ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
複製に命令を与える魔法はヤントラも知りえていたが魔法である以上は手間がかかる。
この方法はいずれアインズにも教える日が来るかもしれない。
少なくともアインズなら出来る可能性がある。
『
『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を持つ者には造作も無い。
悪用方法と使用による弊害。失敗例などを色々と把握していないと取り返しがつかなくなる。
その方法は秘かに書類としてまとめている。
ケンカ友達の為に。
ヒントは与えた。後は気付くかどうかだけだ。
二日目の午後に入った。
特訓の最後に搾取しようかと思うのだが、実際のところは段階的に手に入れて調査した後は処分してしまう。
個人的に
それと今は情報公開の時期だ。
イビルアイ達とは違い、人間的な倫理観にとらわれず興味津々に勉強してくれる。
「異種交配は人間種にはきついことだったようだ。デミウルゴスに頑張ってもらってくれ。珍しい進化形態は魅力的、と思ったが……。制御できない化け物になると困るからやめた」
「制御出来ない……。報告しておくっす」
色々と頑張って結果が実を結ばないとヤントラでも元気を無くす。
ルプスレギナも気持ち悪すぎるものは同情するかもしれなかった。
戦力以前の問題だろう、という気がした。
「アインズ様とアルベド様が異種交配するとして生まれる子は骸骨っすか?」
「生物の方が優先されるから
「そうっすよね、普通……」
「……ナーベ」
真面目な顔で名前を飛ばれたので、姿勢を正す。
「アインズでも子供を作る方法があるとしたら信じるか?」
「!? そ、それは……。信じるとかは……、分からない」
なぜ今、それを言ったのだろうと疑問がたくさん浮かぶ。
「色々な条件はあるだろうが……。不可能ではない。ただし、子供は所詮、レベルはゼロからだ。魔法を全て習得したりするような事は無いだろう。知識も新たに勉強させなければならない。それは忘れてはいけない」
普通では無い方法ならば可能、という意味かもしれない。
「NPCである君達は種族的に適合する相手が居れば妊娠する」
「ほえ!? 私も
「
「ワー何……。犬と猫の子供っすよね……。新種の生物……。ああ、名前が付けにくいから
「
「種族にこだわりが無ければ母体を素体とした胎児は可能だ。成長した後でアンデッド化の儀式でもすればいいだろう。問題は……、アルベドに内緒に出来るなら教えるぞ」
「アルベド様に秘密でもアインズ様には良い、ということか?」
「アルベドはアルベドで別に教えているから、後はお互いがどう判断するかだ。それはゆっくりと……、というかアルベドで決定でいいのかな? 私は関知しないが……」
正妻を狙う女性は何人か居るらしい。ナーベ達は今のところはアルベドを支持する立場である。
ただ、上位者の何人かに支持に回れと命令されればより上位につくしかない立場なので恨まれる可能性がある。
「……デミウルゴス様が聞いたら大喜びしそうっすね」
「あれは生物の悲鳴を好むから仕事としてはどうかと思うがな。苦しめて最後に死なせるタイプだぞ」
「量産体制としては致命的っすね。それは少し困るっすね」
気がついたらみんな死にました、ごめんなさい。という結果になりそうだとルプスレギナは思った。当然、アインズは激怒するだろう。
効率の良い量産体制はアインズも研究している分野だ。デミウルゴスでは問題が起きる可能性が
「バスパ様はやはりナザリックに必要なお方だと思うっす。我々も頑張るっすから、ナザリック所属になってくれないっすか?」
ルプスレギナの発言にナーベは驚いたが、黙っている事にした。
「メリットはたくさんあるだろう。だが、急な切り捨てを私は無数に想定している。……実のところでは無数に死んでいるのだよ、私は。アインズの手によって永劫の封印想定などで……」
「ほえー! なんすかそれは!?」
「むっ……」
「意外か?」
苦笑気味にヤントラが言うとルプスレギナは何度も頷いた。
ナーベはすぐさま『
午後になったから、というわけではないが
本来は取り次ぎたい相手に繋がる魔法なのだが、アインズの場合はまずアルベドを通さなければならない決まりになっている。それを無視すると対抗魔法などが発動し、手痛い攻撃を受けてしまう可能性がある。
もちろん、事前に連絡する時間などをナーベは把握している。
「人間種だからな。無数の殺害方法は考えられているだろう。それは問題は無い。死なずに永遠の封印をされると……。それはそれで困る。元の世界に帰れないのは別段、どうでもいいのだが……。楽しい冒険にはアインズは……、とても邪魔だ。仲が悪いからな」
「性格的なものと聞いているっすよ」
「そう。互いにいけ好かないと思っている。相容れないだろう。今はアバターの影響で更に悪化している。互いにためらいの無い方法を取っているのがよく分かったよ。魔法の使用方法を間違えれば簡単にどつぼにはまるだろう。実験をしていて良く理解した。これをアインズに知られれば私は出られない封印を施されるとね」
ナーベはヤントラの言葉を伝える。それに対し、アインズは黙って話しを続けさせるように命じた。
「殺すよりもえげつない永遠の停滞。その方法を知るから私はアインズの邪魔をするんだ。セバスにも言った。そして、私の邪魔をさせない方法を色々と研究したよ。それがこの施設の秘密部分でもある」
「……いいんすか、言っても? ナーちゃん、報告してるっすよ」
「いいさ。いい頃合だ。君たちが来た時点で時が満ちた気もする。私が居なくても運営できるかは未知数だが勉強次第では無理はないぞ。アインズはかなり気付いたようだしな」
「……話しを続けろ、とおっしゃられている」
ナーベの言葉にヤントラは頷く。
「もちろん実験には失敗がつき物だ。アインズとて使い方を誤ればとても危険だ。
「えっ? 複製を作るだけじゃないんすか?」
「どんな魔法も解呪は必要だ。誰かが解呪出来るシステムを構築しないと永遠に目覚めない事も可能だ」
「……
アインズから連絡を受けたナーベは言った。そして、ヤントラは頷く。
「
この言葉にもヤントラは頷く。
ただ、ルプスレギナは首を傾げた。そして、少し離れた位置に居るフールーダは第六位階以上の魔力系、第三位階以上の信仰系の魔法については詳しくないので聞き耳を立てた。
「他にも上位の魔法にはデメリットがつき物だ。便利であるがゆえに危険な副作用が……。そして、それをアインズに利用されれば私はアウトだ。逆にアインズに使うか、というと奴は魔法に抵抗があるから通用はほぼしないだろうが、自分の魔法で自滅するおそれがある」
「んっ……」
アインズ様に限ってありえない、という思いがルプスレギナ達に浮かんだ。
「自分の魔法を解呪するには自分以上の
「それを教えろと言われているが……」
「勉強中だ。月に行く時までには公開してやる」
それをそのまま伝えるとアインズは唸ったようでもあり、怒ったようでもある。
「アインズ様とバスパ様って……。互いに殴りあう仲っていうのはよく分かったっす」
「殴る相手が居るっていいよな。アインズは丈夫だし。歯ごたえも申し分ない」
「至高の御方々と渡り合える人は凄いっすね」
「仮にアインズを倒して君たちを引き取るとしても管理できないぞ。数人ならまだしも……。ナザリックの管理はアインズが一番上手いからそのままでいてほしいな」
「……仲間は苦手っすか?」
「見る分にはいいんだが……。自分で命令するのは苦手だな。ここに居るメイド達は仲間という意識が持てないから、少し可哀相だとは思うよ」
「この施設をバスパ様一人で管理するのは大変じゃないっすか?」
「大変だよ。複数作ったらその分だけ大変だ。モンスターを用意できる人材も考えないといけないし」
「アインズ様が言うには
ナーベの『下等生物』の例えにルプスレギナは失笑した。いや、ヤントラも何だ今のは、と首を傾げた。
どういう基準で使用しているのか、未だに分からない。
「ま、まあいいか。それはそうなんだけど……。ずっと秘密にしていたら、そうなっていただろう。今はアインズも気付いたようだし、不可能を可能にする事も出来るさ」
「んっ?」
「楽して情報を得ようとすれば危険極まりない。だからこそ、情報は小出しにしている。アインズが一気に制圧しに来ないところは感心するぞ」
この言葉にアインズは何も感想を返さなかった。
「屠殺場の利用方法は伝授してもいいだろう。それしかないのだがな」
「おお、メイド達が動く仕組みが判明するんすね?」
「
「そこに目をつけるか。だが、甘いな。もっと簡単な方法がある。そして、それこそがもっとも繊細で失敗すれば危険極まりないものだ。ナーベ達が体験したオリジナルの抹殺に繋がる。自我を持たれる弊害はちゃんと考えないと本当に危険だぞ」
それらはちゃんと伝えられるのだが、アインズは言うたびに唸る。
どうにも報告が間違っているのか、悪口に聞こえているのか、判断がつかない。
「アインズ。前に言っただろう? お前にも出来る方法だと。それに気付くまでは色々と考えた方がいい。楽をするのはとても危険だ。この宝物庫の範囲だからこそ私の自己責任で済む。……そう伝えておけ」
「了解した」
「バスパ様って何気にアインズ様のこと、好きなんすか?」
「……嫌い嫌いも好きの内、という格言があったような……。それはないな。骸骨は好きにはならない。中身の……、いや。部下思いの部分だけ好感を持ってやる」
ばっさり過ぎる意見にルプスレギナは苦笑する。
「それとは別に、アインズ様でも出来るって本当っすか?」
ルプスレギナに耳打ちするヤントラ。
「あれを!?」
内容としてはコンソールの操作関係だ。
「あ、ルプーじゃあ報告しないか……」
と、言いつつナーベに耳打ちしなおす。ルプスレギナは少し
ナーベは言われたことが信じられなかったが一応、報告した。
そして、耳打ちしなければならない理由をフールーダを見て気付く。
他人に聞かれてはいけない事柄だったからだ。
「少し教えすぎたかな。来月辺り、口封じされるのは嫌だぞ」
「ナザリックの糧となってくれたことには感謝するっすよ」
「……精神支配の話しが出なかったが……。それはどうなっているんだ?」
「そもそも精神支配などしないぞ。シャルティアの事は関知していないし。メイド達で誤解させているのかもしれないが……。あれは支配とは少し違う……」
「ちなみに記憶の上書きって魔法で出来るっすか?」
「改竄は出来るだろう。それはアインズが詳しいはずだ。あいつはその魔法を修めているはずだから」
ナーベは事実か確認を入れると肯定された。
「元々記憶が真っ白なんだから改竄はありえない。そこら辺は秘密にするが、今ナーベの記憶を改竄してもいいなら、試してみるか?」
「私の記憶を?」
アインズに報告すると、やめろ、と強い言葉で言われてしまった。しかし、後学の為には犠牲もやむなし。
裏切り行為に走れば殺害を希望する旨を進言した。
「ナーちゃんの忠誠心は凄いっすね」
「アインズ様の糧となるならこの身は惜しくない」
と、言っているそばでアインズは惜しいぞ、と言い返してきた。
「いくつか実験は済ませた。結果はやはり危険なレベルだそ、ナーベラル・ガンマ」
真面目な顔でヤントラは言った。そこにふざけた様子は微塵も無い。
命令違反をするこの身をいかようにも処分してください、とナーベラル・ガンマは伝えた。
もちろんアインズは早まるなと強い言葉をかけた。
「脅威がある以上は知っておくべきかと……。むざむざ犠牲になるわけではありません。将来のナザリックを
失敗を恐れるアインズにしてみれば実験は必要で、その重要度は理解している。だが、それを仲間で試す事はためらわれた。
絶対に失敗するな、とは今回は言えない。
失敗してからどう対処するかが問題だからだ。
本当に殺害以外でしか解決できないのか、どうか。それは確かめる必要があるだろう。
それにヤントラが保有する秘密を解明する手がかりにもなる。
『ナーベラル・ガンマ……。お前の忠誠心を誇り思う。だが! 無駄に死なせたりはしないぞ』
アインズは強い口調で連絡を入れてきた。
「ありがたき幸せにございます」
今回は通常の精神支配とは違い、互いに合意した上での実験だ。
恨みっこなし、と素直に言いたくないアインズ。
あの変態野郎、絶対にぶっ殺す。くらいの怒りが渦巻いている。
「あー、記憶の改竄ではなかったわ。命令遵守のようなものかな」
まずナーベに耳打ちで内容を伝えていく。
それらをアインズに報告する。
内容はイビルアイの姿についてだ。
アインズはかなり驚いたようだ。
「ナーベ。覚悟はいいか? 物凄く恥ずかしい事が起きるはずだ」
「……いっそう嫌われそうっすね」
「どのようなことがあろうと耐えてみせる」
まずフールーダには大浴場に行ってもらった。女性のあられもない姿を見せるわけには行かない。一人では退屈だろうからメイド達にお世話も頼んだ。
戻った後でナーベの身体に巻いているタオルは取った。
その後で他のメイド達を呼び、飲み物と食べ物を置いた。
「通常、魔法は接触や離れた位置から唱えるものだ。では、これから起きる事はどんな方法だろうな。色々とナーベの変化を注視するといい」
「りょ、了解っす」
その前に腹ごしらえをさせておく。
ヤントラが立ち去って数分後にナーベの身体に異変が生じる。
「うむっ……」
急に内股になるナーベ。
頬が紅潮していく。
「な、何だ、急に……」
止め処もない尿意と、えもいわれぬ感覚が襲ってきた。
「ナーちゃん。どうしたっすか?」
「だ、駄目だ……。なんだ、これは……」
表現できない苦痛。
下半身を襲うのは強烈な快感だろう。
耐えれば耐えるほど酷くなる。
床に座り込んだ途端に限界が来て、失禁。それと同時にナーベの顔は更に苦痛に歪む。
「……うわぁ!」
失禁した瞬間に全身が性感帯になったのではないかという快感の嵐が襲う。
噴き出し方が尋常ではないし、出せば出すほど気持ちがいい。
止められない間欠泉のようだ。
痛みに耐えられるはずのナーベラル・ガンマはのた打ち回り、辺りを濡らしていく。
仲間の突然の
それからメイド達が現われてナーベの手足を拘束していく。
無限のごとく放出し、メイド達は回復魔法をかけて衰弱を阻止していく。
「ナーちゃん、大丈夫っすか!?」
声をかけても返事が出来ない。
これは魔法なのか、とルプスレギナは疑問に思う。
そんな生易しいものではない気がする。
並みの放出ではない。身体中の水分が出尽くすほどなのに勢いが止まらない。
五分ほどで失禁の放出は治まってきたが、ナーベは起き上がれなかった。
「な、なんだ、今のは……。魔法?」
「魔法じゃない気がするっす」
疑問に感じているとナーベはルプスレギナの腕がとても気になってきた。
この腕を股に挟まないといけない気がした。しかも、未だに尿が出ている。
「ナーちゃん?」
「ルプー、腕を借りるぞ」
がしっと腕を掴まれてびしょぬれになった股間に挟もうとするナーベ。
「ちょ、ちょっと落ちつくっす。あひゃー、びしょぬれのまま……」
強引なナーベによってルプスレギナの腕はタオル代わりにナーベの股間をごしごしとこすられていく。
仲間の痴態に精神支配されたのではと思うほどだった。
それもすぐに収まると、ナーベはルプスレギナの腕を投げ捨てるような乱暴さで放す。
「何をしてるんだ!」
「それはこっちのセリフっすよ。あー、なんか
「何なんだ一体!?」
明らかにナーベはおかしい。それはルプスレギナも理解した。
精神支配の一種かもしれないが、実際に目にすると背筋に冷たいものが走る。
その後、ナーベは放尿が止まらないままジャンプを繰り返したり、私がナザリックの支配者だ、と言い出したり、奇行が続いた。
落ち着いたところでナーベは連絡するのだが、精神支配の兆候は現われていないという。
「そんなバカな!」
ルプスレギナに異常はなく、しっかりと目撃している事が伝えられる。
「自害を……。このままではナザリック……、アインズ様にご迷惑をおかけしてしまいます……」
『落ち着くのだ、ナーベラル。自我を保っているのであれば耐えるのだ』
「……しかし。この施設は危険です。いえ、秘密を知ろうとした報いかもしれません」
『ならば私が直接、赴こうではないか』
「いけません! アインズ様、犠牲は我々だけの方が……」
『ナーベラルをそこまで追い詰める事が起きたというのか……。あの野郎、どんな方法を……』
ヤントラの言葉や立ち去るところまでは報告した。
痴態はアインズに言うのは恥ずかしいので漠然とした内容だけ伝えた。
体験したことは全て覚えているが、なぜか抵抗できなかった。
数分後にヤントラが戻るとナーベは壁際でうつ伏せになっていた。
床は既に清掃されていて綺麗になっていた。
「どうなった?」
「のた打ち回っていたっす。あと、ずっと尿漏れしてたっす」
「では、成功だな。ナーベラル。悪用すれば酷いだろう? 扱いを誤ればとても危険だ。これは自害で済ませることは出来ないかもしれない」
「な、なんだと」
「アインズが方法に気付いたとき、しっかり教えてやる。その後で私は封印されるかもな。話が戻るようだが……」
「危険極まりないっすもんね。ちなみに、それはこの施設から例えばアルベド様に同じことが出来るっすか?」
「無理……、というか条件次第だな。その辺りもアインズが見抜けたら大したものだ。私がやった方法は悪用が過ぎれば虚しくなるのだが……。思い通りになると楽しくない。その辺りが課題だろうな」
ヤントラが合図するとメイド達が現われて、ナーベの身体に温かいお湯がかけられる。
「これは人に教えた程度では出来ない方法だ。ヒントというか私が取っている方法は『アインズなら出来る』というものだ。秘密主義なら私を消しに来るだろうな」
と、そこまでをナーベは伝えた。
「同じような方法だが……、これでナーベラルは偽者だ、という事はない。オリジナルに実験するのはリスクがあるものだ」
ヤントラはナーベの側に行き、タオルで彼女の身体を拭いていく。
「これではナザリックに戻れない……」
「NPCは元々はプレイヤーが作り上げた存在だ。お前たちの言う『そうあれ』として造られたのならば、先ほどののたうちも『そうあれ』としての行動だ。裏切りではなく、な……」
「私にも適応されるってことっすか?」
「理論的には可能だろうな。だが……、それはとても虚しくなる。精神的に愛着がなくなるほどに……。乱用の出来ない方法だろう」
「乱用の実験でバスパ様は愛着がなくなってきたんすね。率先して実験なさるとは……。あ、でも、それを我々に教えているっすよね?」
「
「我々がバスパ様を受け入れているのも、その方法によるものっすかね?」
「どうだろうな。君たちの中に私の名前は無いようだったぞ。試しにナーベラル。ユリでもセバスでもデミウルゴスでもいい。彼らのステータスに私の名前があるかどうか聞いてみろ」
「分かった」
ナーベラルの身体をタオルで包み、床に座らせる。
「複製だけを持っていく理由も分かってくれるといいな、ルプー」
「それはつまり、オリジナルに危害を加えたくないって意味っすか?」
そう言うとヤントラは微笑んだ。
「こんなことがあったんだから、月にでも行ってくれた方がいいだろう?」
「……いや、あんまり自分を追い詰め過ぎじゃないっすか? ナザリックはそれほど
「アインズはどう思うかな?」
「アインズ様はアインズ様っす。今は私の意見を述べているんす」
口をきつく結ぶルプスレギナ。
真面目な時は頼りになる。戦闘メイドとして相応しい顔だ。
それが何故、普段も出来ないのかが不思議だ。
「バスパ様は危険な方法を見つけてしまった。その方法はナザリックでも出来てしまう不安要素なんでしょう。解決方法や様々な実験を研究していらっしゃる。それに自分でもおっしゃいましたよね? それらを我々に教えてくれるって」
月に行く時に公開する、と。
「一つルプーに尋ねようか?」
「おっ、いいっすよ」
「人間種であるメリットは何だと思う?」
「哲学的っすね……。え……、交尾して子孫が作れる? 悪知恵が働く? あとは……」
「もっと技術的な部分で頼む」
「なんだろう……」
いつもならばふざけた態度の彼女も今は真面目に考えているようだ。
少なくとも異形種の立場からではあるけれど。
「種族レベルが無いから百レベル全てをクラスレベルにつぎ込めるという事だ」
「おお、そうっすね。あれ? トータル的には異形種の方が三倍強いのでは? あ、色んなクラスを得る上では人間種が優れているのか……。なるほどっす」
種族レベルを気にせずに多種多様なクラスを選べるし、一芸に秀でる事も可能。
異形にしかなれないクラスもあるにはあるのだが、手数の多さでは人間種が勝っている。
「一芸に特化する上では人間種を超える異形種の能力は侮れないだろう。
儀式により魔法を取得するものなど。
「小ざかしい人間ですまないな」
「人間だから謝るのは違うと思うっすよ。能力の研鑽のためなら種族は人それぞれっす」
人間だから殺さなければ、という規則も命令も無い。
「それよりもナーちゃんの忠誠心って元に戻ったんすか?」
「それは変わらないよ。アルベドに不審を持たれるかもしれないが、彼女も普段どおりだ。奇声をあげたりするのはタブラのせいだがな」
「くふふー、とか言いながら天井ぶち抜いた事があったっすよ」
「……後半はアインズのせいだな。……あれ? ナザリックの天井って超位魔法でもビクともしないって聞いたんだけど?」
「……アルベド様、超パネェっす」
ルプスレギナの顔から血の気が引いていく。
アインズやアルベドが確認した限りではステータス類にバスパだのヤントラの名前は見当たらない。
見当たらないというか、彼に協力しろ、という都合のいい文章は無かった。
ナーベラルも同様に。
連絡を受けたナーベラルは信じられなかったがアインズが調べたのだから信じるしかない。
性格の場所を事前に伝えて『バカ』と加えるとナザリック側でも変化が確認された。
目の前で字が書き加えられる現象にアルベド達は驚いた。それは片方の施設でナザリックに内密の設定は加えられないことを意味している。
『マグヌム・オプス』側の字を消すとナザリック側の『バカ』の一文が消去されたことが確認された。
「思い通りになる世界はつまらない。私に出来る事は何かを残す事だろう」
「では、手っ取り早く強くなれないっすかね?」
手っ取り早く強くなれるなら特訓は必要ない。つまりは出来ないという事だろう。
愚問と言うことにすぐ気付いたが手遅れだった。
「残念ながら都合のいい部分と出来ない部分がある。万能すぎると宝物庫そのものの存在意義が無いだろう。お詫びとして一つヒントだが、やろう」
「答えそのものを下さいっす」
素直なルプスレギナの言葉に苦笑する。
「先ほどの痴態……。あれは魔法ではない。発動する条件があって、それは詳しくは言えない。言葉による命令は結果だから別物だぞ」
「発動条件? 魔法のように移動しながら身体に命令することは出来ないという認識か?」
「条件を満たした後はな。満たさない場合は言葉で
「ほ、報告してもいいのか?」
「いいぞ。不安は残っただろうが……。そういうものだ。だからこそ危険な実験といえる」
「うむ」
アインズに聞いた限りの事を伝え、万一の時は殺害するように頼んだ。
「ナーちゃんだけ悪者ってわけにはいかないっしょ。私にも何か命令してみてくださいっす」
「よし、自害しろ」
「はいっす。って、それは酷いっすね」
「自害以外でとなると陵辱系しか浮かばないぞ」
「エロいところから外れてくれないっすかね。……別に構いませんが……。あ、あの
と、床に土下座する形になるルプスレギナ。
命令を受けたが自害はする気にならないし、身体も勝手に動いたりしない。
その後、ルプスレギナは狼形態になったまま元に戻れなくなったり、自分は
ナーベラルは最初はふざけているように見えたが、自分も先ほどまで身体や感情の制御が出来ずに痴態を晒した事を思い出す。
意識としては何をしているのか、全て覚えている。だからルプスレギナも元に戻れば一気に嫌悪感に支配されるだろう。
壁際にマーキングしたり、こんもりと汚物を出し、床を転げ回るルプスレギナ。もはや演技しているとは思えない。
十分後に元に戻ったようだが、床に突っ伏したまま動かなくなった。
そんなルプスレギナにメイド達が近寄り、風呂のお湯などをかけて丁寧に洗い始めた。
汚した壁や床も淡々とメイド達が道具を持ち出して洗っていく。もちろん、最後には
「……アインズ様に見せられないっす……。ナーちゃん、報告だけはしてほしくないっすよ……」
「残念。手遅れだわ」
「うえー!」
あまりの
当然、アインズは大激怒。
「下手な精神支配より恐ろしいっすね……」
戻って来たヤントラにルプスレギナは言った。
「これはまだ可愛い方だ。敵対行動しているわけではないからな。この秘密をちゃんと共有さえ出来れば問題は無いだろう」
「共有? それは何か意味でもあるんすか?」
あまりの痴態ぶりにルプスレギナは顔を上げられなかった。
「片方が精神支配されたとしても対処しやすいだろう。実際に精神支配された事はないから分からないが……」
「それは……、そうですが……。メイドとして少しの間、立ち直れないっす……」
ヤントラは自らの探知に引っかかる存在に気付き、苦笑する。
そのすぐ後で屠殺場の壁が大破する。
工事中の縦穴に入り、真横から攻撃魔法を放ったようだ。
「おわっ!」
ルプスレギナ達はすぐさまタオルで身体を巻く。
現れたのは漆黒のローブをまとい骸骨の顔をしたモンスターだった。
「あ、アインズ様!?」
「ぶ、無事か二人とも!?」
「はい。もう大丈夫です」
戦闘メイドがほぼ裸であることに気付き、軽く顔を隠すような仕草をするのはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の統治者『アインズ・ウール・ゴウン』だった。
「エロいことはしないと言ったんじゃなかったのか?」
「いえ、アインズ様。特訓の一環で服が汚れるのを防ぐためでございます」
「服が汚れる?」
よく見ると二人ともタオルを巻いていた。
普段はそれほど肌の露出が無いので肌色の面積が多い現場は驚いた。ルプスレギナの小麦色の肌もつい顔を向けてしまったがすぐに逸らす。
「おそれながら……。情報収集も兼ねてのこと。この身を犠牲にする事も全てはナザリック……、アインズ様の御為にございます」
「バスパ様は比較的、こちらの要望に答えてくださいました。……我らに注意喚起する上では様々な障害を身を持ってご教授してくださいました」
「だからといって……」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
今の衝撃にもかかわらず、大浴場に行ったフールーダが出てこなかった。それにナーベラルは疑問に思った。
「命令だ。アインズを殺せ」
冷たい言葉でヤントラが命じた。しかし、ナーベラルとルプスレギナは動かない。
「精神支配されているのではなかったか? そいつは敵だぞ」
二人は自分たちの主を見据える。しかし、攻撃したいとか殺したい気持ちにはならなかった。
なぜ、その命令をしたのか理解が今は出来ない、そんな感じになった。
「アインズも二人は敵だぞ。早く殺せ」
そう言うとアインズは精神支配の疑いがあるナーベラル達を見据える。
手をかざすと二人は目をつぶり、大人しくしていた。
そして、そのままアインズは二人の頭に手を置いて、撫で付ける。
「敵なものか。戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータ」
「はっ」
「ナーベラル・ガンマ」
「はい」
「二人は私の大切な仲間、そして娘たちだ。好き好んで手にかけようと思うものか」
「そんな茶番がいつまで続くかな。やれ、ルプス」
その命令に目の前のルプスレギナは動かない。しかし、壁から這い出した青い髪のルプスレギナは命令どおりにアインズへと拳を向ける。
「なっ!?」
顔は確かにルプスレギナであったのでアインズは驚いた。
「くひひ、アインズ様を殺してナザリックの支配権を頂けば世界征服は完了っす」
アインズは迎撃しようとしたが顔はルプスレギナと瓜二つなので少しだけ
同じ声で喋る戦闘メイド。
「おっと、そう簡単にはいかないっすよ」
赤い髪のルプスレギナが青い髪のルプスレギナを迎撃する。
同じ強さだと思って手加減抜きにお腹に一撃入れたら貫通してしまった。
「ありゃ?」
吐血した後、襲い掛かってきたルプスレギナは沈黙した。
「あらら、死んじゃったっす。……わー、弱いっすね……」
更にアインズの背後を取るように湧き出してきたナーベラル型はオリジナルの素足の一撃で足を折られ、手刀で首を断ち切られた。
あまりにももろい身体に攻撃したナーベラル当人は驚いた。
「二人とも、どうして私の命令を聞かない?」
「どうしてもなにも……」
何かを察知したナーベラルはアインズの側にひざまずく。
見ようによってはナーベラルのあられもない股間部分が丸見えになる格好だ。
「偽者とお疑いならば即座に我らの首を撥ねてください。自らがオリジナルと証明するすべがありません」
ルプスレギナもナーベラルの隣りにひざまずく。
「ただ、お届けした情報はオリジナルのもの。……のはずです。あれ? そういえば、ナーちゃん。
「ん……。それは……、失念していた……。まさか虚偽情報に踊らされてアインズ様が駆けつけられたのでしょうか!?」
当のアインズは二人を少しの間だけ眺めた後、深くため息のような吐息をつく。
それは呆れたのか、安心したのか。
「では、試してみようか」
ヤントラが手を叩く合図を送ると青と緑色の髪の毛のナーベラル型が一人ずつ現れた。
「それぞれアインズに
二人は無言で
アインズには何も変化なし。
「何も聞こえないな」
それはそうだろうな、とヤントラは頷く。
彼女たちは新しく植えつけた偽りの性格。
アインズという存在はただの情報に過ぎない。そんな相手のことなど知る
オリジナルとは違い、生活経験が全く無い相手だ。
それらに輪をかけた設定が施されている。
ヤントラはそもそも『
ヤントラが嫌いな事は全て封印されている、とも言えなくも無い。
「自害せよ」
そうヤントラが言うと二人のナーベラルは全ての衣服を脱いだ後で大浴場に駆け出していった。
「んっ? あれらは何処へ?」
というか裸になったよな、とアインズは首を傾げた。
同じ命令を受けた筈なのにアインズの側にいるナーベラル達は特に何も起きない。
命令遵守の大切さについてナーベラルは気がついた。
自我を持たないように適度に処分する理由。それは。
「命令を遂行しない
「その通りだ、ナーベラル」
優しい笑顔でヤントラは頷いた。