※この作品はR-18です。

錆びた涙   作:卵白

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鎮守府

…

 

 

 

 

ゴトゴト…ゴトゴト…

 

 

揺れが酷い。

 

トラックで輸送される

私の目の前に置かれた、

私の基本兵装

メンテナンス道具

スペアのパーツ

保存液に漬けられた幾つかの臓器

 

振動に合わせてそれもカタカタと揺れる。

 

 

 

研究所を後にし、トラックに乗る前の事が頭を過ぎる。

 

 

 

 

 

 

―あいつの試験成績じゃあ、あそこがお似合だよな。

 

 

 

 

―やっぱ『サンドバッグ』さんだもんな。

ぶっちゃけ輸送費用払ってほしいんだけどな。

あんな奴の費用まで肩代わりしなくちゃいけないなんて…な。

 

 

 

 

 

―言ってやるなよ。ほら、あいつの『お姉ちゃん』がこっち睨んでるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

―ああ、あそこにいるお嬢ちゃん?あれでも20代後半なんだよな?見えねぇ。

 

 

 

―な。知ってるかよ?あの女にさ弟いたんだってさ。

そいつ豪華客船のスタッフであちこち船で回ってたんだと。

『紳士』だったんだな。

んで渡航中に深海棲艦に襲われてらしいんだよ

 

 

 

 

―は~ん。で?

 

 

 

 

―でって…。その弟にさ、『サンドバッグ』くん、似てるんだとよ。

 

 

 

 

 

―ああ、だからあんなに肩入れしてんのか?弟君の代わりか?

 

 

 

 

 

―さぁな。あくまで噂だからな。

 

 

 

 

 

 

 

全部、耳が拾った。

事実は興味ない。

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

 

コンコンコン

 

 

ガチャ…

 

 

 

???「失礼します、提督。郵便受けにこんなものが」

 

 

 

 

 

 

朝方、鎮守府に一通の封筒が届きました。

本営からだったのですが…

 

 

 

 

 

提督「うん?」

 

ギシッ…ギシッ…

 

 

 

 

 

執務室を開けると筋肉隆々の人物、そうこの鎮守府の提督が

鏡に己を姿を映しつつ一つ20kgの鉄のダンベルを右手、左手と交互に

持ち上げていました。

 

体温が取り巻く空気よりも高いのかかるく湯気がたっていました。

 

 

 

 

 

???「まず、そのダンベルを下ろして下さい!

…本営かららしいです。いったいなんでしょう?」

 

 

 

 

…ゴトン…ゴトン

 

 

 

提督「ふむ、良い汗をかいた。…どれ?」

 

 

鈍い音をたてて、逞しい腕には不釣り合いなほどに小さな

封筒を破り、中身を取り出しました。

 

 

 

すると、その切れ長の目をこれでもかと

言わんばかりに大きく剥きました。

 

一瞬で興奮した事が手に取るようにわかります。

 

 

 

 

 

提督「ほう!めでたい!めでたいぞ○○!!今夜は宴だ!酒の準備だ!!」

 

 

 

 

 

???「ちょ、ちょっと待って下さい!いったい何がめでたいんですか!?」

 

 

 

 

提督「ついにこの鎮守府にも『対深海棲艦兵器』が配属になったんだ!」

 

 

 

 

 

 

…え?

 

噂でしか聞いた事の無い…

 

 

資材の乏しいこの鎮守府に…あの『対深海棲艦兵器』…ですか?

 

 

 

 

 

 

 

提督「こうしちゃおれん!○○!

部屋の掃除だ!ああ、あと生活用品も準備しなくてはな!」

 

 

 

 

 

その手に持った『それ』を机の上に置くと上着を手に掛け

退室しようとしましたが、

私がその手を引きとめます。

 

 

 

 

 

 

???「落ち着いて下さい!良く見たらこれ、配属は来週ですよ?」

 

 

 

 

 

途端、冷静になる彼。

 

 

 

 

 

 

提督「…」

 

 

 

 

 

 

???「…」

 

 

 

 

 

 

 

提督「おっと、提督早とちり。」

 

 

 

 

その血管の浮き出た太い手で軽く拳を作り

額にコツンとあてました。

 

 

 

 

 

 

???「もう、提督はせっかちさんですね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

提督「ハァーッハッハッハ!」

 

 

 

 

…

 

 

 

 

ゴンゴンゴン…

 

 

 

 

 

 

トラックの後部に備えられたドアを叩かれ

その跳ねかえる音で現実に意識を戻す。

 

 

 

 

 

 

左目の義眼に、脈拍だけをアクティブモードにして常に表示させていたが

ゆったりとした波形から、今はリラックスしているようだ。

 

 

 

 

 

ドアが乱暴に開かれ

光がこの『数年放置された物置』のように

埃っぽい輸送部を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業員「着いたぞ。降りろ。」

 

 

 

 

 

イ-505「…はい。」

 

 

 

 

 

トラックから降りると

潮風が鼻孔を突いた。

 

 

 

穏やかな波音を聴覚が拾う。

 

 

 

 

 

そして、ムッとした熱気。

 

真夏である事を実感する。

 

 

 

 

ザザーン…

 

ザザァーン…

 

 

 

 

 

 

 

しばらくその音を聞いていたが

作業員の男性が、背中をドンと突いた。

 

 

 

 

振り返ると、眉をしかめてとても不機嫌そうな顔をしていた。

『早くしろ』とその表情が告げていた。

 

 

 

 

そして

暑いのだろうか、額に汗を浮かべていた。

 

 

 

 

 

ペコリと頭を下げて、まずは『人』では運べない

兵装の入ったボックスの取ってに手を掛ける。

 

 

 

二の腕に意識を集中させて引き上げる、

義手内の人工の筋肉が収縮。

 

 

 

 

 

 

ズシッ…

 

 

 

 

 

 

地面に下ろす。

 

 

 

 

 

作業員「…化け物が」

 

 

 

 

 

 

背後から蔑む声が低く聞こえた。

拡張された機能を持つ聴覚はそれをはっきりと捉えたが

ご丁寧にCPUが処理し、左目の視界に言語化し言葉を表示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「…」

 

 

 

 

 

 

 

ズン…と両手に兵装の入ったボックスを抱えて

輸送部から降りると、トラックが大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

今まで支えていた大質量の物体が無くなったため

サスペンションで無負荷状態の車高に戻る。

 

 

 

 

 

 

その表示された言葉を、しばらく見つめて

ウィンドゥを閉じた。

 

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

作業員の方と一緒に残りの軽い荷物を鎮守府の正門前に下ろすと、

 

彼は携帯電話を取り出すとどこかへ通話し始めた。

 

 

 

 

その携帯電話には可愛らしいストラップが揺れていた。

クマをデフォルメしたマスコットのようだったが、

そのクマの顔の裏には写真をはめ込む四角い穴が有り

そこには髭面の彼と、小さな女の子が笑った顔でケーキを取り囲んだ

写真だった。

 

 

確かこの作業員は最近9歳になる娘がいる。

 

奥さんは子供を置いて蒸発してしまったと聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

妻に逃げられる、愛していた人に逃げられるとは…どういう気持ちなんだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この彼から、『愛する娘』を取り上げたら、彼も『壊れる』んだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

出口の無い迷路に迷い込んだように、

取り留めも無い思考が頭をループする。

自分の人間の脳が行う処理。

搭載されたOSはそれを止める事は無い。

私に許された人間らしい部分。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、彼に目を向けると。

 

携帯端末で行け行けと鎮守府を指す。

 

 

 

 

 

作業員「提督さんは今、手が放せないんだと…ったく。」

 

 

 

 

 

作業員「代わりのモンが来るらしいがよ…

早くしてくんねぇかな…次がつっかえてんのに」

 

 

 

 

イラついているようだ。

帽子をいじくったり、ペンの先を噛んだりしている。

 

 

 

 

―人はね思い通りにいかないとイラつくもんだよ

 

 

 

 

―でもねぇ、紳士はそれを顔に出さないもんさ。

 

 

 

 

 

 

 

女研究員の顔が頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

―私は…そういう不要な物は、あまり感じないように作られています。

 

 

 

 

 

―感情が制御されていますので…

 

 

 

 

 

―んじゃ、その点では合格かね?

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

作業員「おい…来たぞ」

 

 

 

???「遅くなってスイマセン!」

 

 

 

 

正門の奥、数メートル先の鎮守府の

入り口と思われる古臭い扉が重く開くと

そこから不思議な服装をした

若いお嬢さんがこちらに向かってパタパタと走ってくる。

 

 

 

作業員「あ~♪どぅもぉ~♪いつもお世話になっておりますぅ♪」

 

 

 

私に対する態度とは真逆の猫撫で声を発して、

彼女を迎える。

 

 

そして、胸元のポケットから何か書類とペンを取り出し、

差し出した。

 

 

 

 

 

 

???「はぁ…はぁ…すいません、

提督、どうしても手が放せないって事で代わりに私が」

 

 

 

 

 

???「遅くなってしまって申し訳ありません!」

 

 

 

 

 

 

 

長い髪が乱れるのも関わらず深々と頭を下げる彼女。

 

 

 

 

 

 

 

作業員「いえいえ~♪まったく気にしてないので!

そんなに畏まらないでください!艦娘さん!」

 

 

 

 

…ああ、これが社交辞令というものか。

知識では知っている。

社会生活を円滑に行うための日本独自に発達した挨拶や褒め言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「…それ…で、この…人が…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業員「あっははは!『これ』は人ではなく『物』ですよ!艦娘さん!

さ、この書類に受け取りのサインを」

 

 

 

 

怪訝な顔をする彼女の表情を無視してズイズイと

書類へのサインを求める。

 

 

 

 

そして、彼女はそのペンを取り書類の必要項目に記入して

作業員に手渡した。

 

 

 

 

 

 

???「はい!お疲れさまでした!これで良いんですよね!」

 

 

 

 

 

作業員「…はい、確かに!では、失礼します!

しっかりやれよ?イ-505!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私の肩をポンポンと叩く彼。

それは笑顔だったが、目が笑っていなかった。

 

 

 

 

そして艦娘に軽く会釈した後にトラックの運転席に乗り込んだ。

 

乗り込む前に、艦娘の目に着かないように

ハンカチで私の肩に触れた手を拭っていたのが確認できたが別に気にする事ではなかった。

 

 

 

そして、慣れた操作でトラックを移動して、元の道を辿って次第に遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

残された、私の荷物と私自身、そして…

 

 

 

 

 

 

???「それじゃ初めましてですね♪私は―」

 

 

 

榛名「金剛型3番艦の榛名です!よろしくお願いしますね♪」

 

 

 

 

 

笑顔で挨拶をする黒髪の彼女。

 

 

 

 

 

 

―女の子が笑顔になったら何ていうんだっけ?

 

 

 

 

 

またも女研究員の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

確か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「素敵な笑顔を有難うございます。お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表情を崩さず、相手に聞こえる程度の声に調節し

伝える。

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

キョトンと目を丸くした後に、頬に手を当て赤くなる彼女。

まるで、夏の熱気にやられたような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榛名「お…お嬢様!?///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…?

 

 

 

 

 

 

 

笑顔の女性にはそう言えと教わった。

 

 

 

 

 

 

イ-505「はい、お嬢様。」

 

 

 

 

 

 

 

そして彼女に向って敬礼する。

 

 

頭のCPUが左目にテキストボックスを開いて

そこの文字を読み上げるよう指示をだす。

 

口を開いて、それを読み上げる。

 

初めて会った相手にはこう伝えるよう私自身

社長より直々に指示を受けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「この度は○○社製品。『イ-505』をお買い上げ有難うございます。」

 

 

イ-505「艦娘及び人類保全のため尽力を尽くします。」

 

 

 

 

 

 

榛名「は、はぁ。」

 

 

 

 

 

 

呆気にとられている彼女、『榛名』と言ったか?

 

 

 

 

 

 

 

-艦種『戦艦』 金剛型-

 

 

-『榛名』登録しました-

 

 

 

…良し。

 

 

 

 

 

 

 

提督「おーい!榛名ぁ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

先程、榛名が出てきた入り口から

身長およそ190cmの、短くセットされた黒髪の

男性がノシノシと歩いてきた。

その肩には皺が入った年季の入った上着が掛けられていた。

 

 

 

上半身はタンクトップ姿だった。

 

 

 

白髪混じりの髪。

顔立ちからするとおそらく40代だろうか

 

しかしその

筋骨隆々の雄々しい体からは老いを感じさせない。

 

 

 

 

 

 

榛名「あ、提督!トレーニングお疲れ様です!こちら、先程到着されました…えと」

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「イ-505です。この度は○○社の

製品をお買い上げ有難うございます。艦娘と…」

 

 

 

 

 

先程と同じ内容を読み上げようとした…その時

 

 

 

 

 

 

 

提督「ああ、いい、いい。そういう面倒くさいのは!」

 

 

 

 

 

…?

 

 

 

 

 

 

提督「それよりも…良く来てくれた!歓迎するぞ!

いやぁこれで少しはウチの娘達の苦労も和らぐだろなぁ!」

 

 

 

 

 

腰に手を当て大きな声で豪快に笑う彼。

 

 

 

一体何がそんなに楽しいんだろうか。

 

 

横を見ると、榛名がニコニコと微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

…?

 

 

 

 

 

 

 

提督「おっと!そうだ!おめぇさん!名前は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この提督はいささか

頭が弱いのだろうか。

先程、説明したはずだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

イ-505「…」

 

イ-505「イ-505です。この度は○○社の

製品をお買い上げ有難うございます。艦娘と…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴチン…

 

 

 

-頭部に僅かな衝撃を感知-

 

 

-異常ありません-

 

 

 

 

 

 

…殴られた。何故?

 

 

 

提督「だぁかぁらぁよ!!それはお前さんじゃなくて!『ただの製品番号』だろ!」

 

 

 

提督「お前さんの『名前』だよ!な・ま・え!あるんだろ?」

 

 

 

榛名「て、提督!いきなり頭を殴るなんて酷いじゃないですか!」

 

 

 

先程までニコニコと笑みを浮かべていた榛名が、私を庇うように提督と私の間に入る。

 

 

 

 

…名前…名前…

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