※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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I-6 クルシュの複製

 急な来店のような状態だが、まずは雑魚モンスターを数匹ほど送り込む。

 その次に数百匹に増やす。その間に確認作業をする。

 人数と名前の確認だ。

 蜥蜴人(リザードマン)は亜人種だが進化すると何になるんだろうか。

 変な種族にするわけにもいかないだろうな。

 この施設を作り上げてからヤントラはどれだけのモンスターを討伐しただろう。

 レベル百相当の経験値は溜まっているし、更なる成長の可能性とやらがあるのだろうか。

 細かい仕事は残っているが助手は必要だろうな。

 イビルアイはリ・エスティーゼに必要だろう。そうなれば必然的にナザリックの者達になるわけだが。

 個人的にはナーベラルだ。レベルを抜きにしても忠誠心の高さによる仕事の熱心さは引き抜きたいくらいだ。

 ユリは全体的なまとめ役として残ってもらわなければならないだろう。

 アルベドは動かせられない。

 ルプスレギナの明るさとナーベラルの冷徹さ。

 ペストーニャは癒し。あとはクレマンティーヌやラキュースなどが候補に挙がるのかもしれない。

 さてさて、ぶくぶく茶釜姉さん。エロいことしか浮かびませんよ。助けてください。

 抜けが無い事を確認し、仕事に戻る事にする。無いものは無いのだから。

 屠殺場に戻るとモンスターは既に撃退されていた。それぞれの蜥蜴人(|蜥蜴人《リザードマン)》は賑やかに会話しているようだった。しかし、表情の変化が分からない。

 話しぶりでは余裕だの、良い武器だ、だの言っているようだ。

「じゃあまずは戦士と魔法は別れて。特訓はチームプレイではなく個人の経験を延ばすものだから、サボれば意味の無い事になってしまうからね」

「はい」

 と、返事をしたのはクルシュだけ。

「ハムスケは……、戦士と魔法で言えばどちらがいいんだ?」

「武技を使えるようになったとはいえまだまだ未熟者ゆえ、戦士として強くなりたいでござる。魔法は……、ついででござるな」

 魅了などの精神支配系を修めているらしい。

 知性があるとはいえモンスターそのもののようなハムスケは成長するのか、これも未知である。

 それにしても短い前足で剣などを持たせても戦いにくそうだ。

 蜥蜴人(リザードマン)のレベルは平均で10足らず。クルシュは10台中盤。

 ハムスケは突出していて30台ほど。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)では分が悪そうだ。というか赤帽子の小鬼(レッドキャップ)以外のモンスターが思いつかなかっただけだが。拷問の悪魔(トーチャー)とか忘れていたな。

 ヤントラが合図すると複数のメイドが音も無く現れ、彼の側に歩み寄る。

 それぞれに食料や風呂、タオルの用意などを命令していく。

 姿はルプスレギナではあるが本来は生まれたての赤子と変わらない。オリジナルの記憶は無く、自我を持ったとしてもオリジナルになりかわれはしない。

 だが、オリジナルの振りをさせていけば不可能ではない事が起きるかもしれない。そういう不確定な事態も考えておく必要はあるだろう。

「クルシュは……、どんな風に強くなりたい? 強くというのは物理的ではなくて能力的なことだが」

「森祭司(ドルイド)や召喚師(サモナー)、治療師(ヒーラー)などを強化できるのであれば……」

 蜥蜴人(リザードマン)から竜(ドラゴン)系に進化、ということもありえるかもしれないが白い蜥蜴人(リザードマン)は欲しいな。

「……ところで質問してもよろしいでしょうか?」

 姿に似合わず言葉は流暢(りゅうちょう)に聞こえるのは自動翻訳の影響だろうか。

「なんだい?」

「報酬に身体を頂くと聞いてきたのですが……。それは……交尾に類する事でしょうか?」

「言葉通りだ。既に見ていると思うが……。黒い仔山羊やそこのメイド達も身体を頂いた結果だ。いわゆる複製だ。おぞましくて申し訳ないな。地下一階部分の各部屋には複製が保存されている」

 おぞましいのは種族問わず、のようだ。

 クルシュはガタガタと身体を震わせ始めた。特に尻尾の動きが激しい。

「屠殺場のモンスターもそうだ。複製じゃないと狩りつくして絶滅するかもしれないからな」

「それは……そうでしょうね」

「大抵はオリジナルを殺していると思われるが、治癒して帰すから」

「蘇生……ではないのですね?」

 蘇生では複製は作れない。その事にクルシュはすぐに気付き、すぐさま平伏する。

 ヤントラはクルシュを起こす。

「活きのいい者と君がいいのだが……。妊娠はしているかな?」

「い、いえ。今はしておりません」

 クルシュは既に出産を経験しており、子供はナザリックで育てられている。

 本人は白子(アルビノ)ではあるが赤子は無事だった。

「ハムスケは大量に増殖されても困るから諦めておこう」

「むっ。生物しては番(つがい)は欲しいところでござるよ」

「不安に思うだろうが意識がある中で拷問を受けるのでは、と思えば理解は出来る。だが、外に居る職人達も実は経験している。大騒ぎにならないのが不思議だろう?」

 意外な事実を告げられ、クルシュは呻いた。

 少ししか見ていなかったとはいえ、彼らが恐怖によって支配されているという雰囲気は感じなかった。

 よく働き、普通の人間にしか見えない。

 蜥蜴人(リザードマン)の姿を見て少し驚いたところは人間的だとも言える。

「恐い話しはやめておこう。特訓に来ておいて死なせるのはまずいだろう? 君たちに合うモンスターはどんなものがいいかな」

 そう言いながら、待機している蜥蜴人(リザードマン)達をそれぞれ指定した位置に案内する。

 離しておかないとばらつきが出るだろう。そして、それぞれに担当するメイドを配置させる。が、担当できるメイドの数は少ないので兼任してもらう。

 ペストーニャ型には余裕があるのだが、命令が混乱してはいけないので魔法を担当する者のそばに居てもらった。

「そのメイドは倒さないように。治癒要員だ」

 それぞれ黙って頷いていく。

 犬頭のメイドのペストーニャはナザリック内でも見かけていたので恐がられる事はなかった。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 クルシュは生きて帰れるのか、どんな人体実験をされるのか、恐くなってきた。

 それでも特訓をするために来たのだから覚悟はしておかなければならないだろう。

 夫であるザリュースと子供の為にも。

 ハムスケはレベルが高いので赤帽子の小鬼(レッドキャップ)でいいだろう。

 昆虫型の傭兵は固くて複製が難しい。

 獣人(ビーストマン)が手ごろだろうが亜人種同士になるが構わないだろう。多種族と争う事もあるだろうし。

「拙者(せっしゃ)の所に赤い軍団が!」

「ゆっくり倒してくれ。蜥蜴人(リザードマン)の戦士達は獣人(ビーストマン)だ。急な来訪だから都合のいいモンスターはちょっと用意できなくて申し訳ない。魔法担当だが……、魔将(イビルロード)を用意した。こちらは……」

 と、モンスター退治もマニュアルが必要なようだ。

 説明するだけなら他人に任せられそうだ。

 彼らが奮闘する間に追加を用意していく。

 動いた方がいいのは寝ている相手を刺したり斬ったりする時、首が下を向いたままになって痛くなるおそれがあるからだ。

 向こうから来てもらえば椅子に座ったまま楽して攻撃が出来る。蜥蜴人(リザードマン)達は太い尻尾があるから立ったままの方が楽かもしれない。

 椅子が無理なら座布団などに座ってもらおう。

 数をこなすだけなら楽な方がいいだろう。

 問題はモンスター討伐が単純作業であり、それが段々と精神的に苦痛として感じる事だ。

 五時間が経過する頃には呼吸の荒い者が出てくる。

 精神力を使う魔法担当は特に疲労感が凄まじい。

 食事抜きなら暴動が起きるだろう。

 一時間ごとに身体をマッサージしようとするのだが高い皮膚に阻まれてメイド達はさすることしかできないようだ。無理をすると肩を握りつぶしそうになる。

 種族にとって色々と問題が発生するようで勉強になる。

 止め処も無く現われるモンスターに最初は楽な特訓と高(たか)をくくっていたが終わりが見えなくなるに連れて恐怖を感じてきたようだ。

 精神的に追い詰められる単純作業ほど恐いものは無いだろう。睡眠する生物であれば眠気も襲ってくる。

 下手な攻撃より厄介だ。防御できないから。

「じゃあ休憩に入ろうか。楽な作業だが、大変だろう?」

「……はい」

 ハムスケも走り回らないと頭がおかしくなると感じたのか、意味も無く走り出すようになっていた。

「本来なら一人で数千体は倒してほしいところだが……。大人数できたから大変だ」

 それが多くを入れられない原因でもある。

「用意する方も大変なのさ。じゃあ、ほどよく疲れているから身体でも頂こうか。眠っている間に終わるぞ」

「おぅ……」

「君たちが想像しているよりあっさりと終わって驚かれると思うけどね。作業風景は見ない方がいいな」

 ハムスケのような大きなものは放置がいいだろう。

 容器の必要性は無いかもしれない、と思ったことはあった。だが、外からの攻撃や病気を防ぐ意味では必要だろう。

 無駄な事ばかりしているので何をしても無駄な行為に思えてしまう時期がある。

 点検したり、勉強したり。日々、研鑽(けんさん)の毎日だ。

 それもこれもちゃんと活動されられれば落ち着くのかもしれないけれど、不安はヤントラでも感じる。

「……拷問じみているが、作業を見なければ問題はないぞ」

「そ、それはつまり……、手足を切り落として再生させるような……」

「まあ、そうだな。硬い身体の蜥蜴人(リザードマン)相手だとどうなるかな。人間相手なら楽に終わるが……」

 人間の複製。それはクルシュにとって見たことも聞いたことも無いものなのだが、集落で飼育している多頭水蛇(ヒュドラ)のような再生力のある生物の事なら理解できる。

「まさか、命を取られるとか思っていないだろうな? 殺さないぞ? 複製体はよく殺してしまうが……。やむを得ぬ事情があるからだが」

「複製……。それらの意識は……?」

「無い。ただ、頭を潰されて再生する経験はしたが……。ちゃんと記憶が維持されていたのはびっくりだ。オリジナルの脳の再生は神秘とも言えるだろう。だが、複製体はちょっと違うようだ」

 身体に染み付いた情報は取り出せる。だからこそ魔法が使える。

 命令次第では様々な情報も吸い出せる。

 これもまた秘密情報の一つだがア(・)イ(・)ン(・)ズ(・)に(・)は(・)気(・)付(・)い(・)て(・)ほ(・)し(・)い(・)ところだ。

 つまりは複製技術さえ手に入れれば秘密の解き証しは造作も無いという事だ。

 複製ともう一つ。いつごろ気付くだろうか。

 ただ単にそれだけで相手は支配できない。支配できるのは今のところ複製だけ、ということになっている。

 ナーベ達の変貌を解き明かせたら言う事は無い。

「君達の側に居るメイド達は全て複製体だ。不思議だろう? 複製の量産はもちろん身体を切り刻む事だ。魔法を唱えると自動的に分裂する、ということはない」

「……生命(いのち)の冒涜(ぼうとく)、でございますね」

「その通りだ。倫理観のある者には出来ないさ。屠殺場を作るような人間でもない限り。だが、デメリットばかりではないぞ。生物を絶滅することなく、標的を用意できるのだから。この施設で始末している限り、外の生態系は崩れない」

 その意見にクルシュは納得した。だが、おぞましい方法である事に変りはない。

 そして、そのおぞましい方法で強くなろうとしているのだから、文句を言う立場ではないだろう。

 それに普通の特訓で急激に強くはなれない。実践に優る特訓は無いだろう。

「それとも殺して蘇生を繰り返す方がよかったか? 私はあちらの方法は苦手としているぞ。いずれ弱体化のために体験する予定ではあるがな」

「ご、ご自分を殺すのですか?」

「そういう方法もある。それはレベルダウンやレベルドレインとも呼ばれる。一流どころは気に入らない強さの時は自害して蘇生しなおすものだ。蘇生役が居ないと無駄死にだがな」

 信じられない事を言う人間だとクルシュは驚愕する。

 自らの死すら恐れないとは。

 それほどのものだからこそおぞましい事にも手が出せるのだろう。

「ここに居ない君の仲間に言えば、相当びっくりするだろうな。体験した者でないと伝わらないと思うが……、うまく説明できるかな?」

「話してもよろしいのですか?」

「信じてもらう大変さを知るといい。……口封じはしないぞ。これは何回も言っていることだが……。周りに触れ回られると潰されそうなので仲間内で頼むよ」

「はあ……」

 変な人間だ。それも桁違いに。

 コキュートスが普通のモンスター、優しいモンスターに見えるほどだ。

 いや、ナザリックに居る者たちが優しい住人に見えるほどかもしれない。

 あの強大な魔法詠唱者(マジック・キャスター)アインズですら慈悲深い存在に思える程だ。それも心の底から。

 凶悪なモンスターですら可愛い生き物に見えてしまうほどおぞましい人間が存在しているとは思わなかった。

 世界の神秘を見た気がした。

「虐殺には違いないのだが……、そこは割り切りたいところだ。私が悪者である限り君達は私一人という敵が居ればいいだろう」

 その理屈は間違っていないような気はするのだが、釈然(しゃくぜん)としない気もする。

 特訓を受けに来た以上は強くなる。そして、モンスターを倒す事も別段、おかしなところはない。

「我々の倒しているモンスターも複製……」

「そうだ。やろうと思えば同種食いも出来るぞ。自分殺しもな。それはそれはおぞましいだろう」

 楽しそうに言うヤントラに対し、クルシュはその場で嘔吐した。

「食事は普通のものだ。それは安心しろ。意地悪はしないさ」

「……ほ、本当でございますか?」

「だからちゃんと話しているだろう? 知りたい事を。もちろん秘密はあるぞ。倒したモンスターは全てエスクチェンジ・ボックスに放り込まれる。料理の材料には使わない」

 蜥蜴人(リザードマン)達はメイド達に世話を頼み、別のメイドはクルシュを取り押さえる。

 彼女達の力は強く、振り払えなかった。

 見た目には弱そうな人間にしか見えない。

「実際に見た方が早いだろう」

 スティレットを取り出してクルシュの頭に乗せる。

「治癒要員は用意してあるから心配は無いぞ」

 と、言葉が終わる頃にクルシュは眠りに落ちる。

「軽く手足だな」

 仲間たちが見ている前でクルシュの手足はいとも簡単に切り離される。

「おおっ!」

「クルシュ殿!」

 メイドが離れた手足を床に置くと変化が生まれる。

 切断されたにもかかわらずクルシュは声一つ上げない。というか眠ったままに見える。

 血を流した傷口も塞がり、モコモコと肉が盛り上がるように再生していく。

 それはただの治癒魔法ではお目にかかれない高位魔法。

 みるみる復元される手足に仲間達は歓声をあげる。

 白子(アルビノ)そのものが治癒される事は無く、白い手足のまま再生していた。

 複製は本体の病気をそのまま引き継ぐ特性があるし、拒否されると治りが遅くなる。

 大治癒(ヒール)は病気なども治療出来るのだが、肌の色までは変えないように祈りつつ使っていた。

 魔法を解呪し、目覚めさせる。

「……ん」

 短い睡眠なので軽い頭痛を感じるかもしれない。

 一応、血などはタオルで拭いておく。

「クルシュ。君の手足が転がっているからよく見ているといい」

「手足……、はぁ!?」

 一気に眠気が解消され、混乱が襲ってくる。

 示された場所には確かに見慣れた白い手足。だが、自分の手足はちゃんとついている。

 その手足は今も肉を増やしつつ活動を続けている。

 トカゲの尻尾は離れても再生する、という話しは聞くのだが手足は聞いたことが無い。それがまさに尻尾の再生のように手足が身体を復元しようとしていた。

 ただ、クルシュは治癒魔法による欠損部位の再生は初めではない。

 高い位階魔法にならないとお目にかかれないほど珍しいし、部族間で大怪我をする者は滅多に現れないので、ついつい驚いてしまう。

 好き好んで手足を落すバカはクルシュが生きてきた人生では見た事が無い。

「一定の大きさが無ければ再生は止まってしまうのだが……。蜥蜴人(リザードマン)の再生力はどこまで高いかな」

「……そんなバカな……。再生とはいえ……、こんな再生はありえない……」

 ありえないことが起きている。

 というより切断された事に気づかない事に気づいて改めて驚く。

「それより、何故気付かなかったのかしら……。これほどなら激痛で気付くはず……」

「クルシュ様はずっと眠っているようでした」

「ウソ……」

「ウソと言われましても……。我々はしかと目撃いたしました」

「あえて言えば、誰もやったことが無いからさ。普通の治癒魔法では確かに不可能な事だ。迂闊に試すのはやめた方がいいな。高位の神官なら可能になってくる領域だが、技術を磨かなければ無駄に手足が欠損するだけだ」

 腕の方は途中で止まってしまったが足の方は再生が続いていた。

 止まった腕は失敗したという事だ。

「肉体が多い部分や生命力に溢れた肉体を持つ者などは成功しやすい。あと、脳と心臓がついていれば失敗はしにくいぞ。首だけから再生することも可能だ。本当に失敗して死んでも蘇生魔法があれば問題は無いけどね。……ただし、生命力がないと復活は出来ないけれど」

 ボコボコと再生する様子を眺めつつクルシュは渇いた笑いを漏らす。

 なんなのだ、これは。信じられない。そんな不可思議な事で頭の中が満たされていく。

 高速治癒などとは違う。

 妖巨人(トロール)のように頭を潰されても再生する種族は居る事は居るのだが、あんな感じなんだろうかとクルシュは思った。

 妖巨人(トロール)は再生はするが自己分裂はしない、はずだ。

 分裂して再生する蜥蜴人(リザードマン)など聞いたことも無い。

 クルシュは再度、嘔吐した。今日食べた分は全部出てしまったかもしれない。

 残った腕も食べさせられる、という事が脳裏に浮かび、命令されていないのに食べなければ殺される気がした。

 だが、再生に失敗した腕はメイドが持ち去っていく。

「それを食べろ、と命令するのでは?」

「身体に良いとは聞かないな。違う種族の餌にはなるだろうが……。良い気分はしないだろう。ちゃんと処分しておこう」

 指輪などをしていないか確認した上でメイドは腕を持って大浴場に消えていった。

 

 身体の再生は脳と心臓と充分な血液に代表される体液が必要というところまで判明している。アンデッドは苦手分野なので研究は進んでいない。

 『複製(クローン)』そのものの魔法でならもっと楽なのだが、大治癒(ヒール)では色々と必要な条件がある。

 身体を切り刻んでどこが再生しやすいか、それも研究対象の一環だった。

 時間はかかるのだが二度ほど魔法をかけてクルシュがもう一人生まれる。

「き、奇跡だ」

「こんなことがあっていいのか」

「こちらの複製は生まれたての赤子のように記憶は持っていない。だが、命令次第では魔法などが使える」

「動かせられるのですか?」

「もちろん、可能だ。ただ、それは命令を与えなければ無理だがな。その辺りはアインズも看破してきたが……。あいつは妙なところで優しい。……ところで君たちはどういう経緯(いきさつ)でナザリックに居るんだ?」

 クルシュはナザリックによる侵攻に敗北して従属を選んだ経緯(けいい)を簡単に説明した。

 それにたいしてヤントラは何度か頷いただけで感情を爆発させるような怒りは見せなかった。

「国を取るやつだからよそを侵攻してもおかしくはないだろう。皆殺しでは無いようだが……、これで全部という事は無いだろうな?」

「戦闘に参加した多くの者は命を落としましたが……。非戦闘員は集落におりますので」

「よその戦争は関知しないのだが……。よく生き残ったね。戦いは非情だが仲間に引き入れたのならしっかりと守ってくれるだろう。私のようなおぞましい方法は敵には使うが味方に使おうとしないらしい。変なところで律儀な奴だ」

「アインズ様をご存知なのですね」

「腐れ縁だからな」

 身体が出来上がったクルシュは叩いても目を覚まさないが呼吸はしているようで少し動いていた。

「こちらの身体は頂いていくよ。あと、複数採取が基本だから、覚悟するように」

「ひぃ」

「こうやって搾取するわけだ。意外と平気だっただろう?」

「……確かに。痛みを感じさせずに切断していくとは思いもよりませんでした」

「良い武器と適度な魔法が成せる技だな。変態スキルとして各国で有名になってしまった」

「それは誰でも出来……、ませんよね……」

「慣れれば出来なくは無いだろう。斬撃ならコキュートス。再生ならペストーニャ。清掃は一般メイドでも出来る。私の場合はそれらを一人でこなす事だ。アインズは魔法なら得意だが武器の扱いはそれほどではない。それぞれ不得手があるものだよ」

 メイドにクルシュの複製を運ばせた。

「やり方を伝授すれば不可能ではないが……、単純作業に耐えられる精神力は必要だ。君達の分のモンスターは全て私一人で用意するんだよ。数千体もザクザクと……。特訓でへばっている内は屠殺場の運営など到底不可能だ」

 それはその通りだろう。

 再生させるといっても少なくとも数千回の魔法の行使は必要だろうし、数千回もモンスターを切り刻み続けなければならない。しかも、それらを目の前の人間一人がやっているなら信じられない事だ。

「魔力の譲渡はペストーニャに頼るから、魔力切れは心配ないぞ」

「そ、そういえば、あなた様はお疲れのようには見えませんね」

 数千回の魔法を使ったのが事実なら精神的な疲労は凄まじいはずだ。

 会話の感じから疲れなど感じていないように見える。

「三日も通しで出来ないよ。さすがの私も飽きてくる作業は辛いと感じる。もともと魔力は少ないし、限界まで使う前に回復するから、かもね。効率の良い作業は研究しているよ」

「いや、普通に考えてもありえない、というか……」

「私の魔法行使は第一位階をだいたい五百回くらい使える程度だ。それを四百に減らして回復すれば大したことがなくなるだろう?」

 第六位階だと八十回ほどに落ち込む。だからこそたくさんの人材を控えさせる必要がある。

 役割分担などで少しずつではあるけれど、効率的になりつつある。

「ご、五百!?」

 自分たちは彼(ヤントラ)の半分にも満たないかもしれない。

 それでも凄いと思った。

「戦士系でいらっしゃいますよね?」

 見た感じからも魔法詠唱者(マジック・キャスター)には見えない。

「盗賊(ローグ)というか暗殺者(アサシン)系で信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)も兼ねている」

 クルシュは赤い瞳を大きくして驚いた。

 そして、少し後ずさる。

 戦士職に魔法で負ける。それも並みの存在ではない。

 一般的な蜥蜴人(リザードマン)の戦士はそもそも魔法は使わないし、使えても低い位階魔法がせいぜいだ。

 剣と高位の魔法を扱える戦士。

「……コキュートス様の口ぶりからも只者ではないとお見受けしましたが……。申し訳ありません。どれほどの存在かは……分からないほどの高みにいらっしゃるのですね」

 そもそも屠殺場に大量のモンスターを送り込んでくるのだから普通の戦士であるわけが無い。

 上に用意したバカデカイモンスター(黒い仔山羊)を持ってくる相手だ。

 そういえば今も戦っているのだろうか。

「ナザリックでの実力で言えば階層守護者より弱いくらいだよ。魔法にも弱いですよ。人間種なので色々と弱点がありますから」

「それでも並の人間よりは強いはず」

「ありがとう」

 そういえば、とクルシュは思い出す。

 ヤントラは疲れた、とは言っていないことを。

 飽きてくる、と言っていた。

 膨大なモンスターを用意する作業は飽きなければ延々と出来るのだろうか。

 疲れを感じないアイテムでもあるのだろうか。

「疲れたりはしないのですか?」

「んっ? ああ、指輪のお陰かもね。特訓する君たちが楽しては経験にならないだろう」

「それはそうなのですが……」

 アイテムがあるのならまだ常識の範囲内だ。それは素直に安心した。

「複製体とはいえ生物が多く居る。それらの為に指輪は大量に用意してあるから餓死はしない。いずれは活動を止めて数百年にも耐えられるようにする予定を立ててみたが……。忘れられたりすると可哀相だから、まだ検討段階だ」

「数百年……。不老不死になると……」

「寿命経過を止める魔法がある。ただ動けなくもなる。不老不死はそれほど魅力的なものではないぞ。封印されると困る」

「……そ、そうですね」

 口封じしないようだが、色々と教えてくれるところは驚いた。

「特訓を終えたら十人ほど頂いていく。何に使うかは未定だ。殆ど未定。メイド達のように使っているのは一部の者だけだ。それとも自分殺しの特訓でもするか?」

「い、いえ。それはご勘弁ください……」

 クルシュが平伏したので他の蜥蜴人(リザードマン)達も平伏していく。

 自分殺し。

 自害とは違う意味で精神的な苦痛を味わいそうだ。

 仲間を殺せ、よりかは優しいかもしれないが良い気分はしない。

 三十分近くの休憩の間にメイド達による食事の差し入れを受けた後、特訓は再開される。

 膨大なモンスターをただただ倒すのに意味があるのかは分からないが、意味の無い特訓をするなら用意するのも無意味という事になる。

 魔力の量が少ないので魔法詠唱者(マジック・キャスター)達はすぐに魔力が切れてしまう。しかし、すぐさま魔力譲渡で回復し、特訓は続けられる。

 これが無意味なはずが無い。

 三日も続けるとなると拷問かもしれないが、日にちを決められているので続けるしかないだろう。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 地上のコキュートスは硬い身体を持つ黒い仔山羊と良い勝負を繰り広げていた。

 数時間も戦っているとはいえ歯ごたえのある久しぶりの強敵に喜んだ。

 相手は一撃で死ぬような弱者ではない。

 邪神系の高位モンスターだ。

 武器も適度に強く、攻撃を裁いても今のところは壊れない。

 大ダメージは与えられないが、代わりに相手からの攻撃は無傷とはいえないほど攻撃を受けていた。

 武器のさばき方は早いのだが身体の動きは上位モンスター相手となると優勢でいられないようだ。

 コキュートスはスキルは使えるが魔法はあまり使えない戦士職。

 使える魔法は見た目どおりの氷系。

 身体が大きい事も原因かもしれない。

 攻撃時の硬直を狙われてしまうので、しっかり防御しなければ腕の一本くらい簡単に千切れてしまうだろう。

 アウラ達は素早い反面、攻撃力が心許ない。良い武器があれば良い戦いをするかもしれないが頑強なモンスターは階層守護者でも苦戦する。

 スキルなどを多用すれば少しは楽かもしれないが、武人として楽をするわけにはいかないだろう。

 受けたダメージはメイド達により治癒される。それは自分の弱さとして受け入れる事にし、戦闘を続ける。

 正直なところでは倒せないわけではない。倒してしまうのがも(・)っ(・)た(・)い(・)な(・)い(・)だけだ。

 それだけ歯ごたえのある強いモンスターということだ。

 今の目標は触手を全て叩き斬ること。あと一時間もすれば達成するだろう。

 少しずつ短くすると相手に届かなくなってしまうのだが。

 うかつに仔山羊を治癒するとメイドに攻撃が当たってしまうので、難儀している。

 実は既に一人が木っ端微塵になり、肉片を回収しに来た新たなメイド達は命令が行き渡っていないのか、仔山羊の攻撃をまともに受けてしまった。

 控えに居るメイドはそれらを何事も無く見つめている。仲間意識は無いようだ。

 ケガを負うほどの相手は久方ぶりでもある。まして元々がアインズが召還したモンスターだ。敬意を払いたくなる。

 日が落ちると黒い仔山羊は攻撃を止めた。

 命令に従っているのだろう。

 蜥蜴人(リザードマン)達も一日の特訓を終えて地上に上がってくるのが見えた。

 傍目からは強くなっているのかは分からないが、疲労しているのは分かった。

 特訓が厳しく逃げ出す者が出ないとも限らないが地下空間では簡単には逃げ出せないだろう。

 部族の人質という部分はあるだろうが、彼らはバラバラに逃げ出す事無く与えられた宿舎に真っ直ぐ向かっていた。

 コキュートスは簡易的な施設で運ばれた寝床で一夜を過ごす。

 夜間、シモベ達が箱を運び込む姿があるようだが、それらは以前から続けられている作業だと伝えられた。

 数万人から数百万人分のアイテムは一長一短では揃わない。

 メイドを処分する上で服の着回しはあるが、もったいないことをしている自覚はヤントラにもある。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 一日目で搾取は終わったので二日目からは特訓の続きが再開される。そして、黒い仔山羊の活動も。

 突進などをすれば施設が半壊するので移動はさせられないが、特殊な能力を持っていない仔山羊に空を飛べ、酸を吐け、などとは命令できない。

 せいぜい鳴き声をあげるくらいなら出来る。

「……メエエエェェェ」

 周りの都市に迷惑がかかるというので小さな声にされていた。

 戦争のトラウマが蘇らないように配慮されたものだ。

 あと、触手もコキュートスの動きを読みつつ知能的に振舞うようにした。

 砕け散ったメイド達に少し驚いていたが新たなメイド達によって掃除されていく。

 二日目は牽制などの少し手ごわい状態にされる。だが、どの道、倒してもらわなければならないので午後には完全停止し、撃破してもらう。

 それまでは自由時間だ。

 一日目で筋力がある程度ついた蜥蜴人(リザードマン)達はモンスター討伐が少しずつ楽になっているようだが、数の膨大さは苦労していた。

 赤帽子の小鬼(レッドキャップ)と戦っていたハムスケは昨日と同じく赤い集団を倒していく。気分を変えるために拷問の悪魔(トーチャー)や悪霊犬(バーゲスト)などを入れておいた。

 それでも数千体の個別撃破は苦労した。一気になぎ払うような攻撃でなければ面倒くさい。

「はああぁぁ!」

 気合入れつつ素早い動きで討伐していく。

 ハムスケには合間に魔法も使うように指示している。無駄だとしても使うことで経験になる、はずだ。

「やる事は一緒だ。それぞれ伸ばしたい分野で攻撃などをしていてくれ」

「はい!」

 元気の良い戦士達の返事だ。

 五時間後の休憩が終わる頃にヤントラは説明を始めた。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)は疲れを見せていたようだが、戦士達はまだ少し余裕があるようだ。

「今は無抵抗だが、実際のモンスターは動く。殺されないために。三日目は本当のモンスターの強さを少し体験してもらうよ。それとコキュートスと戦えるまでになるには更なる特訓は必要だろうし、様々な技術や知識は必要不可欠だ」

「勝てるか、とまでは言いませんが。死なない程度に戦えるまでになれますか?」

「一撃で死ぬことを言っているんだろう。あいつの持っている武器は掛け値なしで最上級だ。特訓を続けても技術や戦いの基礎や応用を駆使しないと戦いにすらならないだろう。力押しで勝てるほど甘くない」

「はい」

「コキュートスより強いから敬(うやま)われている、わけじゃないからな。実力的には下の方だ。立場的に上っぽいだけ。あと、実はナザリックの一員ですらない部外者」

 少しの沈黙の後、蜥蜴人(リザードマン)達は驚きの声を上げた。

「意外と見掛け倒しさ。脱線したな。適度に戦えるようになるにはとにもかくにも経験の上積みだ。この中で一人……先に実験しておこうか……。手数の多い強さ、盗賊(ローグ)系の強さを欲している人は前に出て」

 それぞれ顔を見合わせて一人の戦士が歩み出る。

 見た目にも細めでがっしりした体形だった。

 傭兵(マーセナリー)クラスを希望するのは筋力がついたどっしりした太目の体形がなりやすい。

 軽装備が多いが重装備を希望するものも居る。盾役と呼ばれる戦士も居た。

「取り返しはつかないが盗賊(ローグ)系、暗殺者(アサシン)なども修める気でいいんだね?」

「部族の中ではひ弱な部類でしたから。早さには自身があります」

 早さ、というのは走る速さのことだ。あと、木の実を見つけるのが上手なことが自慢。

 取り返しに付いては死ぬことでレベルダウンする、という方法は今の蜥蜴人(リザードマン)達には抵抗があるだろう。好きで死ぬ者はこの世界にはほ(・)ぼ(・)居ない、はずだ。

「暗殺技術は教えられないが最終日にみんなまとめて説明するから、今は分からないままでいい。一つ一つは説明するが。では、弱い人間の私の強さを少し披露しよう」

「いえ、あなたは強いと思います」

 蜥蜴人(リザードマン)とはいえ硬い鱗を苦も無く身体を解体する人間だ。装備の特性かもしれないが顔色を変えずに出来る事ではないだろう。

 それに油断というか隙が無いようにも感じた。

「君たちに与える強さは平和利用に使ってほしい」

「ナザリックの為や、アインズ様のためではなく?」

「守りたいもののために、という意味さ。コキュートスを倒すためとか言わないでくれよ」

 言い終わった後で蜥蜴人(リザードマン)の脇を持って軽い動作で真上に放り上げた。

 蜥蜴人(リザードマン)とはいえ人間より背丈も重量もある生物だ。それが落下せずにどんどん天井付近に上がっていく。

「うえぇぇ~!」

 上がったものは滞空せずに落下する。

「うわぁぁ!」

 地面に激突する前にヤントラは羽毛を受けるように優しく受け止めた。

「うまく手加減が出来てよかった。口だけでひ弱だと君たちも困るだろう。強くなっているのかどうか不安で」

 蜥蜴人(リザードマン)を床に置くと慌てて後ずさる。

 信じられない体験で言葉が出ない。

「ハムスケは規定の数を倒しきったら休憩していいぞ」

「了解したでござる」

 戦闘に際して真面目に戦うハムスケ。無駄口は小さな声で叩くが、しっかりとモンスターは倒していた。

 床や壁を壊さない範囲での武技は認めたので色々と試行錯誤しているようだ。

「戦士系も効率を上げようか、と言いたいところだがバスタードソード系は足りるかな」

 色々追加で作ってもらったが大人数は予定外だった。

 足りない事も無いが、弱いうちでは壊されてしまうかもしれない。

 その時はその時理論で行くか、とヤントラは諦めた。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)は引き続き、魔将相手に魔法を唱え続けていてもらう。

 全員を50レベル突破までいけるかは分からない。

 ハムスケは余裕だろう。

 まず実験台として放り上げた蜥蜴人(リザードマン)を宥(なだ)めてから地上に連れて行く。

 殴ったり蹴ったりはしないのだが、すっかり怯えられてしまった。というか戦士か、お前。と言いそうになったが飲み込んだ。

 人間に連れて行かれる屈強な蜥蜴人(リザードマン)。

 その様子にクルシュは密かに苦笑していた。

 滑稽で信じられないことが続いた事に楽しさを感じてしまった。

 凶悪なモンスターで威嚇されるでもなく、蜥蜴人(リザードマン)達のために特訓場を提供してくれる人間の居る世界だ。

 外の世界は未知で溢れている。それを楽しまなくてはつまらないだろう。

 命の危険はつき物だが、昨日の解体作業に比べれば可愛い方だろう。

 三十分後に戻った仲間は特に変化は見られない。

「ただ、言われた質問に答えただけだ。盗賊(ローグ)とは何か。暗殺者(アサシン)のスキルとか。こうなりたいとか。本当にそれだけだった」

「思っていたよりも経験が積まれていない。最初だし、仕方が無いのだが……」

 10たらずの蜥蜴人(リザードマン)を三日で50以上にあげるのだから無茶もいいところだ。

 普通に考えても三日ではなく一週間はぶっ通しで特訓しなければ無理だ。

 ただのレベル上げならバカでも出来る。

「ちょっと困った事態だな……」

 今回は人数も多い。割り振るモンスターがそれだけ減ってしまう。

 非効率的だ。

 ヤントラがフルで急いでも無茶だと言えるだろう。

「すまないがコキュートスと話しをつけてくる。今の調子ではあと一日か二日は追加でかかりそうだ」

「あ、いえ……。そちらの都合でよろしいと伺っております」

「君たちが良くてもコキュートスを上にいつまでも遊ばせておくわけには行かないだろう。ハムスケはモモンの側に居なくて大丈夫か?」

「予定の三日の後は殿の元に戻らなくてはならないでござるな」

「……助手が欲しい所だ。経験の積み重ねは努力ではちょっとどうにもならない。普通は三人程度でやるものだからね。それも三日ずつを何回か続けてね」

 帝国の生徒達も第五位階程度なら数日で事足りるが、大人数対策も練りたいが難しいだろう。

 大変さを更に効率的にあげる事になるのだから。

 助手でも居ないと無理だ。

 

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