※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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H-13 恐怖公が現れた

 各国首脳が悪魔の巣窟ナザリック地下大墳墓に消えてから何も連絡が来ないので地上で待機している従者達は不安を募(つの)らせていた。

 魔導国のアンデッド兵士が微動だにせず待機している事も不安を煽る要因となっていた。

 攻め込むべきと言い張る者を説明を受けた王国や帝国の兵士、騎士達が止める。

 地上が慌しくなる頃に漆黒のモモンが現われて一喝する。

「各国首脳に何かあれば私が様子を見てこよう」

「何かあっては困るのだ!」

 という意見が出た時、ごもっともです、と小さな声でモモンは言った。

 ログハウスからセバスも現われて落ち着くように宥める。

 数が多いので不安が伝播(でんぱ)すると騒音になる。

「あー、あー、皆さん。聞こえますか?」

 ログハウスの屋根に青い装備に身を固めた二人の人影が姿を見せる。

「んっ?」

「こんにちは。真蒼の薔薇のティアとティナです」

「不安は重々承知しているけれど、会食は数時間を予定されております。もうしばらくの辛抱です」

 二人が屋根に居ることはセバスも承知しているので黙って見守る事にした。

「首脳陣の安全が脅かされれば我らのリーダーの旦那さんがナザリックに襲い掛かります」

「えっと……。ナザリックの人達は自分たちで招いた客人を害する事は無い、とのことです」

 事前にヤントラから色々と情報をもらったティア達が説明していく。

 一番ナザリックを理解している人間なのだから信じるしかないだろう。

「外敵を排除する事に長けているので慌てずに待つこと」

「我々も同行する事は出来ないのか?」

「……大勢で押しかけちゃうと階層を荒らされてしまうから駄目、だそうです」

 この言葉にセバスは頷いた。

「第六階層……。自然豊かな土地が広がる場所、とのことなので」

「折角招待したのにみんなで荒らしては主であるアインズは物凄く怒ると思うよ」

 言い分は理解できるのだが、不安は募るばかりだ。

「せめて連絡要因だけでも……」

「居るじゃん。そこのおじいちゃん(セバス)が。連絡は取れないの?」

「大事な会合の邪魔をしてはいけませんからね。向こうからの連絡を待つのが礼儀かと」

「秘密会議に大勢で押しかけるバカがどこに居る」

 と、漆黒のモモンは言った。

 比較的、大きな声だったので兵士達に充分伝わった。

「忍耐力を鍛えろ」

 と、別方向から言ったのは青くて無骨な鎧をまとうガガーランだった。

 腕を組んで仁王立ちする姿は貫禄のある戦士に見える。

 立派な戦士だけど。

「ナザリックの人達がやっと我々を受け入れる用意を整えてくれたんだ。彼らの誠意を無駄にする気か?」

「連絡要因について……、ついて……と……」

 ティア達はメモ用紙をいくつかめくる。

「えっと、元々地下ダンジョンを改造して作っているから連絡手段は限られている、とのことです。警備の観点から安易に連絡が取れるとまずいよね。こちらの心配ももちろん理解しているんだろうけれど……」

 警備を厳重にするのは当たり前で、それを緩めろと言われれば困る。

 ティア達もセバスの不安は理解できるので、連絡要因はやはり送れないだろう。

 というより忍耐力無さ過ぎる、と呆れていた。

「せめて『水晶の画面(クリスタル・モニター)』で確認できるようには……」

「中の様子を見せられるくらいなら……、警備の意味無いよね」

 ティア達が説明している間にセバスは色々と情報のやり取りをしていた。

 事情を知るものは心強い、という事を再確認する。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 地上部分は真蒼の薔薇とセバスと漆黒のモモン達の説得により、墳墓内に突入される事態は避けられた。

 数時間の会食で様々な情報のやりとりと約束事が交わされたりした。

 貿易に関する覚書も滞りなく進められ、領土拡大については今年は棚上げする事になった。

 魔導国として急に覇を唱えるには色々と準備不足であるからだ。

 長年争ってきた帝国と王国は休戦協定を正式に交わすことになり、ひと時の平和が訪れたことになる。

 スレイン法国はどちらにもつかない中立の立場を堅持したが、人類を脅かすアインズ・ウール・ゴウン魔導国を認めるには時間がかかる旨は伝えた。

 竜王国は帝国側だが、彼らより獣人(ビーストマン)の侵攻が気になるので早めに帰国したかった。

 前回、漆黒の死神(変態)により三日で壊滅した点から獣人(ビーストマン)達は慎重に攻める手段を取らざるを得ない状況になり、小康状態に陥っているらしい。

 妖巨人(トロール)と牛頭人(ミノタウロス)の国にも動きがあるらしいのだが、彼らが徒党を組んで攻めるまでには、まだ至っていない。

「それにしてもあの変態……、途方も無い実力の持ち主でびっくりしたぞ」

 ドラウディロンは自分の身体を抱きしめつつ言った。

 外の喧騒はもちろん報告として受け取っている。地上と連絡を取り合う要員については許可が必要で面倒ではあるけれど、それぞれ魔導国に従っていく。

「アインズ殿とどちらが強いのだろうな」

「一方的にやられてはいたが……。それは俺も興味がある。アインズにとっては言いたくない事かも知れないが……」

「好きではない者の事は言いたくないものだ。……だが、戦士職として見れば……、あれは強いです」

 アインズの口から言われると周りの者に緊張が走る。

「強いというか……。世界最強の存在である私の仲間が直接鍛えたのですから、弱くては困りますね」

「世界最強とな?」

「公式の試合に優勝した、という意味ですよ。もちろん我々の世界でですが……」

 ラキュースは話しには聞いていたのだが、改めて聞かされると身体が震えてくる。それは戦士として誇りに思う嬉しさのようなもの。

「装備はまだ弱いようですが……。私の部下と良い勝負が出来るほどには強いでしょう。……そうですね、漆黒のモモンより強いかもしれません」

 戦士の自分の強さは自覚しているのでモモンより弱いわけが無い。

 アインズは元々は魔力系の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。こちらの舞台でなら負けはしない。

「モモン様より強いのか!?」

 自分で弱い事を認めるのは不愉快だが、仕方が無い。戦士の装備品を身につけると実力が三割ほどに落ちてしまうのだから。

 それと『完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)』という魔法で百レベルの戦士になって仲間達の装備を使ったとしても手数が多く生粋の戦士職でもあるヤントラに勝つのは難しいだろう。しかも、魔法が数個しか使えなくなるのはアインズにとっては不利である。

 ヤントラは信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)でもあるのだから。

 ナーベが本気モードになったとしてもヤントラには勝てないだろう。

 せいぜいコキュートスとセバスが本気で戦えば見ごたえのある場面を見る事が出来るだろう。

「そのような者が何故、鉄プレートに収まっているんだ?」

「皇帝陛下。一つ繰り上がって銀(シルバー)プレートになりました」

「んっ? そうなのか?」

「はい。あまり上昇志向が無いようで、のんびりと仕事を楽しんでいるようです。急激な変化が嫌いなのかもしれません」

 その急激な変化がナザリックであり、アインズ。

 急激な変化で世界は変わってしまった。だから、ヤントラは面白くない。

「普通に考えればアインズ殿の敵になるわけだから襲ってきそうなものだが……」

「襲えない理由があるのですよ、ドラウディロン陛下」

「んっ?」

 イビルアイの言葉にドラウディロンは仮面の女性に顔を向ける。

「ナザリックは元々、ご主人の故郷。そこに住まう者達と敵対したくないのでしょう」

「お、おお。そうであったか。それは失言だった」

 友達とはいえ敵だからどうして殺さない、と言われているようなものだろう。

 すぐにドラウディロンはイビルアイやアインズに頭を下げた。

「王には悪いが……。そのような理由もあって帝国と戦争を避けるようにしていたのかもしれません」

「うむ」

 戦争に発展すれば互いに殺しあう運命になる。

 国としては別に気にも留めないことだろうが、裏では色々と様々な感情が戦っていたのだろうとジルクニフは思った。

「皆様方はあいつを変態と呼んでいるようですが……」

「おう、立派な変態だ」

 元気良くドラウディロンが言うとラキュースは苦笑した。

 というよりドラウディロンが知っているのがイビルアイ達にとって少し意外で、次に嫌な予感がした。

「……陛下は見たのですね?」

 ドラウディロンが何か答えようとした時、宰相に口を塞がれた。

「毎回、変態的な要求はしてこないので安心……、う~む」

 何をどう言えば場が収まるのだろうか。

「私には理解できないのですが……、あいつはいつぐらいから変態と呼ばれるようになっていたのですか?」

 アインズの疑問にイビルアイ達は唸る。

「私は狂人と呼んでおりましたが……、イビルアイ達と生活する上でそうなったのかと……」

「し、仕方なかったのだ。仲間が凶悪な媚薬を風呂に使ったりしたり、アインズ殿の凶悪なモンスターたちに恐れたり、と……。色々とあったんです」

 その場でうずくまるイビルアイ。

「触るだけじゃ飽き足らず、部位を手に入れるようになったり……。それこそ……。……色々とあって変態になりました……」

 平伏したイビルアイが答えた。

 それだけでジルクニフとドラウディロンは様々な感情が渦巻いた。

 気の毒、と言う言葉が真っ先に浮かぶ。

「あ……、うん。こちらこそ、ごめんなさい」

 アインズが素の調子で謝罪した。

「うふん。強大なモンスターに恐れる事は仕方がありませんな」

「ぶ(・)い(・)とは?」

 何も知らない国王が尋ねてきた。

「王は知らなくていいことです。個人的な問題なので。……それは後で説明いたしますから」

 と、ラキュースは国王に耳打ちする。

「愉快な御仁ではあるのだろう。正直者で俺は好きだが……」

「変態を除けば頼もしい存在だ。それは認めよう」

 アインズはヤントラが他国でどんな変態振りを披露しているのか気になって仕方が無いし、なぜか怒りが沸々とわき上がる。

 でも、自分の悪口ではないのだから怒るところではないな、とすぐに気付いた。

 正直なところでは『なにしてんだ、あのバカ』だ。

 イビルアイ達もヤントラの名前が出る度にアインズが不機嫌になっていくので、どう弁解すればいいのか困惑していた。

 やはり名前を出すべきではなかったのかもしれないし、首脳陣に変態として知れ渡っているのにも驚いていた。

 

 アインズが脅威だと最初は思っていたが次第に変態であるヤントラの方もいろんな意味で危険だと思われたかもしれない。

 凶悪なモンスターが控えているナザリックにばかり偏っていたが、意外な人物のお陰で恐怖心は平均化されてきたようだ。

 ジルクニフや竜王国の宰相は貴重な人材だという認識で一致していた。

 メイド達が空になったグラスに飲み物を注ぐ。

「地上の方が随分と騒がしくなっているようなので、皆様方の無事な姿を見せなければ突入されてしまうかもしれません」

「外との連絡手段が無いのだろう?」

 移動による連絡は許されている。

 彼らは『伝言(メッセージ)』や『水晶の画面(クリスタル・モニター)』の連絡手段を取りたがっていた。

 魔法的な連絡手段はあればあったでナザリック的には困るだろうから対策はされているはずである。

「仲間との間でなら可能となっております」

 と、言ったのはアルベドだった。

「警備を緩める事は出来ますまい。……本来のナザリック地下大墳墓はもっと強固な要塞とお見受けしますが……。最下層に宝でも置いてあるのですか?」

 竜王国の宰相は素直な気持ちで尋ねた。

「最下層は玉座の間。……あえて言えば強大なモンスターが待ち構えているところ、という意味合いしかありません」

 巨大図書室(アッシュールバニパル)に鍛冶の場所などを伝えておいた。

 第十階層は旅の執着地点。財宝で埋め尽くしたりはしない厳かな場所だ。

「金銀財宝とかではなく?」

「はい」

 素直に答えたアインズにラキュース達とジルクニフは驚いた。

「仲間たちと作り上げたナザリック地下大墳墓こそが私の宝と言えるかもしれません。土足で踏み荒らす者にはきつい罰を与えますので」

 それはヤントラも言っていた事だ。

 仲間たちが集めた宝を侮辱する事は危険だと。

「それは恐ろしいな。それよりランポッサ国王。ずっと大人しいが具合でも悪いのか?」

「ああ、いや。大丈夫ですよ。皆様方の話しを聞いているだけで楽しいので」

「王はそれほどお喋りな方ではありませんので……」

 死んでるかと思ったぞ、とドラウディロンは思った。

「アインズ所有の宝と言うのも見てみたいが……。展示などはしないのか?」

 その言葉はヤントラも言っていた美術館というものだろうか、とアインズはジルクニフに顔を向ける。

 他人に見せるつもりは無いが自慢はしたい。

「一級品の宝ばかりだから、おいそれと見せる事は出来ない。すぐには無理だが……。亜人など知性の足りないものなどの問題もあって美術館の計画は難航している」

「ああ、なるほどね」

「程度の低いマジックアイテムで良ければ見せる事は可能だが……。卑しいものには見せたくないな。……ユリ」

 名前を呼ぶとユリが音も無くアインズの側に歩み寄る。

 小さな声で命令を下すと、ユリは一旦引き下がった。

 それから数分後にユリは大きめの鏡のようなものを持って来た。

「これは『遠隔視(ミラー・オブ・リモート)の(・)鏡(ビューイング)』というもので……。細かな説明は省くが外の様子を映し出せる」

 簡単な操作で鏡に映し出されたのはナザリックの入り口にあるログハウスの周りの風景だった。

 大勢の人間達が詰め掛けていた。

 それらを見たジルクニフ達は感嘆の吐息を漏らす。

「皆さんを心配している人達が詰め掛けているようですね」

「連絡はしているのですが……。真蒼の薔薇の皆さんや漆黒のモモン様の説得で小康状態になっているようです」

「ははは。これは困ったな」

「真蒼の薔薇の皆さんはナザリックに随分と理解があるようですが……」

「リーダーを救ってくれた恩があるからな。それに知らないままでは勝手な想像で事態が悪化する」

 アインズは一つ頷き、ユリに別の命令を下す。

「あっ、思い出した。聞きたいことがあった」

 と、イビルアイ。

「なんだ?」

「そちらに居る森妖精(エルフ)の二人はどうなっている?」

「森妖精(エルフ)? あー、少し離れたところにあるアウラ達の住居に居るはずだが……」

 アインズは骸骨の指である一点を指し示した。

 イビルアイは軽く確認して顔を戻す。

「無事と言うか……、ほら……、……交配実験の結果だ」

 アインズの近くに寄り、小さな声で言った。

「はっ!? そ、それは言ったはずだ。……あれ? 言ってなかったか?」

「ご主人は言ったが結果は分からないと言っていた」

「あ~、あ~、言ってなかった。思い出したよ。それはすまなかった。当人との話しはつけた。ちゃんと丁重に扱っている。今はアウラ達のお世話をするメイドだ。あと、……交配実験は無しにした」

「そ、そうか。うちのルリマリスも喜ぶだろう」

「今はしっかり身の回りの世話をするようになったから渡す事は出来ないぞ。……たぶん」

 後でアウラ達に聞いて要らなければ渡そうかな、と思わなくも無い。

 村が稼動しているので今は仕事も増えているから無理かもしれない、という思いもある。

 そもそも交配実験はデミウルゴスが言った事でアインズはそんな命令は下していない。

 

 ユリが戻ると側に黒くて大きな虫型のモンスターがついてきた。

「んっ?」

「イビルアイよ。信頼の証しとして仇敵(きゅうてき)『恐怖公(きょうふこう)』を連れてきた。存分にぶちのめすが良い」

「なんだと!」

 茶色い虫型のモンスター。

 見るからに不快感を刺激する。

「部下の手違いで拷問の為に彼らの館に入れてしまったようだな。そのことを謝罪させてほしい。この『恐怖公』は複数体居るので遠慮は要らないぞ」

「がっ!」

 素手で殴ったら手が汚れそう、という思いが浮かび、魔法で駆逐するしかないだろう。

 それにしてもデカイモンスターだと驚いた。

 二メートルくらいあるのではないだろうか。

 食事の場に連れてくるようなモンスターではないことにアインズは気付き、客人に改めて謝罪した。

 ユリにはイビルアイと共に視界から消えてもらう。

「いやいや、失礼した」

「おおう。あんなおぞましいモンスターも居るのだな」

 アンデッドが主人なのだから仕方が無いのだが。

 ドラウディロンは冷たい飲み物を思いっきり飲んで気分を落ち着かせた。

 空になったグラスにはすぐにメイドが新しく注ぎなおす。

「おぞましいと言われますが、外敵を迎え撃つためのものなので可愛らしいモンスターばかり置くのは戦力として心許ないと思うのですが……」

「おっしゃる通りです」

「……見た目の印象とは違い、話しの通じる相手と言うのは……、新鮮ですな」

 うんうんとランポッサ国王は静かに言った。

「骸骨なのは種族なので仕方がありません。それとも仮面で隠していた方が良かったのかな?」

「偽りの人物像を作り上げられるより、よっぽど好感が持てます」

「……ほお」

 国王の言葉はアインズにとって意外だと思った。

 化け物だと言われる顔ではあるが、好感が持てると言われたのは仲間や部下以外では始めてかもしれない。

 カルネ村のエンリやネムも大層驚いていたが、泣かれる事は無かったなと少し前のアイテムの説明の時を思い出す。

「この身となってから人間に愛着が無くなってしまいました。他人からは凶悪なモンスターに見られてしまいますが……。私とて仲間を愛する心はあるし、慈悲もある。それ以外の者に容赦が無いだけですよ」

「つまり……。どういうことだ?」

 と、ドラウディロンは首を傾げた。

「ナザリックはナザリックの者達を愛しますが、それ以外は虫けらと言うことです。我々が獣人(ビーストマン)は皆殺しでも構わないと思うのと同義かと」

「分かりやすい例えで感謝するぞ。まあ、そんな感じだ。スレイン法国の者もその辺りは理解されると思うが?」

「人間以外は全て敵……、と言いたいのだろうな。確かに……、その辺りの理解で概(おおむ)ね間違っていない」

 ナザリックに降りる前にドラウディロンはスレイン法国の者に支援が途絶えた理由は聞いていた。確かに一部隊が何者かに壊滅させられて王国に捕虜として捕まったという。

 払った資金は後日返金される事になった。

 指摘しなければ寄付と言う形で持ち逃げする気でいたのかもしれない、と竜王国側はスレイン法国に少しだけ不審を抱く。

「とはいえ、全てを皆殺しにするのはあまりにも短絡的。私はそれほど愚かにはなりたくないのでな。ある程度の知名度を得た今、皆様とお近づきになりたいと思った次第です」

 きつい言葉の洗礼を危惧していたが、ヤントラの悪評は思ったよりも有効に働いていて話しやすい雰囲気だった。

 領土を返せ、と怒号でも起きるかと思っていた。

 帝国側から連れてきた竜王国の者たちも意外と親しみやすい人間達で助かった。

 それからイビルアイが戻ってこないのが少し心配だった。

「敵と味方ではありますが首脳陣と同じ席に着く今日を祝いたいと思います」

「政治と言うものは色々と面倒くさいが……。面通しは必要だろう。他の国ともいずれ会談を行(おこな)う事になるんだろうな……」

「王国にとっては敗戦と言う屈辱であろうが……。大国の宿命だ。明日を見据えた方がいいぞ。我らなど獣の餌にされてきたのだからな。兵士たちはまだ可愛い方だろう」

「そう言われると言葉も無い……」

「戦争で犠牲になるのは必定。多くをすりつぶしたものではありますが、記念碑の製作に関してそちらの要望に応えたのですから恨まないで頂きたい」

 遺族一人ひとりに頭を下げる事がなくて良かったと、今は安心していた。

 その後、モモンとして噂などを聞いていたが殺戮王などの噂はすぐに聞こえなくなった。それが少し不思議だった。

 ずっと恨み言が続くものと覚悟はしていた。

「ゴウン殿の行動は実に紳士的であった」

「おっと、私も今の言葉で思い出した。スレイン法国の皆さん」

「はい?」

「貴方たちのせいで私の名前がスレイン法国の者と関連付けられて困っています。どうにかなりませんか?」

 元々はアインズ・ウール・ゴウンの名前を世界に広めて未だ姿を見せない仲間達に伝えようとしていたのにスレイン法国という国のせいで悪評として広がりつつあった。

 その事はヤントラからも聞いていたのでうんざりした気持ちになったものだ。

 フルネームを出すたびに言われると数人はぶち殺したくなるほどだった。今から思えばよく我慢した。

「んっ!? それはまた無茶な事を……」

「いえ、王国側はアインズ・ウール・ゴウンというスレイン法国風の名前で大混乱しまして……。弁解ばかりが続いたのです」

「おお、そういえばそうであったな」

 ジルクニフは苦笑し、ドラウディロンも改めてアインズのフルネームを聞いて納得した。

「この名前は四十一人の仲間達の思いが詰まったものだ。それを汚されるのは面白くない」

 怒りのエフェクトが出て威圧感が広がる。

「それは八つ当たりではないか?」

「元々は王国が悪いのですが……。アインズ様にとってアインズ・ウール・ゴウンというお名前はとても大切なもの。お怒りは理解できますが、どんだとばっちりですよね。夫も頭を痛めておりました」

 各地でスレイン法国とは関係ない、と言い続けたのだから。

「名前については本国で検討しておこう」

「そうしてくれると助かります」

 と、言った後で当事者に説明する大切さに気付き、イビルアイの言い分が理解できた。

 部下に丸投げばかりしていられないな、と思った。

 

 場が落ち着いたところでラキュースが吐血した。

 急な事だったのでアインズが驚き、続いてジルクニフも驚いた。

「す、すみません……」

 すぐさまメイド達が集まり、床を掃除する。

「すぐにペスを呼べ。ルプスレギナもだ」

「畏まりました」

 アルベドはすぐに移動を開始する。

「すまなかったな、ラキュース。随分と我慢させてしまったようで」

「い、いいえ。急な事だったので……」

「よいよい。別室で休むがいい」

 メイドの一人を呼びつけて労わるように命令する。

「アインズ。随分とその女性を気にかけるのだな」

「外交に関して色々と世話になった。王国が切り捨てた彼女を私の部下が拾ってきてな。面倒を見てやったのだ」

「なんと! この者はアダマンタイト級の冒険者であろう?」

「貴族派閥の諍いの犠牲者だ。私にはどうすることも出来なかった」

「お、王には罪はございません……。ただ単に私が弱かっただけでございます……」

 数回ほど怒りが頂点に達した影響か、ラキュースの吐血はそうそう収まらなかった。

 アルベド達が戻るのとイビルアイ達が戻るのはほぼ一緒だった。

「まあまあ、今すぐ治癒します……わん」

 新たに現れたのは犬の頭部を持つ女性メイドだった。

 名前は聞いていたが実物を見てジルクニフは驚いた。

「この者がペストーニャか?」

「お初にお目に……」

 治癒魔法から手を離し、両手でスカートをつまみ丁寧に挨拶しようとした。

「手を離すな」

「も、申し訳ありません」

 アインズは軽く呆れてアルベドは軽く苦笑した。

 ラキュース自身も治癒魔法は習得しているのだが、呼吸が苦しいのか、頭が働かないのか、少し混乱気味だった。

 信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であることを少し経ってからアインズは思い出したが、呼んでしまったものは仕方が無いと思う事にした。

「この者は高位の神官でもあります。大抵の治癒魔法を習得しています」

 魔法以外には全く興味の無かったフールーダがペストーニャの側に行き、魔法の様子を眺めた。

「ルプスレギナはどういたしましょう?」

 報告を怠っていたので説教されると思っているのか、ガタガタと震えるルプスレギナ。

「何かあったときの控えだ。ラキュースにはそろそろ地上に戻ってもらわないとあいつ(ヤントラ)が襲ってくるかもしれないな。さて、お食事はまだありますが……、いかがですか? デザートなど」

「おっ、デザート! それを食べたら地上に戻るぞ」

「魔導国は出来たばかりの若輩国家。国づくりで色々とお知恵を借りたく存じます。世界征服を危惧されているようですが……。男のロマンと言う奴です。そのような夢を実現したくなる性分なのです。ですが……、無意味な虐殺は……、様々な軋轢(あつれき)を生むでしょう。平和的に少しずつ世界を取らせていただきます」

 静かな宣戦布告をアインズは宣言した。それに対して誰もが反論を口にしない。

 意外だと思った。

 アンデッドが平和的に世界征服すると言ったことが。

 

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