※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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A-10 他人のステータス

 一通りの話しを終えて、メイド達も仕事に取り掛かることになった。

 ユリとシズを残して四人は退出していった。

「君たちの記憶力に任せるとして……。私は君たちの忠誠心に揺さぶりをかける気は毛頭ない。言い忘れていたが、アインズを頼むよ」

「畏まりました」

「……オッケー」

「敵なのにって思ってるか?」

「それは……、はい」

「その方が張り合いがあるだろう。一人は寂しいものだよ。さて、シズには隠し金庫まで案内してもらうとして……。たびたびナザリックに戻るかもしれない。プレイヤーの情報とか得られれば教えよう」

「分かりました」

「……それとギルドメンバーに会えたらナザリックの事を伝えておくよ」

 ユリは深く頭を下げた。

 首無し騎士(デュラハン)なので頭が落ちないか心配になった。

 浴衣のままシズを連れて移動を開始する。

 まず最初に隠し金庫の階層ではなく、第十階層に転移する。

 ヤントラが持つ指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)は各階層への転移を無制限に行うことが出来る。

 第一から第三まで。第六、第九、第十の階層も可能。

 制限により第四と第五、第八の三つは転移不可となっている。

 第七階層の溶岩地帯も行けるけれどヤントラはその階層を苦手としている。

 第九と第十の階層は敵の迎撃は想定しておらず、仮に攻め込まれてもここまで到達したものを労(ねぎら)うような施設になっている。

 メイド達も第九階層で寝泊りしている。

 他の階層と違って調度品に溢(あふ)れた豪華な仕様だ。

 現在、第十階層の玉座の間には何人かの階層守護者が居た。

「あっ! バスパ様だ」

 元気よく言って走り寄ってくるのは第六階層の守護者であり闇妖精(ダークエルフ)の『アウラ・ベラ・フィオーラ』だ。

 奥にはもう一人の闇妖精(ダークエルフ)『マーレ・ベロ・フィオーレ』が居た。

 見た目が少年の姿をしているのがアウラ。

 気弱な態度で黒檀に似た自分の身長よりも長い杖を持ちスカートを履いているのがマーレ。

 性別的にはボーイッシュだがアウラは女の子。マーレは男の子だ。

 背丈はヤントラの胸の辺りまでしかないが二人共レベル百の階層守護者。

「死ねや、人間!」

 と、元気よく飛び蹴りしてきたアウラの攻撃をシズは全身で受け止めてヤントラを守る。

「……それ、ご命令に無い。……アウラ様、下がる」

「軽い挨拶だよ、シズ」

 シズのレベルは46。防御力も低いのでアウラが本気を出せば壁まで吹き飛んでいたかもしれない。

 

 アウラもマーレもゲーム時代と違っている。

 製作者の設定が忠実に再現されている。

 彼女たちはユグドラシル時代はお人形のように従順で可愛がられた。それが今は自分の意思で動き、思考しているのだろう。

 金髪で左右色違いのオッドアイ。ビーストテイマー(魔獣使い)の姉。ドルイド(森祭司)の弟。

「……アウラ様。……人間、違う。……人間種のプレイヤー。……アインズ様と同じ」

「はぁ? なにそれ」

「プレイヤーがどんな存在か教えてあげたんだ。メイド達に。私より物覚えがいいから後で聞くといい」

「ふ~ん。それで……、人間様がこの第十階層までどんな用なのよ。アインズ様なら執務室だけど」

 そう言っている姉の側にマーレがとてとてとたどり着く。移動速度は極端に遅いようだ。

 アウラたちの他には全身を漆黒のボールガウンで身を包み、フリルとリボンの付いたボレロカーディガンを羽織った銀髪の少女が居たが、玉座の下にある階段に傘を差しながら座っていた。

 第一から第三階層の守護者『シャルティア・ブラッドフォールン』という。

 死人のような白い肌に血のような赤い瞳。

 おかしな廓(くるわ)言葉を使う。

 玉座の側には牛の角が頭に生えた女性。全階層守護者達を束ねる守護者統括のアルベドが控えていた。

「私がお呼びしたのよ。さあ、こちらです」

 腰から生えている黒い翼。

 全身鎧(ヘルメス・トリスメギストス)を着ている時はどうやってしまっているのか謎だった。魔法の武具は身体に合わせる仕様だとか聞いたが、原理は不明。

 シズは階段下に待機し、上ろうとはしなかった。

 戦闘メイドといえども弁(わきま)えている。

 本来は支配者しか座る事の出来ない玉座。今回はアインズ自らが許可を出したのでヤントラは座った。

 もちろんアウラ達は険(けわ)しい顔をしたが誰も言葉は発さなかった。ただ、殺意に似た気配を振り撒く。

「マスターソース・オープン」

 ゲーム時代を思い出しながらヤントラが言うと目の前に映像が浮かび上がった。

 ソロであれば『コンソール・オープン』で開くことも出来るがギルド内ではマスターソースと言うのが通例らしい。少ししか操作したことないから知らないだけだが。

「おお。出た出た。……というか、ここに来ないと出せないのか?」

「そのようです」

 ヤントラはアウラ達に顔を向ける。

 動いたら殺す。と、言っているような気がした。

「ですが、さすがはプレイヤーのバスパ様。至高の御方々に連なる者ですね」

「プレイヤーの全てが強いわけじゃないぞ。まずは……ステータスっと」

 映し出された映像には自分のステータスが表示された。

 本来のマスターソースはナザリックの管理画面が開くらしい。

 今回は大部分が空白になっている。権限の関係だろうとヤントラは予想している。

 この画面はユグドラシル時代、慎重なモモンガが操作管理を教えてくれたものだ。

 何故、ナザリックの弱点にもなるような事をヤントラに手ほどきしたのか。

 それは覚書の存在があるからだ。

 もし緊急の時は誰でも操作できるように、という訓練もかねていた。その一環でしかないのだが、不測の事態は想定しておかなければならない。

 モモンガも部外者に触れさせたらどうなるか気になっていたので、よい勉強になったと言っていた。

「大部分が表示されていないのは……、故障でしょうか?」

 画面を除き見たアルベドが言った。

 本来は他人のプライベートなのでマナー違反なのだが、ヤントラは指摘しなかった。

 彼女の言葉を聞きつけ、シズ以外が玉座に集まってきた。

「壊したんですの?」

「てめー、殺すぞ」

「落ち着きなさい。アウラ、シャルティア」

 マーレは手に持った黒檀(こくたん)に似た杖を振りかざそうとしていた。しかし、それはアルベドが掴んで阻止する。

「いや、これはこれで正しい。むしろ、こうなってくれないと困る」

 アウラは頭をヤントラの頬に押し付けるようにして画面を見た。すぐにアルベドに引き剥がされる。

「しっかり機能しているようだ。ナザリックの情報が秘匿(ひとく)されている証しだ」

「確かに」

 そうでなければアインズが許可を出す筈が無い。そうアルベドは思った。

 

 画面を操作する手つきは慣れたもので他の守護者も少しだけ感心する。

 ステータス画面になると秘匿が解放されたように様々な情報が映し出される。

「これがバスパ様のステータス……。……微妙かも」

「れ、レベルが84……。でも、高い方かも……」

 覗き見られている様子は少々、煩(わずら)わしいがアルベドも少しは興味があったようだ。

「特殊技術(スキル)スゲー。いっぱいある」

「……ま、魔法少ない」

「ちょ、アウラ。邪魔でありんすぇ」

「うわー、へー。戦士と盗賊(ローグ)系……」

「信仰、系なんですね」

「こんな程度のステータスならわらわの敵ではないでありんす」

 階段下のシズは微動だにしないが見たいと思っているのだろうか。

 ヤントラが彼女に顔を向けると、片膝をついたまま眠っているように見えた。

「ワルキューレを取ろうとしてね。特殊技術(スキル)なんて覚えられないから、何がなにやら」

 三つくらいなら覚えられる。

 魔法は第五位階まで使える、というかそこまでしか取ってなかったらしい。ほぼ信仰系に偏っていて魔術系では目立ったものは無さそうだ。

 一応、ウォー・ウィザードという職を取っている。なんで取ったのかは忘れた。

 人間種なので異形種に比べれば全体的に低いのは当たり前だ。

 物理攻撃。物理防御。魔法防御も一般より下だろう。

 素早さは割りと高かった。

 それよりもアウラの頭が目の前にあるのが邪魔というか、撫で回したくなるというか。

「HPとMPも少なめだね。これでレベル百になったらマシになるの?」

「どうだろう。プレイヤー同士の戦いでもなければ特に問題は無いと思うけど……」

「神器級(ゴッズ)装備とか世界級(ワールド)アイテムとか使われたらひとたまりも無いもんね」

「そういうこと。神器級(ゴッズ)に身を固めたアインズに私が勝てると思うか? 世界級(ワールド)アイテムでもないかぎり無理だろ?」

 そう言うと全階層守護者達は揃って頷いた。

「そういえばメモ用紙ってある?」

「ご用意致しました」

 アルベドは羊皮紙とインクと羽ペンを見せるがアウラ達が邪魔だった。

「邪魔! 散りなさい!」

 口を大きく広げて般若(はんにゃ)のごとき形相(ぎょうそう)で威嚇(いかく)するアルベド。

 清楚(せいそ)な女性でいるアルベドの方が好みだが、今は仕方が無いだろう。

「人の弱点は見ただろう。それとも君たちのステータスを見せてくれるのかな?」

「あたしは別にいいけど。めちゃんこ強いから」

「わらわも望むところでありんすぇ」

 自信に満ちた言動。それも製作者の性格などが反映されているのだろう。

 

 アウラとシャルティアは製作者が実の姉弟である。

 姉は『ぶくぶく茶釜』で弟が『ペロロンチーノ』だ。

 ペロロンチーノの変態の夢を詰め込めるだけ詰め込んだシャルティアは理想の存在して受肉したらしい。

 聞くまでも無いので割愛しよう。

 茶釜姉さんの作ったアウラとマーレもまた理想の形なのだが、マーレは弟をモデルにしているもよう。

 その割りに気弱な性格だったかな、と首を傾げてしまう。

 弟そのままならマーレは変態さんという事になってしまう。

 可愛い男の娘。でも、年齢は七十代。闇妖精(ダークエルフ)の年齢で言えば子供の部類かもしれないけれど。

 一般的なファンタジーに出てくる森妖精(エルフ)も見た目は二十代でも実年齢が百歳越えはゴロゴロ居たな。

 ステータスを仮に見たところでヤントラが詳細を記憶していられるとは限らない。

「君たちのステータスは多少は知っているけど、全ての特殊技術(スキル)とか魔法は覚えてないよ。大雑把な部分くらい。物理攻撃では皆には勝てないだろうね」

 アウラの物理攻撃が75ならヤントラは70くらい。

 彼女の場合は職業(クラス)や特殊技術(スキル)が優秀なので単純な戦闘は得意とは言いがたい。

 普通の力比べなら今は負ける。

 魔獣使い(ビーストテイマー)の能力を発揮されたら苦戦するだろう。

「えっへん」

 美乳、いや微乳のアウラが胸を張って自慢する。

「第十位階の召喚とか出来たらまた少し戦い方が変わるのだろうけど……」

 こういう風に賑やかな雰囲気は嫌いではない。

 かといって支配者になる気も無い。

 階段下から一斉に向けられる視線はたぶん耐えられないかも知れない。

 用意された羊皮紙は表面がザラザラして羽ペンでガリガリと書かなくてはならないから、書きにくい。

 植物の葉(パピルス)だと時間経過でボロボロになるし、紙というものを発明した人は偉大だなと思う。

 和紙くらいは作れたらいいのに。

 自分のステータスの必要な情報を書き写していく。

 毎回、ここに来れる訳でもないので。

 新しい職業を得られるか、書き終わってから操作してみたが、色々と取得してたんだなと他人事のように思った。コックとかいつ取ったんだろうか。

「そういえば、バスパ様は昔の名前と違うのはどうして? なんか似てる気がするけど……」

 と、アウラが尋ねてきた。

「昔の名前は今の名前の略称だよ。今の名前がほぼ正式名称。正しくは『ヤントラ・サルヴァスヴァ』と、いうそうだが。古代の文献の名前だよ。意味は……機械に関するすべて……、だったかな」

「さるばすば……」

「こだわりを持つ至高の御方々のお考えは我々の想像を超えているのですね」

 アルベドは少し喜んでいた。

「一息で言うのがコツだ。以前と同じくバスパと呼んでくれても構わない」

「ふ~ん」

 人間のクセに、というアウラの冷たい視線を受けたが特にそれ以上は言われなかった。

 マーレは大人しく聞いていて何度も頷いていた。

 

 新規職業取得。

 

 特別な職業(クラス)を獲るには様々な条件を満たす必要がある。それは種族も同じこと。

 今のところ新しく取れそうなのは『騎士(ナイト)』と『槍兵(ランサー)』が最初に目に入った。

 上位には『聖騎士(パラディン)』が控えている。

 盗賊(ローグ)系では『女忍者(クノイチ)』という表記がある。

 レベルアップするには経験値が必要。しかし、ユグトラシルの場合は自動的には上がらない。自動的に下がることはある。

 死亡時の五レベルダウン、または五レベルドレインと言われるペナルティは新しいレベルから消失する。

 なので職業(クラス)の再度の取り直しを要求される。

 経験値をパラメータに割り振り、職業(クラス)レベルなどを上げることがレベルアップとなる。

 ヤントラも相当量の経験値が溜まっているので一気に九十越えも不可能ではない。

 百レベルが限界だが今は後六個くらい取得できそうだが、どうしようか。選ぶのに時間がかかるのもゲームならではの楽しみでもある。

「……みんなは持ち場につかなくていいの?」

 アウラ達が珍しそうに眺めていたので尋ねた。

「今は休憩中。プレイヤーの強さの秘密を間近で見る機会がないから」

「あ、アインズ様も、こんな感じなのですか?」

「同じだろう。彼は秘密が多いだろうから見せないと思うが……。切り札は隠してこそ効果を発揮する」

 ヤントラの場合は切り札がほとんど無い。

 世界級(ワールド)アイテムを一つ所有していたが現在はナザリック預かりとなっている。

「特殊技術(スキル)の組み合わせは大事なんだろうけど、数が増えると覚えきれない。よくあいつ、七百近くの魔法を暗記出来たな。大したもんだ」

 三つくらいで断念する自分としては素直にアインズを誉める。

 確かに実力もあるし、作戦の組み立て方も上手なのは見ていて分かる。

 性格を除けば完璧だろう。

「そうそう外に出ないと思うけど、世界級(ワールド)アイテムに匹敵するものが敵の手にあれば君達でも苦戦するだろう。絶対に通用しない攻撃が通用するようなものとか。油断しないようにね」

「いやいや、あたしらが負けるわけないじゃん」

 大侵攻の時、階層守護者は全員敗北している。

「アウラ。絶対は無いと思うわ。アインズ様はそういう事も警戒してナザリックの警戒レベルをあげたはずたもの」

 アルベドの言葉にヤントラは頷(うなず)く。

 慎重なアインズにとって未知の敵は脅威である。

 だから未知の世界級(ワールド)アイテムの事も考えるかもしれない。

 いくら守護者でもトンデモアイテム一つに負ける事だってありえない事は無い。

 使用者を完全抹消して相手のデータを抹消する世界級(ワールド)アイテムが実際に存在する。

 世界級(ワールド)アイテムは不可能を可能とする。

「世界級(ワールド)アイテムはおよそ二百。ナザリックが保有するものは十個くらいだったかな。つまりまだ多くの未知の世界級(ワールド)アイテムとこの世界特有の世界級(ワールド)アイテムがあるかもしれない、ということだ。決して油断は出来ない」

 そう言われてアウラは口ごもる。

「人間の言葉だけど、覚えておいてくれるとありがたい」

「ふんっ!」

 本来なら一覧表のようなものが欲しいところだが、殆どの情報が秘匿されたまま運営が終わってしまった。

 実際に手に入れて鑑定する以外の方法が無い。

 

 アウラがふてくされている間に職業(クラス)の選択をやってしまおう。

 クリエイトツールを使えば書き換えも可能。

 制限のかかっているところはギルドマスターの権限により解除することは出来ない仕様だ。

 キャラクター作成よりかはこちらがメインだ。あと、色々と隠された機能がある。

 経験値は職業(クラス)のレベルアップにも使う。

 バラエティに富んだ職業(クラス)の方が戦い方に面白みが出るかもしれない。

 『暗殺者(アサシン)』をアップさせて『姫騎士(プリンセスナイト)』と『女忍者(クノイチ)』を追加してみた。

 まだ少し経験値に余裕があるみたいだが、今回はこれでレベルが90になったわけだ。

 女忍者(クノイチ)のレベルを3にしたのはまずかったかもしれないが。

 忍者(ニンジャ)と何が違うんだろう、そういえば。隠し職業(クラス)とか出て来ないかな。

 自分の事ながら、バッカみてー。

 特殊技術(スキル)はきっと妙なことになってるんだろうな。

「さ、召喚師(サモナー)のレベルは3なんですね」

 マーレが覗き込みながら喋った。

「いざという時の盾も必要だろうから」

 サモナーだけを上げても意味はないのだが、未修得の魔法がいくつかあるが、それを選ぶのも時間がかかる作業だ。

 今回のレベルアップは職業(クラス)的には数が増えた程度。あと5上げると色々と何かが現れる噂は聞いた事がある。

 一口にレベル90と言っても職業(クラス)は結構多く取得している。

 今回のを含めると二十個くらいあるかも。

 レベル百までに取得できる職業(クラス)は少なくて七個。多くて百個。

「職業(クラス)は二千を超えるというし。隠し職業(クラス)もある。珍しい職業(クラス)は取ってみたいよ。クソの役にも立たないものとかもあるかもしれないから、取得はけっこう博打に近いかもしれない」

 マーレは感心したようにステータス画面を見つめた。その顔はとても優しい少年のものだった。

 職業(クラス)の選択は終わったので、特殊技術(スキル)の確認を終えたらアイテムや装備の確認も一応、見ておく。

 レアもののアイテムが無いのでアウラ達には面白みが無かったもよう。

 レベルアップしてもステータス的には大幅な増加、のような印象が無いな。

 人間種は期待を裏切らない。

「……人間は弱いな……」

 よくよく考えるとダークエルフも人間種なんだよな。

 ステータスの差から見てもアウラ達より弱いのだろう。

 装備品の差もあるかもしれない。

 

 一通り確認した後、改めて守護者達にコンソールの内容を見せてみた。

 シャルティアはレベルアップしても楽勝と言っていた。

 同じ信仰系の特殊技術(スキル)を保有していても神器級の武器を装備する彼女と一対一では分が悪い。

 別に無理して階層守護者を倒そうとは思っていない。

 戦ってみたい気持ちはある。

「単体でナザリックは攻めないけど……。個人的には助っ人に来たい」

「役立たずは要らないよ」

「お、お姉ちゃん。せっかくの好意、だよ」

 たどたどしい喋り方だが実力はある。

 マーレは攻撃力もあるし、森祭司(ドルイド)系の魔法も充実している。

 大規模隠蔽も特殊技術(スキル)によっては可能とするとか。

 アウラはビーストテイマー系の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)で精神作用効果の吐息を吐く事が出来る。

 強化(バフ)と弱体化(デバフ)を自在に操る事が出来る。

「アウラの言うとおり、戦力にはならんわな。死の騎士(デス・ナイト)一体が二体になる程度だし」

「死の騎士(デス・ナイト)の方がまだ役に立つよ」

「ナザリックの戦力は増強中ですが、助っ人はアインズ様も考えておられるようです。バスパ様にも何かアイデアでもあるのですか?」

「アインズ様の方がこいつより色々考えてるって」

 アウラとアルベドがにらみ合い、マーレがオロオロしながら宥めようとする。

「アイデアというわけでもないが……。危惧していることが、一つ」

 そうヤントラが言うと言い争いは止んだ。

 シャルティアは一段目に腰を下ろして話しを聞く体勢になった。シズは完全に寝ているもよう。彼女は寝転がっていた。

「このナザリックは平原にあります。……確かそうだったと聞いている」

「うん」

 それがどうした、という顔をアウラはした。

「ここの土地、ナザリックのある今の土地という意味では誰のものでしょうか?」

「アインズ様のでしょ?」

「違います」

 想定された答えにヤントラは即答で言い返す。

「おそらくはどこかの国の領土のはずだ。地図を見ないと分からないけど……」

 『転移門(ゲート)』で飛んできたので現在のナザリック地下大墳墓がどこの土地にあるのか、確認していなかった。

 このナザリック地下大墳墓そのものが何処(どこ)かの領地に転移していてもおかしくない。

「税制はまだ分からないけれど、いずれは税金を払え。土地の勝手な占有は認められない、とか文句を言われます。そうするとアインズは困ります」

「ナザリックは至高の御方々がお創りになったところだよ」

「ナザリックはね。でも土地は違う。人間社会の法律というものが壁となるだろう」

 アルベドもヤントラが言っていることは少しずつ分かってきた。

 

 敵対プレイヤーの情報を得ることばかり考えていたが、ナザリックの周りはまだ未知である。

 トラブルが起きればアインズは困る。それを避ける為に村で人助けを行ったのだ。

 敵対プレイヤーを利する事はナザリック地下大墳墓にとって致命的となる。

「……村を足がかりにする、というのは……」

 小さな村になんの価値があるのか、アルベド以下。他の守護者も疑問に思っていた。

 人間に慈悲を与えてアインズ・ウール・ゴウンの名声を上げる。そこまでしか考えていなかった。

「ナザリックの地盤を固めるためだろう。土地を硬くするって意味ではないよ。友好的に振舞う、ということは敵対するプレイヤーに攻撃の理由を与えないということ」

「なんで?」

 アウラの疑問にマーレも頷く。

「正義の味方を攻撃すれば自分たちが悪者になって国から狙われる。アインズとしては次の一手として国から声をかけてもらおうとか思っているのかもな。のちのちナザリック近辺の土地の問題も解決すれば隠れる必要も無くなる」

「……なるほど」

 アルベドは真剣な顔で言ったがアウラとシャルティアは頭に疑問符を浮かべていた。

「でも、これ言ったらアインズのやつ怒るかもな。あと、あいつ結構、沸点低いから我慢できないことでトラブルを撒き散らすかもしれない。みんな、アインズを助けてやってくれよ」

 ヤントラの言葉に一番反応したのはアルベドだった。

 人間でありながらアインズの心配をするヤントラのことがアウラには理解できなかった。

 同じプレイヤーだから、というのもあるかもしれないけれど。と、煮え切らない思いにアウラの口は尖ってしまう。

「だいたいアンタ、アインズ様の敵なんでしょ?」

「そうだよ。敵だから簡単に潰れてもらっては困るんだ。張り合いがなくなると寂しいんだよ」

「心配せずともわらわ達が居れば何も問題はありんせん」

 高笑いしそうなシャルティア。シズが寝ているので声だけは小さくした。

「殺すか殺さないかで言えば……。私は殺されるほうだな。敵対しても大丈夫じゃないかな?」

 暢気(のんき)なヤントラにアウラも呆れ気味でため息が出る。

 ちょっと弱体化(デバフ)で弱らせてやろうかな、と思ったが玉座に何かあっては困るので諦めた。

 

 見るものを見た後、コンソールを閉じて階段を下りる。

 寝ているシズを静かに起こす。

「お待たせ。もう少し頑張ってくれ」

「では、私達はここで失礼させていただきます」

「べ~」

 アウラに嫌われてしまったかもしれないがマーレは小さく手を振ってくれた。

 シャルティアは一瞥だけ。

「……ナザリックって冷たい……」

「ああっ!?」

 アウラがあからさまに敵意を向けてきたので、シズと共に転移した。

 次なる移動場所は第六階層。円形闘技場(コロッセウム)がある場所だった。

 アウラ達が普段、寝泊りする大木もこの階層にある。

 この階層のどこかにヤントラの隠し金庫が少なくとも三つ存在する。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 大侵攻の時も誰にも発見できなかった代物。そう簡単には見つけられない。

 シズと共にのんびり歩き続け、円形闘技場(コロッセウム)を眺めつつ移動する。

 戦闘メイドのシズに頼めば、たちどころに場所を突き止めるだろう。

 エメラルド色の瞳に片方はアイパッチで隠されていて長く伸ばされた赤金(ストロベリーブロンド)のストレートヘアが歩くたびに揺れる。

 迷彩柄のマフラーは年中巻いている。

 大型アップデートの時に実装された自動人形(オートマトン)という異形種である。

 種族の特性か表情は冷たいまま変わらない。しかし、ナーベラルよりかは優しさのこもったセリフを言ってくれる。

 ナザリック地下大墳墓の特定の場所において全てのギミックのパスワードなどを管理している。

「……ところで、バスパ様に質問」

 いきなり声をかけられてヤントラはびっくりした。

「シズから質問とは珍しいな」

「……盗賊(ローグ)系の職業(クラス)を持っているのに罠にかかるのは何故?」

「昔ほどは罠にかかっていないよ。探知系が苦手って言うのもあるかな。盗賊(ローグ)系は戦闘用で取った職業(クラス)だから。それ以外はてんでダメって感じ」

「……役立たず」

 無表情で言われてしまった。

 シズも言う時は言う子なんだなと感心した。

 自動人形(オートマトン)と言えどもシズも睡眠をとる、ということにヤントラは気付き驚いた。

 睡眠不要のアイテムを装備していないのか、睡眠は普通に取るものなのか、分からなかった。

 そういう設定という線もあるけど、シズが寝るのは可愛いからいいか。と、ヤントラは指摘しない事にした。

「では、シズ。金庫のところまで案内してくれ」

 自力ではまだ数時間ほどかかりそうだと思って早々に諦めることにした。

「……オッケー」

 無表情で了解された。

 シズはまっすぐ前を向いて歩き出す。

 迷いの無い足運び。数分でシズは立ち止まる。

「……第一金庫はここ。パスワードは?」

「頼む」

「……第一金庫のパスワードを唱えます」

 そう言った後、両膝を曲げて勢いよく垂直に奇麗にジャンプする。

「……バイアクヘー」

 シズが着地する頃に空中に四角い空間が、というか穴が開いた。それはすぐに大きくなり、地面に落ちてくる。

 ヤントラはシズの脇を掴んで引っ張るように後ろに下がらせた。

 切り取られた空間が落ちる。そういう表現しか出来ない。

 普通の位置では探知されるというので一定距離の高さに金庫は存在する。そして、その高さに合わせてパスワードを入力するのだが、ヤントラだけでは条件を満たすのに時間がかかりすぎる。

 シズは正確に仕事をこなせる。

 逆に言えば、ヤントラ自身が勝手にアイテムを持ち出せない、という事になる。

 運の要素は多いけれどセキュリティーは高い方だろう。下から言っただけでは無意味、という嫌がらせ。

 ジャンプして言うものだからパスワードは簡単なものになる。

 閉じるときは物凄く簡単。ロックと言えばいい。

 一気に収縮して見えなくなる。

 中に人が居る時は何も反応しないという設定。というか閉じ込められないようにしてもらった。

 ただし、それはゲーム時代の話しで今も同じかは不明だ。

 金庫の下に誰か居た場合は強制的にどこかに弾き飛ばされる仕様になっていたはずだ。

 ダメージを受けるかどうかまでは知らない。

 

 現れた四角い空間から黄金色の光りが溢れてきた。

 広がった空間に扉は無い。しかし、奥行きが縦横十五メートルほどで高さも同じくらいある。

 『飛行(フライ)』が無ければ高さは無駄なスペースになる。

 本来は収納スペースを設置するのだが、それは無かった。

 金貨やアイテム類はそれぞれ整頓されては居るが小山になっている。

 拠点製作用に『グリーンシークレットハウス』という便利なアイテムがあったらしいが、既に後の祭り。セキュリティー対策が万全そうじゃないので別に悔しくない。

 部屋の中にあるのはユグドラシル金貨の山。部屋の七割近くを占拠している。

 ざっと見ただけで何十億枚もありそうだった。

「……金貨一枚かける数字っていう簡単なものにしてくれれば……」

 枚数分の実物では高額商品を買うのに不便である。

 これらは拠点に置いておくだけで自動的に消費されるアイテムでもある、らしい。

 ヤントラは拠点を持っていないので金貨は買い物にしか使ったことが無い。

「おっと、そうだ」

 懐から無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)ではなく、普通のアイテムを入れる袋を出した。

 小物を入れる時に使う何の特徴も無い普通のアイテム。

 小さいといっても金貨なら五キロ分は入る容量がある。それにポーションの空き瓶と数百枚程度の金貨を入れる。

「これをユリに渡して。金貨は羊皮紙代とお風呂の利用料ということで」

「……分かった」

 シズは結構な重量になったアイテム袋を無表情で受け取った。

 手持ちのアイテムを一旦、全て取り出し、改めて荷物をまとめる作業に入る。

 その作業は一時間はかかりそうだったのでシズには一旦、第九階層に帰ってもらった。

 代わりにヤントラの監視にはナーベラルが担当することになった。

 シズと違った意味で冷酷な顔で監視してくる。

 戦闘メイドの中で攻撃魔法に特化したナーベラル。レベルは63。

 種族レベルは1しかないが残りは職業(クラス)に注がれている。人間の姿をしているが異形種である。

 どういう設定をされたのかは知らないが人間蔑視が色濃く反映されている。

 名前で呼ばれたことは一度も無いかも知れない。

 卵形のスカートが特徴。

 メイド服は戦闘用なので鎧をメイド服に加工したような感じである。

「……下等生物(テントウムシ)に問いたい」

 ゴキブリ、アメンボ、聞いた事も無い虫。色々あるが、どれくらいの種類を言えるんだろうか。

「なんだい?」

「先ほどの話しだが、プレイヤーは下等生物(カタツムリ)で間違いないのか?」

「……良いプレイヤーも居れば悪い奴も居る。アインズまで下等生物扱いはしてくれるなよ」

「当たり前だ!」

 そうなのだが、ナーベラルも自分で失言したことに気付き、呻く。

 この娘は感情に任せて言い過ぎる所がある。

「原住民はそう思ってもいいが……。アインズが敵対者と認識したものだけ、そう思ってもいいさ。……そうなると私は下等生物のままだな……」

 それはそれで悲しい現実だ。

 とはいえ、人間蔑視を今更変えられるわけも無いし、そういう風に設定したメンバーが責任を持てばいい。

「闇妖精(ダークエルフ)も人間種だが、無差別に下等生物というのはちょっと……。ある程度の基準は決めておいた方がいい」

 今のナーベラル基準ではアウラ達も下等生物の枠組みに入ることになる。

 色々と自分の失態でも思い出したのか、ナーベラルが難しい顔をして黙り込んだ。

 それよりもヤントラは処分する武具をまとめて、新たに上等な武具を選ぶ。

 スクロールも膨大な数を所有しているが、新たな特殊技術(スキル)に対応できるものを選び出す。

 ポーションは特に問題は無さそうだ。

 自分で集めてきたとは言え、よくこんなにいっぱいにできたものだと感心する。

 メンバーが集めたものに比べれば天と地の差はあるものの、壮観だった。

 重量軽減のデータクリスタルを多く取ってきたせいか、もう少し属性付与の武具を充実したいと思った。が、今更なので仕方が無い。

 第二と第三の金庫も開ける必要があるがナーベラルはパスワードを知らない。探しもしないだろう。

 金庫の中身が見える状態とはいえ、金貨とか取ろうとしないのはさすがだろう。

 ナザリック地下大墳墓にあるものは全てアインズ様もの。下等生物のものは全て没収です。と言われるかと心配していたが。

 世界級(ワールド)アイテム以外でナーベラルの気を引きそうなアイテムは無さそうだし。

 さすがに世界級(ワールド)アイテムを見せたらナーベラルとて動揺するかもしれない。

 それはそれで驚く姿を見たいものだ。

 そんなアイテムはねーけどな。

 

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