ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
ヤントラと仲が悪い。
彼はモモンの正体を知っている。その理由が判明した。
彼はもてる、という言葉にも納得した。もてるはずだ。
ナザリック地下大墳墓の
では、あのナーベも彼らの仲間なのだろう。
人間蔑視の言葉。
色々と納得する事がある。そして、ヤントラは決して彼らの正体は言わなかった。
一人で会ってはいけない、というのは何をされるか分からないからだ。
ヤントラの忠告は決して的外れなんかではない。
「……失恋とは悲しいものだな……」
「んっ?」
二百五十年。とても長い間、孤独だった。
モモンの勇姿は紛れも無い本物であるはずだ。
「一方的な恋ではあったが……。仕方が無い。惚れたのは間違いではないぞ」
「そうですか」
他人の恋愛には興味が無い。というのは人間的な反応が希薄なアンデッドの特性かもしれない。
「地上に居るモモン様は何者だ?」
「私の部下で本当の名は『パンドラズ・アクター』という。
このナザリックには様々なモンスターで溢れかえっているのだなと呆れつつも驚かされる。
とても種類豊富で感心すらする。
「ナーベもか?」
「戦闘メイド『ナーベラル・ガンマ』という。人間蔑視が治らないのが困った点だがな。魔力系
「……ご主人は知っていたんだな」
「それはそうだろう。長年一緒に居たんだ。見抜けない方がおかしい」
アインズの言う通りだった。
「……んっ? では、戦争の時に助太刀したのも
計画ではヤントラが助太刀する手はずだったはずだし、超位魔法は部下にも使えるものだろうか。
「あれは
「あの怒号はご主人だと?」
そう言うとアインズは頷いた。
「……全くえらく恥をかかされたものだ。折角の魔法が大無しだ」
アルベドがイビルアイの近くに歩み寄る。
「
「こ、声は?」
「口唇蟲というモンスターを使えば声を変えられます。ただし、喉を引き裂いて口唇蟲を入れなければならないので普通の人間には無理でしょうね。バスパ様だからこそ出来ることかと……」
イビルアイは口唇蟲というモンスターの知識はある。
他人の声を奪うおぞましいモンスター。それをヤントラは使い、モモンの声音を再現した。
「私に内緒で仲間たちを使い、壮大な演出をしてくれた手腕は感心した。あれからモモンの装備品がどうなったのか気になるのだが……。知らないか?」
イビルアイは首を横に降った。
モモンとして活動していても特に妙な噂は聞かないので使っていないのだろう。
「私が冒険者として活動する事に疑問を感じるだろうが……。世界を知る上では現地に溶け込む必要があったのだ。冒険者達の話しを聞き、地盤を固めて名声も得ようという計画だ。もちろん、仕事は真面目にやったぞ」
「モモン様はもう居なくなるのか?」
「折角の英雄がいきなり失踪するのはよくないだろう? どちらも続けるつもりだ。しばらくは……、という意味でだが……」
ウソをつかれた。
そんな事が浮かんだが、地盤固めには必要な手段であることは理解している。
スパイなども変装をして溶け込むのだからおかしなことはない。
それにアインズは自ら正直に明かしてくれた。
「こんな私でも人を好きになっていいと思うか?」
「はっ? まあ、恋愛は自由だ。いいんじゃないか」
「モモン様は人を好きになった事はあるのか?」
「そ、それは人並みには……」
アルベドに『モモンガを愛している』と書いてしまったほどには恋愛感情は持っていると思う。
「モモン様の次にご主人を愛している。だから、変態だろうと彼の味方で居たい。命を救われた恩というのもあるが……。……だから、ご主人を……殺さないでほしい」
椅子から下りて床に平伏するイビルアイ。
「今すぐ殺すとか言っていないだろう」
「モモン様との恋が破れた今は彼しか居ないのだ」
力強くイビルアイは言った。
「恋する乙女の気持ちを察してあげてくださいませ」
と、アルベドはアインズに深く頭を下げた。
アインズはため息に似た吐息を吐いた。
女心は理解し兼ねる。だが、相手の気持ちを理解しない事は色々と不味いだろうことは理解した。
「正体は明かしたが私も冒険は大好きな方だ。だから、しばらく冒険者としての仕事は続ける予定だ。所属する国の為に働く気持ちにウソは無い。さて、イビルアイよ。私の正体を周りにバラすか?」
「そ、そんなことは……。私はそこまで度量の小さい女ではない。アダマンタイト級としての意地はある」
一人の女としてはまだ小娘でいたい気持ちはあった。
涙がなかなか収まらない。
戦争時に駆けつけてくれのはヤントラだと分かったが、あれがモモンその人であったら兵士達を救っていただろうか。
下準備を整えていた時点でアインズ、モモンは完全に関知しない立場だったのだろう。
でなければ影武者を使ってすぐに偽者と言えばよかった。それが出来ないのは用意しなかったからだ。
用意する気が無い、とも言える。
そう考えればヤントラの行動は兵士たちの希望そのものだろう。
アインズの仮初めを完全に固定する事で王国でモモンの悪巧みを阻止する事も出来る。
実はアインズでした、という人々を絶望に落とすマネも封じる事ができる。
開き直られるととても困るのだが。そこら辺もヤントラは考えているのかもしれない。
モモンの正体がアインズだったとしても人々に絶望を抱かせない方法などを。
戦争で多くの兵士を救ったのはヤントラで間違いは無いのだから。
それこそが
「……我々の国は思い込みが激しい。だから、ちゃんと当人の口から説明してほしい」
「うむ。了解した。出来るだけ、善処しよう」
「あー、それから一つ失礼させていただくので耳でも塞いでくれ」
「んっ? わかった」
それからイビルアイは大きく息を吸い込む。
彼女の様子を察知した他の従者達も耳を塞ぐ。
「乙女の純情を返しやがれぇ~! 人を好きになって悪いかぁ~! 運命なんかクソ食らえだ! この野郎ぉ!」
怒号を繰り返すイビルアイ。
耳を塞いでいたとはいえ内容はしっかり聞き取れた。
同情と言うか、気の毒に、という感情は抱いた。
感情の発散は必要だろう。アインズもその点は納得した。
気分が落ち着いたところでイビルアイは失恋したから
恋愛は抜きにしても子ども扱いされにくいから別にいいか、と思うことにした。
「失礼したな。……ところでナーベも人間ではないというなら……、あれは何なんだ?」
「
変装できない
それは種族的にまずいのでは、とイビルアイは涙を
「戦争時にはちょっと酷いことをしてしまったが……。そちらの献身的な行動には素直に感謝する」
「感謝と言うか……、自分の部下だろうに」
「あの程度ではナーベは死なないと踏んでいたのだが……。やりすぎた事は認めよう」
死んでも復活できるから、ということだろうか。
それはそれで酷い上司だな、とイビルアイは呆れた。
「いっそ真蒼の薔薇……。いえ、バスパ様にナーベラルをくれてやれば良かったのに……」
側に居るアルベドが言った。
常にモモンと行動を共にしているので嫉妬の言葉が出てしまった。
「そうなると仕事をよくサボるルプスレギナも渡す事になってしまうぞ」
名前を言われたルプスレギナはその場に平伏する。
捨てる事になればヤントラは確実にナーベラルを貰うだろう。アインズはそんな気がした。
面倒を見切れない部下は確かに居る。
処分するのはもったいないし、知らないところに送り出すのは不安だ。
「色々と驚かせたが……、モモンはこのまま冒険者として活動する。魔導国は都市の開発で忙しくなるだろう」
イビルアイは涙を
「胸襟を開いてくれたナザリックに敬意を表しなければな。モンスターの巣窟だからと討伐うんぬんは短絡的。そちらの部下や兵士たちは実に見事な統率で感服したぞ」
「それは……、素直に嬉しいな」
「戦争の恨みつらみを言う気は……、多少はあるが……。帝国側の犠牲をなくした戦いだと思えば立派なことだろう。逆の立場ならばアインズの行動に誰もが賞賛を述べてもいいくらいに」
「う~む。賞賛どころか恐れられてしまったようだがな」
殺戮王は抜きにしても魔王と言われてしまったし、未だに帝国民の冷ややかな視線が気になってしまう。
「綺麗な戦争など無いだろう。圧倒的な力を持てば敵味方関係なく恐がるのは必定だ。この私とて他人の目が怖い時がある。……だからこそ仮面をつけているのだが……。アインズには帝国に理解者は居ないのか?」
「今のところは皇帝だけかもしれないな」
「私はご主人と仲間たちだ。異形は人間社会では畏怖の象徴……。そう簡単には受け入れてもらえない。それがたとえ英雄であってもだ」
イビルアイは周りの従者たちを見回した。
「言い忘れていたが……。ナザリックの全てを見せろ、とは言わないぞ。今回は第六階層だったか?」
「そうだ」
「客人の為に美しい自然溢れる階層を使わせていただき、深く感謝する」
イビルアイは頭を深く倒して感謝の意を表した。
周りの従者から感嘆の吐息が漏れ聞こえる。
「ラキュースの体調についてだが……。あれは魔法でもどうにもならん。不可抗力だ。新たな癒しの魔法でも作り出さなければ無理かもしれない。今は装備品によってレジストされているが……。恨まないでいただきたい」
「了解した。その話しは聞いている」
人間の中にはナザリックの者達に拒否反応を示すものが居る。
邪悪な存在に対し、拒否反応として不快感や吐血など。体調不良が発生する。
身体を新たに再生しても無駄だという点から魂そのものが関係しているのかもしれない。
試しに殺して蘇生させても平気かどうかは実験するのにためらわれる。
今のラキュースは充分に生命力があるので蘇生に耐えられるのかもしれないが。
漆黒のモモンの姿をしたまま会話が進むが、やはりモモンとしての方が話しやすいとイビルアイは思った。
素顔だと思っていたのは幻影。それは少し残念に感じるが仕方が無い。
食事をしないことも気付いて納得した。
「……しかし、もったいないな」
イビルアイは呟いた。
「んっ?」
「魔法に精通しているモモン様が教壇に立てば私は生徒として入学を希望したいくらいだ」
この言葉にフールーダも深く頷いた。
「私は死霊系を極めている。他の魔法は大して知っているわけではない」
「それでもだ。高い位階魔法の解説は大変勉強になる。帝国の魔法学校では良い教師なれるだろうに……」
「大勢に教えるのは……、苦手なのだ」
つい本音を言ってしまい、すぐに咳払いをする。
「例えばだ。ペストーニャだったか?」
「はい。なんでしょうか、わん」
「彼女を神殿に派遣して癒しの講義をすれば……。卑しい人間では困るが……。色々と役に立つかもしれない」
卑しい人間ばかり浮かんで有効活用がしにくい場面しか浮かばない。
姿は変わっているが、確かヤントラも彼女を高く評価していたはずだ。
「案として検討しておこう」
実際に高い位階魔法を扱えない者には
フールーダでさえ結果がほとんど出せないのだ。
ヤントラのようにパワーレベリングによる底上げでもしない限りは、知識だけ与えても不可能かもしれない。
かといって役立たずばかり増えても困るのだが。
「フールーダよ」
「はっ」
名前を呼ばれたフールーダは片膝をつく姿勢をとった。
「お前は生徒達を第六位階まで習得させられるか?」
「お、おそれながら……。自分がこの位階まで到達するのに二百年以上もかかりました。それを短期間でとなると……」
短期間で第五位階に、しかも生徒に過ぎないものに到達させる事など見たことも聞いたことも無い。
「ならば知識は与えられそうか?」
「教える分には可能でございます」
「原住民が不可能だという事をあの変態は可能とした。生徒達を育成して私の敵を作る気だと思うか?」
この質問はフールーダのみならず周り全てに顔を向けて尋ねた。
「信じたくはありませんが、バスパ様ならばナザリックに侵攻する手助けをする事も不可能ではないかと」
「いいえ。ただの暇つぶしでは?」
「生徒達の無能ぶりに
と、様々な意見が出た。
「ご主人としてはもっと先を見せたかったのだと思う。ついでに複製体も得たようだし」
そう言うとアインズというかモモンの全身鎧から黒いエフェクトが発生した。
「あのバカ……。出会うもの全てから採取しているのか。……どうりで生徒達の顔色が悪かったわけだ」
「顔色が悪いのは特訓のせいだろう。……そうでもないか……。裸に剥かれて魔法をひたすら撃ち続ける。そういう特訓だ」
「裸っ!?」
特定の単語にアインズはうっかり声を荒げてしまい、恥ずかしくなった。
「モンスターの体液を浴びては服が汚れるからな。もちろん、浴場があるから休憩の時は身体は綺麗に洗われる」
「な、なるほど。やましい事でもしているのかと思ったぞ」
「それは……、無いだろう。口封じはしない人だ。でなければ帝国で物凄い悪評が広がっているはずだし、抗議の声明が出されているだろう」
アインズが帝国に居た時は抗議の言葉は聞かれなかった。
「イビルアイも体験したのか?」
「ああ。あれは
経験を積むには敵に攻撃するのが効率的だ。
「なら……。ナーベラルとルプスレギナ。お前たち、体験して来い。弱くて困っていたんだろう?」
言った後で第十階層にナーベラルの姿がない事に気付く。
まだ地上で活動しているのだろう。
「うへー! 特訓っすか!?」
「経験を積めるか知るには体験するのが一番だ。ナーベラルにも伝えておこう。……ちなみに、殴ったりするような暴力は奮われるのか?」
「戦士系でもそういう事は無かったそうだ。食事も出るし。一日の終わりには就寝もできる」
「それは女性だから、とか?」
「ガゼフも体験したが、モンスター討伐だけだそうだ」
そうすると使っているモンスターに秘密があるのだろう。
普通に考えれば高いレベルのモンスターが浮かぶ。
「……ナザリックから強いモンスターを連れて行ったな、あいつ……。複製ならば……。いや、複製だとしても酷い扱いだな」
被害が無い、のではない。複製の為に貰われたのだ。しかも、提供元はちゃんと癒して。
そう考えれば宝物庫を破壊する話しというのは、
ドス黒いオーラが数回ほど噴出する。
怒っても怒り足りないくらい制限無く怒ってみた。
「……ふー」
「あ、アインズ様?」
「ちょっと溜め込みすぎた怒りを発散させたのだ。驚かせてすまなかったな」
「い、いえ」
暴風に似た怒りの波動。それはイビルアイやフールーダですら
「……状況は理解した。確かに強いモンスターはナザリックが一番保有している。パワーレベリングをする上では相応しいだろう。仲間ではない事を逆手に取った嫌らしい手法で脱帽したよ」
「……そ、そうなのか?」
「ちなみにイビルアイ達が倒したのは……、メイド達か?」
「
「……コキュートスの……、
「だいたいが
高いレベルのモンスターで悪魔は第七階層のシモベ達だろう。
自分の召喚物を倒して経験値を稼ぐ、というのは確認した事がないけれど。
召喚物は基本的に経験値にならない、というのが一般的だし、アインズもそう思っていた。
「最近では
おそらく仮面のメイドの事は言わない方がいいかもしれない。物凄く不機嫌になってきたからだ。
それは当たり前だろう。自分のところのモンスターだったのだから。
「ちなみに、この場に居る従者達は討伐モンスターに入っていたか?」
イビルアイは改めて屠殺場に居たモンスターと周りに居る従者達を見比べた。
「いいや。種類が足りないのか……、違うな。施設に毒や厄介な酸とか撒かれないモンスターを用意するらしい。あと、床を踏み砕くような巨大なものも置かないとか。アンデッドモンスターも厄介なモンスターが発生する恐れから使わないのだとか」
「無闇に使っているわけではないのか……。まあ、そこら辺は考えておかないと施設が壊れるものな」
うんうんとモモンは頷いた。
「……理屈で言えば……戦闘メイドは力不足か……」
レベル的にも中途半端な気がする。
極端に強すぎては倒しようが無いのと種族的なスキルが発動してしまうだろう。
「
「最初は強かった。皮膚が硬いというか。戦士達も難儀していたようだ。今は普通の
ナザリックのモンスターは総じて強い部類に入るし、大抵がアンデッドだ。
生身のモンスターは数が少ないのかもしれない。
「一般メイドは経験にならないくらい弱い存在だ。それらを殺戮するためだけに使っていたら私は本当に怒るぞ」
「モモン様とてメイド達まで大事にしているのか?」
「当然だ。仲間たちが作り上げた者達だからな。……名前は良く忘れてしまうのだが……」
四十人近く居るし、似たような顔が多い。
「一応、ご主人に伝えて置こう。……ああ、そうだ。複製ばかり使うから愛情がなくなることを恐れていた。どこかで自分でも気付いているのかもしれない」
「確かに一般メイド達の話しからも最近のバスパ様によく抱きしめられる事が多いと……」
「はいです、わん。愛情を確認するためと言われました、わん」
「……それは罪悪感かもな。……ふむ、自覚しているのであれば問題は無いだろう。愛情が無くなればもはやただの敵だ」
厳しい言葉だが、イビルアイはアインズの言葉に納得できた。
「わ、私の身体は討伐対象っすかね? 狼みたいなモンスターは出たっすか?」
「聞いた話しでは
「赤毛の大きな狼は?」
「それは聞かないな……」
少し残念と思いつつも、普通のモンスターとして扱われなかった事に安心した。
複製ばかり使っていれば本物も使い捨てに感じてしまうだろう。そうアインズは思う。
それを防ぐには適度に本物と触れ合う必要があるのだろう。
人間と触れ合わない自分が人間に愛着を感じないような事に似ているのかもしれない。
今はバハルス帝国と共に居るから彼らの力になることにやぶさかではない。
性格や感情を抜きにしてもパワーレベリングの場を作った手腕は素晴らしいと思う。
このナザリックに住まう者達『NPC』は成長の限界を迎えている。もちろんそれはユグドラシルでの話しだが。
更なる成長の可能性があるなら実験したい。
NPCを殺すような危険な事はさすがにためらわれるが、複製が成功しているのならば試す事もやぶさかではないだろう。
「色々と秘密を喋らせて申し訳ないな」
「こちらこそだ。ナザリックの事を色々と教えてもらったわけだし。こうして話ができて安心もしている」
「そうですか」
「命令で討伐に行かされて無残に死ぬことがなくて良かった。今はそう思っている」
命令ならば仕方が無い、などと言うことはある。
命令した奴を恨めとか。
今回はイビルアイはそれらの運命から逃れられたのだ。アインズとて安易に殺すことは出来ない。
でなければエンリ達を殺さなければならなくなるからだ。
ナザリックは今のところ、この世界の人間に恨みがあるわけではない。シャルティアを精神支配した者達は許さないが。
ユグドラシル時代ならまだしも。友好的な相手には誠意を持って迎える。
それは種族問わずだ。
「フールーダも体験するといい。……そういえば……、エンリはどうやって強くなった? あれは戦士でも
武器を持たせれば誰でもいいのだろうか。
「ああ、武器を渡されてモンスターをひたすら倒したそうだ」
「随分と単純な……、単純作業と言っていたな。それにしては随分と簡単に……」
「体験した私が言うのも変だが……。あんな簡単な作業で強くなるのだから信じられない。毎日、物凄いモンスターを倒し続けられるわけではないので、知らなかっただけ、というのもある」
「それは一日だけか?」
「三日ずつだ。ずっとこもっていると精神的におかしくなりそうだから、と言う理由があるようだ。家にちゃんと帰らないと……、先ほどの愛情うんぬんが消えるのかもしれない」
「あいつでも三日が限界か……」
自分も単純作業をすれば精神的に疲弊しそうだ。
ブラック企業に就職するものは誰もが精神的におかしくなってしまう。それと同じかもしれない。
精神が病めば肉体も病むだろう。
「イビルアイ。そなたをスパイのように使うようで申し訳ないが、要望を奴に伝えてくれるか?」
「構わない。モモン様の頼みだからな。だが、こちらから一つ頼みたい」
「言ってみろ」
「自作自演はかっこ悪いからやめてほしい。理由があるのだろうが……。倒せない理由があるなら話してほしい。少なくともご主人は話してくれる」
痛いところを突かれたアインズは呻いた。
「話せる範囲は……伝えよう」
「それでいい。……おお、そうだ。このナザリック以外にも同じ仲間が居たりするのか?」
「仲間? ギルドとかのことかな?」
そう言うとイビルアイは頷いた。
「……いや、居ない、というか見つからないと言った方がいいだろう。居るかどうか……、このアインズ・ウール・ゴウンの名前を広めても連絡が来ない」
「そうか。……あの
「当てでもあるのか?」
「昔の仲間が一人……。私を蒼の薔薇に放り込んだくそばばぁがな」
「それはもしや……、死者使いの『リグリット・ベルスー・カウラウ』か?」
フールーダの言葉にイビルアイは頷く。
「二百年前の人間だが……、今も存命なのか?」
「あのばばぁはそう簡単には死なないだろう。アーグランド評議国にでも居るのかもな。
知り合いと言うか、かつての仲間だった。
『ツァインドルクス=ヴァイシオン』
「そのプラチナム・ドラゴンロード……。いずれ会うことになるのだろうな」
今回の要請に応じなかったが招待状は届いているはずだ。とても遠いから仕方が無いのだが。
「それともう一組みのアダマンタイト級の『朱の雫』にも会えたら情報のやり取りをしておこう。……そういえば彼らも評議国の国境に行っていたはずだ」
協力者が増えるのはアインズにとって願ったりかなったりだ。
「最後に改めて聞いておこうか」
モモンの姿で手を組みつつイビルアイに言った。
「強くなった真蒼の薔薇は我々ナザリックと敵対する可能性はあるか?」
「状況によるだろう。ご存知だと思うが国に関わる戦いには参加できない。稀少なモンスターを勝手に討伐する事も出来ない。
「うむ。では、国から要請されない限りは侵攻は無いという理解でいいのか?」
「そうなるかな。個人的には魔法の新たな可能性を研究したいと思っている。強くなる事自体は自衛のためならば仕方なかろう。犯罪者を捕らえることもあるのだから」
真面目な返答にアインズは感心した。
これがうちの部下ならどんなとんでもない言葉が出たことか。想像したくない結果になる気がする。
「我らは基本的に王国の平和を守る行動をする。国民の為に。他国を侵略するような事に手は貸したくない。ナザリックが攻めてきたら反撃させてもらうがな」
「分かりました。我ら魔導国はしばらくは都市づくりで忙しい。覇道はいま少し休止だ。属国と言う案もあるようだが……。それも手段の一つとして残しておく。モモンについては……、騙すような手ではあるが異形の身ということで理解してもらえると助かる」
「すぐには無理だ。心の傷は深い」
アルベドが近寄ってきてイビルアイの背中を撫でる。
女たちは色々と通じるものがあるようだ。
失恋した女性を慰める方法はアインズは知らない。
「正直なところでは……、モモン様は本当にかっこよかった。一夫多妻が許されるなら……と思うほどだ」
「ありがとう」
「……それもこれもご主人がお膳立てしたからこそだろう。ナザリックと話し合いもせず、暴虐の限りを尽くし、我々は多数の死者を出していたに違いない。こういう場を
人間は殺すべきだ。という意見が部下からあるし、王国や帝国で部下に何かがあれば手痛い反撃を食らわせていただろう。
「確実にラキュースは死んでいるだろうな」
「確かに」
アルベドに引き合わせた時点でアウトだろう。
ヤントラの仲間入りは保留だが色々と事が進んだ。
要望されていたことは全て伝えるのだが、対するヤントラが何を要求するのか、イビルアイは個人的に興味があった。
宝物庫の秘密がかなりバレてしまったようだが、アインズの洞察力には驚かされた。
話していて分かった事はアインズはかなり紳士的だということだ。
見た目がアンデッドのせいもあって誤解しそうだが、とても人間的だ。
普通のモンスターとは本当に違うのだろう。
アインズはスレイン法国と関係があるのか、というのに匹敵するヤントラは変態だ、ということが広まってしまった。
本当に秘密にする事柄は、むしろイビルアイにすら言わないだろう。だから、自分が言える範囲は言っても大丈夫かもしれない。
長年の付き合いで互いに知り尽くした仲だろう。多少の看破では動じないかもしれない。
自分も興味があったので、ついベラベラと喋ってしまった気もする。
アインズというかモモンによる魔法の講義は聞きたいなとイビルアイは恋愛抜きに思った。
自分の知らない魔法はまだまだ世の中には存在するようだ。