※この作品はR-18です。

ゲームオーバーから始めようか   作:モモンガ

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A-11 ここまでがチュートリアル

 次の戦闘に必要そうな千枚規模のスクロールの整理はさすがに大変だ。

 MPが心許ないから仕方が無いのだけれど。

 それにしても金貨が邪魔だ。利用方法が分かればアインズに譲(ゆず)ってもいいが、何かに使えるかもしれないし。これもまあ保留だな。

 確かスクロールを製作するのに必要だとかは聞いたことがある。

 今度、第十階層にある巨大図書室(アッシュールバニパル)に行ってみようかなと思った。

 ナザリックは利用するには便利なところだと改めて感じる。

 そんなところを攻める気はやはり起きない。もったいない。

「……ふ」

 自然と笑がこぼれる。

 ナーベラルの表情が険しくなる。

「異形種のみ、というルールが無ければ私は……。ナザリックのメンバーに入ろうとしたのかもな……」

 楽しかったけれど参加したいとは思ったことが無かった。

 メンバーの都合に合わせる気も合わせたいとも思わない。

「下等生物(ギンバエ)ごときが……」

 と、言いかけ言葉を止める。

 下等生物でなければナーベラルはヤントラを受け入れたのだろうか。

 仲間だったら自分はどうしていたのだろうか。

「もう少し努力が出来ていれば未来は変わっていたのかもしれない。それでもNPCを創造する技術は……無いな……。ニューロニストを更に不細工にしたものなら出来そうだが……」

 クリエイトツールを借りて色々と試行錯誤したものの、操作がへたくそ過ぎて何も作れなかった。

 でもやはり、一員は無理だろう。

 自由に冒険したいから。

 売却用と冒険用にまとめ終わるまで結構な時間がかかっただろう。時計が無いから分からないが、正確な時刻は不明だ。

 階層内は風景の変化がほぼないので時間の止まった状態。

 侵入者でも出てきて撃退するといった動きも無い。

「……交代」

 シズが転移してきてナーベラルと入れ替わる。

「そうだ。他の金庫も確認するんだった……」

 更なる時間がかかりそうな気がした。

 

 金貨は第一が殆どを占有しているので他の二つには金貨の山は少しだけ。

 第二金庫の中にある金貨はほんの数億枚程度。

 結局、同じじゃねーか。

 アイテムと装備品のグレード(等級)は格段に上がっている。

 第二のパスワードは『ヨグ・ソトース』で第三が『クティーラ』という。

 第三の金庫が決戦用ともいうべき最上級以上のものが揃えられている。さすがに金貨は数千万枚程度と今までに比べたら少ない方だ。というか、金貨の枚数なんか正確に数えられねーよ。

 シズに数えさせるのも悪い気がする。

 正確に数えてかなり少なかったら、それはそれで悲しくなるな。

 それでも神器級(ゴッズ)以下なのがナザリック基準で言えば貧相なところなのだが。

 第二と第三は盗まれて困るものが多いのは間違いない。

 いわゆる『死体漁り』で奪われるケースだ。

 プレイヤーは死ぬとアイテムをドロップしてしまう。それを狙ってのPKもある。

「……お宝、お宝」

「調度品が無い分、派手さはないけどな」

「……銃火器もある」

「アップデート後の武器も当然あるさ」

 拳銃にライフル。装備できない武器もある。今はだいぶ職業(クラス)も充実しているので装備出来そうだが。

 弾丸消費の武器は暗殺用でも無い限り実践向きではない。

 弾だけ投げて敵を倒す、ということは出来ない。手榴弾は出来るけど。

 ゲームの内容に合わせて手に入れたのだろうけれど、武装はやはり上等とは言えないかも。

 銃と剣が組み合わさった銃剣という武器もいくつかある。ただ、弾は消費するので見栄え程度にしか役に立たない。一応、牽制に使えないことは無い。

 弾丸にも種類があり、貫通弾や魔法が封じ込められたものまで多岐に渡る。

 銃弾とて物理攻撃。刺突攻撃か。即死効果ならアインズには通用しない。

 多少のダメージを与えられるかもしれない可能性はある。

 チームプレイでも無いかぎり単独戦闘するには相当の技術が必要だ。

 再生能力の高い妖巨人(トロール)相手には銃はほぼ無力。手投げ爆弾の方が効果があるだろう。

 硬い甲羅にも貫通弾とて突破は難しい。試し撃ちには最適だが。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)相手の場合だと骨と骨の間を素通りしそうだ。

 剣と魔法のファンタジーの世界には不似合いな気もする。とはいえ、神器級と比べると貧相でもあるのでシズが喜びそうなものは無さそうだ。

「こんな貧相な武器でもいいなら、いくつかあげるぞ」

 そう言うと無表情の設定のはずのシズの片方の瞳が輝いたように見えた。

「弾はここにある分しか無いし。戦闘というよりは飾るくらいしか出来ないと思うけど」

 弾は対応する銃器とセットで並べているが、全て合わせると軽く数百万発分はあるのではないだろうか。

 広さの割りに結構アイテムは置ける。ユグドラシル金貨は平たいし、ちゃんと整頓すれば崩れにくいものだ。

 一撃の攻撃力の高いスナイパー(遠距離攻撃)用も無駄に弾丸を多く用意している。

 

 塵も積もればなんとやら。

 今も昔も通じる格言だ。

 実際、自分でもよくこんなに集めたなと驚いているくらいだ。

「手入れしてないや……」

 というか手入れできるような数ではない。

「……問題無い」

 宝の山に飛びつく子供のようにシズは銃を一つ一つ検分していく。

 ナザリックには鍛冶職人が居たと記憶している。

 修復する(レストア)くらいは出来るかもしれないな、と思った。

 粗悪な武器は保護系の魔法などをかけていないと劣化して壊れてしまう。

 ゲーム時代は武器の手入れは必須なので今も使おうと思えば問題なく使えるはずだ。

 それにしても三つの金庫を見ていて思った。

 保存食が一つもない。

 あればあったで、えもいわれぬ匂いとかしそうだが。

 現地調達してたんだな。これから買い物は必須のようだ。

「暴発とかに気をつけるんだぞ。……大丈夫だとは思うが……」

「……オッケー」

 水鉄砲を買ってもらった子供のようにシズは懐に武器を入れながら具合を確かめる。

 半年前まで銃火器は使っていたはずなので大事には至らないかもしれないが、他人に触らせると少しだけ不安になる。

 武器とアイテム。売却用の整理も終わり、きちんと金庫は閉じる。

 一旦第九階層に戻ることにした。

 浴衣姿のままだし、着替えなければならない。

 シズを仕事に戻らせたが、たくさんの重火器が手に入って嬉しそうに見えた。

 表情には出さないが、興味深げに武器を眺めていた。 

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 基本武装として軽装鎧。色は深緑。

 各種バットステータス対策を施した篭手やブーツ。ネックレス。兜は保留にしてサークレットを装備。

 武器はオブシディアン製からミスリル並みの性能を持つとされる『ガルヴォルン』という黒い金属で出来た剣を腰に刺す。

 各種魔法的効果を付与した剣を複数用意している。短剣バージョンも用意している。

 武器と防具の重量軽減が多いのは合計重量の節約のため。

 盗賊(ローグ)系の職業(クラス)を取得しているので本来は取得した魔法と同じ内容のスクロールしか使えないところを欺(あざむ)く特殊技術(スキル)で様々な魔法のスクロールを行使できるようにしている。

 ヤントラは基本的に盾は装備しないが使う機会があれば装備するので持っている。

 長大なハルバードも今回は更にパワーアップしたものに交換。

「こんなところか……」

 派手な格好はモンスター退治より厄介な事態になりそうなので地味になるように色は選んだ。

 とりあえず、上半身だけ普通の服装の方がいいと判断し、アクセサリー以外を外す。

「さて、アインズに『転移門(ゲート)』でカルネ村まで送ってもらおうかな」

 いざ、ラスボスの居る場所へ。

 第十階層に転移。

 荘厳な雰囲気は先ほどと一緒だが、控えている面々は変わっていた。

 ニメートル半ほどもある白銀の昆虫。左右二本ずつの腕には剣とハルバードを持っていた。

 第五階層の階層守護者『コキュートス』だ。冷気を振り撒く息で周囲の温度が下がる威圧感がある。

 もう一人は人間サイズでは長身で髪型は黒髪オールバック。丸メガネをかけて神経質そうな顔つきだが紳士的な立ち居振る舞い。しかし、背後には銀のプレートに包まれたトゲ付きの尻尾が生えている。

 この男が第七階層の階層守護者『デミウルゴス』だ。

 他にはシャルティア以下が揃っていた。

「……死刑執行人みたいだな」

 ヤントラはもちろんこれらの守護者と面識がある。

 玉座にはナザリック地下大墳墓の支配者アインズ・ウール・ゴウンが座っているのだが、今は仮面を外している。

 彼は異形種の中の死の大魔法使い(エルダーリッチ)の上位種『死の支配者(オーバーロード)』だ。

 骸骨の身体に神器級(ゴッズ)の装備で身を固めている。

 引退していった至高の存在の最後の一人でもある。

「充分休めたようだな」

「みんなのお陰でね」

 本来なら人間という下等生物はアインズにかしずかなくてはならない。

 デミウルゴス以下、守護者達は誰も指摘せず、ただヤントラを見つめていた。

「……ナザリックに敵対するときが来たら……、容赦しない」

 無駄な議論はせずアインズは言った。

「こちらは精一杯抵抗する。死んだら金庫の中は全てくれてやるさ」

 両手広げてヤントラは言い返す。

「お互い楽しい冒険が出来るといいな」

「……ああ」

「ちょくちょく来る気で居るから。これが最後の挨拶、という風にはしないぜ」

「恐れながら、アインズ様」

 一歩前に出たのはアウラだった。

 アインズに向かって片膝を突く姿勢を取る。

「発言を許可する」

 支配者らしい威厳のある声で言った。

 NPC達にとって絶対的な存在であらねばならない。

 ヤントラはそれが演技である事は気付いている。しかし、それはナザリックの運営に必要だから指摘しないし、彼らの心のよりどころなら自分も親のような演技をするだろう。

 ただ、アインズほどわざとらしく演技は出来ない。

「バスパ様とお呼びするのはやめた方がよろしいですか? 人間であり下等生物たる存在……」

 そう言っているアウラも人間種なのだが、誰も指摘しなかったのだろうかとヤントラは首を傾げる。というか気付いていないのか。

「同じプレイヤーであり至高の四十一人の一人たっち・みーに見出された男だ。これまで通りで良い。……ただし敵対した時は敬称の必要は無い。それは各自で判断すればいい」

「はっ。では……」

 満足したアウラは更に言葉を続ける。

 マーレは何かに気付いたようにアウラの側に行き片膝をついた。

 二人一緒に同じ格好をしなければいけないと思ったのかもしれない。

「あんたまで来なくていいって」

「でも、お姉ちゃん……。一緒の階層の守護者だし……」

「よいよい、アウラ。マーレよ、好きにするといい」

「あ、ありがとうございます」

 無理に止めると話しが進まなくなるとアインズは判断したようだ。

「もう……。えっと……、バスパ様はプレイヤーの情報を教えてくれると言いました。それに今後のナザリックに役に立つ情報も入手してくれると思うのですが……。もちろん、アインズ様はその程度のこともお考えなのかもしれませんが……」

 ヤントラはアウラの話しを聞きつつ、周りを見回した。

 守護者達以外には戦闘メイド達の姿が見えない。

「もちろんだ、アウラ。カルネ村を足がかりに色々と計画を練っているぞ。敵の情報を入手するには直接、町に行った方が良い。それと同時にナザリックの防衛も増強する必要がある。未知の敵に備えるのだから二手も三手も必要だ」

 話しが長くなりそうなのでヤントラは腕を組んで待つことにした。

 さっさと『転移門(ゲート)』で出かけたかった。

「では、バスパ様との連絡を密にできるようには……」

「んっ……」

「ナザリックの為に冒険するわけじゃないぞ。都合よくプレイヤーが見つかれば教える程度だ。そう簡単には見つけられないって」

「ば、バスパ様がスパイとして敵に……、情報を伝える、かもしれません」

 マーレが震えつつ発言した。

「洗脳でもされれば不可能ではないな」

 うんうん、と自分の事なのに他人事のように頷くヤントラ。

「最重要施設に入ったことの無い私から何を取れるんだろうな。それこそ逆に利用すべきだとは思わないか、アインズ」

 アインズは不敵な笑みを浮かべるヤントラに少しだけいらついたが、言っている事におかしな点は無かった。

「でも、第十階層に転移できますよね?」

 そう言うマーレにヤントラは近づき、転移に必要な指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を渡す。

 少しの間、マーレはぽかんとしたままヤントラを見つめる。

 それからいつもは大声を出さないマーレが珍しく叫ぶ。

 すぐにアウラが彼の口を塞ぐ。

「ちょっと黙りなさい」

「うぶぶ……」

「問題は私がナザリックの場所をまだ把握していないということだ。誰か迎えにでも来てくれると助かるのだが……。指輪は来るたびに渡してくれればいい。そういうシステムを作ってほしいな」

 ヤントラは元の位置に戻りながら言った。

 いとも簡単に自らの切り札を手放す。

 アインズには信じられない蛮行(ばんこう)。自分だったらもったいなくて出来ない、と叫びたかった。

 世界級(ワールド)アイテムですらヤントラは手放したことを思い出し、少しだけ唸る。

「いずれ部外者を招くことになるかもしれない。とりあえず、ナザリックの入り口近くにログハウスでも建てておく。それでいいな、ヤントラ」

「オッケー、ボス。……マーレ、それ制限つきの指輪だから間違ってはめるなよ」

「ひゃい!」

 渡した指輪はとても貴重で大事なアイテム。

 アルベドですら無下(むげ)に扱うことのないもの。

「その指輪はユリに預かってもらおう」

 と、アインズは言った。

「は、はい」

 落したら殺される。

 マーレはそれほど指輪を大事に思っていた。

 ちなみに彼は制限の無い転移の指輪を戴いている。

「ナザリックの外なら好き放題アインズをフルボッコにしても文句は無いよな?」

「その時は歓迎してやろう」

「超位魔法での消滅とかは卑怯なんでやめてね」

「……ふふ」

 自分の弱さを知っているからことのセリフなのだろう。

 普通に話せばヤントラも楽しい男なのだなと思った。それを失うのは確かに早計ではあるが、いずれ害なすものなら排除も考慮しなければならない。

 

 支配者に忠誠を誓わないがナザリック地下大墳墓に住む全ての者には忠誠を誓ってくれるのかもしれない。

「……惜しいな。異形種であれば良い働きをしただろうに」

 それは演技ではなく本心から出た言葉だった。

 最初にヤントラに会った時はゲームをやめようと思っていたやさぐれた時代だった。

 たっち・みーの影に居る恵まれたソロプレイヤー。

 アインズのイメージではそう見えた。

 最初は家族なのかなと思ったが違うらしい。

 印象としては女の子。だから彼の娘さんだと思っていた。

 実際にたっち・みーは結婚していて娘が居る事はメンバーにも知られている情報だ。

 PKの嵐に晒されておいて恵まれた、は言いすぎだったと後で撤回した。

 見た目は人間種だが中身は異形種に負けない。と、たっち・みーと他の友人達は語った。

 それがどういう意味かは最後まで分からなかった。

 異形種相手でもヤントラは普通に話しかけていた。

 たっち・みーの弟子っぽいし。弟子といっても実力は雲泥(うんでい)の差があった。

 人助けの点に置いてはたっち・みーの意志を受け継いでいるように思われる。

 ギルドメンバーの加入条件において人間種であるヤントラは参加できないがソロプレイヤーだから気にはしなかった。

「一緒に戦えるほど器用じゃないから無理」

 単独プレイで迷惑かけるとも言っていた。正直、その意見にはアインズも賛成していた。

 参加はしないが遊びには来ていた。よく罠にかけられてたな。

 見学とかお喋りは別に制限していなかったので問題は無かった。

 冒険で手に入れた自分ではどうにもならない希少金属とかアイテムとかギルドメンバーにプレゼントしてたっけ。

 協調性を養う為に努力している、とたっち・みーは言っていた。彼は特にヤントラを温かく見守ることが多かった。

 もし正式メンバーだったならどうなっていただろうか。

 曲者ぞろいのギルドだから個性が埋もれてしまうかもしれない。

 特徴的な能力もありそうにないから居なくても問題ないか。

 転移した今は少し印象が違う気がする。

 今まで隠してきた実力を見せ始めている。本来のヤントラはとても異形種向きの危険な存在に思える。

 それがたっち・みー達が言っていた人間種だが中身は異形種に負けない、ということだろうか。

 とてもPK数が2とは思えない残酷性。どこかで異形種を狩っていたのだろうか。

 それが事実だとしても異形種を狙うよな、普通。

 アインズは思考を落ち着かせた。変な方向に行きそうだった。

 明らかに人間を殺害している。特殊技術(スキル)の影響か。種族の特性か。

 自分たちは異形種だから、その影響で人間など家畜以下だと思えているのだが。

 ヤントラはどうなのだろうか。

 本当に人間種のプレイヤーなのか。

 メイド達や守護者達に語ったという説明も恐ろしく先を見据えているとしか思えない。

「人間種が異形種に転職するアイテムでもあれば……」

 と、言いかけると。

「種族レベルとか面倒臭いし。あと十レベルしか取得できないから無理じゃね?」

「……そうか。でもその限界を突破できたらどうする?」

「突破しても経験値がべらぼうに必要になるだけで大変さが倍化しそう」

「……そりゃそうだ」

 素で感想を述べてしまったアインズは軽く咳払いをする。

 レベルはおいといて連絡方法は必要だろうか。

「『伝言(メッセージ)』……、いや、ヤントラはこの魔法は嫌いだったな」

 イラズラが多すぎて二度と使いたくないと聞いたことがある。だから、使用不可にしているのだとか。

「頭痛に似た感じがするし、嫌い」

「ログハウスが出来るまでは好きに冒険しているといい。こちらからお前を見つけよう」

「まあ……、それが妥当だな。しばらくはエ・ランテルを拠点とする予定だが、身分を確立しなければいけない。……いきなり殺しに来るのは勘弁願いたいものだ。少なくとも理由くらいは聞かせてほしい」

「……覚えておこう」

「マーレ。君の意見が無かったら危ないところだった。第十階層は特に重要だとは思ってなかったのでな。助かったよ」

「い、いえ!」

「ここは重要でしょう」

 アウラが睨みながら言った。

「いや、そいつの言う通りだ。この階層は最後に敵を出迎えるだけの場所に過ぎない」

「忘れないうちに言っておこうか、アインズ」

「なんだ」

 ヤントラとアインズが目線を合わせる。

 今までのふざけたような態度から真剣なものへと変わる。

「ナザリックを撃破する方法だ」

 そう言うと全ての守護者達に動揺が走った。

 アインズは少し経ってから彼の言葉を理解する。

 なるほど、敵に回すと恐ろしいな、と言葉には出さなかったが思った。

「このナザリックを攻略するですと!」

 今まで黙っていたデミウルゴスが叫んだ。

「デミウルゴス」

 静かにアインズは言った。

「あ、アインズ様……」

「ナザリックを攻略するのではない。破壊する方法をこいつは知っている、と言ったのだ」

 物々しい雰囲気でアインズが言うと更なるどよめきが起こる。

 アウラが素早くヤントラの胸倉を掴む。

「ちょっとふざけないでよ!」

「そ、そうでありんすぇ!」

 普段はアインズの側に控えているアルベドも階段を飛ぶように駆け下りてきた。

「静まれ」

 アインズの言葉に全階層守護者が動きを止める。

 

 ヤントラはアインズの支配者役が板についてきた、と感心しながら思った。

 自分が居なくても大丈夫だろう、と安心感もあった。

「お前が言いたいのは『ギルド武器』を隠しておけ、ということだろう?」

「当たり前だ。レプリカでいいんだよ。人目につかせるような事はやめろ」

 ギルド武器と聞いてアウラとマーレ、シャルティアなどは疑問符を浮かべた。

 ユグドラシルでのギルド武器とはギルドを作るときに必要な象徴である。膨大なデータを搭載することが出来るので世界級(ワールド)アイテムに匹敵するとも言われている。

 このギルド武器は破壊されると拠点が崩壊、壊滅するとも言われる。

「こ、これはレプリカだ。よく似ているだろう」

 一見すると本物に見えるアインズが手にしているギルド武器。

 

 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』

 

 黄金に輝く七匹の蛇が絡み合って出来た杖。

 やはりアインズはまぬけではないようだ。と、ヤントラは感心した。

「それはそれで作るの大変だったろうに」

 そう言われて、素直によく大変さが分かったな、と言いそうになった。いや、これは本当は本物だがな。

 本当はレプリカもある。ただ、そちらは宝物殿にしまったままにしていた。

 レアもののアイテムの事になると語りたくてたまらない。

「そう簡単には攻略できないと信じているが、うっかり自慢して墓穴を……」

 と、言葉を途中で切るヤントラ。

「駄洒落とか言わないって」

 素の声でアインズはフォローする。

 ヤントラは自分(アインズ)の言葉をかなり早い段階で把握するようだ。

 頭の回転は本当は速いのかもな。物覚えは悪いクセに、と言いそうになったが飲み込んだ。

 というより、本当はギルド武器の損壊の事を今の今まで奇麗に忘れていた。

 あっぶねー。そういや破壊されたらナザリック大崩壊じゃん。と、骸骨なので表情には出なかったがかなり焦った。

 仕方ない。奴の始末はしばらく保留にしておくか。

 貸しを作ったとか思ってんじゃねーぞ。

「うっふん……。またすぐ帰ってくるから、こういう出迎えとか、送り迎えとか恥ずかしい」

 アウラ達は自分達の立ち位置に戻っていった。

 一人で世界征服できるかな、みたいな感じになっているのが恥ずかしくてたまらない、ヤントラ。

 彼にだって羞恥心はある。

 自分に視線が集中するのが苦手なのだ。

 ユグドラシル時代は中心に居なかっただけで問題は無かった。

 正直、外で活動するのはモンスター退治以外は緊張している。ちゃんと冒険者になれるのか、実は自信が無い。

 ユグドラシルを初めて始めた時の緊張感と似ている。

 だが、既に戦いは始まっている。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 アインズの元に向かい、彼の『転移門(ゲート)』でカルネ村へと一気に飛んだ。

 別れの言葉は無い。

 アインズはすぐに消えた。

「……やっと冒険の旅が始まるのか。チュートリアル長すぎる」

 そう愚痴りつつ村長の家に向かった。

 時間の感覚は分からないが一日くらいしか経っていないはずだ。地面の陥没も既に直っているところを見るとナザリックの仕事の速さに感心する。

 広場では元気を無くした村人たちが壊れた家などを修復していた。

 昨日の今日なら王国の護衛もまだ来ていないのだろう。

「これはこれはヤントラ様。ようこそ、おいで下さいました」

 村長に出迎えられて、彼の家に案内される。

 中には彼の妻の他にもう一人居た。

 王国戦士長と共に戦っていた戦士の一人だろう。荒々しいイメージを抱かせる無骨な装備をしていた。

「俺があなたの案内をおおせつかりました。よろしくお願いします」

 椅子から立ち上がり、ヤントラに向かって深く頭を下げた。

「ヤントラです。楽にしてください。私は世間知らずの旅人ですので、色々と教えてください」

 格好は旅人というよりは休憩中の兵士に見えた。

「ところで……、エンリは元気ですか?」

「どうでしょう……。まだ塞(ふさ)ぎ込んでいるかもしれません」

 と、村長が言った。

「……仕方ない。案内はこちらの方に頼みます。エンリには過去を忘れろとは言わない。生き残って生き続けろ、とでも言っておいて下さい」

「厳しいですね」

「甘くしてもご飯は出てきません。あと、防具はあげると言っておいて下さい」

「分かりました」

「それと村長さん。地図は……」

「あっ! そうでした……。ご用意できてません」

 町に行って手に入れる方が早いかもしれない。

 無理に急かしても村長には色々と仕事があるかもしれないと思い、諦めることにした。

「報酬などはすぐに用意できなかったので、エ・ランテルではなくリ・エスティーゼ王国の王都に直接赴(おもむ)いた方がよろしいかと。もちろん、冒険者組合の説明や村々の護衛の件も報告します」

「移動に時間がかかるんですよね」

「はい。王国戦士長殿たちもまだ王都には到着していないかと……」

 転移出来ないし移動手段が馬車では仕方が無いか、とヤントラは少しだけがっかりする。

 都合のいい移動手段が無いのは仕方が無い。贅沢を言っても相手を困らせるだけだ。

 そう思案していると奥から奥さんが白湯(さゆ)を運んできた。

「どうも」

 軽くヤントラが挨拶すると奥さんは微笑んだ。

 凄惨な事件があった村でようやく笑顔が一つ戻ったのかもしれない。

 

 移動に時間がかかると、ということは帝国や法国も同じ条件という事になる。

 綿密に計画していた襲撃を撃退したからには次は更に慎重にならざるをえないだろう。

 それまでに次の一手を打てればカルネ村は持ちこたえるかもしれない。

 リ・エスティーゼ王国の王都よりエ・ランテルの方が距離的には近い。

 途中でエ・ペスペルという都市を通るようだが、道中は何日もかかるかもしれない。

 一週間も開けば敵の増援も増強されるかもしれない。

「それにしてもアインズ・なんとか・ゴウンなる御仁はどういった方なのでしょうか?」

 馬車の用意をしている戦士が尋ねてきた。

 用意した馬車は幌馬車と呼ばれるものである。雨露をしのぐことが出来る。

「魔法詠唱者(マジック・キャスター)のことでしょうか?」

「はい。我々はヤントラさんの事しか知らないもので……」

「短気を起こすと危険なので気をつけてください。あと、名前をバカにされても……、危ないですよ」

 ヤントラは少しだけ迫力をこめて言った。

「い、いやだな~。バカになんてしませんよ」

「分かり易い例えで言えば……、あの場に居た者をたった一つの魔法で消し去るくらい簡単に出来る魔法使いです」

「……うえ~! 本当ですか!?」

「嘘だと思うならバカにしてその身で体験すればいいですよ。国が無くなっても知りませんけど……」

 ニコニコと喋るヤントラ。

 それは決してふざけているのではないと思わせる迫力があった。

「あくまで敵には情けはかけませんが、仲間思いのいい奴ですよ。……たぶん」

「我々は味方だと思われたんでしょうか?」

「それは本人次第です。それはそうと、ゴウンと呼んでましたが、アインズではないのですね」

「アインズであればスレイン法国の者。我々はゴウンという最後の方で名前を呼びますので。真ん中は洗礼名、ですよね?」

「違います」

「えっ?」

「アインズ・ウール・ゴウン。その全てが名前です。洗礼名などというものはありません。そして、それを侮辱しないようにお願いします。この名前は特別な意味があるので」

「わ、分かりました」

「あなたも名前をバカにされたら殺したくなるでしょう? それくらい大切なのですよ」

 戦士は聞けば聞くほど恐ろしくなってきた。

 彼の戦闘を間近で見ていたし、その彼がふざけた事を言っている雰囲気が無いのは長年の経験からも感じ取れる。

 アインズ・ウール・ゴウンという名前をバカにしてはいけないことを仲間達に伝えなければならない、と肝に銘じた。

「アインズと呼ばせるのが彼にとって嬉しいようです。ゴウンと呼ぶのは勝手ですが、そこは理由を教えてあげると納得してくれると思います。あと、スレイン法国とは何の関係もありませんので」

「分かりました」

「ちなみに私はバカにしてもいいですよ。しつこいと怒りますが。名前ではそんなに怒りません。彼とは違い、命を懸けるほどの意味は無いので、安心して下さい」

「……はい」

 戦士は力なく返答した。

 ヤントラは相手の名前を聞くべきか、少し迷っていた。

 

 生きた心地のしなくなった戦士に無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)を提供した。

「直に飲んで下さい。ただの普通の冷たい水です」

「で、では戴きます」

 ヤントラからアイテムを受け取り、水を飲む。

 ぬるいと思っていたが思った以上に冷たくて喉に気持ちよかった。

「うわっ、すげー」

「飲みすぎるとお腹を壊すかもしれないので、ほどほどに」

「はい!」

 先ほどまでの焦燥感が吹き飛んだのか、豪快に飲みまくった。

 確かに飲みすぎるとお腹に悪いので、頑張って止めた。

「ぷふぁー。こんなに冷たい水は初めてです」

「限度があるので、永遠には飲むことは出来ません」

 それにしても何も持っていないと思ったのに何所から出したのだろうかと戦士は疑問に思った。

 やたらと長いハルバードにも驚いたが、ヤントラという人間は只者ではない。

 彼を怒らせるのはリ・エスティーゼ王国にとっても良くない気がした。

「荷物を整理したのですが、食料が全くありませんでした。現地調達しなければならないので、要らない武具などを売りたいのですが、売れますかね? 身分もはっきりしないですし」

「都市で売りたいのであれば……、一応は聞いてみます」

 というか、何所に武具があるのだろうか。

 見たところ手ぶらだし。いや、腰に下げた剣だろうか。下半身部分の装備を売る気、だとは思えないが、どんなものを売る気だろうか。

 話している分にはヤントラは大人しい。

 なにやら特定の話題になると危険度が増す、ような予感がする。

 旅の途中で殺されないことを戦士は様々な神に祈った。

 馬車の用意が整い、出発の刻限になった。

「道中、お互い無事に着くよう祈りましょう」

 と、戦士は言った。

「はい」

 素直に返事をするヤントラ。

 

◆ ☯ ☯ ☯ ◆

 村長に別れの挨拶をしてからカルネ村を出発し、目指すは王国首都リ・エスティーゼ。

 片道で三日ほどかかる。

 戦士たちが乗る馬ではなく、幌馬車(ほろばしゃ)と呼ばれる一般的なものだ。

「……三日も馬車に揺られるのは……耐えられるかな……」

 食料は戦士が既に用意しているので問題は無い。

 寝床もヤントラは自分の寝袋は持っている。

 問題は三日間、二人旅で暇になるということ。

 馬車を操ったことなど無いヤントラは一人で荷台で寝ているくらいしか無い。

「途中にあるエ・ペスペルで休みますから、しばらくの辛抱ですよ」

 御者台から戦士は言った。

 そのエ・ペスペルは二日ほどの距離。

 エ・ランテルより大きめの都市だが、首都への道程には避けて通れない。

 ついでに色々と情報も収集できるかもしれない。

 

 一日目は何事も無く終わった。

 翌朝、馬車は進んだ。途中で馬に水と餌を与え、無理をさせないように気遣った。

 盗賊の類いが出没するので戦士は警戒しつつ馬車を進める。今のところ帝国兵士と法国兵士の襲撃は無い。

 モンスターの姿も見当たらない。

 荷台ではヤントラが揺れる中で熟睡しているようだ。

 よほど疲れたのか、起きる気配が無い。

「よくこんな揺れで眠れるものだ」

 そう言いつつも昨日からあまり寝ていなかったから疲れて今、眠ったのだろう。

 こんな揺れで今まで起きていたのだから仕方が無いのかもしれない。

 道中は整備されていないガタガタの道。

 石の上に車輪が乗り上がれば結構な揺れになる。

 もうすぐエ・ペスペルに到着する。既に前方に都市の入り口が見えていた。

 運が良ければ仲間達が滞在しているかもしれない。

 いま少しヤントラを寝かせて馬車を進める。

 今日も天気は晴れ渡っていた。

 

『第二章 激動の幕開け』へ続く

 

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