※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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H-10 イビルアイを改造

 イビルアイ以外は順調に特訓が続けられた。

 魔力切れと単純作業の苦しみに耐えつつも規定の数はこなした。

 労働の後の風呂と食事は格別だった。

 クレマンティーヌは現状の力に満足しているようだが、能力的にはまだまだ伸びる。

 ラキュースは『蘇生(リザレクション)』を覚えるのにまだまだ特訓は必要だが現時点では第六位階の信仰系魔法は覚えられるだろう。位階を一つ上げるのに最低7レベルは上げなければならない。

 特に上級職ともなればすんなりと覚えられるものでもない。

 イビルアイは数がこなせないので時間がかかる。

 三日目はクレマンティーヌは素早い敵と硬い敵を相手に鍛錬を続ける事にして、ラキュース達はモンスター討伐にいそしんだ。

 魔力切れに苦戦しつつイビルアイも出来る限りの努力を重ねた。

 休憩するときに現われるメイドの動きなどを探ろうとしたりしていた。

「あれらのメイドは正体は見せられないのか?」

「色々と不都合があるかと。……どうしても見たいかい?」

「自分と同じ顔だとイヤだな……。一人くらいはまだ耐えられそうだが……」

「影武者としてなら私の身体は使ってくれても良いよ」

 クレマンティーヌの獲物を狙う複数の顔をラキュースとイビルアイは思い浮かべた。しかもメイド服を着せて。

「……おおう……、この世の終わりだ」

「邪悪なメイドにしか見えないわよ」

 不評に対し、クレマンティーヌは口を尖らせる。

「ぶー。私も女の子なんですけどー」

 仮面を付けたメイド服のイビルアイの集団も少し異様ではある。

「ここに居るメイド達は人形のようなものだ。思い通りに動く相手は虚しくなる。かといって知らない者は入れられない。……同じ顔があるのも精神的にキツイだろう」

「三つ子だと思えば楽かな、と思ったんだけど……」

「十人以上になればキツイかもしれない。ティアとクレマンティーヌで六人として……。この施設はどれくらいの人数で管理しているの?」

「メイドは五人程度で巡回させているよ。自我が芽生えないように適度に処分している」

 ずっと残しておきたいが要らぬ混乱を避けるためには仕方の無い事なのだが、処分と聞いてラキュースとイビルアイは俯いた。

「メイドさんも処分しちゃうんだ……。もったいないな」

「本物は機会を見て考えるよ。それに君たちが実は偽者だ、と混乱しては困るからね。迂闊に使うことも出来ない」

「……そもそもどうやって動いているのだ? そういう命令を与えられる方法があるのか?」

「これは知ると恐ろしくなるから知らない方がいい。命を捨てても良いなら実験させてもらうよ」

 そう言うとクレンティーヌは手を上げた。

 自分は実験台になってもいい、という覚悟があって率先して犠牲になろうとしている。

 それはヤントラも承知していたのだが、彼女の献身は素直に嬉しかった。

「もともと私は敵だし、死んでも困らないと思うよ。死なない範囲でなら私の身体で実験してくれて良いよ。化け物にされるまでなら我慢する」

「クレマンティーヌ。あなた、私の夫を狙っているようね」

「独占はしないよー」

「複製体ではいとも簡単に出来た事がオリジナルである君たちにはどう変化するのか、知るのは大事だろう。……罪人を使った方がいい気もするけど……」

「聞いている分にはおぞましい方法なのだろうな」

 クレマンテイーヌに試す方法は『老化』だ。

 もちろん魔法でも危険なものがいくつかある。それと似たようなことなのだが、とても人間に試すのは忍びない。いや、オリジナルに試すのはとてももったいないだろう。

 万全の体制を整えて望む事にする。予想では可能なのだろうが、もう少し自分は命を大切にするべきだな、とヤントラは自嘲気味に思った。

 三日間の特訓を終えて、量産体制を整えた後は王都に帰還する。

 ラキュースだけ育児のためにカルネ村に置いてきた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 自宅にラキュース以外の真蒼の薔薇のメンバーを集めて危険な実験について言える範囲を話してみた。

 それとメンバーの複製をメイドとして使っても良いか、尋ねておいた。

「家族が増えたと思えば……」

「名前くらいは変えないとヤバイよね」

 ティア達二人は互いに偽者め、といがみ合う事は無いけれど、複製体は別問題だろうと思った。

 ルリマリスはおぞましい結果しか浮かばないので始終、身体を震わせていた。

 イビルアイはアンケートに集中させているので話しにはまだ参加していないが、口を出す気はないようだ。

 今は第六位階の魔法に興味津々だった。魔力系の第六位階魔法は未知の領域だから。

 ガガーランはメンバーが混乱しても一人だけ冷静さを保つ者が居た方がいいだろうということで、どっしりと構えていてもらっていた。

 クレマンティーヌも今は椅子に座ったまま大人しくしていた。

 彼女は戦士系とアサシン系のクラスを既に選んでおり、身軽な戦法を鍛える気でいた。

「ご主人。何があっても信じているから遠慮なくやっちゃって」

「まず、皆さん。クレマンティーヌに何があったとしても元に戻しますから」

「異形になったら人間に戻れる?」

「『人化』の方法があれば可能だが……。結論から言おう。急激に老化するかどうかだ」

「……うわ……。ああ、なるほどね……。何となく分かってきた」

 クレマンティーヌの顔から表情が消えていく。

 若い肉体である事が失われるのはさすがに精神的ダメージは大きい。

 ティア達も一斉に背筋に冷たいものが流れ始める。

「……年齢を書かせた理由は……そういうことか……。アンケートは身体を元に戻すために必要だったんだね」

 複製ならば試せるがオリジナルに試さないのは優しさかもしれない、とクレマンティーヌは思った。

 無慈悲な人間に思えてどこかで人間的な優しさを持つのは『らしくない』とは思うのだが、そこは嫌いではない。

 徹底的に冷酷な人間の方がいいと思う事もあるけれど。

「……ご主人には狂気は似合わないかも。エロい人で居て。それ以上は……、望まないから」

 今の身体は再生魔法のお陰か、身体に残っていた弱かった時代の数々の拷問の形跡は無くなり、処女性まで戻っていた。

 方法は突飛だが、失った自分を取り戻せたことには素直に感謝し、ヤントラという人間のためなら多少は命もかけられる。

 望めるならば妊娠までは許容しようかな、と思いはしたが子育て出来そうにないので諦める事にした。仮に出産しても養子に出すしかないだろう。

 自分(クレマンティーヌ)は殺しの大好きな狂気に満ちた女戦士だから。

 

 ヤントラが二階に消えた後、クレマンティーヌの身体をティア達が抱きしめた。

 それからすぐに状況が一変する。

 見る見る金色がかった金髪から色が失い始めて、顔にしわが出来始める。

 見ている側から老化する現象に女性陣は戦々恐々とする。

「……手が……、胸がしぼんで……」

 二階からヤントラが降りてきて、クレマンティーヌの老化具合を確かめた後はまた二階に戻っていった。

 大広間でヤントラは軽く息を吐いた。

 この世界はどこかでユグドラシルの影響を受けている。それは薄々は気付いていた。

 現実を直視すれば残酷な世界かもしれない。

 月への移住も本格的に進めなければならないだろう。この世界の住人は世界の秘密を知らずに過ごしてもらいたい。

 そもそも論。この世界はどこか歪(いびつ)だ。それを現地の人間に知らせる事は大事なのか。隠匿しつづける事で安定が保たれるのか。

 ヤントラだけが知る事実ではないと仮定する。世界のどこかに何人か世界の秘密に気付いている存在かいても不思議ではない。その者は今頃何を感じているだろうか。

 希望か絶望か。

 最終手段となるアイテムの使用も頭の片隅に置いておこう。

 ラキュースと魔法の選定に忙しいイビルアイを除いて、ガガーランとティア達とクレマンティーヌのクラスを選定する。

 上級職を望めば叶えてやろう。それがヤントラに与えられるせめてもの恩返しだ。

 再度、一階に戻ったが老化が治っていないクレマンティーヌが自分を抱きしめて座り込んでいた。

 治らないのではなく、治せない。年齢的には元に戻っているはずなのだが。

 ここは都合の良い魔法に頼る事にした。

「クレマンティーヌ。少し驚いただろう」

「……うん」

 あまたの敵を殺し続けた戦士が一人の女性として泣いていた。

「望むならもっと若くしてやろう。都合のいい魔法があるぞ」

「じゃあ……」

 ヤントラに希望の年齢を伝えた。

「胎児までは無理かもしれないが……。望む限りは叶えよう。協力してくれたお詫びも兼ねて」

 これまで鍛え上げた筋肉などが失われるかもしれない事は伝えた。

 改めて鍛えなおす、という返答に彼女の強さを感じた。

 若返りの魔法。

 それは簡単なものではないだろう。

 イビルアイの知る魔法の中に『覆す雪辱する流れ(リヴァース・ラヴィッジング・フラッド)』というものがあるが、この魔法での若返りは一時的だったはずだ。

 永続版が存在するとすれば誰もが追い求めるだろう。当然、ペナルティがあるはずだ。

 ティア達にそれぞれ自分たちの獲得した、または獲得できる予定であろう職業(クラス)や特殊技術(スキル)などを書いたメモを渡していく。

 改めて希望の特殊技術(スキル)などを書いてもらう。確認作業だが、メモ用紙がどんどんと減っていく。

 各都市から買い集めているとはいえ、情報が膨大になると資源の枯渇が危ぶまれるだろう。それは早く解決しなければならない。

 外見年齢が五十代後半となってしまったクレマンティーヌを宝物庫に連れて行き、数時間後に自宅に戻れば若々しい十代後半の肉体へと変わっていた。

「丁度拷問真っ盛りの時代だった気がするけど……。私って美人さんだったんだね」

 任務の途中で捕虜になったりしていた弱かった時代を思い出す。

 過ぎ去った思い出だが今まで蓄積していた記憶が消えなかったので少し安心した。

 胸はさすがに少し小さい気もしたが数年後には元の大きさになっているだろう。

「すげー」

「クレマン、可愛くなってる」

「えへへ。若返りは聞いたところによれば寿命ごと若くなる魔法らしいよ。えっと、寿命ごと若返るってことでいいかな?」

 その問いにヤントラは苦笑する。

 本当に寿命ごと若返ったかは確証が無い。

 明日をも知れない老人を十代まで若くして三十年以上生きられるかは魔法職ではないヤントラにはよく分からない。

 とにかく、老婆のままにならずに済んで良かった。

「羨ましいな。それを繰り返したら不老不死になるってこと?」

「心臓を突けば死にますよ。長寿にはなるかもしれませんが……。多用すれば精神が疲弊するかもしれません」

 人形に囲まれた生活のように停滞した日常を歩むかもしれない。

 先のことは考えたくは無いが数百年先までは楽しく過ごしたいところだ。

 イビルアイは二百年もの時を歩んでいるので孤独な生活は知っている。

 長く生きることは良いことばかりではない。

「急な老化はこりごりだよ、ご主人」

 ヤントラは頷いた。

「禁止事項が出来た。残った君たちは強くなっているはずだが……、鍛錬の過程で確かめてくれ」

「はい」

 ティア達は元気良く答えた。

 クレマンティーヌは蓄積された強さは維持されているが、腹筋は鍛えなおさなければならないだろう。

 大人の魔性から少しだけ少女の微笑みに変わってしまったが中身は変わらない。

 イビルアイの魔法の選定などを終えると特訓はラキュースを除けば一旦、終了となる。

 総合的にイビルアイが突出して高く、物理的な攻撃ではガガーランが優勢。

 クレマンティーヌはガガーランとティア達を足して二で割ったような敏捷重視の戦士職となっていた。

 それから数日かけて各農村に行き、牛の購入を試みた。

 施設の開発も始められ、宝物庫『マグヌム・オプス』は職人達で賑わい始めた。

 ただし、今回はその職人達も採取の対象となっているので、深夜になれば次々と餌食になっていく。

 優しい搾取の為か、拒否反応は起きなかった。

 半月後にはラキュースに頼み、王都へ集めた鉱物資源を献上する。

 各都市にもそれぞれ数箱分の鉱物資源が配られる。スレイン法国以外、とも言える。

 施設の近くには大きな穴が出来上がる。

 淡々とした作業を続ける合間にラキュースの特訓も続けられた。

 大剣を扱えるので筋力がつけば効率よくモンスターを倒せるようになる。

 若返ったクレマンティーヌに少しだけ驚いたがラキュースはすぐに順応(じゅんのう)していく。

 特訓が終われば大浴場を開放する。

 普段はモンスターや複製体の洗い場に使うが普通に風呂場としても使える。

「スレイン法国なら一夫多妻が認められるから、私もご主人と結婚できたのになー」

「それ何度目の話しよ」

「五度目かな?」

 入浴が終われば地上に上がるだけだが、自由に散策できない施設で申し訳ないとヤントラは謝罪する。

 見られて困るものがある。秘密を抱えている方が人間的な気がしたので二人は詮索しない事にした。

 

 ラキュース達と地上に上がった後、大きな穴に次々と土木関係の職人達が降りていく。

 強固な足場はヤントラも魔法の実験のついでに手伝っていく。

 ところどころに浮遊する立方体の石が階段状に浮かんでおり、落下しても大丈夫な位置でンフィーレアが観察していた。

 永続化(パーマネンシー)を解呪しない限り、術者の命令に従い浮き続けている。そして、それらには『永続光(コンティニュアル・ライト)』のアイテムが乗せられているので夜間も安心して作業が出来る。

 労働時間については一定時間になったら引き上げてもらい、食事や入浴の後は就寝してもらっていた。

 今はまだ便利と言うほどではないが職人達の目を楽しませる妙な物体として映っていた。

 それぞれかなりの重量に耐えられるので数人の職人が乗ったくらいではビクともしない。

 魔法文化が浸透しているに相応しい風景が広がっていた。

「例えば上の物体を停止させたあと術者が消失しても『永続化(パーマネンシー)』の効果が効いていれば浮遊し続けられる。その物体は基本的に『重量が無い状態』になりますが、下から新たな物体を当てても一緒に動きません。連動させる方法は今はおいといて、物理的に無理に動かそうとすると壊れる可能性があります。土台がしっかりしていれば積み重ねによっては浮遊する建築が可能となる、と思います」

 魔法を解呪すると一気に瓦解するおそれがあるので外部からの攻撃を万全にしなければならない。

 『懸架(サスペンション)』の魔法の制限を突破するには新しい魔法を開発する必要がある。

 巨石が浮く風景をヤントラは見たことがあるが、あれは魔法制限を越えた重量があるはずだ。

 特別な素材が使われているのかもしれないし、単に『仕様』だからという身も蓋も無い代物かもしれない。

 浮遊する自然物を人工的に作ることが出来れば苦労も軽減されるだろう。

「そうやって建築した場合、それぞれの限界重量がどうなるのか……。色々と勉強する必要があります」

 二つの石、それぞれの限界重量を仮に400キログラムとする。

 石を横並びにすれば重い物体を一つずつ乗せられる。だが、上下に積んだ状態だと合計800キログラムも一気に載せられる、と言うわけには行かない。

 石の重さは共にゼロ。400キログラム以上を積めば下に落ちていく、という仮定をしてみる。

 0に0を重ねた上で400キログラムを乗せれば落ちてしまう、かもしれないというものだ。

 普通なら引き算されるはずだが限界値に達してしまうと解呪されるおそれがある。

 仮に引き算が通用するとしてもどこかしらで重量が蓄積されるかもしれない。

 二つの物体が合わさると一つの物体として扱われるのではないか、という思い込みがあり、無駄な事をしているような気分になる。

 魔法は色々とおかしな効果を生む。万能に見えて欠陥があるかもしれない。

 不安要素としては重量ゼロの物体を重ねるところだ。その上で重量オーバーの物体を乗せれば一番下に負荷がかかる、はずだ。

 空想と現実に齟齬(そご)が生まれればどんな事態になるか分からない。その上で色々と実験をしていき、不安を一つ一つ解消していく。

 床と屋根の場合は空間さえ開いていれば床に400キログラム。その直上の屋根に400キログラムを乗せても問題は無い。

 つまり空間の確保さえ出来ていればいいわけだ。

 一個の物体の総重量合計が800キログラムオーバーしないかぎり。

 それも個別に『懸架(サスペンション)』をかけていけば問題は解決するのだが、膨大な数に挑戦するのは未知の領域だ。

 それに『永続化(パーマネンシー)』はコストを払わなければならない。こちらは対象によって金貨の消費が変わるらしいが経験値消費型ならとんでもない労力だ。

 城クラスの建築ともなれば労力の大変さは変わらないのだが、膨大な金貨に感謝しなければならないだろう。

 重すぎる物体は魔法をかけてしまえ、と思ってしまうが重量制限を越えた物体には意味を成さない。というより500キログラムを超える物体は家一軒まるごと運ぶようなものだ。

 個々の細かな物体に分けた方が安全だろう。

 金貨の山のように積み上げでもしない限りは充分な空間の確保は必須だろう。

 その辺りは暇な時間にンフィーレアに研究してもらう。生活費として金貨百枚を前金として渡しておいた。

「自分で研究する手間が省ける。しばらくは君に任せるよ」

「ありがとうございます」

「……植物や薬草は根こそぎ持ってこなくて良いからね。実験としていくつか必要なだけで……」

「エンリに伝えておきます」

 毎回、規定の量を提出しなければならないわけではないのだが、たまにどっさり届く事がある。

 急に薬草採取がはかどる様になったエンリは農業分野で目覚しい活躍をしているらしい。

 完全に人食い大鬼(オーガ)より強く、近隣の都市では『覇王』の異名が付けられた。

 カルネ村で突出しているのはエンリ達だけであり、村人や利用している冒険者達は普通だった。

「総合的に力は強いが生粋の戦士より強いかと言えば微妙なところだろう。チームを組まれれば負けるかもしれないよ」

「戦闘ではそうでしょうが……。あの特訓は凄いんですね」

「経験を積んだだけだ。技術は本人の努力次第だよ。魔法だってしっかりと自分の身体に馴染ませないと使いこなした事にはならない」

 一流のプレイヤーは一夜漬けのパワーレベリング相手に負けたりはしない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 繁殖用の牛も少しずつ増えてきた。

 イビルアイが様子を見に来た時は地下を見学させた。

 今までゆっくりと見る事の出来なかった収穫物に驚きはあったが内臓類が少ないので少しは安心したようだ。

 眼球じゃなくても耳でも良かった気がするが、どの道、部位には違いが無い。

「見慣れてくるとそれぞれ綺麗に整頓されているように見えるから不思議だ」

「地下一階はこれほど置く気は無かったが、月という目的地が出来たから住人を連れて行こうと思ってね」

「方法さえ教えてくれれば私が管理人になってもいいぞ。長い時を過ごすのは慣れている」

 戻れなくなるのはさすがに勘弁願いたいが、と続く。

「どの道、一度は行って施設を作らないことには始まらない。行き来が出来るかはまた研究しなければならないだろう」

 イビルアイはその場に平伏する。

「どうか、勝手に居なくならないでほしい」

「行くときは声をかけるよ」

 ヤントラはイビルアイを立たせた。

「出来る限り寂しい思いはさせない。私の方が寂しいのかもしれないが……」

 イビルアイの心遣いに感謝しつつ他の部屋も見学していく。

 最近手に入れたモンスターや獣人(ビーストマン)の状況も。

「敵性モンスターも適度に居た方が冒険者ギルドとしても仕事が増えて助かるのではないだろうか」

「迷惑行為にはなるだろうな」

 モンスターの発生率が多ければ少なからず冒険者の実力が上がるだろう。

 この施設は確実に力量を上げるにはうってつけだ。だが、利用方法に色々と問題が残っている。

 膨大なモンスターを用意できる人間が今のところはヤントラただ一人。

 迂闊にアンデッドなどを入れると施設の崩壊に繋がるおそれがあること。それらを認識した人間でなければ運用は難しいだろう。

 この宝物庫最大の秘宝である金貨の存在に惑わされない無欲な人間が必要だ。

 宝の山でも平気そうなのは何人か見つかるだろう。

「……これはどうすれば持っていけるかな」

 一枚一枚に魔法をかけていたら気が遠くなる。

 『無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)』に入れるにしても相当量は必要だろう。

「そうそう。イビルアイも魔法開発などでアイテムが必要なら進呈しよう」

 手を叩いて合図を送ると数人のメイドが現われる。そして、一部のアイテムが納められている棚をシーツで塞ぐ。

「開いている部分が安全なものだ。研究用としても一部を持っていっていいよ」

「いいのか? 物凄く貴重な金属もあるだろう?」

「ンフィーレア君とかリイジーにも必要だろう。今は使わないから。他人任せの丸投げ野郎だし」

 無責任と言うよりは適材適所に任せている部分がある。

 イビルアイはヤントラから大きめの箱を受け取り、めぼしい素材を集め始めた。

 箱の中には混ざらないようにいくつかの小瓶が入れられていた。

 以前よりも溜まっていたとはいえ魔法金属は高額な資金を投入しても簡単に手に入るような代物ではない。

 それがこの宝物庫にはたくさん転がっている。

 もちろん無尽蔵と言うわけではないのだろうが、桁違いの錬金術に素直に脱帽だ。

 折角の好意に甘えたが大切に使うことを誓う。

 シーツで塞がれたところには転職アイテムやデータクリスタルと呼ばれるアイテムがあり、生産系スキルを持っている者専用になっていた。

 収穫し終えたイビルアイと共に地上に上がる。

 巨大な穴に職人達が足場を登り降りしていた。

 銅版の埋め込み作業と下水道の整備。一部は外壁なども作られていた。

「掘削作業は彼らが担当しているのか?」

「そうだよ。改造は出来てからだ。基本的な部分はほぼ任せている」

 大まかな部分は職人に任せるのは理解できるが、地下一階部分のおどろおどろしい雰囲気はどういうわけだろうとイビルアイは首をかしげながら疑問に思う。

 一通り中を歩かせてもらったが格子状という以外は妙な部分は無かった。

「我々が倒した以上に凶悪なモンスターとはいったい……」

「変な詮索はしないように。私が見張っている限り何も起きませんよ」

「うう……」

「あ……、でもイビルアイには一部教えてしまったか……。これ以上の詮索は君を二十歳風の身体にしてしまうよ」

「二十歳っ!? そうすると……、胸がドバーンと出て美人になるということか?」

 胸の無い幼い肉体から開放されたかった。

 年相応となると老婆か白骨死体にしかならないのだが。

 背が高くて胸が多少は大きな女性になりたいな、と少しだけ夢想する。

「ぜひ!」

 女は欲深い生き物だ。と、力強く思うイビルアイは絶叫に似た返事をする。

「仮面はどうしますか? まだ被っていますか?」

「……おのれ卑怯な……」

 ノイズがかった声には慣れているのだが、本来の声も聞きたくなる。

「人体を意のままに操る危険なモンスターで、申し訳ない」

「おぅ……。いやまあ……、色々と無茶なお願いを聞き届けてくれたのだから……、多少は目を瞑るよ。クレマンティーヌの件は驚いたが……」

 目の前でいきなり老化するのは心臓が止まっているイビルアイとて悪寒を感じるほどだった。

 逆に若返りはとても安心した。

「むしろ、あれは私にやってくれて良かったのに……。クレマンは普通の人間として扱ってほしい」

 人を殺すことが何より大好き、という点は未だに好きになれないし、たまに情報屋を殺すのはやめてほしいものだ。

 他の国で情報を探っている貴重な人材が居なくなると、また雇いなおさなければならないからだ。

「人体実験は私が引き受ける。仲間は後に回してくれ」

「イビルアイでは効果が不鮮明だろう。クレマンティーヌを安易に殺したりはしないよ。彼女も大切な仲間だ。……私は人を大切に出来ていないけど……」

 検証は必要だ。

 それを行(おこな)う事はかなりためらわれる。

 複製の複製ならば遠慮はしないが、オリジナルは唯一の存在だ。とてももったいない。

 

 イビルアイと共にまた地下一階に降りた。

「無難な部分は見せたが、私にも見せたくない部分がある」

「口が軽ければ……、殺してくれと言っては駄目だよな」

 命は大切にしなければならない。安易な自害は選んではいけない。

 イビルアイは己に言い聞かせる。

「……仮面を取ってメイド服を着よう。……城に行くときは普段着でいいですか?」

 最後の言葉は可愛く言ってみた。

 最後までかっこよくはいかないようだ。

「戦闘メイドのメイド服を着てもらおうかな」

「戦闘メイド? どんな服だったっけ?」

 自分が覚えている範囲ではアルファとベータとエントマという者くらいな気がした。

「それも用意してあるので、まずは装備品を見ますか」

 地下一階に置いている特別な武具の保管室にイビルアイを案内した。

 奥まった場所にあり、たどり着くには雰囲気に耐えなければならないほど遠くにあった。

「似せたものなのでイビルアイが着ても問題はありません」

 部屋の中を見せるとイビルアイは感嘆(かんたん)の吐息を漏らす。

 様々な武具が壁に陳列されていた。

 武具の保管部屋は他にもあるらしい。

「あの防具類が戦闘メイド用なのか?」

 イビルアイが指差す方向には木で作った人型に防具を装備させたような形になっていた。

「そうです」

 見た事のある形なのですぐ分かった。それら以外にも並べられていたが、改めて見ると見事な造形だった。

「イビルアイならデルタもいいですが、ガンマの装備もいいですよね。椅子に座りにくそうですが……」

「……足が長そう……」

 今の自分の体形では似合わなそうなものばかりだ。

「ここにある武具は……、本物ではないよな?」

「似せているって言ったと思いますが?」

「あ、ああ! そうだった。見事なものばかりなので失念していた」

「記念に作ってもらったものばかりですから、実用的に使う予定はありません」

 一通り見渡したり、手にとって確かめたりした。

 それぞれオリハルコン以上の材質で出来ているようだ。

 今回は見るだけにして諦める事にした。

 続いて訪れた部屋には『意外』と『思った通り』という二つの感情が渦巻いた。

「……これが原点ということか……」

 イビルアイが見つめる先にある容器には女体が入っているのだが、首が切断された状態になっていた。

 夜中に見せてもらった巨乳の持ち主。

 今はその女性の全てがあった。

「首はどうして……」

 他の容器には首を切断したようなものは見当たらない。

 イビルアイの疑問にヤントラはどう説明したものか考えあぐねていた。

「あっ、見せたくないものを見せてもらっているのだったな……。申し訳ない、ご主人。あまり詮索はされたくないだろうに……」

「そう言ってくれると助かります。……見つかると処分されそうですが……。今は内密に願いますね」

「分かった。……それと身体の方は遠慮なく試すがいい。……私も意外と口が軽いかもしれないから」

 罰というよりは豊満な肉体に少し興味があった。

 成長しない身体なのだから。だが、化け物は勘弁願いたいところだ。

 あまり長居していると周りに触れ回りそうだし、折角の施設が崩壊するのも色々と困るから地上に上がる事にした。

 人体変異の魔法ということにすればヤントラに余計な心配はかけないかもしれないと判断した。

 王都に戻る時に希望の体形を伝えておいた。

 体形が戻る保障は無い、ということをヤントラは伝えた。

「少しずつ変化させればいい。その間、みんなに伝えておく」

 イビルアイは家に居るメンバーに自分の体形の変化を伝えていく。その間に少しずつ希望の数値に近づけたり、戻そうとしたりしてみた。

 最終的に背丈はティア達より高くなり、胸と尻は適度に張り出したスタイルの良いイビルアイが完成する。

 話しているうちに成長する仲間にティア達は驚いたが、急激な老化に比べれば可愛い方だった。

 成長の止まった人間には成長する喜びはなかなか伝えられない。だが、イビルアイはとても嬉しかったようだ。

「もう死んでもいい……」

「こらこら」

「イビルアイ。急な変化は情緒不安定になりやすい。後で戻せない事もある」

 変化した後で言っても説得力は無いかもしれないが、改めて注意しておいた。

 それでもイビルアイは自ら得た身体に喜びを感じていた。

 髪の毛も長くなっていた事に鏡を見てから気づいた。

「大丈夫。充分すぎる。これ以上は望まない」

「……脳筋を美人に出来る?」

「んっ? 骨格までは……無理だろう。本当に化け物になってしまうかもしれないよ」

「……手遅れか……」

 体形の微妙な変化は難しい。

 身についた筋力をそぎ落とすような事も出来ないだろう。

 こんなのガガーランじゃない、と言われそうな予感しかしない。

「戻せなくてもいい。自ら望んだ事だ。極端な変化でもないが……、ゆっくりと慣らしていくよ」

 鷲掴みできるほどの胸。長くなった足。長い腕。

 顔はあまり変化していないがそれほど違和感のある顔でもないからいいか、とイビルアイは姿鏡の前で色々と確認していく。

 本来ならば充分な成長が出来ただろうに、と諦めていた。それが手に入ったのだから嬉しいに決まっている。

 イビルアイは文句を言わずに大切にしようと思った。

 メンバーから不評が出るかと思っていたが意外と受け入れられた事に少し驚いたくらいだ。

 もちろん、ルリマリスは人体を意のままに操るヤントラを恐れてはいたが、それは彼自身も理解しているのだから仕方が無いだろう。

「異形種になる転職アイテムがあるくらいだ。それに比べれば可愛い方だろう」

「リリーまで人体改造しろ、とは言わないよ」

 森妖精(エルフ)を闇妖精(ダークエルフ)にする話しはさすがにヤントラも聞いた事が無い。あればあったで色んな混乱が起きそうだ。

「三つ子から十人姉妹に増えるのはさすがにビビるけど……」

「手足が増えるわけじゃないんだから、これくらいは許容してやろうぜ」

「……ちなみに手足を増やす事は出来るのか?」

「錬金術師(アルケミスト)系のスキルにそれらしいのがあった気がしますが……。出来ない事にしましょう」

「……おう、あるのか……」

 身体から腕を生やしたり、触手を出したり、翼を生やしたり。

 もちろん解剖やクローン作りもある。

 攻撃では様々な薬を作り出せるようだが、意外と製作系は苦手だ。

 そもそもどうやって作るのか。

 知識としてはあるようだが、身体が動かない。

 金貨を消費してあれ作れ、これ作れと命令するだけならば可能のような気がするのだが、魔法とは違って難儀している。

 魔法が出来て特殊技術(スキル)が出来ないのはアバターや世界との齟齬(そご)なのだろうか。

 調理が出来るので料理人(コック)の特殊技術(スキル)は使っているはずだ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 イビルアイは城に向かい、自らのお披露目(ひろめ)をして認知させていった。

 その間、ラキュースは子育てに専念し、王やクライム達に子供を紹介したり領地についてや大貴族への参加などを相談していく。

 急激な変化にリ・エスティーゼ王国は疲弊していたが少しずつ持ち直していった。

 帝国側から戦争再開の知らせは来ないのだが、理由造りに忙しいのか、アインズ・ウール・ゴウンに手を焼いているのかは分からない。

 彼女たちが働いている間に物体の浮遊について研究を続ける。

 『永続化(パーマネンシー)』のお陰で数日経っても落下しなくなった物体に更なる魔力注入を始める。

 『魔法最強(マキシマイズ)位階上昇化(ブーステッドマジック)』と魔力譲渡を繰り返してみた。

 見た目は普通の折り畳んだタオル。それに現在は単純計算で50トンほどの物体を乗せている。

「小さなタオルにこれだけの箱を載せて微動だにしないとは!?」

 ンフィーレンは危険を顧みず、タオルの近くで観察を続けていた。

 好奇心は危機意識より勝っているようだ。

「これなら空中に城も作れるかもしれません」

 様々な重量分散技術が居るだろう。それを抜きにしても不可能ではない事にンフィーレアの胸は躍る。

 『飛行(フライ)』に関しては違う術者の接触でも可能だと判明。

「……こういう実験は帝国でやった方が喜ばれそうだね」

「あー、そうですね。バハルス帝国は魔法の研究が盛んでしょうから。僕としては未知の領域を目撃できて嬉しいです」

 生粋(きっすい)の魔法詠唱者(マジック・キャスター)というわけではないけれど純粋に研究者として好奇心が刺激される。

 祖母のリイジーも生き生きとしていた。

「彼女が望むなら若さを与えたいが……」

「そんなことが出来るのですか!?」

「膨大な魔法の中には不可能を可能にするものがある。不老不死はさすがに……、アンデッド化ならありえるが……。異形種にするアイテムがある。人間辞めるなら不老は……、一応は可能だ」

「……化け物はちょっと……。……アイテム類を触らせないのはそのためですね。元に戻せないんでしたか?」

 実際にアイテムを使って異形にして試した結果は種族レベルが1だけ残り、他のレベルが肩代わりする形になった。

 仮に人狼(ワーウルフ)のレベルが五のルプスレギナを殺害したとすると様々な種族に変化しつつ人間になったりはしない、ということだ。

 亜人も生まれ持った種族レベルは消せない。

 獣人(ビーストマン)として生まれたものは普通なら一生獣人(ビーストマン)だ。

 探求者の多くはアンデッド化し、研究を続ける者が多い。

「出来れば、おばあちゃんは人間のままでいてほしいです」

「望めば何でもやってしまうと思われがちだが……、種族の変更はさすがにためらうよ」

 不老の話題を切り上げて片付けに入る。

 

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