…
提督「くそっ…!榛名、もういい
逃げるんだ…もう俺は足がこんなんだ…」
榛名「!」
提督「俺は大丈夫だから…お前は
逃げて…!!」
ズシン…!
提督「榛名!!後ろ!」
榛名「え」
ヒュン…
ブチュルル…
イーゴ[[……]]
目の前に立ちはだかる
二本立ちのイ級の背中…
その背を貫通し榛名の目の前で制止する
触手の槍
その槍も彼の青黒い血で汚れていました
押しつぶされたはずの彼は
あの圧倒的に不利な体勢から逃れ
榛名達の前に…盾となってくれていました
イーゴ[[…ぁ゛あ゛あ゛!…!!]]グン
ですが、彼は止まることなく
貫かれたまま巨体に向けて
ボロボロになった体を跳躍しました
一歩二歩と歩数が増える度に
体から肉片がこぼれていきました
…
ザザザ
-深…棲…状態維持 困難…す-
ザザ
-持続不可能……分解…し…す…-
…
そして、最後の大きな跳躍
ズダン…!!
グルグルと体を回転させ螺旋を描き
高く高く…
太陽の光を体に浴びて飛び上がる
傷だらけの細い影
落下する先は緩慢な動作しかできない
巨体の頭部
その盛り上がった両肩に着地しました
その頃には彼の両腕の触手は
ほぼ肩から崩れ落ちて、肩先は
『錆だらけの義手』でした
それも左腕は肘から先が失われていました
紫電の走る故障間近の両腕
ガクガクと震えている逆関節の両足
歪に凹んだ胴体
ああ、もう彼は限界なんだと
直感で感じました
そんな彼が巨体の肩の上で
思い切り仰け反りました
頭突きをするように
思い切り前に屈むと―
ヒュン…
ヤスリ状の長い舌を
巨体の首に巻き付け…
…グルン
ギチギチギチギチギチ!!!!!
激しく締め上げ…
ブシュッ
パァァァァン!!
触手にまみれた頭部が弾け飛びました
…
ザザザァァ
=頭部欠損=
ザザ
=機能停………止…=
ザ…
=自壊システム……作動……=
=任mu…続行……不nou=
=お疲れさま………でした=
…
ズドォォォォォン!!!
轟音
巨大な火柱が
その肉塊を中心として広がりました
小さな影を巻き込んで…
余りにも強い、
爆風が目の前に迫っていました
ですが提督をおいて
逃げるわけにもいきません
せめて提督だけでもと思い
提督が榛名の手を握りましたが…
それを強く振り払い
彼の前に
両手を広げて壁となります
爆風を受け止める覚悟はできています…
…最後にイーゴさんから
撫でてもらいたかったなぁ
だんだん、強烈な熱量をもった爆風が
迫ってきました…
堅く目を瞑ります
ただただ…その瞬間を命を刈り取る
その熱を受け入れるために…
やっぱり痛いんでしょうか…
それとも案外、一瞬かもしれません…
彼の…提督の助かる可能性の高い方を…
どうか助かってください…提督
…怖いよ………
イーゴさん……
…
-…身体…耐熱…限界値……突破…-
…
…
……
………
死ぬ前の瞬間は
遅いと聞きますがあまりにも
遅すぎます…
ゆっくり…恐る恐るゆっくり両目を開けます
爆発は榛名たちには届きませんでした…
いえ、正確には届いていた
『はず』だったんです
ですが『目の前の彼』によって
爆風は防がれていました
青空をバックに…
風に揺れる焦げた髪
所々が焼けて爛れた顔
閉じた口元から垂れる
青黒い液体
錆びていたり、指が欠けていたり…
もはや『腕』と
形容のしようがない義手
本来は人間の脚部であったはずの
義足は、深い深海棲艦化による変異の仕様上
逆関節に折れ曲がっていました
足下に転がっているイ級の仮面
長い長い、ヤスリ状の舌
イーゴさんが榛名たちの目の前に
二本足で立ちはだかっていました
地面をよく見ると
彼の足下から榛名たちの位置にかけて
までの地面は
砂利が残っていましたが
それ以外は深く抉れて…そこでようやく
状況を把握しました
彼が『盾』になってくれていました…
榛名「…ぁ……ぃ…ゃ…ぁ」
鼓動が速まりました
…
ガクン…
顔から崩れ落ちるように倒れる
イーゴさん
その瞬間はプッツリと
糸が切れた操り人形のようでした
榛名「…だめ!!だめです!!」ダッ!
倒れた彼に駆け寄ります
近づいて彼の頭を膝の上に乗せました
スカートとソックスに染み込む
彼のわずかに残った血液と体液
その体の深刻さがより
克明にわかりました
深く抉れた背中…
ごっそりと肉を持っていかれたようで背骨が見えていました
たった一人で戦艦に立ち向かい
たった一人で脅威を追い込み
たった一人で絶望を打ち砕いた
たった一人で榛名を提督を守った
そんな彼の両目は深く閉じられ
榛名の膝の上で沈黙していました
榛名「……」
体液と海水、血液でゴワつき
熱で縮れてしまった髪を優しく撫でます
撫でます
榛名「……コ…」ボソッ
撫でます
榛名「……イイコ…」ボソッ
撫でます
榛名「いいこいいこ…ッ…」ポロポロ
撫でます
榛名「いいこ…いい…こ…!」グス
すっかり冷たくなったイーゴさんの
額を撫で続けました
…
…
キキキキィ!!
ガチャ…バタン
女研究員「やっとついた!!
あ゛~腰いてぇな畜生!!」
蒼龍「う~…お腹の肉が
伸びるかと思ったぁ」グスン
孫提督「」オボロロロロ
女研究員「…ん?」
女研究員「…なんじゃこりゃあ!?
爆発でもあったのかよ…!?」
蒼龍「あれ?あそこにいるの提督と
榛名ちゃんですよね?
なんでこんなところに…?」
孫提督「な…は、榛名ちゃん!?」ガバッ
蒼龍「ちょ、ちょっとまってください!
何だか様子がおかしいですよ!?
なんで提督の車があんなに壊れてるんですか!?」
蒼龍「それになんか変な臭いが…」
蒼龍「あそこにいるのって…提督と
榛名ちゃんと…あと誰か…倒れてる?」
女研究員「…」
女研究員「……まさか!」ダッ
…
…
-港町 小学校(仮避難所)-
ガヤガヤ
消防職員1「―では
お疲れさまでした艦娘さん」
消防職員2「あとは
我々で対応できますので」
初雪「ん、任せた」
春雨「お願いします」
満潮「…」ソワソワ
初雪「みちしお?」
満潮「な、なに?」ソワソワ
初雪「焦ってる?」
満潮「誰が!」プイ
春雨「満潮ちゃん…早くイーゴくんに会いたいんだよね♪」
満潮「な…ぁ///」カァァァ
消防職員1「おや?艦娘さんもやっぱり
お年頃なんですね~♪いやいやウチの娘もですね~」
消防職員2「始まった…」アタマ カカエ
消防職員1「保育園に通っているんですがね~
気になる男の子がいるらしく…
父親としちゃあ嬉しさ50%悔しさ50%…
憎たらしさ100%ですね~」HAHAHAHA
満潮「ちがぁぁぁぁう!
だだだ誰があんな
へっぽこなんかぁぁぁ!///」オテテブンブン!
初雪「…ふっ」カタポンポン
満潮「なによ!///」
初雪「クリスマスはお楽しみでしたね」ニマァ
満潮「!?」ワナワナ
春雨「お、お楽しみ…クリスマス!?///」
春雨「み、満潮ちゃん…もうイーゴくんと
そこまで…!!」
満潮「はぁつぅゆぅきぃぃぃ!!」ガァァ!
初雪「」フヒヒサーセンww
春雨「満潮ちゃん…」
満潮「今度はなによ!!///」
春雨「かわいい」
初雪「かわいい」
満潮「///」ブルブル
春雨「かわいいよ満潮ちゃん!!」カワイイ!
初雪「満潮ちゃんかわいい!!」カワイイ!
満潮「ヤメテ///」マッカ
消防職員1(かわいい)
消防職員2(かわいい)
ギャーギャー!
…
焦げ臭さと生臭さ…
肉が腐ったような鼻を突く臭い
それらが立ちこめる
鎮守府の裏に私たちは集まっていました
膝の上に
イーゴくんの頭を乗せて
何度も何度も力なく彼の頭を撫でている
榛名ちゃんを取り囲むように…
女研究員さんは冷静さを保とうとしていましたけどメガネの向こうの瞳は動揺と
怒りの色を隠せずにいました
現に取り乱しそうな感情を押さえつけるように肩で息をしていました
一方、私の隣で脂汗を浮かべて
カタカタ小さく震えている孫提督は
顔を青ざめさせ、ぶつぶつと小声で
なにか声を発していましたが良く聞き取れませんでした
榛名ちゃんの膝に横たわるイーゴさんは
上半身はむき出しになり
腹部、顔、髪と露出している肌は
所々に大きな火傷の痕があり
錆びた義手、義足からはバチバチと紫電が走っており
背中からは大量の青黒い液体が流れていました
きっと榛名ちゃんの服に付いている
大量のシミは彼の体液なんでしょう
空を見上げて静かに涙を流す榛名ちゃん
半ば放心状態の
彼女の大きな目は涙で
潤んでいるにも関わらず
光が宿っていませんでした
彼女の白くて柔い手は、焦げと
体液、血液でズタズタになったイーゴくんの頭を
何度も撫でていたせいかすっかり
汚れてしまっていました
私はと言うと、榛名ちゃん同様に
片足を折ってしまった提督の体を楽な姿勢
にと膝枕をしていました
ざらざらと
彼の短く揃えられた
後頭部の感触を膝に感じます
提督「―そんなとこだ…」
提督は私に頭を預け、横たわりながら
状況説明をしてくださいました
女研究員「…そう……」
メガネを上げて目頭を押さえる彼女は
うつむきながら静かに提督の声に
耳を傾けていました
蒼龍「…そんな…」
一人で改造によって強化された
ル級モデルを倒したなんて
信じられませんでした…
暴走したル級モデルが
榛名ちゃんを捕獲した後、
ちゃんと帰投するか確証はありませんでした
だって触手の化け物に…
全身を覆うくらいの変異を『独断』で
実行した彼が…
ほぼ完全に人類の敵である
深海棲艦に意識を呑まれつつ
あった彼が
人を襲わない確証はありません
ここに来るまでにイーゴくん事を
女研究員さんから色々聞きましたが…
そんな脅威を
駆逐艦の能力しか持たない彼が…
まともな兵装を使えない旧式の彼が…
未然に防いだとあれば、驚くしか
ありません
彼は人を守ったと同時に
孫提督をも守ってくださったのです
今回の指示による孫提督のミスで失われた
命は少なくはありません…ですが
民間人に被害が及ぶ前に
彼が食い止めてくださったおかげで
これ以上、孫提督を『罪の色』に染めないで
下さったのですから…
あとは孫提督自身がお決めになることです
―私はただ…
孫提督「」ガタガタ
―ただお側で見守り続けるだけです
女研究員「…おい」
孫提督「ひぃっ!」
女研究員「わかったかい?…自分が
やらかしたことの大きさ…」
孫提督「知らなかったんだ…」ボソッ
女研究員「…あ?」ピク
孫提督「知らなかったんだよぉぉ!
こんなことになるなんてさぁ!!」
女研究員「……」イラッ
孫提督「…だって…だってそうだろ!?
こいつらは…こいつら生体兵器は
ただの『モノ』だろ!?
モノは大人しくユーザーの命令を
きくもんだろおぉ!!」
孫提督「僕は…僕はわるくない!!
悪いはずがないんだ!!」
女研究員「…このっ…!」
バゴン
孫提督「ぶぎぃっ!!」
提督「…けんな…」
蒼龍「提督!?」
提督「この大バカやろぉぉぉ!!!!」
孫提督「ひ…ひぃぃぃ!!」
蒼龍(片足で…あんなパンチを打てるなんて)
ドサッ
提督「誰が!!」
ゴン!!
孫提督「ぷぎっ!!」
提督「誰がおまえの!!」
ゴン!!ゴン!!
孫提督「ぶひっ!!ひぃっ!!」
提督「誰がお前のミスの尻拭いを
したと思ってんだ!!あぁ゛!?」
バゴン!
孫提督「いだっっ…!!いだいぃよぉ!」
強靱な片足の筋肉だけで
勢いをつけ最初の一発は
その勢いのまま倒れながら打ち込み
孫提督を押し倒して
額に血管を浮かび上がらせながら
何度も拳を打ち込みました
度重なる拳の連打によって
頬がだんだんと腫れてきました
…でもこのままじゃ
女研究員「まちな…」
女研究員さんが孫提督に近づいて…
女研究員「ふんっ!!」
スパァァン!
孫提督「」キュゥ
ビロンとだらしなく伸びた
孫提督
女研究員「んぐぅぉぉっ!
いいってぇぇぇ!!」
思い切りひったたきました
女研究員「『あたしの』イーゴを
ボロボロにした罰だこのクソ提督……!」
彼女は
ちょっと涙目でした
…
ピクッ…
榛名「…?」グスッ
ピクン
榛名「…!?」
慌ててイーゴさんの胸に手を当てます
トクン…トク…トクン
榛名「…~!!」
それはとても弱く微かな
命の鼓動でした
こんなにも
冷たく傷ついた彼の体から感じる
弱々しい命の灯火に
希望が沸いてきました
榛名「イーゴさん!!…イーゴさん!
イーゴさん!!!」
必死でした
必死に彼の名前を呼ぶと
イーゴ「」ゴフッ
口から血を吐いて息を吹き返しました
窓の隙間から漏れる風のように
ヒュウヒュウと弱々しい呼吸音
でも…彼は
イーゴさんは『生きて』います
弱く鼓動し小さく息を吐いて…
そして―
重く閉じられた両目が開かれました
嬉しくて嬉しくてたまりません…
目の前で起きた奇跡によって
視界がどんどんぼやけていきました
まだ泣いちゃだめ…
こんなくしゃくしゃな顔…
榛名は恥ずかしいです
思わず俯いてしまいました
目の端からポタポタと雫がこぼれます
彼の顔を見たいのに…
榛名は…
今の榛名の顔は見てほしくなくて…
…でも……
…ポスン
頭に感じる優しい感覚
ぎこちない感覚
顔を上げるとー
イーゴ「い……i……こ」
イーゴ「イイコ…イイコ」
指の欠けた手のひらで榛名の頭を
撫でる
イーゴ「…ご安心くdaさい…大丈夫…ですよ」
『優しい笑顔の』イーゴさん
その右の黒目の端からは透明の涙
左の赤目から流れる―
体内のパーツが錆びて循環して
涙腺を通って流れる
イーゴ「ただiま…もどりまsiた…」
―錆び混じりの…
イーゴ「……榛名…お嬢…様」
―『錆びた涙』
榛名もそっと彼の頭を抱き寄せて
今度は嬉しさを手のひらに込めて
イーゴさんの頭に手を添えます
榛名「お帰りなさい……イーゴさん…」
…