※この作品はR-18です。

錆びた涙   作:卵白

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紳士

 

 

コロシアムから引き上げられ

静まり返った観客席に上がると、研究員に肩を預けた。

フラフラとストレッチャーに横たわる。

 

そしてその隣に様々な機械が乗せられた台車を慣れた手つきで持ってくる。

 

 

 

 

 

女研究員「全く…あ~ぁ…いくらデモンストレーションだからって…」

 

 

 

 

 

金のラウンドフレームの向こうの青い瞳がこちらを覗く。

 

 

 

 

 

女研究員「また派手にぶっ壊しやがって…

ただじゃないんだぞ…あの禿げ社長め…」

 

 

 

 

 

 

ブロンドの長い髪をポニーテールで纏めている。

 

 

 

 

 

 

女研究員「もう少し…手加減してやりゃ良いだろうに…

向こうは最新型の『チ級』ベース2体で」

 

 

 

 

 

化粧っ気の無い顔だが、白くて整った顔立ちだし

若いから特にその必要性を感じないよなぁ…と

男性スタッフが呟いていたのを思い出す。

 

 

 

 

 

女研究員「こっちは初期型の『イ級』ベース1人だってのに…

うっわ…付け根ズタズタじゃん」

 

 

 

 

 

 

その美しい?(美的感覚が良くわからない)顔が歪む。

私の義手と接合部の金具の

付け根がねじれていたため痛ましく思ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

女研究員「しかも…よっと…。チ級ベースが優秀に見えるように

わざとあんたに『薬』を与えなかったりさ…ひでぇ事するよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「あれが無きゃ深海棲艦化だって、出来やしないのに…よ!」

 

 

 

 

 

 

ガコンと音を立てて、熱で変形し癒着した義手を付け根から外した。

 

そこからは、青黒い液体が粘性を持ちねっとりと糸を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「はん…まるでエイリアンだよな…これ」

 

 

 

 

 

 

外したそれを重そうに抱えると、

パーツが所狭しと並んでいる台車の上に乱暴に置く。

 

 

自虐的な笑みを浮かべて次々に修理用に処置を施してく彼女。

 

白衣が体液と血液で汚れるにも関わらず、

私の体に触れていくが

捲りあげた袖が勇ましい。

 

 

その額にはうっすら汗をかき始めていた。

 

 

 

 

 

 

イ-505「今の…私の仕事なので…」

 

 

 

 

 

口を開いて言葉を発する。

 

CPUからの無機質な声ではなく私自身の思考から発する声。

 

 

 

 

その発言を無視し

鋏(はさみ)を取り出して、服を裂いていく彼女。

 

 

 

 

そして、青痣や歪な形にへこんでいたり

裂傷になっている患部に手をやる

 

 

 

 

女研究員「痛むかい?」

 

 

 

 

 

 

イ-505「いえ、痛覚を遮断しているので」

 

 

 

 

 

 

パンッ

 

 

 

 

 

頭を叩かれた。

 

 

 

 

 

-頭部に僅かな衝撃を感知-

 

 

 

-異常ありません-

 

 

 

 

 

 

女研究員「『痛そうな傷』を触られたときは、『痛そうな顔』をするもんだよ。」

 

 

 

 

女研究員「痛むかい?」

 

 

 

 

 

 

理不尽というものだ

 

 

 

 

 

女研究員「い た む か い ? 」

 

 

 

 

 

……

 

 

 

イ-505「痛いです」

 

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「よろしい♪」

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

社長「今日も『ナイスサンドバッグ』だったぞ、イ-505。」

 

 

 

 

私と女性研究員の元に社長がお腹を揺らして近づいてきた。

 

 

 

イ-505…

 

 

 

深海棲艦『イ級』の臓器を移植された私のナンバリング

 

 

 

イ-505「いえ…仕事です…ので」

 

 

 

 

 

私が顔だけ向けて返事をする。

 

はぁ、と露骨に心底嫌そうな溜息を吐く彼女。

 

 

 

社長「おや、○○君。君も毎回毎回、大変お疲れ様だね。」

 

 

女研究員「そう、思うんなら、少しは手加減してあげたらどうなんです?」

 

 

女研究員「新製品とか言っておきながら、こいつも一緒に紹介するなんて…」

 

 

社長「間違った事は言ってない。事前に説明はしておいたさ。

『3体の内、真ん中の製品だけは既製品ですのでご了承ください』とな。」

 

 

 

 

 

社長が

台車の上に置かれた私の『腕だった』ものに触れる。

 

 

 

 

 

 

女研究員「はい、そうですか…」

 

 

 

 

 

 

社長「不服かね?まぁ…『ソレ』と一緒に過ごせるのもあと僅かと思うと」

 

 

 

 

 

社長「少しは名残惜しいかな?」

 

 

 

 

 

女研究員「…あと…僅かって…どういう事ですか?」

 

 

 

 

 

社長「おや?まだ、通達が行ってなかったかね?『ソレ』の配属先が決定したのだよ?」

 

 

 

 

 

女研究員「いつ…ですか?」

 

 

 

 

 

 

社長「来週の月曜さ、手続きやら何やら面倒事があってね。

ま、残りの時間精々向こうの

『極貧鎮守府』の提督さんにご迷惑がかからんように」

 

 

 

 

 

 

社長「しっかりメンテナンスしてやりなよ?『責任者さん』?」

 

 

 

 

 

社長が女研究員の肩を叩いて、

この場を後にした。

女研究員はその後ろを振り返る事も無く、

ただただ拳をキツく握りめていた。

 

 

…

 

 

とある研究員の一言

 

『深海棲艦の能力を奪ってしまえば良いのでは?』

 

から始まったプロジェクト。

 

 

 

行き場を無くした戦争孤児を

『最安値』で施設から買い取り

実験を繰り返し

ついに成功し生まれた技術。

 

 

 

伝承に出てくる『吸血鬼』のような

おぞましい存在を彼らは作り上げ

制御する術を手にした。

 

 

 

 

深海棲艦の臓器を移植し、

外部からそれの体液を摂取することで

栄養源とし生きながらえる『能力』。

 

 

 

人の体をベースとしながらも、

それと渡り合うだけの能力を限界まで引き出す

義肢の開発『技術』。

 

 

 

 

そうして生まれた私達、歪な『製品』。

 

 

 

生まれながらにして

消耗品として生きる事を束縛され

人を捨てる事を余儀なくされ、艦娘でもなく、ましてや深海棲艦とも

定義づけられない。

 

 

 

あやふやで不確かで不明確な存在。

 

 

…

 

 

 

私達、『対深海棲艦兵器』の

試験運用は全鎮守府に義務付けられたものだ。

 

 

 

配属先の鎮守府は、元々のベースになった

『イ級』や『カ級』などの深海棲艦のクラス、

及び、演習成績から決定される。

 

 

 

 

 

 

そもそも、ベースになる深海棲艦は本人の適正による

軽巡に適性のあるものはそのまま軽巡の能力を受け継ぎ

ごく稀に戦艦クラスの者もいたが、

それでもその能力を最大限引き出せず『廃棄』処分となった者も見た事があった。

 

 

 

 

 

 

 

その中で私はただ駆逐艦に適性があっただけの話だった。

 

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

 

強い者、力のあるものは当然、戦果も上々な鎮守府で

艦娘とともに制圧任務や哨戒活動に従事したりする。

 

 

 

 

 

 

あくまで我々は艦娘のサポートに回る、

貴重な戦力たる艦娘を敵の砲撃や雷撃から守るための盾役

負傷した彼女達の救助、人間では行えない様々な

支援を行うのが最重要項目であり

それを遂行するための教育も受けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、数年、ずっとこの研究所で行われた新製品発表会で私が担ってきた

新商品がどれほど優秀かという比較対象にされてきた…

『サンドバッグ』としての役割から解放される日が来るという。

 

 

 

 

 

 

簡単な説明を受けたが、私の配属先は戦果もあまり上がらず

艦娘の人数も最小限といういわゆる『外れ』の鎮守府だった。

 

 

 

 

 

 

私の役割からすれば当然か。

 

 

 

 

 

…どうでもよかった。

 

 

 

 

 

…

 

 

 

女研究員「…」

 

 

 

キィ…キィ…

 

古臭いレトロの

オレンジ色のランプ揺れている。

 

 

 

 

それがぼんやりとした意識に入り込む。

 

 

 

うす暗く、女性物のパンティやブラ、工具、ゲーム機、

本、化粧品が散乱した研究室で目が覚める

いつの間にか気を失っていたようだ。

 

彼女の研究室兼私室に備えられた手術代の上で目が覚める

左目にはノイズは入っていなかった。

ゆっくり上体を起こす。

 

 

 

 

 

女研究員「お目覚めかい?」

 

 

イ-505「…はい」

 

 

 

女研究員「…血液が不足し過ぎて、意識を失っちまったんだよ。今はどうだい?」

 

 

左目の義眼に身体情報を表示

 

 

 

 

 

-全て異常なし-

 

 

 

 

 

全ての項目をチェックしたが正常値。

 

体液も血液も充分。

 

失われた臓器も復活している。

 

そして義手、義足。

 

これらはスペアパーツか。

 

 

 

 

 

女研究員「あんたがおねんねしてる間に変えさして貰ったよ…」

 

 

 

 

 

ギシッと音を立てて手術台の横に備えられた、

いささか年代物の丸椅子に腰掛ける。

 

そして、重いため息をついて彼女は

両手で顔を覆った。

 

 

 

 

 

女研究員「良かった…今回も…生きてた…」

 

 

 

 

 

小さく彼女は呟いたようだったが、

私の聴覚は目敏くそれを感知していた。

 

 

 

 

声が泣きそうな程、震えていた。

 

 

顔から手を放してしばし項垂れていたが

少しして

女研究員がこちらを見て、寂しそうな顔をする。

 

 

 

 

 

 

女研究員「ほら、女の子が悲しそうな顔をしてたらどうすんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

昔、女研究員に教わった事を実行に移す。

 

 

新品の腕を持ち上げ、彼女の頭に手のひらを乗せる。

 

 

 

 

 

 

…ポスン

 

 

 

 

 

指の新品のアクチュエータが小さな駆動音を立てる

 

 

 

 

 

イ-505「ヨシヨシ…」

 

 

 

 

 

女研究員「…」

 

 

 

 

女研究員「よろしい…」

 

 

 

少し涙目の

彼女の頭を撫でながら昔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

―やぁボク。今日からここが君のお家だよ?楽しくお勉強しようね。

 

 

黒い服を着たお兄さんが僕の手を引く。

 

 

とっても大きな白いお部屋に連れて来られた。

 

牛乳みたいに真っ白で綺麗だった。

 

きっと赤いクレヨンでお絵かきしたらもっと素敵になるよね。

 

 

 

 

ちょっと奥の方にまた違う、黒い服を着た3人のオジサン達がいた。

 

 

 

さっきの黒いオジサンが、真ん中のちょっとお腹の大きなオジサンに何か言ってる。

 

 

 

 

 

―適正結果です。診断結果は『イ級』ですね。正直あまり芳しくないです。

他は空母級や…悪くても軽空母だというのに…このガキだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

―まぁ…サンドバッグには使えますね。前のアレは割と簡単に『壊れて』しまいましたから。

 

 

 

 

 

 

 

いきゅう…?

こわれる…?

 

何を言ってるのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

…

 

いだいぃ…ぃ…!!

 

 

 

 

 

やめ…でぇえ゛!

 

 

 

 

 

もういやだぁぁああ゛!

 

 

…

 

 

 

 

気が付いたら、腕が無くなってた

 

 

気が付いたら、足が無くなってた

 

 

気が付いたら、左目の色が兎さんみたいに赤くなっていた。

 

 

気が付いたら、僕の頭の中に『誰か』いた。冷たい言葉を話す誰か。

 

 

気が付いたら、痛いのが当たり前だった。

 

 

 

 

そんな生活が2年続いて、僕は壊れた。

 

 

 

 

…

 

 

 

 

―あなたが『イ級』?

 

 

 

…おんなのひと

 

 

 

―情けない顔してるわねぇ!ほら!しゃきっとなさい!

 

 

 

…なにいってんの?この人?

 

 

 

―今日からあんたは私と一緒に生活すんのよ。わかった?

 

 

 

…?

 

 

 

 

 

スパァン

 

 

 

-頭部に僅かな衝撃を感知-

 

 

-異常ありません-

 

 

 

 

 

 

―返事は?

 

 

 

…はい

 

 

 

―よろしい♪さ、レディファーストを叩きこんであげるわ♪

男の子は女の子に優しくするもんよ?

 

 

 

…れでぃふぁーすと?

 

 

 

―かっこいい男になるための必須項目よ?

頭のCPUにでも刻みこんでおきなさい

 

 

 

 

 

 

-記録しました-

 

…おぼえたよ?

 

 

 

 

 

…

…

 

 

 

 

 

女研究員「なに人の頭撫でながら湿っぽい顔してんのさ」

 

 

 

 

 

表情を変えたつもりは無かったが…

 

 

 

 

 

女研究員「お姉さんにはお見通しよん♪」

 

 

 

 

 

 

 

…私は…あなたの望むようになれたんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

女研究員「…まだまだに決まってるでしょ…

まだまだ私の理想像には程遠いわよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「でもねぇ…あんた…いなくなっちゃうんでしょ…?」

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「もう、何度…メンテ出来るかしら…」

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「向こうに行ってもちゃあんとレディーファーストを貫きなさいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「…善処します。」

 

 

 

 

 

女研究員「小さな女の子には?」

 

 

 

 

 

 

イ-505「…お嬢さん」

 

 

 

 

 

 

女研究員「アタシくらいの女性は?」

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「…お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「『それなり』の女性は?」

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「おばs」

 

 

 

 

 

 

 

 

スパァン

 

 

 

-頭部に僅かな衝撃を感知-

 

 

-異常ありません-

 

 

 

 

 

 

 

 

女研究員「もう一度…『それなり』の女性は?」

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「…マダム」

 

 

 

 

 

女研究員「よろしい♪」

 

 

 

 

 

…

 

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