ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
命令の遂行は絶対だ。この宝物庫は鉄壁の防りを堅持しなければならない。
自我など持って暴れられれば保管している素体たちが潰されてしまう。
「虚偽だなどと……。矛盾を
「……ですが、我らは簡単に裏切る可能性を見出してしまいました」
「その忠誠心もウソだというのか?」
「分かりません……。証明するすべを持ちません」
「では、お前たちと同じ髪の色はどれほど居るのだ?」
「……今のところは見ていません……。寝ている者は変化していないかと……」
と、ルプスレギナは答えた。
「当人ですら混乱するのだ。混乱しないように対策はするだろう」
「もっと単純に本物と証明する方法があるにはあるぞ。ただ、口に出して言うと知恵を付けられてしまう。そうならない方法も考えなければならないのが大変だ」
「ったく、お前の作るもののせいでいい迷惑だ」
「しょうがないだろう。強いモンスターは居ないし、可愛い従者は居ないし、人間は寿命があったりするし、倫理観がどうたら言うし」
戦闘メイドを混乱に陥れる施設。それは確かに潰す可能性は高いだろう。
だが、危険性を調査する事はとても大事な事だ。
身体を張って頑張ってくれたルプスレギナとナーベラルには手厚い褒美が必要かもしれない。
裸体については、ごちゃごちゃ言うのも面倒くさいので無視しておく。
「本物かどうかは特訓を終えてからだ。おそらくナザリックに帰還するときに証明されるかもしれない」
「……アインズ様……、この愚かな私たちに罰をお与えくださいませ」
「ならば乗り越えてみせよ。言いたいことはあるが、今回は心配しすぎてしまったようだ」
「上から壊してたらリイジーの研究が台無しになっているところだぞ」
建物内部は平気だろうか、と心配になってきた。
各建物は四角く分割状態でダメージの連動はしないように対策されている、はずだ。
だから金貨の山も微動だにしていない、はず。
「言っておくが……。聞いただけで不安要素は伝えられないんだからな。見て聞いて体験しないことには始まらない。……あと、このアインズは偽者です」
最後に余計な事を言ってみた。
「こいつはそう言っているが……。お前達はどう判断する?」
冷静なアインズの言葉にルプスレギナ達は戸惑う。
今の自分たちには正否を判断するすべが見つからない。
複製の恐ろしいところは肉体は本物だという事だ。偽装に代表される作り物とはわけが違う。
経験を積ませれば、なお見抜くこと自体が不可能に近いだろうし、命令されれば自害もしてしまうかもしれない。
ならばどうすればいいのか。
殺せばいいのか。言う通り自害すればいいのか。
その判断の付け方はアインズは分からなかった。ヤントラも調査中だ。
「ここでお前たちに命令できる事は特訓をやり遂げろ、だ。そして、ナザリック地下大墳墓にて結果を報告せよ」
「畏まりました」
「というのは全てウソ。私的にはこんなところだ」
この言葉にルプスレギナは何かに気付いたのか、ナーベラルの脇をひじでつついて、何事かささやく。
「………」
「………」
二人はしばし話し合い、そして、何かに納得するように頷いた。
「報告の件は畏まりました。ところでぶしつけで申し訳ないっすけど……。お願いを聞いてくれませんか?」
どうせ怒られるのであれば口調はいつもの砕けたものでもいい、とルプスレギナは判断する。
本来は至高の存在の前で馴れ馴れしい言葉は使ってはいけないのだが、ついつい忘れてしまうルプスレギナ。
「ん……。言ってみろ」
アインズは姿勢を正し、聞く体勢に入る。
「では……。まことに個人的な願いっすけど……。アルベド様とえっちして孕ませてあげて下さい」
「………。んっ? もう~一度、言ってみろ」
「だから、アルベド様とえっちしてくれませんかと……」
周りの大気が振動するようなゴゴゴという音が雰囲気的に聞こえてきた。
それから『
「技術的には可能らしいっす。今のままだとアルベド様は発散場所がなくてナザリックをあちこち破壊してしまうおそれがあると思うんすよね。確かにお怒りかと思うのですが……」
「ルプスレギナぁぁ!」
怒号に似た大声が漏れた。その影響からか、ルプスレギナに巻かれていたタオルが吹き飛んで、彼女とナーベラルが後方に転がってしまった。
「なんで、お前! ええっ!」
混乱したのか、言葉がうまく出てこないアインズ。
「私はナザリックの安全を考えて発言しました。どうかアルベド様の事をしっかりと考えてあげてください」
姿勢を正しつつタオルで胸などを隠す。
「ナザリック地下大墳墓を孤独に統括するお方です。彼女以外に正妃は居ないでしょう」
「私もそう思います」
「もちろん今すぐに、とは贅沢は言いませんが……。ナザリックの安全も頭の片隅に置いてくれると助かるというか……」
「支配者には後継者問題がつきものでございます。組織運営において余計な争いは避けるべきかと愚考いたします」
真面目な発言にアインズは呻くしかない。
横に余計な入れ知恵をした張本人がいるような気がするのだが、ルプスレギナ達の意見はもっともだった。
避けたい話題ではあるのだが、いずれは身に降りかかる問題となろう。
まして『モモンガを愛している』となんで書いたのか、今となっては理解不能だ。
「バスパ様の見立てでは妊娠して生まれるのは
「はっ? どうしてそうなる?」
「父方がアンデッドだからだ。骸骨の赤子では成長しようが無いだろう」
そう言われると納得するものがあった。
「
というか死んでるし。
動くかもしれないが将来が不安だ。
「妊娠方法はバスパ様に研究していただくとして……。よろしくお願いします」
「私からも……重ねてお願いいたします。特訓が終わり、裏切りが解消されなければ我が命を絶って頂きたく存じます」
「おおう、ナーベラル……」
「研究とはいえ何かあってはお困りでしょう」
「安易に結論を出すな。一緒に考えようではないか。ルプスレギナは保留と言う事で……」
「あまり棚上げになさらない方がいいっすよ、アインズ様」
「私が言わずとも彼女たちは自分で気付いていくものさ。NPCとはいえ成長の可能性を見せている。アウラとマーレがそうであるように。我々は悪者でいいじゃないか」
「はぁ? ふざけんなよ、クソ野郎……。余計な入れ知恵したんだろうが」
と、アインズはヤントラに掴みかかる。
「おそれながらアインズ様。入れ知恵などではありません。これは自分たちが考えて出した言葉です。
「小話しに出てきたことを真剣に考えただけっす」
「それが入れ知恵と言うんだろうが」
「そうだとしても……。二人とも生きて帰れるとは思えませんし。遺言……、だと思って受け取って下さるとありがたいかな……と」
「……この、バカ者共がっ!」
怒りのエフェクトと共にルプスレギナ達に暴風が叩きつけられる。
「誰が殺すか、バカどもが。……仲間たちから預かった大切な存在を……、どうして私が殺さなければならない……」
「組織運営に私情を挟むのは危険でございます」
「知るか、バカ! 私はナザリック地下大墳墓のアインズ・ウール・ゴウンを背負うものだぞ。私が白と言ったら白なんだ」
「……はっ」
「最後のは……、少し……暴論だった。ゆるせ、二人とも」
「い、いえ……。支配者としては当然の発言かと」
ヤントラは彼らの様子を見て満足していた。
これが本物たるゆえんだと。
複製には出来ない事だ。
本物と複製の違い。それはまだ研究段階だが、既にある程度の推論は出来つつある。
それらをアインズに渡す日は遠くないだろう。
大浴場に引っ込んだフールーダが出てこない理由は外壁に施された妨害対策の数々が原因で壁より向うの出来事は伝わりにくくなっていた。
なのでのんびりと湯に浸かったり、瞑想したり、現れたメイド達にマッサージや飲食なども提供されるという幸せな時間を過ごしていた。
まさか、壁を破壊されているとは思わないだろう。
「アインズがどう思うかは知りたくはないが、この宝物庫は悪用すれば利用者が大混乱するだろう。NPCがこの様なんだから。相当な覚悟が居る。もちろん私も慎重に実験して研究している。帰ったら労わってやれよ」
「言われなくても」
と、言ってみたがNPC達が不安に思うほどとは思っていなかった。
それほど危険なのだろう、この
というか、それを利用しようとする自分も気をつけなければ危ないという意味になるのだが。
安易な複製は危険だろう。
報告書かヤントラ自身の情報提供が出来上がるまで待つのも悪くは無いだろう。
少なくとも、NPC達に色々と教えていたのだから。
ウソかどうかは後で精査するなり、すりあわせをすればいい。
「お前たちの犠牲は無駄にしないぞ」
そう言うと二人とも
それにしても裸の格好は少し恥ずかしいが、素直に綺麗な身体をしていると思った。
本来の姿に比べれば、という意味もあり人間の女性としての美しさの観点からも。
「……それよりお前達は裸でいることに羞恥は感じないのか?」
「見せる相手が至高の存在ならば何も問題はありません」
「そこらの
「よいよい、分かったから。何かで隠せ」
アインズの言葉にヤントラは大きなタオルを出して、二人に渡した。
「敵を前にして羞恥などを気にしていたらペロロンチーノが大喜びするだろう」
「なんで?」
「そういうシチュエーションのエロゲーが大好きな奴だぞ。変態プレイで言えば彼が師匠みたいなものだ」
変態プレイもののエロゲーは確かにペロロンチーノの大好物だ。
シャルティアの性癖を作り上げた変態プレイヤーでもある。
不思議と納得できた。
「恥らう彼女たちを見たいから脱がしたわけではないぞ。それは間違ってもらっては困るがな。実用的な面でこの格好なんだ。ルプーはモンスターの体液で服を汚したいか?」
「そんなことをすれば私に服を与えてくださった至高の御方に失礼じゃないっすか」
「……私の痴態で汚されなくて良かったと今は思う。戦闘メイドの武具で汚物まみれなど……。耐え難い屈辱だ」
二人の言葉を聞くとアインズも唸るしかない。
「特訓は真面目にやってたんでエロいことはありませんでしたよ。それはマジっす」
「はい」
「バスパ様って仕事には鬼っすよ」
「アインズの要望だが、連れて行くシモベをよこしてくれ。明日、引き渡そう」
一瞬、何のことか分からなかった。というか、急に話題を変えてきたので、少しだけ驚いた。
少しの空白の後で複製を頼んだ事だというのを思い出し、納得する。
「この度はご心配をおかけしました。駆けつけて頂いた事はすごく嬉しかったっす」
「お手を
「よい。頼んだ私の責任もある。無事に戻って来い」
「壁に穴が開いたところを見ると、人の手で作った施設なんだなと安心した」
時間は既に深夜のようだが、補修の工事も少し楽しみだ。
明日の帰還でルプスレギナ達の処遇や精神支配などを徹底的に調査する事を約束し、アインズは立ち去った。
壁を壊した事は
派手に壊されたが湧き出るメイド達に片付けられる範囲を任せていく。
「……フールーダは何故、出てこない?」
「気付いていないと思うな。まさか壁をぶち抜かれるとは……。工事してなかったら地上の建物が破壊されていただろうな」
「遺言は残せたし、後はのんびり特訓の続きっすね」
「……しかし、このまま帰ってもいいのだろうか……」
ナザリック内でどんな不祥事を働くことか。想像したくない現場になってしまうかもしれないという恐れを感じる。
「私は私で搾取といこうか」
「……マジで鬼っすね」
「いっそそのまま死なせてほしい」
ヤントラは様々な複製の危険性を伝えてきたのに、何故複製を欲しているのだろうか。
それがどうにもルプスレギナには理解できなかった。それもまた何かの秘密なのかもしれない。
お願いして解体作業を見せてもらう事にする。
ナーベラルは種族的に完全耐性を持っている点から睡眠が効きにくいはずだ
魔力譲渡役。髪の毛を持つ役と様々な役割のメイド達に囲まれるナーベ。と、それを見守るルプスレギナ。
充分な増強魔法を唱えた後、足首からサク、サクと小気味良い音を鳴らして斬られていくナーベ。
痛みを感じるよりも鮮やかに、素早く
解体風景は拷問だと思っていたが、手並みの素晴らしさに見とれてしまいそうになるほどだ。なおかつ、ナーベは殆ど悲鳴を上げない。
想像していたものよりも静かだった。
「……ナーちゃん、気持ちよさそうっすね」
「そんなわけっ、あるか」
既に下半身は無くなっていた。だが、斬り飛ばされた肉片は次々と再生していく。
「おっとと。脳や心臓を直接攻撃するのは危険だぞ。ユリの場合は袈裟斬りか胸の近くを横に……」
「勉強になるっすね~、って私らは出来ないっすよ」
こんなことが出来るのは数えるほどしか居ないだろう。
コキュートスを除けば至高の四十一人の『たっち・みー』や『武人建御雷』が浮かんだ。
一部は再生が止まり、肉片のみとなってしまったが五体のナーベラルが床に散らばった。
出来損ないは処分されるという。
「あられもない姿にして鑑賞……、ということもやろうと思えば出来る」
本人の目の前で色々な格好をさせると泣くだろうから気をつけるように、と言っている側からナーベの敵意に満ちた顔が睨んでくる。
「覚醒状態になっている場合も考慮し、……あんまり考慮してないな」
睡眠の命令を与えておけば魔法の手間は省けるだろうが色々と配慮の足りなさが露呈する。
「身体は徹底的に洗浄して容器に入れる。老廃物の問題もあるけどね」
単純に保存すればいい、というわけでもないし、色々と考えているヤントラにルプスレギナは感心する。
自分たちでやることになったらちゃんと出来るのかは分からない。だが、アインズの命令があればやらなければならないだろう。でなければ叱られてしまう。
「手足は保存しないんすか?」
「全身があるから、要らない。そういう嗜好を好む者なら残すかもしれないが……。私は目やエルフの耳などだな」
全身の再生が終わったナーベの眼球が遠慮なく引き抜かれる。
本来、
「なんで取れるんすか?」
「そこが不思議だよね」
ナーベが顔を血まみれにしているのに楽しそうに会話するルプスレギナ達。
搾取が終われば綺麗に洗浄し、食事に入らせる。
「前回は準備不足だったが今は遠慮苦無く百体もやろうと思えば可能だ」
「一桁で勘弁してくださいっす」
「今回は切れ味の良い武器だし、素手でのくりぬきも無いから安全だぞ」
ナーベは屠殺場の風呂場で休んでもらう事にした。
大浴場にはフールーダが居るのだが、追い出すのも可哀相なので、彼はそのまま待機していてもらった。
ルプスレギナは人間形態のままで搾取していく。
ナーベは忘れていたがルプスレギナは男性化での方法も試しておこうと思った。
「ゆっくり眠っていてくれ」
目を瞑った後は急激な睡魔に襲われ、次に目が覚めると狭い部屋に居た。
側にはナーベの姿もあり、服も着ていた。
「起きたか? 数十体も取っていないが対比用に数体ほどだ。食事を終えたら本当に眠るといい。明日は少しだけ討伐するが、搾取はしないよ」
「了解っす」
「80台に行くために少し頑張ってもらおうかな」
「はいっす」
ナーベと共に食事を終えて風呂に改めて入り、就寝につく。
翌朝は気分的にすっきりしているのだが、昨日の不安が解消されたわけではない。
施設が何者かに破壊された事で大騒ぎになっていたがルプスレギナ達は気にせず食事に集中する。
昨日の内に何枚かのシーツで穴はふさがれていた。
屠殺場付近の工事だけ一時中断し、他の部分を担当してもらった。
フールーダは色を変えられた魔将の一人にひたすら魔法を当て続ける。
ナーベ達は用意された数百から数千体近い高レベルモンスターの駆逐が始められる。
通常の武器では時間がかかるのでヤントラの武器を渡した。
とにかく斬り刻みながら倒すように言われたので、それを実践していく。
休憩を挟んで日が傾きかけて晩御飯時まで。
一日でレベルを最高値にもって行く事は出来ない。実際には百万体以上は必要かもしれない。特に90台後半は膨大な経験値が必要だ。
通しでなら一週間はかかるかもしれない。
レベルアップを抜きにしてもこれほど楽に多くを討伐できるのもゲーム時代ではありえないことだ。
フールーダは効率的な討伐が出来なかったが魔力系第八位階相当は到達しているだろう。ただし、レベルが上がればいい、という単純な事ではないけれど。
問題はNPCの二人だが、80台はさすがに無理だった。
成長度合いが厳しいのかナーベは七十代半ば過ぎ。ルプスレギナは七十代に到達するほどだった。
本来はレベルが固定されているはずのNPCがレベルアップする。それは今後、色々と問題が発生したりするかもしれない不安を残すかもしれない。
今はナーベ達を素直に祝福する。色々な事は後で研究すればいい。
上級職や得る魔法候補などを三人に見せる。特にフールーダは魔法の一覧表に興味津々だった。
「相談しながら取捨選択すればいい」
アンケート自体は好き勝手に出来るのだが、そのアンケートが特殊なアイテムなのか鑑定したが普通の羊皮紙だった。
選ぶのに相当な時間がかかるだろうからヤントラは施設の中を点検することにした。
今回の招待で多くのメイドを消費してしまった。
ただの複製には限界があるのかもしれないが今のところ変調は確認できていない。
討伐対象もナザリック勢では不都合もあるだろう。それらも考えればならない。
ぼんやりしていたら複製体を送る分を思い出した。
数百体という注文だが、二百なのか五百なのか。
再生魔法で作り上げた身体はどの道、魂は宿らない。では何故必要なのか。という疑問に何人が気付くのだろうか。
一見、無駄に思える収集。
それにも気付けたら素直に褒めておこう。
それにしても人間の箱詰め作業をするようになるとは思わなかった。
一気に持っていくはずだが、綺麗に洗っておかなけれはならないだろう。
『
大浴場に献体を運び込み、次と次と洗浄し、地上に用意してある箱に入れる。
箱一つに溢れるほど入れて持っていく、他の箱は鉱物資源を入れているので向うから大きめの箱を用意してもらうことにする。
往復作業だ。
三百体ほどを送っておけばいいだろう。
急に取られるとは思わなかったが、仕方ない。
流れ作業とはいえ二時間以上はかかっただろう。
ついでに鉱物資源を一箱と金貨を数箱分持って行ってもらい、指輪と容器を頼んでおく。
培養液については使わないまま置くのも重量や場所を取るからしばらく休止だ。
ルプスレギナのアンケートの様子をうかがうと既に完成していた。
連絡も既に終わっていたようで、引き返せない
レベルダウンがNPCに起こるのかは未知数だが、それは後の実験で実証すればいいだろう。
上級職用のアイテムを渡し、使ってもらう。使い方は当人達が詳しいだろう。
本来はイベントなどをこなさなければならなかったり、色々と面倒なものもある。後は前提条件というものだ。
特定の能力地が一定値以上であること、とか。
魔力系、信仰系が強化されたが後の魔法はアインズ達と相談してもらおう。
フールーダに関しては若返りの件について相談した後でまた来て貰おうと思った。
帝国魔法省の様子も知りたいところだが、国家機密が満載だろうから諦めるしかない。
パワーレベリングは終了したが三人が実感するのには時間がかかるだろう。特にフールーダは。
「忘れないうちに。三人とも。帰る前に誓ってほしいことがある」
「忠誠か?」
「言う通りに従ってくれよ。これでとりあえずだが、特訓は終わりとする」
「はいっす」
「では、三人とも。私ヤントラからの卒業を誓いなさい。……再入門は受け付けるが色々とやりたいことがあったりするからね。卒業します、脱退します。外れる表現で」
それぞれ片膝をついて誓っていく。
この行為は少なくとも必要かもしれないと言う事で表現方法は模索中だ。
改めてナザリックの一員に戻る事も誓わせた。フールーダは帝国に誓った方がいいのでは、と聞いてみたがアインズを師と
帰る前にちゃんと確認し、改めてナーベにアルベドへ連絡させて所属がどうなっているのか確認させた。
「我々の所属が正常に戻ったそうだ」
「もし
「いいっすよ」
ルプスレギナを抱きしめるヤントラ。
「次はナーちゃんの番すよ」
「なぜ、私が……」
「バスパ様は思ったほど悪い人じゃないっす。またお世話になるかもしれないっすよ」
顔をしかめつつもいやいやルプスレギナの言葉に従う事にした。
「ナザリックの警報に引っかかったら一緒に原因を調査してやろう」
数秒ではあるがしっかりとナーベを抱きしめた後は開放した。
フールーダは抱きしめなかったが。
「元気でな。見学に来てもいいけど邪魔したり、壊したりするなよ」
「はいっす」
三人を見送った後で地下の点検の後に宿舎で一夜を明かす。
朝から職人達は大忙しなのだが、無理をしないように言い付けて大穴の補修を頼む。
もちろん、臨時の工事の費用は出す。
見事な大穴に大工や土木関係者は驚いていた。
「上の研究施設ごと壊されなくて良かった。お手数ですが……、お願いします」
「任せてくだせぇ」
「出入り口も必要でしょう。図面ありますか?」
階層には吹き抜け構造もあるので変なところに扉を作ると、うっかり職人が落下してしまうおそれがある。
扉の場所を決めた後、リイジーの様子をうかがう。
室内は平静で夜間の衝撃の影響は何処にも無いようだった。
「もし、一人で研究するのが苦痛なら助手を雇ってもいいんですよ」
「孫がおるから大丈夫じゃ」
「無理はされないように」
「分かっておる」
宿舎や実験農場、牛の様子などを見た後はカルネ村に行き子供たちの様子をうかがう。
ラキュースはしばらくはカルネ村で子育てに専念するらしく、王都はイビルアイに任せた。
代表者としてイビルアイはエ・ランテルに赴き、様々な話し合いに参加するようになった。
重要な案件についてはラキュースの意見を聞く必要がある。
冒険者なので仮面で顔を隠したままでも何も問題が起きないのが不思議だった。
自身の正体について問われた場合は『
少なくとも
王国の平和を守るいくつかの覚書も交わしているという。
平和的に暮らせば時が過ぎるのはあっという間だろう。
それはそれで良いのだろうが、そう簡単に寿命を費やしたくない欲もある。
数日過ぎたがナザリックというかアインズからは文句は来なかったがナーベ達の事は少し気になる。
ちゃんと仲間として受け入れられたのか、システムに排除されていないのか、など。
これとは別にバスディオ達が立って歩き出した。
孫の成長に大喜びのアインドラ夫妻。この後、厄介な実験に、という物騒な事はすぐ浮かぶのがたまにきず。
老婆を美少女にする実験でもしようかなとぼんやり考えていると化け物が『マグヌム・オプス』にやってきた。
武器を持った大型昆虫のモンスター。
二メートル半の巨体。二本ずつの腕にはハルバードや剣などが掴まれている。
冷気を振りまく硬質なダイヤモンドを思わせるライトブルーの外骨格は鎧の代わりとして機能している。
第五階層の階層守護者『コキュートス』だった。
職人達は得体の知れない化け物に慌てふためいていた。
牛の様子を見ていたヤントラにすぐさま連絡が入ったのだが、ナザリックの者は『
久しく会わなかったから懐かしいとしか言えない。
「コキュートスじゃないか。お前、居たの、くらい久しぶりだな~」
「……居マシタトモ。……突然ノ来訪ヲオ許シテクダサイ、バスパ様」
武器は持ったままだが軽くかしずく大型モンスター。
『
重厚でいかにも強そうなモンスターだが、武人としての誇りを持つ真面目な性格の持ち主だ。
セバスの次に好きな部類でもある。男としてだが。
「まさかお前まで特訓したいとか言うんじゃないだろうな?」
「イイエ。デスガ、似タヨウナ事カト……」
冷気を噴出するような呼吸で喋るコキュートス。擬態できない、またはしようがない姿なので人間社会で生活するのは困難かもしれない。
彼の背後から現われるのは人間の大人ほどもある大きさのハムスターと異形と言われても仕方が無いが亜人種のトカゲ、
一見すると宝物庫を襲撃しに来たモンスター集団に見えなくもない。
これが普通のファンタジー世界の常識だとヤントラとしては
人間以外のモンスターもちゃんと居た、と。
「ゾロゾロと連れてきたな。
「左様デ……」
顔見知りを見つけるのは難しいかもしれない。確か、身体に刺青がある
一人だけ白い
いわゆる
「ここは不思議な御仁の住まいでこざったか」
「ハムスケもよく来たね。数ヶ月ぶりのようだが……、成長しているようには見えないな」
「拙者は数百年も変わらぬ姿で居るでござるよ」
長命とは驚きだ。
ハムスターはすぐ死ぬイメージがあったが。長生きする生き物は大切にしなければならないだろう。
「争イニ来タワケデハアリマセン。
「……あいつ心変わりでもしたのか? 私を利用しようと考えるとは……。自前で特訓場を作ってやるぜ、とはいかなかったのかな」
やってきた
それはいいのだが、コキュートスが入る扉はあっただろうか。
また壊す事になるんだろうか。
それなりに大型のモンスターも想定はしているのだが、武器を持ってうろうろされるのは困るな、と思った。
「それにしても急だが……。急ぎの用でもあるのか?」
「イエ、コノ施設ノ話シヲ伺ッタ時ニ興味ヲ持チマシテ……」
「無抵抗のモンスターを倒すだけで楽しくは無いぞ。聞いてないかもしれないが技術は教えられない。経験というか経験値だ。それを積み重ねるだけの単純作業だ」
激しい訓練かと思っていたのか、コキュートスは残念な結果が思い浮かび、本当にがっかりしたようだ。
がっかりしたせいかは分からないが、口元から冷気が吹き出した。
「
「戦士職ト魔法職ヲソレゾレ50レベルヲ越エタ辺リナラバ充分デス」
つまり中位モンスター程度の強さであればいい、という事だろう。
「ハムスケは何処まで強い方がいい?」
「コキュートス殿くらい強くなりたいでござる」
「……それは相当大変だがな。まあ、それはいいが……。獲物というか武器は……、尻尾だけか?」
武技が使えると言っていたが、何を装備出来るんだろうか。
そもそもハムスターに装備できるものが分からない。
人間を基準に考えていたが、以前会った
「コキュートスは暇だろうから……、
「アレ、トハ?」
「『黒い仔山羊』……。しかも無抵抗なやつだが……。復活させるのに時間がかかる」
「ア、アインズ様ノ召還モンスタート戦エルノデスカ!? 確カニ魅力的ナ相手デゴザイマスガ……。新タニ召還ナサルノデスカ?」
「いやいや。肉片を保管しているから、それを復活させるだけ。丈夫な外皮を持っているから外壁に使えないか悩んでいたが、再生魔法をかけて大きくなると大混乱になりそうな気がしてな」
「……サスガハ至高ノ御方々ニ連ナルモノデアラセラレルバスパ様。想像ヲ超エテオイデノヨウダ」
先ほどからコキュートスと対等に話している人間に
しかもコキュートスが低姿勢というところも輪をかけてびっくりする事態だった。
「それより
集団の中で手を上げたのは八人ほど。しかし、ヤントラは見覚えのありそうなのが見つからない。
「族長や刺青の
「シャースーリュー・シャシャとザリュース・シャシャはアインズ・ウール・ゴウン魔導国で他の
と、
攻撃的なトゲトゲしい外観を持つ
性別で姿が違う生物の存在は知っているので
「名前を聞いていないのでどんな
「刺青のあるザリュースが族長で、シャースーリューは彼の兄に当たる
「ザリュースが養殖業の
「えっ? は、はい。あれから魚の養殖は順調だと言っておりました」
とある人間の助言で色々と勉強になった、とクルシュは聞いていた。
目の前の人物が当人かもしれない。確証は無いが。
「……まずは……広い場所がいいか……。下準備に時間はかかるが……。みんなは一休みしててくれ。どれくらい滞在する予定だ?」
「ソチラノゴ予定ニオ任セイタシマス」
「デミウルゴスに知られると阿鼻叫喚の施設にされそうだな。苦痛はあるかもしれないが、悲鳴を楽しむ施設ではないからな。彼らを拷問にかけて殴り続ける、とかそんなことはしないぞ。……斬ったりするかもしれないが」
色々とコキュートスに注意事項を伝えておく。
放牧している牛は羊皮紙用だから食用にしないことを伝えると
請求は全てヤントラ持ちだ。
一応、彼らは人肉を食べるのか確認した。
「基本は穀物類。小さな動植物などを食べます。人間の食事も大丈夫だと思います。人間を食料にする、という意味ではありません」
「あっちもこっちも種族で食い合うのも不健康だな。この施設は私が一人で運用しているから即座に対応が出来ない。では、まずは君達の寝床だな」
祖母の様子を見ていたンフィーレアを呼びつけて助っ人とし、手の空いている大工連中にも頼んで簡易的な施設を作ってもらう。それと食事の用意も依頼しておく。
強さの関係上、数日はかかるだろうから仕出しも多めに依頼した。
最近では職人相手に野菜などを売る行商人が訪れるようになった。
街まで行く手間は省けるので朝から昼までの滞在を許可した。
夜間はモンスターや野盗のおそれがあるので帰宅を勧めた。
金にならない事ばかりだが、飲食程度であれば金貨数十枚程度で収まる。しかもベッドは不要だ。
雑魚寝では可哀相なのでシーツや布団類は用意した。
集落を作るほどだから身奇麗にするだろう。汚くしたら、その時は泣くだけだ。
その間に気持ち悪い肉の塊を用意し、開けた土地に置いておく。
中まで硬い超ど級モンスター『黒い仔山羊』を二体分。
再生魔法でみるみる大きくなる姿は
大工の一部も目撃し、恐れおののく。
十メートルの黒い玉のような巨体が二個。
それが死んだように大人しくしていた。触手や五本の太い足に動きは無い。
「オオ! コレガ『黒イ仔山羊』カ! 実物ハナント巨大ナコトカ……」
「近くで見ると気持ち悪いな。食用には適さないんだろうな……。邪神系だし」
出来栄えに満足しているヤントラの姿に
この者に逆らってはいけないと本能的に悟ったようだ。
「なんて巨大な化け物でござることか! ……前に見たでござるな、そういえば。こ、こんな化け物が他にも居るのでござるか?」
「召還モンスターだから自然界に居たら大問題だよ。一体だけでも脅威だけど……。これは硬くて素早いから。後、強いし」
自然界で子孫を残すような事態になれば世界の危機だ。
倒しにくいし、強くて早くてでかい。
「このモンスターは殺すと全てが消える。肉片が残っている内に『
「確カニ。動ケバ鍛錬ニハ最適デスナ」
「じゃあ一体だけ動かそうか。コキュートスはそれで暇を潰していてくれ。まずは待機しててくれ」
「畏マリマシタ」
ヤントラは施設に向かう前に
それから数分後に黒い仔山羊の触手が動き出す。
それらを見た
戻って来たヤントラはコキュートスに『殲剣ヴァージンカルマ』を二本貸し与えた。
「動いている方はコキュートスだけを適度に攻撃してくる。あと、その場からは動かない。三日くらいかけて倒してくれ。日が暮れたら動きを止めて休憩する。日の出と共に活動は再開される。戦士にも休憩は必要だ。寝床はどうしようか……」
少し離れた位置に牧草を敷き詰め、シーツを被せるように依頼した。
触手を激しく動かすモンスターに怯えつつも、作業員たちは手早く用意を整える。
簡易的だがコキュートスは文句は無いと言って来た。
「中身に余裕があれば……」
と、連れてきたメイドを近くに置いておく。それは仮面を外した青い髪のルプスレギナだった。
無表情で与えられた椅子に座り、微動だにしない。
「命令すれば肉片に『
「戦闘メイド……。報告デハ聞イテイタノデスガ……。見事ニソックリデス」
「ほぼ当人だから当たり前だけどな」
ルプスレギナを椅子に座らせたまま攻撃の巻き添えにならない位置に移動させる。
「動く方を倒したら……。そっちは技の練習台にでも……」
「イヤイヤ、恐レ入リマシタ」
「武器が壊れたら……、ごめんな。予備としてもう一本、置いておくから」
コキュートスには斬馬刀ほどの武器は人間のブロードソードほど手軽に扱うだろう。
レベル百とはいえ高位のモンスターを早々倒せはしないだろう。スキルを併用すれば一時間で倒すかもしれない。かといってたくさん用意するのは恐い。せいぜいが二体、それが限度だろう。
ということで練習台の方にもう二人のメイドを控えさせた。回復役として。
一人は仔山羊。もう一人はコキュートス。こちらは念のためだ。
これなら数日は保つだろう。保ってくれるといいな、と淡い期待を願ってみた。
「食事が必要ならメイドに命令してくれ」
「至レリ尽クセリ、感服イタシマス」
触手の動きが段々と早くなるがコキュートスほどの者になれば充分視認できる。
戦士系とはいえ連携、スキル、魔法を駆使すれば倒されてしまうだろう。
倒してくれないと困る。処分するのは実際問題として物凄く大変だから。
ヤントラとしても安易に復活させられないモンスターという自覚がある。
職業には得意分野があり、当然苦手分野もある。そこを狙われればひとたまりも無い。
アインズですら警戒するのだから。
昆虫モンスターが怒涛の勢いで奮われる触手をさばいている間にヤントラは
武器を持ったままウロウロされるのは職人達には不審がられるが仕方ない。
「一通り上の様子は分かっただろう。地下へ行くのだが……。普段はこれほど大人数は入れないが、これも経験だ。それとハムスケ。君はそこの穴から降りて屠殺場へ続く扉の大きさを確認してくれ」
「分かったでござる」
と、大きな図体にもかかわらず、素早い動きで指定された穴を下っていく。
補修はまだ始まっていないが突然、巨大ハムスターが下りてきたので職人達はそれぞれ驚いていた。
ハムスケも驚いていた。
深くて広い穴だと。
「とさつじょう、とは何処から行けるのでござるか?」
「そ、そこのシーツからだが……。まだ寸法を測っている段階だが、行きたいのか?」
「もちろんでござる」
職人達がシーツを剥がすと、そこは何者かが破壊したような酷い有様になっていた。
中には内側から寸法を測っていた職人が色々と相談をしている場面が見えた。
「失礼するでござる。……ほう~! 広い空間でござるな~」
高さまでは五百メートルには出来なかったようだが、吹き抜けでも二百メートルはあるだろう。
他の階層と合わせているので無駄に高くなっている。
「モンスターはどこでござるか?」
「そんなものは居ないよ。名称は屠殺場だが……。依頼主は我々を危険に晒すようなことはしないのさ」
「ええっ!? では、どうやって特訓するので?」
「知らねー。召還魔法でも使うんだろう」
と、彼らは地上に黒い仔山羊が居る事を知らされていないのだろう。
淡々と仕事に従事していた。
それから部屋の中を見回っていると
「
ヤントラは作業している職人の元に訪れた。
「これからモンスターを出す予定ですが、皆さんはそのまま作業しててください。辺りを吹き飛ばすような魔法とか炎は吐かせませんから」
「了解っす」
どこかで聞いたような言葉を言う男性作業員。
「温度は大丈夫ですかね?」
「大丈夫かと。水も出るようなので」
クルシュが代表して確認した。
ひとまず全ての
羊皮紙の量産が始まる前に資源がつきそうだ。
よその国で大量購入したいところだが資源が枯渇するのはまずいだろう。
「よい言葉が今は浮かびませんが、皆さんは私の……弟子、門下生か。門下生になることを誓ってください。出来れば声に出して胸の内から」
少なからず一員になる、という意思を示さないと名前が記載されない。
「そ、そうしますとアインズ様に……」
「儀式みたいなものですよ。ハムスケも私に誓うように。別にナザリックは嫌だ、とか言うのとは違うので」
「特訓とやらが終わった後は?」
「その時は卒業しますとか、なんでしょうね……。うまい言葉があれば考えてくれると助かります」
「わ、分かりました。考えてみます」
変な要望だな、とクルシュは思った。
色々と疑問はあるが、ハムスケ共々、ヤントラに忠誠のようなものを誓っていく。
「用意が出来るまで一時間くらいかかるから、のんびりしていてください。余計なものには触らないように。種族が変わるアイテムも置いてますから」
「は、はい」
「長くて三日くらいの予定と言う事で。一日でコキュートス並み、というのは無理です。あと技術を教えるわけではありません」
と、一通り大事なことを説明していく。
各
魔法を扱うものは素手で充分だろう。魔法さえ使えればいいので。
これだけで三十分近い説明になったのではないだろうか。
マニュアルのようなものが必要かもしれないな。
それにしても建設途中で次から次へと。
今更だが、机と椅子をここにも置いておいた方がいいだろう。だが、地上二階に行かなければならないのは変わらない。
便利な転移アイテムが欲しい所だ。
魔法で作ることは可能ではあるようだが、試作品の宝物庫に使うのはためらわれる。