ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
治癒されたラキュースも驚いていた。
アインズ・ウール・ゴウンはただの強大な
人間的過ぎる邪悪なモンスターだ。
物凄い強敵だと思った。
だが、それはヤントラにも言えることだ。
事実、彼はほぼ世界を掌握しているに等しい。
二人が手を組めば恐ろしくもあり、平和的な世界征服を本当に成しえてしまうかもしれない。それも犠牲者を出さない方法で。
「……おそれながら……」
ラキュースは平伏してアインズに尋ねた。
「んっ?」
「世界征服してしまうと冒険者達の仕事が……、無くなってしまうかもしれません」
仕事が無くなる。それは失念していた。
「無くなると思うか?」
「漠然としていますが……。凶悪なモンスターを倒す仕事が無くなる気がしました」
「……あー……、そうなるか……」
全てを管理してしまうとモンスターによる事故も激減するだろう。
かといって適度に
敵性プレイヤーでも居れば、と思ったが倒してしまえばやっぱり仕事は無くなるだろう。
支配地域を人間社会限定に、とも思ったがすぐに、それでは世界征服にならないことに気付く。
部下の手前、世界征服をやめます、と言えるだろうか。
国は作ったし、当分は現状維持のまま過ごすのも悪くは無いだろう。
自治権を取ってしまったのだから。侵略者が別に現われない限りは。
そうなるといつまでも世界征服は出来ない事になる。
「……世界征服は難しいようだな……。当分は悩みどころだ。それならば問題は無かろう?」
『保留』という言葉が脳裏に輝く。課金による文字エフェクトのように。
それはなんと都合のいい言葉だろうか、と今はそう思うアインズだった。
「は、はい……」
「今すぐどうこうなる問題ではないようなので、しばらくは現状維持のようですな」
「いやいや、アインズ。国づくりは大変なのだ。それはどこの国も同じだ」
「スレイン法国としては人間社会の平和さえ安泰であれば文句は無い」
「えー、世界征服しないんすかー」
のんびりとした口調でルプスレギナが言うとアルベドがベチっと彼女の頭を叩いた。
「失礼しました」
「しないとは言っていない。するのが大変だから考える、ということだ」
男のロマンを理解しない女は嫌いだ。
アインズは少しだけ怒りがわいたが、ラキュースが呻いたので、すぐに彼女の背中をさする。ただ
一応、
詳しいことは分からないけれど、悪属性の接触などが原因かもしれない。
様子を見ていたアルベドは少しだけ羨ましいと思った。
「で、出来れば私の背中もさすってほしいです」
そう言いながら尻を突き出すアルベドにアインズは呆れてしまった。
「う、うん。仕方が無いな」
うっかり尻を触りそうになったが、背中をさするととても喜んだ。
何度か小さく『くふー』とか聞こえてきた。
「やはりラキュースは地上に戻るといい。今日はとても助かった」
「ありがたき幸せにございます」
「他に議題が無ければ解散と言う事でよろしいかな?」
「デザートを食べさせてくれれば構わぬよ」
アインズはメイドに命令を下す。
会食の催しが終わり、それぞれの首脳陣が地上に戻ると多くの部下達が詰め掛けてきた。
随分と心配をかけてしまった事をそれぞれ詫びて帰り支度を整える。
貿易関係や様々な約束事を取り付け、当面の争いごとは控える事で一致した旨を伝える。
小さな諍いはあるかもしれないが、ナザリックが率先して攻め込む事態は今年は無いと伝えられる。
第十階層の玉座の間にて残っていた階層守護者達を集める。
「ふー、終わった終わった」
「お疲れ様です」
「罵声が無くて良かったし、スレイン法国の者に言いたい事が言えて良かったよ」
「……しかし、世界征服を延期なさるとは……」
「仕方あるまい。冒険者の仕事が無くなる事はもったいないだろう。地上のモモンも困ってしまう」
ラキュースから事前に説明を受けていたお陰で気分的には悪くない。
ヤントラのバカが相当な変態として有名になっていたのには驚いた。
「話しが逸れたな。イビルアイよ。残ってくれてありがとう」
メイドに用意された椅子にイビルアイは座っていた。その近くにはフールーダの姿もあり、ペストーニャも控えていた。
ルプスレギナも残るように言われていた。
周りには様々なモンスターが
「私が殺戮が大好きなモンスターではないことは分かってくれたかな?」
「魔法を使うのが大好きなのだろう?」
「ご名答。大勢の犠牲者は結果にしか過ぎない」
頭の回転が速いし、こちらの意図を汲み取る存在は好感が持てる。
よく曲解する部下に比べれば、の話しだ。
「先に聞いておこう。あのバカ……。ヤントラは様々な事を秘密に持っていると思うが……。確認のために聞くぞ。ナザリックと敵対する意志はあると思うか? 個人的見解でいい」
「無意味にモンスターを倒すと思っていたが……、そうではないようだ。意志があるかと聞かれても答えようがないが……。見ている分には敵対の意志は感じなかった」
「そうか。今、奴が作っている施設は何なんだ? 宝物庫らしいが……」
「その名の通りだ。屠殺場に実験室などがある。知られれば潰されると危惧していたがな」
隠しても仕方が無い。彼らの調査能力は自分たちを上回るのだから。
「安定的に金貨を生んだり、素材を用意するのが疑問だが……。踏み込めば全てが台無しになるんだろうな」
アインズとしては折角作っている施設を壊しに行くほど嫌がらせが好きな方ではない。
ましてヤントラはナザリックを傷つけるような事はしない人間だ。
八つ当たりで壊しては部下に度量が疑われてしまう。
「本題に戻ろうか。イビルアイは『
「どんな魔法かは……、よくは知らない」
「質問していて悪いが……、知らなくて当然ともいえるな。あれは第八位階で覚えられる魔力系の魔法だ。対象の肉片に魔法をかけて培養液に入れて復元させる。元の肉体が死んだ時に培養された複製が完成すれば魂が宿るというものだ」
魔法をかけずに培養液に入れた場合は何も起こらない、はずだ。
その魔法は知識として知っているがアインズは修めていない。
司書長辺りは使えるだろう。いや、知識として持っているだけかもしれない。
「奴の技量なら造作も無いだろうが……。保存液と容器の大量購入から見て相当量の複製体を保有しているようだな。ご苦労な事だ。対象が死なない限り動く事は無いというのに……」
推測に過ぎないことだが、肉体が復元されれば身体を消滅させられた存在などは蘇生魔法などで魂が宿るかもしれない、というのがアインズの理解だった。
今の言葉にイビルアイは小首をかしげる。
自分が見たのは
魔法とは違うのだろうか、という疑問が生まれる。
「複製体は……、動かないのか?」
「普通はな。動かす事自体は難しくないぞ。
『
「……すまない。今のも知らない魔法だ……」
「んっ? これは第六位階の信仰系だ。魔力系が知らないのであれば……、仕方なかろう」
魔法に詳しい人間にかかれば不可能な事など何もない気がしてきた。
充分に強くなったとはいえ高い位階魔法は勉強中だ。
「ちなみにあいつは大抵の魔法を扱うことができる。
「……さすがバスパ様。手数の多さであらゆる事態に対処なさるとは……」
「個人で大群を殲滅する人間だ。それくらいは出来て当然だろう。さて、魔法講義はおいておこう。日ごろの恨みつらみで施設を破壊する事はしないが……。ラキュースを貸してくれた恩や
「ん……。それはありがたいが……」
「『金の卵』を産む鳥を殺しては全てを失う。……そういう
周りからどよめきや感嘆の吐息などが聞こえてきた。
「無茶を頼みたいが、奴に言ってくれるか?」
「行くのか? 言うのか?」
そう言うとアインズは頷いた。
「言う方だ。その作った
「はっ? 数百体っ!?」
「嗜好品としてな。うちの部下達はとても……、我がままなのだ。生きた人間を捕まえるのも大変だが……。動かすのはこちらでも出来るから安心しろと……」
顔をしかめる意見だが、相手は色々と承知している存在だ。
イビルアイの見立てでは数万体は既にある気がしていたので無理な要望ではないだろう。
それを毎日となれば話しは変わるが。
「え……、ま、まあ……」
と言いよどむイビルアイをよそにペストーニャが進み出てきた。
犬の頭がとても気になる。
「……おそれながら疑問がございます、わん」
「どうした、ペス」
「バスパ様は『
「まあ、使っても不思議は無いな。それがどうかしたのか?」
「私が知りえている限りで言いますと……。その『
「ん……? 言っていることが分からないな。あいつは
「はい、わん」
アインズはヤントラの習得しているであろうクラスを思い出す。
個人的には好きではないが、細かい能力には興味があった。それは自分のでも他人のでも同様に。
「
「そ、それはどういうことですか、わん」
「表現が難しくて悪いがな。肉体を一つ複製する。複製された肉体には記憶は宿っていないまっさらな状態だ。そこは分かるか?」
「はい」
「元の肉体が『生きている状態』では、もう一つの肉体に記憶を宿らせる事は出来ない」
「元の肉体が生きているままでは出来ないと?」
「そうだ。転写する方法は元の肉体を殺す必要がある。死ねば自動的に記憶はもう一つの肉体に宿る。それが
記憶を移し変えるアイテムや憑衣の魔法もあるにはあるのだが、それでも人格をコピーして量産する事は出来ない。
魔法の解説をイビルアイはもちろん、フールーダもしっかり聞き耳を立てた。
イビルアイはヤントラからも説明を受けていたのだが、アインズから聞くと新たな発見のように聞こえた。
「
「
「私の知識では不可能のはずだ。無意味な肉体再生にしか過ぎないだろう」
イビルアイもそれらしいことを聞いた気がした。
わざわざ複製をたくさん用意したり、培養液の存在は知っているが、それは使っていないことも思い出す。
それと眼球だ。
元の身体から採取するのが大事だと言っていた。
「アインズ。その魔法は複製から複製を作るとどうなるのだ?」
「複製から複製だと? それでは記憶の無い肉体のままじゃないか。
適度な大きさと言うのが眼球ほどのものなのだろう。だからこそ必要だったのだとイビルアイは理解した。
確実にヤントラは
「まさか、あのバカ。複製から複製をたくさん作ってるんじゃないだろうな。記憶の無い肉の塊しか出来ないぞ。それはそれで構わないのなら仕方ないが……」
「では、複製から複製を作ったとして元の肉体……、記憶の無い複製が死ぬとどうなるのだ?」
「オリジナルから作った複製には記憶は宿るが、複製から作ったものだけ残った場合はおそらく、記憶の宿ってない肉の塊がそのまま残るだけだ。早い話が無駄死にだな」
複製の複製での蘇生実験はやったことはないが無駄な行為にしかならないだろう。
普通の常識では、と言う意味だが。
「魂の無い肉体を量産して動かせば……、パワーレベリングは可能か……。あいつ、屠殺場を作ったと言ったな。……なるほどな。効率の良いモンスター討伐ができるはずだ」
鋭いとイビルアイは驚いた。
魔法に詳しいだけはある。というよりはお互いが高い位階魔法に熟知しているからこそ知りえるのだろう。
ただのバカではない。
「生徒達の強さの秘密は理解した。だが、それを用意できる人間は……、おそらくあいつだけだろう?」
「んっ……」
「こんな芸当が出来るのは第六位階以上を知るものだけだ。今の原住民には想像もつかない方法だろう。イビルアイを責めているわけではないし、特定したからといって潰しには行かないぞ。私はちゃんと約束は守るからな」
「そ、それはありがたいな」
「購入リストを見る限り、奴はちゃんと
アインズは突然、叫んだので周りの従者達は驚いた。
「……ど、どうしました?」
「なるほどな……。だから、変態か……。あの野郎……、様々な魔法を駆使して変態的なスキルを使っているってことじゃないか」
変態の意味まで理解したアインズにイビルアイは感心した。
「魔法の使い方が凄いな、あいつ。
イビルアイは苦笑した。
アインズには見えているのだろう。
どんな魔法で
「アインズ様。その
「簡単な命令ならば可能かもしれないが……。よっぽど複雑な命令でもない限り戦闘には役に立たないぞ。まして長い命令を与えるのは効率が悪い」
「自分の意思では動かないのか?」
「魔法の性質上では命令が無ければ動かない。まして記憶の無い肉体に出来る事は命令を遂行する事だけだ。そこに元の記憶や人格などは介在しない」
アインズの考えは戦闘の役に立つか、立たないかのようだ。
「それにしても変態の思考は突飛だな」
「アインズ様。複製体を使えばナザリックに攻める事が可能なのでは?」
「それは本人のやる気だろうな。だが、あいつはアンデッド……、腐りかけなどのモンスターが嫌いな奴だ。こちらは生者を滅する事にかけては一流どころが揃っている」
「……愚問でした」
「よい。仮にそうだとしても当然、あいつも承知しているだろう。それにどのように攻めてもナザリックが大被害を被るのだ。お互い損害を出してまで戦う事に益は無い」
「ナザリックを破壊する事はご主人には得にならないと?」
「ならない。第九階層と第十階層のお得意様だぞ。それを台無しに出来るとは思えない」
かなり自信を持って答えているのでイビルアイは唸るしかない。
お互いを知るからこそ、なのだろう。
「自分の宝物庫を作っているのだろう? ナザリックを攻める理由は思いつかないのだが……」
思いつかないけれど攻めて来る事ばかり気にしていた自分を思い出し、咳払いをする。
「……はい」
「妻や王国の復讐ならまだ理解できるのだが……。君達の仲間を殺した、という報告は受けていないのだが……。あいつの周りで誰か殺されでもしたか?」
「いいえ」
イビルアイの知りうる限りで言えば
自分の仲間も健在である事は確認している。他ではエンリ達だが、こちらも特に言及されていない。
「こちらの言い分を理解してくれたようだな」
「……もったいないな……」
「んっ?」
「そこまで理解しているのに仲が悪いことがだ。意地の張り合いなのだろうか?」
「……意地の張り合いなのだろうな。自分の主義は変えたくないからな。アインズ・ウール・ゴウンを背負っている者としての責務でもある」
「責務は責務でしょうが……。やはりバスパ様と共にナザリックを引っ張ってくださった方がより利益となりましょうに」
「敵対したままでは世界征服の障害となりましょう。それこそナザリックが大損害を
そういえばそうだったとアインズは頭の痛い問題を思い出す。
自分で言っておきながら、なにをしているのだろうと頭を抱えたくなる気持ちになってきた。
「
確かに予想を超えた魔法の使い方をしているようだ。
謎の部分を解明するには味方に引き入れた方が楽なのだろう。
『金の卵』のようにいずれ自分で潰しかねない恐ろしさはある。
恩が大きいだけに反発する力が小さいな、今は。と、アインズは泣きたくなる気持ちだった。
「そうだそうだ、イビルアイ。奴から
「いや。……それは話しに出ていないような……」
家では話していなかったのかな、と首を傾げた。
「どこどこに行った、みたいな話しはするが……。それほど詳細には話さずメンバーの暮らしぶりを聞く方が多い」
ただ、随分と前に聞いたような気がする。軽い話題として流されてしまうと思い出すのが困難だ。
「本当に敵対するならばナザリックの防衛情報を漏洩していると思います。安全に入る方法を教えるくらいでは脅威にならないかと。それに味方に引き込んでおけば安心なのではありませんか? それに無理して顔を合わせる必要は無いのですから」
アルベドの意見はもっともだったし、イビルアイも納得できた。
他の皆もそれぞれ頷いている。
「だが……。あれは人間だぞ。お前たちが憎む……」
「バスパ様はただの人間ではありません! アインズ様と同じ存在でございますよ」
力強くアルベドが言い切った。
「人間の姿を借りた存在だとおっしゃったではありませんか」
それが『アバター』の事なのはすぐに理解できた。
彼らの中ではアバターは神と同義のような状態になっているようだ。
「ううむ。そ、そうだったな。だが、それでいいのか?」
「構いませんとも」
自信に満ちた笑顔を向けるアルベド。ただ、他の者は少しだけ引きつった顔をしていた。
アルベドの異常な興奮は時々、度が過ぎている。
あまりに酷いときは天井を破壊したり、壁や扉を破壊したりする。
あと、奇声が凄い。
異論を挟む者はアインズ以外には居ないだろう。決を取れば圧倒的にアインズは敗北してしまう。
至高の存在に牙をむくものなどナザリックには居ないのだから。
仲間として迎え入れるとしても自分の拠点を持つヤントラはナザリックに滞在はしないだろう。
そうなると仲間としての利点が浮かばない。
「利点ならあります。敵対しなくて済む、という利点が」
王国の管理を任せる事も可能とアルベドは言った。
確かに各国を支配下に置いても誰かが管理しなければならない。それも頭の悪い者では務まらない。
デミウルゴスを大量に投入するような事だ。だが、デミウルゴスは一人しか居ない。
アインズはナザリック地下大墳墓を管理するだけで大変な労力を使っているし、支配下に置いた
それぞれに優秀な部下を配置したいが頭数が圧倒的に足りない問題があるだろう。
帝国をフールーダに任せるとしてもだ。
ヤントラは星を支配しようとするほどの者だ。変態だが。
「その話しは色々と詰める必要があるだろう。まずは複製体を持ってきてもらおう。どんなものを持ってくるのか確かめてからでも遅くはないだろう」
変なおっさんばかりだったら殺そうかな。
全部同じでもイヤだな。
「そ、そういえば……。アインズ」
「どうした?」
「エクスチェンジ・ボックスというアイテムを知っているか?」
「シュレッダーのことか? 持っているぞ」
「あれはなんでも金貨に換える、と聞いたが本当か?」
この言葉でアインズは金貨の謎が解けた。
答えの代わりにドス黒いオーラが湧き出る。しかし、すぐにオーラエフェクトは消えた。
むしろ、納得できた。
「ア、アインズ様?」
「イビルアイ。あいつは人類の敵だ。それでもついていくのか?」
お前に人類の敵と言われたくないな、という思いがイビルアイの脳裏に浮かんですぐに消えた。
「……ついていくと決めた。だが……、色々と驚かされていて困っている」
「詳しく聞きたいところだな。我々も自慢できるような事は無いのだが……。あの変態野郎……、中々に食えない奴だ」
普通の発想や常識に囚われないどころか倫理観も欠如している。
人様のことを言っても仕方が無いのだが、あれも立派な殺戮王ではないのか、と疑問に思う。
イビルアイの様子からも色々と事情を知っていて、見せてもらっているのだろう。
「エクスチェンジ・ボックスは金貨の生産に必要だからと提供したのですか……」
「それは問題ない。あれは破壊できるからな。だが、問題は使い方だ。残骸処理にはうってつけだから。イビルアイは知っているのだろう?」
「使っているところは……、見せてもらってはいないが……。そういう……胸糞の悪い代物なのは聞いた」
「無駄に貯蔵しない点では優秀だろう。色々と分かって来たぞ、イビルアイ。私が言うのも変だが……、苦労をしてきたのだな」
同情されてしまった。
それはつまり宝物庫の使用方法がかなりの部分で見抜かれてしまったということだろう。
洞察力の高さに素直に驚いた。
「たっち・みー達が言う通り、人の姿をした異形だな、あいつは。……なるほど、ナザリックの仲間に相応しい条件を満たしている」
改めて思い知らされる。
ヤントラという化け物を。
アインズをして恐れを抱かせる存在だ。敵対したままでは確かにナザリックは大崩壊するだろう。それを防ぐには味方に引き込んでおいた方がいいのかもしれない。
味方になってくれるプレイヤー探しも目的の一つだった事を思い出す。
そうなれば人間種だから駄目だというギルドの約束事が障害になってしまう。
自分が今はアインズ・ウール・ゴウンなので覆せない事は無い。ただ、仲間の顔が浮かんでしまう。
「そうそう、イビルアイ。私は別にこれから王国の人間を皆殺しにしようだなどと計画はしていないぞ。戦争は戦争として理解してほしい」
「わ、分かった」
「部下達の顔ぶれに恐れられているが……。彼らは無闇に外で暴れたりはしない。知恵の足りない部下は少ないぞ」
では、王国を襲撃した悪魔は何だったのだろう、という疑問が浮かぶ。
壮大な計画の一環ならば、なんとなくは理解できなくも無いのだが。
命令の行き違いか、今のところ再襲撃は無いが、忘れてはいけないだろう。
「信頼の証しとして取っておきを見せてやろう」
アインズは『
黒いローブ姿から漆黒の
横幅のある姿が引き締まった戦士風に変わるのだから魔法の武具を知らない者が見れば不思議に思うだろう。
そして、イビルアイは
姿を見せた相手はとても良く知っている人物だったからだ。
「………」
「んっ? びっくりして声が出ないでありんすか?」
「絶望しているんじゃない?」
様々な意見が周りから出る。
それから少し後でイビルアイは仮面を外す。
現れたイビルアイの顔は涙を流していた。
「失望……、いや、今は絶望かな?」
声が同じ。だからとて信じたくはなかった。
否定しても否定しきれない現実。
「顔は幻術で作っていたのだ。いい男かどうかは分からんがな」
話す言葉はまごうことなき漆黒のモモンその人だ。
その顔は以前に見たことのある