ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
特訓を終えたンフィーレアはレベルが49という結果。
驚異的な成長により第四位階の魔法にも手が届くようだ。
次はラキュース。と考えていたがお腹が大きくなってきたのでさすがに特訓は断念した。
本人も
カルネ村から何人か村人を招き、実験農場を作ってもらうことになった。
主に施設で出すための食材。
普通は街で買い込んだものを調理するのだが、開いている土地を友好的に利用する観点からも有意義と思い、挑戦してみた。
寝泊りは宿泊施設で出来る。
真蒼の薔薇の残りのメンバーについては特訓は無しでティアとティナが進んで提供してくれる事になった。
ガガーランはティア達に止められた。それは孤高の戦士。謎のままにしよう、と。
強化に関しては弱いままの方が経験値が多く入るだろうから保留となっている。ただ、筋力はついているので敵は倒しやすくなっているだろう。
それと妊婦の為の食事類や必要な物も用意したり勉強したりしなければならないだろう。
出来るだけ王都に戻り、ラキュースを
もとより父親としての愛情は皆無だが、
合間に夜間、貧民街に行き廃墟を寝床にしている者や声をかけてくる者達を回収していく。
それは他の都市でも同様に。
帝国の他の都市では領主の家に忍び込む練習までするようになった。
得られるものは多い方がいいし、面倒な手続きは最初だけだ。
そうして一ヶ月が過ぎれば世界征服が完了したのではないかと錯覚してしまう成果が広がる。だが、世界は広い。
竜王国の都市の分は終了し、侵攻のクエストはこれで終了とする。
鉱物資源も溜まってきたのでお詫びの意味も込めて各都市に進呈していく。
エ・レエブルも同様に。
レエブン侯には改めて宝物庫を見せる。
「宝物庫の正体ともいうべき姿です」
天井どころか部屋からはみ出るのでは、という膨大な量。それは見たことも無い金貨の量だ。
「……黄金は人を惑わせるな」
飛び込めば生き埋めになるだろう。
壁際の棚も隠れているが、納めきれないほどの資源が収蔵されているらしい。
「各国には見せておいたので黄金の役割は比較的、理解されております」
「膨大な代償を考えれば仕方が無いか……」
「一部の鉱物資源は国の発展の為に渡しています。ということでレエブン侯の番という感じです。それと執務室の椅子に座らせて頂けますか?」
嫌な予感はいつもの事だが、国が今のところ安定している今は大きな事態にはならないだろう。
これだけの量の金貨も大都市全てを賄うには二十倍ほどの規模が必要だという。
大雑把なので百倍かもしれない、と付け加えられた。
それだけ消費される金貨が多いという事になる。
「一通りの都市が終わったから、というだけですが。私としては元オリハルコンの冒険者付きがいいですね。珍しいクラスを持っているようで」
「戦力ではないのだろうけれど、既に驚異的な気がするな」
「未知の可能性には多くの素材が必要ですから。魔法の一覧表も単独では出来ません。資料集のような物も作っております」
作っている資料の一部をレエブン侯に見せる。
「戦士のクラス。……細かいところまで」
「今、手に入れている素材の大本は別に殺す必要は無いんですよね。必要量の肉体があれば充分なので」
戦士や魔法の研究結果のような資料だった。
闇雲に訓練して強くなるだけではなく、知識の面からも貴重な資料になるかもしれない。
「戦わない国になれば無用の長物となるものですが、亜人の国がある以上は人間の国に平穏はまだまだ来ないようです」
「人民全てとなるとこの施設では納まりきらないだろうな」
「都市一つ分があればいいのかもしれません。空に持って行く場合、重すぎても困りますから」
自分の領地に住む人間、というか家族は提供できないが未来への希望としてヤントラの願いを叶える事にした。
ヤントラは一方的な搾取の前に話せる事は伝えた。
アバターが望む事を制御する事はもはや出来ないのかもしれない、そんな考えも無いわけではない。
そして、最後の王都が残った。
資源の増加に
一部はナザリックへ送られる。
試験農場は順調に進み、数人ほど寝泊りする人間が増えた。
ブレイン達を再度、招き大量討伐後は複数体の
打撲しても回復魔法。それを数時間繰り返させる。
モンスターより強いはずだが、素早さなどは人間では追いつけないのかもしれない。
多数の武技で応戦し、訓練を終える。
本来ならば数ヶ月は続けるところだが、急激な能力向上は身体に妙な負担を与えるかもしれないので、やめることにした。
クライム以外は搾取するが後日には彼らの部下も鍛錬に挑戦する。
それぞれアンケートを取ることは忘れない。
ヤントラ自身は彼らの強さより何を得るのかに興味がある。だから、自分より強くなってもさして問題は無い。
レベル的には40台ほど、かもしれないがロ・レンテ城に行く必要があるだろう。そんな矢先にお忍びでラナー王女が『マグヌム・オプス』に訪れた。
「どんなおぞましい施設になっているかと思って見学に来ました」
目を輝かせるラナー王女。
「空中都市に向けての下準備、というところで……。まあ献体がたくさん並んで賑やかになっていますよ」
お供はクライム一人。
それでも以前より
力をつけた騎士という感じだった。
今回は地下一階ではなく地下二階に下りていく。
上の階より圧迫感は無いのだが、手狭な雰囲気は気になってしまう。
「予備は理解できるのですが、複製から複製の方が良いと思うのですが?」
「大本の身体の一部はどうしても必要なので。複製からだと元の身体も複製となるので使い捨て扱いになってしまいます。あと、永遠に複製が出来ないおそれもあります。魔法の質や複製の質が劣化してしまうとどんどん崩れてしまうような……。オリジナルの献体だけはしっかりと保存する必要があるのです」
「なるほど。それは厄介な問題ですね」
無限に作物が取れれば誰も苦労はしない。
無限に再生できれば尚のこと。
それが出来ないのは出来ないなりの理由があるからだ。
「新しい献体の入れ替えはきっと必要なのでしょう。それは将来的なことですが……」
各部屋を見せてもらう。
容器が複数置いてあるが眼球以外の臓器は見当たらない。
「最初は何でもやりすぎてしまいますからね。今はこんな程度です。
「これらは水ではないですよね?」
「はい。生物用の保存液です。しっかり洗浄した上で入れてあります。あと、特別な方法で中に居る者は窒息しないようになっていますが……、秘密です」
「それは素晴らしい。てっきり水死体ばかりになるのではと心配しておりました」
「それは私も悩みましたが……。あと、寿命ですね。これも難儀しました」
詳しくは言えない、または言いたくない問題があるとラナーは予測していたので尋ねなかった。
不老不死の技術は溶岩などに封じられるおそれがあったりするから、あえてその方法は取らないかもしれない。
容器に入っている人間は寿命というか生命活動を止める魔法が施されており、解呪しないかぎりは変化しない、事になっている。
解呪出来る人材が居なければ困るのだが、それは色々と模索中だった。
相手のことはちゃんと色々と考えてくれている事に素直に感心した。
ラナーは本題となる部屋。屠殺場に向かった。
宝物庫は話しで聞いていたので見るのはやめた。
「貴重な資源があれば頂きたい所ですが……。どんなものを頂けますか?」
遠慮しないで尋ねてみた。
「ちゃんと用意しておきました」
小さな箱をラナーに見せる。
中には小粒の塊が詰まっていた。それぞれ仕切りで分けられている。
「天然物ではない気がしますから、装飾品としての価値は低いかもしれません。素材アイテムとしては優秀です」
色とりどりの鉱物が輝いていた。
錬金術者に見せれば大金を出すほどの値打ちものだが、一般人には綺麗な宝石にしか見えない。
それはありがたく頂く事にした。
鑑定は後でも出来るので箱はクライムに持たせた。
他の鉱物資源はそれぞれの都市にも配られる予定で用意されていた。
問題の目的地である屠殺場は今は何も無かった。
広い空間のあちこちから『
「ここで兵士達がおびただしいモンスターと戦うのですね?」
「見世物ではないので兵士達が死なないように気をつけています」
「誰でも強くなれますか?」
「武器を持って戦えれば……。赤ちゃんはさすがに無理でしょう。一部の召喚モンスターは強さが固定されているので強くは出来ません」
召喚モンスターは倒しても経験値が入らないような気がしたが、思い出せなかった。
「分かりました。今日は私が特訓を受けたいと思いましたので、使わせて頂いてもよろしいですか?」
クライムは既に使用目的を聞いていたようなので黙っていたが握った拳に力が入っていた。
ラナーに危ない事はさせたくない気持ちがあったのだろう。
「構いませんが……、条件が一つ」
「身体でしょうか?」
「いいえ。……ロ・レンテ城に忍び込む事になるかもしれませんが、こっそりと謁見の間に入れるようになりませんか? 宝類は取りませんし、大事な書類は仕舞っておいて下さい」
「交渉が面倒くさくなったのですね。お気持ちは分かりますが……。それはそれとしてお父様……、国王を強化するとどうなるのでしょうか?」
「お歳のこともありますが……。想像が付きませんね。ジェネラル、という雰囲気とも違うような……」
実際にパワーレベリングしてみないことには分岐が把握できない。
「私なら
そういうクラスもあるかもしれない。
様々な条件を満たすものはさすがにヤントラも知りえないが、ラナーは良いクラスが出ない気がする。
「……私の部屋に潜伏させて差し上げます。ついでにメイドも貰ってください」
「あり……。お礼を言うのも変ですね」
「今更ですわ」
ラナーとヤントラは互いに苦笑した。
「国王を暗殺したりはしませんよ。献体としては魅力的ですが……。今更ついでですが、けっこう国を制圧してますね、私は」
バハルス帝国に竜王国。
単騎で制圧しているのだから自分の事なのに滑稽に思えた。
各都市も制圧。立派な侵略者かもしれない。
「王女が
傭兵の王女。没落国家ならありそうだ。
「中には変なクラスもあると思いますが……」
ラキュース辺りは
「クライムは地上で待っていた方がいいのでは?」
「出来ればお側に……」
「ここはお風呂くらいしかないし、食事どころは地上にありますからね。ここは全て宝物庫、という施設なので……。やることは一緒ですよ、クライム君」
それでも残るかもしれないので、まずは風呂場に控えていてもらおう。
食事に関しては庶民的なものしか用意できない事を告げた。
「無難なモンスターから。クライム君は風呂場で瞑想でもしているといい」
「王女のあられもない姿を見ることになるかもしれませんよ」
クライムは少し顔を赤くする。
そのことを失念していたからだ。
ここでの特訓がどういうものか、王女に耐えられるか、様々な事が脳裏をよぎる。
「まずは用意をしなければ」
手を叩いて合図を送ると何処からとも無く仮面を付けたメイド達が数人現れた。
明らかに扉を開けて入ってきた者が誰も居ない。初めから潜伏していたとしても何処に居たのだろうかと不思議に思うくらいだ。
「魔法と物理攻撃。どちらがいいですか?」
「物理攻撃ですね。それも
「引き返す場合は弱体化の為に殺さなければなりませんよ」
「……それは恐ろしいですね。でも、それでも構いません」
「分かりました」
食事は風呂場で温められる物になっているが、ラナーは構わないと覚悟を見せてきた。
「必ず睡眠は取らせますよ。徹底的と言っても倒し続けて強くなるにはぶっ通しでも一週間くらいかかると思います。そこから更に上となると数ヶ月は必要かもしれません。途中までは急激に強くなれるのですが、上を目指すのは意外と容易ではありません」
「はい」
ラナーの予定ではまずは三日ほど。
それから日をおいて三日ずつ、となっていた。
王国での行事などで出席しなければならないからだ。
クライムが風呂場に待機する事になるのだが
ここから小さなシモベや眷属は入れない。外からの侵入に対しては強固な対策が取られている。
一人で寂しくないように二人ほどメイドを待機させる。
話しかけても答えないので地上に上がった方が良いと一応は忠告しておいた。
あまりにも静かでは困るだろうから、一人は打楽器のようなもので音を響かせ、もう一人はダンスを披露する。決して騒音にならないように。
王国の伝統音楽を教え込んで再現してもらうことにした。
ラナーは返り血で汚れるといけないので服は脱いでもらった。
「クライムが出てこないなら裸で構いませんわね」
ヤントラの合図でメイドは風呂場の入り口に椅子を置いて待機する。
近くにラナーの着替えと換えの服や下着類が置かれる。
一糸まとわぬ開放的な姿となったラナー。
「城の中では出来ない姿ですわ。あはは、これから惨劇が始まるのですね」
「トイレは風呂場の隣りの部屋です」
「ああ、ここでも構いませんか? 開放的な場所で用を足すのは中々出来ませんからね」
昔はトイレなどという文化は無く、貴族はどこでも垂れ流しをしていた。
今でこそ下水道が完備され始めているが、村にある肥溜めのように溜まったら川に流すしかなかった。
悪臭が様々な病気を引き起こすので清潔な文化が求められた。
伝統は中々変えられない。
「掃除はしますから、お好きにどうぞ」
床はタイル張りだが踏ん張れないわけではない。
「では、遠慮なく」
ラナーは早速豪快に放尿する。
爽快感からか頬が紅潮していた。
続いて脱糞もした。
「いいですね。あはは、やってしまいました」
合図によって現われたメイド達により素早く掃除が
王女といえど人間である。生理現象には逆らえない。
何も知らない無垢な王女ではないラナーはすぐさま自慰行為を始める。
「あは。あー、早くクライムと結ばれたいですわ」
首輪をつけて大切に飼うのだから予行練習は必要かもしれない、など様々な事が脳裏をかすめる。
快感の波の後は軽く息を吐いた。
ヤントラは黙って大浴場に向かい、モンスターの用意をする。
今回は
軽く三十匹ずつ。
ラナーの武器はロングソード。
「あははは!」
楽しそうに武器を叩きつける様にラナーはモンスターに攻撃する。
無防備。それが分かっているからこそ出来る事だ。
普通のモンスターならおっかなびっくりで攻撃するだろう。
ラナーはバカな王女を
人に本性は見せないように暮らしている。下手をすれば自分自身も分かっていないかもしれない。
狂気の自分も演技。
「あは。もう動きませんね。では、次をお願いします」
「モンスターの体液は洗わせて頂きますよ。決して食べたり飲んだりしないくださいね」
「あら。それはそうですね。失念しておりました」
丁寧にお辞儀するラナー。
メイド達が彼女の側に寄り、素早く身体を拭いていく。
温かい湯を使っているので不思議と気持ちよい。
地面に転がるモンスターも鮮やかな手並みで掃除されていく。
数分後に同じモンスターが用意された。その合間に更に数を増やしていく。
武器がいいのか、面白いようにモンスターを切り刻むラナー。
続いて出てきたのは更に数を増したモンスターだ。
それらを次々と
だが、人間である彼女も疲労には勝てない。身体が重くなってきたように感じられた。
剣を振る腕が痛い。握っているだけで痛い感じだった。
「楽な特訓ではないようですね。クライム達はこれ以上に大変だったのですね」
ただ単にモンスターを倒すだけで強くなれるはずがないと思っていた。その謎が少し晴れた気がした。
感心している合間にも続々とモンスターが出てくる。
広大な空間とはいえ終わりが見えなくなるほどだという事に不思議と恐怖心を煽られる。
攻撃を一切受けていないのに戦闘不能になりそうな自分に驚く。
さっき出したばかりなのに失禁してしまう。
「どれくらい……、倒しましたっけ……」
百体は超えたはずだ。
それが数十倍の規模となってまだ控えているのだから、果てはあるのだろうか。
休むラナーにお湯などをかけてマッサージが施される。
剣を持って戦う事など殆どやった事の無いラナーにとって苦痛とも言うべき時間が始まろうとしていた。
これを三日もやり続けるのは拷問かもしれないと自嘲気味に思った。
短期間だからと侮った自分を
戦闘不能に陥るまで数分もかからなかった。
動かなくなったラナーをだっこして大浴場に運び込む。
「もう降参ですか。二時間しか経ってないのに。でも、頑張ったようですね」
「手が震えて……。身体の震えも止まりません」
手の感覚がおかしい。
なぜこんなに震えるのだろう、と。
「まずは休憩しましょう」
湯船に入れられた後、仮面以外は裸のメイド達にマッサージなどを受ける。
激しい運動などしたことの無いラナーにとっては重労働だっただろう。明日は物凄い筋肉痛になっているはずだ。
一時間の休憩のあと戦闘を開始する。だが、すぐにラナーは嘔吐した。
メイドが彼女の背中をさする。
慣れない運動に身体が悲鳴をあげているのかもしれない。それでもラナーは武器を奮い続けた。
一時間毎に休憩を挟んで。
五時間ほど経つと美しい美貌は無くなり、髪を振り乱す狂戦士の容貌になってきた。
とにかくモンスターを全滅させる事を目標にして。
動きは鈍いが確実にモンスターの数を減らす。
笑いも無く、言葉もなく。
三分後に休憩に入り、食べ物が提供されたが胃が受け付けないのか、嘔吐してしまった。
飲み物だけで精一杯だった。
「今日は諦めます……。気持ちよく眠れるように……。ラキュースがされたようにしてください」
「遠慮はしませんよ」
「では、また明日……」
そう言って疲れきったラナーは瞼を閉じる。
それから三十分はクライムに聞かせられない嬌声が大浴場に響き渡った。
身体を拭かれた後で服を着せられたラナーをメイドに持たせ、クライムを呼びつける。
死んだように眠るラナーに驚きはしたが慌てずに頭を深く下げた。
「一日いっぱいは無理だろう。また明日だね」
モンスター達は大浴場で待機させられ、屠殺場は既に何事も無かったように掃除された。
ラナーを地上の宿泊施設に寝かせて、消化の良い食べ物の用意はさせた。
宝物庫に戻った後は強欲を使う。経験値はラナーに渡ったようで殆ど集まらない。
こういう管理の出来る者も配置しておかないといけないのだろうが、地上は警備が手薄だから色々と悩むところだ。
次の日の朝、地獄の筋肉痛がラナーを襲う。
寝返りを打つだけで痛い。腕も動かないし、トイレにも行けない。
起き上がる事ができない。
クライムの手伝いでも身体を折り曲げる事すら難しい。
「こ、こんなに辛い事だとは……」
「日ごろから鍛錬していなければ辛いですよ」
兵士たちは最初に体験する苦しみなので筋肉痛が起きないように鍛錬する事の大切さは知っている。
筋肉痛の状態では帰るに帰れない。
城では大騒ぎになるだろう。
さすがに演技で誤魔化せるような状態ではない。
無理に身体を動かそうとすれば全身の骨が砕けるような激痛が走る。
冷や汗が出てしまう。
ラナーを寝かせてクライムはヤントラを探す。
施設の一階部分は静かなので二階に向かう。
執務室にヤントラは居たがクライムの入室には特に何も言及せずに出迎えた。
「勝手な入室をお許しください。ラナー様が筋肉痛で動けないのですが……。今日の特訓は中止でしょうか?」
「無理して続けた方がいい。経験が積みやすくなる。身体が壊れることを心配するのは従者として当然だが、特訓は続けるよ。それよりも王女の側を離れたら駄目じゃないか?」
「んっ! そうですね。ですが、お手柔らかにお願いします」
「優しくしても強くはなれないよ」
ヤントラはクライムと共にラナーの元に向かう。
この施設は全てヤントラが命じた警備体制が敷かれている。そうそう勝手な振舞いは出来ない。
だからこそ一階部分の鉱物資源には
それどころか大型倉庫に保管されている箱も荒らされていない。
筋肉痛で動けないラナーに消化の良い食事を与え、抱っこしたまま地下へと連れて行く。
クライムは例によって風呂場の中で待機する事になった。
鍛錬自体は風呂の中でやっていても構わないが物は壊さないように言いつけられた。
ラナーの方はなすすべなく裸にされて放置。
メイド達がやってきて痛む身体を揉み解してきた。
「……いたた……」
それを数十分も続けられると身体の痛みが消えていった。
「出来なくても数をこなしてもらいます。ちゃんと休憩は挟みますよ」
言葉は厳しく聞こえたが適度な運動で痛みはどんどんほぐれていく。
「二匹ずつでいいですよ」
「……頑張ります」
殴ったり蹴ったりの特訓だと思っていたが指導は意外と優しくてありがたかった。
二匹といわず三匹は倒した。
普段は武器など使うような暮らしはしていないので大変だった。
舞踏会のダンスより優雅さはかけるが少しずつ身体が武器に振り回されずについていけるようになる。
ラキュースは今は妊娠しているから特訓は出来ないだろうけれど、優雅な剣舞を披露してくれるかもしれない。
いずれ私を殺すために。
案外、複製を切り殺したら気が晴れてしまうかもしれないけれど、とラナーは苦笑する。
それにしても楽しい作業だと思う。
生き物を殺す事が。
冒険者は命を奪うことに慣れているから強いのだろう。
兵士たちは命の奪い合いに不慣れなところがある。
当たり前だが農民に人殺しは無理だろう。それがたとえ訓練されたとしても。
「あは、あははは」
身体が慣れてくると楽になってくる。
一撃一撃はまだ重いけれど生物の肉体を裂く作業は身体全体に響いてくる。
だが、すぐにラナーは嘔吐する。
気持ちと身体が合っていない。
一匹倒すごとに身体が悲鳴をあげる。
気が付けば意識を失っていた。
すぐに気が付いて起き上がるが自分の身に何が起きたのか、身体を触って確かめてみるが分からない。異常も無いようだが。
その後、頭から温かい水がかけられる。
「あら、私は……気絶していたのですか?」
「三分ほどです。普段やっていない事をしているのですから。休み休みで構いませんので」
メイドにタオルで顔などを拭かれるラナー。
顔以外も拭かれているが丁寧な作業は気持ちが良い。
軽く深呼吸した後、作業を開始する。
休みながらとはいえ百体も続けていると意識が飛びそうになる。
気が付けば自慰行為しながらモンスターを倒していたり、痴態が酷くなり、危うく
途中途中でメイドに止められていなければ危ないところだ。
単純作業だからこそ精神を保つのが大変なのだと思い知る。
笑いが止まらなくなったり、ぶつぶつと呟く自分。
短い時間とはいえ過酷な特訓だった。
何が辛いといえば終わりが見えないということと精神がどんどん別方向に持っていかれるということ。
孤独であり、助けが来ない。側にメイド達が居るのにヤントラを含めて返事が帰ってこない。
静寂がとても恐い。
何度失禁した事だろうか。便は既に出尽くしている。
合間に水分補給しても真っ直ぐに尿となって出て行くようだ。
失禁するから服などが着られないのだろう。
それでも何か食べないと衰弱してしまう。
一時間後には泣いている。生理現象だから仕方が無いのかもしれない。
何度目かのお湯かけ。これが身体に優しい温度で落ち着く。
「……ここまで自分を追い詰めないと強くなれないものなのですね」
「経験にならないからです。死んでは弱体化し、死んでは弱体化を千回ほど繰り返せば気にならなくなりますよ」
千回。
死をそこまで体験したことは無いし、一度も死んだ事は無い。
気が遠くなる。
生き返れると分かっていても自分は十回ほどで蘇生を拒否するかもしれない。
死んだままの方が楽だろう。
「ラナー王女に死を体験させるわけにはいきませんが、一日頑張って下さい。他のモンスターも混ぜておきましょう」
「……終わりが……、全然見えません」
「見たいのでしたら……、見せてあげましょう」
メイドに身体を拭かれた後、ヤントラに抱きとめられた。
剣を持つ手の上から握られる。
「いいですか? しっかりと剣を握っててくださいね」
「はい」
ヤントラはラナーを抱えたままかける。
ザクザクザクと面白いようにモンスターが切り裂かれていく。
手に感じる断続的な手ごたえ。途中でボキンという音も聞こえた気がした。
それは信じられない攻撃だった。
いとも容易く大勢のモンスターが倒されていく。
一匹一匹倒すのに苦労していた自分の非力がよく分かる。
全てを討伐するのに一時間。
自分だったら数日はかかっているかもしれない。
これが実力者との差なのだろう。
「……終わってしまった……」
「辛い作業をよく頑張りましたね。明日はもう少し少ないモンスターにしますね。ただ、強いので一匹倒せるかどうか……」
一匹とはいえ強いモンスターなのだろう。
ラナーは全身が震えていたが顔はクライムに見せられないぐらい歪んでいた。
口角は上がりっぱなし。
身体がおかしくなったのか、モンスターが居なくなった途端に快感が押し寄せて潮吹きが始まる。
生きていることを全身全霊で祝福するように。
自分はまだ生きている。
それに深く感謝しなければならないだろう。