ゲームオーバーから始めようか 作:モモンガ
アインズは全員が玉砕するだろう予感がしていた。
ナザリックに来て複製というか部位を取られた時点で人質を取られたも同然だ。
考えたくは無いのだが、その人質には自分も入っている気がしてならない。
そうだとしても攻めて来ないのは疑問なのだが。
本当に本心からナザリックを大切に思っている、というのなら多少は納得は出来る。
それを素直に信用できない自分の心の狭さが邪魔しているのかもしれないが。
謎を解明し、ヤントラの記憶を抹消してしまえば不安要素は無くなるだろう。だが、記憶の改竄方法を奴は知っている。
手の内を知る者は強敵だ。
というより二人で争っている場合ではない。
他の敵性プレイヤーの脅威も消えてはいないのだ。
共闘という手段も残されているだろう。
敵にしておけば最上級に手ごわいが、味方であれば心強いのは確かだ。
階層守護者全てが敵対すればアインズとて対処は難しい。というより対処するのにどれだけの課金アイテムを浪費する事になるか。
最悪、全ての
予想は大体ついているのだ。だが、デメリットが不明だ。だからこそ試せない。
試せるのは恐れを知らないヤントラだけだろう。
実力は低いが度胸は世界一だ。
PKされた数では
「敵対は得策とはいえない。無駄にアイテムが散るだけだ。シャルティアの事件も奴に任せればノーアイテムで解決できたかもしれない。それは……、過ぎた話しだが……。ここで問題だ、デミウルゴスよ」
「はっ」
「奴を味方に引き込む条件として世界征服を断念する場合は呑めるか?」
いつも薄い笑いを絶やさない悪魔が即答しなかった。出来ないのかもしれない。
数秒。一分と沈黙が続く。
コキュートスも異常事態だと思うほどだ。
「実際のところは……。奴はほぼ世界を手中に収めているといってもいいレベルだとしたら信じるか?」
「え……、既に、ですか?」
「平和的に世界を手中に収める……。前代未聞。誰も見たことも聞いたことも無い方法だ」
「そんな方法があるならばお教え願いたいものですね」
「焦って金の卵を壊しでもしたらおしまいだろう。あえて、壊してしまう選択肢もあるだろう。その時は地道に苦労するんだろうな」
「アインズ様は謎を解き明かしたくはないのですか?」
「自力で解きたいさ。だが、知れば知るほど恐ろしくもある。このナザリックに益になるのか、ならないのか……。制御できないモンスターが溢れかえる世界は嫌だぞ。お前たちを失うような事もだ」
罠にかけようという意図は無いはずだ。
じっくりと考えて答えを出せ、と言っているんだろう。
早計により、酷い目に遭っても知らないぞ、と。
「恐れてばかりでは支配者の沽券にかかわるだろう。だが、お前たちが味方に引き込みたい相手はそれほどの存在に成長している」
そうであっても支配者の地位には納まらないだろう。
理由は単純に面白くないから、と答えるだろう。
「手を出さなければエロい人間のままでいただろうに……。なにをどうしてあんな人間になったんだろうか」
「……おそれ、ながら……」
「んっ? マーレか。なんだ?」
「バスパ様は誰もやったことがないことをおやりになった、だけでは?」
「……まあ、未知の冒険はそんなものだろう。誰も攻略した事の無いダンジョンやモンスター、レアアイテムを求めたくなるものだ」
「その、強い冒険心が生んだ結果だと、思います」
「ふむ。話しが脱線したな、クルシュ。それを開けてみせよ」
「は、はい。ただいま」
クルシュは持って来た『
それは寸分たがわぬクルシュ自身。
階層守護者と付き従うシモベ達も唸るほどの光景だった。
「さて、まず先に聞こうか。
「は、はい。おそれながら……、我々
「んっ? ナザリックからの解放ではないのか?」
「皆様方に守られている我々は急には自立できません。養殖の
支配下に置いたっきり、監視だけしてコキュートスに丸投げしていた事を思い出す。
敵対プレイヤーが潜んでいるかどうか。
NPCであるコキュートスに成長の可能性があるのかどうかが知りたかっただけで、
珍しい武具は期待はずれ。参考程度にしかならなかった。
「つまりはこれからも支配下に置かれても良い、ということか?」
「ぞっこく、というような扱いで生活を保障してくれるのであれば……」
集落だから国ではないが、アインズは言いたいことは理解できた。
森の番人くらいしか仕事が無いかもしれない。
皆殺しにしないで下さい、という意味にも取れる。
「裏切りと言う強いことばを使って締め付けてしまったようだな。ナザリックの一員となった者は手厚く面倒を見るぞ」
「忠誠の証しとして、こちらの……身体をお好きにご使用しても構いません。夫と子供の命をお守りください……」
家族を大切にする心はアインズも理解できる。
ただ、自分には守るべき
そのNPC達を守る気持ちで言えばクルシュと通じるものがあるのかもしれない。
「どのような実験に使っても良いのだな?」
「同族食いは……、
「食べるものがある内は幸せでしょうに」
と、デミウルゴスは言った。
その食べ物が最終的には仲間、または家族となっていく。
「折角の素材だ。有効的に使わせてもらおう。……実物を見るまで信じられなかったが、現実として見ると凄いの一言に尽きる」
同じ存在が複数居る。
通常、それは
だが、本家本元すら複製にしてしまうのだから信じられない。
「まずはクルシュ。これまで通りナザリックの一員として務めてくれ」
「……畏まりました……」
弱々しい声ではあったがアインズとしては満足した。
「引き続き、クルシュは施設で特訓を受けてくれ。シャルティア、運んでやってくれ」
「畏まりんした」
クルシュ達は玉座の間から退出した。
「世界征服は様々な障害があるものだ。これは長い目で取り組むとしよう。それで良いか、デミウルゴス?」
「アインズ様の仰せのままに」
「急ぐ必要は無い。性急過ぎて失敗する方が恐いだろう。それにしても頭の痛い問題だ」
「頭の痛い問題とは……、バスパ様のことでしょうか?」
「それは……
「白い
「クルシュはどうでもいいのだ。複製についてだ」
「量産すれば食糧問題が解決する?」
「……戦力増強がはかどる?」
と、言っている間にシャルティアが戻って来た。
「本物と同じ身体だから偽者と区別が安易に出来ない。量産などして勝手な行動をすれば事態が悪化するかもしれない。同じ能力を持っている、というところも恐ろしいだろう」
シャルティアを含めて多くの者が驚いた。
アウラはクルシュの複製の頬を叩いたり、心臓が動いているか確かめたりした。
寝ているようだが、生きていることが確認された。
「秘密を解き明かせば奴は封印されると言っていたな。恐ろしい手段だからだろう。人に教えてはいけない禁断の方法。悪用すれば最悪の結果が待ち構えているという。その最悪とは具体的には……、研究中なのだろう」
「危険な研究ということですね」
「悪用しても対処すればいい。だが、その対処方法が無い。だから、教えられないのだろうと、思う。あるいは私にも独力で見つけ出せ、というメッセージかもしれない。努力して得る知識は楽して得るものより重い」
安易な方法をとらせないためと考えれば理解できなくはない。
それがナザリックの者達のためを思ってのことならば。
でなければナーベ達に体験させた意味が無い。
「すぐに奴を
「敵に渡る前に全てを消す」
「いえ、それではもったいないではありませんか。研究はナザリックが有効的に調査して適切に運用すればいい」
「バスパ様を迎え入れた方が早いかと。我々と敵対しているかぎり、気にされて研究どころではないかもしれません。それにこそこそ隠れる必要が無くなり往復が楽になります。あと施設の利用も出来るようになるかと」
「アウラ達は意見は無いのか?」
「個人的に恨みがあるわけじゃないですけど、バスパ様個人は私達の事を嫌いにならないのでしょうか?」
生意気な態度を取ってきた手前、仲間になったらどう接すればいいのか、アウラには分からない。
「嫌いと言うか愛着を無くすのが恐いらしいな。変な研究にのめりこみすぎて頭がおかしくなってきたのかもしれない。いかに奴とて精神的な疲労は感じるという事だろう。……正直、私も奴の研究に関わったら危ないかもしれん」
「アインズ様でも危険だと言うほどなのですか?」
「危険だろう。扱いを間違えば取り返しがつかなくなり、お前たちを失うかもしれない、ということになるかもしれないんだから。私にだって試したくないことはあるぞ」
危険な研究かは実際に見てみないことには始まらない。
強引に奪って実験して大失敗などしたくないし、そういう罠という可能性も捨てきれない。
正直者は長い計画の布石なのか、本当に正直者のままなのか。
疑り深い自分は前者を選びがちだ。
後者を選ぶのは信頼している友でもない限りはありえないかもしれない。
互いを知り得ているなら後者こそ選んでハッピーエンドとなるだろう。
「守護者統括アルベドよ。我々は手が出せない、とする場合。次なる手はどう打てばいいと考える?」
「僭越ながら……、敵の懐に飛び込む手が有効かと」
「それしかないか」
「丁度、裏切りの疑惑のある者がおります」
アルベドの発言で真っ先にシャルティアが姿勢を正した。
「……まさかシャルティア、と言うつもりではないだろうな?」
「いえ。戦闘メイドのルプスレギナ・ベータとナーベラル・ガンマでございます」
アインズはやはりか、という思いはあった。
この二人は先日からしおらしくなり、仕事に従事しなくなってしまった。
ルプスレギナはサボる理由が出来たから懲りてない気がするが、ナーベラルは狭い部屋での謹慎を願い出ていた。
アンダーカバーのナーベは死んだことにしてくれ、とまで言うしまつ。
「ろくに仕事もしない二人なので、切り捨ててしまわれた方がよろしいかと」
「……それが最善か……」
スパイとして潜り込ませる上では半々といったところだろう。
調査に向かない気がする。
仕事をしないルプスレギナと人間蔑視のナーベラル。
調査といっても邪魔ばかりするところしか浮かばない。それでは困るのだが。
一人で運用しているようなものだから助っ人は欲しいはずだ。それも人形ではない者が。
精神の安定ともいうべき者。
ナーベラルは助っ人に向かない気が
ラキュースとイビルアイは報告では施設で手伝いはさせていないらしい。
特にイビルアイは一番役に立つはずなのに王都に残している。
「……アルベドよ。ナザリックの仲間たちが作り上げたお前たちを簡単に切り捨てるような事を軽々しく言ってくれるな」
言葉は優しげで
「申し訳ありません」
「個性のあるお前たちはみんな愛すべき者達だ。好き好んで切り捨てさせるような真似などしたくないぞ。シャルティアの時のように敵の攻撃ならいざしらず。今回は危険と分かっているところに投げ込むような行為だ。デミウルゴスよ。お前ならどうする?」
「アインズ様のご命令であれば従うのが当たり前でございます」
「あー、うん……。……そうだろうな」
デミウルゴスの好きそうな施設だもんな、むしろ。と、アインズは聞く相手を間違えた事を自覚する。
「おほん。では、アウラはどうだ?」
「調査のご命令ならば……、やり遂げて見せます」
「大森林の開拓などの仕事があるからな……。一般メイドはすぐ死ぬと思うから駄目だろうな……。フールーダはじじぃだし。っていうか魔法以外に興味無さそうだ」
ナザリックの運営だけならば仲間たちで充分だ。
外部の事は想定していなかった。
コキュートスは
第四階層の守護者である『ガルガンチュア』は
第八階層の守護者『ヴィクティム』は何の役に立つのか逆に教えてほしいくらいだ。
種族は
いや、ヴィクティムはダメだ。秘密が漏れてしまう可能性が大きい。
人材確保も大事な仕事だな、と思った。
「敵の位置が分かっているのに攻められないとは……。でも、普通に壊すだけなら簡単だよな……」
それはそれで見も蓋も無い事だ。
「アインズ様。私にご命令を」
と、アウラが一歩前に出た。マーレが姉の背中を掴んで止めようとしていた。
「階層守護者にスパイの真似事などさせられないぞ」
「第六階層に二人も居るんです。片方が抜けても大丈夫だと思います」
命令を即座に遵守しなかったことを後悔している事はすぐに理解できた。
だが、聞いてみただけであって命令はしていない。
「アウラ! 控えなさい」
「そこまでムキになるな、アウラ」
玉座の近くで片膝をつくアウラ。
「……敵対プレイヤーに油断したくないのです……。平和は大事でしょうが私達はナザリック……、いえ。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の栄光と繁栄を守らねばなりません。守護者としての矜持として未知の敵を知りたいのです」
「マーレも一緒に行くのかい?」
「マーレは置いていきます。第六階層を無人にするわけにはいきませんから」
「お、お姉ちゃん……」
「アウラ。研究と言うのは性急すぎても駄目なのだ。長い時間をかける必要がある。だから、今は待て」
「……では、私の覚悟だけでもお見せしないと気がすみません」
「んっ? 覚悟?」
アインズが首を傾げた時にアウラは自らの両耳を引き千切って床に置き、両目を抉り取る。
「お姉ちゃん!?」
「アウラ!」
耳と目のあったところから血が流れ、服に落ちていく。
「し、心配は、あ、ありません。治癒すればいいだけ、のこと。では、どうか。私の目と耳を複製とやらの実験に、お、お使いください。自害は出来ませんでしたが、自らの身をアインズ様に捧げる事はこの上も無い幸せに、ございます」
怒りたいが怒れない。
命令ではないとしても支配者の願いを聞き届けない事は失態に等しい行為ととられてしまうのだろう。
言う事を聞きすぎる点では人形と変わらない。
それはとても悲しい気がした。
「アウラの目と耳に保存をかけて保管し、早く治癒しろ」
「では、治癒担当の者を呼びます」
立派な忠誠心にデミウルゴスは感動していた。
シャルティアは少し気の毒そうな顔を送っている。
一騒動の後で戦闘メイドのナーベラル・ガンマが呼ばれた。
「ルプスレギナは呼ばないので?」
「あれはカルネ村を担当してもらっている。地域住民とのふれあいが進み、ナザリック脅威論の封じ込めに役立っているからな」
仮面をかぶっても偽装に見えないし。というか偽装する気がさらさら無いんだろう。
今さら隠しても仕方が無いのでルプスレギナだけ特例として普段着を認めさせた。だが、武器の携帯だけは敵性体が現れるまで見せないように命令している。
こっそりと不可視化の『
命令を聞く者も居れば聞かない者も居る。それはそれで個性的なのだろうけれど、頭の痛い問題だと思った。
後で弁明を聞くと不可視化でちゃんと隠れているから大丈夫と言ってきた。
そういう問題じゃねーよ、と大声で言いたかったが怒りのオーラエフェクトだけで勘弁した。
大人だ、俺。と、自分を誉めてやりたいところだ。
ナーベラルはいつもの冒険者風の姿ではなく、戦闘メイドの武装で玉座の間に来た。
「話しは聞いているだろうか?」
「……はい」
アインズの言葉に少し小さな声でナーベラルは言った。
「今までの忠義に報いてやれないのが心苦しいのだがな……」
「……いえ。……自害を選ばれないだけでもアインズ様の慈悲だと思いますから……」
「今日を限りにナーベラル・ガンマからナザリックの任を解く。装備は
「……謹んで……お請けします。……今までお世話になりました……」
「……言っておくが二度と来るな、とは言ってないぞ? 定期的に顔を見せに来い。話す事が無くてもだ」
「……はい」
声が
「声が小さいが……、どうした?」
「自害の為に首を切りすぎてしまったようで。治癒の治りがうまくいかないのです、……わん」
と、メイド長のペストーニャがナーベラルを心配しながら言った。
「……お前をそこまで追い込んでしまったのだな」
「……お気になさらずに……、……もう他人でございます」
ゲームであれば愛着はあまりわかないだろう。
元々が無表情で特定の命令に従い、喋るだけのNPCだ。
声が
多くの人間を潰しても何も感じなかったアバターだ。
部下を一人捨てるくらい、支配者として当然なのだから。
悲しみや辛さはすぐに抑制される。幸せすらも。
愁いを帯びたナーベラル・ガンマの後姿を眺めた。それから彼女が消えた後は特に何も感じなかった。
厄介な荷物が無くなったところで気にする者は居ないだろう。
「……ん。みなの者、ナーベラルを邪険に扱わないでくれよ」
そうアインズが言うとそれぞれ一様に頷いた。
「調査の一環だからな? 貴重な仲間を切り捨てるなど、私はそこまで冷血ではないぞ」
「あれはもう仲間ではありません。他人でございます」
アルベドの冷たい一言。それはアインズとて覚悟はしていた。
「敵ではないとしても……。時には冷徹さも必要かと。でなければ部下達に示しがつきません」
支配者としてはそうなのだろうが、やはり仲間を捨てるような真似は心臓の無い身体とはいえ
自害だの、その場で首を撥ねろ、などの命令を下さなくて良かった。
とにかく、ナーベラルの安全確保の為の監視要員はアルベドに任せることにした。さすがにこれは聞いてくれなければ困る。
「あいつのことばかりかまけている場合ではない。我々にはやらなければならない仕事は山積している。では、デミウルゴスよ。スクロール生産の方は順調なのか?」
「低位のスクロール生産は順調なのですが……。中位のスクロールはどういたしましょう?」
「これも研究は続けられているようだが……。上に行くほど難易度が高くなるのは仕方が無い」
ヤントラの協力を得れば解決できそうな気がするから
発想力では目まぐるしい発展を遂げている。
得ているクラスがうまく機能しているのだろうか。
こちらは魔法職に特化しているだけで生産系はさっぱり駄目だ。
「デミウルゴス」
「はい?」
「お前は自力で何かを得ようとするタイプか? 誰かに教えを
主の言葉の意味を即座に読み解くのも従者の務めと思っているデミウルゴスは微笑を浮かべる。
「目的遂行のためならば……、この身を犠牲にする事もいといませんとも」
「犠牲ではなくてだな……。みなの者も安易に犠牲と口走るな。いくら私でも不機嫌になるぞ」
と、軽く怒りのエフェクトを発生させると一斉に従者達は
「シモベ風情ならいざしらず、お前たちを道具に扱いたくないのだ。階層守護者とて平等に扱いたい気持ちを察してはくれないか」
「アインズ様のお優しい心は皆も嬉しく思っておりますとも」
アルベドの言葉にそれぞれ頷いていく。
「一番を競って最終的に誰も居なくなるのは嫌だぞ。それこそ私の心を理解しない不届き者として罰するからな」
「はっ! 仰せのままに」
「話しが逸れたな。デミウルゴス。スクロールは羊から取るのが一般的なのか?」
「質や色などによっては山羊など多種にわたります。羊だけと言うわけではありません」
「ドラゴンハイドがあるくらいだからな。メモ用紙も必要だろう。いちいち捕まえるのも大変だろう。複製で量産は可能か?」
「おそらく可能かと存じますが……。安定供給にはいささか時間がかかるかと」
「便利な技術は手に入れたくなるものだな。困ったものだ。無理に奪おうとすれば部下を失う……。全く愚かな支配者だ。そのような愚か者にならないためには……、頭を下げる努力は必要か?」
ヤントラは手段を選ばない点では謝罪など取るに足りないと思っているのかもしれない。
そこは凄いのだが、支配者としての権力欲などがあれば恐ろしい人間に変貌してもおかしくないかもしれない。
それならば殺す事も躊躇いが無くて楽なのだが。
「部下に襲撃させて奪うというのはいかがでしょう?」
「作業を一人で
「至高の御方々に連なるものは物凄い高みにいらっしゃるのですね」
「敵対プレイヤーの対策ばかりしているわけにはいかない。味方に引き込む事も大切だろう。このところそれを忘れて迎撃ばかりしている気がするが……。帝国の後ろ盾のように味方を増やす事も手段の一つだ。誰も居ない土地を征服するのは虚しいじゃないか」
「おっしゃるとおりでありんす。血を吸う相手が居なければ吸血鬼は飢えてしまいます」
「森がないと……。渇いた、大地が広がってしまいます……」
マーレは頭を包帯で巻いたアウラの背中をさすりながら言った。
安易な治癒を拒んだため、目と耳の治りが遅くなってしまった。
「我々だけの楽園だと思えば……」
「外に誰も居なければ……寂しいものだ。私はまだお前たちが居るから幸せを感じられる。だから仲間を失うのは恐い。皆の者は人間を蹂躙すべし、と思うかもしれないが多種多様な種族の居るナザリックが賑やかなように外の連中とも仲良くはしたいさ。仲良く出来ない奴は排除すればいい。アメとムチだ。冒険心を持つことは心の支えにもなる」
アウラの変貌は自分の責任だ。
では、彼女の顔を癒すにはどうすればいいのだろうか。
「……アウラよ。ちゃんと顔を癒せ。命令だ」
優しく、しっかりと言った。
「……畏まりました。それから……、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
「複製を取られるものは皆、あまり気付かないうちに取られたと言っているぞ。手厚い
回復魔法などに代表される治癒魔法は対象が拒絶すると効果が現れにくくなる。
蘇生も拒否されれば信仰系第十位階の『
「失敗作の山を築くのはかっこ悪い。デミウルゴスよ。必要とあれば奴と共同研究の道を模索する事も許可しよう。私は国造りに集中する方が良いのかもしれない。いずれ私も何がしかの研究がしたいものだ」
例えば帝国にある魔法の研究など。
単純にアンデッドの利用方法とか。
「仰せのままに。研究結果はいかがいたしましょう?」
「世間に公表する前に資料を持ってこい。というか世間に公表出来ないだろうな、複製とか」
人間を増やす技術が完成しました。と世間に公表してみる。
わーすごい、と歓声が上がる以前に『なんておぞましい技術だ』とバッシングを受けるだろう。
事実、イビルアイは恐怖していた。
とても世間に公表できる代物ではないだろう。
「技術は別に秘匿したままでいいんじゃないか。我々だけで共有できれば」
というか帝国や竜王国の人間も複製の存在は知っているようだったが。
さすがに国を挙げて真似しようとは思わないだろうな。
ジルクニフにそれとなく聞いてみよう。
こういう時、人間の友人は心強いな。
「そうそう。竜王国と交流を持ち、広い世界を知る事としよう。聖王国は連絡はつかないのか?」
「すぐ前のアベリオン丘陵や大森林が障害となっているようで……。こちらから出向くしかないかと思われます」
「報告にあった
「はい!」
「マーレは引き続きトブの大森林を担当してくれ。二人分かれる結果になるが……」
「が、頑張ります」
「アウラはまず顔だな。それから任務に当たってくれ。……自害だとか耳を引き千切るような行為は私の前ではやってくれるなよ。皆の者もだ」
一斉に従者達はかしずいた。
アインズ達が会議を終える頃にナザリックの所属から離された戦闘メイドのナーベラル・ガンマはヤントラが作り上げている『マグヌム・オプス』にたどり着いた。
重装備の女性に働いている職人達は顔を見合わせた。
自害も出来ず、裏切り者の嫌疑が晴れぬまま。
ナザリックの平穏を守るための犠牲と思えば耐えられる。
だが、そのナザリックから外される事は耐え難い屈辱であり、死を意味するに匹敵する。
冒険者ナーベは死んだ。
それでモモンに迷惑がかからなければ、それも本望かもしれない。
「どうしたナーベラル?」
目の前の存在が全ての元凶。
ナーベラルは武器を構えて、そして、戦う意味を失った。
「……理由を……聞かずに……。……ここで……、いっそ、使い……潰してくれ」
消え入りそうな
「誓え、ナーベラル・ガンマ。私の共となることを」
「……はい。……あなた様にこの身を捧げます……。……今日より、主は……、ヤントラ・サルヴァスパ・デイル・アインドラ……、ただお一人でございます」
そこまで言う必要は無いのだが、ナーベラルの意思は尊重しようと思った。
本当はちゃんと名前を覚えられるのに。
それもまた『そうあれ』と創造されたNPCの設定なのだろう。
設定と切り捨てるのは可哀相だ。
蓄積された今までの経験はちゃんと身体に残っているのだから。
ナーベラルを施設の一階にある客室専用の寝室に寝かせた。
「しばらく眠っているといい」
それから数分も経たない内にナーベラルの意識は闇に没した。
睡眠に対する耐性を持つ
せっかく来てくれたので彼女の装備類を外して、男性化による搾取を試みる。
大きい容器にある程度溜まった後で女性に戻して、再度の搾取。その後で徹底的に身体を洗浄させた。
容器の中に漂う部位は重みで潰れないように空間を確保しておく必要がある。
それにしても無駄に多く取ると笑いそうになる。もちろん、不謹慎である事は自覚している。
薄い室内着を着せてベッドに寝かせ、装備類は衣装ダンスに格納する。
飲食不要の指輪は付けておいた。
窓のある明るい部屋に置いた後、
ハムスケは中途半端な成長のまま見送ってしまったが、また戻ってもらわないと困るので数日後に戻るように言いつけてある。
それから数日後に全ての
それぞれに一覧表などの説明書を渡すのだが、解説するだけで半日は取られるのではないかと思うほどだ。
文字自体はナザリックの一般メイドでも読めるはずなので、彼女達に説明役を任せることにした。ついでに仕事も与えられたし。
帰り際にヤントラから卒業した事を誓わせた、というか言わせた。
必要とあればまた来てもいいが、儀式はヤントラも面倒くさいと思っている。
その次の日当たりにハムスケが戻る。
今回は一匹だけなので楽に特訓ができた。
見た目に似合わず強い生物なので経験も順調に積みあがった。
「戦士職か……。しっかり武装したところは見たいな。それよりナーベが脱落したが寂しくは無いか?」
「それは……、寂しいでござる。また復帰してほしいでござるよ」
「君の願いを叶えられるように頑張るよ」
「ありがとうでござる。殿も心配しておいででござった」
百レベルはさすがに短期間では無理だが、倍以上は増強されただろう。
一部の魔法も強化されたから高レベルモンスターにも無効化されにくくなっているはずだ。対処していない相手である必要はあるのだが。