後、専門スタッフから新しい臓器の交換と
義肢の交換、体液の補充が行われるのだから
わざわざ医療機関にアクセスする必要もない
直後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
社長「お買い上げありがとうございます!」
社長「またのお越しをおまちしております。」
社長「今後ともどうか、わが社をごひいきに!」
観客席の出入り口に立ち、次々と去りゆくお客様に
フカブカと頭を下げる太い胴周りの男性。
ああ、社長のお声だ。
前に検査を受けているときにスタッフが零していたのを思い出す。
―あの社長は全く、とんでもない守銭奴だよ。
―戦争孤児までビジネスに利用しちまうんだもんな。
―ウチのガキでなくてよかったよ。
守銭奴とは、どんな意味か分からなかったが
私とデモンストレーションをしたあの『2体』はどうやら
お買い上げされたようだ。
いつも通りだ。
体をゆっくり起こす。
両足は何とか動くものの、
腕が無いから上手くバランスが取れない。
痛覚はあってもそれを不要情報として
CPUが処理してしまうため
感じる事は無い。
便利だ。
よっこらせ…
-循環血液が不足しています-
-消化器官の機能を抑制し、自然治癒を優先-
-経口排出します-
直立した瞬間、
口から勢いよく体液、唾液、胃の中の物を
激しくぶちまけた。
体を『く』の字に曲げて
ドボドボと情けなくその場に垂れ流す、
グボッ…ブフッ…ボタタ…
ゲエェッ…
ハァ…ハァ…
ひとしきり吐瀉物を吐き終わると
2、3回呼吸をして再び直立の体勢をとる
良し…今度は吐かない。
私自身は…だが。
後で知ることとなったのだが。
その姿にまわりにいたお客様の中に失神した者や
吐く者も続出したらしい。
すると後ろから声を掛けられた
???「おーい、これで何人目だよ。
あとどんくらい人にゲロ吐かせりゃ気がすむんだぁ?」
振り返る。
私の専門スタッフの女性研究員だった。
…