ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
他人の土地に転移したのだから理由を話して住まわせてもらうしかない。出て行けないし。
ナザリックはモンスター揃いで原住民からは凶悪すぎる力を持っている。
「過ぎた事だが……、私の悪口を広められたような気がして腹立たしいのだが……」
「ケンカ友達だと思っているのではないでしょうか? 夫はアインズ様を倒したいとは言っておりません。我々を特訓したときも身を守る力を付ける以上は望んでいないようでした」
「ほう? 戦力増強ではないと言うのか?」
「安易に死なないように、という意味しかないと思います。帝国の生徒達を育てたと聞きましたが、魔法の未来を見せたかったのではないかと」
生徒達の実力の底上げでジルクニフはたいそう喜んでいた。
たかが第五位階程度で、と思うのだが人類の限界だと思っていた事が簡単に突破出来たのだから嬉しくて仕方が無いのだろう。
フールーダですら第六位階でいい気になっている。
「そのヤントラは今は何をしているんだ? ナザリックの財を増やすような真似までして」
「新天地に向かう研究かと」
「新天地?」
「空に浮かぶ月へ。おそらくはアインズ様の邪魔にならないところで国でも作るのではないかと。そうすればナザリックの者達と敵対しなくていいのではないかと思います」
月。
夜空に浮かぶ大きな星。そこにヤントラは行って開拓するというのか、と漠然とした思いをアインズは巡らせる。
邪魔者が居なくなるのはせいせいする。
「それは壮大な計画だな」
前回、確かに星に行くような事を言っていたことを思い出す。
有限実行しているようで感心した。
「本当に月などに行けるのか、開拓できるのか、と疑問は残りますが……。計画を進行している夫は楽しそうでした」
カルネ村のエンリもかなり増強されてルプスレギナが泣きつく事態になっていた。
腕相撲で負けたと言ってきたのだから。それも十回中一回だけの敗北だ。九回は勝ったのだから、と言っておいたが。
さすがに村人全員が強くなったわけではなく、薬師のリイジーとンフィーレアが少し強くなった程度だった。
どれだけのパワーレベリングをしているのか気になって調べさせたが帝国の生徒を除けば真蒼の薔薇と王国のガゼフ達くらいだった。
ナザリック内を調べていくと資源の盗難は無く、代わりに鉱物資源の提供があったほどだ。
宝物殿の侵入は一度も無く、また宝の持ち出しの許可申請も確認済みだ。
金貨による購入が主で武装も適度な武器はあるが防具類が圧倒的に多かった。
理由もちゃんと話しているようで特訓以外では護身用だと言っていたようだ。
戦闘メイドの防具は真蒼の薔薇に居るイビルアイや
「アインズ様。夫を仲間として迎える事は出来ないのですか?」
「人間種という部分で条件に合わないからな……」
それはラキュースも聞いていた。
「あいつが単に気に食わないという点もあるな。そりが合わないというか……。仲間たちはアインズ・ウール・ゴウンに引き入れてもいいと言っていたようだが……」
多数決を重んじるギルドだから多数決で『良い』と言っている以上はヤントラにも資格はあるだろう。だが、アインズ、モモンガは個人的にヤントラが嫌いだった。
「夫はアインズ様とケンカするより自分から身を引く道を選んだようです。だから、月へ行くのでしょう」
「私は止めないぞ。それとも止めてほしいのか?」
「お二人は互いを知る数少ない存在とお見受けします。出来る事なら……、仲良くされる道があればと……」
ヤントラと仲良く、と思ったら怒りのエフェクトが発生し、沈静化される。
ヤントラのことになると感情の高ぶりが激しい。だが、それは周りの者の責任ではないのでため息だけつく。
「ラキュース。私とあいつが仲良くすればどうなるというのだ?」
「強大なお二人が揃えば世界を意のままに出来るでしょう」
そう言うとアルベドがアインズの目の前で平伏した。
「私からもお願いでございます」
「アルベド!?」
「バスパ様はナザリックの栄光と繁栄を誓って下さいました。それに言葉だけではなく、行動でも示しておられます。あの方を失うのはナザリックにとっては大きな損失と思います」
「それは守護者統括としての言葉か?」
「ナザリックの栄光と繁栄を願う者としての言葉にございます。もちろんモモ……、アインズ様への忠誠は一度たりとも忘れた事はございません」
現状のナザリックでヤントラを嫌うものは少ない。
支配者のアインズだけが頑なに嫌っている形と言うことになる。
「そもそも、夫とアインズ様の間にどのような諍いがあるのでしょうか? 大切なアイテムを奪われたとか?」
「んっ? それは……、無いな」
「秘宝である『強欲と無欲』も無事に戻ってきましたし」
『強欲と無欲』はラキュースも話しに聞いたことがあった。
「……その『ごうよくとむよく』なるものは元もとは夫のものだと伺いましたが……」
「そうです。偶然手に入れられた『強欲と無欲』はアインズ・ウール・ゴウンに進呈されたアイテムです」
「ギルド預かりになったものはギルドみんなの共通の宝だ。個人がどうこうしていいはずが無いだろう」
というのは暴論であるのだが、アインズは自覚していてあえて言った。
アインズはアインズ・ウール・ゴウンの全てを背負っているから
「性格的に合わないものは合わないのだ。居るだけでケンカ、というか殺し合いになる。それでも仲良くしろ、と言うのか?」
「……大切なお話しの時は殺し合いにはなっていないような……」
アルベドに図星を突かれて呻くアインズ。
「だいたいあいつはラキュースの家で私の悪口ばかり言っているのだろう?」
「それほど酷い暴言は言っておりませんよ。ケンカになるから戦わない、という事は言っておりましたが……。基本的には自分は変態だ、というのが多いですね」
「はっ? 変態?」
「自他共に認める変態という噂が城内にあるようで……。妻としては恥ずかしいのですが……。素直で正直者でもあるので
「……あいつは王国で
女体観賞とか言っていたっけ、とアインズは呆れてしまった。
それならば変態と言うのも頷ける。いや、そこは頷いてはいけないだろう。
といか変態と友達なんか嫌だ。
「アルベド。その変態でもナザリックには必要か? 私は恥部はごめん被りたいのだが……」
「人間の恥部など些細なものです。バスパ様はナザリックの将来に必要なお方だと存じます。もちろん支配者はアインズ様をおいて他には居ませんし、バスパ様もそこはお認めになっていると思います」
「夫は権力欲は無いようです」
メイド達の面倒を見たり、帝国の生徒達の面倒を見る点では面倒見の良い人間なのだろう。シャルティアの件も真剣に考えてくれたし。セバスの件でも世話になったのは事実だ。
ナーベの件でも正体をバラさずに丁重に扱ってくれた。
モモンの正体についても誰にも言っていないようだ。
様々な点からヤントラを排除し続けるのは度量の狭い支配者としてかっこ悪いのかもしれない。
部下の褒美も考えてくれたし。
というか自分は色々と部下に丸投げし過ぎている気がする。
エンリにアイテムの説明をすると真剣になって聞いてくれた時は嬉しかった。
「……ラキュースよ。あいつはナザリックに
「話しはレエブン侯が詳しいと思いますが……、
「ほう?」
「メンバーの一人、
「ちなみに具体的にどのような情報だ? このナザリックの事だろうか?」
「はい。トラップの位置や転移の方法かと。本人は目隠ししていてよく分からなかったと申しておりました」
転移の方法が秘匿されているのであれば問題は無い。
トラップについてはダンジョンと言えば罠はつきものだ。あっても不思議は無い。
「ヤントラはどうだ?」
「私が連れてこられるまでは危険なモンスターが居ること以外は教えてくれませんでした。質問すれば何でも答えてくれると思っていたのですが……、大事なところはちゃんと秘密にするようです。アルベド様やアウラ様にマーレ様のお名前もここに来て知ったくらいです」
セバスも会うまでは知らなかった。
「ちなみに第八階層については何か言っていたか?」
「第九階層と第十階層は聞いた覚えがありますが……。すみません。第八階層は……」
第九階層と第十階層は安全圏のような場所だから知っていたところで脅威ではない。
過ごしやすい場所として伝えられることが多いから。
「いつまでも話し込んでいては客人を待たせてしまうな。ヤントラの件は保留にするぞ」
「は、はい」
会食に向けて支配者に相応しい服を選んでいく。
セバスは豪華絢爛な装備だったがラキュースは華美すぎない無難なものを選んでくれた。
ツアレは更に質素だったが元が平民なので仕方が無かった。
少し長話しして皆を待たせてしまった。
会食の場に現れたアインズは来てくれた客人に頭を下げて謝罪する。
王国と帝国は意外に思ったがスレイン法国と竜王国などはアンデッドの主に驚いていた。
他の代表者もそれぞれ様々な反応だった。
「皆様、今日は私の招待を受けてくれて感謝いたします」
それぞれ椅子に座るように促す。これはラキュースから教わった作法だった。
必死に勉強した。
今回は小憎たらしい貴族は居ない。ラキュースの知る情報の範囲での話しだが。
居れば目立つだろうし、その時はラキュースが対応することになっている。
代表者の側にはアダマンタイト級の冒険者と精鋭の騎士達が控えていた。
ラキュースはアインズの近く、アルベドの後方で控えていた。
「ご覧の通り私はアンデッドです。飲食は出来ませんが、皆様方にはナザリックで作った料理を堪能していただきます。こちらの食材は各階層で栽培されている野菜類や家畜類の肉、冷凍庫に保存していたものなどでございます」
「ご
「い、いや、人肉は結構だ」
イビルアイは一応、ランポッサ国王の側に行き、料理を確かめる。
それぞれの代表者も鑑定魔法などをかけて調べていく。
もちろん、アインズも失礼だなと思ったが、各国代表者としては普通の事だと教えられていたので耐えられた。
自分は食べられないから気にならないだけだが。
夜会巻きの黒髪のメイドが料理内容を呪文のように
滑らかに滑り出てくる単語を聞いているだけで安心する事ができるほどだ。
「一部の食材はアイテムにより作り出せるのですが、貴重な食材はなかなか手に入らないもので」
元々確保していた物も食べてしまうと無くなってしまう。
当たり前だが、良い食材は調達しなければ手に入らない。それはナザリックも同じことだ。
「アンデッドが多いとはいえ生身の者も居ます。その者の為にも良い食材を選ぶのは大変でして、色々と作物を育てている最中です。肉についても在庫に余裕があるとはいえ無限ではありません」
「うむ。食糧確保は大事だ」
「アインズが保有するアイテムでも出せないものがあるのか?」
「消費する金貨の量にもよるが……。一級品はしっかり育てたものでなければならないだろう」
「あのメイド達は大食いと聞いたが……。食は豊富なのか?」
「メイド用は豊富だ。だが、有限な資源はいつかは枯渇する。……今はお得意様のお陰で枯渇が先延ばしになっている」
アインズの言うお得意様がヤントラであることをイビルアイは悟った。
「飲食不要のアイテムもある。今すぐ困る問題ではない」
「ナザリックは色々とマジックアイテムを所有しているのだな」
「強大なモンスター共はどこで手に入れられたのだ?」
「一部の者達は私の仲間が作り上げたもの。そこらのモンスターと同格に扱ってもらっては困るな」
仲間に関係した話題はアインズの怒りに触れる。それを察知したイビルアイがスレイン法国の者に耳打ちして注意しておく。
スレイン法国とイビルアイは本来ならば敵対関係だが、今は他国の目もあるし、王国の安全を考えて行動している。
「こたびの戦争で領土は奪われたのだが、平和的には解決しなかったのだろうか?」
とランポッサ三世は言った。
年齢的なこともあり、ナザリック地下大墳墓に来るまでの長旅で少し疲労の顔が窺えた。
「機会を逃した、と思って諦めていただきましょう。大々的に宣戦布告してしまった以上は取り返しなどつきますまい」
「では、使者の対応はどうであった?」
「……そうですね。初めての事でしたが……。大変丁寧な対応に驚かされました。帝国側の方が一般的だと教えられていたので意外でしたよ」
「対応の悪さは反省しているぞ、アインズ」
反省とかのレベルか、と少しだけジルクニフを睨みつけるアインズ。
骸骨なので表情に変化は付けられないのだが。
「竜王国としては仲良くしたい相手ではあるのだが……。建国して間も無いようだが……、国の未来は考えているのか?」
小さな少女の姿のドラウディロンは周りの大人と同等の話し方で尋ねた。
「なにぶん建国は初めてのこと。色々と学んでいるところですよ、ドラウディロン陛下」
「見た目は子供のようだが、大人にもなれるぞ私は。幼女が趣味ということはあるのかな?」
「はっ? 姿を変えられるのですか?」
「んっふっふー。アインズ殿がよければ熟女の方をお見せしますぞ」
ジルクニフに
「陛下。なにを嬉しそうに言っているんですか、はしたないですよ」
それから熟女用の服を用意していないので裸になることを伝えるとドラウディロンは顔を赤くした。
「う、うるさいな。国民ならともかくアンデッドに
「いやいや。私は気にしないので、どのような姿でもお好きにどうぞ。楽な方が話しやすいでしょう」
「おー。話しの分かる御仁で助かるぞ」
竜王国側は意外と受け入れられたのでアインズは安心した。
始終、難しい顔をしているのはスレイン法国かもしれない。
王国側は侵略された敗戦国だから仕方がないと諦められる。
「スレイン法国の方は異形とは
「我々は人類の防り手を自負している。アンデッドごときに恐れはない」
「私はアンデッドではありますが人間が嫌いなわけではありませんよ。スレイン法国とも仲良くできるところは手を繋ぐ事もいといませんが……」
度量の大きい人物だと竜王国とリ・エスティーゼ王国の者達、集められた護衛の兵士などが総じて思った。
「ならばうちのご主人とも手を繋げるのか?」
そう言ったのは仮面を被ったイビルアイだった。
漆黒のモモンに成長した姿を見せに来た時は驚いたものだが。
「あいつと手を繋げと?」
「……イビルアイ、その話しは保留になったの。今すべき話題ではないわ」
ラキュースがイビルアイの脇をつついた。
「ふむ。今宵の催しに貴殿の旦那は連れてこなかったのか」
ジルクニフの言葉にラキュースは頷いた。
「アインズ様のご機嫌が悪くなるようなので……」
「蒼の薔薇のリーダーの旦那というと……」
ドラウディロンが名前を思い浮かべようとすると宰相が耳打ちしてきた。
「おうおう、ヤントラとかいう変態野郎か」
「……竜王国でも夫の悪評が轟いているようですね」
「轟きまくっておるわ。あっはっはー。だが、実力は本物だ。不思議な変態さんだ」
「……すみません。決して悪口を言いたいわけではないのですが……」
と、宰相がラキュースに頭を下げた。
「いいんです。私は彼を狂人呼ばわりしていますから」
様々なスキルのお陰でアインズの耳にはそれぞれの話し声はしっかりと聞こえていた。
「あの野郎……、色んなところで変態振りをアピールしているようですね」
「並みの変態ではないぞ」
そこまで言ったドラウディロンの口を宰相は塞いだ。
「いい加減になさいませ」
「ラキュースよ。改めて尋ねるが月へ行くという話しは今も続いているのか?」
「はい。物体の浮遊実験をしているようですから、着々と準備を整えているようです」
「『
アインズの知る魔法では『
重量的には申し分ないだろう。
超位魔法の中には大規模な浮遊魔法が存在する。それこそ山をも浮かせられるほどの。
「あいつは一人で戦う人間だから頭の回転は速いだろうから、様々な魔法を駆使しているのだろう」
イビルアイはアインズにあまりヤントラの話題を振りすぎると秘密がバレてしまうかもしれない、と思った。
自分たちには知りえないがアインズにかかれば施設を荒らされる可能性がある。
特にメイドの正体など。
「イビルアイ。先ほど『
そのものズバリの質問に思わず呻いた。
ラキュースめ、という恨みがましい視線を送るが仮面を被っているので表情は伝わらない。
「相当量を保有しているはずだ」
答えたのはジルクニフで、続いてドラウディロンが頷いた。
その様子にイビルアイは呆気に取られた。
首脳にはバレている。
「作るのは簡単なのだが……、魂の無い肉体で女体観賞でもしているのか?」
「え、あ、いえ……。容器に入れて丁寧に保管されていました。決してやましい使い方はしていないかと」
「ほう……。エロい事をすると公言していたのにか」
「おほん。あ、アインズ様。それは夫婦間で済ませたので、今の夫は……たぶん大丈夫かと……」
恥ずかしい話題に関わらず、ランポッサ国王は小さく笑った。
「女性を大切にしないのであれば私が代わりに殴っておくぞ」
「そ、それはとてもありがたい申し出。もったいないお言葉でございます」
意外な言葉にイビルアイは驚いた。
アインズは少なくとも変態ではないようだ。
アンデッドだから、というのもあるかもしれないが。
「改めて聞くが、イビルアイ」
「は、はい」
急に声をかけられて声が上擦ってしまった。
「あのバカは……、戦力を整えてナザリックに攻めてくると思うか?」
「うふん。えー、それは無いだろう。たくさんの複製体を所有しているようだが、アインズの懸念はご主人も承知しているはず。だからこそ戦わない道を選んでいる。国の発展を望んでいるのかもしれない」
「それなりの力を有しているのにか?」
「ケンカ友達だからじゃないか? それ以外に言葉は見つからない。それにご主人は……、人を使うのが下手だ。そんな人がナザリックを攻めても意味が無いと思うのだが……」
元々はソロプレイヤーだし、チームプレイは苦手なのかもしれない。
その意見にアインズも異論は無かった。
「アインズ様と真っ向からケンカができるのはバスパ様くらいです」
アルベドの意見にユリや控えていたメイド達も頷く。
「あの変態はナザリックでは凄い有名人なのか?」
「我々の認識では至高の御方々に連なる者。創世神であるたっち・みー様に見出された存在なのです」
「おいおい」
「人間でありながら神の領域にいるバスパ様を汚す事は許されませんよ」
「いいから静まれ、みなの者」
アインズが少し声を荒げて言うとアルベド達はその場に片膝をつく姿勢をとった。
「皆さん、申し訳ない。うちの者達が興奮してしまったようだ」
イビルアイはヤントラの立場が思っていた以上にナザリックでは高い事に驚いた。
だからこそ、なのかもしれない。
おぞましい行動が取れる理由。
彼らにとってヤントラは逆らえないほど高貴な存在なのだ。要望があれば身体を提供する事もいとわないほどに。
イビルアイは夜会巻きのメイドに近づき、場を放れることにした。
物陰に移動した後、まず頭を下げた。
「どうかしたのですか?」
「無理に引っ張って申し訳ない。だが、一つ尋ねるぞ」
「はあ。一体なんでしょう」
「あなたはどんな種族なんだ? いきなりぶしつけで……申し訳ないのだが……」
イビルアイは仮面を取り、素顔を見せた。
赤い瞳に唇から覗く牙。
セバスの報告などでイビルアイの正体は伝えられていたので、それほど驚きは無かった。
「私の種族は
そう言うとメイドは自らの首を引っこ抜いた。
その様子を見てイビルアイは完全に理解した。
だから、あの容器の中の肉体の首は離れていたのだ。
「他にも確認したい事でもあるのですか?」
小脇に抱えられた首が問うた。
改めて見ると驚くが、すぐに棘付きガントレットに挟まれて平気なのか、と。
「ご主人は変態だが、貴方達も我々も大切にしていることが分かった。先ほどの複製だが、あれらは全て月に持っていくようだ。だから戦力として使うのではなく、住人として置いておくのだろう。誰も居ない世界では寂しいからな。まあ、私も着いていく予定ではあるが……」
「そうですか。大切にしているのですか」
「私の複製もあるぞ。綺麗にする為に大浴場も作らせる人だ。ぞんざいな扱いはしないだろう」
「こちらからも質問をよろしいですか?」
首を戻した後でユリは尋ねた。
「うん」
「バスパ様がナザリックの一員になられる事を肯定なさいますか?」
「ご主人が望めば私は応援する立場だ」
「それももう一つ……。アインズ様の悪口はどの程度言っておられるのですか?」
「んっ? 家では悪口と呼べるものは言っていないぞ。せいぜい……、アインズの奴がいい顔はしないだろう、というようなことは聞いた」
「そうなのですか?」
「うん。魔導国についても殆ど話題に出ないし、
アインズが懸念していたよりも悪口を言っていない事が意外に思えて驚いてしまった。
それにもましてナザリックの悪評は広まらず、ヤントラの変態っぷりばかりが広がっていたのも驚きだった。
「……ところで重ねて尋ねるのですが……、胸を揉まれたり股間を触られたりするのにどんな意味があるのでしょうか?」
「はあ!? こ……、あ、ああ。女体の神秘だろう。今はそういう事はしていないのだが……、身体の反応を見る勉強のような事なのだろう。私も……色々と……」
「そうでしたか」
「性別の違う人体の反応とでも言うのか。……よし、この話題はやめよう」
「分かりました。そろそろ戻らなければなりませんね」
「ところでアルファ殿と呼べばいいのか?」
武装の類似からもアルファその人で間違いが無いのだろう。
仮面以外は全て一緒なのだから別人と考える方が無茶だ。もちろん偽者と言う線はあるのだが、声は同じだと思う。
「遅ればせながら、戦闘メイド『プレイアデス』の副リーダーを務めるユリ・アルファと申します」
「イビルアイだ。改めてよろしく。それでユリ殿は……、食事は食べられるのか?」
「はい。飲食は可能でございます。
「おお、それは凄い」
二人は話しつつも会談の席に戻る。
それぞれ無難な話題が続いた。
ドラウディロンは食欲旺盛でお代わりを頼むほどだ。代わりにスレイン法国の者は一口も手をつけない。
帝国は良く食べ、ランポッサ国王は食が細いのか、少しずつしか食べなかった。
従者達にも食事が振る回られ、メイド達が忙しく動いていた。
首脳陣は大して食べないが従者や騎士達はしっかりと食べていた。そして、それはカルネ村でも同じだった。
戦闘メイド達もナザリックの首脳陣に食事を運び込むのだが、一人だけ別行動していた者が居た。
地上部分で黒い
ナーベは立場的にナザリックに下りるのが困難な状態になっていたので『
現在、ナーベは各国の冒険者や従者たちの調査と不審な者が居ないか見張りを兼ねていた。
ナーベの視点からは周りに居る人間全てが敵にしか見えない。
「ナーベよ。あまりキョロキョロするな。怪しまれる」
側に居るモモンに言われたが、探索に特化しているわけではないので自然に振舞うのが難しかった。
「こういう任務はソリュシャンが適任かと思うのですが……」
「そう言うな。我々に出来る事をするだけだ」
地上にいるモモンは本物ではないが、無下に出来る相手でもない。
時々、声を荒げたり、変なリアクションをするようだが何がどう間違っているのかナーベには理解できないので黙って見ているしか出来なかった。
「……ところで……、パン……モモンさんは……戦闘は出来るのか?」
「この私が張りぼての役立たずだと言いたいのか?」
独特の言い回しにも眉をひそめる事態なのだが、我慢した。
こういう存在のお守りも立派な任務なのだろう。
「八割がたの
アインズからは目立つ行動は避けるように言われているのだが、モモンの行動は充分に目立ってしまう。
ナーベは一応、その事も尋ねてみたのだが主は呆れたのか、ため息混じりに申し訳ないと謝罪の言葉を口にしてきた。
「ナーちゃん、ちーっす」
と、朗らかに挨拶してきたのは三つ網にした赤い髪に浅黒い肌を持ち、背中に巨大な聖印を模した武器を背負った女性だった。
「……ルプー。その挨拶は未だになれないわ」
「まあまあ。あっと、これ第九階層から持って来たお弁当っす」
「ありがとう」
「それにしても人多いっすね。一網打尽にするには丁度いいのに……」
口角を吊り上げて不敵に笑う狡猾で残忍なルプスレギナ。
その意見にナーベも同意する。
「で、そっちのモモンさんでしたか。お仕事ご苦労様っす」
「うむ。それで……、お前は持ち場を離れて、定時連絡もせずに何をしていたんだ?」
「うぇ!? あー、村の監視っすよ」
定時連絡を忘れていたのは本当に忘れていたからだ。
「ん……。ルプスレギナ、ナザリックへの一時帰還の命が下った。すぐに実行に移せ」
「は、はいっす」
軽く跳ねるような動作の後でルプスレギナの姿は消えた。
「我々も移動するぞ、ナーベ。……あ……、いや、弁当を食べてからでいい。充分に体力をつけるのも立派な仕事だ」
「はい」
モモンは近くに待機させている巨大ハムスターのハムスケの元に向かった。