※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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I-8 アウラに尋ねる

 数十分後に様子を見に来たンフィーレアがアインズ達を見つけて驚いた。

 カルネ村からエンリも実験農園で従事する者達に自宅からの愛妻弁当などを届けに来ていた。

 監視していたアルベドやアインズは気付いていたが気付かない振りをした。

「ゴウン様。いらっしゃってたんですか」

 アインズの呼び方は今は『様』付けになっている。

 魔導国の国王である事は知っているので敬称が大事なことは身体に染み付いていた。

 ただ、拝謁の姿勢はよく忘れる。それに関してアインズは言及しない。

 ンフィーレアが自分の部下ではない、ということもあるのだろう。

「珍しいモンスターが居ると聞いたのでな」

 すっかり骸骨の顔でも驚かない原住民。

 今まで隠していた苦労は何だったのだろうと疑問に思うほどだった。

 正体を明かした事で気分的には清々しさはある。

 モモンの正体がアインズだと知っているのは一部の人間だけで周りに広められることは今のところ無いようだった。

 イビルアイにモモンとして会うことはあるが恋が破れたせいもあるのだろうが、仕事は仕事として割り切っているようだ。

 実力は本物なので周りに人が居ない時はこっそり魔法の相談を受けることがある。

「一体は倒されたんですね。それにしても大きいモンスターですよね。自然に居るものなんでしょうか?」

 遠くからでも目立つ黒い玉。

 二体居た事は職人たちから聞いたのだろう。中には毛(・)の(・)生(・)え(・)た(・)黒(・)い(・)玉(・)が(・)二(・)つ(・)並(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)の(・)で(・)恥(・)ず(・)か(・)し(・)い(・)と言っていたものがいたがンフィーレアは何の事か分からず首を傾げた。

 研究者魂というものがあるのか、恐れるどころか興味津々で黒い仔山羊を見上げる。

 王国の兵士たちは惨劇を見た当事者が多く居るので笑顔で見ようとする者は殆どいないだろう。

 肝(きも)の据(す)わったンフィーレアにはアインズも素直に感心した。

「居ないだろうな。居れば近隣諸国の噂になっているはずだ」

「ですよねー。おばあちゃんも今までの人生で見たことも聞いたことも無いって言ってましたし。えっと、コキュートスさんでしたよね?」

「ソウダ」

「何かお困りのことはありませんか? 食事とか」

「今日ノ午後ニ帰ル予定ニナッテイル他ハ何モ無イ」

 階層守護者と普通に話す人間も今では珍しくない、というところもアインズには驚くべき事だ。

 面通しの大切さが効いているのだろう。

「月に行くための実験をしていると聞いたが……」

「はい。今は物体の浮遊実験です。空中でどのように石を積めば城ができるのか、という感じで。月は当分は先のことになりそうです」

 重量制限について研究しているのだと理解できる。

 天空城の建設はファンタジーでは世界征服と同じくらい実現したい夢でもある。

 地下帝国はナザリックがあるので達成したと言える。

 男のロマンは果てしないものだ。

「累積加重や解呪で瓦解するおそれがあるからな」

 そもそも空に浮かぶ山などはどうやって浮かせているのだろうか。

 確かに超位魔法の一つにそ(・)れ(・)ら(・)し(・)い(・)のがあるにはあるけれど。

 ゲームの仕様で浮いたまま、というのはあまりにも夢が無さ過ぎる。

 無重力を生む特殊なアイテムというのも都合が良すぎるだろう。

 あるものを利用して作り上げるのは大変だが、努力は必要だろう。

「おばあちゃんの様子を見に来る時しか実験はしないんですけどね」

「君の祖母は何をしているんだ?」

「錬金術の研究ではないかと。研究が大好きですから。アイテム製作も得意なんですよ。ポーションもおばあちゃんが開発したくらいなので」

 リイジー・バレアレはエ・ランテルでは知らない者は居ない程の高名な薬師だ。

「ヤントラさんから道具を貰ってから生き生きとしちゃって。寝ずに頑張っていないか心配で様子を見に来ているんです」

「あいつから何か依頼でもされているのか?」

「いいえ。健康的に研究すること。という条件以外は特に言われておりません」

「身体の心配をしているのだな」

「すごいことをする人なのに健康にこだわりがあるのか、ここで働く人は健康的に作業するように言われています。時間になったら休んだり、食事を取ったりと……」

 健康面のこだわりはアインズも知らないことだったし、たっち・みーからも言われた事はなかった。というよりはプライベートのことは謎だらけだ。

「蜥蜴人(リザードマン)達モ夜ニハ引キ上ゲサセテイルモヨウデス」

「不眠不休で働かせたりはしないのですね」

 シモベ風情に慈悲でも与えているのでしょうか、と黒い鎧に身を包むアルベドが言った。

「睡眠を必要とする生物の健康面を気にかけているのだろう。仮にアルベドも奴の側に居れば健康的な暮らしをさせられるだろう」

「具体的にはどのようなことになるでしょうか?」

「日の出と共に起きて日が沈めば就寝。朝昼晩にはバランスの良い食事。そんなところだろうか。あとは適度な運動だろう。何事にも身体を慣らしてから仕事をする方が事故が起きにくい、というからな」

 それを考えずに酷使するのがブラック企業というものだがな、とアインズは胸の内で言った。

「……部下にそれくらいの気配りをしろ、という意味なのかな……」

「アインズ様は支配者でいらっしゃいます。下々の健康の事など……」

「大事な労働力を大切にすることも支配者としての責務だ。使い潰してばかりでは良い統治者にはなれないだろう」

「ゴウン様は良い統治者になりますよ。圧政ばかり強いては反感が高まります。かといってわがままを聞いていることも難しい。その采配をお一人でされるのは大変でしょう。適材適所という言葉があります。頼れるところは頼るべきです」

 前髪に隠れている瞳が輝く。

「うむ。私には優秀な部下がたくさん居るものな」

「それでは、僕はそろそろ戻ります」

 周りの様子を確認した後でンフィーレアは施設に戻っていった。

「……アルベドよ」

「はっ」

「私はちゃんと部下の面倒を見ているだろうか?」

「全てのシモベに目を通されるのは難しいと存じます。ですが……」

「いや、お前たちを大切にしているのか、ということなのだが……」

「アインズ様は我々を大切にしていると思います」

「守護者統括ト同意見デゴザイマス」

 ブラック企業のナザリックにならないように精進しなければならないだろう、とアインズは思った。

 支配した後もちゃんと考えようと。

 良い統治者になれば仲間たちも褒めてくれそうな気がする。

 力での統治は頭の悪いものでも出来るだろう。だが、自分たちはバカにはなりたくない。

 平和的に、かつ、したたかに世界を手に入れる。

 大義名分がこちらにある限り、敵に手出しはさせない。

 恐怖で頭を押さえつけてしまった蜥蜴人(リザードマン)達を今更優しく言うのは難しいだろう。

 裏切らずに従僕でいてくれる方法は無いものか。

 コキュートスに一任しているとはいえ、恐怖心を植え付け過ぎれば役に立たなくなる。

 采配の難しい問題だな。

 特に部外者のことは。

 面倒だから皆殺し、という手も選びにくいだろう。

「……竜王国に行って……、いやまずは手紙からだな。突然の訪問では失礼だろう」

 獣人(ビーストマン)の侵攻についてと都市運営の方法など。帝国以外からも意見を得るのは大事だろう。

 まず竜(ドラゴン)をけしかけて『お前が来い』では印象を悪くしてしまう。

 あの国は獣人(ビーストマン)に国民が食べられているのだから、人間を食べない異形種なら友好的な関係になるかもしれない。

 人間を食べる部下は居るには居るが。

 竜王国は帝国と外交関係があるし。

 スレイン法国とは仲良くしたくないな。人間至上主義者の国のようだから。

「……ん?」

 自分はギルド至上主義者だったな、と薄っすらと思い出す。

 つまりは『自分(アインズ)がスレイン法国を嫌うこと』と『ヤントラが自分(アインズ)を嫌うこと』は同義ということだろうか。

 アインズは黒いオーラを発生させた。

「ア、アインズ様っ!?」

「んっ? あ、ああ、すまない。思(・)い(・)出(・)し(・)怒(・)り(・)だ」

 理解したくないが、そうなのだろう。

 スレイン法国が嫌いなのは同(・)族(・)嫌(・)悪(・)ということだろう。

 そうかそうか、なるほどねー。と、アインズは怒りのオーラをまた発生させて感心した。

 ナザリックの事しか目を向けていなかった事が気に入らなかったのかもしれない。今はナザリック以外のことにも気にかけるようになってきた。

 だからだろうか、それほど。いや、関係に変化は無いだろう。

 それとも自分だけ変わらずに相手を嫌っている、ということもある。

「コキュートス」

「ハ、ハイ」

 アインズのオーラの後なのでお叱りかと思って驚いてしまった。

「蜥蜴人(リザードマン)達を預けるとき、何か要望というか条件は出されたか? あれをくれとか」

「イ、イイエ。急ナ要望ニモカカワラズ彼ラヲ受ケ入レテ下サイマシタ」

 では、蜥蜴人(リザードマン)達に何か余計な事を吹き込んでいる、ということも考えられる。

 今までの経験から特訓に私情は挟んでいない。

 複製は取られているかもしれないが、それ以外はナザリックやアインズの悪口は聞かれない。

 考えすぎかもしれないし、そうでない場合の話題も少しは気になる。

 今回は隠さずに様々なものを見せているのも。

 アイテム類の要望以外では何があるだろうか。

 自分なら様々なものをよこせ、と言うだろう。下手をすれば施設丸ごとになるのだが。

「コキュートス。蜥蜴人(リザードマン)達が上がってくるまで……、こいつを相手にしていろ。そして、クルシュと共に一度、帰還しろ」

「畏マリマシタ」

「アルベド。離れた位置の監視状況はどうなっている?」

「施設外に野伏(レンジャー)系の気配は無いようですわ」

 この宝物庫と呼ばれる施設は開放的過ぎて監視の対象にしにくいのだろうか。

 見晴らしのいい平野だし。

 その点で言えばナザリックも似たようなものだが。

 場所と内容が認知されている差なのだろうか。

 遠くから監視するよりは作業員として潜入した方が楽かもしれないな。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アインズ達が去ったあとでコキュートスは戦闘を再開する。手加減しなくていいので気分的には気持ちが良かった。

 本気を出せば武器が壊れると思っていたが意外と丈夫だったし、予備がまだ一本残っているのも気持ち的な余裕に繋がる。

 ただ、スキルによりメイドが吹き飛ばされたり、両足が凍り付いた後に砕けて血だらけになるなどの被害が出た。

 装備による耐性が施されていないようだ。

 本気で戦えば周りがどういう被害を生むのか、いい勉強になったとコキュートスはヤントラに申し訳なく思いながらも色々と納得した。

 魔法が使えないメイドは楽に死なせた方がいいだろう。

 サクサクと倒れているメイドの首を断った。

 無抵抗だからケガはしないので彼女達の役目は後の者に引き継がせようと思った。

 二体目の黒い仔山羊が消滅する頃に蜥蜴人(リザードマン)達が地上に上がってきた。

 コキュートスは蜥蜴人(リザードマン)の一人にメイドを呼びつけて後始末の依頼をさせた。次にクルシュを呼びつける。

 数分後に複数のメイド達が現われて死んでいるメイド達や周りの後始末に動いた。

 淡々と仕事をこなす姿は本物よりも働き者で感心した。

「クルシュヨ。報告ノタメ、一時帰還スル。オ前モツイテ来イ」

「一緒にですか!?」

「ソウダ。アインズ様ガ報告ヲ聞キタイソウダ」

 クルシュはヤントラとの会話に出た事柄を伝えて夫に伝言を頼んでみた。

「優先サレルハアインズ様ノ御用ノミ。オ前ノ要望ハ後回シダ」

「で、では、持って行きたい物があります。すぐに持ってくるので……」

 緊急を要しないとはいえ支配者を待たせては失礼だと思うのだが、従順な蜥蜴人(リザードマン)を無理強いするのも良くないだろう。

 後で取りに来るのも二度手間になるだろうから許可を出した。

 クルシュは施設の中に大急ぎで戻り、ヤントラと共に戻って来た。

「す、すみません」

 全速力で走ったせいかクルシュの呼吸が荒かった。

「重い荷物のようだからコキュートスが持ってあげてくれ。中身は彼女が説明するから」

「す、すみません。力が弱くて……」

 持って来た荷物はどう見ても『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』だ。

 黒い仔山羊の肉片でも入っているのだろうか、とコキュートスは思うのだが今は急いでナザリックに戻る事が先決だ。

 新たに作り出された魔法のスクロールの『伝言(メッセージ)』で連絡を入れた後で『転移門(ゲート)』が近くに開いた。

 コキュートス達が居なくなった後は戦闘の現場を調査するヤントラ。

 メイド達も現われて忘れ物や落し物が無いか調べて、コキュートスの為に用意された施設を回収していく。

 購入した土地ではない場所に設営したので迷惑をかけないように穴などを塞いでいく。

 

 ナザリックに帰還したクルシュは第十階層の玉座の間で平伏する。

「急に連れ戻す真似をして悪かったな、クルシュ」

「い、いえ」

 アインズはクルシュの側に置いてある『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』に顔を向ける。

 中を見ずとも中身が分かるのは魔法の節約になって可笑しかった。

「三日間の特訓だったが、特訓内容はどうでもいい。私が知りたいのはあいつとどんなことを話したか、だ。正直にだいたいでいいから話してみろ。一言一句間違えるな、とは言わぬから……」

「は、はい。では、覚えているかぎりを……」

 特訓内容の疑問や複製の存在。

 蜥蜴人(リザードマン)がナザリックの支配下に入った下りが伝えられた。

「ん……。支配下について何か言っていたか? 悪口とか?」

「それは無かったかと」

 休憩の合間に色んなことを話してくれた。

 ナザリックは味方に対して優しい。支配が目的でその後は考えていない。裏切りさえしなければ平和的に暮らせる、などなど。

 懇切丁寧とも言える内容。

 コキュートスは武人だから真面目に話しを聞く、ということも伝えた。

「……何も考えていない支配者に聞こえるな」

 実際、ほぼ事実なので反論は出来ない。

 確かに裏切りなく従僕で居てくれれば厄介な事態にならずに済む。

 その為にクルシュを監視要員として使っているのだから。

 生活改善は急なことなので何も思い浮かばない旨を伝えた。

 食に関して不満は無い。

 魚の養殖も順調だと聞いている。

「ふむ。真面目な話しばかりだな。あいつは仕事には真剣なのだろうか。特訓中に嫌がらせとか、仲間の腕を折ったりはしないのか?」

「訓練後に……、どうやら私の身体を切断したらしくて……。それくらいでしょうか」

 それは複製の為の切断だろう。

 うんうんとアインズは頷く。

 コキュートスもアインズの機嫌が悪くないので安心した。

 他の守護者も会話を聞いているのだが、特に問題となるような話題が無くて拍子抜けだった。

「アインズ様。クルシュを叱り付けるために呼んだのでは?」

「んっ!?」

 アルベドの言葉にアインズは驚いた。

「そ、そう見えたのか?」

「黒いオーラが出ていたので……。てっきり……」

「あれは思(・)い(・)出(・)し(・)怒(・)り(・)だと言っただろう。クルシュ……。名前を出さなかったのは悪かったな。いけ好かない奴の事を思い出してクルシュに何を吹き込んだのか、気になってしまったのだ」

「そうでしたか。申し訳ありません」

「では、話しを続けろ」

「はい」

 怒りのオーラの後にクルシュを呼びつければ叱り付けるため、と思われても仕方ないよな、とアインズは反省する。

 表情に変化が付けられないから仕方が無いのだが。

 

 ヤントラは命を冒涜するものでありながら命の大切さを教えてくれる変わった人間だと伝えた。

 質問すれば大抵は答えてくれる。

 高圧的ではないけれど魔法を数百回も使って疲労しないのが不思議だった。

 アイテムのお陰ではあるが一日に数千回、数万回規模を行使して平然としている人間を見て信じられない事の連続だった。

「……不可能を可能にする施設だ。考えたやつが使いこなせなければ困るだろうな。驚きの連続だが、理に適っている。では、質問しよう。クルシュよ。それだけの施設で強くする上で大事なことはなんだと思う?」

「強くする上で大事なこと?」

「周りの者達も分かれば答えて良い」

 アインズは両手を広げて言った。

 クルシュは想像もつかないことだったので答えられなかった。

「強くなっても技術が無ければ張りぼてと変わらない?」

「蜥蜴人(リザードマン)ごときでは私たちには及ばない、とか?」

「自ラノ無力サヲ分カラセル為デショウカ?」

「デミウルゴス。お前はどう思う?」

 普段は色々と所用を任せているデミウルゴスにも今回は来てもらっていた。正直に言えばどんな仕事をしているのか、アインズは関知していない。

 知るのが怖い、というのもあるし、デミウルゴスは頭はいいが少し苦手だった。それは彼(デミウルゴス)の創造主である『ウルベルト・アレイン・オードル』を苦手とすることに似ているのかもしれない。

「はっ。戦う敵が居なければなりませんね。つまりはナザリック侵攻の画策かと愚考いたします」

 デミウルゴスの言葉にアインズは軽く頷いた。

「普通はそう答えてもおかしくはないだろう。だが、三日程度の特訓だ。更に数日延長されるようだが……。それでも五十レベルを超える程度だ。ナザリックの脅威にはなりえんさ」

「これは失礼いたしました」

「構わん。確かにデミウルゴスの言う通りだ。敵が居なければ強くなる意味が無い。単純なパワーレベリングしかさせていないようだが、独自に技術を磨けばナザリック侵攻も不可能ではないだろう」

「やっぱり!」

 と、怒りをあらわにするのはアウラだった。

「待て待て。あっちはこちらの手の内を想定する存在だ。単純な話しにはならんだろう」

「では、なにゆえに厄介な施設を作ったのでありんすか?」

「弱い原住民に夢を見せたいのだろう。もっと強くなるとどういう世界になるのか」

 ゲームで冒険をするのは楽しい。

 レベルを上げて強くなり、レアアイテムを手に入れる喜び。

 弱いと楽しくは無いが強くなって効率的にゲームを楽しめるまでが苦労の連続だ。

 あの施設は正に苦労の連続を体験させるに相応しい。

「攻めて来るやつは迎撃すればいいだけだ。単純な増強程度でナザリックに脅威を与える事など出来はしない」

 実際、100レベルプレイヤー数十人程度なら撃退できるほどの戦力があると自負している。

 個人でも二人同時は大丈夫だろう。

「限界まで強くなる者が現れてしまった場合はどういたしましょう? さすがに戦闘メイドは撃破されてしまうおそれが……」

「脅威論ばかり言っても仕方なかろう。戦闘メイド達は充分強固な武具を与えられている。そう易々と突破は出来ないだろう。それにシモベ達とも連携できる」

「ア、アインズ様……、発言、いいですか?」

 恐る恐る手を上げたのはマーレだった。

「構わない」

「はい。その手法、を使ってバスパ様はナザリック、に……、攻めてきますか? 攻める事ばかり議論、になっている気がします」

「それは被害妄想だ。防りに徹していたから仕方が無い事だ」

「も、申し訳ありません」

「いや、責めているのではないぞ。あいつに限って、とは言いたくないが……。ナザリックを攻める事は故郷を自分の手で滅ぼす、ということになる。そんなことをあいつが良しとするだろうか?」

 アインズの言葉に誰も反論の言葉は出てこなかった。

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが作り上げた施設を破壊する事を良しとする理由が見つからないからだ。

 見つからないくせに攻めて来るかも、と思っている自分が居る。

 あえて攻める理由があるとすればアインズの討伐だけだ。

「私の事が嫌いであってもだ。壁とか天井は多少は壊すかもしれないが……」

 というかアルベドがよく壊している気がする。

「ならなんで屠殺場? というものを作ったんだろう」

 原住民に夢を見せる為に、とは思えない気がした。

「アウラよ。あれは巨大な実験場だと思うのだ」

「宝物庫、ではなく実験場ですか?」

「宝は魔法のコストに過ぎない。それだけ必要なのだ。このナザリックも本格稼動すれば大量の金貨を消費しなければならない。それと同じだ」

 トラップ類は無いようだが、とアインズは見た感じの風景を思い出す。

「どんな実験にも失敗はつきものだ。成功を得るには無数の失敗を積み重ねる必要がある。時にはためらわれる危険な実験もあるだろう。さて、ではアウラよ」

「は、はい」

「この場で自らの首を撥ねよ、と命じたら従うか?」

 アインズの言葉がアウラの全身を駆け巡る。

 命令は絶対。それを拒否することはありえない。

「………。ア、アインズ様の……、ご命令……」

 命令に従順な人形はためらいなど見せない。だが、アウラは熟考している。

 まだ生きていたいという欲求が命令を押しとどめているかのように。

 目が充血してきたアウラ。

「今のは命令ではないぞ、アウラ。従うか、と尋ねただけだ」

 命じたら、と言ってしまったので命令と大差ないかも、とアインズは余計な事を言った気がして申し訳ない気持ちになった。

「ご命令であれば……、即座に従うのが従者の……、務め……で……」

「見苦しいですよ、階層守護者ともあろうものが」

 冷徹な言葉を投げかけるのはデミウルゴスだった。

「従順な部下なら命令を遵守しようとするだろう。……正直に言えば階層守護者にこんな命令は下したくないぞ。悪かったな、アウラよ」

「……いえ」

「あの施設はこんな実験すら出来る。人形たちはどういう命令を受けているのか知らないが、受けた命令は即座に実行する。滑稽すぎるほどにな」

「命を絶つ命令を、ですか?」

 マーレの疑問にアインズは頷きで答える。

「命を冒涜する。それに類する様々な実験が行(おこな)われている。このナザリックにおいてですら到底出来ない、または部下の命を軽く見るような様々な事がな」

 周りの従者からどよめきが漏れる。

「命の冒涜でありんすか……。拷問の類(たぐい)でありんすかね?」

「ふむ。聞いている分にはとても魅力的なところのように聞こえるのだがね」

 アインズはデミウルゴスなら喜びそうな施設だと思った。

「そうだな。あそこはデミウルゴスに相応しいところだろう。だが、未完成のようだから本格的にどういう活動をするのかは分からんな。それぞれの施設の内容を聞くのを忘れてしまったから」

 建設している人間に尋ねれば素直に答えてくれるだろう。

 壁を大破したことで失念していた。

「被害妄想の増大ばかりだったが、利用する分にはナザリックにとっては魅力的だろう。敵にするよりは味方にするという意味ではな」

「味方に引き込むのですか?」

「私としては奴から様々な報告書を受け取ってから判断しようと考えている」

「報告書?」

「研究結果とも言うな。便利な施設ではあるがデメリットが存在する。それを奴は研究している最中だという。自らを実験台にしてな。その前に……、クルシュよ。楽な姿勢になっていいぞ。そのままにして悪かったな」

「はっ、分かりました」

「皆が味方に引き込めというから施設の事を探らせたら、あそこはと(・)ん(・)で(・)も(・)な(・)い(・)と(・)こ(・)ろ(・)だ(・)ということが分かってきた」

「アインズ様がとんでもないとおっしゃるほどですか」

「戦闘メイドが半狂乱になるほどだ。見せない部分に秘密があるのだろうが……。同じ事は私(・)で(・)も(・)出(・)来(・)る(・)、という部分が今は最大のヒントらしいな。お前(アインズ)程度でも出来る、というバカにしたものかどうかは分からんが……」

「ア、アインズ様。調査に……行く事をお許しください」

 クルシュを跳ね飛ばしてアウラがアインズの前に平伏する。

「階層守護者としてのプライドにかけて調べてきます!」

「お、お姉ちゃんのお手伝いに、僕も……」

「アウラ、マーレ」

 アインズは優しく語りかけるように言った。

「はい」

「は、はい」

「あそこは階層守護者すら手玉に取るところかもしれんぞ。……というよりお前たちは行くな。防りに関しては鉄壁を誇るナザリックだが、攻めに転じて敗北を喫(きっ)する可能性が高いところだ」

 アインズの発言にはアルベド達も驚いた。

「敗北?」

「そうだ。信じられないかもしれないが、私も信じたくない。情報を秘匿している分には何(なん)の脅威も感じなかったのだが、今のあいつは公開に転じている。転じて尚、余裕を見せている。コキュートスが行っても動じないんだ。無理にこじ開けるのは得策ではないし、お前たちに何かが起きるのは嫌だぞ」

「ご、ご心配は嬉しいの、ですが……」

「アウラ。アインズ様のお心遣いを無駄にしてはいけないよ」

 優しい言葉使いでデミウルゴスは言う。

 

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