…名前…名前…
―なぁ、○○○?義手の調子はどうだい?ちょっと軽い素材を使ってな…
―○○○!!買い物付き合いな!もちろんあんたは荷物持ち!
―なによ?紳士はね、女性の荷物を持つものよ?
―○○○!!…あぁ、良かった…もう!
生きてたら返事をすること!死んでても返事をすること!
イ-505「」ボソッ
提督「ん?」
榛名「え?」
イ-505「いーご…イーゴです…『イーゴ』と呼ばれてました…。」
…
提督「イーゴ?変わった名前だな…。」
顎にその太い指を当てて
眉を顰(しか)める彼。
―イ-505?…長い!長いわよ!
―いちいち『イ-505醤油とって!』『イ-505肩を揉みなさい!』とか面倒よ!
―い の ごーまるご…い の ごーまるご…う~ん…
―あ!『イーゴ』!
あんた今日から『イーゴ』ね!
はい決まり!今から決まったわ!
―じゃあ今日から宜しくね『イーゴ』!
…私は…イーゴ…
榛名「よろしくおねがいします♪…い、『いーご』さん!」
提督「変な名前だなぁ…まぁ、今日からよろしく頼むわ。
それと着任初日で悪いが、
ちょっと確認したい事があるんで一緒に執務室に来てくれや…。」
イーゴ「はい…。」
…
執務室に入ると、ムッとした熱気に包まれた。
朝から閉めきっていたのに加え今の季節が
夏という事も災いした。
換気扇を回し、秘書艦の榛名と
対深海悽艦兵器、『イーゴ』を迎え入れる。
そして、予め本営から
受け取っていた彼に関する資料に目を通す。
実際に会ってみると
事前に得ていた情報と些か食い違う点が
見受けられたため、
その確認だ。
まずは外見のデータ。
提督(艶のある黒髪に…
下ろし立ての長袖の白シャツ
下半身は黒いタイトパンツ、
革靴か…)
提督(左目は確か、
赤い瞳の義眼と聞いていたが、
普通の黒目じゃないか?)
榛名「イーゴさん、お茶って飲めるんですか?」
提督(んで、白い手袋か…その下は義手だったか)
イーゴ「味覚はありませんが、
人の消化器官は残ってるので
消化吸収には問題ありません。」
唇に指を当て
表情を曇らせる榛名
榛名「味覚て…味がわからないって事ですか?」
提督(ふむ…)
提督(そしてベースとなった『深海悽艦』は
イ級…ランクは駆逐艦か…
まぁいきなり戦艦級のものが来られても、
こっちが困るがな…)
イーゴ「戦闘には不要ですので。)
無表情で答えるイーゴ。
提督(俺たちにはちょうど良いよなぁ…)
提督(戦力や、遠征任務の補助になるのは有難いが、
やっぱり『深海悽艦』を用いてる点で、少し不安が残る…万が一という事も無きにしもあらずだからな。)
提督(いざというとき時に俺たちが対処できるレベルじゃないと。)
榛名「そうですか…
香りが良くて美味しいお茶なんですけど、
榛名ちょっと残念です…」シュン
イーゴ「…」
―女の子が悲しい顔をしていたらどうすんだっけ?
…ポスン
榛名「!?」
提督(ふん?榛名の頭に手を?)
イーゴ「ヨシヨシ…」ナデナデ
榛名「あ、あのこれは?」
イーゴ「女の子が…悲しい顔をしていたら」
イーゴ「こうすべきだと、教わりました。」
提督(…)
提督(変なヤツだな)
…
提督(身長は、榛名と同じくらい…そんなやつが
頭を撫でるとこって…なんだかシュールだな。)
提督(にしても…こんな細っこいやつが本当に深海悽艦と渡り合えるなんて…いや、艦娘も似たようなもんか…)
提督「イーゴ。」
イーゴ「なんでしょう提督?」ナデナデ
提督「一心不乱に撫でてる所悪いんだが…」
イーゴ「はい」ナデナデ
提督「2、3質問したいんだがなぁ」
イーゴ「どうぞ」ナデナデ
提督「…やっぱりその撫で撫で止めてやったら
どうだい?提督気になるよ。」
イーゴ「?」ナデナデ
提督「いや『?』じゃなくてよ。」
イーゴ「榛名お嬢様はまだ
『困り顔』のようですが?」
榛名「///」ナデラレ
提督「そりゃ、撫でられ
続けられたら反応に困るがな。」
イーゴ「?」ナデナデ…
提督(『対深海悽艦兵器』てこんなヤツばっかなのか?)
…
イーゴ「質問とは?」
提督「やっと止めたか。うん、先ずはよ、
その左目だ。資料の写真だと赤い瞳の義眼だが?」
イーゴ「ああ、これ今は黒のカラーコンタクトはめてるんです。」
すると、イーゴは右手の手袋を外し、
シャツの胸ポケットに入れた。
袖から先は、人の手と同じ五本の指のシルエット、
同じ関節の数。
だが人の物と呼べるのは『形』だけ。
人の手は、鈍い光沢なんて持たない。
黒い義手がそこから覗いていた。
人ならざる者の掌。
慣れた手つきで左目に指をやり、
グリッと瞳の表面を撫でると、
黒目が外れ、
ウサギのような赤い目が現れた。
提督「…」
榛名「 ! 」
両の手のひらを口に当て
目を剥いて
榛名が驚きの表情を浮かべていた。
有機物と無機物の入り雑じった
生き物と呼べるかどうかも怪しい生き物を
初めて見たのだから仕方がない。
提督「そうか、カラーコンタクトだったか。
今その目には『何が』見えている?」
イーゴ「今は、デフォルトで『脈拍』です。」
イーゴ「普段はあまり多く情報は出さないようにしております。生活においても、戦闘においても視界を妨げるのはよろしくはないので。」
提督「そうかい。」
提督「そのゴツい箱の中はお前さんの『獲物』かい?」
イーゴ「『獲物』とは?」
提督「『兵装』か?って事だよ。」
イーゴ「はい、これ等は私の通常戦闘時における
装備一式です。」
イーゴ「私は旧式のため、新製品用の兵装とは
互換がとれないので、どうかご了承下さい。」
提督「なに、十分さね。にしても装備はそれだけかい?」
イーゴ「いえ、最低限の装備として、この義手には
『射突機』が装備されています。」
イーゴ「こちらの、重火器で殲滅出来ない場合や、
弾薬節約が目的ならば
この『射突機』で止めをさすように仰せつかってます。」
説明を受けたが、この要は
この『射突機』とは『くぎ打ち機』のような武器らしい。
イーゴ「ただ『質量を打ち出す』という簡単な構造故に
耐久、信頼性については開発班のお墨付きです。」
提督「そりゃ良い。」
提督「実戦の時にでも見せてもらおうかね。」
イーゴ「はい」
提督「質問は以上だ。今日のところはもう、休みな。」
提督「明日から、またここの説明してやるよ。」
提督「榛名、こいつを部屋に案内してやれ。」
榛名「は…はい!イーゴさんこちらへ♪」
榛名に案内され、自分の装備の入ったボックスを持ち上げ、
執務室をあとにするイーゴ。
提督「ああ、それと今夜1900に食事会開くからな!来いよ!」
イーゴ「…食事会…ですか」
提督「自己紹介も兼ねてな、料理はウチの娘共が作ったんだ。」
榛名「榛名達が腕によりをかけてお作りしたんですよ♪」
榛名が腕を曲げて、いわゆるガッツポーズを取るが
その可愛らしい笑顔はその直後、それを曇らせた。
榛名「あ…」
イーゴ「…」
そこまで言ってから、先程の事を思い出したようだ。
イーゴは…味覚が無い。