ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
セバスは食事をする前にユリに声をかけたようだ。
ユリの部屋で改めて対峙することになるが、彼女は少し眉を寄せていた。
「また女体に飢えたのですか?」
「端的に言えばそうなるのかな。前回より恥ずかしい事は無いが……。色々と学んだよ。それと君たちのお陰でかなり進歩した」
「……お役に立てたのであれば……」
軽くため息をつくユリ。
人の趣向は様々なので仕方が無いと諦める事にした、のかもしれない。
「忙しい身なれば、あまりお時間を取ることが出来ませんよ」
次の予定まで二時間ほどの猶予しかない事を告げて、メガネなどを机に置いた。
「一時間ほどで終わらせよう。あえて言おう。首が目的だ」
「……ん」
「かち割るわけではないけれど……。頭も気になる部位だからな」
感知妨害などをかけていく。
まず少しだけ慌てているユリの頭部を外し、猿轡だけした。
「耳と鼻は取らない。髪の毛もそのまま。舌も引っこ抜かない。残るは眼球という次第だ」
折角なので後頭部を少し眺めて、赤子をあやすような事、はやめた。
遊んでいると物凄く怒られるだろうから。
最初は眼球を取れるだけ取り、顔を綺麗にした後は机の上にタオルを敷き、顔を壁際に向けて頭部を机に置く。
時間も無い事だから身体の方も頂く事にした。
服を手早く脱がし、軽く胸を揉んだ後で袈裟斬りにする。これは心臓の位置を確認するためだが巨乳なので分かりにくい。
袈裟斬りは結構雑で危ないので、今回は下腹部付近を横に切り裂いてみる。
前回よりも斬れ味の良い武器とアンデッドを回復するアイテムのお陰で作業ははかどった。
全てが終わった後で手を動かしてもらった。
高速治癒を持っていないので慌てずに作業に集中出来た。
あと、首と一緒に縛り付けておかないと保管する時に困る。
動かない方を全て『
重さの上限以内に納まったようで安心した。
本物の頭部を戻せば完成だ。
「……時間以内に終わったようですね。少し驚きましたが……」
以前よりも格段に手際が良く、妙な体勢に取られないだけ安心した。
武器の試し斬りなのかもしれないが、後始末の見事な点も素晴らしく思う。
ヤントラがお礼を述べた後、ユリは仕事のために机に向かった。
軽く肩揉みをした後で部屋を出る。すると一人のメイドがヤントラに近づく。
「お風呂場にて
「……そういえば、あの二人の名前聞いてなかったな」
髪を染めていない場合は大抵が金髪碧眼。黒髪黒目というのが多い。
本人たちから聞かないと分からないだろう。
風呂場に向かうと女湯の脱衣所に
その他に報告に来たメイドを連絡係として連れてきた。
「少し時間がかかるから……。風呂に入るか、食事でもして待っていてもらうよ」
「分かりました。では、お食事に入らせていただきます」
「一時間くらいはかかるから急がなくていいよ。終わったら呼びに行く」
「畏まりました。食堂の方で待機させていただきます」
一礼して去っていくメイド。
立ち居振る舞いは教えられた通り、優雅で丁寧な仕草だ。
他のメイド達も表情豊かで話し声も聞こえてくる。
ヤントラの宝物庫にいる者は性質上、みんな無口にしてある。喋らない事は無いが、処分品のような扱いなので、大事にしなければいけないなと反省する。
ゆっくりと観賞する時間は惜しいので作業を始める。
一時間半後に箱詰めは終わる。
マッサージを施した後で二人を起こした後、多少驚かれたがルリマリスが元気な事を伝え、食事をするように言いつけた。
酷い空腹が襲ってきた事に不審に思った二人はそのまま食堂に向かう。というより第六階層から第九階層に移動した事に疑問を抱いていたようだ。
食事を終えた連絡係りのメイドに箱をシモベに運ばせる事を言いつけ、ログハウスの裏手にも箱がある事を伝える。
それから
それらが終われば地上でセバスと合流し、指輪を返還する。
「注文時に来る程度だが、元気でな」
「バスパ様こそ、お元気で」
丁寧に頭を下げるセバス。
最後まで
子供が生まれたことをうっかり忘れそうになるほど、宝物庫の開発にのめりこんでしまったようだ。
少し反省しつつ父親として面倒を見なければならないだろう。
いや、そもそも父親ですらないのだが。
数日後には宝物庫の中もだいぶ賑やかになってきた。
地上一階部分には最下級から上級の武器を並べ、展示室のような感じになっている。
地下一階の一室には上級以上の武器と指輪類とスクロール各種を保管。
使用中の部屋に名札も付けたので、迷う事は無いだろう。
ラナーは日ごとに能力を発揮し始め、貴族達から小娘と侮れない頭脳を見せ始める。
エンリは森に入った途端に目を輝かせる。ンフィーレアも今まで苦労していた研究も脳内が晴れ渡るような気分になって様々な知識を得ていく。
地上にリイジー専用の研究施設が完成する。ヤントラの施設とは繋げてあるので出入り自体は可能だ。
錬金術関連の道具を入れ、リイジーは早速研究に没頭する。
充分なクラスレベルを保有しているがすぐに結果が出るとは思わない。
「研究のしすぎで餓死しないで下さいね。食事と睡眠は必ず取ること。健康的な暮らしをしなければ追い出しますよ」
「ケチじゃのう」
心配になってついてきた孫のンフィーレアもヤントラの要望には賛成だった。
「お風呂は宿舎でも私のところでも使って構いません」
「研究結果は発表しても構わんのか?」
「お任せしますよ。あえて条件を付けるとすれば……、この施設に迷惑がかからない範囲で……」
「つまり地下を秘密にしている限りは自由だと?」
「おばあちゃん。盗賊とか来たら困るからだと思うよ」
「カルネ村に作ればいい、と途中で気付きましたが……。作ってしまったものは仕方がないと諦めますよ」
資源を持ち込むには丁度いい施設だが。
カルネ村にも小さな工房は作られているようだが、こちらの方が道具が豊富なので文句は無いとリイジーは言った。
「食堂のような施設もほしいが……。人を雇えるほど住人が居ないから……、どうしようか」
「
今までは材料を買い込んで自分で作っていた。
職人達を招いたときは臨時で料理人に来てもらっていた。
「おばあちゃんも頭を下げて頼んだら?」
立派な施設と道具類を提供してくれたんだし、とンフィーレアは少し嫉妬を感じていた。
自分で買うとなれば金貨数百から数千枚ほどはかかるのではないかと思う。
料理は運んでもらう事にしてヤントラは数日かけて地下施設を整理する。
初期の献体の掃除。容器の配置位置。培養液の保管状況。
無駄なメイドの処分。
防衛の見直し。その他に細かい部分を点検していく。
一番の無駄は大浴場ではないかと思えるが、控え室にも使えるし、洗い場としては優秀だ。
一階層下を掘りぬくのは大変なので新たに拡張工事を施すか、空中庭園を造るか。
建築関係の意見も集める必要はあるだろう。
たびたびンフィーレアがリイジーの様子を見に来たり、自分も施設を利用したり。
エンリは森で見つけた植物や薬草の一部を運んでくる。
採取に必要な道具を与えてからは効率よく植物を集められるようになったという。
畑仕事も順調だとか。
カルネ村の拡張も考えられている。
レベル的にルプスレギナより高くなったが戦闘に特化しているわけではないから戦えば負けるだろう。
ルプスレギナが信仰系の
「エンちゃんより弱いのイヤっす! 三回くらい殺してくれないっすかね」
と、泣きつかれてしまったが戦闘用ではないので心配は無いと説得したが、エンリにルプスレギナのために死んでくれとは言えず。
もともと力仕事をしていたエンリの筋力はルプスレギナと対等なまでに強くなっていた。それも原因だろう。
NPCとして生み出されたルプスレギナは成長できない。そういう設定だから、と言うのは簡単だ。
拠点を持ったことの無いヤントラには各NPCが経験値を積めるかどうか確認したことが無い。
こちらで動く者達は人間であれば成長する事は確認したがNPCは未確認だ。確認する前に処分してしまう事もあるし、単に忘れていた事も原因だろう。
成長できるようにするには『
培養で肉体を作るのに時間がかかるのだが、成長する保障があるのかはまだ調べていない。
アインズに殺していいか、と尋ねるわけにもいくまい。
ナザリックの所属から外れるかもしれないとなると装備品や仲間としての存在意義が危ぶまれるかもしれない。
ある日、ンフィーレアに施設の概要で効率の良い設計を依頼してみた。
現在の施設は少し不便を感じたからだ。
地下二階は従来と変わらずに広くすればいいのか、細かい部屋にすればいいのかなど。
設計士ではないけれど色々と案を出してくれた。
「正方形がいいんですよね?」
「出来ればね。地下迷宮にするつもりは無いから。一気に作れればいいんだが……。管理できる自身が無かった」
作っておいて利用しないのはお金の無駄になってしまう。それはンフィーレアも納得できた。
秘密にされていた場所の内容も意外と教えてくれたのには驚いた。
見せる事ができない危険なモンスターが居るから、というのが真相らしい。
「隠し部屋は盗掘や侵入者対策なのは理解できますが……。単純構造なのに恐ろしい施設ですよね」
特に地下一階部分は桁違いだ。普通は下に行くほど危険のはずなのに。
地下は上を支える構造だから。その関係で地下一階の方が危険な状態なんだろう。
重さで落盤しても困るから。
仮に建て直しとなると各施設金貨数万枚はかかるかもしれない。
「金貨数万枚ですかっ!?」
一般住宅ではなく大規模開発だから相当な金額になる。
五百メートル四方の土地を掘りぬき、丈夫な柱で階層構造にしていき、壁には総じて銅版を埋め込む。
床は陶器のタイル張り。大理石のような装飾目的ではなく、掃除しやすくするために質素なものが使われる。
扉やベッド、風呂の小物なども入れれば数万枚はかかるだろう。
一般住宅であれば数百件は建てられる。
「新たに建て直すのは色々と大変ですけど、動植物の保管庫はあった方がいいですね」
土地の拡張に伴い金貨とは別個の保管庫を造った方がいいと判断する。それも大規模なものを。
月に行くために必要な構造物を作る大規模な施設は必要だろう。
五百メートル四方を三つ。更なる巨大正方形施設とするか長方形型にするか。
土地を取得するか、拡張を自由にできる空中保管庫を作るか。
どちらも問題点が山積みだ。特に空中の場合は色々と必要な魔法を選定しなければならない。
試験的に液体を満たした保存用の容器を『
『
浮かせられる重さが
ただし、それはスクロールでの最低水準に過ぎない。
膨大な魔力を有する者が魔力を注ぎ続ければ、およそ45トンも可能。ただし、単純計算での数値だが。
浮かせられる高さは相対的に増えて行くので、一回でおよそ27キロメートル。
もちろん、それは個人での話し。魔力譲渡を駆使すれば更に倍となる計算になる。
一つ一つの物体に魔法を施すと途方も無い時間と労力がかかるので、まだ改善の余地はあるはずだ。
上下運動しか出来ない場合は『
上下運動しか出来ない、というのはもちろん術者が命令できる範囲のことだ。左右には人力でなら動かせられる。台車に乗せての横移動も出来る。そうでなければ建築など出来ないだろう。
『
第一位階魔法なのでお値段は金貨一枚に銀貨十枚。それを十枚ほど購入。
土木関係者がよく買うらしいので在庫は豊富だった。
「しっかり浮いていますね」
時々、左右にも動かす。
「五分は過ぎているはずだが……。まだ浮いているな」
ンフィーレアは
特に第三位階以上の魔法には興味津々に、髪の毛で隠されて入るが、目は輝いているのだろう。
「術者の意思で上下する、ということは術者次第でしか上げ下げ出来ないのか」
横移動は第三者でも容易だが、上に乗っても下に落とそうとしてもビクともしない。動いてもらっては重いものを乗せる意味が無い。
そんな状態で450キログラムを超える物体を乗せればどうなるか。答えは落下する、だ。
重量制限があるのだから当たり前だが、ギリギリの重さの物体を乗せて魔法をかけていけば理論上は無限に積み重ねられる。
解呪した時、建物が瓦解しそうな気配がするのだが、浮遊する城はどうやって防衛しているのだろうか。
直接行って確かめてくるしかないだろうな。
術者を始末しても効果は持続。だが、壊せないわけではない。
石などで破壊を試みたら砕けて落ちてしまった。
細かく砕けると効果が切れる。体積が半分以上残っていれば浮遊したままだが、破片は落ちていく。
ちょっと削れたくらいでは解呪されない。ただ、一箇所でも砕かれると致命的な気がする。
物体の重さ以上の積載量にしておかなければ危険だろう。
容器を運べる理由は『そういう命令をしているから』に他ならない。
空中に宝物庫を作るうえで重要な事は水源だ。
南方の遺跡では無限に水が湧き出しているというか、絶対量を増やせば大地は水没するはずだ。蒸発した水蒸気が多ければ雨季が長くなったり、気候変動が激しくなったりする気がするのだが、その辺はどうなっているのだろうか。
「三十分経過。落下の兆候は見えませんね。
「建設はいいとして水源をどうするかだな」
建物全体を循環する配管を整備すればいいのだろうが、浄化装置が欲しくなる。
数トンの重さになるだろう水の確保も考えなければならないだろう。
一部の魔法は経験値や金貨を消費する。特に『
何でも
「重量制限があるなら空中の城はわりとすぐ落ちそうだね」
「固定する方法があるのか、制限を無効化しているのか。そうでなければ浮遊し続けられませんよね。浮遊と言うか、外敵からの攻撃とか……」
もろくて弱点のある城では防衛が心許ないだろう。
丸ごと浮遊し、鉄壁の防御策か、特別なアイテムによる作用か。
ンフィーレアも調べてみたい事柄だった。
城そのものを『
ゆっくりとなら重いものでも浮かせられそうだし。
「複数人による『
バカみたいな発想だけど、とンフィーレアは思うが、それは単に誰もやっていないからだ。
第三位階はもはや手が届かない魔法ではない。
職種によって覚えられない魔法はあるだろうが、知ること学ぶことは大切だ。
浮遊実験の合間にリイジーへの食事も忘れず、エンリ達による植物などの提供も
根こそぎ採取しては絶滅するおそれがあるし、危険なモンスターに襲われてもいけない。
平地に生えている普通の草も採取の対象になっていて施設の緑化に貢献してもらっている。
カルネ村からたびたびラキュースが訪れ、運用の様子などを見学していく。
新たに土地を拡張し、保管場所を確保する事にする。
金貨用と容器用。こちらはそれぞれ五百メートル四方の広さを持たせる。
もう一つは危険なモンスター用か、様々な生産工場にする。問題は地上施設の移転だが、宿舎と農場に影響が出ないことを確認して工事を始めてもらう事にした。
「アインドラ家の領地ってどの辺りなのかな?」
「一部の農村が使っているから開発は無理よ」
夫の知りたい事を理解してラキュースは瞬時に答える。
ヤントラは少し驚き、そして納得した。
平和に暮らしている農家を恐怖に陥れるのは気が引ける。それに作物の出来にも影響が出るかもしれない。
「その農村の植物や作物の一部だけもらえないか? 道端に生えてる草でもいい」
「聞いておくわ」
獲得した土地に杭を打っていく。五百メートルは結構な距離なのでラキュースにはンフィーレアのところで待機してもらった。
杭打ちは一時間ほどで済む。通常であれば半日ほどかかるのだが、削減できるところは削減する。
一キロメートル四方に拡大する予定の『マグヌム・オプス』の地上部分も作業用の施設を作ることにする。
天窓ついては今回は忘れないように決めておいた。
作業が終われば我が子と
はって歩く姿は可愛い。
二人とも母親似のようだ。アバターの特徴は引き継がれていないようだが、よく妊娠したものだ。
骸骨のモモンガならどんな子供が生まれるのだろうか。
憎たらしいから実験はしないが、不死の存在は子供の成長など気にも留めないくらい時が進んでしまうかもしれない。
睡眠不要のまま数百年も滞在するのか、途中で元の世界に戻るのか。
それを決めるのは、きっと本人次第だろうけれど。
各地から職人を呼び集めて早速工事を始めてもらった。
地面を掘り進める間にイビルアイとラキュース、クレマンティーヌの三人を屠殺場に集めさせた。
新装備は城での挨拶用だが、今までの装備の方が慣れ親しんでいるのでヤントラは特に指摘しない事にした。
イビルアイも城に行くときは新装備を着るようにしていたが今は赤黒いローブだった。
クレマンティーヌに来てもらったのはまだ少し経験が少ない、と思ったので。
「ラキュースは第八位階の『
「魔法の開発に専念するよ」
「クレマンティーヌはある程度、倒したら本当のモンスターの強さを味わってもらおうかな」
「頑張るよ」
クレマンティーヌは早速服を脱ぎだした。
利用した事の無いラキュースとイビルアイは驚いた。
イビルアイは話しでは聞いていたが、実際に目にして驚いてしまった。
「服を脱がないとひどいことになるよ」
その言葉を無視したラキュース達はおびただしいモンスターの群れにおののく。
クレマンティーヌは無抵抗のモンスターを淡々と屠るが、イビルアイ達はモンスターの返り血などを浴びていく。
ラキュースも途中で気付き、服を脱ぐ。
脱いだ服は何処からとも無く現れたメイドに持っていかれる。
「イビルアイはただただ魔法を使い続けるように」
「う、うむ……」
剣を用いている二人とは離れた場所で複数体の悪魔にイビルアイは魔法を撃ち続ける。
彼女の背後には頭巾を被ったメイド風の人物が
ラキュースは裸にはなったが悪魔対策としての防具は別に装備してもらった。
メンバーの中では一番弱いラキュースはクレマンティーヌがいとも容易くモンスターを倒すのに驚いていた。
実力の差が開いていると感じた。
ある程度の討伐が終わる頃、休憩に入る。
「クレマンティーヌはスティレットのみで攻撃をかわしたり、敏捷性をあげる事に集中してくれ。ケガは治してもらおう」
「分かったー」
「ラキュースとイビルアイは普通に続けててくれ」
イビルアイはモンスターの体液で全身が汚れていた。
魔法を唱えすぎて自分で何を言っているのか分からなくなりそうな気がした。
単純作業をここまで続けた事がなかったから。
「それにしても何処からあれだけのモンスターを持って来たのかしら?」
「それは知らない方がいいよ。謎があった方がいい」
「………」
イビルアイはすっかり大人しくなっていた。
ヤントラが彼女の服を脱がすと抵抗される事は無かった。
仮面以外はあっさりとされるがままだった。
「大丈夫かい?」
そう尋ねるとイビルアイは黙ってヤントラに抱きついた。
全身が震えているようだった。
一旦、イビルアイを大浴場に運び、メイド達に身体などを洗ってもらう。
落ち着くまでは放っておこうと思った。
「単純作業していると、ああなるよね。ラキュースもああなるんじゃない?」
「他の皆もイビルアイのようになるってこと?」
「耐えられると思っていたけどね。精神的にキツイよ、この特訓は」
魔法職は特に精神を使うだろう。
休憩を終えてラキュースは一時間後に悪夢を見る。
数千体近くのモンスターが止め処も無く現われてくるのだから。
手に力が入らなくなる。
クレマンティーヌの忠告の意味を悟り、その場にへたり込んでしまった。
その少し後に復活したイビルアイがやってきたが数十分でまたも大人しくなった。
「ははは。ほら、最初は皆、そんなものだよ」
椅子に座ったまま放尿するイビルアイ。
ラキュースはまだ痴態に耐えられるのだが、子供を産んでから足腰に力が入りにくいし、尿漏れもひどい。
二人をよそに奮闘するクレマンティーヌは生傷は出来ていたがしっかりとした精神で攻撃を捌いていく。
無抵抗のモンスターとは違い、一体が強くて倒しにくい。
途中で武技による回避を
女性達が奮闘している間に資源の量産を続けていた。
二日目ともなるとラキュースは要領を覚えてモンスターを倒していくが、イビルアイは精神的な疲労が酷く、休み休みに魔法を放つ。
仮面をかぶっているから表情は分からないが、イビルアイは相当に参っているようだ。
肉体的には強靭だが精神的には弱いのかもしれない。
メイド達に身体を洗われた後、タオルを巻かれたイビルアイを壁際に移動させて見学させる事にした。
食料も側に置き、ラキュース達の特訓は続いた。
「……延々と魔法を……、使うと……、脱力感がひどい……」
「無理ならやめようか。数をこなすだけだし。帝国の生徒達も休み休み特訓させた。のんびりしていると新入生が来るからね。短い期間で終わらせる必要もあるから随分と無理をさせた」
イビルアイに仮面を取るように言い、タオルで
「温存する戦いばかりだったから……、身体が慣れなくて……」
「魔力切れも想定した方がいいだろう。出来ないからって殴ったりはしないよ。今回の特訓で超位魔法を一つ覚えてもらいたいものだ」
思い込みが激しい人達ばかりなので、出来なければ暴力を奮われると思われるかもしれない。なので今では口癖のようになってしまっている。
口封じ。殴る蹴る。殺す。
相手に説明するのはいつだって大変だ。それが今のヤントラであっても。
優しく説明しても信じてくれないのだから仕方が無い。
「覚えられるのか?」
「順調に行けば、おそらくは。超位魔法はどんなに努力しても一日に使えるのは最高で四回までだ。それはアインズも同じ。いくつかの魔法にはペナルティがある。死亡時に弱体化するような事に似ているだろう。それほど便利ではないし、発動まで時間がかかったりする」
イビルアイに超位魔法について説明を始めている間、クレマンティーヌは少しだけ羨ましいな、と思った。
ラキュースは真剣に説明している夫に満足し、与えられた試練をこなしていく。
知識欲のあるイビルアイも休憩を終えればやる気を出すのだが、身体はまだ特訓に慣れないようだ。
頭に頭巾を被ったメイドはとても気になるが、まずは特訓を無事に乗り切る事が先決だろう。
女性三人に休憩を取らせている間に新たなモンスターを用意する。
竜王国から持ち帰った
「今度、
「……自然界に居るモンスターが可哀想になってきた」
「特訓用のモンスターも毒とか自己再生とか
今の意見にイビルアイは反論する事無く同意した。
「モンスター退治の勉強が出来なくなるのでは?」
「
全長十メートルほどの巨大モンスター。
石化の視線。即死級の猛毒の体液。分厚い皮膚はミスリル並みの硬さ。
「厄介な特性を持つモンスターは……集めたくないな……。アンデッドとか腐りかけは……、苦手だ。巨大モンスターは保管場所に困るし」
十メートル規模となると
「……あー、アンデッドは苦手だって言ってたわね」
「程度によるよ。非実体系はどうすればいいのやら」
メイド達のマッサージを受けつつ三人の女性はくつろいでいた。
戦闘開始するまではモンスターは襲ってこないのだが、ラキュースはモンスターに囲まれる事に慣れているのか、失禁は起こしてしないが武器は握りにくそうだった。
クレマンティーヌは敵の数が少ないお陰か、特に問題なく特訓が続けられていた。
それぞれ身体を動かして汗をかいているので寒くは無いようだ。身体に巻く大きめのタオルは用意していた。
「技術的なことは苦手だから、そこは君たちが教えてあげてくれ」
「ご主人も意外と丸投げだな」
「責任持てないよ。やっぱり戦士系がいいとか言われたくない」
ヤントラは言った事はかなり守ってくれるのは分かっている。
細かいところも手ほどきしてほしいところだ。
必殺技とか覚えていないと言っていた事を思いだす。
「……あなたが技を使えば相当な実力を発揮しそうなのに……」
エロい事全般に実力を発揮していたのが残念な点だった。
「強者がたくさん居れば……、少しは考えるが……。私の強さはどうでもいい」
「ナザリック勢しか今は強者が居ないようだが……。良いのか、我々を強くして?」
「構わない。地位や名誉と同じく強さにも今はこだわりは無い。ただ、必要なスキルや魔法は欲しい」
「支配欲の無い人なんだね、ご主人は。……楽しみがなくなるのは私も困るけど……」
何を考えているのか分からない、と思っていたが何も考えずに行動したいのかもしれない。
そこに詳細な疑問をぶつけても不毛なのだろう。