※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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I-2 設定の上書き

 数体を倒したところで、追加のモンスターが現われる。

 獣人(ビーストマン)や小鬼(ゴブリン)、その他色々と現われてくる。

 まとめて倒したいところだが施設を破壊しない、という条件などで面倒くさい。

 物理的なルプスレギナの方が楽に見えた。

「しばらく続けててくれ」

「ほ~い」

 三人を残してヤントラは地上に上がる。

 その間、ルプスレギナ達は攻撃を止めて施設内を調査するかどうか、相談する。だが、モンスターは次々と現われる。

 風呂場とトイレ以外には既にメイド達によって塞がれていた。

「通せんぼっすか」

 三人から五人と人数が増えていく。

 その後で銃器を持った迷彩柄のメイドが一気に数十人も現れた。

「シズちゃんもっすか。しかも大量に!?」

 一斉に武器をルプスレギナとナーベに向ける。

 何段構えの警備体制なのだろうとルプスレギナ達は思った。

 武装の数では圧倒的に複製が多かった。

 複製だから弱くは無いだろう。

「安心しなさい。手足をもぎ取る程度で止めてあげます」

 そう言ったのは無骨なガントレットを装備して灰色の髪の毛を夜会まきにしたメイド。

 レンズの入っていないメガネまで再現した戦闘メイド『ユリ・アルファ』型が五体。

「ア、アンデッドの複製っ!? しかもユリ姉だし」

「神聖な『マグヌム・オプス』を汚すものはオリジナル体であっても許しませんよ」

 奥からソリュシャンとエントマまで現われる。

「プレアデスがめちゃくちゃ居るっす」

 人数はバラバラ。

「複製の分際で我らに楯突くか」

「楯突く? それは心外ですね、ナーベラル・ガンマ。主の命令を聞くのは当然でしょう。仮にも我らの創造主なのですから」

「あなたは自分の創造主に楯突く度胸があるのかしら?」

 正論を言うほどしっかりした命令が下されている事に驚いた。

「……バスパ様は敵に回すと恐ろしいと聞いたことがあるっすけど、こういうことなんすかね」

「……ソリャシャンはどうやって複製体に?」

「簡単よ。髪の毛を容器に入れて、引っ張るだけ」

「……物凄く簡単なんすね、ソーちゃんって」

「もちろん、簡単そうに見えるけれどスライム種でもダメージは受けるし、本体から離されれば死んでしまうわ」

 と、解説するソリュシャン型。

「……複製の御技は神の領域……」

「私のぉ、虫達は金貨で呼び出せるから……、楽ですよぉ」

「さあさ、元に位置に戻りなさい。ここには強欲(グリード)や嫉妬(ラスト)の魔将(イビルロード)も居るんですから」

「うへー。あれらも居るんすか。それはまずいっすね」

 ルプスレギナ達のレベルでは魔将(イビルロード)には苦戦する。

 それらが大量に出てきたら歯が立たないだろう。

 武器を下ろしたシズ達は音も無く壁に溶け込むように消えていく。

 最終的にユリ型が一体だけ残った。

「本物と入れ替わるような真似はしませんから安心なさい。その辺りはアルベド様に確認してもらうと良いでしょう」

「そ、そうっすか」

「髪の毛が灰色なのは本物と区別するためか?」

「本物を愛する為です。我らはあなた方の血肉となるために命を捧げる存在に過ぎません。しっかりと特訓するのですよ」

「どうやって細かい命令を遂行しているんすか? というより本物とそっくりすぎて恐いっす」

「本物と同じ性格を与えれば可能です。もちろん、条件をつけなければ取り返しがつきません」

「条件?」

「オリジナルを殺して自らがオリジナルに成り代わることです。理論的に不可能ではありませんよ。魂など無くとも性格さえ完璧に再現できれば何も問題が無いのですから」

 その言葉は異形種であるルプスレギナ達にとって戦慄する事態だった。

 魂や記憶どころではない。

 性格の再現さえ完璧なら本物と寸分たがわぬ存在なのだから、あながち間違いではない。

「人格や記憶は要らないと?」

「忘れましたと言えばいいでしょう。その間に施設を調査すれば特に支障はないかと」

「アイテムの知識とか……」

「不要です」

 不敵な微笑でユリ型は言った。

「アイテム製作に特化したシモベに尋ねればいいだけです」

「転移は……」

「本物から奪うしかありませんね。この肉体は複製とはいえ『本物』と変わりませんから」

 敵に回すと恐ろしい。

 というより目の前の一体だけではないところも恐い点だ。

 知恵も回る。本当に本気で本物と入れ替わる欲望を抱けば厄介な敵にしかならないだろう。

「意地悪はそこまでにしなさい」

 という声と共にユリ型と先ほどまで居たメイド達が現われて、それぞれ平伏する。

「装備品を全て外して全員、自害せよ」

「畏まりました」

 一斉に服を脱ぎ、全裸になった者達は大浴場に消えていく。

 ユリ型はチョーカーを床に置き、首を抱えて走り出す。

「自我を持つと厄介だから定期的に処分しなければならない。それもあって愛情が薄れていく」

「ユリ姉達はどうなるっすか?」

「シュレッダー行きだろう」

 ナーベラルは彼女達の末路が容易に想像できた。

「容赦ないっすね」

 自分たちは自害を命じられたら、ああも簡単に自害出来るのだろうか。

 疑問を挟む余地は無いはずなのに、ナーベは胸が痛む思いだった。

 疑問を抱かずに命令を遂行する彼女達こそ立派なメイドだ。

「プレアデスが揃うとは驚きっす。というかみんな餌食になってたんすね」

「やるなら徹底的だ。オリジナルからの素体はちゃんと保存してある。動いているのは潰しのきくものが殆どだ」

「アインズ様が見たら感心するか、叩き潰すか……。どっちっすかね」

「戦力で言えば感心するだろう。……だが、我らを始末してくる輩にはお怒りになるのでは?」

 散らばっているユリ達が着ていた服は新たに現れたメイド達によって回収されていく。

「あれ、また新しいメイドっすか?」

 見ている側からタイル張りの床で滑って転ぶ。

「掃除係は必要だからね。何人か普通のメイドも居るよ。特訓は続けようか」

「……終わったら調査していいっすか?」

「駄目。荒らされるおそれがあるからな。特にルプーは……、連れてくるのに抵抗を感じるぞ」

「ならば私が調査しよう。施設内を荒らすことは無い」

「ええー。ずるいっすよ」

「よくサボるんだから、ここは任せなさい」

「賑やかなのはいいな。部下が豊富なナザリックが少し羨ましいよ」

「そうっすか? ここも賑やかな気がするっすけど」

「命令に従順な人形たちだ。自分の思い通りに動くものは……、虚しくなる。施設内の管理と言う観点では必要なのだが……」

「……それで様々な実験をしているのだな」

 無闇に複製を作るだけではなく、危険性も理解しようとしている。

 先ほどのユリの言葉は教訓として持ち帰る必要がある。

 複製の有意義と危険性はしっかりと学ばなければならないだろう。

 ナーベ達ばかり喋(しゃべ)っているせいで壁際に居るフールーダがとても大人しかった。

 精神統一でもしているのか、周りの喧騒(けんそう)に流されずにいた。

「危機意識を保つためにオリジナルを倒す利益などを考えさせている。迂闊な行動をすれば成り代わられるぞ。……と、いっても思うように実力が発揮できないようになっているがな」

「恐かったっす」

 ルプスレギナの頭を撫でた後は特訓が再開された。

 二人とも武器は扱えるので魔法より物理攻撃に移ってもらった。

「ひたすら倒すだけだ。相手の攻撃は考えなくていいぞ」

「了解っす」

 ガツンガツンと叩きつける様にルプスレギナは武器を奮い、サクサクとナーベは的確にモンスターを倒し続けた。

 一般の人間と違い、疲労し難いのか今のところ根は上げなかった。

 弱いモンスターばかりで二人は少し疑問に思っていた。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)はそれなりに強い部類に入るのだが、戦闘メイドの相手としては物足りない。

「見事だ。普通の人間は疲労により武器が持てなくなるのだが……。もう少し強いモンスターにしようか」

「素早く動かない分、楽っすけど……。割りと疲労しているっすよ」

 ここまで多くのモンスターを倒してこなかったので二人は少し驚いていた。

 ナーベは冒険者として色々とモンスターを倒してはきたが、ここまでの数は初めてだ。

 エ・ランテルの墓地に発生するアンデッドの掃除に比べれば楽だが。

「このモンスターって自動的に湧き出るタイプっすか?」

「雑魚モンスターは森とかで捕まえたものだ。赤帽子の小鬼(レッドキャップ)は傭兵を利用している」

「つまり自動的な奴は居ないと?」

「居たら施設が壊されるだろう。今のところは自然発生は居ないよ」

「清掃が行き届いていれば自然発生も抑制されるのか……」

「実際にそうなのかは分からないが……。下水道と繋がっているけれど、そこから何かが入り込んだ、と言うことは今のところ無い」

「こういう施設、ナザリックにも欲しいっすね。運動不足解消にはもってこいだわ」

「何処に作るかが問題だ。移動が大変かもしれないぞ」

 そんな事を話しつつもかなりの数のモンスターを倒し続けるナーベ達。

 出てきた分を殲滅するのに二時間ほどかかった。

「一旦、休憩だ。あっちの風呂場か大浴場か。どちらでもいいぞ」

「では、大浴場を」

「このゴミは……、片付けるんすよね?」

「もちろんだ」

 ヤントラが手を叩く合図を送ると青い髪の毛のルプスレギナ型メイドが数人現れて、無言のまま床掃除が始められた。

 ナーベは普段からサボっているルプスレギナがここでは働き者になっていて感心した。

「……もしかして私へのあてつけっすか?」

「元気なルプーが拝めるから、よく利用させてもらっているよ」

「タイルのスキマに染み込んだ部分はどうするんだ?」

 その言葉が合図となったのか、もう一人のメイドが現われる。

「ソーちゃんも掃除担当っすか」

「なるほど。種族を利用した掃除方法としては納得できる」

 床に溶け込むように身体を溶かし、粘体(スライム)状になって床を這(は)う。

「当人が見たら泣きそうっすね」

「我々もナザリックではこれくらいのことが出来なければ駄目だろう」

 掃除を観察した後で大浴場に向かう。

 かなり広い空間ではあったが湯気が立ち上(のぼ)り、掃除をするメイドを横目に身体を洗い始める。

「シンプルな造形っすね」

 二人がのんびりしていると見慣れないメイドがやってきてナーベ達の肩を揉みだした。

 他のメイドは石鹸(せっけん)類の用意を整える。

「この子達は一般メイドのようっすね」

「特訓した後は手厚い労(いた)わり……。汚いまま外に出すような真似はされないようだな」

「大抵の利用者は精神的に追い詰められるんすよね? なんでだろう?」

 自分たちは全然楽なのに、とルプスレギナは疑問に思った。

 ナーベは下等生物(ハンミョウ)共が弱いからだろうと切り捨てる。

 

 現われるメイド達の身のこなしは見事で侵入者対策もしっかりされていて感心ばかりしていた。

 ナザリックのメイドに勝るとも劣らないだろう。というか、ナザリックのメイド達の複製ならば出来て当たり前かもしれない。

 『伝言(メッセージ)』で感想などを伝えていく。

 妨害があるかと思っていたが通話は滞りなく行(おこな)えた。

 自分たちの偽者と区別する方法は一つある。だが、それは本物から奪えば意味が無い。

 ナーベ達の装備は特注品で鍛冶師が作った偽者とは材質や魔法効果に差異がある。それらの情報はナザリックに存在し、改竄(かいざん)される前に提出されている。

 NPCを管理するデータでも今のところ異常が見られないことも確認した。

 ただ、異常はあるにはあった。

 ナーベ達の所属に『マグヌム・オプス』が書き加えられていた。それはアルベドの目の前でアインズも確認して驚いた事だ。

 それ以外は特に変化らしいものは無い、という報告を得た。

 誓いの言葉が影響したのではないかと報告する。

 ナザリック側の所属と共にあるのだから裏切り行為かと言われると疑問が残る。

「……なんかヤバイっすか?」

「我々の所属に何かが上書きされたらしい。何かと言うか、この施設の名前なのだが……」

「帰れないってことっすか!?」

「それは無いだろう。伝言が通じたのだから」

「あー、でも裏切り行為になるとか言われたっすよね。これがまさかの精神支配っすか?」

「名前の色に変化が無いから、それは無いはずだとおっしゃられた」

 充分に休んだ後にメイド達に身体の水分をタオルで拭かれて、新しいタオルで身体に巻かれる。

 特訓第二回戦。

 始める前に疑問を尋ねる。

「ほう、書き加えられていたか。こちらからナザリックのコンソールは確認できないからな」

「裏切り行為とはそういうことか?」

「そういうこともなにも、所属をこちらに移すだけだ。向うでも確認が出来るなら安心だな。敵対しろ、とは言ってないから心配はするな」

 拠点に名前を移す行為は思い付きによるものだ。

 クレマンティーヌとルリマリスは元々がよ(・)そ(・)者(・)だ。それが『蒼薔薇の園』の一員として登録されている。その原因を調査する為に試行錯誤した結果と言える。

 宣誓の儀式とも言うべき行為の発見で特定の場所に行かなくて済む。

 名前も日本語で記載される、というおかしな事態になっていたが。

 利点としては手間が随分と省(はぶ)けた。もちろん、所属を外す方法も見付けている。意外と簡単な方法で助かっている。

 これならもっと効率よく採集が楽になる。

「心配っすよ」

「預かった人材はちゃんと返す。帝国の生徒たちと一緒だよ。その為に通信系の妨害は解除しておいたのだから」

「ナザリックに帰れないことは無いだろうな?」

「素体は貰うがオリジナルは返すよ。ここに居る素体でオリジナルはモンスターくらいだが……」

「精神支配ではないのだな?」

「急に心配性になったな……。ルプスレギナとナーベラル。この場で自害しろ」

 二人は軽く眉を寄せた程度で特に何も起きなかった。

「……なんだ、なんだ今の命令は……」

 ナーベとルプスレギナは互いの身体を観察したが何も起きなかった。

「一回や二回ではなく条件付けで敵対と言う可能性も……」

「本当に敵対的な裏切りなら君達は死ねばいい。蘇生すれば精神支配は解除されるぞ」

「そ、そうなのか」

「シャルティア様はそれで精神支配を解除されたって聞いたっす」

「……自害はナザリックに戻ってからだ。レベルダウンの為にも特訓は続けよう」

「そ、そうっすね」

「……迂闊に来ると大変だろう? 精神を鍛える上では困難も必要だ。それは私自身にも言えるのだが……。フールーダさんも含めて三人はちゃんと無事に帰すから」

 複製というのは本物と区別するのが難しい。まして意思を持てば尚更厄介だ。

 それらにも耐えなければ苦難は乗り越えられない。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 二人は休憩を挟みながら特訓を続け、ナザリックに定期的に連絡を入れる。ただし、ナーベが殆ど連絡していてルプスレギナはのんびりしていた。

 魔将を数体用意し、フールーダに指定した魔法をいくつか使ってもらった。

「ここから少し大変ですよ」

 ヤントラが合図すると頭巾を被ったメイドらしき者達が現れる。

「もしかしてペストーニャさんっすか?」

「魔力譲渡用にね」

「……色々と持ち出しているっすね」

 ナザリックが全面的に協力しているように見える。

 有効活用の面からはとても有意義だろう。

 邪魔になれば処分し、必要になれば用意できる施設。

 それは理想的な姿なのかもしれない。

「……素晴らしい利用方法だ。だが、これはナザリックで使える方法だろうか」

「どうなんだろう」

 施設を破壊しない程度の魔法をフールーダは放ち続ける特訓に入った。

 相手は魔将だ。弱い魔法ではビクともしないだろう。

 回復役のペストーニャ型がフールーダの側に控える。

「折角だからフールーダさんの身体も頂いておこうかな。疲れた時にでも」

「それは恐ろしいのう」

「無駄に増えていますが……。途中でやめるのももったいない」

 命は奪わないが身体は奪う。そのような方法は二百年以上の時の中でも聞いたことが無い。

 興味はある。だが、自分が体験するのには少しばかり抵抗はある。

「一日で獲得できる経験は多くは無いよ。数をこなしてくれ」

「これだけの数を用意するの大変じゃないっすか? 私たちも手伝えないっすかね?」

「凄い大変だと思うぞ。とにかく、今日は特訓に集中しろ。こちらはお前たちに情報をだだ漏れさせてやっているんだから」

「……りょ、了解っす」

「最後に宝物庫の様子を見せてやる」

「おお。それは頑張らねば」

「秘匿情報などがあるはずだが……。いいのか、我々に見せて」

「それが分かっているなら言う事は聞いてくれよ。地下一階部分に重要機密が詰まっている。他のは保管庫が主だ。素体も宝と言えば大切な宝だ。新しく拡張しているのも素体用の貯蔵庫にする予定だ。もっと広げたいところだが、管理が大変だ。移動している間にお前たちが荒らさないか心配になったりな」

「えへへ。他人が大切にしているものを壊すのは大好きっすからね」

 ナーベは特訓の合間にルプスレギナの頭を叩いた。

 任務に支障が出ると判断したからだ。

「戦力というが使わないモンスターをずっと置いておくと勝手に動きそうで恐い。必要の無いものは容器の中で眠ってもらっている」

「メイド以外はだいたいが眠ったまま?」

「眠っているというか、活動が止まっている」

 ナーベ達は話しながらもモンスターを倒し続けていたがフールーダは一時間後に呼吸困難なほど疲れ始め、顔からは汗がたくさん流れていた。

「人間なら短時間でこうなる。だから服を脱がせるんだ」

「はー、なるほど。我々はまだ平気っすけどね」

「異形種は単純に人間の三倍は強いから」

「そういうバスパ様は人間なのに平気そうっすよね」

「レベルが高いからだろう。慣れてくれば人間でも平気になってくるよ。エンリも今は五時間は平気じゃないかな?」

「ほー、エンちゃんそこまでパワフルっすか」

「畑仕事もするからね。腕力は凄い伸びているはずだ。その分体力もあるだろう」

 フールーダを休ませた後に充分な疲労で身体の搾取が始まる。

 痛みなど気にならないくらいに。

 ペストーニャの言う通り、大治癒(ヒール)だけで複製(クローン)の真似事をやってのける手腕はルプスレギナ達を驚かせた。

 今回は秘匿せず、ルプスレギナ達に見せた。

 そして、二人は理解した。自分たちが受けた行為の意味を。

 特にナーベは首を切断された時、意識を持って耐え切った。あれが複製(クローン)の正体であると。

「……あれらの行為が今の宝物庫の正体なのだな」

「お陰さまでね。あれからかなり手際は良くなった。武器も揃ってる。痛みの少ない方法になっているだろう」

「あの肉の塊はどうしたんすか?」

「ちゃんと洗って保管しているよ。腐らないように処置をしてね」

「おおー。綺麗に陳列されているっすか」

「もちろんだ。尻尾もちゃんとな。マフラーにするのがもったいないくらいだ」

「……アインズ様の側に置かれたい……。複製(クローン)でなくてもいい……」

 ナザリックの一員である証しとして自らの身体を献上したい。

 忠誠の証しとしてどうなのか相談してみようかなとナーベは考えた。

「そういえば複製(クローン)は何回でも出来るっすか? 魔法的にって意味で」

「普通なら一度に復活できるのは一体だけだ。複数を用意しても最初に作られた複製(クローン)にしか記憶は宿らない。予(あらかじ)め複数を用意するというのはありかもしれないが手間隙かかるだろうな。あと、置く場所だ。仮に敵との戦いの場合、その施設がバレたらアウトだぞ」

「それは厄介っすね」

「あと、ちゃんと保存しないと駄目。第九位階か第十位階にもっといい魔法があるようだが……。ど忘れした」

「それは興味深いっすね」

「復活に同意しないと駄目だぞ。あと、本体と同様に寿命がある。魔法的に止める方法はあるにはあるが、それで複製(クローン)が成功するかは実証していない」

 ナーベは知りえた情報をナザリックに送ってみた。

 ヤントラは一瞥しただけで何も言わなかった。

「複製の性質上、眠らせたままと言うのが残念な点だ。オリジナルと会わせれば混乱する。君たちが自由に活動するのが羨ましいと思う理由でもある」

「そうっすね。我々は自由に食べて寝て殺戮するっすから」

「起こさないものなのか?」

「寿命の問題があるからじゃないっすか。あるいは起こすと眠らせられないとか。自我というか命令を与えちゃうと取り返しがつかないとか」

「ルプーは鋭いな。実験のためにオリジナルを殺すわけにも行かないだろう? 死んでもいい素体を集めるのも大変なんだぞ」

「……ご苦労さまっす」

「複製に与えられるのは擬似人格だ。オリジナルの記憶を宿らせる複製(クローン)とは少し違う。違うからナザリックではきっと混乱するぞ。こいつは偽者だと」

「為(ため)になる話しっす。色々と考えているんすね」

「考えないと困るからな。あんなのルプーじゃない、と切り捨てる自分に自己嫌悪だ。だから、普段は喋らせないようにしている」

 喋れば大混乱する。それは自分たちが体験したことだ。

 オリジナルを抹殺して自らがオリジナルに取って代わる。

 複製体は自由にしてはいけない存在だろう。

 それらの情報もナザリックに送られる。途中でアインズの驚きや怒りなどが聞こえたが引き続き特訓を続けるように言われた。

「自分で混乱するくらいだから、あれら(クローン)でナザリックを攻めるどころじゃないよ」

「……制御できない部下は危険……、ということか」

「確かに危険すよね」

「特訓を続けようか。特訓と言うか経験稼ぎ、というか。たくさんモンスターを倒してくれ」

「了解っす」

 フールーダは休み休み魔法を放ち続け、頑張ってはいたが魔力切れによる疲労が響き、思うように続かない。

 人生でこれだけ魔法を唱えた事が無いくらい魔法を限界以上に使っているのだから。

 自分の寿命を遅らせる魔法を使うような気分だった。一気に老(ふ)け込んだかもしれない。

 放つ相手は未だにピンピンしている。

 弱い魔法とはいえ当たっているのだから貫通くらいはさせたかった。

「生徒達はこういう特訓を受けたのですな?」

「そうですよ。ただモンスターを倒し、魔法を使うだけの単純な特訓です」

 単純だから楽、というわけではない。これには終わりが無いのだ。

 時間までひたすらに。

 これが拷問ならば何年も作業させられれば精神が壊れてしまうだろう。

 自我を保つのが難しい。それをフールーダは理解した。

「人間とは脆弱な生き物だな」

「アンデッドに比べれば飲食、睡眠、酸素などが必要なんすから仕方ないっすよ。我々も一ヶ月続けろと言われれば……、危ないかも」

 倒すのが楽なモンスターだから苦にはならないが竜(ドラゴン)を倒し続けたら、どうなるか分からない。

 頑強なモンスターだったら腕がおかしくなることも充分にありえる。

「無理はしなくていいから。気分が悪ければ明日頑張ればいい。多少は無理してもらう、と言う程度だ」

「こんなことで強くなれるなら楽勝っす」

「精神の鍛錬にはもってこいかもしれない」

「知識や技術は要らないからな。その辺りはコキュートスやアインズが教えればいいのだが……。適材適所の方が能力も伸びやすいだろうに」

「確かに」

 だいぶ討伐したせいか、ナーベ達は瞬く間にモンスターを屠っていった。

 フールーダは早めに休憩させて、新たなモンスターを用意する。

 今度の相手は戦闘メイドのナーベラル・ガンマの大群だ。

「レベル的にも高いからな。あと、先ほどのように喋ったりしない。遠慮なく討伐していいぞ」

「……確かに精神の鍛錬になるな……」

 自分殺しは戦う前から色んなダメージを受ける。

 むしろ、これくらいでなければ鍛錬にならないのではないかとさえ思う。

 裸なのはこの際、目を瞑る。

 ナーベは容赦なく敵を倒していく。その後でルプスレギナは突撃していったが、味方を殺さないか不安になってきた。

 武器を持っているのが本物なのだろうが、不安が判断を鈍らせる。

「戦闘メイドが不安に屈するとは……。あってはならない事態っす……」

「ルプー。無理はするな」

「ありがとうっす」

 千体ほどのナーベラル・ガンマを討伐した後、激しく呼吸するオリジナルのナーベは血まみれの姿で周りを見回す。

 精神的な疲労により身体的にも疲労が伝染してきたのだろう。

「ふむ。まあまあだな」

 倒し損ねた敵はヤントラが魔法で打ち倒す。

 淡々と次々に頭を撃つ。

 それが終わるとメイド達が現われて肉片を集めて掃除していく。

「二人とも休憩していいぞ。もう一回戦は出来るだろう?」

「出来れば違うモンスターがいいっすね」

「一日で出来る事は少ない」

 ルプスレギナはナーベの武器を取り上げて、壁際に移動した。

 モンスター退治と甘く見ていた。

 ナーベの姿を見て、なぜ裸で居る必要があるのか理解した。

 これが本来の姿なのだろう。汗まみれで血まみれ。

 精神的に不安定にもなる特訓。

 屠殺場と言う名前は伊達ではない。

 

 比較的高いレベルのモンスターを千体ほど倒して一日を終える事にした。

 ナーベ達をマッサージしたり身体を洗って身奇麗にした後、約束通り宝物庫を見せる事にした。

 ナーベは少しだけ疲労していたがしっかりと歩く事ができた。

「金貨の山すごいっすねー」

「うむ」

「魔法のコストにもなるから、あるだけ必要だ。価値が低いのか、一気に減っていくから困る」

「現地通貨ではないのだな?」

「ユグドラシル金貨だ。現地通貨や交金貨は出てこない」

 天井近くの箱から金貨が降ってくる仕様だとナーベは気付いて納得する。

 壁際の棚には様々なアイテムがある事に気づいた。

「鉱物資源だ。……それも内緒だ。内緒だからと言ってナザリックから盗んできたものじゃないからな」

「わかったっすよ。確かに宝物庫らしい眺めで綺麗っすね~。あー、でも金貨の山で他の物が置けないようだ……」

「あとは容器類しかない。階層ごとに風景が変わるようなところは無いよ」

「……地下は二階までか?」

「深く掘りすぎるのも良くないだろう。地下は二階までだ。今、作っているところもそうだ。後は空中で開拓するさ」

「昇るの大変そうっすよね」

「正方形型……。迷路と言うわけも無くと……。ただの倉庫と大差ないな」

「ナーちゃん。ここ宝物庫っすよ。複雑怪奇なダンジョンだと大工さんとか作るの大変じゃないっすか。人の手で作られているんすよね、ここ?」

「改装は私がやるが大半はお任せしている。土木関係とはいえダンジョンが作れるかどうかは分からないな……」

「警備体制のことを心配していると思うけど、我らの複製体が見張れば充分じゃないっすか? 人間相手ならって意味だけど」

 警備体制が手薄である事を気にしているようだが厚くしたいのは山々で人材が居ないのと経費削減と言う事で雇えない。

 雇う金はあるが地下一階に耐えられる屈強な警備兵が居そうに無い。

 幻術を駆使してメイド達に巡回させるのが手一杯だった。それでも普通の人間相手なら充分強固だ。

 フールーダと共に地上に上がり、宿舎に案内した。

 布団は事前に洗われているので清潔だった。

「こんな狭いところで寝ろと?」

 エ・ランテルの高級宿屋(黄金の輝き亭)はもっと広いぞ、とナーベは文句を言った。

「寝るだけに無駄なスペースは要らないだろう。一応、個室ごとに部屋を与えたんだから」

「……汚い気がする」

「掃除はした。格安宿屋より清潔だぞ。食事は有料だが、風呂は無料だ。一人が嫌ならルプーと相部屋でもいいか?」

「では、そうさせてもらう」

 各部屋にあるベッドは簡単に解体できて床に布団を敷いて眠る事もできる。

 食事は事前に弁当を用意した。

 食事処は夜間は店じまいするので職人達は愛妻弁当を持参する。独り身は自前で用意してもらっている。

 共同で使える食堂があり、食材だけはたくさん保管されている。

 朝と昼は料理人がやってきて賑やかになるし、夜間は自分たちで料理を作ることが出来る。

 風呂はシャワー室が完備されているが大浴場は無く、共同風呂が男女別に二つあるだけだ。

 贅沢さえ言わなければ利用しやすい環境となっている。

 ルプスレギナの部屋に行き、ナーベの為に布団を敷く。

 了承うんぬんはナーベと話し合えばいい。

「宝物庫の勝手な調査はやめてもらいたいな。私にも秘密を持たせてほしい。それでも強引に行くなら数の暴力を見せるぞ」

「……宝物庫以外のところは見ていいっすか?」

「職人達の迷惑にならない範囲はな」

 アインズからは出来るだけ調べて来い、という命令はあったのだが無理な深追いはするなとも言われていた。

 無理をすれば自分の大群が阻止してくるのだろう。

 調べられる範囲は行かせて貰う。

「夜中に死の騎士(デス・ナイト)やシモベが来るかもしれないが、それは注文していた物資の搬入だからな。人型の侵入もあるかもしれないが、それはたぶん敵だろう」

「荷物運びのシモベは図体が大きいはずだから、それさえ分かれば後は敵って寸法っすね」

「さすがにユリが訪れるとは思えないが……。仲間かどうかは確認しろよ。エンリとか来る時があるから」

「了解っす」

「こちらも了解した。ではまた明日、よろしく頼む」

「お休み。私はこれから宝物庫のチェックと用意をしてくるよ」

「バスパ様。訓練以外でここに様子見に来てもいいっすか?」

「仕事は優先しろよ。あと、ンフィーレア君の邪魔とかするなよ」

「はいっす」

 ヤントラは二人を残して宝物庫に向かった。

 ルプスレギナ達は報告と検討を伝えた後は食事やシャワーなどをそれぞれ済ませ、調査を開始した。

 『マグヌム・オプス』のだいたいの見取り図や利用者の情報などを伝えていく。

 巨大倉庫の中に入り、箱の中を確認したり、宝物庫の入り口になっている建物の地上部分の方を見学した。

 夜間ではあるが掘削した穴の壁面にはたくさんの『永続光(コンティニュアル・ライト)』が設置されていた。

 改めて下りられる部分に向かい、色々と調査をする。

 人の手で作られているので変わった部分は見つからなかった。

 所々に浮いている立方体の石のような物体を色々と見回したりし、その後で地上に戻ると荷物運びのシモベの姿が見えた。

 彼らは夜間、作業員が寝静まる頃に箱の搬入作業をするらしい。

 一部は倉庫に行き、用意されていた箱を持ち出したりしている。

 ナザリックに運び込むのであれば後で確認も出来るだろう。

 リイジー達が利用している研究施設は朝方のうちに調査したが明かりはついていた。

 

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