※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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H-8 セバスとツアレ

 地上の研究施設の土台部分が完成し、建物の打ち合わせをしつつ幼いわが子の面倒を見る。

 さっそく武器を持たせて雑魚を倒させる、という事は出来ないので父親らしく育ててみる。

 母親らしく、でもいいのだがアバターとの間に出来た子供は未知の能力などがあったりするのだろうか。

 その間にもリイジーには数千体のモンスターを倒してもらった。

 よくよく考えれば数千体というのは適当だ。正確には七千五百二十三体だったのかもしれない。

 アンケートを取ってもらえれば終了だ。

 欲望の塊のような探究心を持っているから比較的、年齢に似合わず成長したかもしれない。

 多種多様なクラスではなくクラフト系、錬金術系をしっかりと延ばすタイプなので研究が始まれば結果が期待できるかもしれない。

 気が付けば下火月(九月)。時が立つのは早い。

 三日ずつ地下にこもっていると三倍早く世の中が流れてしまう気がする。

 魔導国の噂話は聞かないがどうなっているのだろうか。

 次の戦争への準備を整えている、ということも聞かない。

 シズへの礼も兼ねて色々と用意もしなければならないだろう。

 地下は一段落着いたし、拡張も考えておかなければいけないだろう。

 エンリとンフィーレアには薬草類や様々な植物を大森林で得られる範囲で取って来てもらうことにして日々を過ごす。

 あくる日、ナザリックの巨大図書室(アッシュールバニパル)にも行って様々な物品を注文する。

 空飛ぶ建築物の造り方や原理なども尋ねておく。

「それにしても……、これは興味からなのですが……」

 司書長の言葉にヤントラは頷きで答える。

「随分とご注文されますが……。それほどまでに必要なのですか?」

「必要かどうか分からないな。……足りなくなるから追加注文しているだけだ。だが、まあ……どれだけ必要か、などは考えたくないな……。気が付いたら凄い数に増えていた、という驚きが欲しい」

「好奇心……、ふむ。羊皮紙もあるだけ必要という事もありますな」

 減り続ける資源は増やさなければならない。けれど、どこまで必要かと問われれば司書長も答えに窮(きゅう)するだろう。

「今の調子では五千とか一万とかになりそうだ。こちらにアイテム作成に特化したものが居ないというのも原因だが……」

「出来る限りご用意いたしますが……。膨大な数はやりがいがありますな」

「それは心強い。指輪同様期間はそちらの都合でいい。……謝礼用の資源も出来る限り用意するよ」

「ありがとうございます」

 料金は前金なのでシモベ達には夜間に来てもらうことになっていた。

 用意は既に整っているのでヤントラは品物が出来るのを待つだけだ。

 鍛冶師への依頼も同じようにやっておく。

 魔導国となって一番の収入源はヤントラのみ。

 一通りの注文が終わり、第九階層に行き、メイド達を抱きしめていく。

 愛おしい存在である事を忘れないために。

 さすがに毎回、全員を抱きしめる事はしない。目に付いた十人程度だ。

「毎回の事ながら申し訳ない」

「……いえ。ナザリックに属するものを大切に思いたいというお気持ちの現われなのですものね」

「地上の暮らしは大変なんですか?」

「……外に拠点を持つとその地域を中心にものを考えてしまうからね。この世界でユグドラシル由来で知っている場所はナザリックだけだから……」

 新しい生活を始めたとしてもナザリックは故郷のような存在。それを無くす事は出来ないし、したくない。

「建国してから随分と経つはずだが外部の人間は入れていないのか?」

「第六階層に幾人か住まわせているようです。この階層と第十階層は会議室や重要な会談にしか使われないと聞いています」

「この階層にたくさんの住民は無理ですよ。ラキュース様やツアレ様のような特別な事情でもないかぎり」

「無理にナザリックに住まわせる必要は無いんだけどな。というかトラップだらけの階層に住まわせるのは危険だろう」

 ヤントラの言葉にメイド達は苦笑しつつ頷いた。

「私のイメージではナザリックの周りに街を配置した都市国家を形成すると思ってたんだが……。エ・ランテルで満足しちゃったのかな?」

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国という長い国名になっているが街並みは無く、ログハウスが一つと霊廟らしき石造りの墓地のようなものがあるくらいの寂しいありさまとなっていた。

 活動拠点の殆どは城塞都市エ・ランテルで行(おこな)っているらしい。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 地上に戻ったヤントラはセバスと対峙する。

 一番の恩人が作り上げたNPCであり、大切な存在の一人。

「どうかなさいましたか?」

「セバスを手に入れたいと思ってな。恩を仇で返すような方法しか浮かばないのがもどかしい」

「……仲間に引き入れる、という意味でしょうか?」

「仲間かどうか……。言葉のままだ。一部の肉片を再生させて持って帰る、という感じだ」

 セバスの眉が軽く動いた。

「肉体的に、という意味でしたか……」

「忠誠心を損なわずに手に入れる良い方法だろう? 皆殺しにあう前に集めていたら施設が手狭になってきた」

「……それはまた……、ですが、再生された者……でしょうがどうなっているのですか?」

「容器の中で眠っている。軍勢を作る気はないが……、新天地に連れて行く方法を模索している」

「新天地とは……。例えば?」

 セバスはヤントラに冷たい飲み物を出して話しを聞くことにした。

 ウソをつかないというよりは正直者の人柄であるヤントラは嫌いではない。

 本来ならば秘匿されるべきもの、のように聞こえる話しも平然と喋っている。

「空にある月だな。空中は重量などの問題があるし、材料が分からない」

「月ですか」

「領主とか居ないから好きに開発できるだろう。……どうやって行くのかと、戻れるのかは不明だが……」

 規模の大きい計画に少し感心する。

「前にセバスに言ったと思うが、千年後も二千年後も楽しい世界だと言える様に色々と行動してみたい。人である私はまず寿命という縛りをどうにかしなければならないのだがな」

「バスパ様なら千年後もお元気でいらっしゃる予感がいたします」

「そうかな。私の子孫が色々と迷惑をかけるということもあるかもしれないな。先のことは考えても仕方ないが……」

 千年後より月をどう開発するか。

 色々と考えても職人や資材を持っていかなければならないし、問題は残っている。

「最初の話しと合わせますと……。仮に私が二人になり命令系統はどうなってしまうのでしょうか?」

「互いに本物と言い出すおそれのことを言っていると思うが……」

「はい」

「混乱させてしまうと私も困るのだが……。本体であるセバスは今まで通りで、再生された方は別個の存在として別れて行くだけだ。記憶を宿らせる魔法というのは……、あったかどうかは定かではないが……、本体が死なないと駄目、というものなら知っているが……。聞きたいか?」

「後学の為にお教え願えれば、と思います」

 同じ記憶が宿る個体が増えるわけではない、というのが分かって少し安心した。

 知っている限りの事をヤントラは説明していく。

 危険な魔法かと思っていたが都合よくは行かない事が分かった。もちろん、それが正しいかどうかは立証されていないので現時点で結論は出せない。

「では、命令次第ではナザリックを襲撃する事も可能ですね」

「そうなるだろうが、故郷を滅ぼしたくは無いな。だからこそ、月に新天地を求めるわけだ」

「なるほど」

 この世界はアインズに任せて星々はヤントラが開発する。

 移動におそろしく年月がかかるから簡単にはいかない。

「ですが、かなりの戦力が集まっているとお見受けいたしますが?」

「人材豊富な方いいが……、セバスも戦力と見るか?」

「敵性体が存在する限りは……。もちろん、平和的な利用だとは思いたいのですが……」

 ヤントラに限って戦力の増強はありえないと思う。

 自分の創造主である『たっち・みー』に見出された存在であり、ナザリック地下大墳墓に対して何の恨みも無い人間だ。

 ここ最近では資材まで提供してくれる。

 一時貸与された世界級(ワールド)アイテムも返還している。

 ヤントラにナザリックを攻める理由が浮かばない。

 アインズと仲が悪いとは聞いているが、建国の邪魔はしていない。むしろ自治権を平和的に得る方法を模索してくれた人だ。

 ツアレの事でも世話になった。

「疑り深くなっているようですね」

「責めはしない。それでいい。敵らしく私に身体を提供してもらおうか。一緒にツアレさんも」

「ツアレもですか!?」

 セバスにしては珍しく声を荒げた。その事にヤントラは苦笑する。

 大切な人が出来たのだな、と胸の内で祝福する。だが、それを自分は邪魔しようとしているようで申し訳ない気持ちになってきた。

「……命は取らないぞ。さすがに世界全てとなると保管する敷地を大幅に拡張しなければならない。一億人を目標とするのもいいかもしれないが……、管理が大変だ」

「膨大な人材を保管するだけ、というのはもったいない気がしますね」

「宝を並べるのと変わらない。その為に大量の保存液を手に入れているのだから」

「……ちなみに今はどれだけの人数なのでしょうか?」

「モンスターも含めて数千体を超えたかどうかだな。ちゃんと数えてはいないが……」

 数千体。それはセバスの基準では少ない気がした。

 もちろんモンスターを含めた数としては、だ。

 百万人単位かと思っていた。

 大都市の人口は少なくても数百万人。それがいくつかあるわけだから一千万人以上居てもおかしくはないだろう。

「それくらいなのですか?」

「置く場所や容器の数の都合もあるから一気に数万人とはいかない」

「……それもそうですね」

「数日間も放置できないし、実際には色々と大変だよ」

 アンデッド系はそれほど手間はかからないがたくさん集まると強いアンデッドが発生するかもしれない。

 勝手に変なモンスターが現われると施設が荒らされるので管理はとても大変だ。

「住人は必要だろう。集められるうちに集めているだけさ」

「その方法が肉体の一部を手に入れる……。実際に集められているのでしたら信じるしかないのでしょうが……」

 それを可能とする事が本当ならば凄いことだろう。

 色々と疑問点は残るのだが、実際に見てみるのも悪くは無いだろう。

「仮に私だと……、刃などは通じないおそれがありますな」

「まずは無難に眼球から。それから適度に肉体を切り出す方がいいのだろうが……。コキュートスのように全身が頑強だと難儀するな。人間であれば簡単なのだが……」

「悲鳴を上げられると思いますが?」

 聞いているとデミウルゴスが喜びそうな気がする方法に聞こえる。

「眠らせられれば問題は無いし、悲鳴は出来る限り出さなくていいように配慮している。たまに即死耐性を忘れるが、今まで失敗した事はない。蘇生魔法もある」

「安らかなうちに作業を済ませられるのですね。それは聞いた事も無い妙技のようですな」

「誰も試した事が無いからだろう。痛みによるショック死をさせては困るからな。配慮は欠かさない」

 部位の搾取という話しなどを小耳に挟んだ程度だが本当のことのようだ。

 切り取って再生させているのだろう。

 保存液などの中に実際に眼球などが入れられて飾られている。

「そのお話しでいくと……、私の番が回ってきたということですな」

「特にセバスは側に置きたい存在だしな。……問題が無いこともない」

「どんな問題でしょうか?」

「独自に思考して動く君達を大切に思えなくなる事だ。自分の命令どおりに動くだけでは人形と変わらない。そうならないようにメイド達を愛でたりしているわけだ。階層守護者でも抱きしめていいなら抱きしめたいところだ」

「人形では駄目なのですか?」

「虚しくなる。寂しくなるんだ。えもいわれぬ孤独感ともいえる。今は変な自我をもたれるわけには行かないが……。本物と偽者の区別は付くように人格も考えなければならないだろう。大半は容器の中で眠ってもらっている。起きたら起きたで大混乱だ」

 安易に部下を増やしているわけではなく、色々と模索しているのだと知り、感心した。

 本物と偽者の問題は残るだろうが、それも考えいるようだ。

 懸念はある。それはヤントラも承知しているようで安心した。

「私の存在を知るものは今のところナザリックだけだ。しかも、仲間ではなく知り合いというだけ。メンバーは仲の悪いアインズだけ。知らない世界に一人だけ放り出される孤独感は……、なかなかに辛いものだ」

「………」

「今のところ忠誠心まで植えつけた者は居ないから人形と大差ない。彼らを血の通った生命体として存在させるのも今後の課題だろう」

「それは至高の御方々が我々を創造する事に匹敵するような事に聞こえますね」

 ヤントラは『至高の御方々に連なる者』という位置づけになっているので命の創造に関しては自分たちの主を侮辱するような行為だのおこがましいだのは言わないし、思わない。

 当然の権利として受け止める事ができる。

 まして自らの創造主でありアンイズ・ウール・ゴウンを作るきっかけとなった発起人の友人をけなす事はセバスには出来ない。

 関知しないアンデッドが自らを死の王だなどと言うのとはわけが違う。

「外見は借り物だが……。やることは創造主の真似事だな。……だが、仕方が無い。アインズは私を邪魔者と思うだろうから、自分から出て行くしかない。その代わり、この世界の生き物の大半は持っていく。……ということにしているだけだ」

「出て行く……。とは、寂しい事をおっしゃいますね」

「帰れたら帰るよ。行ったり来たりくらいはさせてもらいたいな。というか往復が出来るのかは分からないが……」

 敵対しない、という意味では理に適っているのだろう。

 自ら引き下がるヤントラにナザリックは何も出来ない。いや、何もしないか、特に何も思わずに追い出すか。

 支配者は少なくともヤントラを目障りだと思っているし、自分たちはそれに従うだけだ。至高の存在に近しい者だけに無下に扱えないけれど。

 支配者の命には逆らえない。それがナザリックの絶対の掟のようなものだ。それに異を唱えるものは、ほぼ居ないだろう。

 自らの信念が勝らない限り。あるいは処分されてもいい理由が出来た時など。

「そのお心遣い、このセバスの胸にしっかりとしまっておきます」

 セバスだけではなく、アルベドやユリ達も同じく胸にしまうだろう。

「そうか。しかし、敵性勢力か……。ギルド武器を壊せばナザリックは崩壊するし、君たちを倒しつくすと風呂場とかアイテム製作がなくなってしまうし……。普段どおりの活用が一番いい気がするのだが……」

「それはバスパ様に限ったお話しかもしれません。外部の人間をそれほど招待しているわけではありませんが……。蒼……今は『真蒼の薔薇』でしたね。彼女たちは招待する予定になっていたはずです」

 この話しはアインズ本人から聞いていたのだが、予定は予定で数ヶ月経っても目処が立っていない気がした。

 国家運営が大変なのか、詳しいことは分からないが凱旋で顔合わせが出来たのなら、次はある程度の詳細な情報は提供してあげてほしいところだ。

 ナザリック意外にも知性あるモンスターが居て間違う可能性がある。

 少なくとも階層守護者と戦闘メイドくらいは情報共有すべきかもしれない。

「敵らしく……、戦うよりは素直に身体を下さい、と言う方が部屋を汚さずにすむ」

「主のご命令ならば即座に、と答えているところでありますが……。自害以外では見当もつきませんね」

 セバスが疑問に思っていると拷問器具を取り出す。

「これで目を引っこ抜く。顔をあまり傷つけずに。後はスパスパと斬るだけ。肉体の量が多ければ楽なのだが……」

「離れた部位に治癒魔法をかけると消えるとデミウルゴスは言っておりましたが……」

 そもそも切り離した部位はそのまま死ぬから再生することなど出来るはずが無い。

 部位を加工すれば消えない事は報告されているが、人体を複製とはどういう事なのだろうか。

「錬金術師(アルケミスト)系の職業(クラス)を持つ私には問題の無いことだ」

「あ、アルケミスト……、と言いますと『錬金術師』ですね」

 複製を生み出すにはうってつけのクラスだ。

 悪魔系に錬金術に長けた者は居ないはずだ。

「複製や標本作りには最適なスキルを持っていましたね。それならば納得できます」

 この世界に来てスキルの再確認が出来なければ忘れたままになっていただろう。

 他にも色々とクラスとスキルは持っているのだが、必要の無い時はすぐに忘れてしまう。

 とはいえ、ヤントラ自身は職業(クラス)を意識しないで本能のままに行動しているので、言い訳とも言えるかもしれない。たまたま持っていただけだし。

 これもどうして持っているのか分からない職業(クラス)の一つだ。

「方法がえげつなく、恩を仇で返すような形になっているのが申し訳ないところだ」

「相手の肉体を必要とするのでしたら仕方がありません」

 本体が死亡するとたちどころに複製に記憶が宿る。それが遠く離れている場合は戻るのが大変だ。

 そうなるとアインズが驚いてしまうおそれがある。

 蘇生魔法をかけたのに死体に変化が無ければ不審に思うだろう。

 セバスの脳裏に色々な事柄が通り過ぎていく。

「うっかり殺されて私のところで復活した場合はちゃんと返すよ。また保存しなおすけど……」

「それならば安心……と行きますかな? 色々と問題はあるようですが……」

 そもそも論で言えばヤントラがナザリックの一区画に留まる事を許可すれば恐ろしく頼もしい戦力となるだろう。

 少なくとも守護者級の実力者だ。

 複製の技術があれば尚更戦力としても今後の繁栄などにも多大に貢献する事ができるだろう。

 デミウルゴスならば仲間に引き入れる可能性もある。

 人間種であることが最大の壁。それに支配者は仲間にしたくない様子だ。

 今は約束を守らせた上でナザリックの利用が許可されている形だ。それでも支配者としては妥協した結果なのかもしれない。

「今は保管のみなのですか?」

「一部は稼動している。自我を持たせないから寂しいのだが……」

「稼動できるのですか?」

 錬金術師(アルケミスト)のスキルの中には可能に出来るものはあるだろう。

「潰しの効く複製だけな。最初はかなりもったいない事をしてきた。あれで周りの存在を大切に思えなくなるのではと少し恐くなったよ。この話しはこれで終わりにさせてもらう」

 新天地は人形だらけになるのだが、対処方法も計画中だ。

 デメリットを考える事は大切だが、そればかりでは精神的に疲弊(ひへい)してしまう。

 飽きやすいヤントラにとっては割りと大ダメージになる問題かもしれない。

「試してみるか。お腹をちょっと……。手足だと部位としての再生が途中で止まるおそれがある」

 首が一番最適だ。

 内臓類は既に試しているが身体全ての再生は出来なかった。

 再生は部位によって差があるようで身体全体を再生するには生命力の高そうなところが最適だ。

 あまり身体を切り刻むような実験はしていない。それはヤントラの良心かもしれない。

 ちゃんと実験しなければいけないが効率化ばかり考えていたために細かい部分は試していない。

 とにかく、献体を集めなければ、というアバターやタレントによる強迫観念でも働いたのかもしれない。

 

 後学の為にとセバスはヤントラの要望に応えることにした。

 自分の目で確認する事は大事だろう。

 どのような方法を取るのか知りえればナザリックの将来の役に立つかもしれない。

 技術的に可能な存在が居るのかは分からないが。

「見学するとしても建物が汚れてしまいますね」

「タオル類は持ち歩いているよ」

 床に掃除用具まで並べられるとセバスは改めて感心する。

「複製は本物と偽者の区別がつきにくくなるから、自我を持つ前に処分する」

「例えばアンデッドなどのような精神支配に絶対の耐性を持つ者はどうされているのですか? もちろん、居る事を前提として質問していますが……」

「保存してても起きている、という意味だろう?」

「はい」

「精神支配はしていないが今は大人しい。今後、勝手に動くかもしれない、と言っておく」

 命令を与えていない者達は『仮初めの停滞(テンポラル・ステイシス)』という魔力系の魔法で止める予定だ。だが、これは悪用されれば危険な魔法でもある。

 『魔法解体(マジックディストラクション)』などで解呪しない限り、ヤントラなどを封印する気なら数万年、どころか数億年、未来永劫と封印できてしまうおそれがある。

 停止中の意識はおそらくは無いだろうが、長い時を封印されるのは良い気分はしない。

 

 意識が無いままであれば、それはそれで幸せな終わり方とも言える。

 

 いずれ魔力系に特化した者は気付くかもしれないが、それはその時理論だ。

 セバスも無理に詳細を聞いてこないようなので少し安心した。

「大量に保管していると人数制限に引っかかったりはしないものですか?」

 街などに数百万人も住んでいるのだから制限には引っかからないだろう。だが、あえて尋ねた。

「拠点をいくつか作って分散させれば問題は無いだろう」

「……ここまでお教えいただいて恐縮ですが……、これらをご報告した方がよろしいでしょうか?」

 不安要素はあるだろうから迂闊な進言は出来ない。

 デミウルゴスならば喜ぶかもしれないが。

「世界が潰れるだろうから秘密か、聞かなかった事にしてくれると助かる」

 世界が潰れる、というのは自己増殖型の存在の制御を誤ったり、暴走する事を意味しているかもしれないと悟った。

 ヤントラとて取捨選択しているだろう。

 制御できると過信して制御不能に陥るかもしれない。それは避けなければならないだろ。

 永遠の停滞。

 そんな言葉をセバスは思い出す。

 未来永劫の停滞はセバスとて恐ろしいと思う。

 どんな事態になるか分からない予感がしたので教えられた情報を鵜呑(うの)みにする事はできない。

「安易な魔法で失敗してはまずいからね。私も下準備に何ヶ月もかけているよ」

「分かりました。こちらも慎重に勉強させていただきます」

 ヤントラはセバスにあるアイテムを見せた。

「これは見た事があると思うが『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』というアイテムだ」

「はい。確かに拝見した事がございます」

「死体を入れておくと保存されて腐りにくい、というものだが。魔術師ギルドで買う事ができる。これは中に入っても中から開けることが出来る。『永続化(パーマネンシー)』という魔法などを利用すれば色々と使い道が出るだろう」

 無難な知識をセバスに伝授していく。

 修行僧(モンク)職のセバスには扱えないので魔法に詳しい者と勉強する必要はあるだろう。

「年単位の計画だから今すぐ何かが変わるわけじゃないけれど……。新天地開発はちょっと魅力的だ。冒険者の方は……、どうしようかな。全然働いてない……」

 辞めてもいいのだが、子供たちの為に働く姿は見せておいた方がいいのかもれしない。

 それらは色々と考えていくことにする。

「手品の時間だ。セバス、少しお腹の肉を斬ってもいいかな? 硬くせず、力を抜いてくれると助かるが……」

 聞いているだけだと無防備で殺されろ、と同義なのだが、お腹を指定しているので首は守られるようだ。

 後学の為にも手並みを見ておく必要はあるだろう。

 無言のまま上着を脱いでいき、見事な腹筋があらわになる。

 見た目は老人ではあるが中身は若者に引けを取らない筋肉美。並みの攻撃は通じない筋肉の防りの壁。

 『六腕』なる犯罪者集団の攻撃を受けても傷一つ付かなかった。

 ヤントラはセバスの腰周りをタオルで巻く。

「失敗しても回復させるが……。成功すれば眼球とツアレさんを頂こう」

「ツアレは痛みに耐えられないかと」

「ツアレさんが平気であればユリを頂こう」

 戦闘メイドの名前が出てセバスは軽く呻いた。

「相当の自信があおりのようですね」

 ヤントラのニヤリとした顔は末恐ろしいものに見えた。

 ナザリックの者達の存在を知ってなお笑うのはヤントラと今は居ない『至高の四十一人』のギルドメンバーくらいだろう。

 

 多少のケガは目をつぶる事ができる。

 この世界に来てセバスは出血するほどの敵に出会えたことは無い。

 それを成しえる事ができるのはナザリックの仲間達の他には目の前に居るヤントラくらいしか知らない。

 強敵に出会わないことで油断を生むおそれは頭の片隅にあった。

 ヤントラならば良い鍛錬の相手になれるだろう。けれども正式なナザリックの一員ではないので少し惜しいと思っていた。

 身体がなまっては支配者たるアインズの足をいつかは引っ張る事になる、いや、既になっていたのだがヤントラの機転で救われた。

 身の引き締まる想いを思い出させてくれるのは仲間達以外では目の前の人物をおいて他には居ないかもしれない。

「ある程度の大きさの肉片は必要だろう。すぐ治癒魔法をかけるから」

「いつでもどうぞ」

「無防備な相手に強いというのは自分がいかに弱いか痛感するよ」

「気持ちでは充分にお強いと思いますよ。普通の人間は対峙するだけで恐れおののくようですから」

 ヤントラは苦笑した。そして、武器を出して必要な魔法を唱える。

 不敵な顔から表情が消える。

「力は少しの間、抜いておいてくれ」

「分かりました」

 セバスが軽く息を吐いた瞬間に閃光が走るようにお腹に斬撃が飛ぶ。

 高速で繰り出される攻撃はセバスの肉眼でも見えてはいるが静かな攻撃に少しだけ見とれた。

 痛みが伝わる前に全てが終わる。その手並みは今まで出会った人間よりも早く、正確で優しいものだった。

 肉体から引き離された肉片は拳大程度の大きさですぐに魔法がかけられる。

 その後で本体であるセバスにも治癒魔法がかけられる。

 見事な手並みに痛みを感じる暇が無いほどだった。

 肉片は『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』に入れられる間に返り血などが拭(ぬぐ)われる。

 既に傷跡は無く、見事な腹筋に戻っていた。

 代わりに包みは色々と蠢いていた。

「うまくいったかな。小さいからしばらくはかかるだろう」

 十分ほど経ってから中身を確認する。そして、セバスにも見せる。

「おおっ! これは凄い」

 まだ皮膚は無いが骨格や血管などが出来上がっていた。

 普通の治癒魔法ではありえない光景だろう。

「……しかし、何故こんなことが……」

「誰もやらなかったからだ。それが答えだろう」

 小さな肉片に再生魔法をかける。

 普通では決して行(おこな)われない。いや、そもそも部位だけに治癒魔法などは本来、かけたりしない。

 包みの中の再生は一回では限界があるので更に魔法を使っておく。

 HPの多い素材は特に数回は魔法を必要とする。

「ほぼ成功したようだから、目を頂こうか。あと、肉片は数回ほど確保するのが常だ。これはオリジナルから採取するのがとても大事だからな。複製からの方が楽だと思われるが……、質が落ちる可能性があるから」

 包みの中を改めてセバスは確認すると裸の老人の身体が出来上がりつつあった。

「声をかけても無駄だぞ。特別な魔法はかけていないからな。肉の人形と変わらない。ただ……、生物としては生きているけどな」

 複製された身体の胸に手を当てると僅かながら鼓動を感じる。

 元々が生命力あふれる身体だったようで、肉片からここまで再生するのはヤントラも正直に言えば驚いていた。

 セバスはただただ驚いた。

 口からでまかせだと思いたいくらいだった。

 よくPKされて殺されることの多かった人間とは思えないほどだ。

 たっち・みーは『デスペナルティでクラスをとっかえひっかえするのに楽だからだろう』と笑っていたのだが、それがNPCであるセバスには理解できなかった。

 気がつけば死んでいる人間、と侮ってはいけないのだろう。

 充分なクラスと装備を整えたヤントラはかなりの強敵プレイヤーになっているはずだ。

 拳に力は入るが、それは一瞬だけだ。

 ナザリックを大切に思う者が敵になるのは考えすぎだろう。

「見事な手並みでございますな。その調子ではナザリックを陥落なされる事もあり得るのでは?」

「アインズと仲が悪い腹いせにナザリックを襲撃するような事態になってほしいのか?」

「いいえ、滅相もございません」

「そうか? 自分の拠点を作るのに忙しいから襲撃の話しは無しで……」

「はい」

「……ナザリックを陥落する理由があれば、ありえないことはないだろう。そこまでアインズを憎む気持ちがあれば……、あるかもな。だが、まあ……。私の中では『有り得ない』ことになりつつあるのだがな」

 仮にヤントラがナザリックを襲う理由として考えられる事は宝物関係くらいだろう。それ以外では私怨という線がある。

 どちらもありそうだが新天地に行くと聞いたばかりだ。

 

●↓●

 お詫びというわけではなかったがセバスはヤントラの要望どおりに眼球も提供した。

 わざと痛がるようなことはせず、淡々と回復の魔法をかけていく。

 数体分を納めた包みは用意した箱に入れられ、ログハウスの裏手に置かれる。

「会うたびにもらうわけではないが……。紛失は……無いと思うが身体に異常があれば取り直すことになるかもしれない。それは出来る限り避けたい所だ」

 回収が終わった後はセバスにマッサージを施す。

 筋肉が硬いせいか、こっているのかどうかよく分からなかった。

「保存だけで解剖などはしないのですか?」

「中に変なものでも仕込んでいない限りは保存したままだ。最初こそは内臓なども取り出すようなことはしたが……。今は身体と眼球。森妖精(エルフ)なら耳くらいだ」

 拷問とは別の収集方法をとっている事が分かり、ツアレもおそらくは同じ方法が取られるのだろう。

 問題は痛がる度合いだ。悲鳴を上げるようであれば止めに入る覚悟を決めておく。

 ナザリック地下大墳墓に来てからメイドとしてペストーニャに色々と指導してもらったツアレを連れてくる。

 以前会った時より血色も良く、立ち居振る舞いも丁寧で細やかになっていた。

「お久しぶりです」

「はい。こちらこそ」

 メイド服のスカートを両手で摘み上げて軽く一礼するツアレ。

「ナザリックの暮らしは慣れましたか?」

「お陰さまで。最初は驚きましたが皆様に良くして頂いております」

「積もる話しは今回は無し、にさせていただく」

「……セバス様より説明は受けておりますが……」

 ログハウスに来る前に信じられない説明を受けてきたが、セバスが冗談を言うとは思えないし、言葉の感じからも真剣さが伝わる。

 何度か深呼吸しても身体が少し震えてしまう。

「聞いているなら話しは早い」

 ヤントラはツアレの頭に即死耐性のアイテムを装備させた。

「手早く済ませるから。ツアレさんは少しの間、眠っているといい」

「は、はい」

 セバスにはログハウスの玄関に行ってもらい、叫び声が聞こえればすぐさま駆け込める距離に待機してもらった。

 僅かな声が短く出たこと以外はログハウスの中はとても静かだった。

 一時間後に作業は終わり、ツアレの身体をマッサージして少し経ってから目覚めさせた。

「……う……」

「気分はどうですか?」

「……凄く……疲れを感じます」

「お腹に優しい食事を取りなさい。一日いっぱいは休んだ方がいいが……。無理しないようにね」

「はい」

「協力してくれてありがとう」

 お礼を述べ後、セバスを入れて確認させた。

 空腹により、身体はふらついていたが無事なようだ。

 自分以上にどのような方法を取ったのか分からないほどだ。

 激痛ではないのか、という疑問がセバスに生まれる。

 信じていないわけではない。包みの中は確認した。

 耐えられるはずがないと思っていた。

「悲鳴を楽しみたいわけじゃないからな。その辺りの気配りは考えているぞ」

「素直に驚いてしまいました」

「驚くのはいいが、消化に良いものを食べて来なさい。次はユリか……。改めて来てくれるかな? ついでに第六階層の森妖精(エルフ)のメイド二人を眠らせて運んでもらえたら楽かな」

「畏まりました」

 空腹のツアレの為に一旦、第九階層に向かうセバス達。

 ヤントラも一緒に向かう。

 

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