ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
地下に潜って作業する事が多いせいもあるし、部下を持たないこともあって世界では何が起こっているのか知るすべが殆ど無い。
ラキュースにその辺りはどうすればいいのか訪ねてみたが冒険者ギルドに行くのが一番良いとされている。
自国の冒険者は各都市に向かい、色々な情報を得ている。他国に関しては旅行と言う名目で情報収集に当たる事もある。
「数日中にアインズ・ウール・ゴウン魔導国で各国の代表を交えた会食パーティがあるそうよ」
「……急な話しに聞こえるな」
殆ど宝物庫に居るヤントラなのだから仕方が無いとラキュースは苦笑した。
「あそこは都市化の計画も立てられているようよ。いつも行っているようだから知っているかと思っていたのだけれど」
「私は所詮第九階層のお得意様さ。エ・ランテルを開発するのかと思っていたよ」
「
そのモモンにイビルアイは会いに行き、成長した姿を自慢したらしい。
仮面は付けたままだが青いローブはちゃんと身につけて行った。
「今のところ施設に居るモンスターはちゃんと管理しているが、外に変わったモンスターが現われたりしているか?」
「自然界のモンスターは出てくるけれど、凶悪と呼べるものは都市には出てこないようね。悪魔とか何処へ行ったのかしら」
平和なのはいいがモンスターが現われないと冒険者の仕事が激減する。
森を開拓するわけにもいかない。
カッツェ平野やエ・ランテルは自然発生するアンデッドが居るので、そこでの仕事はまだあるが遠征するのが大変だ。
「アンデッドだからと気にしすぎてはいけないが……」
「……思い込み過ぎないようにするわ」
さすがに人肉料理でもてなしたりはしないだろうが、嫌がらせをする可能性はあるかもしれない。
その場合はエンリ達を連れて行けばいいだろう。タレントでもそう答えるはずだ。
地下にも子供たちの託児所を用意し、イビルアイに会食の事を尋ねてみた。
「うむ。先日辺りに
「
「毒見くらい何でもない。毒無効のアイテムでは心許ないとか?」
自分の身体ならばあらゆる毒は無効化できると自負している。そんなイビルアイに頼むのだからただ事ではないかもしれないし、警戒を怠るな、という意味かもしれない。
「心配事はこっそり人肉を混ぜないか、というものだ。毒はまだ優しいが……」
人肉料理は毒無効では対処できない。
イビルアイならば食べたら
鳴らない喉が鳴りそうな予感に自己嫌悪してしまう。
人間の新鮮な血液は今の自分にとってご馳走と同等だから。もちろん、血肉も美味と感じられる。
一部の
「そ、それは……、まずいな……」
無理に食べたいわけではない。罪人の血を吸う事もあるのだから。
それでも食欲という欲求から逃れられない事は事実だ。
絶対に人肉や血を得なければならない、というわけではないが禁欲なものほど身体は反応してしまう。
「自制が効かないなら、材料を提供するぞ」
その材料は複製された者達。それらならば自制も効きやすいだろう。
「命を冒涜している気がする。……だが、それは少し待ってほしい」
集められる者達の安全を考慮しての事ならば我慢できる。いや、我慢しなければならない。
国の代表者を罠にかけないための手段だと思えば自分の身体を使うことにためらいは不用だ。
「相談させてほしい」
「もちろんだ。
「うむ」
「現場にユリが居ればこっそりと二人きりになってごらん」
ユリと聞いてイビルアイが浮かぶのは胸の大きい女体だ。
顔よりも胸が先に浮かぶ。それから両手に無骨な棘付きガントレットを装備した姿勢の綺麗な女性の姿が現われる。
「そ、そのユリ女史に何か伝言でも……」
いや、違う。とイビルアイはすぐさま否定の思考が脳裏に駆け巡る。
容器に入っていた首の離れた女体の姿が浮かんだ。
「確認作業だ。ユリに何者か尋ねるといい。そうすれば容器の謎が解ける」
あの容器だけだ。首が断ち切られていたのは。
「う、うむ。だが、確認していいのか?」
「要望に彼女が応えるかは分からない。だが、相手を知ることは大事だろう。それと伝言だ。彼女でもアインズでもいいが、私は意外と余計な情報は
「分かった」
「隠れる心配が無いならナザリック側も出せる情報は出してほしいと言ってみるといい。その上で仲良くするのか、最終的には皆殺しなのか。友好的になれる条件などを
「関係者各位に相談しておこう。ご主人の心遣いは感謝する」
「君に嫌な役をさせてしまうね」
「ラキュースは人間だ。それは仕方あるまい。まして彼女はナザリックの求めに応じる立場もある。それぞれ自分に出来る仕事をするだけだ」
ラキュースに人肉の毒見など出来るはずがない。
同じ人間であったなら嫌な仕事はヤントラ自らするだろう。しかし、ナザリック側はヤントラを拒絶する。
余計な人間、というか手の内を知られた人間は色々と不都合だろう。
特にアインズとは仲が悪いのだから。
居れば人間側には都合がいいのだろうが、相手に要らぬ事をベラベラと喋られては気分を害してしまうかもしれない。
「あ、宝を見せろ、とか言ったら駄目ですよ」
「
「話しは変わりますが……。身体に異常は無いかい?」
「んっ? 特に問題は無いぞ。急激な成長による骨格や筋肉、皮膚なども馴染んでいるようだ。胸も訓練には邪魔にならない」
クレマンティーヌよりは小さいが不満は無かった。
あまりにも巨乳だと運動に差し支えてしまうだろう。
ただ単に手足が長くなったわけではなく、全体的に調整されたような自然な体形になっていた。
顔つきも大人っぽく見える。
「……元には戻せないかもしれないが……。充分生きてきたのだから文句は言わないさ」
「仮面は取らないんですね」
「ああ、これはクセだ。それにまだ素顔を見せる事に抵抗がある。あと、仮面を被っていないと本人だと分からないだろうし」
それ以前にメイド服を着る約束を守っていない事を思い出した。
黙っている代わりに仕事はきっちり努めることを約束した。
あくる日、我が子の面倒をメイド達に任せて浮遊実験を試みる。
最初に魔法を使った物体は今も微動だにしない。
物体の重量と乗せる重量の合計が限界重量を超えた場合は落下する。
城などを作るには軽くて丈夫な素材で作る必要がある。
小さな物体で数十トンもの重量のある物質は見たことが無いので、極端に重い素材を使う必要は無いだろう。
外壁はオリハルコンやアダマンタイトの方が丈夫そうだが。
極端に体積を減らさなければ魔法の効果は持続する。つまり魔法の使用後に加工作業が
隙間に緩衝材も必要だろう。真っ先に浮かぶのは『黒い仔山羊』だが、
子供たちの名前は当初の案のまま男児がバスディオ、女児がトゥーレアとなっている。
ただ、サルヴァスパではおかしな雰囲気があるだろうから共にアルベインで統一しようかと打診。
最終的には『バスディオ・アルヴァ・デイル・アインドラ』と『トゥーレア・アルヴィ・デイル・アインドラ』と決定された。
一時間おきに様子を見る。
離乳食を与えたり、だっこしたり。
自分の子供とはいえ安易に目が離せない。
未知の能力を発揮して破壊を振りまくような事は今のところは無い様なので安心した。
「安易に赤子を作ってはいけないな……」
「生まれた命は大切にしましょう」
胎児生産などをしてきた手前、素直に喜べない。
ろくでもない親に似ないで元気に育ってほしいところだ。
母親に似る分には文句は無い。
実験の方は次の日に回して今日は子育てしながら工事の見学をすることにした。
既に三つの施設の床部分は出来上がっていて補強用の柱が設置されていた。
五百メートル四方ともなるとたくさんの柱が必要で上から見ると規則正しい格子状の景色がよく見えた。
金貨用は吹き抜け構造だから特に問題は無い。ただし、天井が広大になるのでかなり太い柱を高く作らなければならない。あと、柱の間を結ぶ補強工事も必要かもしれない。
金貨が擦れて削れないように柱周りは完成後にヤントラ自ら補強する。
落下防止の対策も必須。
残りは大人数の保管庫だ。
内装の都合で外部との行き来も可能にしておかなければならない。
出入り口は後で塞ぐ事は可能なので天井部分に取り掛かるまで任せる事にした。
次の日、タオルに数百キログラム分の重りを乗せていたものは今も浮かんだまま。
「……なんだろう……、施設作りが気になっていて子供に愛情を注げていない気がする」
「そうですか? 子供たちはヤントラさんを見て喜んでいるようですが……」
「親だと思っているのかな」
「思ってますよ、きっと」
食事に入浴、就寝もちゃんとこなしているのだから、育児が出来ないわけではない。
せいぜい授乳くらいだろう。
「そういえば、漆黒のモモンやアインズには会ったか?」
「いえ、モモンさんはここ最近は見ていませんね。ゴウン様はたまに来ます」
エ・ランテルを拠点としているとはいえモモンの活躍の噂がヤントラの耳に入らない。
凶悪なモンスターを倒しているらしいが目撃者が乏しい。
実力はあるのだから自作自演はやめてほしいところだ。
「地下に潜っていると世間の噂が耳に入らなくなるから、どうなっているのか気になってしまう」
「そんなに世の中は変わりませんが……。エ・ランテルは……魔導国の一部になったわりに平和ですよ。入国も普段どおりですし」
「一夜にして巨大な城が出来たとか?」
「いえ、変わった建物は出来てないですよ。ナザリックの方は都市化の計画が持ち上がっている、というくらいですね」
「……私は諜報活動には向かないようですな」
そう言うとンフィーレアは苦笑した。
物凄い人なのに色々と弱点があって面白いと。
資材の搬入などで時間がかかる時はヤントラが運び入れるので工事は順調に進んだ。
通常の工期ならば数年がかりのところを数ヶ月で終わらせる。もちろん手は抜かない。
作業員を無理強いする事無く、淡々と進める。
夜間の作業にいたっては無数の『
必要な道具すら用意する。
楽して金儲けを企む作業員が出ても不思議ではないところなのに処罰される人間は殆ど居ない。
名簿の作成で行方不明者が出ることも無く。
突然の病気で命を落とすような人間でも無い限り、死者は基本的に出ない。
大きな工事には命の危険もあるのにヤントラが依頼した仕事では目立った事故は起きないと工事関係者の中ではちょっとした噂として有名になっていた。
現地の言葉をだいたい理解しているヤントラに明細書の不正が通じにくい。
資材の諸経費を除き、職人達の手当ては徹底的に管理されている。というよりは払える金額を最初に決めている、という点があるかもしれない。
低予算過ぎては困るので諸経費の勉強はちゃんとする。
無理な仕事はさせない。無理しても駄目。
やる気のある人には給金は多く支払われるが不得手の人間には誰かが手助けするように言っている。
そして、職業訓練もかねている。
無能な人間だろうと排除はしないが請け負った仕事に責任を持って当たらせる。それがヤントラの教育理念のようだ。
多少のサボリは見逃す。代わりに誰かが働くだけだ。
作業中の事故の時は何処からとも無く仮面を被ったメイドが現われて助けに来てくれる。
地上に戻るときも数十人のメイド達が魔法を駆使して送り届ける。
ケガをすれば癒してくる。
親切な反面、監視要員と思われているので不正が出にくい。
手篭めにしようとする輩も居たが、いとも簡単に組み伏せられる。
「途中で逃げ出した場合は捕まえるんですか?」
「一応、理由を聞いて開放するよ。拷問室があるって知ってるから罰を受けるかも、と思われているようだ。そういうことはしないけどね」
苦笑しながらンフィーレアに言った。
「こちらも必要な施設を作ってもらうのだから誠意を持って対応しているだけだ。……給金にも色はつけるよ」
「これだけの施設を作る上で不正や抗議運動とか
血の気の多い人間が集まっているはずなのに指示に従っている人がとても多かった。
ケンカの一つでもあるかと思っていたし、弱いものイジメもあるのが普通だ。
「メイド達に監視させている、という名目を言いつけてあるからかな。食事と寝床を無料にしているし、一部の資材は私が直接手に入れている。多少、賃金が削減されていても文句は言わないでほしいな」
低賃金で重労働。というわけではなく、健康面や風呂場の存在もあり清潔な環境で作業をしているのだから文句は出にくい。
貧乏貴族だから、という触れ込みもしているせいだろう。
他の施設への侵入は阻止されているので悪さも出来ない。
一般人には鉄壁の施設だ。それを自分たちが作っているとは思えないほどに。
「ンフィーレア君はカルネ村に居なくて大丈夫かい?」
「はい。午後には帰りますから」
カルネ村から通うが無理に呼びつけているわけではなく、研究と祖母の様子を見るために来ている。
一泊する事もあるし、帰りに襲撃されないように気をつけている。
今のンフィーレアの実力ならば少し前のアダマンタイト級並みには強い。
適度にスキルや魔法による防衛も訓練している。
リイジーの様子を見た後は実験農場も視察する。こちらはエンリも様子を見に来る。
購入した牛たちの様子も適度に見ていく。
「地上の倉庫が邪魔になってきたから移動実験もしてみようか」
相当量の資材が保管されている倉庫をンフィーレアは覗く。
一階部分は重量のある鉱物資源でかなり埋まっている。
二階部分は稀少鉱物を入れた箱がいくつかあった。
「これらはナザリックに持っていくんですか?」
「大半は持っていく。受けた恩は返す。資源をだいぶ提供してもらったからね」
今も届く指輪や容器に溶液類。
鍛冶師の施設も欲しい所だが、灼熱地獄と化しそうなので諦める。
それらは月に実際に行ってから考えようと思っていた。
「今日は早めに切り上げて冒険者ギルドに行こうかな」
「特訓続きでしたものね。僕はおばあちゃんの様子を見たら帰ります」
浮遊の実験も大事だが祖母の様子も大事だった。
ヤントラはもうすぐ次のランクに昇格する試験を控えていた。
辞めてもよかった気もするが続けられるうちは頑張ろうと思った。
仲間がアダマンタイト級しか居ないし、ルリマリスは気弱でナザリックに迷惑のかかる事は出来ないので留守番が多い。
膨大な資源を費やして様々な防具やアイテムを注文した後は武器は適度な数を頼んでおいた。
ナザリックを襲撃する気は無いとしても今は充分に攻め込めるだけの数が揃っている。
単純に制圧するだけなら出来そうな気はするが、他人の拠点を奪うような戦いには参加したことが無いし、攻めるなら知らない拠点にする。
目標としては空中都市があるという南方の砂漠地帯だが、今はまだ施設などが心配なので向かえない。
一番遠い都市から順番に様々な人材を確保していく。
市民だったりギルドの受付嬢だったり、店舗の人間だったりと様々だ。
冒険者ランクを一つ繰り上げて銀プレートになってもやる事は変わらない。
パワーレベリングが出来るのであれば効率の良い方法も当然出来る。それはもはや世界の真理に触れる行為だろう。
そうして各都市を攻め落とす勢いで突き進む。
もちろん、うっかりミスの無いように慎重に進めていくのだが、単調な作業は精神的にも結構な重労働だ。
適度な休息を取ればヤントラは一般人よりは耐えられるので問題は無い。
エ・アセナル。
リ・ボウロロール。
リ・ウロヴァール。
リ・ブラムラシュール。
職人やギルド関係者と冒険者の一部は三日ごとに集められていった。
リ・ブラムラシュールはラキュースが接収する予定の大都市でトブの大森林にも近い。
モンスターの発生率が高く冒険者の仕事も多い。
改名すると『リ・アインドル』となる予定らしい。
女性の大貴族で伯爵位を
有事の際以外は冒険者として戦う事は無く、爵位を受けたと同時に引退する旨は伝えていた。
時が経つのは早い。
魔導国での各国首脳を交えた交流が始まる月でもある。
ヤントラはそんな事は構わずに次の都市を制圧中という。
海沿いのリ・ロベル。
海の魔物に会えるかもしれない、という期待があった。
この世界は魔法文化が発達しているので色々な常識が地球とは違う。
海の水が真水で塩辛くない。
塩分は『生活魔法』と呼ばれる第零位階で出すらしいのだが、こちらはユグドラシルには存在しない位階などで少し興味があった。
MPの消費は第一位階と同等のようだ。
肉に青い液体をかける。など、突飛な料理が存在したりする。
味の分かるヤントラでも食べられないほどではないのだが、見た目の印象が自分の知る常識と違うだけで食欲が減退する。
もちろん今は食べられる。
モンスターがはびこる世界なのだから妙なものがあっても不思議は無いだろう。
都市の採取を終えてから海に挑戦する。狙うは
気持ち悪いのと巨大なものは諦める。
水辺の生き物を持ち帰っても浴場で遊ばせるくらいしか出来ない。
あとは食料くらいだろうか。
ざっと『
船を襲うモンスターとしては
未知の深海生物も興味はあるのだが、深く潜るには色々と準備が必要だ。
海上に浮かぶモンスターは特に見当たらないので引き返す。
多少は潜らないと駄目だろう。
岩礁の多い場所など。
海専用のアンデッドモンスターももちろん居るだろう。
海洋生物も新天地には必要だから、今日のところは諦める事にした。
続いてエ・ペスペル。
各都市を三日ずつかけて獲得した獲物を施設に運び込み、整理していく。
それらが終わる頃にラキュース達は王国軍を率いてアインズ・ウール・ゴウン魔導国が獲得したエ・ランテルに向かった。
魔導国の呼びかけに答えたのはリ・エスティーゼ王国。スレイン法国。バハルス帝国。
人間主体の国家が多いせいか、亜人の国からは誰も来ないようだ。
来たらスレイン法国に狙われてしまう、ということもあるのだろう。
大々的な催しは魔導国で行われるが最初の一日はエ・ランテルに集まってからの移動となる。
魔導国は建国して間もないので地図に記載されていない。
迷ってはいけないという配慮から、エ・ランテルから案内される事になっていた。
道中の安全は国の騎士達とアダマンタイト級冒険者、ナザリックからのアンデッド兵が確保していた。
規則正しいアンデッド兵に王国と帝国以外の国は動揺していたが見慣れた二国が説明する事で混乱は最小限に抑えられた。
スレイン法国は逐一本国と連絡を取っているようだが口封じはされなかったようだ。
今更隠しても仕方が無い、とナザリック側が判断したのかもしれないし、敵対するなら迎え撃つだけだと決めたのかもしれない。
エ・ランテルから魔導国の入り口たる霊廟に仮設の宿泊施設が設営されていく。
入場するのは代表者と一部の護衛の兵士と騎士、それとアダマンタイト級冒険者数人だ。
残りの者達は地上で待機する事になっていた。
カルネ村にも協力を要請していて食料の運搬。冒険者などの監視はつくが宿泊施設も借りていた。
戦争とは関係がない事と帝国側が四騎士の一人を使者として向かわせ、誠意を込めて協力を打診してきた。これにはルプスレギナも許可を出したのでエンリは彼らを受け入れる事を承諾した。
ガゼフの部下の兵士達も帝国側の監視要員として滞在することになった。
滞在するのは帝国と王国以外の国も居るので虐殺行為はさすがに取らないだろう、という意見があった。
「村の食料については任せて」
「代金も受け取っているから君たちは……、料理だけ手伝って」
「はい」
忙しい一日が始まる。
各国の首脳陣が集められたのは第九階層ではなく第六階層だった。
村の建設も一段落が着き、今日は野外のような明るく開けた場所で顔を突き合わせることになった。
第九階層は仲間達の寝室があり、第十階層は会食するにはあまり適さないところだった。
シモベとメイド達を動員して特設会場の設営、食料の運搬でみんな生き生きとした笑顔だった。
宝を披露すると侵入者を差し向けられるおそれがあるのでアインズとしては質素な雰囲気を演出してみた。
第一から第三階層は人間には空気が悪いだろうから却下し、残る階層も客人を迎え入れるのに相応しくないので却下した。
どう考えても第五階層で会食できるとは思えない。
凍死者の山が築かれるだけだ。
先行して各国のアダマンタイト級冒険者と宰相などが辺りの調査を始める。遠くに行くと大型の魔獣
ラキュースとルリマリスは訪れた事があるのである程度の説明をする。
「地下にこれほど明るい場所があるとはな」
「この地はアインズ様の仲間たちが作り上げた空間だそうで、細かい原理は分かりませんが夜空を演出する事も可能だとか」
「つまり天井の空は偽物だと?」
「そうなりますね。時間によって変化する仕組みがあるそうです」
第六階層は獣のモンスターが多く徘徊しており、空中にも居る。
迂闊に飛んで襲われても文句は言えない旨を伝えた。
メイド達も作業の合間に質問に答えていく。
トイレなどもしっかり完備しているので急なもよおしにも対応できた。
バハルス帝国皇帝ジルクニフは第十階層には来たことがあるが、他の階層を見ていると新鮮な気持ちになれた。
側には裏切ったとされる伝説の
帝国の上層部では良い顔はされていないが外交の面では色々と知恵があるので皇帝は口出しはしなかった。
そのフールーダに帝国の一般生徒達が第五位階まで扱えるようになったと伝えるとたいそう驚いた。というか信じてもらえなかった。
「ほほ、私が居ない間に帝国では面白い事になっていたとは……」
「第五位階とはいえ知識は必要だ。また
「師の許可が下りれば考えておきますぞ」
このジルクニフの近くに少女がかけよる。
姿は幼いが竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスだった。
「凶悪なモンスターが多数居ると聞いていたが、ほとんど見当たらないな。空以外、かもしれないけれど」
辺りを見回していた女王に一人のメイドが近づく。
両手に棘付きの無骨なガントレットを装備した黒髪の夜会巻きにレンズの無いメガネをかけた厳しそうな顔つきの女性だった。
「この度はお客様をもてなすためにモンスター達を森の奥に控えさせていただきました。どうか、安心しておくつろぎ下さいますように」
「そ、そうか。うむ、分かった」
美人のメイドなのに身につけている装備が戦闘用のように見えて、驚いた。
「大勢のお客様がお越しなので準備にお時間がかかっております。既に主も皆様方との会食を楽しみにしていらっしゃいます」
「うむ」
その主『アインズ・ウール・ゴウン』は会食用の服装選びに入っていた。
完全装備のラキュースと数人のメイド達により、衣服が選ばれている。
今の装備はアルベドが側に居ても少しだけ不快感が出る程度まで防衛できる優れものだった。
新たに耐性強化したアクセサリーを渡した夫に深く感謝した。
「アインズ様はお食事が出来ない身ですが会話を中心にされるならば問題はないかと。無理に人間に合わせなくても事情を察しますよ」
「そういうものか?」
「見下す部下は居ると思いますが気にするだけ不毛でございます。権力欲のあるものは大抵、相手を下に見るので……。それともアインズ様は他人の目が気になる
ラキュースの鋭い質問に無い心臓が跳ねる。
気になる。気にしすぎるほどに。
部下の言葉ですら気になってしまうほどに他人の意見には敏感だった。
「亜人の国があるくらいです。異形を気にされても仕方がないと思いますが」
後ろで黙って聞いていたアルベドも頷いていた。
「今回はスレイン法国の者も来ていると聞く。何を言われるか気になって仕方が無い」
親身になって相談を受けているせいか、ラキュースに素直に意見を言うアインズ。
既に子持ちの人妻であるラキュースにアルベドは多少の嫉妬は感じるが、人間としての意見を言っている彼女を責めたりはしない。
誠心誠意の対応は好感が持てる。
「一部とはいえ階層を公開し、
「好き好んで皆殺しにしたり、食料にはしない。……部下の一部は食料として欲しているのだが……、これはどうしたものかな?」
「罪人で
「んっ? あいつがか?」
ラキュースは名前こそ出さなかったが明らかにアインズの態度がきつくなったのを感じた。
「……怪しい錬金術で人体を作っていたりするようです。……
差し障りの無い単語を探して言ってみた。
「それは『
「は、はい。ご存知でしたか」
魔法に関してはアインズは本当に詳しい。
帝国で教壇に立てば素晴らしい教師になれるかもしれないと思うほどだった。
「肉でも人間には違いが無いか……。だが、うちの部下は悲鳴や苦悶の表情が好きな奴がいるからな……」
アインズの思い浮かぶ部下はろくでもない者達ばかりだ。
人間社会に溶け込む上では犯罪者はどうなってもいいが、普通の市民は安易に殺したくなかった。
その辺りの問題は頭を痛めるところだった。
「いかに
「……そうなのですが……、自制ができなくなった時は恐ろしい結果を生みます。それを少しでも和らげられる方法があるなら私も知りたいところでございます」
『血の狂乱』で命令の遂行に支障をきたす
自制もいつまでも出来るとは思えない、こともあるだろう。
「……これは興味からなのですが、質問してもよろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
「ナザリックの者達で人間を食べる者はどれほど居るのですか?」
「殆どアンデッドだから……。それほどは居ないな……」
ざっと浮かんだだけで二十人を超えるかどうかだった。
デミウルゴスの部下を除けばあまり居ないのが現状だろう。
「一般のメイド達を除けば……、二……三十人くらいだろうか……」
メイドは大食漢ではあるが人間を食わせろ、という意見は出てこない。ただし、食べられないわけではない。
悪魔系が一番で領域守護者が二番手となり、三番手は戦闘メイドだろう。
「
「あれらは食べない。飲食不要だ。食事をしない方が圧倒的に多いな」
アルベドも飲食は不要だが食事は出来る。人間は特に下劣な生き物だから率先して食べたいとは思っていないだけだ。
食べるより殺すことが大好きな者が多いかもしれない。
「
ラキュースはヤントラが保有する人間達はアインズの想像を超えるはずだろうという予測がついた。むしろ、
人間を安定的に得るならば複製体はとても重宝するはずなのに。
「アインズ様は人間を保有されないのですね?」
「んっ? 意外か?」
「はい。食料や実験として多く保有しているものとばかり……」
「アンデッドの実験で使うことはあるだろう。だが、このナザリックには本来、仲間以外の者は入れたくないのだ。今回招待した者達は国を作る上で外交などをするのに必要だからと催しを兼ねているだけだ」
部外者は敵しか居ない。そう思っていた。
同盟関係を築いたバハルス帝国の者を招き、他国と交流する事も今は必要だと思ったからこそ招待している。
もちろん余計な場所に向かわないように監視の目は緩めていない。
不可視化のシモベも物陰に配置しているほどだ。
「そういう事は我々は知りえません。勝手な侵入を嫌うのでしたら一言でも声をかけてくだされば……」
「……こちらにも色々と事情があるのだ。だいたいそっちはヤントラから色々と聞いているのだろう?」
「いえ、夫は大事な事はちゃんと秘密にする人です。言ってもいいことと悪いことは区別していると思います。敵対だけはしないように言っていたようです。モンスターと話し合いなど、と私も最初は思っていましたが……」
「バスパ様は他のモンスターと我々を区別してくださっていたのですね」
アルベドの言葉にラキュースは頷いた。
「シモベは倒していいと言っていたのですが……。シモベは仲間とは違うのですか?」
「あれらは死体を媒介にして呼び出す弱いモンスターが殆どだ。倒されても気にはしない。金貨を消費して呼び出す傭兵モンスターは階層の守護を任せている。問題は階層守護者や仲間達自らが手塩にかけて作り上げた者達は他のモンスターとはわけが違う。このアルベドも戦闘メイドも一般メイド達も仲間たちの思いがこもっているのだ。倒されようものなら全力で敵を叩き潰す」
迫力のこもった言葉にラキュースは息が詰まる思いだった。
それはヤントラが彼らを大事にするくらい熱意のこもった想いに感じられた。
「あいつは意外と秘密を守っていたのか。だが、ちょくちょく邪魔されているような気がするのだがな」
「アインズ様。バスパ様もナザリックのためを思って行動されていると思われます。戦闘メイド達に余計な損害が出ないようにされていたのでは? セバスの件も重大な規律違反にならないすべを与えていたようですし」
「……う~む。ま、まあ、建国には反対ではないようだったしな」
「はい。この地域は王国の領土。今は違いますが……。国のトップと話し合いをさせて自治を得ようと手を回してくれたのではありませんか? 討伐隊を送り込ませないためとか」
「悪評を振りまく事が討伐隊の阻止に繋がるのか?」
この言葉はラキュースも意外だと思った。
普通ならば、というかあの場では危険なモンスターが多数居るナザリックに攻め込むべきと言われてもおかしくないだろう。
「どうした?」
恐怖心を煽って安易な討伐を阻止したというのだろうか。
攻め込めば多数の犠牲が出る。
「……すみません。夫の方法は……、突飛過ぎていますが……、今から思えば……ナザリックを認知させて話し合いに持ち込めば平和的に自治権を獲得できたかもしれない、という方法だったのかもしれません」
「平和的にか……」
そうなるように自分でも冒険者として表に出ていたのだが、とアインズはため息に似たものを吐いた。