※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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第九章 大いなる宝物庫
I-1 それは複製の討伐


 新国家『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』では都市開発が少しずつ始められた。

 帝国から多数の職人が派遣されて住宅や商店の建設。ナザリック地下大墳墓の入り口たる霊廟周りはアンデッド達によって立派な門が作られる予定だ。しかし、元々は平原だったので大規模な下水完備に大忙しだった。

 獲得した城塞都市エ・ランテルは大々的な改築作業はされておらず、商店に変化も無い。

 貿易の覚書により王国と帝国の両国と商売が出来るようになった。

 アンデッド兵が居る事を除けば普段どおりの日常と言えるだろう。

 

 カルネ村の村長となったエンリは新たな移住者を迎えたり、小鬼(ゴブリン)や人食い大鬼(オーガ)の面倒を見たりと忙しい日々を送っていた。

 会食のお陰か、他国の人間にも認知されて利用者や移住希望者が数人訪れた。

 宿泊施設のお陰で外貨も入るようになった。

 小さな村ではあるが、料理の腕が異常に上達した村長の手料理は好評だ。

 強くなるという事がどういうことなのか、少しずつ実感してきたようだ。

 エロい事があったけれど今は素直に感謝していた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 真蒼の薔薇達が家に帰宅する頃、他の都市を制圧していたヤントラは子供たちの面倒を見ていた。

 この子達が大きくなったら父親が世界で変態と言われている事を教えられると思うと気の毒だな、とイビルアイは思ってしまう。

 見た目には分からないが、数々の変態的な能力を持つモンスターを超越した化け物だ。

「子育てもうまいものだな」

「だいぶ慣れました」

 今日は一日子育てに費やすようだ。

 ナザリックから戻った時にアインズが提示した要望を伝えると観念したような、諦めに似た顔をされたが了承してくれた。

 今まで隠し通してきた事がバレた、という顔だった。

 激高はしなかった。

「特に口止めはされていなかったが……、言える部分は言ってしまったぞ」

「防衛で手一杯だと思ったが……。宝物庫に興味を持つとはね。……それにしてもよくバラしたものだ」

「モモン様のことだな」

「感心した。君があまりにも嬉しそうだから言うのは可哀相と思っていたが……。後々になって真実が判明すると物凄く傷つくだろう?」

「……うん」

 だからこそヤントラは最初に多くの事柄をバラしているのだ。

 棚上げにすればするほど傷が大きくなるから。

 アインズに自作自演をさせない理由でもあるのだろう。

 ウソにウソで塗り固めるからヤントラはアインズが嫌いなのだろう。

 それをやめれば仲良くする可能性は出る。もちろん、人間種という条件が障害となるのだが。

「ナーベも任務だからね。バレれば命の危険があるかもしれない」

 強いと言われるが未知の敵には警戒していた。だから、彼らの行動は責められない。

 モンスターだと分かれば蒼の薔薇と戦う事になるかもしれない。それを阻止する方法は仲良くさせる事だ。

「ユリ女史も理解したぞ。実際に見てびっくりした」

「ナザリック側はだいぶ情報を開示したようだね。……それにしても私の変態っぷりが随分と広まっていたとは……」

「自業自得だと思うぞ」

 ナザリックですら変態呼ばわりしていた。

 一通りの説明を終えた後、ラキュースが食堂に現われる。

 体調の方は一晩寝たら落ち着いたようだ。

「話しの分かる相手で良かったわ。それが印象かしら」

「ご主人の知名度の高さにも驚いたがな。ナザリックでは神に匹敵するらしい」

「創造主の友達みたいなものですからね。彼らには神に匹敵しても不思議はありませんよ」

「そういえば、モモン様の防具類は持っているのか?」

「ああ、あれは王国に献上しようかと……。私が渡すと問題になりそうなので、どうやってアインズ自ら渡すように仕向けるか、考えている最中ですよ」

 バレた途端に開き直るところは少し恐い。

 秘密を持っていてくれた方がヤントラは良い人なのかもしれない。けれどもおどろおどろしい秘密を持ちすぎるのは判明した時の反動は途方も無いだろう。

「今度の相手はナーベラル達か……。もう隠さなくていいのかな」

「……ご主人、言ってくれれば秘密は守るぞ」

「ありがとう。私は大人しく宝物庫を作り上げるから、イビルアイ達は自分の仕事をしていてくれ」

 イビルアイはヤントラに抱きついた。

「……出来れば遠くに行かないでくれ」

「今日明日に居なくなるわけじゃないよ。女ばかりだとハーレムとか言われそうだな」

 ラキュースはイビルアイの背中を撫でた。

「出掛ける時は一緒でいいじゃない」

「仮に行ったとしても開発に時間がかかる。退屈かもしれないぞ」

「私はあなたの側で死ねれば文句は無いわ」

 子育てしながらイビルアイ達を慰めた。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 モモンの防具は宝物庫の奥で厳重に保管されていて、他人の目には触れさせないようにしていた。

 問題の複製体の用意だが、数百体と簡単に言うが運ぶのが大変だ。

 箱もほぼ鉱物資源用に使っている。

 そんな事は関係無しに拡張工事をしている現場で職人達を観察する『美姫』ナーベと空中に浮かぶ物体の上に乗るルプスレギナ。それらを観(・)察(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ン(・)フ(・)ィ(・)ー(・)レ(・)ア(・)を(・)観(・)察(・)す(・)る(・)フールーダが居た。

 特にナーベは冒険者としての姿のまま身軽な動作で現場を飛び回っている。

「いや~、これ凄いっすね。全然ビクともしないし、長時間の浮遊にも耐えるとは……」

「『永続化(パーマネンシー)』のお陰か、数日経っても浮いたままなのです」

 ルプスレギナが思いっきり踏みつけると石が砕けて落下する。

 攻撃には弱い。それも実証済みだった。

 永続化(パーマネンシー)は防御魔法ではない、ということだろう。

 全てを永続化(パーマネンシー)させることは理論上、不可能だといわれている。だが、仮に出来てしまうと色々と不都合な事態が生まれる。それは今すぐ説明できるような簡単な事ではない。

「防御対策が課題でしょう」

「ミスリルかオリハルコンじゃないと駄目っすかね?」

「塊となると相当量、必要でしょう」

「……そうっすよね、普通……」

 他にも浮遊実験のために浮かせた石や木、様々な物体がある。

「頑強な金属板がいいのか、特殊なモンスターの外皮などがいいのか、色々と模索しています。出来れば竜(ドラゴン)などの皮膚も調査したいところです」

「あ~、マーレ様に聞いてみるっすよ。……たぶん駄目って言われると思うけど……」

 ンフィーレアは研究するために来ているのではなく、祖母の様子を見るついでで研究しているだけだ。

 彼の為の研究室は無い。

 理由としてはカルネ村に研究室があるからだ。

 複製体の選定は時間がかかるので、まずはナーベ達を施設の一階に案内する。

 存在は知っていたが直接訪れた事は無い巨大宝物庫『マグヌム・オプス』は三人の印象では広い、だった。

 地下空間の方ではなく、外の世界で建設中の様子が見られたので好奇心がわいた。

 働いている者が一般人と言うのも驚いた。

「まずは……、三人にはナザリックから切り離して、私個人の弟子ってことでいいね」

「なんだと、貴様」

「まあまあ、ナーちゃん。ここは言う通りにしよう」

 まずナーベ達にはアインズに強くなる方向性の許可を貰うように言いつけた。

 攻撃、防御。魔力系と信仰系。それぞれの希望を伝えてもらった。

「連絡が終われば……。改めて、弟子が嫌なら部下がいいか。連れでいいか。仮でもいいから誓いなさい」

 不満たらたらの顔でナーベは誓う事にした。次にルプスレギナ。最後にフールーダ。

 その後、ヤントラは二階に消えて、数分後に戻る。

「今から君たちはナザリックとは全くの無関係だ。ある意味、裏切った形になるが……。それはまあ、我慢してくれ。一時的だから」

「はいっす」

 ヤントラは三人に羊皮紙を渡す。

「経験を積んでも強くはならない。一応、無駄かもしれないが希望のクラスを書いてくれ。ナーベ達なら分かるだろうが……。適当ではなく真剣にな」

 羊皮紙に書かれているのは自分たちのクラスとレベルだった。それを見たナーベとルプスレギナは髪の毛が逆立つのを感じた。

「貴様! どうやって知りえた!」

「……あー、マジっすか……。さすがはバスパ様。予想を超えてくるとは……」

 フールーダは二人の女性達の怒りが理解できなかった。

 自分のことが書かれているらしいのだが、よく分からなかった。

「別に不思議は無いよ。クラスレベルはずっと前から知っていた。問題は君たちが私の所属になったかどうかだ」

 細かい数値までは覚えていないのだが、大雑把なところは知りえていた。

 大抵のNPCの強さは分かる。

 性格の方はアルベドの協力によってだが。

 アンケートで今回問題なのはナーベとルプスレギナだ。

 人間種であればクラスだけ書けばいいのだが、彼女たちは種族レベルを持っている。それをどうにかしなければならないだろう。

 女性二人は種族レベルの変動は無し。クラスレベルについてはそれぞれ悩みだした。

 種族レベルについてもアインズに連絡を取るように言いつける。

「上級職も選べるよ。多くて八十辺りでいいかな?」

「エンちゃんより強ければ文句は無いっす」

「……本当に強くなるのか?」

「やってみないと分からないな。無駄に終わるかもしれない。このパワーレベリングは万能ではないよ。あと、ナザリックの者に使わせるのは今回が初めてだ」

 小一時間かけてナザリックと連絡を取りつつアンケートを仕上げる。

 フールーダも色々と教わりながら希望の職業とレベルの配分をしていく。

 懇切丁寧な説明を受けた後で地下に向かう。

「おお、いい雰囲気っすね」

「……懐かしい感じがする」

 女性陣とは裏腹にフールーダは重苦しい空気に汗が出始めた。

「な、なんですか、ここは」

「おぞましいモンスターの巣窟です。普通の人間にはちょっと息苦しいと思います」

「ふん。心地よい空気だ。……これはナザリック地下大墳墓にとても似ている」

「小さなナザリックを目指していたからな。君たちには懐かしい故郷に感じるだろう」

「ここでご飯を食べたいっすね。なんかお仲間が居る気配がするっす」

 喜ぶ二人をよそにフールーダは一歩一歩進むのがとても重労働に感じた。

 地下二階に移ると重圧は消えたが違った気配を感じた。

「元拷問室。今は保管だね。実験室は地上に任せてしまったから」

「拷問見たかったな……」

「使ったことは無いよ」

 異種交配は数度だけだ。すぐにやめて容器の保管場所に転向してしまった。

 部屋の中が気になるだろうが真っ直ぐに屠殺場に向かう。

 重苦しい暗くて広大な空間。モンスターなど一匹も居ない部屋が姿を現す。

「ありゃ? 何も居ない……」

「三人一緒がいいか? 男女別がいいか?」

「私はどちらでも構わない」

「裸になるなら男女別で……。お互い、その方がいいのでは?」

 ルプスレギナの提案にフールーダは頷いた。

「フールーダさんは後でいいですか?」

「老体に鞭打つのだから、少しは休ませていただこうか」

「では、しばらくあちらの風呂場でお休みください。既に湯は沸いているので。タオルとかも用意していますから」

「それはそれはご丁寧に。では、私はひとまず休ませていただきますぞ」

 足取りはゆっくりしていたが、目的の部屋までは転ばずに進んだ。

 床は滑りやすそうなタイル張りだが、しっかりと踏ん張れた。

 

 フールーダが風呂場に消えた頃、ナーベ達は壁伝いに移動し、色々と調査を始めた。

 銅版を入れている以外は特に変わったことはしていない。

「では、色々とバレたから隠すのはやめようか」

 と言った後でヤントラは手を叩くと十人ほどの仮面をつけたメイド達が音も無く現れた。

「出たっす」

「どこから?」

 ナーベ達が疑問符を浮かべている間に整列するメイド達。

「この施設で掃除全般をこなすメイド達だ。みんなは仮面を取っていいぞ」

 そう言うとメイド達は同時に仮面を取った。

「うおっ!?」

 ルプスレギナが呻いた。

 髪の毛の色は違うが全てルプスレギナと同じ顔立ちだった。

「よろしくっす。オリジナルさん」

 と、同時に喋った。

 それだけでルプスレギナの全身が震えた。

「どうしたっすか? 信じられない顔して? もしかして……、複製(クローン)だから喋れないとか思ってたっすか? 甘いっすね」

 一言一句はみ出ずに同時に喋るルプスレギナ達。

 もちろんナーベは驚愕していて言葉が出ない。

「記憶をコピー出来ないって……」

「オリジナルの記憶はコピー出来ないっすよ。新しく植えつけられた記憶はコピーし放題っすけどね。あ、ちなみに同時に喋るのはわざとっす。すごい息ぴったりで驚いたでしょう?」

 そう言った後でそれぞれバラバラに移動する。

「心配しなくても我々はすぐ処分されるっすから」

「そうそう。オリジナルが混乱するのを防ぐためにゃ」

「えへへ。やっと喋っていいって思うとうれしいですわ」

 それぞれバラバラに喋りだした。

「これでも自我は無い方だ。与えた命令どおりに動き、喋っているだけだ」

「いや~、驚いたっすよ。本気で泣きそうになったっす」

「複製の複製だ。もったいないが適(・)度(・)に(・)処(・)分(・)しなければならない」

 ヤントラが喋りだした途端に複製たちは微動だにしなくなった。

「念のために二人とも、服は全て脱ぐといい」

 合図を送ると無表情でルプスレギナ達は動き始めた。

 その様子だけ見ると与えられた命令どおりに動く人形にしか見えない。それはそれで安心したが、少しだけ残念にも思う。

 本当に自分の意思で喋っているのだとすれば、と思いはしたが複製に過ぎないというのは悲しいかもしれない。

 自我を得て混乱するより、何も分からない人形の方がいい時もあるのかもしれない。

「バスパ様は優しいっす。私を使ってくれてありがとうございます」

「ルプーの他には居ないのか?」

「他は反省の意味を込めて停止したままだ。扱いが酷かったからね。特に……、ナーベラルは……。シズも酷かったな」

「うわ……。解剖でもしたんすか?」

「聞かない方がいいな。段々と扱いが酷くなって本物を見ると自己嫌悪に陥るよ。君たちを大切に思っていない自分に……」

「……それでメイド達を抱きしめて大切さを再確認したんすね。あ~、言ってくれれば何かお手伝いしたのに……」

 仕事を良くサボる自分に手伝いなど出来ないな、とすぐに思い至り、ルプスレギナは苦笑した。

 酷い扱いを受けたというナーベは表情をきつくしたが、今は特訓を優先すべきだと頭を切り替える。

 複製体のルプスレギナ達が椅子と桶を運んできた。それから服を入れる籠と数枚のタオル、飲み物と食べ物。

 運び終わると数人を残して消えていった。

「椅子に穴が……。座ったまま垂れ流せってことっすね」

「我慢しないように、という意味合いがあるが……。君達には不要かな?」

「それで座って……。何をすればいいんすか? というよりナーちゃんも何か言ったらどうっすか?」

「先ほどのメイドを殺し続けるのかと……」

「あれは掃除や洗濯要員だ。標的はこれから用意するよ。まずは……服は着たままか?」

「脱ぐっす」

 エロい事はしないことを伝えて、ヤントラは大浴場に向かう。

「いやー、驚いたっすね」

「ええ。まさか喋るとは思わなかった」

「それでも与えられた命令のようだから、騙されたっすね。だけど……、あれが演技だったら……、すさまじいって感じっす」

 控えていたはずのメイドの一人が近づいてきた。ルプスレギナ達を眺める。

 複製(クローン)と言うだけあって顔が同じで気持ち悪さがあった。髪の色は灰色で変化がつけられているのが救いかもしれない。

「本物を殺せば私が本物になれる」

「おう、物騒っすね」

 ルプスレギナ型のメイドはルプスレギナの服を丁寧に脱がしていく。

 服はきちんと畳んで籠に入れていく。その仕草は美しいと言えるものだった。

「強くなるなら同じ強さの我々を数万人ほど殺せば楽ですよ。うへへへ」

「気持ち悪い笑い方っすね。もっと上品に」

 メイドは軽く後方に一回転し、ナーベの服に手をかける。

「自分で出来る」

「……畏まりました」

 生気の無い無表情でルプスレギナ型メイドは言い、素直に引き下がった。

「記憶と言うか変な命令を受けるとああなるんすね」

「複製をあそこまで操作出来るとは……。あの下等生物(オニヤンマ)は侮れないな」

「……いい加減、バスパ様と呼んだらどうっすか? ナーちゃんはなんでバスパ様を嫌っているのかな?」

「人間種だから……、じゃないかな。人間に対してそう言うものだと命令が植えつけられているというか……」

「あー、創造主による『そうあれ』と教えられた事がインプリンティングされているんすね。それなら仕方がないか……」

 困ったっすね、と言いながらナーベの服を脱がすのを手伝う。

「おや? アザが多いっすね。苦戦するほどのモンスターでも居たんすか?」

「トブの大森林には厄介なモンスターが数多く居る。それにアインズ様をお守りする上で盾になることも多かったから」

 ルプスレギナは『大治癒(ヒール)』でナーベの身体のアザを消していった。

 ナーベことナーベラル・ガンマは魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)で治癒魔法は習得していない。二重の影(ドッペルゲンガー)のスキルでスクロールでの治癒はできる。

 命令が無い限りは与えられたスクロールは大切に保管し、使わずに済ませたかった。

 対するルプスレギナ・ベータは信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。高い治癒魔法が扱える。ただ、本人は攻撃の方が好きだという。

「魔力系。信仰系。精神系。その他。まんべんなく強くなるクラスとか無いんすかね」

「フールーダは三系統を扱えるらしいけど、信仰系は苦手としているみたい。何かが突出すれば何かが下がってしまう。それはとても難儀する事だわ」

「何でも最強っていったらみんなそうなるっすよね」

 服を脱ぎ終わった後、メイドがまた近づいてきて、身体にタオルを巻こうとしてきた。

「命令だからやらせてみたら?」

「じゃあ、お願いするわ」

 物静かにルプスレギナ達の身体にタオルを巻いていくメイド。

 感情の無いメイドというのは人形と変わらない。

 仕事人としてはとても優秀だろう。冷徹な姿としてみれば感心するほどだった。

「……それにしても……床が綺麗っすね。本当にモンスターを倒す場所なんすか?」

「掃除が徹底されているからでしょう。モンスターの死体が散乱する汚らしいところだと思っていたけれど……」

「綺麗にしないと変なモンスターが出るって事っすよね。自動的に湧き出るモンスター対策なら立派っす」

 数分後にメイドがまた近づいてきた。

「寒くはありませんか? 風呂場から温かい湯をお持ちしますけれど……」

 丁寧な物言いをするルプスレギナ型のメイド。

「ああ、大丈夫っすよ」

「こちらのルプスレギナは真面目に仕事をするのね」

「私も仕事はちゃんとやるっすよ」

「モンスターの量産にはお時間がかかります。申し訳ありません」

 要望が無かった為にメイドは静かに引き下がっていった。

「躾(しつけ)の行き届いたメイドだ」

「そうなるとナーちゃんのメイドはどんな扱いだったのか、気になるっすね」

「きっと交配実験だろう」

「うわー、陵辱(りょうじょく)の限りっすか。ありえるっすね。……反省している点からナーちゃんは既に処分されているという事に……」

 色んな実験はしたんだろう。

 もちろんナーベラル型ばかり使っていたわけではないだろうし。他の献体も使っているはずだ。

 

 メイド達がたびたび声をかけてきてから数十分が経過した。

 量産には早くても一時間はかかるとのこと。

 それから扉が開き、モンスターが現われる。

 赤い帽子を被った凶悪な小鬼(ゴブリン)型モンスターの赤帽子の小鬼(レッドキャップ)だった。

 それが数十匹ほどやってくる。

「おっ、いよいよっすね」

「お待たせした」

「……その前に私のメイドも連れてきていいのだぞ」

「陵辱の限りを尽くしたナーちゃん型メイド。まだ残っているっすよね?」

「……その予想は見事だ。だが、いいのか? ルプスレギナ型は比較的、仕事人として使っている」

「構わない。自分の複製がどんな風に使われているのか、知る権利はあるはずだ」

「……うん、分かった。だが、色々と申し訳ないと反省しているよ」

「実験に犠牲はつき物だ。アインズ様の命令ならば私は意識がある中でも解剖されよう」

「ナーちゃん、そこまで献身的にならなくても……。でも、大丈夫っすよ。ちゃんと治癒するっすから」

「気持ち悪い身体に改造されたナーベラル・ガンマ、という者は居ない。そこまで変な実験はしないが……、予想はついているだろうが、結論として出来るモンスターがみんな合成魔獣(キマイラ)ってことになるので、面白くなかった」

 合成魔獣(キマイラ)とはユグドラシルでは獅子と山羊の二つの頭を持つモンスターだが、名前としては相応しい。

 個々の掛け合わせで生まれる種族はハーフとつくのだろうが、混ぜすぎれば合成と変わらない。混合魔獣とも言うか。

「ナーちゃん、妊娠するんすか?」

「するな。肉体的にしっかりしていれば。変装用の顔が無いが……」

 ナーベは自分のお腹に手を置いた。

「……それで……実験はどうなった?」

「やめた。胎児生産になってしまったし、何してるんだろうってなって、あらかた処分した。それはそれで命の冒涜なのだが」

「悪魔より悪魔っすね」

「……いや、下手に残さない方が気持ちに踏ん切りがつくだろう。下等生物(ヤゴ)の判断は間違ってはいない」

「そうやって自分で考えて発言する君達を私は大切に出来なかった。複製の複製と言うのは……、倫理観を捨てさせるね。あれは続けるべきではないな。特に愛情を持つ者にとっては」

「それはつまりアインズ様も同じ事をすれば我々のことなんかどうでもいいと?」

「人間に対してどうでもいいと思う事と一緒だ。実験するなら覚悟は要るね、きっと。間違ってオリジナルを殺しても気付かない、という事態もありえるわけだから」

「……あー、なるほど……。それは盲点っす」

「今の言葉は報告してもいいのか?」

「異種交配は……内緒だ」

 ルプスレギナとナーベの頭を撫でていく。

 要望のあったナーベラル型のメイドを呼びつけた。

 現れたナーベラル型は灰色の髪の毛で服装はちゃんと着せられていた。

 今にも暴言を言いそうな顔だった。

「あはは、ナーちゃんそっくり」

「こういう複製体を日ごろ殴ったり蹴ったりはしていないよ」

「この子達は普段は掃除だけしてたり、待機したまま?」

 そう言うとナーベラル型は素手をルプスレギナ達に見せる。指には指輪がはまっていた。

「それは『維持の指輪(リング・オブ・サステナンス)』っすね。それなら飲食不要で……。あー、だから大量購入したんすね」

「食費が浮いてコスト削減……。理(り)にかなっている」

「複製とはいえ飲食できる生物だ。扱いには気をつけているよ」

「軍団作ったらナザリックを攻め落とせそうっすね」

 新たにルプスレギナ型が現われて本物とナーベの肩を揉んでいく。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)達は壁際に移動したまま微動だにしない。

 風呂場に居るフールーダも呼びつけておいた。湯の熱気でのぼせてはいけないので。

 たくさんのモンスターが現われていたので驚かれた。

「風呂とトイレしかないから、待合室は無い。たくさん入れる気は無かったからね」

 仮面を外したルプスレギナ型がフールーダに椅子と食料を提供する。

「やろうと思えば攻める事は可能だろう。その前にここを潰せば早いだろうさ」

「あ、その手があったっすね。意外と呆気(あっけ)ない……」

 場所も特定されているし、動きがあればナザリックの軍勢を『転移門(ゲート)』で送れば終わりだ。

「詰んだっすねー。なるほどなるほど。自分の弱点をしっかり認識していらっしゃるとは……。感心したっす」

「それに宝物庫は一般の職人に任せて作ってもらった。超位魔法を一発撃てば簡単に瓦解するんじゃないかな。第七階層の溶岩にもビクともしないナザリックとは違うし」

「勉強になるっすね」

 というよりはナザリックの事を理解しているし、自分の施設の事もちゃんと理解している事にルプスレギナ達は感心した。

 鉄壁の要塞を作って自慢するものだとばかり思っていたから。

「そろそろ始めようか。軽く、魔法で倒してごらん。出来れば床とか壁を壊さない魔法で。ルプーは物理攻撃の方がいいなら、そちらでもいいよ」

「了解っす」

「こちらも了解した」

 ルプスレギナは自分の武器を持ち、ナーベはいくつかの魔法を赤帽子の小鬼(レッドキャップ)に撃ち込む。

 フールーダはそのまま待機してもらった。

 

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