お付き合い頂き有難うございました。
ご縁がありましたら、是非
別の作品にて。
…
あの事件から数ヶ月間
目まぐるしい勢いで環境が
変わりました―
孫提督さんは
己の犯した罪の意識に
苛まれ自ら出頭しました
これには祖父に当たる元帥殿もさすがに
頭を抱えたようです
蒼龍さんは
「あんなに身勝手な提督に
着いていけるのはやっぱり
私しかいませんから~」
と言って今でも孫提督さんの帰りを
本営で待ち続けているようです
また、この事件を受けて
世論の反応は著しく
『対深海棲艦兵器は人間が持つには早すぎた技術だ』
という声が高まり
彼らの試験運用は撤廃され
彼らを作りだした企業は
信用を失って倒産しました
そして
初雪ちゃんと春雨ちゃん
阿賀野さんと能代さんは今でも
提督と一緒に○○鎮守府で主に
哨戒活動に勤しんでいるようです
一方で
満潮ちゃんと榛名、
そして女研究員さんは―
…
-数年後-
この艦娘専用の病院には
昼夜問わず
鎮守府内の修復施設で間に合わない炙れた
多くの艦娘が運ばれてくる
小破や中破はもちろん
大破の艦娘も少なくは無い
艦娘は皆一様に
若々しく、また美しく可愛らしかった
それゆえに
皮膚が捲れて血まみれ…
あちこちを骨折…
或いは内臓を撒き散らす…
そんな
苦痛に顔を歪めて
運ばれてくる彼女達の姿を見て
気を病む職員達が多くいた
それでも事実、私達のような医師職員がいなければ
たちまち、鎮守府にはまともに戦える子達はいなくなってしまうだろう…
いやな需要と供給のサイクルが出来あがってしまっている…
またこの病院では
治療が追いつかず
手遅れになってしまったことも多々あった…
俺が覚えている限りでは十本の指では足りない…
そして今日も―
医師1「大破の艦娘だ!慎重に運べ!!」
ストレッチャーに乗せられた
傷だらけの艦娘…
軽巡『北上』だった
医師1「内臓破裂…あとは火傷も酷い…」
血塗れの彼女の体…
彼女の顔の右半分はゴッソリ弾ぜて
筋肉が露出している
また
大量の血液を
失ったせいか顔は顔面蒼白だった
俺がストレッチャーを押してズンズンと病院の
廊下を進んでいくと
背後から涙声混じりの張り裂けそうな怒鳴り声が
聞こえてきた
大井「離せぇえ゛え゛!!」
思わず後ろを振り返ると
そこには毛先の跳ねた長いブラウンの髪の
女の子がいた
彼女も艦娘だ…
確か今、ストレッチャーの上で横たわっている子と
同じ鎮守府の
大井「北上さんを…連れてかないでよぉぉ!!
きた…
北上さぁ゛ぁん!!」
艦娘の中には、姉妹艦という
人間に置き換えれば家族ともいえるべきシステムの概念があった
船であった頃の記憶だろうか
この病院に運ばれてくる際に取りみだすのは
大体にしてそのような艦娘達だった
そんな彼女も、あちこちに火傷を負っていた
この北上という子に比べて随分と軽傷に見えるが
その姿勢はまるで自分のことのように必死だった
他の医師職員達に取り押さえられていた
医師2「君!落ち着きなさい!!」
医師3「大丈夫だから!
彼女は我々が責任をもって治療するかr」
大井「離せって…
言ってるでしょうがぁぁ!!」ゴン!
医師2「ぅあっ!!」
医師3「いって…ぇ!」
大井「北上さん…!!」ダッ
医師2「いてて…!?
あ!こら!!待ちなさい!!」
医師3「止まりなさい!!君だって
傷を負っているんだぞ!!」
大井「はっ…はっ…はっ…!!」タッタッタッタ
医師4「」スッ
彼女の前に立ちはだかる
小柄な比較的若い黒髪の医師
あいつは確か―
大井「…はぁ…はぁ…邪魔よ…!」
医師4「…」
大井「そこを退きなさい!!
退かないと…人相手だとしても
容赦しない!!」ギロリ
医師4「…」
医師4「」ニコリ
コツコツコツ…
少し古めかしい革靴を鳴らして
近づく彼
大井「なに……笑ってんのよ…!
こっち来んな!ふざけんじゃな」
白手袋に包まれた手で
彼女の手を握った
ガシッ
……ギュッ
ナデナデ
医師4「イイコイイコ」ニコリ
大井(!?!?!?)
大井(なな何なのこいつ!?)
…
…
-病室-
窓から見える風景はウンザリするくらい
青い…
北上さんとならどんな風景も
美しく感じられたのに…
一人だと、どんな風景も色褪せて
見えてしまう…
大井「…」ボケー
大井「北上さん…」ボソッ
…会いたい
呟いたあと、光が射し込む病室に
誰かが足を踏み入れた
ガチャ…キィ
看護婦「失礼します大井さん♪
お加減は如何ですか?」
長い黒髪の艶のあるストレート…
白いナース服
私が身を預けているベッドに
近づくと怪訝な顔をして
次の瞬間目を見開いた
看護婦「あ、大井さん!
ダメじゃないですか!
ちゃんと食べないと!」
私の目の前にある
病院食…
仕方ないじゃない…
食べたくないんだから…
ほんと耳障り
大井「……うっさいわね」ハァ
看護婦「もう!そんな事言わないで
ちゃんと食べないといくら艦娘だからって
治る傷も治りませんよ?」カチャカチャ
食器に手を触れて
箸でカボチャの煮物を
私の口元に持ってくる
香ばしい匂い
看護婦「はい♪」
大井「なによ…これ」
看護婦「あーん♪」アーン
頭に血が上った
大井「…!!」
気がつくと私は手を振りあげていた
ブン!
ガチャン!
彼女の手にぶつかる感触
カランカラン…
大井「気安く私に…
そんな事しないでよ…!」
看護婦「…ッ」
大井「私にそんな事して良いのは北上さんだけなの!!わかる!?」
大井「北上さんの病室教えてよ!!
この病院にいるんでしょ!?
会わせてよ!!!ねぇ!!!」ガシッ
看護婦「…」
大井「…お願いだからぁっ…!」
大井「なんでも…します…からぁ」
大井「北上さんに…
会わせて…くだ…さいぃ」ポロポロ
看護婦「」ギュッ
大井「!?」
看護婦「いいこいいこ♪」ナデナデ
私を胸元に
抱き寄せて頭を優しく撫でる彼女
これ…あの医者もやってた…
彼女の胸から伝わる一定のテンポの鼓動
鼻に届く微かな柔らかな香りは
私の荒ぶった神経を宥め続けた
北上さん以外に触れてほしくないのに
…なんで
なんでこんなに…落ち着くのよ…
看護婦「落ち着きましたか?」ナデナデ
…
ガラガラガラ…
再び訪問者
コツ…コツ…コツ
この革靴の音…
医師4「こんにちは大井…さん」ペコリ
医師4「?、看護婦さん?もう仲良く
なったんですね」
こいつ…あのときのヘンテコな医者…
看護婦「はい♪この通り♪」ギュゥ
大井「」クルシイ
正直苦しい…けど………
………いい匂い
医師4「それは良かった、ですが…
少し、弛めても良いのでは?」
看護婦「?」チラリ
大井「」クルチイ
看護婦「あ!すいません!」パッ
大井「いや…別に」ケホケホッ
医師4「怪我の具合はどうですか?
幸い大井さんは小破でしたので肉体の損傷も
酷くありませんでしたから…」
医師4「鎮痛剤の投与とあとは
自然治癒で充分修復可能でしたからね、良かったですよ」
医師4「あとは…『ここ』の問題ですよね
戦線復帰できそうですか?」
自分の左胸を抑えるヘンテコな医者
大井「…」
肉体的にはもう少し休養して栄養補給をすれば再び艤装を纏って
海に駆り出ることは可能…でも…
大井「先生…教えて…ください」
聞きたい…
…聞かなきゃ
大井「あの…きた…北上さんは…」
医師4「…」
大井「…」
看護婦「…」
ちょっと待って…
やだ…なんで黙ってるのよ…
…何か…何か言ってよ…
北上さんがいなくなったら…
…戦う意味なんて…
医師4「手は尽くしたのですが…」
…死のう
…
…
医師4「」クルリ
大井「?」
看護婦「」クスクス
医師4「入っておいで…」
ガラガラガラ…
車椅子…
北上「ヤホー、大井っち~」
大井「!?!?!?」
大井「な…!…え!?…えぇ!?」ワナワナ
医師4・看護婦「せ~の…」
車いすに座ったまま
何か看板を掲げる北上さん
北上「『ドッキリ大成功』」パンパカパーン
大井「」
北上「…」
大井「」
北上「…」
大井「」ウル
北上「…」
大井「き」ウルウル
北上「…」
大井「ぎだがみざぁぁぁぁん゛!!!」ガバッ
ベッドから転がり落ちる
そして車椅子の彼女に
顔の右半分を包帯で覆った
北上さんに抱きつく
北上「い、痛いよ大井っち」
大井「ぎだがみざぁん!!
あ゛ぁ!
きだがみざはぁん!!」ギュムゥ
キタカミサァァン!!
オオイッチー
キタカミシャァァン!!
オオイッチー
看護婦「意地悪ですね」クスクス
医師4「北上さんがサプライズを仕掛けたいと…」
医師4「患者さんの要望に
お応えしただけなんですけどね~」ウーン
…
-病院 屋上-
昨日からずっと晴れているせいか
屋上に設置されたベンチもカラカラに乾いています
そのベンチに腰掛ける私と先生
耳を澄ますと
近くの神社にある林から
『蝉時雨』が聞こえてきます
すっかり夏ですね~
そういえば初めて先生とお会いしたときも
今日みたいに太陽が照りつく
とても暑い日でしたね…
…
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
看護婦「イー…あ、いえいえ
…『先生』、北上さんの手術
お疲れさまでした」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
医師4「とんでもない
はるn…『看護婦』さんもお疲れさまです」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
看護婦「…暑いですね」
医師4「ええ、とても…」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
看護婦「…先生」
医師4「…はい」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
看護婦「…あの二人…どうなるんでしょう」
医師4「北上さんは、右腕切断、
片目の欠損、あとは一部臓器の人工化」
医師4「…戦線復帰は無理です」
医師4「大井さんも…
あの不安定な状態では…」
看護婦「…そうですね」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
医師4「」ゴソゴソ
医師4「これが彼女たちの鎮守府に送る診断書です」ペラ
看護婦「…」
看護婦「…!!」
診断書『軽巡北上及び大井両艦は
入念な診断により戦線復帰は難しいと判断
医療方針に則り、解体を推奨』
看護婦「これって…!」
医師4「あの二人は…
『別の生きる道』を歩んだ方が良いと」
医師4「もちろん、二人の合意の上でですが」
ジーワジーワ…
ミーンミンミンミィィン…
ジジジジジ…
…
…
-遊園地-
ガヤガヤ…
ザワザワ…
蒼龍「あ!次あれ!あれ乗りましょー♪」ピョンコピョンコ
孫提督「そ、蒼龍!ちょ、ちょっと休憩しましょう!」ゼェゼェ
蒼龍「やだやだやだぁ!
早く乗らないと日が暮れちゃいますよー!」
孫提督「はぁ…はぁ…そ…ソフトクリーム買ってあげますから」
蒼龍「うっ!」ピタ
孫提督「…チョコとバニラのダブルで?」
蒼龍「うっ!うっ!!」
蒼龍「~」ウーン
蒼龍「チュロス付きで!!」
孫提督「…か、かしこまりました」
蒼龍「ヤッタヤッタ♪それで手を打ちましょう!」
孫提督「ふふふ、さぁ、行きましょうか『蒼龍お嬢様』」
孫提督「お手をどうぞ」スッ
蒼龍「はい♪孫提t…ううん」
蒼龍「あなた♪」
…ギュッ
…
-病院 屋上-
バァーン!
蝉時雨を裂くように
勢い良く屋上と屋内に続くドアが開かれました
そこから小柄な作業衣に身を包んだ
あの頃からちょっと髪を伸ばした
―満潮ちゃん
ちょっとご立腹のようです
満潮「こらぁぁ!バカ『イーゴ』!!
メンテナンスの時間だっつってんのに
何でラボに来ないのよ!!」
イーゴ(医師4)「あれ?もうそんな時間ですか」
満潮「『もうそんな時間』よ!
あんたのその義手は昔と違って
デリケートなんだから定期的なメンテが
必要って何度言ったらわか…んの…!?」
満潮「ちょ、ちょっとイーゴ!
なんで…
なんであんたが
『榛名』と一緒なのよ!」ワナワナ
榛名(看護婦)「休憩時間ですので!
榛名は大丈夫です!」フンス
女研究員「久々聞いたねそれ」ヒョコ
満潮「~!!」ウガァ
イーゴ「」コンニチハ
満潮「ボサっとしてんじゃないわよ!!
ほら!午後の検診が始まる前に
さっさと行った行った!!」
イーゴ「は…はい」ヨッコイショ
女研究員「ん、いつも通り一階の
ラボで職員待ってるからね~
しっかり診てきてもらいな」
…
―イーゴさんは、あの事件の後
自身の体を非戦闘型に改造するよう
女研究員さんに申し出ました
強靱な怪力をもつ『破壊の手』を捨て
誰かの命の綻びを紡ぐ『再生の手』を得ました
そして医療の道へ
私…榛名と満潮ちゃん、女研究員さんは
彼についていき
榛名は看護婦として
女研究員さんはそのまま人工臓器や義肢の
点検・設計の職員
満潮ちゃんは女研究員さんに弟子入りして
同じラボでお手伝いをしています
彼とともに過ごす毎日はとても
充実していて
満潮ちゃんとも良い関係を保っています
ただ…
榛名以上にイーゴさんに密着する時が
あるので…
ちょっと榛名は
大丈夫じゃないときがあります…
あ、そうそう、それと
以前『あのお二人』に偶然お会いしたんですけど
蒼龍さんは釈放された
孫提督さんとご結婚されたようです
孫提督さんは文字通り人が変わったようでした
元が良かったのか
痩せて、格好良かったですよ
性格の方も
すっかり改心されたようで
今では気遣いができる
とても爽やかな愛妻家に
なっていました
その柔らかな物腰はまるでイーゴさんのような
『紳士』でした
…
女研究員「んでさ」
満潮・榛名「なによ(なんです)?」
女研究員「どっちが正妻?」
満潮「私よ!」
榛名「榛名です!」
満潮「あぁ?」ギロリ
榛名「えぇ?」キッ
女研究員「おぉう」ニヤニヤ
女研究員「あ、そ・れ・と」
女研究員「朗報朗報~♪」
満潮・榛名「「 え? 」」
女研究員「人間だった頃のイーゴの精子さ
実は精子バンクに冷凍保存して預けてたんだよね~♪」
満潮「…」
榛名「…」
満潮「!!!!」
榛名「!!!!」
女研究員「ん・で・さ~♪」
女研究員「どっちが正妻?」ニッコリ
-錆びた涙-完
お疲れ様です。
如何でしたでしょうか?
『錆びた涙』
楽しんで頂けたら幸いです。
元々、ちょっと息抜きのつもりで手をつけたテーマだったのですが
構想が広がり、長編となりました。
初の戦闘描写ゴリゴリの内容だったので、どう動かしたら格好いいかなとか
どうすれば動きを言葉に置き換えられるかなど、
これも悪戦苦闘した作品の一つです。
ではでは、ご縁がありました
別の作品でお会い致しましょう。
失礼します。