…
-鎮守府-
初雪「装備が無いと…足手まとい…」
満潮「だからってこのまま何もせずに
指を咥えて待ってろって言うの!?」
初雪「そうは言ってない、
ただ…駆けつけても…なにも出来ない…」シュン
能代「確かに…感情にまかせて、
迂闊な行動は出来ないものね」
阿賀野「で、でもはやく応援に行かないと
イーゴが…!」
榛名「…」
提督「…お前等がイーゴを大切に思う気持ちは
よくわかる…俺だって同じ気持ちだ
すぐにお前等をアイツの所に向かわせたいさ」
提督「だがな、現実問題…いま『お前等は戦えない』」
榛名「…ッ!」
提督「だが、『出来ること』ならある」
能代「何が…出来るでしょう、
戦えない私達が出来ることは―」
提督「初雪、満潮、春雨」
初雪「んお?」
満潮「…」
春雨「はい!」
提督「お前等は近隣住民への避難指示を」
提督「万が一のためにな…」
提督「続いて阿賀野、能代」
阿賀野・能代「はい!」
提督「両艦は鎮守府内の重要書類、貴重品類の
運び出しを」
榛名「あ、あの提督!榛名は…榛名にも
何か指示を」
提督「あぁ、もちろんだ!榛名、
お前は俺と一緒に鎮守府に残ってここから
近い鎮守府への応援要請をかけまくってくれ」
榛名「はい!」
提督「良し!!さぁ取り掛かった取り掛かった!!」
榛名(待ってて下さいイーゴさん!)
…
-…し…て…む…サイキ…ウ…-
頭がぼん…やりする…
思考が…働いてくれない…
何も…感じない…
ゆっくり、ゆっくりと息を吸い込む
右の肺が潰されているせいか
呼吸が上手くできない
霧がかった霞んだ視界が海面を捉え
その青さを確認する、
そうだ、私はル級モデル『ル-101』から強烈な打撃を
受けたのだった。
一度意識を失ってはいたもののなんとか
再起動が叶ったようだ
体は相変わらず、海面に背を預けて
沈んだまま、赤黒いインクの流出は止まっていた
ものの各機関部の反応は鈍い…
イーゴ(身体情報を…表示…)
イーゴ(?)
そうだ、義眼は打撃によるダメージで
使いものにならなかったのだ
ディスプレイ表示でなく
音声による被害情報を要求する
-音声ガイダンスに切り替えます-
-被害情報は次の通りです-
-頭部複雑骨折-
-頸椎に複数箇所 ヒビが確認されます-
-右肺機能停止-
-血中酸素濃度 低下中-
-血液量 大幅低下-
-臓器 一部露出中です、戦線離脱し
早急な治療を推奨します-
-危険です 危険です-
-危険です 危険です-
-危険です 危k…
プツン
イーゴ(このままではまともに…動けないか…)
関節のフレームがひしゃげたのか歪な音をたてる
ギシギシと義手が軋む。
腰につけた
ホルスターに再び手を伸ばす
―もう戦うな
―生きて
イーゴ「…」
イーゴ(約束を守るのが『紳士』です…)
イーゴ(ですが…)
イーゴ(女研究員…申し訳ありません)
イーゴ(提督を…)
ギッ
イーゴ(阿賀野お嬢様を…能代お嬢様を…)
ギシッ
イーゴ(初雪お嬢様を…春雨お嬢様を…)
ギシッギシィ
イーゴ(満潮お嬢様を…)
ギィィ
イーゴ(榛名お嬢様を…)
イーゴ(紳士という名前で拘束され
お守りできないような『約束』ならば)
イーゴ(『紳士』なんか―)
歯を食いしばり義手に力を込める
ギリギリと力を込めすぎたせいか
奥歯が軋みをたてて割れる
イーゴ「やめてやる!」
-感情抑制システムから警告-
-深刻なエラーを検知-
ホルスターから一本
禁断のソレを抜き取り
左胸に突き立てる
シャコン…
…ドスッ
-…-
-浸食率36%-
-浸食率40%-
-浸食率43%-
-変異します-
…
ドグン…
…
=警告=
=警告=
=排除対象のイ-505より深海棲艦化の反応アリ=
=早急な排除を推奨=
=出力変更しますか?=
→[60%]
=変更中…しばらくお待ちください…=
…
メキメキと体中の細胞が軋む
肉が、骨が、臓器が
再構築を始める
はみ出た臓器がズルズルと体の中に再び収納され
あるべき位置に戻る
その上にかぶさるように青い発光とともに
皮膚を覆い始める黒い鱗、その鱗でさえも
さらに変異を始め
真っ黒な装甲が鎧のように胴体を覆った
筋肉が目覚める
意識の半分を、脳の半分を
ペンキを塗りたくられたように
別の何かに支配される
頭の中にズッシリと質量を持った声が響く
愛する人と共に生きはずだった時間を奪われたものの慟哭
生きる事を拒絶されたものの叫び
死を強要された呪詛
受け入れられない現実を
突き付けられ瓦解した精神の断末魔
深海棲艦は艦娘が命を落とした際に
人類に復讐する脅威として蘇った姿だと説いた学者は誰だったか
事の真相はわからないが
この頭に木霊する声はどこから来るのか…
この声は私の脳細胞一つ一つを焼くように犯す
体の組織が神経が過敏になる
頸椎のヒビが再結合を始める
抑制したはずの神経が反応し始め
明瞭になる五感
ノイズの走る左目に景色が浮かび上がり
視力を取り戻す
視界が薄い青に覆われる
深海棲艦化が間もなく終了する合図だ
次々と表示されていくウィンドゥ
-最終浸食率 47%維持-
-各機関部 再構築 完了-
-体液 低下中 深海棲艦を捕食し エネルギーを補充してください-
通気性の良くなった肺が再構築される
空気を吸い込み、新鮮な酸素を取り込み始める
上半身をムクりと体を起こす
潮風を全身で感じる
ああ…とても気持ちが良い…
チャプ…チャプ
ゆっくりと歪に所々を黒い装甲で覆われた体を起こす
海面に足の裏を付け
直立する
真っ青な空に向けて
両手をグッと伸ばす
義手と生身の接合部から
弾けるように触手が生える
細胞が人ならざる、悍(おぞ)ましく見た者を
不快に…吐き気を催させるような
異形なソレ
ワラワラと蠢く不気味かつ
粘膜を纏った妖艶ささえ感じさせる
肉の束は義手を包み込むように
螺旋を描きながら
巻きつき始め
やがてそれは
血液を体液へと変換させる臓器へと
変化し、
肉塊の先端は目の前の脅威を噛み砕く
更なる脅威と化した狂暴な『顎』へと変異する
両腕に新たに顕現する肉塊
ドクンドクンと脈打つ
むき出しの筋肉と白濁した牙
青白く、ネオンのように妖しい輝きを放つ
四つの大きな目
その筋肉の微細な隙間から、ドロドロとヘドロのように
粘度を持った液体が滲み出たかと思えばそれは瞬間的に硬化し
ミクロンレベルで
何百、何千、何万とウェハース上に積層的に装甲が重なり始める
両腕に顕現した己の内側の溢れる暴力
捕食者として理性の首輪で縛り付けた絶対的な『力』
天に掲げていた―
ブン…!!
―駆逐艦『イ級』の頭部を振り下ろす
ズシンと肘から先に感じる確かな質量
それが安心感を与える
『両腕の顎』を何度も開閉すると「早く喰わせろ」と
言わんばかりにグルルと低く唸るような声が漏れる
デロリと長く青黒い舌で両腕を『舌舐めずり』する
瞼を劇場のオペラカーテンを降ろすように
ゆっくり静かに閉じる
深く息を吸う…
吸って吐いて…
潮風を肺いっぱいで感じて
イーゴ[[Vooooぉぉoooぉooooォォォoooooo!!!!!!]]
全身の血管、神経系の諸々すべてに
供給される溢れる力は
行き場を失い
人間のソレでは発声できない音を作り出し
『咆哮』する
深海棲艦薬は
喉さえも、発声器官さえも創り変えてしまった
音波はビリビリと周りの海面を振動させ
波紋を作る
青空に向けた視線を目の前に向け直す
『左目の化け物が捉える異形の視界』
と
『右目の人間が捉える日常の視界』
共通して捉える目の前の
黒い脅威
ル-101[深海棲艦化を検知 速やかに排除しまs
シュパッ…
ゴキン…
ル-101[イ-505より攻撃を受けました]
ル-101[両腕 破損]
ル-101[体液流出中]
ル-101[想定外のスペックです]
ル-101[異常事態発生]
…
-出力変更-
→[70%]
身をかがめ
グンとその身を前に投げ出す
筋力が増強された人工筋肉が
強烈な瞬発力を生み出し
海面を大きく跳ねると
タイトパンツが衝撃に耐えかねて
脹脛(ふくらはぎ)に当たる箇所が爆ぜて
そこからギシギシと軋む義足が露出した
身が驚くほどに軽く感じる
その一歩一歩の推進力は躯体を瞬間的に
ル-101の懐に運び至近距離にまで近づく
グバァ…
唾液の絡みつく
両腕の顎を
可能な限り開き―
!!!Bite!!!!
太く逞しいル-101の義手を白濁した牙が襲う
肩にイ級の二つの頭部が喰らいつき
一気に顎を閉じると
バキバキと何かが砕ける音を捉える
接合部よりスチームを吹きあげ排熱し
更に圧を高めていく
ギギギ…
…ゴギン
丸太のような腕の内側で骨格を成すフレームが
折れる感触
イーゴ[[vooooouuu!!!vaaaa!!!!!]]
心地の良い感覚をその
両腕に感じ
抑えきれない興奮を咆哮する
バッと青黒い体液がシャワーのように
その対象より吹き出し
『俺』の白いシャツを醜く濡らしていく
皺だらけになり、ボロボロになったシャツは
その時点でさえ衣服の役目を果たさなくなったというのに
さらに身につける意味を失った
顔をその黒い仮面に向けると
青白く濁った目が僅かにピクピクと
痙攣している
先程まで自由自在に動かしていた腕が急に動かなくなり
戸惑っているのか
それとも目の前に現れた自分の同類が
瀕死の状態から急激な勢いで復活したことによる
本能レベルの『恐怖』を感じているのか
―どうでもいい
そのまま噴出する液体を全身の浴び続ける
体中が体液に塗れるのに時間は掛からなかった
スゥゥゥゥ
そして鼻から息を大きく吸い込んで
ハァァァァ…
たっぷりと
蕩(とろ)けるように甘く官能的な、香りが
敏感になった鼻孔を貫き
脳を溶かして
本能を呼び覚ます
抑制された食欲を激しく駆り立てる
舐めつくしたい、しゃぶりつくしたい
嗚呼…嗚呼
嗚呼aaAAa@@AAaaa
…イタダキマス
…